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「ハンセン病に学ぶ【隔離】の悪法」小林よしのりライジング Vol.362
2020-06-23 20:40150pt新型コロナに関してさんざん恐怖を煽り、日本の社会・経済・文化に甚大な被害を及ぼしたテレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」は、今ごろになって批判逃れ、責任逃れに向かおうとし始めているが、それは決して許されない。
特にPCR検査をできる限り全国民まで拡大して実施し、新コロ感染者は無症状者も含めて全員隔離せよと主張し続けた罪は極めて重い。
番組では玉川徹や岡田晴恵や、その他日替わりで登場した医師や研究者が 「検査して隔離」「検査して隔離」 と3週近くにわたって毎日毎日繰り返し、番組のほぼ全部をそのプロパガンダに費やしたことも何度もあった。
それはまさに「PCR真理教」とでも言うしかない有様だったが、その影響力は絶大で、本庶佑や山中伸弥といったノーベル賞学者までがこれを支持し、全国の知事たちもこれに同調し、政府もことあるごとに「PCR検査の拡充」を言わなければならない状況となっていた。
実際には、無制限なPCR検査の拡大には反対する専門家も数多くいたが、羽鳥モーニングショーはそれを全て無視した。
そもそも日本の場合、まずCTスキャン検査をして、肺炎と診断された患者に対して、肺炎の原因を確定させて有効な治療をするためにPCR検査を行うという手順が定着しており、病気の症状もない人まで全員検査などしても、何の意味もないのだ。
しかも、たとえPCR検査で陰性だったとしても、それは検査した時点で感染していなかったことを示すにすぎず、検査の帰りに感染することだってありうる。
そのうえPCR検査の精度は70%で、3割はウイルスがあっても陰性が出る(偽陰性)のだから、これは全く予防医療の役には立たないのである。
玉川徹はこのような批判には一切反論ができず、あろうことか 「PCR検査は『医療』のためではなく、『社会政策』としてやるのだ!」 と言い出した。
どこに感染者がいるか知れず、いつ自分もうつされるかわからないという状態では、安心して経済を回すことができない。だから、できる限り全国民を対象に週に1回、もしくは2週に1回PCR検査して、徹底的に感染者をあぶり出し、残らず隔離して、感染者と非感染者を完全に分離し、感染者がただのひとりも存在しない社会をつくる。そうすれば、みんな安心して外に出てきて経済活動をすることができる。
だからこれは医療ではなく、安心して経済を動かすための社会政策としてやるべきことなのだ… と言うのだ。
狂っている。1億2千万の全国民を週1回検査するなんて、現実的にできるかどうか考えなくてもわかることを、本気で言っている時点でアウトだ。
だが、さらに問題なのは 「医療ではなく、社会政策のために隔離」 というのがとんでもなく恐ろしい主張であることに、一切気づいていないところだ。
医療上の必要がない隔離を「社会政策」のために行うって、一体何の法律に従えば、それができるというのか?
