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記事 5件
  • 「『慰安婦問題』橋下徹の主張はどこへ向かう?」小林よしのりライジング Vol.39

    2013-05-29 00:15  
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     橋下徹は5月26日に出演したフジテレビ「新報道2001」で、歴史認識や慰安婦問題について論戦し、自民党国防部会長の中山泰秀衆院議員を前に 「(自民党は)侵略と植民地政策を認めて、周辺諸国に損害と苦痛を与えたことをおわびすると言っているのに、国内向けには(慰安婦の)強制連行はない、自虐史観はだめだと。この二枚舌がだめだ 」と批判した。  中山議員は「そんなことはない!」と語気を荒げたが何の説得力もなく、さらには「自民党が二枚舌なら、あなたたちは4枚舌、5枚舌だ。それだけ国のことに関与するなら、市長を辞めて国(国政)に出たらどうか」と、まるで子供のケンカのような反論をする始末だった。しかもこれでは「自民党は二枚舌」であることは認めたようなものである。  野党時代に「 河野談話の見直し 」だの「 自虐史観の克服 」だのと散々言い立てて政権を奪取しておきながら、橋下の慰安婦を巡る発言が物議を醸すと、アメリカ様が怖い、あるいは選挙で不利になりたくないという理由で、あっさり梯子をはずし、平然と「 女性の人権を傷つけた 」という 河野談話 のとおりの発言をするのだから、「二枚舌」と言われても文句は言えない。  ところがその橋下が、翌27日に日本外国特派員協会で行った記者会見では「 旧日本兵の慰安婦問題を正当化しようという意図は毛頭ない 」だの「 慰安婦を利用した日本は悪かったんです 」だの「 日本は過去の過ちを反省し、慰安婦の方々に謝罪とおわびをしなければならない 」だのと、何度も何度も繰り返すのだから、本当に呆れ果ててしまった。   橋下によれば、当初言っていた「 慰安婦は当時としては必要だった 」というのは、「当時の人はそう思っていた」と言っただけなのに、橋下自身が「当時は必要だった」と思っているかのように「誤報」されたと言うのだ。   つまり橋下自身は最初から、当時の人がどう思っていようと、現在の価値観で断罪して「 慰安婦は女性の権利の蹂躙であり、許されるものではなかった 」という意見だったというのである。完全な自虐史観ではないか!    そもそも、橋下は最初の発言では、 「当時は日本だけじゃなくいろんな軍で慰安婦制度を活用していた。あれだけ銃弾が雨嵐のごとく飛び交う中で命をかけて走っていくときに、そんな猛者集団というか、精神的に高ぶっている集団は、どこかで休息をさせてあげようと思ったら 慰安婦制度は必要なのは、これは誰だってわかる 」と言ったのである。  この発言に「今では許されないが、当時はそうだった」なんてニュアンスはない。「誰だってわかる」と言っているくらいだから、橋下自身ももちろんそう思っていたのである。   明らかに橋下はメディアに責任転嫁して後退したのだ。  橋下は「 反省 」「 謝罪 」を再三再四繰り返した上で、日本も反省するが、日本以外のどの国々にも戦場で女性の人権を蹂躙した事実があるのに、日本だけに「 Sex slaves(性奴隷) 」のレッテルを貼り、あたかもこれが日本だけに特有の現象であったかのように思わせることで、その事実に光が当たらなくなってはいけない、各国ともに戦場における「 女性の人権蹂躙 」の事実に真摯に向き合うべきだと述べた。   要するに、日本も反省するから他の国々も反省しようという「心中作戦」に出たわけだ。  そして、日本の慰安婦だけが特殊と思われているのは、日本が国家意思として女性を拉致・強制連行、人身売買したとする認識が広まっているためだろうが、そのような事実があったという証拠はないし、日本政府としてもその事実は認めていないと強調した。  その上で、国家による強制連行・人身売買がないのであれば、これはどの国の軍隊にもあったことであり、米英ではピューリタニズムのために軍の関与という形はとらなかったものの、現地の売春業者を利用していた事実があるとか、日本占領中の米軍も慰安所を利用していたとか、朝鮮戦争中の韓国軍にも慰安所があったといった具体例を挙げた。   