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記事 5件
  • 【福一停電問題はなぜ起きたのか】津田大介の「メディアの現場」vol.71

    2013-03-31 19:20  
    220pt
    3月18日、東京電力福島第一原発で停電が発生し、1、3、4号機の使用済み燃料
    プールや共用プールの冷却装置が停止しました。当初は、原因が不明な上に復
    旧のめどがたっていない状況に、強い不安を憶えた人も少なくないでしょう。
    2011年の福島第一事故から2年、過去の反省を踏まえた対策が講じられていたに
    も拘らず、なぜこのような事故が起こったのか。そこで今回は、原発事故をめ
    ぐる諸問題を追い続けている弊社記者、小嶋裕一(@mutevox)に、この事故の
    経過や背景、そしてその原因を語ってもらいました。

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    ◆福島第一原発の停電事故から学ぶべきこと
      ——東京電力、原子力規制庁の公表はなぜ遅れたのか


    津田:2011年3月11日、東京電力福島第一原発は津波により電源を喪失し、原子
    炉を冷却できなくなったことでメルトダウン [*1] を起こしました。その結果、
    大量の放射性物質が放出され、避難を余儀なくされた周辺地域の住民の多くは、
    いまだに帰還できずにいます。あの事故から2年がたった2013年3月18日、福島
    第一原発で停電が起こり、使用済み核燃料などが保管されている核燃料プール
    の冷却装置が停止する事故が発生しました。20日深夜までに冷却装置は復旧し
    ましたが、2年前の事故を思い起こさせる今回の事故に不安を覚えた人も多いか
    と思います。そこで、この停電事故について取材を続けている小嶋記者に、そ
    の経緯や背景について伺います。まず、今回の事故の経緯を教えてもらえます
    か?

    小嶋:3月18日18時57分、福島第一原発の免震重要棟で瞬間的な停電が起こりま
    した。福島第一原発の免震重要棟は、原発事故対応の拠点となっている場所な
    のですが、そこで一瞬電気がパッと切れたんですね。免震重要棟の停電はすぐ
    に復旧したのですが、ほかの設備に異常がないかを確認したところ、原子炉を
    冷却する原子炉注水に問題はなかったものの、1、3、4号機の使用済み燃料プー
    ル [*2] の冷却装置や、6377本の燃料を保管する共有プール [*3] の冷却装置、
    汚染水から放射性物質を除去するセシウム吸着装置(キュリオン)[*4] 、ガス
    管理設備の一部が停止していることが確認されました。

    18日深夜には、設備の確認はあらかた終了し、使用済み燃料プールなど9つの設
    備が停止していることがわかりました。東電が停電の原因について調査を進め
    たところ、外部から電気を受けている配電盤に異常が見られ、そこから先の送
    電が停止していました。

    この停電事故で停止した9つの設備のうち、最も重大な事故に発展する可能性が
    あったのは燃料プールの冷却装置でした。燃料プールが冷却できなくなると、
    使用済み燃料から出る崩壊熱 [*5] でプールの水温が上昇していきます。1335
    本の燃料を貯蔵し、温度上昇率が最も高い4号機の燃料プールでは、1時間あた
    りの上昇率は0.368度で、東電が保安規定で定める制限値の65度に達するまでは
    4.52日(108.7時間)かかると推定されました [*6] 。しかし、この時点では復
    旧の見通しはたっていませんでした。

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  • 【「漂白される社会」とは何か】津田大介の「メディアの現場」vol.70

    2013-03-23 09:50  
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    売春婦、ホームレスギャル、スカウトマン、右翼・新左翼……。そんな社会の
    「周縁」で生きる人々とその世界を雑誌的なルポルタージュ手法で鮮やかに描
    いたうえで、「現代社会とは何か」という問いに学術的なアプローチを試みた
    書籍『漂白される社会』が話題を呼んでいます。わたしたちが生きる「漂白さ
    れる社会」とはどんな社会なのか? この社会が向かう先に希望はあるのか? 
    著者である社会学者の開沼博さん(@kainumahiroshi)にお話を伺いました。