現行法では、感染症患者の隔離は 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法) に定められている。
強制入院(隔離)については第19条 で、一類感染症(エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱)の蔓延防止のために必要とされる場合、都道府県知事が指定医療機関への入院を 勧告 することができ、勧告に従わない時には、 強制的に入院 させることができるとなっている。
エボラ出血熱のような毒性の強い感染症の蔓延防止という医療目的でも、まずは 「勧告」 なのだ。
それなのにたかが新コロで、しかも医療ではなく 「社会政策」 のために隔離するなんてことに法的根拠があるわけがなく、それをやったら完全に憲法違反で、 刑法220条の逮捕・監禁罪 で、違法行為である。
そもそも仮にもリベラルを名乗る人間が「隔離」という恐ろしい言葉を、ハンセン病者の隔離の歴史を一切連想もせずに、全国放送のテレビで毎日軽々しく連呼し続けたことが全く信じられない。
感染症法は、明治30年(1897)制定の伝染病予防法に代わって平成10年(1998)に制定された法律だが、これには新たな感染症の出現などと共に、 平成8年(1996)に、それまでハンセン病者の隔離を合法化していた「らい予防法」が廃止された ことが大きく影響している。
だからこそ感染症法の前文には 「我が国においては、過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め、これを教訓として今後に生かすことが必要である」 と特に明記して、 「感染症の患者等の人権を尊重」 すると書かれている。
たとえ一類感染症患者でも、その隔離の際はまず「勧告」ということになっているのも、そのためである。
ハンセン病者隔離についてはVol.357「隔離という人権無視」でも少し触れた。 -
「夜の街ガイドラインの馬鹿馬鹿しさ」小林よしのりライジング Vol.361
2020-06-16 22:55150pt5月29日 東京都知事「ウィズ・コロナ宣言」
6月2日 東京都で新規感染者34人、「東京アラート」発動、都庁と橋桁が赤くなる
6月12日 「東京アラート」解除、「自粛から自衛の時代へ」談話
6月14日 東京都で新規感染者47人
6月15日 東京都で新規感染者48人 ← イマココ
ここ半月の東京都は、滑稽なほど右往左往しすぎている。
新規感染者が50人近くになっているから、またもや「ウィズ・コロナなんてやっぱり無理!」ということで「東京アラート」を発動するのかと思ったが、多くが新宿のホストで、これまでに感染したホストの濃厚接触者を全員検査した結果、新たに判明した無症状の感染者らしい。
小池百合子都知事は 「確認できているという点で、むしろ確かな数字になってきているのではないか」 と、まるで小泉進次郎かと見まごうような、意味があるようでまったく意味不明な発言でまとめ、今週末の19日には、東京都の休業要請を全面解除する考えを示した(6月15日19時時点)。
結局、「東京アラート」は、小池百合子の選挙パフォーマンスの意味合いが強かったのだろう。新宿歌舞伎町では、夜の街の「見回り隊」が出動し、公然と営業妨害を行う様子がくり返し報道されたが、あれもはっきり言ってパフォーマンスだ。
歌舞伎町は、JR新宿駅に近い南側に、お馴染みの看板をかかげた賑やかなメイン通りがあるが、その付近は、チェーンの居酒屋や寿司屋、焼き肉屋、喫茶店、大衆的なバー、ゲームセンター、ドラッグストアなどが多く、正面に、ゴジラの造形が目立つ東宝の映画館がそびえてもいて、繁華街初心者が遊びやすいエリアになっている。
見回り隊は、この付近だけをマスコミを引き連れて練り歩いたらしいが、「感染源」とされているホストクラブやキャバクラが実際に立ち並んでいるのは、その奥の北側~北東側のエリアなのに、そこには足を踏み入れなかったらしい。
本気の「東京アラート」なら、そっちを練り歩いてみたらどうだと言いたいが、まあ、奥まで行くとラブホテルも立ち並んでいて、出入りするカップルやデリヘル嬢の姿があちこちで写り込むので、放送に耐えうる映像が撮れないだろうなと思う。
そんな見回りパフォーマンスに加えて、このたび政府から発表されたものが、接待を伴う飲食店やライブハウス、クラブの営業再開に向けた注意事項をまとめた 「ガイドライン案」 だ。
6月13日に政府から発表された「夜の街3業種向けのガイドライン案」
これに沿うかたちで、専門家の監修によって各業界がガイドラインを作成しているのだが、その内容がすごい。一部を抜粋・要約して紹介する。 -
「構造改革派・田坂広志の“珍アフター・コロナ論"」小林よしのりライジング Vol.360
2020-06-09 20:35150pt学者は「世間知らず」だという実例は、それこそ腐るほど見てきたが、社会のことを全く知らない学者が社会のあり方について「提言」なんかしていたら、それはもう有害だとしか言いようがない。
6月4日放送のテレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」では、元内閣参与で多摩大学名誉教授の田坂広志がリモート出演し、コロナ後の社会はどうあるべきかという「提言」をしていた。
田坂は、今回のように自粛で経済を止め、その補償を国がするようなやり方が続くわけはないから、「持続可能な新たな社会のあり方」を目指さなければならないと言う。
だがわしに言わせれば、インフルエンザよりも弱い新型コロナなんかを過剰に恐れて自粛してしまったこと自体が誤りであり、普通にインフル程度の感染症予防をして経済を回し、 ただしグローバリスムに依存する新自由主義的な経済を捨てさえすれば、十分「持続可能」な社会になるのだ。
わざわざ「新たな社会のあり方」なんてものを目指す必要などないのである。
ところが田坂は 「今後来るであろう第2波、第3波、そしていかなるパンデミックにも耐えうる『社会システム』を今のうちに準備しておくべき」 と主張し、「アフター・コロナ」の時代には社会を変容させ、これまでとは違ったライフスタイルを身につける必要があり、それが 「ニュー・ノーマル」 、新しい常識だと言う。
「アフター・コロナ」だの「ニュー・ノーマル」だの、わざわざ英語のフレーズをつけたがるところが既に怪しいのだが、ではそれは具体的にどういうものなのか?
