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記事 9件
  • 「cakes」の著者がツイッターを使う理由「津田ブロマガeXtreme」第5回目書き起こし(前半)

    2013-01-30 14:32  
    220pt
     昨年9月にスタートした「cakes(ケイクス)」。毎週150円を払うことで、著者たちの文章が読み放題になるウェブサービスです。cakesを率いる加藤貞顕さんは、以前は出版社に勤める編集者でした。そんな加藤さんが、ウェブでコンテンツ配信を手がける上で、ある“工夫”をしているそうです。(企画・制作:ドワンゴ)
     2012年12月20日に放送されたニコニコ生放送番組『津田ブロマガ eXtreme(エクストリーム)』には、加藤さんがゲストとして登場しました。編集者だった加藤さんがcakesを始めたきっかけは、スマートフォン(スマホ)の普及です。昨今の出版不況の中、電車の中で人々がスマホをいじっているのを見て、「そりゃ売れない」「スマホの画面の中で(コンテンツを)売らないといけない」と思ったそうです。
     津田大介さんによると、加藤さんは、見事な手腕で、ツイッターの発信力がある著者を集めているということです。その著者にツイッターを使った営業活動をしてもらうcakesでは、PV(ページビュー)に応じて収益が配分される仕組みになっています。そのため、「著者としては、宣伝するインセンティブが生じているんです」(津田さん)。さらに加藤さんは、著者にツイッターを使って営業してもらう理由を以下のように語りました。
     「コンテンツって、すごくセグメント化されていて、どんどん売り方が難しくなっているんですよ。以前は、新聞に大きな広告をバーンって出したら、売れたんですけど、なかなかうまくいかなくなってきている。それぞれが違うところに興味分野があるから、著者が自分で宣伝する、あるいは編集者でも良いんですけども、作り手が宣伝するというところに行き着きます」
     このほか放送前半部分では、同日発表された株式会社ドワンゴと株式会社ニワンゴの「ニコニコニュースについてのポリシー宣言」や、掲示板「2ちゃんねる」の元管理人である西村博之さんが書類送検された件について、津田大介さんが解説しました。『津田ブロマガ eXtreme』では、今後も定期的に生放送をしていく予定です。
     この番組の全文書き起こし記事は、チャンネルに会員登録すると閲覧できます。

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  • 【ウェブと政治のこれから】津田大介の「メディアの現場」vol.62

    2013-01-23 20:29  
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    vol.62のゲストは、朝日新聞出版の販売部長で、『週刊朝日』元編集長の山口
    一臣さんです。

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    ◆ネット選挙解禁で政治は変わるか
     ――週刊朝日元編集長 山口一臣氏と語るウェブと政治のこれから

    (2012年12月22日 朝日新聞出版主催『ウェブで政治を動かす!』刊行記念ト
    ーク [*1] より)

    出演:山口一臣(朝日新聞出版 販売部長)、津田大介


    津田:みなさん、こんにちは。『ウェブで政治を動かす!』[*2] という本を
    出してから2カ月ほど経ちました。衆議院選挙公示前に自民党の安倍晋三総裁
    が「野田首相との党首討論をニコニコ動画でやりたい」と発言して、[*3] 11月
    29日に実現したり、[*4] 選挙で大勝した後にはネット選挙について「来年夏
    までの解禁を目指していきたい」と話し、2013年夏の参院選前の公職選挙法改
    正に前向きな姿勢を示す [*5] など、ネットを使った政治活動や選挙運動が本
    格化する機運が高まっています。この『ウェブで政治を動かす!』はネット選
    挙の本格化に向けたこれから半年間、新しい価値を提供する本になるんじゃな
    いかなと思っています。

    すでにお読みになった方は感じていただいてると思うのですが、この本は「ウ
    ェブで政治を動かせるようになって、これからバラ色の未来が待ってるぜ!」
    ということを書いているわけではありません。むしろ「ウェブで政治を動かす
    難しさ」を各所に散りばめているつもりです。その上で、実際にウェブで政治
    が動き始めている事例をたくさん紹介しつつ、そのポテンシャルをどうやって
    伸ばしていくのか、ということにフォーカスしました。本日はこの『ウェブで
    政治を動かす!』の刊行記念トークイベントということで、朝日新聞出版の販
    売部長、山口一臣さん(@kazu1961omi)に聞き手としてお越しいただきました。
    山口さんはかつて『週刊朝日』の編集長を務めた方でもあります。一ジャーナ
    リストとしてこの本を読んでどのように感じられたのか、ということも僕自身
    の興味として訊いてみたいなと思います。今日はよろしくお願いします。

    山口:ただいまご紹介にあずかりました山口です。2005年から2011年3月末ま
    で『週刊朝日』の編集長として週刊誌を作ってきたのですが、2011年4月1日か
    らは朝日新聞出版の販売部長として本を売る立場になりました。今日は津田さ
    んの本を一人でも多くの方に購入していただければと思ってやってまいりまし
    た。どうぞよろしくお願いします。

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  • 【パワクロ誕生秘話】津田大介の「メディアの現場」vol.61

    2013-01-19 18:52  
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    2012年12月10日、古着通販サイト「パワクロ」がオープンしました。一見、よ
    くある普通の古着通販ですが、実はすべての洋服が芸能人から提供されたもの。
    芸能人の古着だけを扱う通販サイト──ありそうでなかったビジネスモデルは
    どうやって実現したのか。ファッション通販としてスタートしたこのプロジェ
    クトが石巻で立ち上がった理由や、最終目標はどこにあるのか。今回は、一般
    社団法人パワクロの代表理事・三上和仁さん(@kabulabo)と、理事の川村久美
    さんにお話を伺いました。



    ◆ファッション×ITで東北の被災地に雇用を!
      ──「パワクロ」は希望の萌芽となるか?


    津田:“Power Of Closet”──“服の力”で被災地に雇用を──そんなキャッ
    チコピーを掲げ、2012年の12月に「パワクロ」[*1] というファッション通販サ
    イトがオープンしました。ここで販売しているファッションアイテムは古着な
    がら、CHANEL、[*2] Dior [*3] といったハイブランドや、UNDERCOVER [*4] と
    いったデザイナーズブランドのものも少なくありません。また、サイトを見る
    と「パワクロ」の理念に賛同して自らの洋服を提供してくれた人物の名前とし
    て、女優の中山美穂さん [*5] やGLAYのメンバー、[*6] 歌手の今井美樹さん 
    [*7] ら有名人の名前がずらりと並んでいます。実はこのプロジェクトの立ち上
    げには発起人として僕も協力させてもらったのですが、改めて「パワクロ」を
    運営する一般社団法人パワクロの三上和仁代表理事にお話しをお伺いしたいと
    思います。それではまず、「パワクロ」とは一体何なのか、教えていただいて
    いいですか?

    三上:「パワクロ」は宮城県石巻市で生まれた一般社団法人の名前であり、被
    災地の雇用支援プロジェクトの総称でもあります。[*8] ご存知のとおり、石巻
    は東日本大震災で甚大な津波被害を受け、[*9] 現在は復興の途上にあるものの、
    人口の流出 [*10] や産業の縮小 [*11] が深刻な社会問題になっています。市
    内に仕事がないから若い人たちは市外や県外へ出てしまい、人がいないから新
    しい産業も興らない──そんな悪循環があるんですね。

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  • 【津田大介の「EPUB配信の現場」】津田大介の「メディアの現場」vol.60

    2013-01-16 23:34  
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    普段は僕が出演した番組やトークイベントなどで、内容が面白かったものをテ
    キストに再編集してお届けしているコーナーですが、今回は津田マガスタッフ
    の香月(@kskktk)がジャーナリストの西田宗千佳さん(@mnishi41)のメール
    マガジン「西田宗千佳のRandom Analysis」で受けた取材の内容をお届けしま
    す。津田マガの制作現場を西田さんが丁寧に取材し、まとめてくださいました。

    西田さんのメルマガ『西田宗千佳のRandom Analysis』には、僕らを取り巻く
    「デジタル環境の今」を独自の取材と視点で分析した記事が数多く掲載されて
    いて、開発者や業界のキーパーソンのロングインタビューが読めるのも特徴で
    す。ePubはもちろんAmazonストアやGALAPAGOS STOREでも販売されていますの
    で、電子書籍端末を持っていれば簡単に購読することができます。津田マガ読
    者なら楽しめること間違いなしなので、興味のある人はぜひチェックしてくだ
    さい。

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  • 【猪瀬都知事が考えるネット・表現規制とは】津田大介の「メディアの現場」vol.59

    2013-01-09 23:57  
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    2012年12月16日に行われた東京都知事選では、作家で当時東京都副知事だった
    猪瀬直樹氏が当選し、東京都知事に就任しました。就任直後の記者会見で都庁
    各局のツイッターアカウントの開設を宣言したり、[*1] 東京オリンピック招致
    に向けて英語でのツイートを開始するなど、[*2] 都政におけるソーシャルメディ
    アの活用に注目が集まっています。僕が代表理事を務める一般社団法人インター
    ネットユーザー協会(MIAU)では、都知事選が行われるたびに立候補者に向け
    てアンケートを行なっています。[*3] 猪瀬氏はアンケートではなくインタビュー
    形式での回答を希望されたため、告示前日の2012年11月28日に東京都庁の副知
    事室を訪ね、直接お会いしてのインタビューを行いました。すでにMIAUのサイ
    ト上ではアンケート結果を公表していますが、[*4] サイト上ではアンケート内
    容に沿った部分のみの公開となっています。そこで今回は、そのインタビュー
    で話された内容をノーカットでお送りします。

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    ◆猪瀬直樹が考える東京都とインターネット
      ――ソーシャルメディアの活用、情報発信、そしてネット規制

    津田:今日は11月28日、東京都知事選挙の公示日前日です。僕が代表理事を務
    める一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)では都知事選の立候補
    者の方々に「都政におけるメディアに関する政策についてのアンケート」と題
    して、情報通信政策やコンテンツに対する表現規制に対するスタンスを伺うア
    ンケートを行っています。そこで今日は、都知事選に立候補を表明されている
    猪瀬直樹東京都副知事にお話を伺います。告示前日のお忙しい中、お時間を取っ
    ていただいてありがとうございます。

    猪瀬:こちらこそどうぞよろしくお願いします。「tsudaる」くんと初めて会っ
    たのは、確か2010年の5月くらいでしたね。

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  • 【2013年日本はこうなる!】津田大介の「メディアの現場」vol.58

    2013-01-05 05:00  
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    2012年が終わって数日。昨年もいろいろなことがありましたね。独特のツイー
    トで人気の匿名ツイッタラー、岡田ぱみゅぱみゅさん(@kettansai)と、高円
    寺の焼肉屋で2012年を振り返ってみました。その模様をお届けします。今回は
    後編になります。

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    (前編はvol.57をお読みください)

    =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-

    04:ウェブで動いた? 政治――政権交代、脱原発 etc...

