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  • 「被災者感情まで悪用する原発推進派」小林よしのりライジング Vol.63

    2013-11-26 17:35  
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    「被災者感情まで悪用する原発推進派」  櫻井よしこは11月4日付産経新聞の連載コラムで、こんなことを書いた。
     原発事故で被災した福島・浜通りの人々約30人が9月、チェルノブイリを訪れた。そこで彼らが見たのは日本で報じられてきた放射能汚染に苦しむ荒廃した町とは全く異なる、よみがえった町と子育てにいそしむ人々の姿だった。
     その上で櫻井は「 安全のためには1ミリシーベルト/年を超えてはならないというかのような過度な恐れが、今も人々を福島から遠ざけている。人の戻らない故郷は廃墟となる 」と書いた。
     チェルノブイリの例に学べば、福島の被災地の多くは帰還可能であるのに、過剰に放射能の危険を主張する者がそれを阻んでいるというのだ。
     ネトウヨ連中は、大喜びでこの櫻井のコラムを拡散させまくった。
     全く不思議な話である。
     作家・東浩紀氏やジャーナリスト・津田大介氏らは、今年4月にチェルノブイリを訪れている。先日、わしは東氏と初めて対談したが、その対談や、終了後に津田氏を交えて行なった懇談でも、チェルノブイリの町がよみがえっているなんて話は一切なかった。
     東氏、津田氏らがチェルノブイリを訪ねたのは、事故跡地の廃墟などを観光地化して記憶を留めさせようとする「ダークツーリズム」の実地調査のためである。
     その模様をまとめた本『チェルノブイリ ダークツーリズムガイド』には、チェルノブイリ原発周辺は今も多くが立入禁止で、廃墟が広がっている様子が多くの写真で紹介されている。
     また、 チェルノブイリ原発とチェルノブイリ市街は直線距離で15キロ離れているのだが、そのチェルノブイリ市も、立ち入りは可能なものの居住は禁止で「 大人はいても、子供はだれひとりいない 」と書いている。
     櫻井よしこが紹介する「浜通りの人々」が訪れたチェルノブイリと、東氏、津田氏らが訪ねたチェルノブイリは、同じ場所なのか?
     どういうことなのかスタッフの時浦に調べさせたら、櫻井よしこがその「浜通りの人々」の代表と話している動画のページを見つけてきた。そしてそのページには、「浜通りの人々」が訪れたのはチェルノブイリではなく「 スラブチッチ 」と書いてあった!
      スラブチッチとは、チェルノブイリ原発から約50キロ離れた比較的放射線量の低い地域に作られた、 移住都市 である。
      櫻井は、全く別の場所であるスラブチッチを「チェルノブイリ」と書いたのだ!!
     完全な、嘘だったのである!!
     櫻井のコラムは、すべてが疑問だらけである。
     例えば、こんなことを書いている。
     ウクライナの首都キエフでは国立放射線医学病院を訪れ、原発事故の健康被害についても学んだ。同病院が原発職員や周辺住民約2万3千人を27年間追跡調査した結果、他地域の住民との間にがん発生率で有意の差はなかったとの分析に、浜通りの人々は驚いた。チェルノブイリの放射線拡散量は福島の50倍といわれているのに、である。
     チェルノブイリ原発事故後25年の2011年4月にウクライナで行なわれた キエフ国際科学会議に、ウクライナ政府(緊急事態省)は報告書を提出したが、その内容は櫻井が紹介しているものとは全く違う。
     この報告書は最も多くのページを住民の健康に関する部分に割き、 原発事故の被災者の間に深刻な健康被害が発生していると訴えている。
     ウクライナ政府はキエフ国立記録センターで、被災者236万人余の健康状態を追跡したデータを一括管理しており、報告書はこのデータを根拠としている。そして執筆者は、事故前から現地で診療活動をして、事故後25年に亘って汚染地帯の住民を見続けてきた35人の現場の医師たちである。
      この報告書では、被災地域の住民に甲状腺疾患、白内障、心筋梗塞、脳血管障害などが増えており、その原因の一つが放射線であるという見解を示している。
     中でも深刻なのは、子供たちの被害である。
      事故で被曝した人から生まれた32万人の子供を調べたところ、1992年には子供のうち22%が健康、20%が慢性疾患を持っていた。
      それが2008年には、健康な子供がわずか6%に減少。逆に慢性疾患を持つ子供は78%に増加していた。
     事故後に生まれ、汚染地域で育った子供の78%に慢性疾患が見られる!
      だがIAEAなど国際機関は、甲状腺がんなど一部の病気以外は未だに「放射線の影響とは科学的に認められない」としている。
     この報告書についてはNHKが2012年9月23日にETV特集「チェルノブイリ・汚染地帯からの報告」として放送、取材内容は『低線量汚染地域からの報告 チェルノブイリ26年後の健康被害』という本にもまとめられている。
     また、ウクライナ政府報告書の健康被害に関する部分は、市民団体によって日本語訳され、ネットに公開されている。
    http://archives.shiminkagaku.org/archives/csijnewsletter_010_ukuraine_01.pdf
      果たして、「浜通りの人々」を驚かせた「国立放射線医学病院」とは一体何者なのだろうか!?
