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記事 4件
  • 「『自国第一』は当たり前、グローバリズムもアメリカ第一だった」小林よしのりライジング Vol.210

    2017-01-31 18:25  
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     アパホテルが客室に南京大虐殺を否定する本を置いているということで騒ぎになり、中国政府は自国内の旅行業者に、アパホテルの利用中止や広告の撤去を要求、観光客にも利用しないよう呼びかけた。
     その本は、ホテルを運営するアパグループの代表・元谷外志雄がペンネームで書いた社会時評エッセイ集で、南京大虐殺を否定する論拠は、わしが『戦争論』で挙げた論拠と同じものが多い。
     だが一方で、同書は支那事変の拡大要因となった様々な事件を全て「コミンテルン(ソビエト共産党の国際組織)の陰謀」としている。
     ただし、わしは「コミンテルン陰謀説」を採ってないから、この点は強調しておく。
     どうやら昨今の自称保守・ネトウヨ界隈では、支那事変も大東亜戦争も、なんでもかんでも「コミンテルンの陰謀」にしてしまうトンデモ歴史観が「正史」として定着してしまっているようで、その知性の劣化は留まるところを知らない。
     とはいえ、たとえアパホテルの南京大虐殺否定論が、「コミンテルン陰謀説」に基づくトンデモレベルのものだったとしても、それに対して中国政府にとやかく言われる筋合いは全くない。
      なぜなら、中国は「日本陰謀説」に基づくデタラメな反日映画・反日ドラマを作りまくり、全国で年がら年中上映・放送しているからだ。
      言わば、中国全土がアパホテルなのである!
      中国政府が国民に「アパホテルを使うな」と言うのなら、日本政府は「中国に観光に行くな」「中国に投資するな」と日本国民に言うべきなのである。
    「自国ファースト」で考えれば、当然そうなる。
     どの国だって「自国ファースト」で考えてるはずなのに、日本だけが「他国ファースト」でモノを考えるから異常なのだ。
     トランプが「アメリカファースト」を掲げてトヨタのメキシコ工場を批判し、アメリカで売る車はアメリカで作れ、アメリカ人の雇用を増やせ、メキシコで作るのなら高い関税をかけるぞと言ったら、トヨタはすぐさま今後5年間で100億ドル(約1兆1000億円)以上をアメリカに投資すると表明。
     その第一弾として、ペンス副大統領の地元であるインディアナ州の工場におよそ6億ドル(約700億円)を投資し、新たに400人を雇用すると発表した。
     これに対して、日本国内でトヨタに同情する声が上がっていることが理解できない。ここは批判の声が上がらなければおかしいだろう。
     なぜトヨタはアメリカの雇用ばかり創出しようとしているのか?
      そんな巨額を投じる体力があるのなら、なぜ日本に工場を作り、日本で関連中小零細企業の従業員までをみんな正社員にして、給料を上げていくような投資をしないのか?
     なぜトヨタは「日本ファースト」で考えないのか?
     何となく、トランプが急に「アメリカファースト」を言い始めたかのようなイメージがあるが、本当は、アメリカはいつだって「アメリカファースト」である。
      そもそも「グローバリズム」も「アメリカファースト」の戦略だ。
  • 「配偶者控除は低賃金の原因ではない」小林よしのりライジング Vol.209

    2017-01-25 00:25  
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     政治学者の三浦瑠麗氏が週刊新潮1月19日号の連載コラム「週刊『山猫』ツメ研ぎ通信」で非正規労働者について論じていて、その中でこんなことを言っている。
     実際のところ、労働者の四割を占める非正規のうち七割は女性です。多くは、「専業主婦」であるパートさん。残り三割の相当部分が定年退職後の高齢男性。若い男性の非正規というのは案外少ないのです。  昨年12月、ゴー宣道場のゲストに招いた時にも同じことを言っていて、その時も、直感的に違和感を覚えた主張である。
    「パートさん」という軽い呼び方にも、わしは違和感を覚えるのだが、非正規労働者とは、専業主婦や定年退職者がせいぜい「家計の足し」か「小遣い稼ぎ」のために片手間で就業しているものではない。真剣に生活がかかっている人たちなのだ。
     言っておくが、わしは三浦氏を個人的には応援していて、天皇退位問題では「天皇の人権」を配慮するリベラルな立場から、常にわしの側についてくれ、男系固執派に打撃を与えてくれたので、感謝している。
     井上達夫氏と同様に根本的な思想が違う部分があるが、権力の暴走を防ぐための徴兵制の効用など、三浦氏には共感するところも多々ある。
     さて、昔は確かにパートは主婦の副業にすぎないという感覚はあった。だから主婦は配偶者控除の「103万円の壁」を超えない程度に、そこそこ働いておけばいいという意識だったのだ。
     だが今は違う。中間層の家庭の主婦が、夫の将来に不安を持ち、子供を貧困層に落としたくなくて、なんとか大学まで行かせたいと願っている。そのための塾を含む膨大な学費を捻出するためにも、主婦が少しでも多く稼がなければならない。
     いったん貧困層に落ちたら、子の世代、孫の世代まで「貧困の連鎖」が続くから、親たちも必死なのだろう。主婦も決して「パートさん」なんて軽い立場じゃないのだ。
     定年退職後の高齢男性にしても、悠々自適だけれどヒマだからちょっと働いているという状態ではない。老人の貧困化は現在急速に進んでいる最中だ。
     60歳で定年退職して、65歳から年金が支給されるとして、その間食いつないでいかなければならないし、65歳を過ぎても、病気の不安や高齢化に伴う不安もあるから、稼げるうちに稼いでおかなければ危ないと、誰もが必死なのである。
     