    =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-

    岡田:政治の話題でいうと、僕にとって自民党が圧勝して3年3ヶ月ぶりに政権
    を奪還したっていうのは、かなりインパクトがあったんですよね。

    津田:まぁ、右の論客も左の論客も口をそろえて「今回の総選挙は自民党が勝
    ちすぎた」って言ってますから、一言で総括するといわゆる知識人は「自民党
    が勝つとは思っていたけどここまでとは……」というのが本音なんじゃないで
    しょうか。それだけ「民意」というものがくみ取りにくくなっているってこと
    かもしれません。自民党も勝ちすぎたし、民主党も完膚なきまでに負けすぎた。
    確かに選挙制度の問題もあるんですが、今の小選挙制度を否定すると、組織力
    の基盤を持った自民党がずっと第一党のままで政権交代なんて起こらないって
    話もあるんですよね。衆議院が採用している小選挙区比例代表並立制という選
    挙制度は「与党が良いのか野党が良いのか一騎打ちさせる」という考えで作ら
    れたもの [*1] ですから、 国民が政権選択をするために設計されたものではあ
    るんだけど、それは政権がころころ変わってしまうという問題もはらんでいる。
    それがもろに出てしまったのが今回の衆議院選挙の結果なんでしょうね。

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  • TPPで日本の著作権法はどう変わる?――保護期間延長、非親告罪化、匂いや音の特許まで

