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個人情報保護法と越境データ問題──津田大介の「メディアの現場」より
2012-09-27 12:00クラウドコンピューティングの普及が進み、データをサーバ上に置くことが当たり前の世の中になってきました。僕らはSaaSやPaaSなどのクラウドベースの様々なサービスを日々使っていますが、しかし 僕らがデータを預ける「クラウド」はもちろん一つではありません。サービスごとにそのサービスが契約しているクラウドベンダーのデータセンターがあって、そのデータセンターに僕らのデータがあるわけです。そしてそのデータセンターが国内にあるとは限りません。そのサービスを提供しているサービス業者がどのデータセンターを使っているかによります。そしてそのクラウドベンダーに預けるデータには個人情報が含まれることは容易に予想できます。 ここで問題になるのが各国のプライバシー・個人情報保護法制です。日本に個人情報保護法があるように、世界の国々にも個人情報、個人データ、データプライバシー等をどう扱うかという法律があります。日本企業が世界でクラウドサービスといったさまざまなITサービスを展開していく場合には、関係各国の法律の適用関係を確認し、それらを遵守していく必要があります。 一見関係がなさそうに思えるクラウドコンピューティングと個人情報保護法の繋がりについて、今週も法学者で個人情報保護法がご専門の鈴木正朝先生に聞いてきました。 -
【町山智浩さんが「師匠」と呼ぶ人物は?】津田大介の「メディアの現場」特別号外ブロマガ編vol.3
2012-09-26 17:14220pt津田大介さんのブロマガと連動した生放送番組『津田ブロマガeXtreme(エクストリーム)』。その第2回目が、2012年9月12日に放送されました。アシスタントを務めたのは、前回と同じく高橋杏美さん。その放送内容の書き起こし記事を特別号外として、ブロマガ読者限定でお届けします。(企画・制作:ドワンゴ) 放送中、津田さんは映画評論家として知られる町山智浩さんとの対談を振り返りました。町山さんが宝島社で「別冊宝島」などの編集者をしていた時代の話を、ファンの目線でいろいろと伺いました。町山さんは、駆け出しの頃に取材のノウハウを叩きこんでくれたジャーナリストの岩上安身さんのことを「師匠だ」と尊敬していたそうです。津田さ んは以下のように話しました。 「岩上さんは、作家の夢枕獏さんの家に、町山さんを招待したことがあるらしいんですよ。そうしたらそこに、『グラップラー刃牙(バキ)』を連載し始めたばっかりの板垣恵介さんが居て、みんなで「新しいアルティメットな格闘技があるらしい」って言って、日本に全然来ていなかったころのヒクソン・ グレイシーとかのグレイシー柔術のビデオをみんなで見たそうなんです。あの場所に連れて行ってくれた岩上さんのことを 、 僕は ずっと尊敬していますと話しておられて」 このほか、津田さんは政府が新たなエネルギー政策を決めるために国民から意見を集める際にとった手法の一つ「パブリックコメント」について、取り上げました。『津田ブロマガeXtreme(エクストリーム)』では、今後も定期的に生放送をしていく予定です。 この番組の全文書き起こし記事は、チャンネルに会員登録すると閲覧できます。 -
政府の原発ゼロ政策はなぜ骨抜きになったのか──津田大介の「メディアの現場」より
2012-09-24 19:21◆原発ゼロ政策、なぜ骨抜きになったのか
——内閣府のエネルギー・環境会議は9月14日、「2030年代に原発を稼働ゼロにする」という方針を打ち出しました。「革新的エネルギー・環境戦略」という今後のエネルギー・環境政策に関する戦略の中で発表されたものです。
原発に依存しない社会の実現に向け、何を行っていくか——この戦略の中では「先行して行う対策」のひとつとして、高速増殖炉「もんじゅ」[*1] に関する項目が挙がっています。
いわく、「高速増殖炉開発の成果の取りまとめ、廃棄物の減容及び有害度の提言等を目指した研究を行うこととし、(略)成果を確認の上、研究を終了する」[*2] と。少し意味はわかりにくいけれど、要は「高速増殖炉の実用化を断念する」ってことですよね。
高速増殖炉の実現は、日本にとって、長年の悲願だったはずです。しかしそもそも、すでに実際の発電に使われている軽水炉との違いがよくわかりません。高速増殖炉は何がどうすごいのでしょう?
津田:高速増殖炉は「夢の原子炉」なんていう呼ばれ方をすることがありますよね。でも、なぜ「夢」なのか、よくわからない人も多いかもしれません。
電気を発生させる方法には、いくつかあります。風力、火力、原子力——これらの発電方法では、どれも天然資源が必要になりますよね。火力発電なら石油や天然ガス、軽水炉による通常の原子力発電ならウラン、といった具合に。
こうした天然資源は埋蔵量に限りがあるうえ、資源に乏しい日本のような国では、その大半を輸入に頼らなければいけません。
資源を有効活用し、発電を行う方法はないものか——そこで浮上してきたのが「高速増殖炉」です。ウランとプルトニウムの化合物「MOX燃料」を使うこの方式では、発電の過程で核分裂が起き、なんと原料のプルトニウムが増えるんです。しかも、使用済み核燃料に処理を施せば、再び燃料として使える。「ドラえもん」のひみつ道具でいえば「バイバイン」のようなことが起きるわけですね。
こうして燃料をぐるぐる回していけば、理論上は半永久的に電力がまかなえる。日本にしてみれば、まさに「夢の原子炉」ですよね。もんじゅは、この高速増殖炉を開発するために作られたものなんですよ。 -
【原発ゼロ政策、なぜ骨抜きになったのか】津田大介の「メディアの現場」vol.46
2012-09-24 18:00220ptこの9月14日、「2030年代に原発をゼロにする」という方針を打ち出した「革新的エネルギー・環境戦略」が発表されました。この戦略の中では、日本にとって悲願だった「もんじゅ」――高速増殖炉の実用化断念も盛り込まれています。仮にもんじゅをなくしたら、日本はどう変わるのか。原子力政策の今を紐解きます。 ◆原発ゼロ政策、なぜ骨抜きになったのか ――内閣府のエネルギー・環境会議は9月14日、「2030年代に原発を稼働ゼロにする」という方針を打ち出しました。「革新的エネルギー・環境戦略」という今後のエネルギー・環境政策に関する戦略の中で発表されたものです。 原発に依存しない社会の実現に向け、何を行っていくか――この戦略の中では「先行して行う対策」のひとつとして、高速増殖炉「もんじゅ」[*1] に関する項目が挙がっています。 いわく、「高速増殖炉開発の成果の取りまとめ、廃棄物の減容及び有害度の低減等を目指した研究を行うこととし、(略)成果を確認の上、研究を終了する」[*2] と。少し意味はわかりにくいけれど、要は「高速増殖炉の実用化を断念する」ってことですよね。 高速増殖炉の実現は、日本にとって、長年の悲願だったはずです。しかしそもそも、すでに実際の発電に使われている軽水炉との違いがよくわかりません。高速増殖炉は何がどうすごいのでしょう? 津田:高速増殖炉は「夢の原子炉」なんていう呼ばれ方をすることがありますよね。でも、なぜ「夢」なのか、よくわからない人も多いかもしれません。 電気を発生させる方法には、いくつかあります。風力、火力、原子力――これらの発電方法では、どれも天然資源が必要になりますよね。火力発電なら石油や天然ガス、軽水炉による通常の原子力発電ならウラン、といった具合に。 こうした天然資源は埋蔵量に限りがあるうえ、資源に乏しい日本のような国では、その大半を輸入に頼らなければいけません。 資源を有効活用し、発電を行う方法はないものか――そこで浮上してきたのが「高速増殖炉」です。ウランとプルトニウムの化合物「MOX燃料」を使うこの方式では、発電の過程で核分裂が起き、なんと原料のプルトニウムが増えるんです。しかも、使用済み核燃料に処理を施せば、再び燃料として使える。「ドラえもん」のひみつ道具でいえば「バイバイン」のようなことが起きるわけですね。 こうして燃料をぐるぐる回していけば、理論上は半永久的に電力がまかなえる。日本にしてみれば、まさに「夢の原子炉」ですよね。もんじゅは、この高速増殖炉を開発するために作られたものなんですよ。 ◇1956年、すでに高速増殖炉の計画があった ――高速増殖炉の計画は、いつスタートしたのでしょう? 津田:少しさかのぼって、日本の原子力政策が始まったあたりからお話ししましょう。 1945年、広島と長崎への原爆投下によって第二次世界大戦が終結します。そしてアメリカの占領下に置かれた日本は、原子力の研究をしばらく禁止されたんですね。それが解かれたのは1952年、日本が連合国各国とサンフランシスコ講和条約を結び、国家の主権を回復してからです。 このタイミングで原子力に目をつけたのが、のちに総理大臣を務める中曽根康弘らです。当時、衆議院議員だった中曽根康弘たちは1954年3月、原子力に関する予算を国に提出。原発の燃料になるウラン235にちなみ、その額は2億3500万円でした。 日本における原子力開発の歴史が、こうして幕を開けます。そして1955年には原子力の平和利用を定めた「原子力基本法」が制定され、翌年には原子力政策の最高決定機関として原子力委員会が発足します。同年1956年、同委員会が発表したのが「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」です。[*3] この文書には、注目すべき一文があるんですね。「わが国における将来の原子力の研究、開発および利用については、主として原子燃料資源の有効利用の面から見て増殖型動力炉がわが国の国情に最も適合すると考えられるので、その国産に目標を置くものとする」――表現は「増殖型動力炉」となっているものの、戦後間もないこの時期、すでに高速増殖炉の国産化を目標に据えていたことがわかります。 この姿勢は1967年版の「長期計画」で明確に打ち出され、国家プロジェクトとして強力に推し進められていくことになるんですね。