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「『ゴー宣道場』の白熱議論・枝野私案について」小林よしのりライジング Vol.235

 8月6日、法哲学者の 井上達夫氏 と民進党衆院議員・ 枝野幸男氏 を迎え、第65回ゴー宣道場「9条に自衛隊って本気か!?」を開催した。  とにかく凄かった。  井上氏と枝野氏の議論は、わしも含めて師範方が思わず割って入るのを躊躇するような激しさで、今までの道場の中でも最もエキサイティングで深いものとなった。    井上達夫氏の一切の欺瞞を許さない主張は全てが凄まじかったし、相手の言ったことを即座に分析して切り返す頭の回転の速さには驚嘆した。  しかも、あれだけ厳しく攻めていながらもユーモアがあり、時折見せる笑顔がチャーミングだといった感想もあって、この一日でかなりファンを増やしたようだ。  わしとしても、最高の論客が出てきたなと素直に嬉しくなる。    一方の枝野氏は、まずこのタイミングで道場に来てくれたこと自体が凄かった。  枝野氏に民進党憲法調査会の会長として登壇を依頼した時には、まさか蓮舫氏が代表を辞任し、枝野氏が次期代表候補に名乗りを上げることになろうとは予想もしていなかった。  思いもよらず代表選を控えた微妙な時期となってしまったのだから、枝野氏は登壇を断っても全くやむを得なかったし、実際、枝野氏の周辺では断った方がいいという声もあったらしい。  ところがそんな中でも来てくれたのだから、それだけでも感謝である。  しかもこの状況の中での議論で、枝野氏は完全なハンディキャップ・マッチを強いられることになった。  これから、代表選に出馬するためには国会議員20人以上の推薦人を得なければならず、さらにそれから党員・サポーターによる選挙を戦わなければならない。この時期には、少しでも誤解を生んだり、支持者の反発を買ったりしかねないような微妙な発言はどうしても避けなければならず、自ずと発言の幅は狭められてしまう。  いわば枝野氏は、両手両足を縛られた状態でリングに上がっていたようなものだ。しかも相手はあの井上達夫氏である。まるでアリ対猪木戦みたいなものだったのだ。  ところがそんな状態でも枝野氏は、井上氏の意見に対して怯むこともなく、これを真正面から受け止めて、互角の議論をして見せた。しかも、その発言は極端に狭められたストライクゾーンのギリギリを突いて、外れることはなかったのだから見事としか言いようがない。  これだけの胆力と説明能力を持った政治家は、そうそういるものではない。 少なくとも、安倍晋三には決してできない芸当である。  あの議論を聞いて、枝野氏の発言に物足りなさを感じた人もいるかもしれないが、こういう背景があったのだと理解すれば、印象も変わるのではないか。  そして今回の議論の白眉は、自衛隊を合憲とする枝野氏と、違憲とする井上氏の意見の衝突だった。  憲法第9条の条文は、普通の国語力で読めばどう考えたって自衛隊を合憲と解釈することはできない。 1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。 2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。  わしはこのことを何度も言ってきたし、思想的に捉えれば、自衛隊合憲論は成り立たないと思っている。もちろん井上氏も同じ意見で、自衛隊合憲論の欺瞞を小学生にもわかるような表現で指摘した。  だがこれに対して、枝野氏はこう反論した。  憲法違反なら、自衛隊やめなきゃいけないんで。憲法違反なのに、自衛隊の予算に賛成したら、それこそおかしなことになるので。じゃあいま自衛隊の予算全部やめますか、自衛隊すぐに廃止しますかって話には、やっぱり責任ある政治としては乗れない。  それはやっぱりその、法解釈には一定の幅があるので、じゃあ私学助成金いま出しているのは何なんだと。まあ(私は)大学の憲法のゼミで「私学助成金違憲論」書いたんですが、いまは認めますよ。  ここでいきなり「私学助成金」の話が出てきたので説明しておこう。  憲法89条に、こういう条文がある。 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。  この条文を普通の国語力で読めば、どう考えたって私学に公金で補助したら憲法違反になるのだが、実際には私学助成金は支払われている。自衛隊と全く同じ構図になっているので、9条問題を論じる際には度々引き合いに出されるのだ。  その上で枝野氏はこう言う。   だって、そういう一定の幅の中でそういう解釈をして、それが定着しているから、その定着したものとして、縛られている側としてこういう解釈ですねって、長年積み重ねてきたから、私が与党になった時も私学助成金憲法違反だからやめろとは言いませんでした。  それと同じように、これで合憲だということで積み重ねられてきたものは、それは尊重しなければ、今度は憲法以外の政治の正統性が、それは僕は失われると思うんです。

「『ゴー宣道場』の白熱議論・枝野私案について」小林よしのりライジング Vol.235
小林よしのりライジング

常識を見失い、堕落し劣化した日本の言論状況に闘いを挑む!『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりのブログマガジン。小林よしのりが注目する時事問題を通じて、誰も考えつかない視点から物事の本質に斬り込む「ゴーマニズム宣言」と作家・泉美木蘭さんが圧倒的な分析力と調査能力を駆使する「泉美木蘭のトンデモ見聞録」で、マスメディアが決して報じない真実が見えてくる! さらには『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成させる大喜利企画「しゃべらせてクリ!」、硬軟問わず疑問・質問に答える「Q&Aコーナー」と読者参加企画も充実。毎週読み応え十分でお届けします!

著者イメージ

小林よしのり(漫画家)

昭和28年福岡生まれ。昭和51年ギャグ漫画家としてデビュー。代表作に『東大一直線』『おぼっちゃまくん』など多数。『ゴーマニズム宣言』では『戦争論』『天皇論』『コロナ論』等で話題を巻き起こし、日本人の常識を問い続ける。言論イベント「ゴー宣道場」主宰。現在は「週刊SPA!」で『ゴーマニズム宣言』連載、「FLASH」で『よしりん辻説法』を月1連載。他に「週刊エコノミスト」で巻頭言【闘論席】を月1担当。

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