だが、これを聞いて「よし!うちの国でも反省しよう!」なんて思う外国人などいるわけがない。  韓国でも朝鮮戦争中に慰安所があり、そこで働いていた慰安婦は、本当に拉致されて連れてこられた性奴隷だった。だがこの歴史的事実に関連する資料は「閲覧禁止」になっており、その事実を知る韓国人はほとんどいない。   どこの国だって、自分の国にとって都合の悪いことは何が何でも隠蔽し、平然と正義ヅラするのである。   そして「反省」を表明した国だけが、特殊な悪の国にされてしまうのだ。
  • 「安倍政権にとって『河野談話』の見直しは必要か?」小林よしのりライジング Vol.38

    2013-05-21 23:00  
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     橋下徹がなぜ突然「慰安婦問題」に関する発言を始めたのかはわからない。  安倍政権の支持率が高すぎて、自らが率いる「日本維新の会」が埋没気味になっていることから、夏の参院選に向け、安倍が歴史認識問題で後退してきたところに目をつけて「右派」の取り込みを狙ったという見方もあるが、この際、動機は問わない。  橋下の発言には杜撰な部分も多々あるし、そもそも先週の「ライジング」の『ゴー宣』で詳述したように、 慰安婦問題で「強制連行はなかった」という議論は、正論ではあるが国内論壇にしか通用せず、国際政治上はマイナスにしかならない「周回遅れの議論」であることも間違いない。  とはいうものの、橋下の子供じみた「蛮勇」にも見える発言が、思いもよらない効果を発揮しているので、このまま退かずに頑張る限りは援護射撃しようと思っていた。  だが慰安婦問題を語る橋下は、しゃべればしゃべるほど、あちこちで論理の綻びが見え、日曜朝の報道番組を見てたら、「慰安婦問題で政府はきちんと謝罪しなければいけない」とも言っていたから、どこまで理解しているのか怪しいし、危なっかしすぎる。まあ、「蛮勇」とはこういうものかもしれないが。   橋下の「蛮勇」的発言は、安倍政権や産経新聞など自称保守派の卑怯さを、白日の下に晒すことになった。  何しろ、以前は橋下と同じようなことを言っていたはずの安倍晋三や稲田朋美や高市早苗など、自称保守の自民党議員たちがたちまち手のひらを返し、はしごを外し始めたのだから、その恥も外聞もない露骨さにはもう笑ってしまう。   とにかく、アメリカが怒るから、怖いのだ!  結局、自称保守派の歴史認識問題なんて、アメリカの目が届いていないところでこそこそっとしか言えない、内弁慶ボーヤの火遊びでしかなかったのだ。アメリカに一言「こらっ!」と言われたら、血相変えて火を消すのだ。   第1次政権時代と同様、安倍晋三が首相になったがために、またしても歴史認識問題は破滅的に悪化していく。  そんなことなら、最初から何も言わないほうがずっとよかったではないか。ヘタレのくせに口先だけで勇ましいことを言いたがって禍根を残すくらいなら、ヘタレらしく分をわきまえて「寝た子を起こすな」「触らぬ神に祟りなし」をモットーとしてほしかったが、もう手遅れである。  産経新聞も、それまで慰安婦とは「公娼制度」があった時代における「商行為」だと主張していたはずだが、それがなかったかのように橋下発言を非難している。  5月15日の社説では、「 慰安婦問題をめぐっては、宮沢喜一内閣当時に根拠もないまま強制連行を認める河野洋平官房長官談話が発表され、公権力による強制があったとの偽りが国内外で独り歩きする原因となった 」と書いている。  その上で、閣僚の稲田朋美、下村博文が、橋下徹を批判したことについて、こう評価するのだ。  「 稲田、下村両氏は自民党内の保守派として河野談話の問題点を厳しく指摘したこともあるが、橋下氏の考えとは相いれないことを示すものといえる 」  自民党議員の慰安婦問題の認識と、橋下の認識は、それほど違っているのだろうか?  さらに、「 裏付けなく発表された談話が、韓国などの反日宣伝を許す要因となっている状況を安倍政権は見直そうとしている。