    2013-01-04 14:31  
    【TPP参加で知財分野はどう変わる?】津田大介の「メディアの現場」vol.56より 新政権をスタートしたばかりの自民党が、TPP交渉参加への方針をめぐって揺れています。TPPは交渉参加国間で2013年10月の合意を目指すといわれており、日本の参加表明の期限は2013年早々だという話も。参加するのか否か、遅々として議論が進まないのは、秘密協議であるTPPの情報が開示されないためと言われています。国民にとっても同様、政治家にとってもTPPは謎のベールに包まれた存在になっています。そこで今回は、これまでに明らかになったTPPの知財分野の情報を総ざらい。2012年12月、ニュージーランドで開催された知的財産権に関する国際的な反TPP会合に出席したMIAU事務局長の香月啓佑(@kskktk)に話を聞きました。
    ◆TPPで日本の著作権法はどう変わる?――保護期間延長、非親告罪化、匂いや音の特許まで
    津田:2012年12月28日、自民党の石破茂幹事長がTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への交渉参加について、来年夏の参院選までに党の方針を決めることを明らかにしました。[*1] 自民党はTPP推進に意欲的だった民主党の野田佳彦前首相に対し、[*2] 「“例外なき関税障壁の撤廃”を前提とする限り交渉参加に反対」と慎重な姿勢を政権公約に掲げていたはずが、[*3] ここにきて交渉参加に前向きな意見も出始めているようです。ただ、党内には依然TPPに反対する声も多く、同日、有志議員180名以上が政権交代後初めてとなる「TPP参加の即時撤回を求める会」の会合を開催。このままではTPP交渉参加の期限とされる2013年早々に間に合わないでしょうが、各国の交渉妥結後に加入する可能性も残されている、といったところです。[*4] 周知のとおり、TPPとは環太平洋地域の国々による経済自由化を目的とした経済連携協定で、[*5] 現在11カ国が交渉のテーブルについています。そこで扱われる21分野 [*6] の中に、著作権をはじめとする知的財産権(IP)条項が含まれていて、何やら密室で協議がされているようだと。そこで先日、僕が代表理事を務めるMIAU(一般財団法人インターネットユーザー協会)[*7] とthinkC(著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム)、[*8] そしてクリエイティブ・コモンズ・ジャパン [*9] の3団体合同で、TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラム「thinkTPPIP」[*10] を立ち上げました。ちょうどその頃、ニュージーランドで開かれた各国の反TPP団体・アクティビストのネットワーク会議「NZ デジタル・ライツ・キャンプ」[*11] にクリエイティブ・コモンズ・ジャパンやMIAUから数名が派遣されたわけですが、香月さんはそのうちの1人です。ぶっちゃけ、TPPの知財条項をめぐる今の状況ってどうなってるですか?
    香月:結論から言うと「わからない」んですよ。もちろん、TPPで交渉されている21分野の中に知的財産が含まれていることは以前から報道されていますし、日本の外務省が公開している資料 [*12] にも明記されています。ただ、具体的な協議内容については一切表に出てこない。なぜかというと、TPPは近年の国際通商交渉の慣例に倣い、秘密協議が貫かれているんですね。TPP交渉参加国の一つであるニュージーランドの外務貿易省がウェブサイトで公開している文書 [*13] によると、交渉国間では秘密保持について合意がなされていると。「全参加国は交渉文案や各政府の提案、それに付随するあらゆる資料を秘密扱いにする」「これらの文書は、TPP協定の発行後4年間、協定が発効に至らない場合も最終ラウンドから4年間は公表してはならない」という内容のもので、日本の野田前総理も国会答弁の中で「TPP交渉中のテキスト及び交渉の過程で交換されるほかの文書を秘密扱いとする旨の記述が掲載されていることは承知しております」とこの文書の存在を認めています。[*14]
    津田:秘密協議なのは知ってたけど、交渉内容を4年も公表しないんですか!? 今、TPPに否定的な政治家や国民の最大の不満は「情報開示が不十分」だという点です。でも、すでに交渉に参加しているニュージランドですらそんな状況なら、もし日本が交渉への参加を表明したとしても情報開示は期待できない、と。
    香月:ええ、残念ながら。ただし厳密に言うとまったく秘密だというわけでもなくて、交渉に参加すれば当然ながら政府関係者は条文案にアクセスできますし、実は、ステークホルダーの農業従事者や著作権権利者団体といった各分野の利害関係者は説明会に招かれるらしいんですよ。先日ニュージーランドで行われた第15回ラウンドでは、200以上の団体から280名以上が説明会に登録したほか、[*15] 先日行われた「thinkTPPIP」のシンポジウムでも米国から600人ものステークホルダー(利害関係者)が参加しているという話が出ました。[*16] まあ、彼らにも秘密保持が課せられますから、一般の国民に情報が下りてくることはほとんどないでしょうね。
    津田:利害関係者を招いて話を聞いてるわけだから秘密協議ではない――進めている側はそういう意識があるのかもしれないですね。でも、それは幅広い意見を聞いてる国民の声のヒアリングではないし、MIAUみたいな消費者側の団体も呼んでもらえない。この知財分野のTPP問題、結局は権利者の利益を優先して交渉することになりそうですよね。
    香月:本当に納得いかないですよね。MIAU――というか「thinkTPPIP」が主張しているのもそこなんですよ。僕たちとしては、TPPへの参加そのものに反対しているわけではない。関税撤廃などの規制緩和を進めて自由貿易を推進するという経済政策は、新自由主義的な観点からするとある種の既定路線と言うこともできます。その部分については「thinkTPPIP」は口を出す気はなくて、実際「thinkTPPIP」の中でも意見が分かれています。ただ「thinkTPPIP」の中で共通していることは、協議の密室性と知財条項の内容に危機感を抱いているということです。まず第一に、TPPの公開交渉化。どうしても出せない情報は仕方がないとして、せめて現時点での条文案だけとか、今どこで誰がどんな話をしているのかは開示してほしいですよね。もしそれが無理な場合は、少なくとも知財条項をTPPの対象から除くことを参加条件にしてほしいと。そう政府に求めていくのが「thinkTPPIP」の役割ですね。
    ◇リークされた米国の知財要求項目
    津田:正式な情報を開示してもらえない状況がある一方で、2011年2月、米国の有力な消費者NGO・Knowledge Ecology International(KEI)が「TPPにおける米国政府の知財要求項目」をリークしたじゃないですか。[*17] リーク文書とはいえ、あれはかなり信憑性が高いと言われていますよね。
    香月:ええ。国内の景気が低迷する一方の米国としては、海外――特に、成長著しいアジア市場へ参入したいという思惑があります。[*18] TPPへの交渉参加もその一環なんですけど、それ以外にも米国は個別にいろんな国とFTA(自由貿易協定)[*19] を結んでいるんですね。その一つに、2012年に発効した米韓FTAがあるのですが、[*20] その知財条項がKEIのリーク情報とほとんど同じだったんです。さらに、文書がリークされたのと同じ2011年2月に日本の米国大使館が公開した「日米経済調和対話」――過去には年次改革要望書と呼ばれた米国政府から日本政府への要望事項 [*21] にも同様の項目が少なくなかった。
    津田:米国が諸外国とFTAを結ぶ時、知財分野で要求してくるものはテンプレート化してるんですよね。KEIがリークしたTPPの米国提案には、そのテンプレートが結構反映されていたから、これを軸に進んでいるのは間違いないでしょうということになった。しかも、強気で交渉しやすい2国間で行われたFTAの要望と、複数国が参加するTPPでの要望がほぼ一致するということは、米国はTPPの協議でもジャイアニズムを発揮して、自国のルールを強引に押し付けてくるんじゃないかと。
    香月:米国が自国の映画、音楽、コンピューターソフトから得た国外収入は約1340億ドル(現在のレートで約11.5兆円)の規模だと言われていますからね。[*22] 米国にとってコンテンツやITといった分野は最重要項目だから、どんどん外国に知財での要望を突きつけたいんです。
    津田:で、そんな米国がTPPで交渉参加国に突きつけるであろうリーク文書の要望には、具体的にはどんな項目があったんですか?
    香月:現行の日本の法律にはないものをいくつか挙げると、まずは著作権の保護期間延長です。日本では、映画を除いて著作権の保護期間は作者の死後50年になっています。その期間が過ぎた作品は著作権が消滅してパブリックドメイン――社会の財産ということになり、誰の許可もなく自由に利用できるようになります。[*23] わかりやすいのが青空文庫 [*24] で、あそこで読める書籍はすべてパブリックドメインですね。
    津田:たとえば2013年1月1日からは『宮本武蔵』[*25] でお馴染みの吉川英治、『遠野物語』[*26] などで有名な民俗学者・柳田国男の作品の著作権が切れます。「青空文庫のビッグイヤー」なんてことも言われているわけですが、著作権保護期間が延長されてしまうと、もうすぐ青空文庫で読めると思っていたら20年先になってしまうなんてことが起きるわけですね。著作権というのは一定期間を経たら社会共有の資産になるべきということが保護期間が設定されている理由なわけですが、保護期間を延長すると、そういうパブリックへの還元の減退が起きるわけです。
    香月:2006年頃にも保護期間延長の機運が高まった時、「NO」と声を上げたのがまさに津田さんであり、thinkCだったわけですよね。
    津田:そうそう。弁護士の福井健策先生(@fukuikensaku)たちと一緒にthinkCのシンポジウムを開いたり、パブコメ [*27] を募集したりして、最終的に文部科学省の審議会で延長を見送りにすることができました。この問題で難しいのは一度延長してしまったら、もう戻すことはできないというところなんですよ。ミッキーマウスの著作権がいつまでも消滅しない「ミッキーマウス法」[*28] と言われているのもそういう背景があります。
    香月:そのほかに懸念すべき条項として、著作権の非親告罪化があります。津田マガでもたびたび取り上げてきたとおり、日本では著作権侵害の処罰は親告罪なので、著作権が侵害しても作者の訴えがない限り罪に問われません。それが非親告罪化されると、作者が告訴しなくても逮捕されてしまうんです。
    津田:非親告罪化って、たとえば本の著者が自分の作品はネットでコピーされてもかまわない、むしろ歓迎だと思っていても、誰かが通報すればコピーした人は犯罪者になってしまうんです。望まぬ逮捕を生む可能性があり、それがクリエイターの創造のサイクルに対する萎縮効果を生むのではないか、ということが最大の懸念点ですね。
    香月:次は、法定損害賠償。あるミュージシャンの曲が動画サイトに違法にアップロードされているのを見つけて、訴えを起こしたとします。ミュージシャンはアップロードした人に損害賠償を請求できますが、現状では、賠償金は被害額を算定して決められるんですね。1件1件の著作権侵害の被害額はそれほど大きな額にならない。何回ダウンロードされたのかを調べるのに時間もお金もかかりますし――。
    津田:裁判となれば弁護士費用もかかる。費用倒れになることは目に見えていますね。
    香月:だから泣き寝入りする権利者も結構多いんです。そこに懲罰的な意味を含んだ法定損害賠償制度が出来れば、被害額は関係なしに裁判所が賠償額を決められるようになります。
    津田:米国のルールでは賠償額の幅が決まっているんですよね。いくらでしたっけ?
    香月:下限750ドル、上限15万ドルとなっています。[*29] 著作権を侵害された時、「最低でもこの金額はもらえる」と見込めるので訴訟を起こしやすくなるんですよね。
    津田:しかも、「とりあえず訴えて賠償金が手に入ればラッキー」みたいな感覚で、知財訴訟が横行するかもしれないという指摘は福井さんもしてましたね。それこそ、最近日本でも問題になっている過払い金訴訟みたいな感じで、カジュアルに知財・著作権がらみの裁判が行われるようになる可能性もある。
    香月:そうなれば新しいビジネスも生まれるでしょうね。これは実際に米国やイギリス、ドイツあたりでは深刻な問題になってるんですけど、調査会社や法律事務所が手を組んで、著作権侵害を見つけたらそこに和解案を含む警告状を送ると。もし30万円の和解金を払わなければ訴えますよ、法廷に引きずり込みますよと、脅しのようなことをやっているわけです。特に目立つのがポルノコンテンツ絡みの事案です。「あなたはこんな卑猥な動画をダウンロードしましたね? 法廷で争ってもよいですが、そうすると会社や家族にバレてしまいますよね。だったら和解金を支払って解決しませんか?」と言われると、まぁ普通の人は訴訟を起こされる前に和解しちゃいますよね。加えて、日本にはカジュアルな著作権侵害にも刑事罰を設けていますから、それがないアメリカやイギリスに比べると脅す材料は多いですよね。
    津田:和解すれば見逃してあげる、と。そんなことが日本でも起こる可能性があるわけですね。日本の司法文化を考えると、レコード会社や出版社がそこまでのことをするとは思えませんが、それも懸念点の1つではありますよね。
    香月:ほかにも、ファイルを違法にアップロードして生じる著作権侵害の責任をインターネット・サービス・プロバイダ(ISP)にも負わせる「米国型のプロバイダーの義務と責任の導入」、音や匂いも商標登録する……など手強そうなルールが揃ってますね。
    ◇TPPIPに対する各国ユーザー団体の反応は?
    津田:やっぱり完全に米国式の知財ルールの押し付けですね。ほかの国もウチに合わせろって話ですよね、知財分野のTPPは。気になるのは、TPPの交渉参加国で怒っているところはないのかなということなんです。香月さんが出席した「NZ デジタル・ライツ・キャンプ」でいろんな国の人と話す機会があったわけですが、そのあたりの話は出ました?
    香月:あそこに集まったのはTPPに反対する人たちばかりですから、それはもう非難轟々でしたよ。そもそも、今回MIAUのメンバーを招待してくれたのは「NZ デジタル・ライツ・キャンプ」を主催した電子フロンティア財団(EFF)という米国の団体です。[*30] 彼らは米国のインターネットやデジタル家電ユーザーの権利を守るために活動していて、ACTA [*31] に続いてTPPにも大反対しているんです。ウェブサイトにあるTPPの特集ページ [*32] を見るとわかりますが、米国政府のやり方をきっぱり否定しています。
    津田:ちなみに、MIAUは「日本のEFFになる!」って言って立ち上げた団体ですね。活動内容や主張は似ているのですが、両者の一番の違いはEFFには潤沢な資金があるということ。EFFはお金を使って派手にロビイングしたりといったことができるんです。
    香月:EFFは財団ですからね。腕のいい法律家とか弁護士もたくさん雇っています。EFFの中の人に聞いたところ、今回のような国際関係の問題を担当する部署だけで6名がフルタイムで働いているそうです。ハーバード大学のロースクールなどから優秀な人材を引っ張ってきていて、もしインターネットユーザーが著作権侵害で訴えられて困っていたら「うちが弁護士を派遣します」みたいなことをやってくれる。今回の「NZ デジタル・ライツ・キャンプ」だって、僕らの飛行機代やホテル代、現地での食事代まですべてEFFが出してくれましたから。
    津田:いわゆる「アゴアシ枕つき」で呼ばれたわけですね。うらやましいなぁ……。で、「NZ デジタル・ライツ・キャンプ」ってどんな会合だったんですか?
    香月:11月1日と2日にニュージーランドのオークランドで開かれた反TPP団体・アクティビストのネットワーク会議です。ちょうどTPPの第15回ラウンドがオークランドで開かれている時期だったので、それに合わせて同じ場所で開催したということでしょうね。各国のMIAUやEFFのようなユーザー団体が集まってTPPに対する問題意識を共有しよう――それがきっかけだったんですけど、実際の会議はデジタルライツ全般について共同連携をしていきましょう――そんな内容に終始しました。
    津田:どんな国からどんな団体の人が来ていました?
    香月:オーストラリア、米国、タイ、チリ、ニュージーランド、マレーシア、メキシコ、日本、ベトナム……と、基本的にTPPに関係のある環太平洋地域から来た人がほとんどでしたね。参加している人や団体は大きく3つに分類できて、1つは明確にTPPに反対している団体。もう1つは知的財産権やインターネット政策のために活動している団体で、MIAUやEFFはここに含まれますね。最後は、インターネットの検閲や監視といった言論の自由のために戦っている団体。参加の動機は国の状況によってさまざまですが、少なくとも「デジタルライツを守りたい」というところでは一致している。どの団体もユーザーの声を代弁する団体で、たとえば米国からはEFFやKEIのほかにPublic Citizen、[*33] オーストラリアのElectronic Frontiers Australia(EFA)、[*34] カナダのOpen Media [*35] が中心になってやっている反TPP連合「STOP THE TRAP」、[*36] それからクリエイティブ・コモンズ・メキシコ [*37] も来ていましたね。
    津田:その人たちとどんなことを話すんですか。