     そもそも「非正規のうち七割は女性」という事態は、就労環境に男女差別があると考えなければおかしいはずだ。非正規の七割が女性という状況は、専業主婦の片手間仕事の「パートさん」が多いから当然だということではなかろう。
     これでは、結果的に男女差別の存在を黙認することになってしまう。わしの方が「リベラル」なのだろうか?
     なお、残り3割の男性非正規について 「相当部分が定年退職後の高齢男性。若い男性の非正規というのは案外少ない」 という主張も、本当なのかどうか調べてみた。
  • 「共謀罪は独裁への道」小林よしのりライジング Vol.208

    2017-01-17 20:40  
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     安倍政権が今月20日召集の通常国会で「共謀罪」法案の成立を目指すという。
     共謀罪とは、犯罪計画を話し合うだけで処罰対象となるもので、過去には小泉政権が2003年、2004年、2005年の3回にわたって法案を提出し、いずれも野党や世論の反対によって廃案となっている。
     安倍政権は10年以上前に3度も否定された法案を、何としても通そうとしている。その意図は、しっかり見抜いておかなければならない。
      そもそも日本の刑法は「既遂」、すなわち実際に犯罪が行われ、具体的に被害や危険が生じた場合にのみ処罰を行うのが原則である。
     実行行為に及んだものの「未遂」であれば刑を軽減でき、さらに例外的に殺人や放火などの重大犯罪については、実行行為がなくても準備や計画をしただけで罪となる「予備罪」「準備罪」などの規定がある。
      ところが「共謀罪」は犯罪の実行行為はおろか、準備も具体的計画もなく、ただ犯罪計画を話し合っただけで罪に問えるのであり、これは日本の刑事法体系を根本からひっくり返しかねない暴挙なのだ。
      しかもそれを、懲役・禁固4年以上の600以上にも及ぶ犯罪を対象にする方針らしい。
     そしてさらにいえば、実行行為はおろか、準備も、計画の立案にすらも至らない、 「計画を話し合う」だけで処罰の対象になるということは、要するに「内心で考えていること」が罰せられるということであり、憲法で保障された思想信条の自由に対する侵害となるのである。
     菅官房長官は記者会見で、テロ対策のために「国際組織犯罪防止条約」の締結が必要不可欠で、「共謀罪」法案はそのための法整備だと説明している。
     だがこれは、小泉政権下で3度持ち出され、3度論破された理屈なのだ。
     国連総会で2000年11月に採択された同条約は、マフィア対策のため、国際犯罪が多いマネーロンダリング(資金洗浄)や麻薬の密造・販売を取り締まることを目的としたものである。
     同条約は世界180以上の国が締結しているが、その中で条約締結のために新たに国内法を整備した国があるかという国会質問に対して、政府はノルウェー、ニュージーランド、オーストラリアのたった3か国しか挙げていない。
     そもそも国連では同条約については「締約国の国内法の基本的原則と合致した方法で行う」と説明しており、 実際には現行法のままでも「国際組織犯罪防止条約」には十分対処でき、締結は可能なのだ。
     条約締結のために日本の刑事法体系をひっくり返し、600以上もの犯罪に関わる大幅な法改正となる「共謀罪」が必要という説明は、圧倒的に説得力を欠いている。だからこそ法案は3度も廃案になったのである。
  • 「安倍政権の失政総まとめをしておこう」小林よしのりライジング Vol.207