いわれなき批判を払拭すべきだという点は打倒としても、橋下氏の発言が見直しの努力を否定しかねない 」と、まるで橋下の発言のせいで河野談話の見直しが妨げられるかのような批判までしている。  ここで、わしは呆れ果てる事実に気がついた。   産経新聞、そして自称保守派は誰一人、「河野談話」の全文をきちんと読んでおらず、談話に何が書いてあるのかを、一切理解していないのだ!!  この社説でも書いているように、 自称保守派は 河野談話 を必ず「 慰安婦強制連行を認めた談話 」という。それは間違いとまでは言えないが、正確とは言い難い。むしろミスリードと言ったほうがいいくらいだ。  「強制連行」の問題は、「河野談話」全体の中においては瑣末な一部分と言っていい程度のウェイトしかないのである!  ここに河野談話の全文を掲載する。本文860字しかない短いものだが、時間のない人はざっと読み飛ばしてもらってかまわない。なお、読みやすくするために段落ごとに1行開け、それぞれの段落に番号を振った。      慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話                             平成5年8月4日 ①いわゆる従軍慰安婦問題については、政府は、一昨年12月より、調査を進めて来たが、今般その結果がまとまったので発表することとした。 ②今次調査の結果、長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したことが認められた。慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。 ③なお、戦地に移送された慰安婦の出身地については、日本を別とすれば、朝鮮半島が大きな比重を占めていたが、当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた。   ④いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。政府は、この機会に、改めて、その出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。また、そのような気持ちを我が国としてどのように表すかということについては、有識者のご意見なども徴しつつ、今後とも真剣に検討すべきものと考える。   ⑤われわれはこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する。   ⑥なお、本問題については、本邦において訴訟が提起されており、また、国際的にも関心が寄せられており、政府としても、今後とも、民間の研究を含め、十分に関心を払って参りたい。
     この談話の中で、「 強制連行 」を認めたとされるのは段落②の後半、「慰安婦の募集については」以降の 「強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり」 という部分である。  そして、それを日本の公権力が直接行ったと認めたとされるのは、それに続く 「官憲等が直接これに加担したこともあった」 である。  しかし、こうして解説されて、ようやくこれが「日本国による強制連行」と読めることがわかるといった感じではないか。この部分が修正されたとしても、談話全体の印象はそれほど変わらないはずである。  それよりも、決定的に重大なのは、段落④の最初の部分だ。  「いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である」   つまり河野談話では、慰安婦問題の本質とは 「多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」 ことにあるとしているのだ。  段落①から③までで述べている、慰安婦の募集、移送、管理等の実態がいかなるものであるにせよ、 「いずれにしても」「多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」 ことが問題だと言っているのである!