    香月:まず最初に、TPPをめぐる世界的な状況についての説明があって、それは冒頭でもお話したとおりです。KEIによるリーク文書のことなどですね。それを受けて会議のコアイシューを確認したあと、初日は各国の現状について報告し合いました。
    津田:それはTPPとは関係なく?
    香月:はい。TPPについてというよりは、各国が今抱えているデジタルライツ全般に関する課題や問題、それを解決するために自分たちはどういう活動ををしているのかについてですね。TPPに関しては、その後のグループ討論で個別の条項についてじっくり話し合いました。参加者との食事や雑談などでもTPPについて議論されることが多かったですし。
    津田:それはなかなか貴重な機会ですね。海外のMIAUみたいな団体の人たちと話してみた率直な感想は?
    香月:MIAUの活動って、インターネットユーザーのデジタルにおける権利――インターネットに接続するとか、情報にアクセスするとか、コンピュータを使うとか、そういうものの権利をユーザーの立場で主張していくことじゃないですか。MIAUやEFFだけじゃなく、同じようなことを考えているユーザー団体が世界中にいることを目の当たりにできたのが大きかったですね。国の状況は違っても、同じような理念を共有している。日本や米国では言論の自由が保証されているし、知財に関しても環境が整っています。でも、そもそもインターネットに自由にアクセスできなかったり、言論統制が行われている国の人も来ていて、そういう話を聞くと考えさせられました。本当は各国について具体的にお話ししたいんですけど、この会議にはチャタムハウス・ルール [*38] が適用されていて、何について話したかを報告するぶんには問題ないんですけど、発言者を特定できる引用を外部に向けてしてはいけないんですよ。
    津田:なるほどね。じゃあ、話せる範囲でいいので、議論する中で得た新たな発見などがあれば教えてください。
    香月:「NZ デジタル・ライツ・キャンプ」でメインだったのはポストイットアクティビティで、5つくらいのトピックについて各人が思うことをポストイットに書いてイシュー出しをして、それに合わせて5つの分科会を作ってそれぞれ話し合いをするというものでした。参加者はそれぞれの分科会に強制的に振り分けられて、僕はアクティビズム [*39] について議論するチームに入りました。
    津田:あれ? ちょっと待って。香月さんって外人と熱く議論できるほど英語がペラペラ話せましたっけ?
    香月:それがですね、僕の入ったチームのメンバーは僕を除くと3人だったんですけど、そのうちの2名が日本語が理解できたんですよね(笑)。僕の発言がこなれていないと「日本語でいいですよ」とか言って、その場で英語に翻訳してくれるという。いやー、ラッキーでした。で、ここで議論されたアクティビズム論が僕にとっては大きな収穫で、アクティビズム――つまり、自分たちの社会活動をどうやって世の中に広めていくか、たとえばツイッターを使って効果的に情報を出していくにはどうするか、活動を認知してもらうためにはどうすればいいかについての具体的な話が聞けた。EFFのサイトにも文章が公開されているんですけど、すごく勉強になりましたね。
    津田:逆に、香月さんは流暢な英語でどんなことを話したんですか?
    香月:僕は日本が誇るメディア・アクティビストの会社で働いていますからね! 国内における社会活動や政治活動の現状をお話ししましたよ。一番ウケたのは選挙の話。日本ではネットでの選挙活動が禁止されているから、立候補者は公示後ツイッター使っちゃいけないし、ブログも更新できなくなると言うと、「えー、ありえない!」みたいにめちゃくちゃ驚かれました。
    津田:ある意味、国民の知る権利を阻害しているわけですからね。ほかの先進国では考えられないことだと。
    香月:日本はそういうところを変えていかないといけない、という話になりましたね。まずはネット選挙が解禁されないと、MIAUみたいな団体の活動はシュリンクしていかざるを得ないよねって。あと、活動という意味では、日本はデモなんかもやり方を変えないといけないなと。現地で反TPPのデモを見たのですが、これがすごく面白かったんですよ。TPPの密室性を皮肉って、「どんな目が出るかわからない」と大きなサイコロを振るパフォーマンスをしたり。この様子についてはビデオに撮ってきていて、字幕をつけて取材映像としてまとめたものをYouTubeにアップしていますので、ぜひ見てくださいね。[*40]
    津田:へー! それは面白い。ほかに何かTPP関連で印象的だった話は?
    香月:TPPで扱われる21分野のうち、ほかの分野の動向が知財分野に影響する可能性があるというのは初耳でした。たとえばインベストメント・チャプター――投資家保護の条項があって、これは米国とカナダのFTAですでに発効されています。どういう内容なのかというと、国が法改正などで投資家の投資に影響をおよぼすようなことがあってはならないと。あくまで投資は自由であって、国が干渉してはいけないというものです。具体的な例を挙げると、米国はカナダに対してある資源を輸出していたんですね。カナダはそれを受け入れてたんだけど、どうやら米国が輸出してきた資源の中に有害物質が含まれているようだということがわかってしまった。カナダ政府としては当然、国民を守るためにその資源を輸入するのを禁止する法律を作りますよね。ごく常識的な対応なわけです。ところが、カナダ政府が輸入制限をかけたらFTAの投資家条項に抵触してしまった。米国では投資家たちがその資源に投資してマーケットを育ててきたのに、カナダ政府に規制されることで台無しにされたと言うんです。米国は実際にカナダを訴えて、カナダは賠償金を払ってるんですよ。最近では、米国とFTAを結んだ韓国でも、米ファンドが韓国政府を訴えたと報道されていますよね。[*41]
    津田:それと同じことが知財分野でも起こるかもしれない、と。
    香月:はい。たとえば将来、日本でもフェアユース [*42] が導入されるかもしれないという時に、そのせいで日本の映画産業に投資をしていた外国人投資家の実入りが減ることになってしまった、政府は投資家に賠償しろということもありうるわけです。投資家条項を盾に訴えられるおそれがあると、国内法を改正できなくなってしまう可能性もありますよね。
    津田:知財だけを追いかけていると、思わぬ落とし穴にハマってしまうかもしれない――確かにそれは怖いですね。TPPのことを考える時は、ある程度ほかの分野についての知識も必要になってくるわけですね。
    香月:そうなんですよ。僕たちがTPPを語る時、いつも「TPPは農業と自動車産業だけの話じゃない。知的財産も同じくらい重要なんだ」みたいな言い方をしますけど、逆に言うと僕はTPPの農業や工業製品分野についてほとんど知らないんです。今回TPPについていろいろ考えた中で、それが一番の反省点でしたね。
    津田:確かにそれはあらゆる分野の貿易交渉に臨む上で必要な態度なんでしょうね。「NZ デジタル・ライツ・キャンプ」では2日間に渡ってそんな話し合いが続いたわけですけど、全行程を終えて、何かしら目に見える成果みたいなものってあったんでしょうか?
    香月:当初、この会議の最終的な目標は、参加団体で共同声明を出すことだったんです。トピックごとの分科会を開いて議論を深め、僕らは今後の国際社会に対し、デジタルライツのどのようなあり方を求めていくのか、要望をまとめていくと。各分科会の結論をそれぞれ提言にして「オークランドデジタルライツ宣言」とする。本当はそこまでやる予定だったんですけど、議論の時間が足りなくて共同声明には至らなかったんです。でも、将来的にはそれを出していこうというところで一致しました。
    津田:みんなで連携して反TPPIP連合みたいなものを作ろうということにはならなかったんですか。
    香月:もちろんそういう話も議題に挙がったんですけど、共同で団体を作るのは難しいだろうという結論になりました。反TPPIP連合といっても、出身国の状況や言語の問題、それに関わってる人の考え方が違うのでかなりハードルが高いんですよ。それに、それぞれの団体は各国でかなりのプレゼンスを誇ってるので、それを捨ててまで新しい団体を作るメリットがあまりないんです。あくまでも各国の団体がゆるく連携し、情報や危機感を共有していけばいい。それを示すのにベストな方法は、共同声明を出すことだろう、と。
    津田:なるほど。ものすごく有意義な海外出張だったわけですね。MIAUの事務局長として初めての海外出張だったわけですが、最後に「NZ デジタル・ライツ・キャンプ」に出席した感想を改めて教えてください。
    香月:TPPや各条項についての議論を深めていく中で、それぞれに興味深いエピソードはたくさんありましたが、僕の中で一番の収穫は、なぜデジタルライツが大事なのかを改めて実感できたことです。僕らはなぜDVDのリッピング規制に反対しているのか、なぜ著作権の保護期間を延長させてはいけないのか。普段からそういう主張をしているものの、つきつめて考えると、結局のところ「知へのアクセス」を守りたいんだなと。インターネットがもたらした一番の利点は、ネットにつながることによって、地域によって偏在していたり、外国に行かないと手に入らなかったような知識や文化、ノウハウに誰もがアクセスできるようになったことです。インターネットを規制することは、せっかく拓かれた知識へのアクセスに壁を作るというこ――だから僕は反対していたんだということを、具体的にというか、肌感覚として理解できるようになりました。あと、日本ってやっぱり知財分野ではかなり注目されてるんですよ。ACTAにしても著作権法にしても、日本は良くも悪くも先進的なことをやってるので、その動向を各国がウォッチしている。とりあえず、目下の課題はTPPです。MIAUとしても「thinkTPPIP」としても、情報開示を働きかけていくのはもちろん、知財以外の分野についても学んで、場合によっては別分野の団体と連携していく必要もあるのかなと。
    津田:自民党政権がどちらに舵を切るのかわからないとはいえ、残された時間はあまりないですからね。実は、インターネット国民投票「ゼゼヒヒ」[*43] でもTPP関連の質問をたくさん用意しようと思っているので、政治家への意見表明に使えないか、考えてみたいと思っています。
    香月:僕たちMIAUのメンバーもたくさん質問を考えているのに、津田さんがぜんぜん承認してくれないんじゃないですか!
    津田:ソーシャルで話題にならなきゃしょうがないからね。TPPがニュースで話題になったタイミングを見てる感じですね。近いうちに、まとめて連投する予定ですので皆さんお楽しみに!
    ▼香月啓佑(かつき・けいすけ)
    一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)事務局長。有限会社ネオローグ編集部。1983年福岡県北九州市生まれ。九州大学芸術工学部音響設計学科卒業。音響機器メーカー勤務を経て現職。MIAU事務局長として、インターネットやデジタル機器等の技術発展や利用者の利便性に関わる分野における、意見の表明・知識の普及などの活動を行う。ネオローグではインターネットに関係する記事の執筆や電子書籍のオーサリング、インターネット放送やラジオ番組の構成やインターネット生中継のコーディネートを担当している。
    ツイッター:@kskktk
    この記事は「津田大介の『メディアの現場』」からの抜粋です。
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    [*1] http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121229/stt12122909040002-n1.htm
    [*2] http://www.asahi.com/politics/update/1119/TKY201211190787.html
    [*3] http://www.jimin.jp/activity/colum/115185.html
    [*4] http://www.nikkei.com/article/DGXNASDF2800Q_Y2A221C1PP8000/
    [*5] http://www.nikkei4946.com/zenzukai/detail.aspx?zenzukai=vpki4SN21puUbxlPRyIePg%3D%3D
    [*6] 「TPP協定交渉の分野別状況」(平成24年3月)- 国家戦略室
    http://www.npu.go.jp/policy/policy08/pdf/20120329/20120329_1.pdf
    [*7] http://miau.jp/
    [*8] http://thinkcopyright.org/
    [*9] http://creativecommons.jp/
    [*10]http://thinktppip.jp/
    [*11] http://en.wikiversity.org/wiki/International_Digital_Rights
    [*12] http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/index.html
    [*13] http://www.mfat.govt.nz/downloads/trade-agreement/transpacific/TPP%20letter.pdf
    [*14] http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000118020120127003.htm
    [*15] http://stoptppaction.blogspot.jp/2012/12/2tpp15.html
    [*16] 『TPPの交渉透明化と、日本の知財・情報政策へのインパクトを問う!』
    http://live.nicovideo.jp/watch/lv117939659
    [*17] http://internet.watch.impress.co.jp/docs/special/fukui/20111031_487650.html
    福井健策先生による抄訳
    http://www.kottolaw.com/column/000438.html
    [*18] http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2011/12/tpp-2.php?page=2
    [*19] http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/fta/
    [*20] http://www.jetro.go.jp/world/n_america/reports/07000966
    [*21] http://japanese.japan.usembassy.gov/j/p/tpj-20110304-70.html
    [*22] http://www.47news.jp/CN/201111/CN2011110301000346.html
    [*23] http://cozylaw.com/copy/kihon10/no-007.htm
    [*24] http://www.aozora.gr.jp/
    [*25] http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/406196514X/tsudamag-22
    [*26] http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4101047049/tsudamag-22
    [*27] http://thinkcopyright.org/public_comment.html
    [*28]http://homepage3.nifty.com/machina/c/c0004.html
    [*29]http://www.cric.or.jp/gaikoku/america/america_c5.html#504
    [*30]https://www.eff.org
    [*31]http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/ipr/acta.html
    [*32]https://www.eff.org/issues/tpp
    [*33]http://www.citizen.org/Page.aspx?pid=183
    [*34]https://www.efa.org.au/
    [*35]http://openmedia.ca/
    [*36]http://stopthetrap.net/
    [*37]http://wiki.creativecommons.org/Mexico
    [*38]http://sea.ap.teacup.com/kamiyama/170.html
    [*39]http://nakano.tumblr.com/post/2396354078
    [*40]http://www.youtube.com/watch?v=1AO0y5-TEx8
    [*41]http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM22060_S2A121C1FF1000/
    [*42]http://kotobank.jp/word/%E3%83%95%E3%82%A7%E3%82%A2%E3%83%A6%E3%83%BC%E3%82%B9
    [*43]http://zzhh.jp/