    2017-01-10 21:15  
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     平成29年、最初のライジングである。
     新年にふさわしい、めでたい話題を扱おうと思ったのだが、残念ながら何も思い浮かばない。
     それよりも、いま書いておかなければならないことは、昨年安倍政権が犯した失政の数々である。
     とにかく次から次へとムチャクチャなことをやらかすから、ライジングで取り上げきれなかったものもあるし、もう覚えきれないほどだ。だが忘れてしまえばどんな失政も「なかったこと」にされ、さらなる失政を積み重ねられてしまうのだから、一度列挙しておかなければならない。
    ◆アベノミクス
     第二次安倍政権の最重要政策として位置づけられてきたアベノミクスだが、4年目に入った昨年も、何の成果も挙げられなかった。
     そもそも昨年元旦の「朝まで生テレビ」で、政府の産業競争力会議の一員である竹中平蔵が「トリクルダウンなんてありえない」と断言した時点で、アベノミクスの失敗は確定したのだ。
     アベノミクスとは、「大規模な金融緩和」「拡張的な財政政策」「民間投資を呼び起こす成長戦略」という「3本の矢」によって企業収益を向上させれば、一般市民の所得向上につながるという「トリクルダウン効果」を根拠とした経済政策であった。
     特に日銀による異次元の金融緩和で、「脱デフレ」を目指す予定だったが、それも成らなかった。
     昨年5月、安倍は消費増税の再延期を決定した。
     消費税率は2014年に5%から8%に引き上げられ、当初は2015年10月から10%に引き上げられる予定だった。しかし経済が増税後の落ち込みから回復せず、安倍は税率引き上げを2017年4月まで延期していた。それをさらに2019年10月まで、2年半再延期するというのだ。
     再延期をすれば2014年の増税が失敗だったことを意味するため、安倍は一貫して「再延期はない」と断言していたが、それを撤回したのである。
     ところが安倍は自らの失敗を認めるどころか、こう言ってのけた。
    「今回、再延期するという私の判断は、これまでのお約束とは異なる、新しい判断であります」
     こんな言い草が通用するなら、どんな公約違反をしようとも、「これが新しい判断です」と言えば許されてしまう。ところが実際のところ、なんとなくそれで許されたような形となってしまった。
    「新しい判断」は新語・流行語大賞にノミネートされたが、年が明ければこの言葉も、それを言い放った安倍の非常識もすっかり忘れ去られている。
     アベノミクスが成功していると言い張る人は、「企業収益が増えた」「求人倍率が改善した」という点を挙げる。
     だが、円安によって企業収益が拡大したといっても、その分輸入インフレによって実質賃金が下がり、GDPの6割を占める個人消費が大幅に落ち込んでしまっている。求人倍率の改善は、単に団塊世代の大量退職によって生産人口が減ったからに過ぎない。
     いくら金融緩和でお金を降らせても、庶民には落ちてこない。資産を持っている者は投資も消費もせず、貯蓄するだけだ。ついにタンス預金が日銀の発表で約78兆円にも上っている。そうなる原因は、将来不安に尽きる。
     国民の将来不安を全然払拭しないで、経済がうまくいくわけがない。だが安倍は失敗を認めたくないだけの理由で、 「今こそ、アベノミクスのエンジンを最大にふかす」 などと言い続けたのだ。
    ◆カジノ法案
     一向にアベノミクスが成果を見せない中で、安倍が新たな「成長戦略の目玉」と言い出したのが、なんとカジノなのだからあきれ果てる。
     カジノ法案については、政権べったりの読売新聞までも含む、主要全新聞の社説が一致して反対するほどだったのに、安倍政権はほとんど議論もさせずに強行採決してしまった。
     そもそもカジノの収益とは、「バクチに敗けた客がすった金」に他ならない。
     カジノ法案は、正式名称を「カジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備推進法案」という。例によっての言葉のごまかしで、あくまでもカジノは「統合型リゾート施設(IR)」の一部に過ぎないように見せかけたいのだ。
     カジノ推進派は決まって「カジノの面積は全敷地の3%で、メインではない。残りの97%はホテルや劇場、ショッピング街などで、あくまでもカジノを含む統合型リゾートだ」とか言う。
     だが海外の実態を見れば、IRの売上高の大半は「面積3%」のカジノが挙げており、「ギャンブル依存症の父親が大損する傍らで、母親と子供が“格安ディズニーランド”で楽しむという構造」だという。
     さらに今回の異常な「暴走審議」の陰には、日本の富裕層の個人資産を狙った、海外カジノ企業の要請があるのではという疑惑もささやかれている。もしそうなら、安倍は日本の国富を海外流出させるために尽力した売国政治家に他ならないし、そうでなくとも、賭博で経済成長などという輩には、二度と「美しい国へ」などと言う資格はない。
    ◆年金カット法案
     安倍政権は昨年、公的年金改革法案という名の「年金カット法案」も強行採決している。
     これにより年金支給額は現在より5.2%も減少。国民年金は年間約4万円減、厚生年金は年間約14.2万円も減る。
     既に安倍政権はこの4年の間に公的年金を3.4%減らし、70~74歳の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げている。
     生活保護受給水準以下で暮らす高齢者は5年間で約160万人増え、高齢者全体の25%を占めている。そこへ年金カット法が施行されれば、間違いなく貧困高齢者は急増していくことだろう。
     安倍政権は2014年12月、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用計画を見直し、国内債券の比率を60%から35%に引き下げ、リスクの高い株式投資の比率を50%まで高めた。
     株価を操作して好景気を偽装し、消費増税の口実を作るためであり、要はアベノミクスの「成果」を捏造するために、国民の年金をバクチにぶっ込んだのだ。
     そしてその結果、たった15カ月間で公的年金積立金が10.5兆円も運用損失で消えてしまった。
     年金カット法案とは事実上、この株式運用の失敗のツケを国民に回し、年金支給額を減らすことで帳尻を合わすための「制度改革」なのである。