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    ◆アカデミズムかジャーナリズムか
      ——開沼博が実践する「闇の中の社会学」

    http://www.neo-logue.com/mailmag/mailmagcontents/vol70/vol70_pickup01.jpg

    津田:東京電力福島第一原発の調査研究を通じ、近代以降の「地方」がどのよ
    うにして「中央」に取り込まれていったのかを検証した『「フクシマ」論 原子
    力ムラはなぜ生まれたのか』[*1] 。3.11以前に書かれたものでありながら、福
    島第一原発事故後に出版されて話題を呼んだ同書を手に取ったことがあるとい
    う津田マガ読者も多いのではないでしょうか。『「フクシマ」論』が「フクシ
    マ」を語る際に欠かせない一冊としてさまざまなメディアで取り上げられるの
    と同時に、著者である開沼博さんにも注目が集まりました。福島大学うつくし
    まふくしま未来支援センター [*2] 特任研究員として勤務する傍ら、東京大学
    大学院学際情報学府 [*3] の博士課程に在籍する、1984年生まれの若き社会学
    者——そんな開沼さんが、このたび新著『漂白される社会』を上梓しました [*4] 。
    何しろ全462ページにも及ぶハードカバーですから、最初は「アカデミックな内
    容でこのボリュームだと読むのが大変そうだな」と思わなくもなかったんです。
    ところが、目次を開くと「売春島」[*5]「ホームレスギャル」[*6]「脱法ドラ
    ッグ」[*7]「右翼・新左翼」[*8] といった、週刊誌顔負けのセンセーショナ
    ルな言葉がずらりと並んでいる。そして、それぞれの章が、観察の対象を見事
    に捉えたルポルタージュに仕上がっています。一見、何の共通項もないように
    感じるそれらの対象を「漂白」という言葉で串刺して「現代日本」をあぶり出
    そうと試みる姿勢、そしてそれを強調する独特の構成に引き込まれ、あっという
    間に読み終えてしまいました。なぜこの本を出版したのか、その背景を知ること
    で今後の日本社会が向かうべき方向性が見えてくるのではと思い、インタビュー
    させていただくことになりました。開沼さん、よろしくお願いします。

    開沼:よろしくお願いします。

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  • 【遠隔操作事件の捜査はなぜ進まない?】津田大介の「メディアの現場」vol.69

    2013-03-16 01:00  
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    2月10日に威力業務妨害の疑いで「真犯人」と目される人物が逮捕されたことで、
    急速に進展を見せた遠隔操作ウイルス事件。しかし、逮捕された容疑者は一貫
    して容疑を否認しており、一度は検察が処分保留にするなど、警察も容疑者が
    犯人である決定的な証拠にはたどり着けていない様子がうかがえます。はたし
    て逮捕された容疑者は真犯人なのか。また、この事件の捜査が進展しない背景
    には何があるのか解説します。
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    ◆遠隔操作ウイルス事件の捜査が進展しない原因はどこにあるのか
    ――2月10日に遠隔操作ウイルスの「真犯人」と目される片山祐輔容疑者が威力
    業務妨害の疑いで逮捕 [*1] されてから約半月が経過しました。以降、マスメ
    ディアや警察は彼の逮捕につながる情報を小出しにしていますが、最近、彼が
    録画・録音しない限り取り調べには応じない [*2] というスタンスを打ち出し
    て以降は、あまり大きな進展はなくなってきています。ズバリ、彼が真犯人で
    ある可能性は高いと思いますか。
    津田:既に4人を誤認逮捕させられる [*3] という赤っ恥をかかせられた状況で
    すし、わざわざ逮捕前からマスメディアにリーク情報を流し、テレビ局に猫カ
    フェに行ってる姿などを撮影させている [*4] 警察ですから、彼らとしても真
    犯人であるという相応の自信があるんだと思います。さまざまな状況証拠から
    考えて僕も可能性は十分にあるとは思いつつ、真犯人であるかどうかはまだ断
    言できる状況ではないですね。そして、もう一つ、もし彼が真犯人であったと
    しても、起訴されて有罪になるかというのは別の問題なんですよ。

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  • 【安倍政権のメディア対策・原発政策】津田大介の「メディアの現場」vol.68