羽鳥慎一がパネルをめくると、こんなことが書いてあった。
提言<1>“収入が減らない新しい働き方”
「パンデミック時、人手不足となる企業は仕事を失う職種の人と平時から雇用契約を結ぶ。
仕事を失う職種の人はニーズのある職種を副業として身につけておく」
そしてその具体例として、群馬県嬬恋村のキャベツ農家で、新コロのために外国人技能実習生が200人不足したため、自治体が補助金を出して労働者を募集したら、休業を余儀なくされた旅館業の人など300人の応募があったというケースを紹介する。
また、海外の例として「従業員シェア」なるものを紹介する。
米ヒルトンホテルが、新コロで仕事がなくなった自社の従業員にアマゾンやフェデックスなど異業種の提携会社の求人を紹介し、ヒルトンに籍を置いたままそこで働けるようにしたという。そしてアマゾンは、ヒルトンホテルを含む提携会社などから、約17万5000人を「物流施設従業員」などに採用する方針だそうだ。
田坂はこの「従業員シェア」が「アフター・コロナ」の「成功例」だとして、こう語る。
「従業員シェアという考え方、これからの新しいキーワードになるだろうと思うんですね。今は(従業員シェアと)聞かせられると、えっ、と思いますけど、これからはむしろこれがニュー・ノーマル、新しい常態、従業員シェアというのは別に異常なことでも何でもない、当たり前のこれからのスタイルですねと」
田坂は本当に社会を知らない。「外国人技能実習生」が、日本人は誰も応募しないような低賃金・重労働で外国人を酷使しているとして社会問題になったことも、アマゾンの「物流施設」の仕事があまりにも過酷で従業員が疲弊しきっているとして社会問題になったことも知らないのだ。
コロナ禍で仕事をなくした人が、より条件の悪い職種に吸い込まれて行くという、ただそれだけの話のどこが「新しい社会のあり方」で、アフター・コロナの「成功例」なのか?
ヒルトンのような超一流ホテルで働いていたホテルマンが、アマゾンの物流倉庫などという過酷で全く異なる仕事をせざるを得なくなった時、どんな思いをするか、何も想像できないのだろうか?