[*4] ちなみにこの「長期計画」では、「昭和60年代の初期」――つまり1985年から数年内を、高速増殖炉の商用化時期としています。つまり、計画どおりに進んでいれば、今ごろ高速増殖炉による発電が行われていたとしても、おかしくないんですよ。 ◇「もんじゅ」トラブルの歴史 ――でも、2012年に至るまで、高速増殖炉は実用化されていませんよね。これはなぜですか? 津田:原発開発では、実際の発電に使えるようになるまで、5段階のステップを踏む必要があります。問題のもんじゅはその第3ステップにあたる「原型炉」という位置づけで、問題なく発電ができるかどうかを確かめることをその目的としています。1985年にも実用化を、と言っていたはずなのに、それから30年近く経った今も、なぜ完成する気配がないのか――高速増殖炉の実現には、さまざまな新技術の開発が必要になるんです。そこが難航している側面が少なからずあるでしょうね。 ――もんじゅはいつもトラブルに見舞われているという印象があります。今までのあゆみを簡単に教えてもらえますか? 津田:そう、もんじゅの歴史はトラブル続きなんですよ。1967年、運営母体である「動燃」(現・日本原子力研究開発機構)[*5] が設立され、もんじゅの建設が始まりました。そして1994年、事実上の稼働といえる臨界状態に達した、と。 ところが翌1995年、思わぬ事故が起こったんですね。原子炉の冷却に使われるナトリウムが、配管から漏れ出していたんです。ナトリウムは水分に触れると爆発してしまう危険な物質なんですよ。 動燃側としては当然、この事件をおおごとにしたくありません。それでマスコミ対応にあたった職員に隠蔽・捏造などの工作を強要し、一人を自殺に追い込んでしまったんです。 その後、同様の事故に備えた対策工事を行い、2010年5月になってようやく運転を再開したものの、その直後に燃料漏れ検出機器の誤作動が6回にわたって発生。[*6] 同年8月には、再び大きな事故に見舞われます。原子炉容器内に重さ3.3トンの炉内中継装置を吊り上げる作業中、これが落下してしまったんです。この事故の影響で、もんじゅは運転を停止しました。[*7] 2011年に入っても事態は変わらず、同年2月に入ってからは、「復旧には約13億8000万円かかる」「いや、17億円だ」などの報道が相次ぎました。この金額が報道機関によってブレていたのですが、いずれにしても、復旧には巨額の費用がかかると見られていました。 そして同月、この装置を担当していた職員が、福井県敦賀市の山中で自殺します。もんじゅをめぐるトラブルで、2人目の自殺者を生んでしまったのです。 結局、日本原子力研究開発機構が事故前の状態に復旧したと発表したのは、今年8月8日になってから。かかった費用は総額で約21億円でした。[*8] もんじゅの歴史を改めて振り返ってみれば、初臨界を記録した1994年から現在までの18年間で、まともに発電できた期間は、わずか4か月とも言われています。[*9] 1日の維持費だけで、1日5500万円もかかるというのに。[*10] なお今年3月、もんじゅは今年度の電気料金を一般競争入札で公募し、13億8638万円で北陸電力と契約を結びました。つまり、もんじゅの維持にかかる電気料金は、1か月あたり1億円以上。発電のための研究施設のはずなのに、発電はほとんどせずに電気を食ってばかり……って皮肉な話ですよね。 ちなみに、仮にもんじゅを再稼働させ、高速増殖炉の実用化を進めていくとしたら、その実現は2050年にごろなるだろうとされています。これまでの経緯を見ていると、それも楽観的な予測のように思えてきますけど。[*11] ――2050年……! ずいぶん先の話ですね。 津田:しかも、高速増殖炉本体だけじゃなく、ほかの部分もいろいろ難航しているんですよ。 高速増殖炉には、「MOX燃料で発電し、使用済みの燃料を再処理して、また新たに使う」という前提がありますよね。「核燃料サイクル」と呼ばれるこうした一連のサイクルを回していくには、使用済み核燃料を再処理する工場が必要です。でも、肝心の工場がまだできていないんですよ。 青森県六ケ所村で建設中のこの工場は当初、1997年には完成する予定でした。しかし、溶融炉でトラブルが続発し、現在までに19回も予定を延期しています。本当ならば今夏にもできあがるはずだったんですけれど、この9月18日、運営会社の日本原燃が「来年10月に完成予定を延期する」と青森県に届け出たばかりです。[*12] 相次ぐ建設予定の延期で、建設費は当初想定していた7600億円の約3倍、2兆1930億円に膨らんでいます。 ◇核のゴミが行き場を失う ――「再処理工場がまだできていない」ということは、日本の原発から出た使用済み核燃料は、リサイクルされていない、ということなのでしょうか? 津田:いいえ、イギリスとフランスに運んで再処理してもらっています。 ただ、イギリスでも、日本の原発を大口顧客としていたセラフィールド工場は2011年8月3日、「日本の電力会社の計画が不透明になった」として工場の閉鎖を発表しました。[*13] 優良顧客だった浜岡原発の運転停止が引き金になったとされています。 一方のフランスでは、日本の「革新的エネルギー・環境戦略」発表に先立って、「原発ゼロを目指すなら、再処理は不要になるんじゃないの? そうなったら、うちに委託している使用済み核燃料は引き取ってくれるんでしょ?」と日本に詰め寄ってきています。[*14] ――日本が「原発ゼロ」を目指すなら、「原発から出た使用済み核燃料を再処理して使い回す」という核燃料サイクルを推進する必要がなくなる。そうなれば、日本から来た核のゴミが自国に残されてしまうかもしれない――フランスはそう懸念したんですね。 津田:はい。事情は先ほど話した六ケ所村でも同じなんですよ。まだ再処理工場はできていないものの、現地ではすでに全国の原発から2919トンもの使用済み核燃料を受け入れていて、燃料プールのおよそ97%が埋まっている状態です。[*15] 仮に核燃料サイクルがご破算になったら「最終処分場」として、引き取り手のない核のゴミを村、そして青森県が背負わされるかもしれない。それは、どういうことか。青森県は、再処理工場やMOX燃料工場がある六ケ所村とは別に、原子力発電所から出る使用済み核燃料を一時的に保管しておく「中間貯蔵施設」をむつ市に建設中なんです。[*16] 中間貯蔵施設は、六ケ所村で試験中の再処理工場、MOX燃料工場とともに核燃料サイクルを継続していくうえで不可欠な存在。つまり、青森県は核燃料サイクルと一心同体――核燃料サイクルに依存することで、リスクとともに原発マネーを得ている。 だから、原発ゼロ、そして核燃料サイクルが見直されることになった場合、これまでの苦労がムダになるばかりか、今まで作ってきた核燃料サイクルのための施設が、なし崩し的に核のゴミを埋めておくための最終処分場に転用されるかもしれないという恐怖感があるんですね。 そこで六ケ所村は、「革新的エネルギー・環境戦略」の発表に先立つ9月7日、こう決定したんですよ。仮に政府が核燃料サイクルを撤回すれば、新たな使用済み核燃料を受け入れず、現在貯蔵している使用済み核燃料を全国の原発に送り返します――とね。 ――政府に対して六ケ所村がそう主張することの裏にはどんな狙いがあるんでしょうか。 津田:まず押さえておかなければいけないのは、もし六ケ所村、そしていずれ完成するむつ市の中間貯蔵施設で使用済み核燃料を受け入れてくれないとなったら、いずれ日本には使用済み核燃料の置き場所がなくなってしまうという事実です。日本の原発は今、使用済み核燃料の置き場所をめぐる問題に悩まされているんです。 各原発には、使用済み核燃料の燃料プールがあります。使用済み核燃料は信じられないほど高温になっているので、燃料プールで3~5年ほど寝かせ、十分に冷却してから再処理に回す。 六ケ所村が受け入れてくれないとなったら、各原発はしばらくの間、自分たちの燃料プールに使用済み核燃料を保管しておかなければなりません。でもこのまま行けば、どの原発も、あと数年で容量が満杯になってしまいます。[*17] そうなれば国内の6割に上る原発が、運転不可の状態に陥るんですね。 だから、六ケ所村が「現在貯蔵している使用済み核燃料を全国の原発に送り返す」と言ったのは、いってみれば膨大な使用済み核燃料を引き受けてることをタテにした「脅し」ですね。そんなことをされたら国も困るし、電力会社も困る。だから、今回の「革新的エネルギー・環境戦略」には、「核燃料サイクルは中長期的にぶれずに着実に推進する」と明記されたんですよ。 ――使用済み核燃料がいっぱいになると、原発が動かせなくなるんですね。燃料プールで放射能漏れのような恐ろしい事故が起こる可能性だってゼロじゃないだろうし――。 津田:燃料プールの危険性は、福島第一原発事故の時にも注目されましたね。今でも4号機の燃料プールには1331本の使用済み核燃料と、使用前の新燃料202本が保管されており、予断を許さない状況が続いています。だからアメリカでは、使用済み核燃料をそのまま保存する「乾式貯蔵」という方法に移行する決断を下しています。[*18] ――現状、日本では、使用済み核燃料が溜まっていく一方だと。 津田:もんじゅもきちんと動かず、とっくに完成予定だった六ケ所村の再処理工場は延期を繰り返し、それでも国が何とか維持しようとしている核燃料サイクルですが、仮に両者が正常に動いたとしても、再処理工場などで出た高レベル放射性廃棄物を地盤が安定した地層の下で保管する最終処分場の設置場所が決まらないと、核燃料サイクルは完成しないんです。でも、現時点では最終処分場の設置場所のメドはまったく立っていない――これこそが「原発はトイレのないマンションと同じだ」と言われるゆえんです。 ――最終処分場の設置場所はなぜ決まらないんでしょう? 津田:原発以上に住民の反対感情があるからです。最終処分場は、原子力発電環境整備機構が窓口となって探していますが、彼らの試算によれば、処分場を受け入れる自治体と近隣自治体が受ける経済効果は総計2兆8700億円と非常に大きい。