  • 「いよいよ投票開始!AKB48選抜総選挙☆ゴーマン予想☆」小林よしのりライジング号外

    2013-05-21 09:30  
     現在発売中の 「AKB48総選挙 公式ガイドブック2013」 に、わしの予想表が掲載されているが、残念ながら上位陣のコメントしか載ってない。  33位以下のコメントは載ってなかったので、ここに全コメントを公表することにした。  そろそろNMB・SKE・HKTなどの支店が、本店AKBを脅かす時代が来るべきであり、 渡辺美優紀 と 山本彩 は、3位・4位まで上がって来るべきである。  大阪の人間はケチっぽいから、全国のファンが頑張って入れてほしい。   市川美織 が15位まで上がることはなかろうが、疑似恋愛の対象ばかりに投票するようでは、モテない男の性欲クサさが鼻について、つまらん。  周囲の空気に対して独特の違和感を発散する みおりん が、実は絶え間なく努力を積み重ね、滑舌も良くなって、演技力も増してきて、成長しているということを評価せねばならない。   宮脇咲良 は去年、圏内に入ったが、今年は 兒玉遥 を絶対に入れるべきであり、二人とも飛躍的に伸ばしてやるべきなのだ。  福岡・九州方面のファンはカネ持ってなさそうで心配だ。全国のファンが大量に投票してやってほしい。  それでは全予想順位と、コメントを発表する。
    1位   渡辺麻友  劇場で見て、慈愛に満ちた笑顔の美しさに圧倒され、センターに相応しい実力を持ってることを確信。全メンバーで最も華やかであり、子供の人気も凄い。ヲタ限定ではなく、お茶の間に入り込むメジャー感がある。 2位   大島優子  まゆゆか優子かの葛藤は苦しすぎる。まゆゆに希望を持たせるために優子を2位にしたが、優子センターで再度「ヘビーローテーション」級のヒットを見たいという思いもあるのだ。 3位   渡辺美優紀  「南天のど飴ちゃんやで」の大衆に愛されるキャラと、内面に燃える闘争心、地頭の良さがある。人懐っこい笑顔は人々の警戒心を解き、毛羽立った心を癒してくれる。 4位   山本彩  少しハスキーな声質の良さが大好きだ。目力のある美人、優子にも似た男っぽいダンスと、内面のナイーブさのギャップが萌える。ソロCDを出したら絶対買いたいシンガータイプの子だ! 5位   松井珠理奈  大物の風格があり、美人度も飛躍的に増した。頭の良さも好きだ。このパワフルさは目が離せない。 6位   篠田麻里子  卒業させたくない!AKBのブランドを高めるカッコいい女。 7位   高橋みなみ  責任感の重圧に耐える、けなげな女が萌える。ソロデビュー曲も最高に良かった!毎日繰り返し聞いている。 8位   宮澤佐江  人格の素晴らしさ、明るさ、イケメン、ステキな女性だ。実はわしが佐江ちゃんを好きになった理由は、今描いている『AKB48論』で明らかになる。 9位   小嶋陽菜  卒業させたくない!AKBの誇りである超美人。これで馬鹿だから可愛い。 10位   横山由依  媚びを売るのがヘタで、誠実さやデリカシーを感じる努力家。嫁さんにしたい女だ。 11位   板野友美  わしがAKBに入門できたのは、ともちんの可愛さのおかげでもある。テンション抑え気味のクールさも、声質もいい。 12位   柏木由紀  清純派を卒業して、色っぽさで勝負できる雰囲気になった。ソロの楽曲ももう少し背伸びしたものが聞きたい。ただし、とろろを食う動画はダメ! 13位   松井玲奈  日本的美人の典型。ギンガムチェックみたいなものではなく、美しい幽霊を見たい。わしは写真集も買ったのだから、当然期待している。 14位   梅田彩佳  都会的なカッコイイ美人で、ダンスもカッコイイ。彼女にしてデートしたら楽しいだろう。 15位   市川美織  保護本能を掻き立てるピュアさは№1だ。「千本桜」の演技も良かった。ダンスも入り込んで踊っているし、存在がいつも特殊で、コメディエンヌの素質がある。メロンパンばっかり食ってる生真面目さが泣けてくる。守ってあげたい! 16位   指原莉乃  もうスキャンダルの反省など一切していない。ネタとしか思ってない。HKTの成功で益々調子に乗って危なっかしい。最大の危険人物だ。選抜に入れてやったことを有り難く思え!