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  • なぜ今、「データジャーナリズム」なのか?──オープンデータ時代におけるジャーナリズムの役割

    2013-01-04 14:24  
    【未来型サバイバルジャーナリズム論】津田大介の「メディアの現場」vol.54より 今、世界中でジャーナリズムがデータとの結びつきを強めています。津田マガでも今年の10月からデータジャーナリズムの連載が始まり、vol.40 [*1] とvol.43 [*2] では「データジャーナリズムが切り開くジャーナリズムの未来」を掲載しました。日本ではまだあまりなじみのないデータジャーナリズムの概念を紹介することで新しいジャーナリズムのあり方を今後も皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。膨大なデータの中から「ストーリー」を見い出し、それをビジュアルに落とし込んでわかりやすく提示するのがデータジャーナリズムの基本的な概念です。なぜ海外のマスメディアはこの新しいジャーナリズムに注目しているのでしょうか。また、ジャーナリズムだけでなく、あらゆる分野で起こりつつある「ビッグデータ」の潮流とは? 今回は、海外のデータジャーナリズム事情に詳しい、駿河台大学経済学部専任講師の八田真行さん(@mhatta)にお話を伺いました。
    ◆なぜ今、「データジャーナリズム」なのか?──オープンデータ時代におけるジャーナリズムの役割
    津田:最近、「データジャーナリズム」「ビッグデータ」「オープンデータ」などに代表されるように、「データ」という言葉をあちこちで目にするようになりました。企業やメディアなどの産業界だけでなく、あらゆる機関や団体がデータの価値に気づきつつある。それが顕在化したのが2012年11月に行われた米大統領選挙だったと思うんです。もちろん、データジャーナリズムを駆使した各メディアの選挙報道 [*3] も面白かったのですが、選挙キャンペーンそのものにビッグデータが取り入れられ、結果を左右した。オバマの勝因は、データマイニング──大量のデータを入手し、処理・分析し、そのデータをSNSでつながった支援者たちの戸別訪問などに活かし、組織力で勝ったというのがもっぱらの評判です。日本でも衆院選が終わったばかりで、このあたりが個人的に興味があるところなんですけど、八田さんは米大統領選をどのように見ていましたか?
    八田:データマイニングの勝利と言っていいでしょうね。前回、2008年の選挙戦では、SNSやFacebookを駆使したネット戦略がオバマを勝利に導いたと言われましたが、[*4] 今回は共和党──ロムニー陣営も、ツイッターのフォロワー水増し疑惑が報じられるほど [*5] SNSに関しては万全の体制を整えていた。[*6] 当然、オバマ陣営も相変わらずそこは抜かりなくて、たとえばFacebook用の面白いアプリを配ったりしているんです。アプリをインストールすると、スウィング・ステート(Swing State)──民主党の支持層と共和党の支持層が拮抗する、いわゆる接戦州に住んでいる友達が表示される。それをクリックすると、「オバマに1票入れてくれ」というメッセージが届くというね。知人からのお願いだからか、実際にメッセージを受け取った5人に1人がそのとおりに行動したらしいんですよ。[*7]
    津田:ロムニー陣営も同じようなことをしていたらしいので、「SNSを武器にする」という点では両陣営の意識に差はなかった。となると、最終的に明暗を分けたのはデータマイニングを含めた手法の巧拙だったのではないかということですね。
    八田:はい。オバマは今回、再選に向けた活動を始めるにあたってレイド・ガーニというデータマイニングの専門家 [*8] を主任研究員として雇い、[*9] データ解析チームを4年前の5倍の規模に拡大したと言われています。これは米国のニュース雑誌『タイム』のレポートに詳しいのですが、[*10] オバマ陣営の「The CAVE」と呼ばれるデータ解析チームが最初に着手したのは、キャンペーンオフィスが担当ごとに蓄積してきたありとあらゆる情報を一つに統合すること。世論調査、資金調達者、調査員、それから激戦州の民主党支持者の電話リストやSNSのアカウントなど、分散していたデータベースを18カ月もかけてまとめてから細かく分析し、予測モデルを組み立て、キャンペーンへと応用していったんです。
    ◇大統領選を制したオバマのデータ戦略
    津田:データ、つまり数字を根拠に戦略を練ったということですね。具体的にはどんなキャンペーンを展開したのでしょう?
    八田:今年4月、俳優のジョージ・クルーニーが自宅でオバマ大統領の資金集めパーティを開いたと日本でも報道されて話題になりました。[*11] 実はこれも「西海岸の40〜49歳の女性に最もウケるのはジョージ・クルーニー」だというデータ解析の結果にもとづいて、オバマ陣営が仕掛けたものなんです。また、女優のサラ・ジェシカ・パーカーと、米『VOGUE』編集長のアナ・ウインターがニューヨークで開いた食事会 [*12] も同様です。彼女たちは「東海岸のセレブに強い」という理由でね。あと、個人的に一番面白いと感じたのが、選挙資金を調達するためのクラウドファンディングを呼びかけるメール。オンラインで調達された献金の大部分が日々大量に送られるメールでの勧誘によるものなのですが、ここでもデータマイニングがいかんなく発揮されているんです。何をしたかというと、民主党支持者に送られるメールは、送り主や件名、メッセージが違うんですよ。[*13] オバマ本人からだったり、副大統領のジョー・バイデンからだったり、夫人のミシェル・オバマからだったりといくつかのパターンがある中で、ミシェルからのメールが最も効果を上げた、と。そんな実験をしながら、結果をすぐに反映してアプローチしている。
    津田:うわ、まさにソーシャルゲームのKPI──重要業績評価指標 [*14] の考え方と一緒ですね。[*15] 10月に行われた第1回のテレビ討論ではオバマが精彩を欠き、一時ロムニーがオバマの支持率を上回ったじゃないですか。[*16] あの時も、実はオバマ陣営には楽観的なムードがあったとスタッフとして参加していた人から聞いたんですが、それはデータを用いた対策があったからなんですかね。
    八田:というか、「THE CAVE」はテレビ討論での失敗をクリティカルな問題として捉えていなかったらしいんです。なぜかというと、彼らはいくつかの接戦州スウィング・ステート──たとえば最も重要な州の一つとされるオハイオ州では2万9千票の動向を把握していたんですね。テレビ討論後の変動を分析したら、もともとのオバマ支持者が離れていったわけではなく、ロムニーの過去の失言や失策 [*17] に絶望して、一度は共和党に見切りを付けた共和党支持者が戻っていったに過ぎない、ということがわかった。全体としては依然民主党が優勢なんだから大丈夫──そう太鼓判を押したら、やっぱり勝ったと。
    津田:あのテレビ討論以来、多くのマスメディアや政治評論家が両者は互角だと考えていた中、数字はオバマの勝利を示していたということですね。そういう意味では、全米50州での選挙結果をすべて的中させた『ニューヨーク・タイムズ』の選挙専門家ネイト・シルバーにも注目が集まりました。[*18] 彼は世論調査などから得た膨大なデータを、独自の「数理モデル」で分析して予測をはじき出しています。[*19]
    八田:彼はもともとセイバーメトリックス――映画『マネーボール』[*20] なんかで有名な野球選手の統計的評価に関わっていた人物で、趣味で政治の分析を続けていました。それが、2008年の大統領選の結果を全米49州で的中させ、一躍注目を浴びることになります。2009年には『タイム』誌が選ぶ「世界で最も影響力のある100人」に選ばれちゃったりしたんですね。[*21] で、どんなふうに予測しているかというと、数年間の世論調査をベースに、膨大なデータを使っている。近年のデータや前回選挙での確度が高かった地域のデータには重みをつけたり、州ごとの人口構成や人種の割合を加味しながら統計学にもとづいて分析しているようですね。しかも彼は、自身のブログ「FiveThirtyEight.com」で手法の一部を公開しているんです。[*22] 予測の精度の高さに「インチキだ」と疑いの目を向ける人もいるらしいので、[*23] そういった批判への反論のつもりなのかもしれませんが。
    津田:政治マニアの数学・統計オタクが、プロの政治評論家や政治部記者を出し抜いてしまった、みたいな話ですからね。彼もそうだし、オバマ陣営の「THE CAVE」のメンバーも、やっていることはデータジャーナリズムに近い――というか、データジャーナリズムが持つある側面を実践しているとも言える。実際、日本の新聞社もネイト・シルバーの予測のようなことをやりたがっているところは多いと聞いています。でも、それができていない現状がある。八田さんは、日本でデータジャーナリズムが発達しない理由は何だと思いますか?
    八田:理由はいくつかありますが、まずは公開情報の乏しさですよね。たとえばネイト・シルバーの選挙予測には何か特殊なデータが取り入れられているように見えるかもしれませんが、彼は政治畑の人間ではないので特別なコネや人脈を持っていない。基本的に誰もがアクセスできるような公開情報を使っているんです。
    津田:それはすごいですね! 逆に言うと、そもそも豊富に公開情報がなければ彼と同じことはできないということでもあるわけですね。つまり、インターネットを使った開かれた政府――「オープンガバメント」が前提になると。米国ではオバマがこの4年間でオープンガバメントを推進し、[*24] 情報公開が飛躍的に進みました。政府支出を公開する「USA SPENDING.GOV」[*25]、緊急景気対策の支出を公開する「RECOVERY.GOV」[*26]、そして各省庁が持つデータをワンストップで提供する「DATA.GOV」[*27] と、政府系の情報公開サイトだけでもかなりあります。
    八田:加えて言えば、米国には民間のデータサイトも結構な数がある。スキッパー・シーボルドという、自分でプログラムを作って [*28] ネイト・シルバーの数理モデルを追試したアメリカン大学経済学部の大学院生は、「REAL CLEAR POLITICS」[*29] というウェブサイトから投票結果のデータ [*30] を引っ張ってきていますし。
    ◇データが先か、人が先か?
    津田:米国と並んで、世界にオープンガバメントの潮流をもたらしたのが英国ですよね。労働党のゴードン・ブラウン前首相がトップダウンで推し進めたのですが、[*31] 彼はまず首相官邸下にインフォメーションタスクフォースを置き、「World Wide Webの生みの親」として知られるティム・バーナーズ・リーを政府データ公開プロジェクトの指揮官に指名しました。[*32] その結果、2010年にオープンしたのが「DATA.GOV.UK」です。[*33] これは米国の「DATA.GOV」をかなり意識した内容で、健康、犯罪、教育など個人情報以外のありとあらゆるデータにアクセスできるようになっています。「DATA.GOV」と同様、多くのデータがcsv形式のローデータ(生データ)として提供され、二次利用されている。税金の使途を可視化する「Where Does MY Money Go?」[*34] などさまざまなマッシュアップアプリの誕生につながりました。
    八田:英国はオープンデータとオープンガバメントの、ある種の震源地になっていますよね。なんであんなにオープンなんだと不思議になるくらい。
    津田:一方、日本は……?
    八田:2012年6月、政府のIT戦略本部電子行政に関するタスクフォースが、ようやく「電子行政オープンデータ戦略に関する提言」を公表したという段階です。[*35] 基本的な方向性は「政府自ら積極的に公共データを公開すること」「機械判読可能な形式で公開すること」「営利目的、非営利目的を問わず活用を促進すること」「取組可能な公共データから速やかに公開等の具体的な取組に着手し、成果を確実に蓄積していくこと」の4原則なので、これが実現すればずいぶんオープンガバメントは進むんじゃないですか?
    津田:まあ、日本では政府主導の施策はこれからだとしても、部分的にはオープンガバメントが進んでいるところもありますしね。独立行政法人の役員公募 [*36] や事業仕分け [*37] や行政事業レビューシート [*38] も始まったし、文部科学省の「放射線モニタリング情報」[*39] は、リアルタイム計測した細かい時系列ごとの放射能データをCSV形式でダウンロードできる。また、福井県鯖江市が市内のAED設置情報や災害時の避難所情報を公開したり、[*40] 福島県会津若松市が公共施設の所在地や毎月の人口をCSV形式で公開したりと、[*41] 地方からのボトムアップも起こってきています。情報公開という意味ではここ数年で日本の状況も変わりつつあるのかな、と思います。
    八田:日本では「役人は情報を隠す」みたいなイメージが根強いんだけど、省庁によって情報公開へのスタンスが違うんですよ。たとえば経済産業省は「オープンガバメントラボ」というサイト [*42] を立ち上げたり、専用のツイッターアカウント(@openmeti)まで作って開かれた行政を目指しているけど、財務省はなかなか情報を出したがらない。
    津田:財務省が抱えている細かいデータが公開されたら、分析して「日本の財政マジやばい」って指摘する人も必ず出てくるでしょうね。
    八田:むしろそういう情報こそ明らかにすべきでしょう。たとえば増税するにしても、事前に税金シミュレーターみたいなものでテストすればいいんですよ。税金を5%上げると年金の額がいくら変わるとかね。しかも単なるシミュレーションじゃなくて、条件やプロセスをすべて公開するんです。そうすると「この数字おかしいじゃねえか」「将来景気が良くなるのを織り込んでないじゃねえか」と、僕たち国民もツッコめるようになる。シミュレーターの出来や使い勝手が悪ければ、民間で作り直せる、くらいでなければダメですよね。
    津田:確かに『ウェブで政治を動かす!』でも紹介した地方自治体の予算編成シミュレーター「You Choose」 [*43] みたいなものの増税シミュレーターとかあるといいですよね。個人的には今回、2012年11月に行われた行政刷新会議の事業仕分けでその端緒が示されたと思うんですよ。僕もネットの意見の吸い上げ係として呼んでもらったんですけど、会場にニコ生とツイッターの画面を映した大きなモニターがあって、視聴者のコメントを見ながら議論が進められました。[*44] 可視化された大衆の無意識を熟議に取り入れる――まさに東浩紀さん(@hazuma)が『一般意志2.0』(講談社)[*45] で提案したことが部分的に実現したんですね。[*46] 視聴者から寄せられた質問を僕らが拾って「こういう質問が来てるけどどうなんですか?」と、ネットの意見を集約して一人のバーチャルな「仕分け人」をリアルタイムで構築して、担当の役人たちに投げる。見た目としては、こんな金髪が役人を追求してるわけですけどね(笑)。
    八田:それは確かに新しいかもしれない(笑)。
    津田:もう一つ象徴的だったのが、仕分け会場に当時の野田佳彦首相が来た時の発言ですね。野田さんは会場には10分くらいしか滞在しなかったのですが、会場の外のぶら下がり会見で「オープンガバメント」と2回発言したんです。[*47]「日本もオープンガバメントを実践していかなければならない」ということを、与党のトップ――総理大臣が明確に言葉にしたのは野田さんが初めてなんじゃないかな。エポックメイキングとまでは言わないけれど、非常に意味のある発言だったと思いますね。