    2013-03-08 23:00  
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    2013年1月18日、新宿ロフトプラスワンで開催された「月刊『創』トークライ
    ブ「言論のタブーとメディアの内幕」[*1] でのトークセッションの模様が
    『創』[*2] 3月号に収録されました。昨年の衆院選で自民党がいかにネット上
    の保守層を取り込んだのか、両者の関係はどういうものなのか。安倍政権のネ
    ット戦略を考えるうえでとても面白い記事に仕上がっているので、今回特別に
    津田マガで再録させていただくことになりました。ぜひお楽しみください。
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    ◆なぜ安倍首相をネット右翼は支えるのか
      ――鈴木邦男×安田浩一×津田大介 対談
    (月刊『創』3月号「なぜ安倍首相をネット右翼は支えるのか 安倍政権のネッ
    ト戦略とネット右翼の実態」より転載)
    出演:鈴木邦男(一水会顧問)、安田浩一(ジャーナリスト)、津田大介
    月刊『創』
    http://www.tsukuru.co.jp/gekkan/
    ※本記事用に元記事のレイアウトを変更し、新たに註を追加しました。
    ――安倍政権は積極的にネットに関わっているように見えます。夏の参院選に
    向け、ネットを解禁しようという動きは加速しそうですか。
    津田:衆院選でもネットが後押ししてくれたと安倍さん自身が思っているでし
    ょうから、その空気があるうちに追い風としてもっとネット選挙を解禁したい
    という思惑はあると思います。自民党案 [*3] だとかなり自由なんですよ。ブ
    ログ更新OK、ツイッターもOK。そこで、一つポイントになりそうなのはメール
    です。ツイッターやブログなら公開だから何を書いているのかわかるし検証も
    できますが、メールはプライベートなメッセージ。そこを規制するかどうかが
    議論になってくるでしょう [*4] 。これは国によっても違っていて、アメリカ
    はメールもOK [*5] だけど、韓国はメールOKにしたら政治家が有権者にスパム
    みたいに大量のメールを送ってしまって、規制した方がいいかも、みたいな話
    になっています。
    ただ、テレビなら放送法 [*6] や公職選挙法の規制があるので [*7] 、選挙期
    間は特定の党だけ取り上げることはできませんよね。どこかの候補者に取材し
    たら、全部の候補者を公平に扱わなきゃいけない決まりになっています。でも、
    インターネットの場合はその枠組みに含まれないので、選挙期間中にネットの
    動画で政治番組を作る時、ルールはどうするのかということは議論になるでし
    ょうね。

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  • 【ノーベル平和賞受賞者が語る世界を変える方法】津田大介の「メディアの現場」vol.67

    2013-03-02 02:42  
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    慈善事業ではない、社会が抱える問題を解決するためのビジネス——社会的企
    業、いわゆる「ソーシャルビジネス」が世界的なムーブメントになっています。
    一企業でありながら利益を追求しないソーシャルビジネスというかたちになぜ
    注目が集まっているのか、世界や日本の状況はどうなっているのか。そこで今
    回は、今年2月、東京で開催された若者の夢を支援するための一大イベント「み
    んなの夢AWARD」の審査員として来日した、グラミン銀行創設者でノーベル平和
    賞受賞者のムハマド・ユヌスさんにお話を伺いました。

    (構成:佐久間裕美子)

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    ◆ソーシャルビジネスが世界を変える
      ——ムハマド・ユヌスが提唱する「利他的な」経済の仕組み


    津田:ユヌスさんが携わっている「ソーシャルビジネス」は、日本では社会的
    起業・社会的企業と呼ばれています [*1] 。ユヌスさんが大きく育てたソーシャ
    ルビジネスの概念は、世界のみならず、最近は日本でも少しずつ注目を集めて
    います [*2] 。まずお伺いしたいのは、そもそもユヌスさんがこのソーシャル
    ビジネスに自分で取り組まれるようになった——社会問題の解決に関心を持っ
    たきっかけは一体なんだったのでしょうか?

    ユヌス:当初は「ソーシャルビジネス」などという名前もなかったんです。貧
    困や医療問題など、多くの問題を解決しようとする過程で、何か問題があれば、
    それを解決するためにアイデアを考案し、ビジネスを作る。そうやってたくさ
    んの事業を立ち上げてきました [*3] 。これはほかの人から見ると、奇妙とい
    うか、興味深いことに思えたようです。というのも、儲けようとしてやってい
    るわけではない。オーナー——ソーシャルビジネスの創業者は利益を上げるた
    めではなく、問題を解決することに興味がある。初期投資が戻ってきて、その
    企業が自立した存在になることが望みなわけです。余剰利益が出れば、それは
    その企業の資産として残ります。後に、名前をつける段になって、ソーシャル
    ビジネスという言葉を作りました。あくまでも問題を解決するために作られた、
    配当を出さない企業形態で、NGOともNPOとも明白に違い、またチャリティでも
    財団でもない。あくまで自立した企業で、ビジネス的な理念に基づいて運用さ
    れる [*4] 。ひとつの大きい違いは、オーナーに利益を上げるためではなく、
    問題を解決するために存在するということです。それをやっていたら、人々か
    ら、そして他の国から、興味を持たれるようになりました。そのうち本を書い
    て [*5] 、本を読んでもらえるようになり、さらにはその本が多くの言語に翻
    訳され、そうやってどんどんこの考えが広がるようになりました。

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