にもかかわらず、最終処分場を誘致しようと手を挙げる自治体は今のところ見当たらないんです。[*19] 東日本大震災関連のがれき受け入れ問題でも表面化しましたが、そもそも普通のゴミ処理場や、産業廃棄物の処理場は、作る際にだいたい地元から強烈な反対運動が起きます。「ゴミの側では暮らしたくない」という素朴な感情や、「ゴミから発生する有害物質などによる健康被害が怖い」という感情があるんでしょう。普通のゴミですらそうなのに、使用済み核燃料となると、近寄っただけで即死するほどの放射能を放出する「高レベル放射性廃棄物」です。それを埋めるわけですから、地下とはいえ、多くの住民にとっては「かんべんしてくれ」となるのは当たり前の話です。 実は2007年、高知県東洋町の町長が最終処分場の書面調査検討をするなど、候補地が出たことはあるんですが、住民の反対感情が大きく、町長はその後の選挙で落選し、話は立ち消えになりました。 福島第一原発事故以前でさえそんな状況ですから、あれだけの事故を引き起こした3.11以後、最終処分場の候補地として手を挙げる自治体は、当分の間、出てこないでしょう。福島第一原発事故が起きたせいで、より「トイレ」が作りにくくなったんです。 ◇使用済み核燃料と核兵器は同じ? ――使用済み核燃料がいっぱいになると、原発が動かせなくなるんですね。放射能漏れのような恐ろしい事故が起こる可能性だってゼロじゃないでしょうし……。 津田:使用済み核燃料をめぐっては、さまざまな派生問題があります。 先ほどお話ししたように、高速増殖炉では、ウランとプルトニウムを合わせたMOX燃料を使っているんですね。その使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して加工すれば、核兵器が作れる。 「使用済み核燃料=姿を変えたプルトニウム」。これを大量に保有していると、ほかの国から「日本は核兵器を作ろうとしているのではないか」と疑われるおそれがあるんです。だから、使用済み核燃料はイギリスやフランスに送ってでも再処理し、MOX燃料にしなければなりません。 だけど高速増殖炉は、まだ実用段階になっていないから、そのMOX燃料も溜まりがちになります。これを何とかしないと、外交的にいろいろ問題あるじゃないですか。 そこで始まったのが「プルサーマル計画」なんです。本来なら高速増殖炉でしか使えないMOX燃料を、普通の軽水炉で無理やり使う――そうすれば溜まっているものが消化できるし、対外的にもカッコがつくでしょ、と。 でもプルサーマルを行うには、ものすごいお金がかかるんです。政府が試算したところでは、9000億円分のMOX燃料を作るのに、12兆円かかるといいます。[*20] しかも、安全性にも疑問符がつくという……。 なお、原子力委員会が2011年11月10日に発表した「核燃料サイクルコスト、事故リスクコストの試算について」という資料によると、1kW時あたりの処理費は、プルサーマルの場合が約2円。通常どおりの燃料を使った場合が約1円となっています。[*21] ――えーっ! いち消費者からすると「アホらしい」としか言いようがありません。だって、プルサーマルによって無駄なコストが発生し、、私たちが支払っている電気料金に跳ね返っている、ってことじゃないですか。 津田:はい。日本の電気料金は、発電にかかったお金はすべて消費者に請求でき、一定の利益を上乗せしてOKという「総括原価方式」で決まっています。プルサーマル計画の費用も当然、僕らが支払わなければなりません。 ただ、こうした問題を消費者的な視点のみで捉えると、重要な点を見失ってしまうんですよね。これって要は、外交にもかかわってくる話なんですよ。 使用済み核燃料を大量に持っていると、核兵器を作るんじゃないかと疑われます。そして実を言うと、使用済み核燃料の再処理技術は、核兵器製造技術とほぼ同じ。こう見ると、核燃料サイクルそのものが、ちょっと違った色彩を帯びてきませんか? そこで、「日本が核燃料サイクルにこだわる理由はエネルギー自給だけじゃない、潜在的な核兵器の製造能力を持っていたいからなんだ」と主張する人たちも中にはいるんです。 たとえば読売新聞は2011年9月7日、同紙の社説で次のように主張しました。「日本は原子力の平和利用を通じて核不拡散防止条約(NPT)体制の強化に努め、核兵器の材料になり得るプルトニウムの利用が認められている。こうした現状が、外交的には、潜在的な核抑止力として機能していることも事実だ」と。[*22] 脱原発の動きが高まってきた今、読売新聞に限らず、原発の意義を語る人たちが現れ始めています。自民党の石破茂議員なんてまさにそうですよね。[*23] でもね。日本はNPTに加盟している以上、核兵器は持てないわけです。インドやパキスタン、イスラエルのように非加盟ならば別ですが、加盟している以上、実際に核兵器として転用するには、北朝鮮のようにアメリカと対立することも辞さない覚悟でNPTを脱退しなければならない。 ただでさえ鳩山政権の普天間基地移設問題でアメリカと揉めてる日本にそんなことできるの? って話で、そんな状況下でどこまでこれが抑止力になるのか。 安全保障という意味でいえば、日本には54基も原発があり、軍事攻撃の標的にされる可能性もある。いくら核武装がすぐにできるといっても、これだけ数が多くて、自然災害で破壊されてしまうような原発を核武装の観点から推進していくのは、外交的にも安全保障的にもリスクが大きすぎるのではないでしょうか。 ◇核燃料サイクルは、そう簡単に止まらない ――核燃料サイクルは、さまざまなレイヤーで難しい問題をはらんでいるんですね。 津田:高速増殖炉って、むちゃくちゃ実用化が難しいんですよ。それは原子力の国際潮流が示している。先ほども言ったとおり、原子炉の冷却にナトリウムを使うぶん、普通の原子炉よりも危ない。だから、高速増殖炉の実用化を前提としている核燃料サイクルは、そう簡単にうまくいくはずがないんです。 全104基の原発を保有する原発大国・アメリカも、核燃料サイクルはあきらめました。フランスでも高速増殖炉の実用化を狙い、開発ステップ全5段階のうち4段階目まで突き進んだのですが、「採算合わないよ、危ないし」ということで止めました。 全世界を見渡せば、高速増殖炉を稼働させている国も一部にあるものの、「原発大国」と呼ばれるところはだいたい撤退しているという状況。それをやっていないのは日本だけです。原発推進派であっても、話がひとたび核燃料サイクルやもんじゅに及んだ途端「いや、あれはダメでしょ、はやく潰しちゃったほうがいい」なんていう人も結構います。自民党の河野太郎議員は「僕は『反原発』じゃない、『反核燃料サイクル』だ」[*24] と言っていますが、あれは、そういうことなんですよ。 福島第一原発の事故後、核燃料サイクルについての情報もメディアで大きく取り上げられるようになり、日本人の中でもようやく「やっぱ核燃料サイクルは無理だろ」と思い始める人が出てきた。 だけど、それを認めてしまうと、核燃料サイクルを前提にしていたシステムが崩れてしまう。9月14日にエネルギー・環境会議が発表した「革新的エネルギー・環境戦略」では、「原発ゼロ」と「核燃料サイクルの推進」の両方が盛り込まれましたが、この2つは同時に成立しない――そもそも矛盾しているわけです。 経産省の役人や、マスコミの経済部の記者たちは9月14日の同戦略に「核燃料サイクルの推進」が盛り込まれていた時点で「2030年代の原発ゼロは現実に達成させなくてもいい努力目標」――骨抜きになることを予想していました。 東京新聞の9月22日付記事のように、原発ゼロ方針を閣議決定しなかった背景にアメリカの意向があったとする意見もありますが、[*25] 「政府は9月14日に原発ゼロという方針を示したのに、経済界や米国の圧力に政府が屈して方針を転換、骨抜きにした」という物言いは、僕は大きな視点で見れば、間違っていると思います。 政府が本気で2030年代の原発ゼロを目指すのなら、核燃料サイクルやもんじゅに対しても、何らかの見直し、縮小の見取り図を示さなければいけなかった。というか、そうしないと整合性がとれない。そこの部分にメスを入れられなかった時点で、政府は圧力で「変節」したのではなく、「原発ゼロ」にする気が初めからなかったんだと思います。 別の言い方をすれば、わずか1年の議論では、とてもじゃないけど、めちゃくちゃ複雑なこの問題に結論を出せなかったということなのかなと。 ――核燃料サイクルを断ち切ることは、果たして可能なのでしょうか? 津田:これには電力会社の経営問題がからんでくるから、さらに話がややこしいんですよ。 原発を持っているのは、電力会社です。彼らは使用済み核燃料の再処理なんて、やりたくなかったんですよ。だって、実現するかどうかわからない高速増殖炉を前提にした計画なわけだから。だけど、最終的には協力することになった、と。 で、「再処理を行う」という前提になると、電力会社にとって使用済み核燃料はどんな位置づけになるか? 一度使っても、再び燃料として使えるから、「資産」になるんです。 けれど、仮に核燃料サイクルを止めると決まって、「もう使用済み核燃料は再処理しません」となったとしたら、資産だったはずのものが、一気に「負債」になってしまう。財務状況が悪化してしまうんですよ。これも、電力会社的には大きな問題です。[*26] 電力会社が原発をやめない一番大きな理由は彼らの財務的な問題にある、という指摘は一貫して経済学者の金子勝慶應義塾大学教授がしていますね。[*27] そのあたりは彼の『原発は不良債権である』(岩波ブックレット)[*28] という本で詳しく書かれているので、興味がある方はご一読を。 ◇日本の最終処分地はどこに? ――結局、原発をゼロにできるかどうか、もんじゅがどうなるかというのは、「使用済み核燃料の処分をどうするんだ?」というところが根底にある問題なんですね。 津田:そうです。再処理の道を選ばないとしたら、どういう解決策を取るか――使用済み核燃料に含まれる放射性物質がなくなる期間にはいろいろな説があって、「10万年」から「100万年」まで、人によって結構、バラつきがあります。 