    八田:大事なことなので2回言いました、と。[*48]
    津田:いやいや、本当に2回言ったらしいんですよ。民主党の政権運営は確かに未熟だったけれど、政権交代をして少なくとも情報公開は進んだ。民主党の岡田克也最高顧問は副総理の退任会見で「事業仕分けは一つのオープンガバメントの具体例の一つ」として評価し、安倍政権にも継続を要望しています。[*49] 日本の状況は少しずつですけど、確実に変わってきている。このまま日本のジャーナリズムも進化すればいいのにと期待する部分もあるし、もちろん自分がやらなければいけないという思いもあります。もし、オープンガバメントが実現したとして、それでも日本ではデータジャーナリズムが盛り上がらないのだとしたら、足りない要素は何になると思いますか。
    八田:英国に政府保有データなどの生成・公開・利用を支援する「オープン・ナレッジ・ファンデーション」[*50] というNPOがあって、実は先日、その日本支部「オープン・ナレッジ・ファンデーション・ジャパン」[*51] を国際社会経済研究所の東富彦さん(@TomihikoAzuma)や、国際大学GLOCOMの庄司昌彦さん(@mshouji)たちと一緒に立ち上げたんです。僕らのミッションは日本の政府が持っているデータを出すよう働きかけることなのですが、先ほども言ったように、たとえば経産省なんかはデータを公開したがっているんですよ。ただ、彼らにも不満はあって、せっかくデータを出しても活用してもらえないんじゃないか、と思っている。要するに、日本にはデータを扱える人材が少ないんです。データがないから人材は育たないし、人材がいないからデータを出す甲斐がない――「鶏が先か、卵が先か」みたいな不幸な状況があるんですね。
    津田:なるほど。そもそもそれを活用できる人材がいないから、データの出し甲斐がないと。それは自分も含め、メディア関係者には耳の痛い話ですね。従来の報道だと、記者は取材をもとにストーリーを組み立て、記事を書いて結論に導けばよかった。それがデータジャーナリズムだと、データを分析してそこに何らかのパターンを見出す。それを客観的に見やすく提示して、記事を材料に考えさせるというものにしないといけない。
    八田:ええ。そういう意味では、今はジャーナリストに求められているスキルセットが変わってきているんだと思います。これまでジャーナリストは文系の仕事だと思われてきたけれど、アナリストとしての役割を担うに至っては、文系の知識だけでは足りなくなってきた。逆に僕らのようなコンピュータや統計を扱っている、いわゆる理系の人間からすると、自分たちが関われる領域が増えた。つまり、これまでジャーナリズムとは無縁に思われていた理系の人間にも、新しいキャリアパスが見えてきた、とも考えられるんですね。[*52] というか、理系・文系という分け方自体がナンセンスになってきていて、理系・文系という境界を超えた知識が必要とされているんです。
    津田:仮に僕がデータジャーナリストになろうと思ったら、取材をして原稿が書けるという現状のスキルに加えて、ユーザインターフェース(UI)[*53] やユーザエクスペリエンス(UX)[*54] を理解して、かつ計量経済学や統計学の知識を身につけないといけない。さらに、データベースを扱えて、データ処理ができるようになる必要がある、と。どんなド天才かスーパーマンだよそれって話ですよね……。
    八田:極端に言うとそういうことです。欧州の場合は、そういった知識やスキルの習得のためのトレーニングなど支援するような動きがたくさんあって、いわゆる従来型のジャーナリストも新しい技術を覚えるようになってきている。実際、ものすごく難しいことを要求されているわけではありませんから。
    津田:僕からするとけっこう高いハードルですけどね……。たとえばデータ処理ができる、ウェブサービスが作れるエンジニアがジャーナリストとしてのノウハウを習得するのと、ジャーナリストがデータの処理やデータベースの知識を習得するのとでは、どちらがデータジャーナリストへの近道だと思いますか? 個人的には、前者のような気がするのですが。
    八田:一概には言えないですね。津田さんはジャーナリストに必要なスキルをすでに身につけているからそう思うのかもしれませんが、エンジニアはその知識を持ちあわせていません。社会がどういった問題を抱えているのか、その問題の原因は何なのか、その原因を探るためにはどういったデータが必要になるのか、そのデータがどこにあるのか――ジャーナリストならではの視点や知識をエンジニアが習得しようとすれば、ジャーナリストが新しい技術を学ぶのと同じくらい大変なはずですよ。
    津田:一人ですべてをやるのは大変だから、ジャーナリストやエンジニア、デザイナーがそれぞれ必要なスキルを持ち寄って、チームとしてやるという考え方もあります。朝日新聞が11月に発表したプロジェクトチーム「ビリオメディア」[*55] の第一弾企画「総選挙に関するつぶやき調査」[*56] は、そこそこ良くできていますよね。ガーディアンとかニューヨーク・タイムズがやってる最先端のデータジャーナリズムと比較すると見劣りしてしまいますが……。11月22日から11月28日の間につぶやかれた、選挙を話題にした84万件以上のツイートを分析し、どんなキーワードが多かったかをインタラクティブなグラフで表しています。データ分析などは外部に依頼していると思うのですが、こういうものを朝日新聞が選挙前に出したというのはインパクトがあるし、これから日本でもデータジャーナリズムに手を出すメディアが増えそうな気がします。
    八田:将来はどうなるかわかりませんが、今はそれがベストでしょうね。ただ、コラボレーションをするにしても、それぞれの最低限の知識が共有されていないと、うまく進みません。いずれにしても、ある程度の知識やスキルが必要なので、トレーニングが必要になる、ということに変わりないと思いますね。
    ◇データジャーナリズムが国の明暗を分ける?
    津田:いやー、これは僕もいろいろ本気で勉強しなきゃいけないですね。データジャーナリストの養成機関だとどういうところがあるんですか?
    八田:たくさんありますけど、先日、オランダのマーストリヒトで開催されたセミナーに参加した際、European Journalism Centre(EJC)[*57] に立ち寄ったんですよ。EJCは「Journalist working for Journalist(ジャーナリストのために働くジャーナリスト)」という標語を掲げて、ジャーナリスト向けの研修やトレーニング、ジャーナリズムに関する調査・研究を行っている非営利機関です。1992年にオランダで設立されているのですが、主に国際的な活動、とくに欧州全域、アフリカを中心とした活動を行っています。ここはすごくデータジャーナリズムに対して先進的な取り組みをしていると感じましたね。
    津田:「ジャーナリスト向け」ということは、すでにプロとして活動しているジャーナリストにトレーニングをする機関ということ?
    八田:そうですね。彼らは主に「mid-career journalists」――つまり、ある程度の経験を積んだジャーナリストへのトレーニングを提供しています。ジャーナリズムをまったく知らない素人をジャーナリストにするというのではなく、ジャーナリストがステップアップするための手助けをする、というところでしょうね。今はデータジャーナリズムを一番に挙げていますが、ほかにも市民ジャーナリズムとソーシャルメディア、ジャーナリスト向けの調査ツールといったテーマでもトレーニングを行っているようです。彼らの基本的なスタンスとしては、ほかのジャーナリストたちよりも一歩先を行って、新たな知識や技術をトレーニングする、というところですね。EJCは国際的な組織ですが、欧州各国に国内で活動するトレーニング機関はあるようですよ。また、European Journalism Training Association(欧州ジャーナリズム・トレーニング協会:EJTA)[*58] というジャーナリズムを教える大学やトレーニング機関が加盟する協会があって、ネットワークも構築されているんですね。
    津田:お互いに連携・協力して、ジャーナリスト向けのトレーニングがボトムアップされているんですね。こうしたトレーニングって、米国ではどうなんでしょうか?
    八田:データジャーナリズムのように先進的な、いわゆるデジタル・テクノロジーを駆使したジャーナリズムに関しては、伝統的にジャーナリズム教育を行なってきた大学が積極的に取り組んでいるようです。たとえば、コロンビア大学のジャーナリズムスクール [*59] では、同大学の大学院工学科 [*60] と共同で、Journalism and Computer Scienceの修士号のカリキュラムを提供しています。[*61] これは、コンピュータサイエンスの領域に詳しい人材を育てるというのではなく、データジャーナリズムのようなことができる人材を育てるためのプログラムですね。
    津田:伝統的なジャーナリスト養成学校でも、ジャーナリスト育成のプログラムを時代に合わせてアップデートしているんですね。
    八田:米国のアイビーリーグみたいな名門校にはプライドがあるんですよ。「自分たちは世界最高かつ最新の教育を提供している」という自負があるから、やっぱりやるんですよね。
    津田:欧州や米国の状況を知るにつれ、日本との格差に暗澹たる気持ちになりますね……。そもそも、日本ではデータジャーナリズムの概念自体があまり知られていないのだから、当然と言えば当然ですが。
    八田:確かに、僕が知る限り、日本にはデータジャーナリストのトレーニングを専門とする機関はほとんどないですね。日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalist:JCEJ)がデータジャーナリズムのワークショップを開いていますが、[*62] 専門性やトレーニングのノウハウの部分では欧米に遠く及ばない。ただ、こういった団体があるとないとでは大違いですから、これからに期待したいですね。ほか、大学で行われているジャーナリズム教育もあるはずですが、どういったことを教えているのかまでは把握できていません。
    津田:僕は早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース(J-School)[*63] で「ウェブジャーナリズム」を教えていますが、カリキュラム全体を見ると、やはり伝統的なマスメディアで必要とされる知識やスキルの習得に偏っているように思います。取材の仕方、事件報道の仕方、ファクトチェックの仕方――それはそれで大事ではあるんだけど、これから必要になる知識やスキルをフォローできているかというと不十分なところはある。ただ、津田マガのvol.51 [*64] でiPS誤報問題について語ってくれた [*65] 田中幹人さん(@J_Steman)なんかは学生にコンピュータを使ったデータ分析のやり方を教えています。孤軍奮闘でがんばっている教員もいるんですけどね。
    八田:海外のジャーナリズム教育・トレーニングでは、データの扱い方はもちろん、わかりやすく見せるためのデザインも含んでいるんですよ。ビジュアライゼーション、ほかのデータやネットサービスとのマッシュアップ、インタラクティブ性もデータジャーナリズムの重要な要素だから、技術のほかにセンスが要求される。デザインも必要なスキルの一つだというわけですね。
    津田:なるほど。それならジャーナリズムスクールに限らず、情報デザイン学科がある芸大や美大、専門学校なんかでもデータジャーナリズムのようなものを積極的にカリキュラムに組み込んでもいいと思うのですが、日本ではそういう取り組みもほとんどない。
    八田:専門の育成機関もない、大学のジャーナリズム教育では弱い――そうすると、今のところ日本でジャーナリストになるには新聞社に入るしかないんですよね。新卒で入社してOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)[*66] を受ける、みたいな。ただ、その訓練期間としての新聞社がデジタルやIT、データドリブンみたいな新しい領域を苦手としていたし、軽く見ていたから、なかなか欧米のレベルには追いつかない。もちろん新聞社も変わろうとはしているようで、さっき紹介したオランダのEJCにも日本の大手メディアから研修生が来るらしいんです。でも、そういう人は大抵がお年寄りなんだそうです。
    津田:あー……いかにもありそうな話ですが、それだとダメな感じしかしないですね。
    八田:大手新聞社や通信社のエライ人が視察に来ると。
    津田:うーん。それだと意義は薄い気がしますね。大新聞の引退間際みたいなベテランって「記者がツイッターの情報なんか信用するな」みたいなことを真顔で言う人も少なくないですから。そうではなくて、それこそ大学を卒業して数年の、伸びしろのある記者が行って勉強しないとダメですよ。
    八田:日本にはなまじっかちゃんとしたジャーナリズムがあるから、新しい概念が入りにくい部分があるんでしょうね。日本でジャーナリストと言えば、基本的にルポライターを意味するんですよ。ルポライターとしての素養――ジャーナリスト倫理とか、情報の分析能力とか、そういったものの重要性はこの先も変わりません。ただ、ジャーナリズムの手法が少しずつ変化するとともに、必要なスキルセットも変わってきている。それに従来のマスメディアのジャーナリズム教育が対応しきれていないと気づかないといけない。
    津田:それは中国の状況と対比すると面白くて、あの国には最近までジャーナリズムそのものがなかったんですよね。テレビは国営テレビ局で、新聞も共産党の機関紙だけだった。それが2000年代の胡錦濤体制で急速に経済成長を遂げたものだから、メディアをめぐる状況も大きく変わったんです。2001年には民間資本の新興経済メディア『経済観察報』[*67] が創刊、2003年には公称80万部を誇る [*68] 北京の都市報『新京報』[*69] が創刊されました。中国は新聞の多様化と同時期にネットメディアが台頭したことで、両者に日本のメディアでありがちな「既存メディアが上、ネットは下」という上下関係がないそうなんです。ジャーナリストが新しいスキルを身につけやすい環境があるんですね。
    八田:それは中国だけじゃないですよ。「ジャーナリズムは未発達」というイメージのあるアフリカのケニアなんかでも、データジャーナリズムが根付いてきていて、それが投票者登録の増加という形で実際に社会に影響を与えるようにもなっていると聞いています。[*70]
    津田:僕が教えているJ-Schoolでも、生徒の半分以上は中国人留学生ですからね。中国の良家の子女が日本で勉強して、祖国に戻って国営放送やメディアに就職していく。海外のほかのジャーナリズム・スクールに留学する中国人留学生も多いことを考えれば、5年後、10年後の中国メディアは激変しているでしょうね。
    八田:近い将来、中国でも優秀なジャーナリストなのに食えない――昔の日本でいうトップ屋 [*71] みたいな人が出てきて、データを駆使して中央権力の腐敗をあぶり出すみたいなことを始めるかもしれない。データ分析のノウハウって汎用性があるんですよ。「THE CAVE」で溜め込んだノウハウを活かした諜報機関が突然立ち上がるかもしれないですし、そうなったら恐いですよね。たとえば尖閣諸島のような外交問題にしても、どう宣伝すれば一番効果的なのか、国際社会にアピールできるのかというようなことを、すべてデータではじき出せるようになるんですから。