田坂は社会を知らないし、人の心も知らない。
人間は誰でもどこの何の仕事とも入れ替えの効く、交換可能な部品としか思っていないのだ。
そして、田坂はこう言うのである。 -
「火星人襲来」小林よしのりライジング Vol.359
2020-06-02 23:20150pt人間は進歩も進化もしないと事あるごとに言ってきたが、新型コロナに関する騒動においても、全く同じことを言わざるを得ない。
今回は、そんな思いを強くさせる82年前の出来事を紹介しよう。
1938年10月30日夜、全米で少なくとも100万もの人々が、 「火星人が来襲して、米国各地で壊滅的な被害が出ている」 と信じて恐怖に駆られ、数千人がパニックに陥った。
事の発端はこの日午後8時、ニューヨーク・CBSをキー局に放送されたラジオ番組「オーソン・ウェルズのマーキュリー劇場」だった。
この番組は『第三の男』や『市民ケーン』などで知られる俳優オーソン・ウェルズが主演のラジオドラマで、その日放送されたのはSF作家の始祖、H・G・ウェルズ原作の『宇宙戦争』だった。
原作の『宇宙戦争』は、1898年に発表された宇宙人侵略モノの元祖というべき小説で、その後の様々な作品に大きな影響を与え、1953年に映画化、2005年にはスティーブン・スピルバーグが再映画化している。
巨大な流星に乗って来襲した火星人が、強力な機動兵器に搭乗して問答無用の破壊と殺戮の限りを尽くす。火星人のマシンは地球のいかなる近代兵器による攻撃も一切通用せず、熱線を発射して地上のあらゆるものを焼き払っていく。そして絶望的な大惨事の末、もはや地球人の命運もこれまでと思われたその時、奇跡が起きる…というストーリーである。
古典中の古典だからネタバレを書いてしまうが、火星人は免疫を全く持っていなかったため、地球人には何の害も及ぼさないような細菌に感染して、全滅してしまったのだ。何となく、現在起きていることにリンクしているような感じもする話である。
問題の番組は、原作をラジオ向けに大胆に脚色していた。
ラジオの音楽番組の最中、突如放送が中断され、臨時ニュースが入る。火星の表面に異変が確認されたというのだ。
その後、放送は一旦音楽番組に戻るが、再び中断してニュージャージー州グローバーズミル近郊に巨大な隕石が落下したというニュースを速報する。
そして現場に急行したアナウンサーの眼前で、隕石と思われた巨大な円筒から怪生物が現れ、さらに攻撃兵器が現れて熱線を放射する。絶叫が響き、アナウンサーは火の海の中で必死の実況を行うが、突如音声は途切れる。
その後は、スタジオに刻々と入って来る惨劇の情報や、米軍の指揮官の話、科学者の見解、政府の内務長官の談話の中継など、臨時報道番組の形でドラマは続き、途中で実況アナの焼死体が確認されたとの速報も入る。
これを聞いて、本物のニュースと思い込んだ人々がパニックを起こしたのだ。
現存するシナリオを読んでも、なかなか凝った作りでよく出来ている。放送日がハロウィンだったので、制作側にはハロウィンの「Trick(イタズラ)」のつもりもあったらしいのだが、まさかパニックが起きるとは夢にも思わず、こんな荒唐無稽な話は聴取者が途中で飽きてしまうんじゃないかと懸念していたという。
番組では最初に「オーソン・ウェルズのマーキュリー劇場、今晩はH・G・ウェルズ原作『宇宙戦争』です」とはっきり言っているし、途中に1回CM休憩が入るし、休憩の前後と番組の最後でも、これはドラマだと断っている。
しかも、1時間の番組で隕石の落下から火星人の全滅までを描いているから、リアルなニュースにしてはあまりにも展開が早すぎるし、攻撃中の米軍機と基地との交信の会話まで入って来るし、ちょっと考えれば不自然だとわかるはずだった。というより、「火星人来襲」なんて聞いた時点で、本気にする方がおかしいというものだ。
それなのに、パニックは起きたのである。
社会心理学者ハドリー・キャントリルは、こんなありえないことでなぜこれほど大規模なパニックが起きたのかを解明しようと、放送直後から135人の聴取者に詳細な聞き取り調査を行い、1940年に著書『The Invasion from Mars』を出版。同書は社会心理分析の古典となっている(日本語版・高橋祥友訳『火星からの侵略』金剛出版刊)。
同書は、当時の様子をこのように記している。
「番組が終わるかなり前から、米国全土の人々が、祈り、泣き叫び、火星人から殺されまいと必死になって逃げ出し始めた。愛する人を助けようと走り出す者もいた。別れを告げたり、警告するために電話をかけたりする者、近所の人々 に知らせに走る者、新聞やラジオ局に情報を求める者、救急車やパトロールカーを呼ぶ者もいた。」
なぜこのようなことが起きたのかについては、当時から様々な理由が考えられていた。
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