いずれにしてもそんな長期間、人間が地上で管理するなんて、絶対に無理じゃないですか。抜本的な解決を図るなら、地中に埋める「直接処分」しかない。日本以外の国々も、「使用済み核燃料は再処理せず、そのまま埋める」という方向にシフトしています。 ただ、使用済み核燃料を埋めさせてくれる土地なんて、そう簡単には見つかりません。先ほど地元の反対が強いという話はしましたが、それだけじゃなく環境的な要因も重要になるからです。 事故が起きないよう、何十万年も動かない安定した地盤でないといけないし、地下水などを汚染するおそれのある場所はもってのほか。地質学者に言わせれば「10万年後、日本は今の形をしていない。だから日本には何十万年も動かない安定した地盤なんてない」なんて笑い話もある。いや、最終処分を考えると笑えないんですけど……。[*29] 「埋めちゃえ」というのは簡単だけど、じゃあどこに埋めるの? っていう問いがわれわれに突きつけられてる。正直な話、もう日本の核燃料サイクルは「詰んでる」んです。だからこれは、原発をどうするかという話とは別に議論しなきゃいけない。 そして、今は口に出す人は少ないですけど、このまま行くと恐らく最終処分場は、現在立ち入り禁止区域になっている福島第一原発から20km圏内に作るという話にならざるを得ない。原発をゼロにしようが、核燃料サイクルや原発を推進しようが、核のゴミが出ることは不可避です。つまり、どこかのタイミングで最終処分場は作らなきゃいけない。地元の反対で候補地が決められないなら「地元」住民が存在しない福島第一原発の20km圏内に作るという選択肢しかなくなっていくんじゃないかと。 ――いや、でもそれは今避難している20km圏内の住人にとっては承服しがたい話ですよね。 津田:放射性物質のせいで故郷を奪われ、そのうえそんなリスクを抱えさせられることにとなるとね……。ただ、現実的に大熊町、双葉町、富岡町、楢葉町といった20km圏内の町の空間放射線量は1年半経った今も非常に高い。[*30] 楢葉町の一部など、放射線量が低く立ち入り禁止が解除された地域もありますが、大熊、双葉、富岡の住宅街などではまだ5マイクロシーベルト毎時以上であるところが多いです。5マイクロシーベルト毎時で年間43.8ミリシーベルトなので、数年暮らすと、一般的に健康に影響が出はじめるといわれる100ミリシーベルトを超える。除染にも限界がありますから、少なくともあの地域に住んでる人があと2~3年で戻れるということは現実的には考えにくい。 実際、今避難している人たちの中で、元の居住地に戻りたいのは高齢者が多く、子どもなどがいる若年層は放射線の影響を考慮して、戻ることより新しい場所での生活を求めている人が多いことが避難住民へのアンケートで明らかになっています。[*31] 放射線量が下がらないまま、あと20年も経過すると、帰還の意思を示している高齢者たちが亡くなり、新天地で暮らす人たちが増える。ほとぼりをさまして、帰還の意思をもった住民がいなくなったタイミングで最終処分場を――と考えている政治家や官僚は多いと思います。もちろん、最終処分場を作るには、地盤の問題とかがありますから、そこまでしても作れないといった可能性はあるわけですが……。 根本的な話として、直接処分に最適な候補地なんて日本に限らずなかなか見つからないんですよ。去年このメルマガのvol.16で『100,000年後の安全』[*32] という映画を撮ったマイケル・マドセン監督にインタビューしたことがありました。あの映画は、フィンランドに建設中の使用済み核燃料の最終処分地「オンカロ」をテーマにしたドキュメンタリーです。あそこが唯一、世界で動き出している直接処分の現場なんですよ。 ――世界で1つしか事例がないんですね。そして、直接処分を行うにしても、すぐに着手できるわけではないと……。日本は使用済み核燃料とどう付き合っていけばよいのでしょう? 津田:これまで見てきたとおり、使用済み核燃料をどうするかは、日本にとって大きな課題です。そこで原子力委員会は科学者で構成される「日本学術会議」という組織に「提言をまとめてほしい」と依頼したんですね。 2010年9月16日、同組織は「高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会」を発足させ、検討を行ってきました。福島第一原発事故をきっかけに日本の原子力政策が揺らいだこともあり、予定よりも審議は長引いたものの、2012年9月11日にようやく結論がまとまりました。[*33] 彼らの回答によると、使用済み核燃料の処分をめぐり、日本は政策を抜本的に見直す必要がある、と。そして、これまでの政策枠組みが行き詰まりを示している理由の一つは「大局的方針についての国民的合意が欠如したまま、最終処分地選定という個別的な問題が先行して扱われてきたことである」とし、国民が納得する原子力政策の大方針を打ち出すべきだとしています。 そして「総量確定」と「暫定保管」という二つの軸で処分を考えるべきだと結論しているんですよ。脱原発を決めたスウェーデンでは、撤退時期を明らかにすることで、これから出る使用済み核燃料の総量が確定し、最終処分地について話せるようになった、と。ただ、最終処分地を決めるには、当然長い時間がかかります。ですから、それが決まるまでは、地上のどこかで暫定保管するモラトリアム期間が必要になる。 そして、暫定保管場所や最終処分地の決定に際しては、住民との合意形成――「コミュニケーション」が重要であるとしています。今まで原発のような電力開発では、「電源三法」と呼ばれる法律に基づき、地域に交付金をばらまいてきました。今までのやり方は、ふさわしくない、と。これはもっともな意見ですよね。 今この時期にこういうまともな提言が出てきたのは非常に注目すべきことだと思うんですが、あまりこの提言はマスメディアではウケが良くなかったようで「国の会議も核廃棄物処分はお手上げ」「問題の解決を先送りする内容」という単純な報道が多かったみたいですね。こういう膨大な報告書を即座に読み解き、マスメディアよりも深い考察を加えるメディアを作らないと、いつまで経ってもわれわれはスウェーデンのように先に進むことができない気がします。 ◇日本は脱原発できるのか ――まっとうな手段で抜本的な解決をするとしたら、合意形成に時間がかかるわけですよね。短期的な見通しはどうですか? 津田:核燃料サイクルに利害関係を持つ登場人物が複数いる以上、使用済み核燃料の再処理を止めるのは難しいでしょうね。事実、核燃料サイクルと相容れなかった「原発ゼロ」の方針が翻されたことで、新しい原発と核燃料サイクルを推進する動きが出てきています。 枝野幸男経済産業相は9月15日、現在建設中の原発3つについて、建設継続を認める考えを示しました。[*34] うち一つ、青森県で建設中の大間原発は、「軽水炉なのにフルMOX燃料対応している」という世界初の原子炉で、プルサーマルを念頭においているんですよ。[*35] そして、平野博文文部科学相は9月18日、もんじゅがある福井県の西川一誠知事と会談し、「(もんじゅについて)従来の政策を大きく変更しているつもりはない」と述べました。[*36] 「革新的エネルギー・環境戦略」では、もんじゅの実用化を断念する、と宣言しているはずなのにね。もんじゅについては、文科相と経産相、そして福井県知事の三者で協議を行ったうえで、今後の研究開発予定を具体的に決めていく方針となっています。[*37] そして、9月19日に開かれた閣議において、政府は「革新的エネルギー・環境戦略」を「参考文書」と位置づけ、閣議決定を事実上見送りました。日本政府は、方針として原発と核燃料サイクルを維持し、当面の間、すべての問題を「先送り」することを決めたのです。 ――国のエネルギー・環境政策の礎(いしずえ)となるはずだった戦略が、なぜここに来て骨抜きになってしまったのでしょう? 津田:エネルギー・環境会議の出した「原発ゼロ」という結論は、まず経済産業省の有識者による審議会で、2030年の電源構成における原発の比率別に選択肢を絞り、それを受けて国家戦略室が「0%」「15%」「20~25%」の3つを提示したという流れがあります。[*38] そして、今年7月には「国民的議論」が必要だとして、各地で意見聴取会とパブリックコメント、そして討論型世論調査を行い、結果はいずれも原発ゼロの要望がトップになりました。 経産省の官僚と政府は、「松竹梅」を提示したら、多くの人が「竹」を選ぶ――そんな日本人の特性を考えて「0%」「15%」「20~25%」を提示し、15%を選ばせたいとの思惑があったんでしょう。 しかし、大飯原発再稼働のプロセスのひどさなどが目立つようになり、官邸前デモも日増しに激しさを増し、8月以降世論調査などでも0%を選ぶ層が拡大していきました。 政府と官僚、そして経済界にとっても、この結果は予想外だったでしょう。事故から1年という「ほとぼりが冷めていると思われるタイミング」でこれですから。安保闘争以来の大規模デモが起き、最終的にマスメディアも取り上げるようになった。もしかしたら、事故直後の1年半前よりいまのほうが、反原発の機運は高まっているかもしれませんね。 15%――「『縮原発』が国民の選択」という結果を導き出せれば、核燃料サイクルの維持も一緒に盛り込める。政府と官僚が最初に描いた地図は「縮原発・核燃料サイクル維持」で、それを今後の国家戦略として使っていくつもりだったのでしょうが、思った以上に原発への忌避感が強く、3つの調査で圧倒的に原発ゼロが勝ってしまった。 「国民の意見は圧倒的に0%が多かったですけど、こちらの勝手な都合になりますが、15%で行きます」とか言ったら、それはもうなんというか、大荒れが目に見えてますよね。何のために高いコストをかけて3つも調査やったのかって話になるし、民主党としても選挙が近いから、それは避けたかった。だから彼らは「国民の声を受けて0%にしたけど、核燃料サイクルは維持」という矛盾した結果を出さざるを得なくなり、本来は国家戦略として使うはずのもののランクを落として、「努力目標」に格下げしたわけです。 