    津田:「ビッグデータ」という言葉がただの流行語ではなく、本当に必要な時代が到来しつつある、と。
    八田:データの分析能力が国際競争力に直結する可能性が出てきていると思います。
    津田:それを国家レベルで進めている米国や英国、そこに中国も参入してきたら……。日本は今のままでは到底太刀打ちできないですよね。
    八田:そうならないために、僕らも活動していかないといけないわけですけど。まずはやはり人材育成が急務です。それをするにあたって重要だと思っているのは、文系・理系を問わず、学びたいという人に手を差し伸べる――EJCのようなトレーニングを提供することじゃないか、と思っています。経験談を語るとかじゃなくて、もっと技術的な話ですね。テクニックに落としこんで教えないといけない。
    津田:ベテラン記者が大学行って昔の武勇伝を語っている場合じゃねえだろ、と。
    八田:あと、海外の動きを見ていて感心するのはアウトプットの多さですね。たとえばデータジャーナリズムが流行れば『The Data Journalism Handbook』みたいなデータジャーナリズムのノウハウ本 [*72] がすぐに出版されて、学びたい人は本を通じて知識や技術を共有できる。海外メディアは「伝えるための努力」を惜しまない。そのあたりの意識は日本のメディアと桁違いだと思いますね。
    津田:なるほどね。じゃあやっぱり僕もツイッタージャーナリズムの本を作らないとダメですね。新刊が出たばかりで、しばらく本は書きたくなかったんだけど。本を書いて、自分のメディアも作っていろいろ若い人に伝えていきたいので、八田さんも協力してくださいね。
    八田:ええ。誰かがやらなくちゃいけないですからね。
    津田:ぜひ一緒にやりましょう。今日はありがとうございました。
    ▼八田 真行(はった・まさゆき)
    経営学者。ハッカー。翻訳家。コラムニスト。1979年東京生まれ。東京大学経済学部卒、同大学院経済学研究科博士課程単位取得満期退学。一般財団法人知的財産研究所特別研究員を経て、2011年4月より駿河台大学経済学部専任講師。専攻は経営組織論、経営情報論。ウィキリークスやアノニマスなどのハッカー文化にも造詣が深い。Debian公式開発者、GNUプロジェクトメンバー、一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)発起人・幹事会員。主な著書に『日本人が知らないウィキリークス(共著)』(洋泉社)、『ソフトウェアの匠(共著)』(日経BP社)、訳書に『海賊のジレンマ』(フィルムアート社)がある。
    ウェブサイト:http://www.mhatta.org/
    ツイッターアカウント:@mhatta
    この記事は「津田大介の『メディアの現場』」からの抜粋です。
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    [*1] http://tsuda.ru/tsudamag/2012/07/188/
    [*2] http://tsuda.ru/tsudamag/2012/08/194/
    [*3] 本メルマガの連載「世界のデータジャーナリズム最前線」では、これまでに米大統領選に関連した以下の記事を取り上げた。
    「At the NationalConventions, the Words They Used(全国党大会、彼らが使った言葉)」──『ニューヨーク・タイムズ』/2012.9.6
    http://www.nytimes.com/interactive/2012/09/06/us/politics/convention-word-counts.html
    「How much did Barack Obama spend at the Apple Store? Explore the election spending data (バラク・オバマはApple Storeでいくら使ったか? 選挙キャンペーンの経費データを探る)」──『ガーディアン』/2012.10.15
    http://www.guardian.co.uk/news/datablog/interactive/2012/feb/04/election-spending-2012-data
    [*4] http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20080530/305325/
    [*5] http://sankei.jp.msn.com/wired/news/120808/wir12080814540002-n1.htm
    [*6] http://techcrunch.com/2012/09/12/romney-digital-director-zac-moffatt/#comment-box
    [*7] http://www.politico.com/politico44/2012/10/obama-campaign-emails-now-targeting-specific-individuals-139211.html
    [*8] http://www.rayidghani.com/
    [*9] http://www.economist.com/node/21547279
    [*10] http://swampland.time.com/2012/11/07/inside-the-secret-world-of-quants-and-data-crunchers-who-helped-obama-win/
    上記記事と同様の内容を書いた日本語で読めるコラムはこちら
    http://news.mynavi.jp/column/svalley/489/index.html
    [*11] http://mainichi.jp/enta/news/20120512ddm007030170000c.html
    [*12] http://www.fabloid.jp/2012/06/05/sarah-jessica-parker-obama-ad/
    [*13] http://megumisasaki.com/?p=446
    [*14] http://e-words.jp/w/KPI.html
    [*15] http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1110/25/news010.html
    [*16] http://www.cnn.co.jp/usa/35022779.html
    [*17] http://www.nikkei.com/article/DGXDASGM3000D_Q2A930C1FF2000/
    [*18] http://sankei.jp.msn.com/world/news/121109/amr12110903190000-n1.htm
    [*19] http://jp.techcrunch.com/archives/20121107pundit-forecasts-all-wrong-silver-perfectly-right-is-punditry-dead/
    [*20] http://bd-dvd.sonypictures.jp/moneyball/
    [*21] http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34072
    [*22] http://fivethirtyeight.blogs.nytimes.com/methodology/
    [*23] http://cds2x.wired.jp/2012/11/13/nate-silver-facts-election/
    [*24] http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/09120901.html
    http://globe.asahi.com/mediawatch/091123/01_01.html
    [*25] http://www.usaspending.gov/
    [*26] http://www.recovery.gov/
    [*27] http://www.data.gov/
    [*28] https://github.com/jseabold/538model
    [*29] http://www.realclearpolitics.com/
    [*30] http://www.realclearpolitics.com/epolls/latest_polls/elections/
    [*31] http://blogos.com/article/23565/
    [*32] http://news.mynavi.jp/column/eutrend/046/index.html
    [*33] http://data.gov.uk/
    [*34] http://wheredoesmymoneygo.org/
    [*35] http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/denshigyousei/honbun.pdf
    [*36] http://www.cas.go.jp/jp/doppou_koubo/
    [*37] http://www.cao.go.jp/gyouseisasshin/contents/01/shiwake.html
    [*38] http://www.cao.go.jp/gyouseisasshin/contents/02/review.html
    [*39] http://radioactivity.mext.go.jp/map/ja/
    [*40] http://www.city.sabae.fukui.jp/pageview.html?id=11552
    [*41] http://www.city.aizuwakamatsu.fukushima.jp/index_php/city_map/show_map.php
    [*42] https://sites.google.com/a/openlabs.go.jp/www/
    [*43] https://youchoose.yougov.com/Redbridge2012
    [*44] http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK1602U_W2A111C1000000/
    [*45] http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062173980/tsudamag-22
    [*46] 11月15日の東氏本人によるツイート
    https://twitter.com/hazuma/status/269265466638360578
    [*47] http://jp.wsj.com/Japan/Politics/node_549226
    [*48] http://dic.nicovideo.jp/a/%E5%A4%A7%E4%BA%8B%E3%81%AA%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%81%AE%E3%81%A7%E4%BA%8C%E5%9B%9E%E8%A8%80%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F
    [*49] http://www.kantei.go.jp/jp/fukusouri/press/201212/25kaiken.html
    [*50] http://okfn.org/
    [*51] http://okfn.jp/
    [*52] ジャーナリストに求められているスキルセットについては、八田さんの講演を載録した本メルマガvol.40の「データジャーナリズムが切り開くジャーナリズムの未来」に詳しい。
    http://tsuda.ru/tsudamag/2012/07/188/
    [*53] http://e-words.jp/w/E383A6E383BCE382B6E382A4E383B3E382BFE383BCE38395E382A7E383BCE382B9.html
    [*54] http://e-words.jp/w/E383A6E383BCE382B6E382A8E382AFE382B9E3839AE383AAE382A8E383B3E382B9.html
    [*55] http://www.asahi.com/special/billiomedia/
    [*56] http://www.asahi.com/special/billiomedia/bubble.htm
    [*57] http://www.ejc.net/
    [*58] http://www.ejta.eu/
    [*59] http://www.journalism.columbia.edu/
    [*60] http://www.engineering.columbia.edu/
    [*61] http://www.journalism.columbia.edu/page/276-dualdegree-journalism-computer-science/279
    [*62] http://d.hatena.ne.jp/jcej/20120802/1343919405
    [*63] http://www.waseda-j.jp/
    [*64] http://tsuda.ru/tsudamag/2012/11/1223/
    [*65] http://tsuda.ru/tsudamag/2012/11/1229/
    [*66] http://www.atmarkit.co.jp/aig/04biz/ojt.html
    [*67] http://www.eeo.com.cn/
    [*68] http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20110905/222470/
    [*69] http://www.bjnews.com.cn/
    [*70] http://www.icfj.org/blogs/data-journalism-boosts-voter-registration-kenya
    [*71] http://kotobank.jp/word/%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E5%B1%8B
    [*72] http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/1449330061/tsudamag-22