  • 「安倍晋三は『東京裁判はリンチだ』と主張できるのか?」小林よしのりライジング Vol.37

    2013-05-14 21:00  
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      韓国 の 朴槿惠大統領 は5月8日、米国上下両院合同会議で演説を行い、歴史認識に関して、名指しはしなかったが明らかに日本を念頭に置いて「 過去を誠実に認めなければ明日はない 」と非難した。  ネトウヨや自称保守論壇はもちろんこれに憤慨し、批判を強めている。   米議会調査局 は、安倍首相の歴史認識を「 帝国主義日本の侵略やアジアの犠牲を否定する歴史修正主義にくみしている 」とする公式報告書を提出、米有力紙にも安倍首相の歴史認識を批判する社説が相次いでいる。  ネトウヨや自称保守論壇は、なぜかこれには見て見ぬふりをしている。アメリカには逆らえない「親米ポチ」、へタレの腰抜けだからだ。  彼らは、日米韓の関係がどうなっているのかという現実を一切見ようとしない。  安倍首相は訪米してもオバマ大統領との共同記者会見さえさせてもらえず、散々な冷遇だったのに対し、 朴大統領は米国議会で演説という、破格の厚遇を受けている。  米国政府や議会に対するロビー活動で日本は韓国に負けまくっており、すでに米国と韓国が結託して日本を敵視しているのだ。  しかしネトウヨ・自称保守はその事実を直視できない、したくないのである!  先日テレビで、米国議員への韓国のロビー活動について放送していたが、ロビイストが「慰安婦問題」について説明したら、 米国議員のほうが「慰安婦(comfort women)」という言葉は嫌いだ、あれは「 性奴隷(sex slaves) 」だと言っていた。  米国議員がリップサービスでそう言うほど国際的には「性奴隷」という認識が定着し、「慰安婦」という言葉も許されない状態になってしまっているのだ。  もちろんそんな状況を招いたのは、第一次政権時代の 安倍晋三 だということは、改めて強調しておく。  案の定、今回も安倍はあっさり折れ、5月8日の参院予算委では「 我々は、日本が多大な被害を引き起こし、アジアの人々を苦しめたとの、過去の内閣と同じ認識を共有しております 」と、完全に 村山談話 のラインまで後退してしまった。  同時に安倍は「 侵略の定義は、いわゆる学問的なフィールド(分野)で多様な議論があり、決まったものはない 」とも発言した。  ところがこれすら米国から「懸念」を示され、岸田外相が改めて「 安倍内閣としては歴代内閣の立場を引き継ぐ 」と表明する破目になった。  「侵略の定義はない」ということ自体は、「学問的なフィールド」では正しい。  「慰安婦の強制連行はなかった」も「学問的なフィールド」では正しい。  しかし学問的な正当性を争えるのは、日本国内における議論だけである。   これが「国際政治のフィールド」に出されると、問答無用で「日本は侵略をした!」「慰安婦は性奴隷!」とされてしまうのである。   「国際政治のフィールド」では、「学問的なフィールド」とは全く違う戦い方をしなければならないのに、日本の自称保守は全然それが分かっていない。   安倍晋三に至っては政治家のくせに、「国際政治のフィールド」で「学問的なフィールド」の戦い方が通用すると思っている。  以前「ライジングVol.17」で指摘したが、米国で慰安婦が「性奴隷」として定着してしまう際、安倍のブッシュへの謝罪に加えて決定的な役割を果たしたのが、 日本の自称保守知識人たちがワシントン・ポストに載せた「強制連行はなかった」の一面意見広告である。  これも、「強制連行の有無」の論争が行われていたのは日本国内の論壇だけで、国際政治上では全然違う戦いが行われていることに気づかなかったために起きたのだ。   自称保守派はこの致命的なミスを未だに自覚せず、国内でしか通用しない議論が国際政治の場でも通じると今でも思い込んでいる。  これを東郷和彦氏は「ガラパゴス化」と表現したのだが、ガラパゴス化とは本来、独自の環境で独自の「進化」を遂げることであり、ガラパゴス諸島の美しいイメージ共々、自称保守派の愚かさの形容にはやはりふさわしくない。  