だから「骨抜きになった」のではなく、「最初から骨はなかったのに、あると思って期待していたから、裏切られたように思う人が多かった」ということが、この問題の本質だと僕は思っています。 ――結局日本で脱原発をするのは無理なんでしょうか……。 津田:原子力には、世界各国のパワーバランスやエネルギー安全保障の問題がからんできて、必ずしも一筋縄で解決できるものではありません。いかに日本人の多くが脱原発を望んでいても、現実的に2030年代までに原発をゼロにするのは難しいでしょう。 だからといって目指すなという話ではなく、僕はいくら困難な道であっても、原発ゼロを目指すべきだと思っています。 とはいえ、原発の問題点だけ批判していても状況は変わりません。再生可能エネルギーが今後どれだけ伸びたとしても、です。本丸は、すでに「詰んでる」状態の核燃料サイクルをどう穏便に終了させられるか。その道筋を整えない限り、脱原発は夢のまた夢で終わるんでしょうね。 [*1] http://www.jaea.go.jp/04/monju/index.html [*2] http://www.kantei.go.jp/jp/topics/2012/pdf/20120914senryaku.pdf#page=7 [*3] http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/tyoki1956/chokei.htm [*4] http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/tyoki1967/chokei.htm [*5] http://www.jaea.go.jp/ [*6] http://www.47news.jp/CN/201005/CN2010050901000219.html [*7] 当時の事故対応の検討に関する資料が日本原子力研究開発機構のサイトに上がっている。http://www.jaea.go.jp/04/turuga/jturuga/press/posirase/1101/o110118-2.pdf [*8] http://mainichi.jp/select/news/20120809k0000m040067000c.html [*9] 『さようなら、もんじゅ君』(河出書房新社)の記述による。 [*10] http://www.kobe-np.co.jp/shasetsu/0004622023.shtml [*11] http://news.livedoor.com/article/detail/4610379/ [*12] http://www.asahi.com/national/update/0919/TKY201209190168.html?ref=dwango [*13] http://www.47news.jp/CN/201108/CN2011080301001231.html [*14] http://mainichi.jp/select/news/20120914k0000m020098000c.html [*15] http://www.asahi.com/national/update/0919/TKY201209190168.html [*16] http://www.nikkei.com/article/DGXNASGG09005_Z00C10A9000000/ [*17] http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2012090402000109.html [*18] http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/hatukaku/siryo/siryo8/siryo3-1.pdf#page=12 [*19] http://www.nikkei.com/article/DGXNASGG09005_Z00C10A9000000/?df=2 [*20] http://eco.nikkeibp.co.jp/article/report/20110608/106639/ [*21] http://www.aec.go.jp/jicst/NC/about/kettei/seimei/111110.pdf [*22] http://mytown.asahi.com/aomori/news.php?k_id=02000571202090001 [*23] http://news.livedoor.com/article/detail/5879286/ [*24] http://blogos.com/article/23643/ [*25] http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2012092202000098.html [*26] http://seiji.yahoo.co.jp/m/article/20120530-01-0901.html [*27] http://blog.livedoor.jp/kaneko_masaru/archives/1668580.html [*28] http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4002708365/tsudamag-22 [*29] 原子力発電環境整備機構(NUMO)が発表した資料を見ると、各国とも十分な検討を行ったうえで、直接処分の候補地を定めていることがわかる。http://www.numo.or.jp/pr/booklet/pdf/anzensei_10.pdf#page=4 [*30] 大熊町→http://www.town.okuma.fukushima.jp/rad_20120912.html 双葉町→http://www.town.futaba.fukushima.jp/oshirase/genshiryoku/23.html/ 富岡町→http://www.tomioka-town.jp/?p=5769 楢葉町→http://www.naraha.net/?p=1222 [*31] http://blog.goo.ne.jp/tarutaru22/e/5428d034a4a01ae11d55d1c01b7c7450 [*32] http://www.uplink.co.jp/100000/ [*33] http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-k159-1.pdf [*34] http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2012091602000116.html [*35] http://www.jpower.co.jp/bs/field/gensiryoku/project/aspect/mox/attribute/index.html [*36] http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20120918-OYT1T00647.htm [*37] http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/fukui/news/20120918-OYT8T01665.htm [*38] http://www.npu.go.jp/policy/policy09/pdf/20120629/20120629_1.pdf -
アップル固有端末IDの流出から見えてくるスマホのプライバシー問題──津田大介の「メディアの現場」より
2012-09-19 14:00この記事は、津田大介の「メディアの現場」vol. 45 より『今週のニュースピックアップ ──アップル固有端末IDの流出から見えてくるスマホのプライバシー問題』を全文掲載したものです。 9月5日、「アップルの顧客情報1200万件がハッカー集団によって盗み出され、流出する」というニュースが全世界を流れました。[*1] 犯行声明を出したのはハッカー集団「アノニマス」の関連組織「アンチセック」。ハッカー集団は何を目的として顧客情報を盗み出したのか。アップルユーザーはこのようなハッキングに対して自衛する手段はないのか。今回はアップルのハッキング問題を考えます。 -
【ワセジョ論とコンビニおにぎり批評】津田大介の「メディアの現場」特別号外ブロマガ編vol.2
2012-09-18 15:56220pt津田大介さんのブロマガ内生放送「津田ブロマガeXtreme(エクストリーム)」が、2012年8月27日にスタートしました。アシスタントは、津田さ んがメインパーソナリティを務めるJ-WAVEの報道番組『JAM THE WORLD』にも出演している高橋杏美さんです。その放送内容の書き起こし記事を特別号外として、ブロマガ読者限定でお届けします。(企画・制作:ドワン ゴ) -
【アップル固有端末ID流出、その問題点とは】津田大介の「メディアの現場」vol.45
2012-09-17 17:00220pt━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
津田大介の「メディアの現場」
2012.9.12(vol.45)
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《目次》
1.今週のニュースピックアップ
――アップル固有端末IDの流出から見えてくるスマホのプライバシー問題
2.メディア/イベントプレイバック
――再生可能エネルギー全量買取制度の問題点とは
3.今週の原発情報クリッピング
4.津田大介のデジタル日記
5.140字で答えるQ&A
Q1:今秋、メディア業界に異変が起こる?
Q2:津田の原発問題に対するスタンスは?
Q3:麻生太郎元総理の政治手腕をどう評価する?
Q4:就活生ならではの津田マガ活用術は?
Q5:那須へ転勤……地元の食材を食べて大丈夫?