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  • 【2012年を振り返る】 津田大介の「メディアの現場」vol.57

    2013-01-01 17:04  
    220pt
    2012年が終わって数時間。昨年もいろいろなことがありました。今回はニュー
    スピックアップの代わりに年末特別企画として、独特のツイートで人気を集め
    る匿名ツイッタラー・岡田ぱみゅぱみゅさん(@kettansai)と一緒に高円寺の
    焼肉屋で2012年のニュースを振り返ってみました。今回は前編になります。

    ======================================================================

    津田:今回は年末の特別対談ということで、ゲストに岡田ぱみゅぱみゅさん
    (@kettansai)をお招きしました。さて、まずはなぜ岡ぱみゅさんを呼んだの
    か、経緯を説明しますね。もともと僕が岡田さんを認識したのは震災が終わっ
    た後ぐらいからで、その頃自分に言及したツイート [*1] をエゴサーチで見つ
    けてユーザータイムライン読んでみたら「この人、斜に構えて黒いこと書いて
    いるけど面白いなー」と思ってフォローしたのがきっかけです。当時から既に
    普通の人とは違うなということは感じていたんですけど、岡田さんが2011年の
    年末に「kettansaiさんが選ぶ『2011年の100大ニュース』をほぼ産経記事で振
    り返ろう」という、その年に話題になったニュースについて、順位付けしてコ
    メントするっていう企画をやっていたんですよ。[*2] その出来がすごく良くて、
    こりゃ面白いし力作だと思うと同時に恐らく自分とメディアやニュースの見方
    が共通するところがあるなと思って、その後は興味を持ってツイートを追いか
    けるようになったんですね。通常、そういう人を見つけると結構僕は積極的に
    アプローチする方で、DM送って「飲みに行きましょうよ!」みたいな感じで会っ
    たりすることが多いんですが、岡田さんは俺のことは言及するくせにフォロー
    してなくてDMが送れなかったんですね。ツイッターはフォローされてないとDM
    送れないので。そうこうする内に、たまたま今年の秋にリプライで直接やり取
    りすることがあって「良かったら飲もうよ!」と声をかけたとき、フォローし
    てもらってたのでDM送って実際に会うことになった。だから実際にこうして会っ
    て話すのは、今回がまだ2回目なんです。実は昨年末に出した津田マガのvol.
    17 [*3] で「今年のメディア&IT 10大ニュースピックアップ」という特別企画
    を書いたので、今年も振り返り企画をやりたかった。でも、自分一人でやるよ
    り誰かユニークなニュースウォッチャーと一緒に対談形式でやりたいなと。そ
    こで思いついたのが岡田さんだったんですね。ということで、岡田さんまずは
    自己紹介からお願いします。

    岡田:どうも、岡田ぱみゅぱみゅと申します。名前は匿名なんですけど……理
    由は会社にバレたくないっていうのと、以前スターリンのアイコンで「岡田眞
    澄」を名乗っていたら、たまに普通に勘違いしたおばあちゃんから「大ファン
    です」みたいなことを言われるようになってしまい……。

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