自称保守派は単に「 井の中の蛙 」の「 内弁慶 」であり、「進化」も何もあったものではない。  あえてイメージするならば「 下水道の白いワニ 」だろう。ペットの仔ワニが下水道に捨てられ、一切日に当たらないためまっ白になりながら、暖かく栄養豊富な下水の中で巨大に成長しているという都市伝説だ。  外界に出たらたちまち死んでしまうような存在でありながら、引きこもった世界の中だけで吠えまくり、ウヨウヨ徘徊している白いワニの群れ! それこそがネトウヨや自称保守派のイメージにふさわしい。   断言するが、安倍晋三に「 戦後レジームからの脱却 」は絶対できない。  「戦後レジームからの脱却」とは、すなわち米国を始めとする第二次大戦の戦勝国との対決であり、それは「親米」の政治家には無理に決まっているからである。   戦後レジームの原点は「日本は敗戦国」「日本は侵略国」「日本は悪の枢軸国」という認識である。   東京裁判が作り上げた「 中国・韓国は、悪の日本帝国主義による犠牲者であり、これを正義のアメリカが打倒した 」というストーリーを覆さない限り、戦後レジームは変えられないのだ。
  • 「自民党の憲法改正案の恐ろしさ」小林よしのりライジング Vol.36

    2013-05-07 21:50  
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     憲法記念日前日の5月2日、テレビ朝日「モーニングバード!」の「そもそも総研たまペディア」というコーナーにVTR出演した。   「そもそも改憲派なのにいまのままの改憲には『ちょっと待った!』な人々」 というテーマで、テレ朝の玉川徹氏の取材を受けたのである。  番組では「 96条 」と「 21条 」についてのコメントが放映された。どちらも特に重要な論点である。  「96条」は「ライジング」号外でも詳述したように、憲法改正のルールの規定であり、番組でもわしはその改正案の危険性を話した。   自民党や自称保守派は「日本は憲法改正ルールのハードルが高すぎる」というが、これは嘘である。  アメリカは上院・下院それぞれの3分の2以上の議員の賛成に加え、全米50州のうち4分の3以上の州議会の承認が必要である。これまで何度も行われた改正は、「原理」と「準則」のうちの「準則」の方であり、それでもこの改憲手続きを経て行われている。  世界的に見ても、日本の憲法改正ルールは標準的な「 硬性憲法 」の一つに過ぎない。  だが自民党はすでに国民投票のハードルを「 全有権者 」ではなく「 有効投票 」の過半数と、下げるだけ下げている。  この上、さらに国会議員の発議要件を3分の2から2分の1にまで下げると、政権が変わるごとに改憲することも可能となってしまい、それは立憲主義の崩壊につながるのである。   最悪の場合は天皇条項に手をつけられることも考慮しておかねばならない。  スタジオではこれに補足して改憲派の憲法学者、小林節慶応大教授のコメントが紹介された。 立憲主義とは憲法によって「 国民が権力者を縛る 」という近代国家の原則であり、改正ルールの緩和を権力者側が言い出すのは、憲法の本質を無視した暴挙 だというのだ。  権力者が「俺たちは憲法に縛られたくない」と言い出すのは、要するに、スポーツ選手が「なかなか勝てないから、ルールに縛られたくない。ルールを変えようぜ」と言い出してるようなものなのだ。  こんな事態は国民の側が相当警戒しなければならないはずだが、まだまだ国民は事態の恐ろしさに何も気づいていない。マスコミも呑気に構えている。  実は自民党の政治家も、マスコミも、国民も、誰も憲法のことなんか知らないのである。国民の無知が権力の暴走を招き、自らファシズムを作り上げるのだが、「アベノミクシュだぜ―――!」としか言ってないのだから、もうどうしようもない。  一方、番組は自民党にも取材をしている。取材を受けたのは、自民党憲法改正推進本部・本部長代行の 船田元 (はじめ)衆院議員である。  