6.メディア・イベント出演、掲載予定
7.MIAUからのお知らせ
8.速水健朗の「本を読まない津田に成り代わってブックレビュー」《第28回》
――“ファスト風土”青春小説『ここは退屈迎えに来て』を読む
9.@sammy_sammyの週刊有料メルマガレビュー《第23回》
10.プレゼントコーナー
『池上彰と考える、仏教って何ですか?』/『踊ってはいけない国、日本』
/マグネシウム製名刺入れ/iPhone4/4S用ケース
11.ネオローグユニオン
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【西海岸で働く日本人:女優・菊地凛子編】津田大介の「メディアの現場」号外その7
2012-09-14 21:47220pt◆「アメリカ西海岸で働く日本人」その7 ──女優・菊地凛子編
1カ月以上にわたってお送りしてきた今回のインタビューシリーズ。最終回に登場していただくのは、女優の菊地凛子さんです。菊地さんにはアメリカ旅行中、知人の紹介で偶然出会いました。2007年、映画『バベル』でアカデミー助演女優賞にノミネートされた彼女は、ハリウッドには留まらずに帰国し、その後もう一度、アメリカに渡ります。現在は日本とアメリカ両方に拠点を持って活動しているという菊地さんの話を聞くうちに、本企画のテーマにぴったりだと感じ、後日、改めて取材を申し込みました。5年前、『バベル』の勢いのままアメリカに残らなかったのは、いったいなぜなのか。帰国後の葛藤やハリウッドに対する挑戦の意気込みなど、菊地さんの素顔が垣間見えるインタビューになったと思います。 -
Tカードは個人情報保護法違反に該当するのか?──津田大介の「メディアの現場」vol.44より
2012-09-13 22:00この記事は、津田大介の「メディアの現場」vol. 44 より『MIAUからのお知らせ ──個人情報保護法における「共同利用」の問題──鈴木正朝先生に聞く』を全文掲載したものです。 こんにちは。メルマガスタッフでMIAU事務局長の香月です。最近ネット上でプライバシーに関する問題が話題になっていますよね。特にCD・DVDレンタル大手のTSUTAYAを経営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下CCC)が運営するTカードに関する問題が一番の話題です。 まずは今回のTカードの仕組みを簡単に整理しましょう。 Tカードとは、TSUTAYAおよび一部提携企業で発行される会員証のことです。登録の際には氏名や生年月日、住所が必要です。TSUTAYAでCDやDVDをレンタルするには、このTカードに加入せねばなりません。またTカードにはポイント機能もついていて、TSUTAYAで購入した金額に応じてポイント(Tポイント)が貯まります。溜まったポイントは次回以降のレンタルで1ポイント1円としてお金の代わりに使用できます。ここまでだと普通のレンタルビデオ屋のポイントカードですが、Tカードの特徴は多彩な提携先があることです。TSUTAYAだけでなく提携の店舗で何か購入したりサービスを受けた時も金額に応じてポイントがつきますし、またそのポイントを使って支払いもできます。 「タダほど高いものはない」とは昔の人はよくいったもので、実はTカードを提示して精算する度に、レンタルしたものや購入したものについての情報がTカードのシステムに送信されています。購買履歴を取得することについては会員規約で示されていますので、Tカードに加入した時点で、会員は購買履歴を取得されることに同意していることになります。 このTカードをめぐって今ネット上で大激論が起きています。この件は大きく分けると以下の3つの話題に収束されます。 ■佐賀県武雄市とカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社が同市図書館 ・歴史資料館の企画・運営に関して基本合意を締結(カレントアウェアネス・ポータル) http://current.ndl.go.jp/node/20784 佐賀県の武雄市立図書館がCCCと提携し、武雄市立図書館をCCCが指定管理者として運営し、その際に図書館カードをTカードに切り替えることを発表しました。市民は図書館で本を借りる度にTポイントを受け取ることができます。図書館での貸出履歴はその人の興味関心を表す個人情報ですし、貸出履歴が思想調査に使用された過去の反省から、図書館はその秘密を厳密に守ってきました。 しかし、この構想の発表当初、貸出履歴がTカードのシステムに送信される仕組みになっていました。図書館関係者や情報セキュリティの専門家、技術者らがその問題を指摘したことで、ネット上で大問題に発展しました。この批判を受けて、武雄市は方針を転換し、利用者が従来の図書館カードとTカードを選択できるようにすること、そしてTカード利用者であっても貸出履歴はTカードのシステムに送信されないようにすることが示されました。 参考:貸し出し履歴提供せず 武雄市図書館、ツタヤ委託(佐賀新聞) http://www.saga-s.co.jp/news/saga.0.2222748.article.html ■「Tポイントツールバー」公開中止 Web閲覧履歴を平文で収集(ITmedia) http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1208/20/news045.html 今年8月、CCCはブラウザに検索機能などの機能拡張を追加する「Tポイントツールバー」をTポイント会員向けに提供を始めました。このツールバーを用いてウェブを検索するとスタンプがたまり、スタンプの数に応じてTポイントが受け取れるというものでした。もちろん検索履歴はTポイントのシステムに送信されているのですが、それだけにとどまらず、なんと利用者のウェブ閲覧履歴まで送信されていました。しかも暗号化通信(SSL通信)も暗号が解かれた状態で送信していたのです。これも情報セキュリティの専門家や技術者らが問題を独自に検証し、ネット上でその問題を明らかにしました。指摘を受けたCCCはTカードツールバーが送信する情報をすべて暗号化通信に変更し、さらにTポイントツールバーの提供を一時的に停止しました。 もちろん、https:// のサイトの閲覧履歴を暗号化せずに送信するのはセキュリティ的に欠陥と言えるのですが、それが本来的問題なのではなく、そもそも本人が十分に理解していないところでネットの閲覧履歴を取得していることが不適切であるということです。本来、プログラムをインストールさせることによって情報を収集する場合、そこに騙しの要素があってはいけません。個人情報保護法17条の「偽りその他不正の手段により」に当たる可能性も議論しなければなりませんし、場合によっては、刑法168条の2の問題を検討することも必要になるでしょう。 ■Tポイント、購入医薬品データを取得 提携先企業から(朝日新聞デジタル) http://www.asahi.com/national/intro/NGY201207160031.html Tカードの特徴として多彩な提携企業の存在がありますが、その提携企業の中にはドラッグストアが含まれています。こうした提携ドラッグストアでTカードを提示して買い物をすると、その商品名がTカードのシステムに送信されることが朝日新聞の報道で明らかになりました。医療機関の処方箋に応じて調剤された薬は「調剤」とのみ送信されるようですが、一般医薬品については具体的な商品名が送信されているとのこと。2000年に開かれた第3回個人情報保護法制化専門委員会で、当時の厚生省は「個人医療情報については、その保護を一層図っていく必要がある」という考え方を示していますが、薬局での医薬品購入情報は医療情報に当たらないのでしょうか。 参考:医療分野における個人情報保護について(首相官邸 情報通信技術戦略本部) http://www.kantei.go.jp/jp/it/privacy/houseika/dai3/3siryou2.html さてここまでの一連の騒動を見て、読者の皆さんはどう感じましたか? 「知らない間に個人情報が抜かれていたのか。怖いな」と感じた方がほとんどだと思いますが、しかし「規約にその旨書いてあって、それに同意して利用しているわけだから、消費者サイドの不注意だ」と考える方も少なくはないようです。確かに言われてみればそんな気もしなくもありません。またこの問題を、昨今の「過剰な個人情報保護」の問題の延長線上に見る方もいるかもしれません。というわけで今日は「Tカード問題のどこが問題なのか」をレポートします。 いろいろなサービスを利用する上で、私たちは企業に個人情報を渡すことがあります。この時に企業に渡したデータの取り扱いは「個人情報の保護に関する法律」(以下個人情報保護法)で定められており、経済産業分野においては経済産業省が定めるガイドラインが示されています。企業が得た個人情報が複数の企業にまたがって利用されることを「第三者提供」といいますが、本人の同意をとることなく個人情報を第三者提供することは法律で禁じられています。しかしこれには例外があって、ある一定の条件を満たせば、本人の同意なく個人情報を第三者提供できる仕組みがあります。 その条件は、以下の4つの条件を本人に通知あるいは本人が簡単にわかる状態にしておき、そして本人から申し出があれば情報の提供を停止するというものです。 1. 第三者への提供を利用目的とすること 2. 第三者に提供される個人データの項目 3. 第三者への提供の手段又は方法 4. 本人の求めに応じて当該本人が識別される個人データの第三者への提供を停止すること この仕組みを「オプトアウト」といいます。このオプトアウトの仕組みを整えておけば、本人の同意なく第三者提供を行うことが可能になります。しかしこのオプトアウトの整備以外にも、個人情報をほかの会社に提供できる例外が個人情報保護法には定められています。それが「委託」「事業の承継」「共同利用」という3つの規定です。今回はこの「共同利用」という仕組みが問題のキーになっているとのことなので、この共同利用について法学者で個人情報保護法がご専門の鈴木正朝先生に聞いてきました。 ◆個人情報保護法における「共同利用」の問題 ──鈴木正朝先生に聞く 鈴木:今回のTカード型の企業ポイントを通じた連携サービスには、いくつか個人情報保護法上の問題を指摘し得るのですが、中でも、解釈上違法ではないかと指摘しているのは「共同利用」という方式を採用してCCCからポイント加盟企業へ個人データを引き渡すことができること、Tカードで取得した個人情報データベースを多数のポイント加盟企業にアクセス権を付与し、みんなで共有して共同利用目的の範囲内でそれらの個人データを取り扱えてしまうことです。実際やっているかどうか、どこまでどのようにやっているかについては調査が必要なところですが、T会員規約(約款)上は、そうした権利をCCCが留保していて、いつでも行使できる状態になっていることを問題視しています。 ■T会員規約(CCC:カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社) http://www.ccc.co.jp/member/agreement/ 香月:ここで指摘されている「共同利用」とは、そもそもどういうものなのでしょうか? 鈴木:たとえば、大きな企業は地域ごとに販売店や保守のための子会社をもっている場合がありますね。そこの顧客は子会社の担当エリアを超えて引っ越したりしますから、同じ商品やサービスを提供しているならば、その企業グループ内で単一の顧客データベースを共有したほうが便利なわけです。しかし、子会社は独立した法人ですから、同じ企業グループ内でも個人データの閲覧は第三者提供となり、事前の本人同意が必要になってしまいます。これは結構煩雑な作業になります。このような場合を一つの典型例として、個人データを共同で利用できるように個人情報保護法は23条4項3号に「共同利用」の規定を置いています。 香月:「共同利用」は親子会社間やグループ企業の中だけで使うものなのですか? 鈴木:いいえ、経済産業分野ガイドラインでは次のような例が示されています。 ■個人情報の保護に関する法律についての経済産業分野を対象とするガイドライン(平成16年10月22日厚生労働省経済産業省告示第4号,平成 21年10月9日改正) http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/privacy/kaisei-guideline.pdf (事例1)グループ企業で総合的なサービスを提供するために取得時の利用目的の範囲内で情報を共同利用する場合(事例2)親子兄弟会社の間で取得時の利用目的の範囲内で個人データを共同利用する場合(事例3)外国の会社と取得時の利用目的の範囲内で個人データを共同利用する場合(事例4)企業ポイント等を通じた連携サービスを提供する提携企業の間で取得時の利用目的の範囲内で個人データを共同利用する場合 Tカードの事例は、まさに(事例4)に該当するわけです。CCCは、多分このガイドラインを参考にして、ビジネスモデルを組み立てたのかもしれません。「第三者提供」(23条1項)やオプトアウト手続(23条2項)ではなく「共同利用」(23条4項3号)という方式を選択したわけです。そのほうが将来のビジネスモデルの変容に柔軟に対応できる、また本人の関与を最小化できるという狙いがあったのかもしれません。もしくは、何も考えていなかったのかもしれません。法務部門や顧問弁護士の力量に依存するところですからね。 香月:23条4項3号には、「個人データを特定の者との間で共同して利用する場合であって、その旨並びに共同して利用される個人データの項目、共同して利用する者の範囲、利用する者の利用目的及び当該個人データの管理について責任を有する者の氏名又は名称について、あらかじめ、本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態に置いているとき」に「当該個人データの提供を受ける者は、前三項の規定の適用については、第三者に該当しないものとする」と書いてあるのですが、一読しても何を言っているのかよくわかりません。「共同利用」という方式を採用するために遵守すべきところをわかりやすく教えていただけませんか? 鈴木:次の5項目をあらかじめ「本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態に置いて」おけばいいということです。「本人に通知」というのは、本人に一人ひとりメールしたり、はがきを郵送するということをいうので結構手間とコストがかかりますから通常は選択しません。一般的には、「本人が容易に知り得る状態」の方を選びます。具体的には、その企業のホームページにアップして広く知り得る状態にするということです。結果的には「公表」と同じ作業になります。 (1)個人データを特定の者との間で共同して利用する旨 (2)共同して利用される個人データの項目 (3)共同して利用する者の範囲 (4)利用する者の利用目的 (5)当該個人データの管理について責任を有する者の氏名又は名称 この5項目をホームページに書いておけばいいということになります。 香月:なるほど。簡単じゃないですか。CCCは、これをやっていなかったんですか? 鈴木:いいえ。この5項目についてはT会員規約に示してありますし、CCCはT会員規約をそのまま自社のホームページ上にアップして公表しています。 香月:では、どこに法的問題があるのでしょうか? 鈴木:はい。今回のTカード問題でまず論点になるのが、(3)共同利用者の範囲です。T会員規約には、共同利用者の範囲は「当社の連結対象会社及び持分法適用会社」と「ポイントプログラム参加企業(TSUTAYA加盟店を含みます)」と示しています。 経済産業分野ガイドライン45頁をみると「本人からみてその範囲が明確であることを要するが、範囲が明確である限りは、必ずしも個別列挙が必要ない場合もある」というように示されています。 持って回った言い方をしていますが、ここの趣旨は、共同利用者の範囲は、第一に個別列挙方式を原則とすること。すなわち、A社、B社、C社とすべて限定列挙することが望ましいということを示しています。第二に、本人から見て共同利用者の範囲の明確性があれば例外的に個別列挙原則を緩和するということが書いてあります。 「当社の連結対象会社及び持分法適用会社」はその定義が明確であり、それが公開され容易に誰もが参照できる状態にあるのであれば問題がありません。問題となるところは、「ポイントプログラム参加企業」という表現です。 ポイント加盟企業というのは、一般に1社からはじまって、2社、3社、……100社、……1000社とどんどん拡大していくものですし、現に拡大しています。これでは、「個人データを特定の者との間で共同して利用する」ことにはなりません。これをして「特定の者」というのは大変苦しい解釈です。実際、T会員規約上で同意した段階では、医薬品販売業まで入るとは思っていなかった人たちもいるでしょう。 そもそも、個別列挙原則を緩和したのは、全国銀行協会など産業界が行政に要望を出したことによります。確かに個別列挙では、共同利用者の範囲があまりに硬直的で、M&Aや企業提携の組み替えが活発な今日の経営環境にはあまりにそぐわない。1社抜けたりはともかく、1社増えたりすると個人情報データベース上の本人全員の同意をとりつけなければならないということになると、まったく非現実的で、共同利用はまったく使えない方式ということになってしまいます。 行政もその要望を受け入れて、例外を認めたわけです。しかし、そこに含意されているものは、あくまでも共同利用者の範囲のコアがしっかり固まっている、増減はあくまでも例外的だというところです。このあたりの原則例外の関係やニュアンスが十分に伝わらなかった。 香月:なるほど。全国銀行協会には銀行しか入会できないから、銀行という縛りが明確にある。自ずと範囲が定まってきますね。増減も例外的で、会員名簿もネットで閲覧できますし、本人から見て個別列挙方式に準じるというところは理解できます。 鈴木:一般にA社からB社に個人データを移行させるための法律構成としては、(1)第三者提供における本人同意手続(23条1項)または(2)第三者提供におけるオプトアウト手続(23条2項)、それから(3)委託(23条4項1号)、(4)事業承継(23条4項2項)、そして(5)共同利用(23条4項3号)といった手続があります。ビジネスの実態とは無関係に自由に選択し法律構成できるわけではありません。A社からB社に個人データを移行するにあたって、それが第三者提供か、委託か、共同利用かは、その事実関係に基づいて決定されるはずです。もちろん法的構成に実態をあわせることも可能ですが。 しかし、CCCはデータベースの共同利用の実態がなく「共同利用」という構成を採用している。本来的意味から言えば流用といっていいわけです。経済産業分野ガイドラインは、いわゆる個人情報保護法の過剰反応によって取扱いが必要以上に萎縮しないよう利活用の有用性にも配慮する必要があります。過剰規制でネットビジネスのイノベーションを阻害してはならないと考えたのですね。そこで、共同利用をもっと使い勝手よくしようと考えたところがあります。しかし、これは経産省の告示にすぎません。行政の第一次的判断を尊重するというところはありますが、やはり基本は法律の解釈です。告示も法律にそって理解しなくてはなりません。共同利用者の範囲を自由自在に制御し得るということによって、実は、第三者提供における、本人同意の原則を回避している。そしてさらに問題なのは、最低限本人に留保されるべきオプトアウトの機会すら回避する結果を許している。これでは個人の権利利益の保護(1条)も個人の尊重(3条)の理念も個別条項の解釈に反映されていないことになります。 利用目的の制限という縛りがあるからと言っても、行きすぎた「共同利用」構成はやはり違法と断じなくてはなりません。オプトアウト手続(23条2項)だって、本当にゆるゆるの義務規定なんですから、これすら潜脱する解釈を許すのは、とうてい法目的に合致しているとは言えません。 ちなみに、委託の場合も本人同意とオプトアウト手続を回避できる点では同じですが、委託は個人データを預けるのであって、その回収・消去を含めて委託先の監督義務(22条)の下に安全管理が徹底され、また委託の性質上、利用目的の制限は無論のこと委託先事業者は自由にそれを利活用することはできません。ところが共同利用の場合は、ポイント加盟企業に個人データが行ったきりとなり、引き渡してしまうことができるわけです。 香月:しかもTカードに限らず、あの手の約款ってその場で読みませんからね……。 鈴木:約款も契約ですから利用者も本来はきちんと読まなければなりません。約款だからスルーしましたということはいけません。しかし、T会員規約は、氏名、住所、電話番号、メールアドレス、生年月日、性別という個人識別情報に、TSUTAYAだけでなく、レストラン、コンビニ、薬局や駐車場などの多数のポイント加盟企業での購買履歴を蓄積していきます。購買日時や店舗名(所在地)情報もわかりますから、物理的行動範囲の情報、生活圏もわかってしまいます。これらをライフスタイルの分析に用いて、さらに行動ターゲティング広告で収益をあげるモデルです。いわばその対価としてポイントを付与するわけですが、そのことが十分に契約の相手方である本人に伝わっているかというと、約款の文面上なかなか伝わらない。高齢者や未成年なども対象になることを思えば、伝えようという姿勢が十分ではないということに多くの人が賛同してくれるのではないでしょうか。 しかも、医薬品販売業を通じて、医薬品名まで取得されることがあります。医薬品販売業者は、CCCの個人情報の取得業務を委託されている立場ですが、刑法の秘密漏示罪においては、医薬品販売業者は医薬品名などの秘密をCCC等の第三者に漏示してはならない義務を負った立場です。第一に医薬品販売業者が安易にポイント加盟企業にならないように注意すべきですが、第二にCCCも医薬品販売業者にポイント加盟企業となることを安易に勧めることのないように注意しなくてはなりません。新聞報道によると、本件については、医薬品販売業者の店員すら医薬品名をCCCに提供していないという誤った情報を顧客本人に伝えているという例がいくつかあったそうです。 T会員規約を承諾したから契約内容は了解しているはず、Tカードを提示して買い物をすればポイントが付くだけではなく、購買履歴等が取得されるのは当然知っているはずということがどこまで言えるのか──形式論ではなく、もっとその実態と実質を評価していく必要があります。 15条1項はできる限り特定せよと義務付けていますが、T会員規約はずらずらと多数の利用目的を書き連ねています。利用目的も列挙すればいいというものではないでしょう。それに「ライフスタイルの分析」という曖昧な表現で、こうしたビジネスモデル全体を万人が理解できるのか、利用目的の制限(16条1項)の義務付けもまったく空疎で本人の権利利益の保護という法目的を達成できる法解釈になっているのか甚だ怪しいわけです。 それに加えて、開示の求めの範囲も著しく狭いという苦情も寄せられていたようです。契約内容も、運用も極めて全体的に遵法の精神に乏しいというところを背景に、共同利用の潜脱的法解釈を厳しく評価していくべきだと思います。消費者に対しての不利益事実を十分に告知していないという点については、個人情報保護法だけではなく、消費者保護法制でもしっかり見ていくべきでしょう。 香月:では先生はTカードについては個人情報保護法に違反しているとお考えですか? 鈴木:私は真っ黒だと思っています。また、法律以上のレベルを要求しているJIS Q 15001に準拠して第三者評価認証しているはずのプライバシーマーク制度が、いまだマークの付与を許しているというのも解せません。まさに約款をしっかり読まない、また読んでも法的な意味を十分に理解できない消費者に変わって、個人情報の取扱いにおいて真に優良企業かどうかマークを通じて簡易に判断できるように示してあげる──そのために取り組んできたのがプライバシーマーク制度ではなかったのでしょうか。マーク制度というのはB2Bという事業者間取引よりも、まずはB2Cという消費者取引においてその意義を発揮してもらうためにあったように思いますが。本制度を主宰するJIPDECには今一度、制度趣旨に立ち返り、素朴に何を認証しているものか、何を目的としているものか、自問自答いただきたいものだと思います。 香月:先生のお話を伺っていると、今回の件はCCCに問題があるのはわかりましたが、経産省にも問題があるように思えてきたのですが……。僕が考えていたよりも規模が大きな問題で驚いています。 鈴木:そうですね。私も関係していたので経産省ばかりを責められませんが、ガイドラインの表現に誤解されるところ、言葉足らずのところがあれば補うなり、必要な改正に着手すべきでしょう。CCCの現状を放置することになれば、このビジネスモデルをまねる企業がどんどん増えてくる可能性があります。なにしろ本人同意もオプトアウト手続を回避しつつ個人データの全部または一部を実質的に第三者提供できるわけですし、その実質第三者の範囲を、共同利用者の範囲としてその名簿に企業名を追加削除することで自由に操作できるわけですから。これを23条の1項、2項の潜脱的解釈といわずになんというのでしょうか。多くの企業が適法だと思って、このモデルを採用する、そこにビジネス投資をして回収する前に、経産省が規制に乗り出したらどうなるか──コンプガチャの騒動のように、ルールがずっと後から追いかけてくるのは禍根を残します。これがまずいのなら、すぐにルールの点検に乗り出す、そのことを世間に告知する。それだけで企業側は注視します。放置しておいて、後からゆっくり様子みながら規制強化するのは最低です。 一方、提携企業側もポイント加盟企業に参加することで、自社のポイントカードを捨てて、そのための情報化投資を節約できる上に、自社に閉じたポイントよりもはるかに効率的なマーケティング効果を得ることができる。実際に売上げ増進になった事例を見聞すれば、飛びつきたくなるところはあるでしょう。しかしアウトソーシング一般がそうであるように、これはベンダロックインとなることを意味しています。特に、自社のポイントカードシステムを保有している企業は、後戻りすると一からやり直しになることをよくよく考えて、法令遵守上のどのようなリスクがあるか、しっかり見極めるべきところです。大手も提携しているからということで、持ち込み案件を精査せずに、セールストークをそのまま管理部門や担当役員にオウム返しするような愚かで思考停止的な提携はやるべきではありません。日頃のコンプライアンス活動の真贋が問われるところというべきでしょう。 それから、この問題、これからのクラウドビジネスやビックデータビジネスに大きな影響を与える可能性があります。「越境データ問題」といって……。 香月:先生ちょっと待った! 続きは来週お願いします! ▼鈴木 正朝(すずき・まさとも) 法学者(情報法)。新潟大学法科大学院教授。1962年生まれ。中央大学大学院法学研究科博士前期課程修了、修士(法学)。情報セキュリティ大学院大学情報セキュリティ研究科 博士後期課程修了、博士(情報学)。主に個人情報保護法制、プライバシーの権利、情報マネジメントシステム、情報システム開発契約等に関する研究を行う。内閣官房では、政府情報システム刷新会議臨時構成員として共通方針案、政府CIO制度の検討、厚労省では、社会保障分野WG構成員として医療等個人情報保護法案の検討、経産省では、JIS Q 15001原案の起草、プライバシーマーク制度創設、個人情報保護ガイドライン案の作成等に関与する。 ・ウェブサイト:http://www.rompal.com/ ・ツイッター:@suzukimasatomo ====================================================================== この記事は、津田大介の「メディアの現場」vol. 44 より 『MIAUからのお知らせ ──個人情報保護法における「共同利用」の問題──鈴木正朝先生に聞く』 を全文掲載したものです。 ====================================================================== -
【2030年、日本の原発はゼロになる?】津田大介の「メディアの現場」vol.44
2012-09-12 19:30220pt――2030年という近い未来、日本は電力のどれくらいを原発に依存すべきか――この7月から8月にかけて、内閣府国家戦略室に設置されたエネルギー・環境会議 [*1] は、国民の意思を問う調査を行いました。パブリックコメント、意見聴取会、討論型世論調査。これら3つで構成される今回の調査は、「国民的議論」と総称されています。その結果を見てみると、「原発ゼロ」を求める声が圧倒的に多く、新聞ほかのメディアでも大きく報じられました。この国民的議論では、原発をゼロにする案を含めた「3つのシナリオ」[*2] が示され、どれを支持するか訊くという方法が採られたそうですね。
津田:はい。電力会社が電力を供給するにあたっては、原発、化石燃料、再生可能エネルギーのように、さまざまな発電方法を組み合わせています。そのうち原発の占めるパーセンテージを2030年までにどうするか――その視点から「ゼロシナリオ」「15シナリオ」「20〜25シナリオ」が示されました。これが「3つのシナリオ」です。各シナリオでは、それを採用することで、家庭の1カ月の電気代や国の実質GDPがどう変わるかまで示されています。3つのシナリオの前提となっているのは、「原発依存度を減らす」「化石燃料依存度を減らす」「再生可能エネルギーを最大限引き上げ、省エネルギーを進める」「CO2排出量を削減する」という4つの方針です。持続可能で地球環境に優しい。時流にのっとった考え方と言えるでしょうね。
――今回、3つのシナリオを示し、国民的議論を取りまとめたのは、「エネルギー・環境会議」という組織ですよね。この組織の役割は何なのでしょう?
津田:一言で言うと、国の将来的なエネルギー・環境政策を考えるために発足した組織です。2011年3月11日の東日本大震災以降、福島第一原発事故の影響で、電力をはじめとするエネルギー問題に一気に注目が集まり、「脱原発」が叫ばれるようになりました。けれど、実はその前年の2010年に作られた「エネルギー基本計画」では、総電力に占める原発の割合を2030年までに50%に引き上げるという目標を立てていたんですね。しかし未曾有の大事故が起きた今、この計画をそのまま実行するわけにはいきません。そこで2011年5月10日、当時首相だった菅直人氏は、この計画を白紙に戻すと宣言しました。[*3] その時、新たにまたひとつの問題が浮上してきます。エネルギー基本計画を含むエネルギー・環境政策全般を見直すにあたり、どこに司令塔を据えるべきか――。原子力をはじめとするエネルギー・環境政策は現在、経済産業省の外局である資源エネルギー庁が所管しています。一方、原発の安全を確保する原子力安全・保安院も、同じ資源エネルギー庁に属しているのです。つまり、原子力を推進する役所と規制する役所が同じ状態。これでは原子力を規制しようにも、ガバナンスが利くわけがありません。これから新たなエネルギー・環境政策をまとめていこうという時、少なくとも経産省にはその仕事を任せられないですよね。独立性がもっとも高い官庁はどこか――そう考えた時に浮上してきたのが内閣府の国家戦略室でした。そして2011年6月22日、国家戦略担当大臣のもと、第1回目のエネルギー・環境会議が開催されました。もっとも、国家戦略室でこの会議をとりまとめている役人は経産省から出向してる人もいるという話なので、実質的には経産省もこの問題にコミットしていると言っていいのかもしれませんが、省庁より上にある内閣という立場がこれを仕切ってやるという形にはなった。とにもかくにも、会議は立ち上がり、「革新的エネルギー・環境戦略」と呼ばれるエネルギー・環境政策の方針を2012年にもまとめるべく、今に至るまで話し合いを行ってきたわけです。この革新的エネルギー・環境戦略は、現在新たに策定中の政策――内閣府・原子力委員会 [*4] の「原子力政策大綱」、経産省・総合資源エネルギー調査会 [*5] の「エネルギー基本計画」にも反映される予定となっています。つまり国にとって、それだけ重要な戦略なんですね。パブリックコメント、意見聴取会、討論型世論調査の三本柱で行われた今回の国民的議論も、同戦略策定の一環として実施されたものです。
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