玉川氏は船田議員に、 議員の過半数では通常の法律と改正手続きが変わらず、最高法規たる憲法とはいえないのではないか と質した。すると船田議員は、自分も一時はそういう懸念を持っていたが「よく考えてみると」違うと言う。だが、その理由は呆れたものだった。  通常の法律の改正は「出席議員あるいは投票した議員」の2分の1以上だが、自民党の憲法改正案では「衆参両方のすべての議員のそれぞれ」2分の1以上だから、「 ハードルは法律よりもちょっと上ですね 」と言うのである!!  「通常の法律よりちょっと上」程度の改正手続きでいいと本当に思っているのなら、船田議員は「 硬性憲法 」というものをまったく理解していないということになる。  しかも、 憲法改正という重要案件には間違いなく「党議拘束」がかかり、棄権はできず、ほぼ全議員が投票するはずだから、「投票した議員」か「全議員」かの違いなど、ほとんど意味がない!  適当な誤魔化しを言うものだと呆れるが、船田議員はさらにこう言った。 「 それと国民投票で有効投票の2分の1以上というのが加わりますので、やっぱり一般の法律改正のハードルよりは、かなり高いと思っております 」  国民投票のハードルを 「有効投票」の2分の1 に下げるということは、投票率40%だった場合は、わずか20%の賛成で憲法が改正される。政権が替わるたびに憲法が改正されて、そもそも立憲主義が崩壊してしまうではないか!  もう一点わしが懸念を表明した「 21条 」は、「 集会、結社、言論、出版その他一切の表現の自由 」を保障するものだが、 自民党改正草案ではこの条文の後に「 前項の規定にかかわらず公益及び公の秩序を害することを目的としたものは認められない 」という規制条項を付け加えている。  つまり、 「公益および公の秩序」を害すると国家権力が認定すれば、表現の自由が制限される危険性が考えられるのだ!  わしは「表現の自由」が保障されているからこそ、政府批判も辛辣にやれる。アメリカなら個人に武装する権利が認められているから、いざとなれば個人が銃をとって国家権力に戦いを挑むこともできるが、 日本においては言論こそが武器である。  これは『ゴーマニズム宣言』に限った話ではない。国民全体にとっても同じであり、 デモという「表現の自由」、マスコミの「表現の自由」、その他の創作活動における「表現の自由」は民主主義の基礎である。  権力が「表現の自由」を規制し始めたときは、よほど警戒しなければ、戦前の日本の検閲や、中国や、北朝鮮のような国になってしまいかねない。  こんなことは民主主義国家の常識のはずで、この危機感は、玉川氏やスタジオのコメンテーターにもよく伝わったようだ。  玉川氏は船田議員に、 「個」と「公」のバランス についてどう思うかと質問し、船田議員はこう回答した。 「 社会の利益と個人の利益がぶつかった場合、どうすればいいのか、こういったことについて、やはりきちんと憲法が方向を示す必要があるんじゃないか。  例えば道路を通す時に自分の土地を通る、その時にお金とかいろんな問題があって立ち退きをなかなかしない、そのために道路が通らなくて、多くの人々が、それが通ったならばすごく利益があるのにできない、そういう状態があちこちで起こっている 」  そこで玉川氏が重ねて質問する。 「 個人の権利があまりにも尊重されすぎて、公の秩序が後ろに下がることによって、国民生活がものすごく大きな害を受けているというようなお考えを自民党の方々はお持ちだということですか? 」  すると、船田議員の答えは驚くべきものだった。 「 いや、そういうことではないと思いますけれども、行政の部分で執行する問題、道路の問題もあります。いろんな問題があります。やっぱり公の秩序というものがなかなか通りにくい、行政を執行している人々が非常に苦労をしている、そういう場面を私たちはいくつも見ております。  ですからそういう状況を少しでも改善するために、やっぱりひとつの憲法の中での歯止めというんでしょうか、要素を入れさせていただくことによって、今申し上げたような行政の実行する部分において、よりやりやすくすることも大事ではないか 」  この発言を聞いたコメンテーターの松尾貴史氏のコメントが実によかった。