      平然と「スラブチッチ」を「チェルノブイリ」と偽装して書くデマ女・櫻井が言っていることである。必ずここにもカラクリがあるはずだ。
     さて、わしは先日NMB48のゲネプロを見るため大阪に行ったが、その新幹線の車内で「WEDGE」という雑誌を見たら、たまたまこの「浜通りの人々」のウクライナ訪問の「完全密着レポ」が載っていた。
     「WEDGE」は東海道・山陽新幹線の車内誌としてJR東海グループの出版社が発行している月刊誌で、一部書店やキヨスクでも売っている。
      JR東海の葛西敬之会長はゴリゴリの原発推進派である。 原発がなければ、バカみたいに電気を食うリニアモーターカーが動かせないからとも言われるが、そのため「WEDGE」の論調も以前から原発推進一色で、この「完全密着レポ」にも、あらゆるインチキがちりばめられている。
  • 「『次は紀子さまを叩け!』バッシングの背景にあるもの」小林よしのりライジング Vol.62

    2013-11-19 16:45  
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    「雅子さまが回復なら、次は紀子さまを叩けという俗情」
     皇太子・雅子妃両殿下は今月2日、岩手県の被災地をご訪問。雅子さまにとっては、3年9カ月ぶりとなる泊りがけのご公務となった。
      雅子さまのご病気が徐々に回復の傾向を見せていることは、実に喜ばしいことである。 また、雅子さまはご病状が思わしくなかった間もずっと被災地の人々に想いを寄せられていたことも、広く知られるようになってきた。
      これまでさんざん雅子さまをバッシングしてきたメディアは、恥を知れ! …と言いたいところだが、どうせこういうことをやってる輩は、自分たちがどれだけ間違ったことを書き立て、どんなに人を傷つけようが、そしてその過ちがいくら明白になろうが、決して誰一人反省なんかしない。
      皇族という「反論できない身分」の方々に、嘘の情報で非難を浴びせる、いわば言論テロリストのような連中なのだ。
     しらばっくれて尊皇派のふりをするのがオチである。
     現にかつて皇后陛下をバッシングして失声症にまで追い込んだ週刊誌の編集長が、最近はそんなことなどなかったかのように皇后陛下をほめ称え、「それに引きかえ雅子妃は…」という論調で雅子さまをバッシングした例もある。
     今度も雅子さまが叩きにくくなったとなれば、連中はそれまでのことなどなかったかのように手のひらを返し、雅子さまを持ち上げて、それをダシにして他の皇族をバッシングし始めるだけなのだ。そして、その動きは既に始まっている。
     週刊新潮11月7日号に、 『ご不満「紀子妃」についた不敬なニックネーム』 という特集記事が載った。
     記事は、秋篠宮妃紀子殿下の最近の態度に対して、周辺から批判の声が上がっているというものだ。
     秋篠宮殿下と悠仁さま、家に皇位継承権者を二人も抱え、そのプレッシャーに対する気負いから、紀子さまが周囲の人にきつく当たるような場面が多く見られるとして、「宮内庁の宮務課関係者」がこう言う。
    「 ご公務の際などは、にこやかでおっとりしたお話し方でお馴染みですが、実際の妃殿下は正反対です。宮廷に詰める職員に対しては、いつも早口で次々とご用件をまくし立てられ、指示が出される場には張り詰めた空気が漂っています 」
      まさにデジャ・ヴュである。これは、20年前に皇后陛下を失声症にまで追い込んだ時のバッシングと全く同じ論旨なのだ。
     あの時も、「現役宮内庁職員」を名乗る正体不明の者が、皇后陛下は「 普段は慈愛に満ちたお顔からも分かるように優しいお方なのだが 」としておいて、実際の皇后は「癇性」で、職員たちに対しては失敗を厳しく叱ったり、お気に召さないことがあると延々と小言を言ったりするので、緊張感が絶えないなどと書いていた。
     まるで写したかのように、まるっきり同じなのである。
     紀子妃殿下はご結婚以来、一貫して皇后陛下をお手本として振る舞ってこられたことは知られているが、まさかバッシングの論法まで一緒になるとは思いもしなかったであろう。
     記事にはこの「宮務課関係者」による紀子妃バッシング発言がもう一つ載っている。
    「 悠仁さまのご誕生前とは打って変わり、ご一家を警護する皇宮警察の担当者らにも、めっきりお声かけをなさらなくなりました。仰ることはご自身のご要望と苦情ばかり 」
     そして、注目してもらいたいのはその続きである。
    「 意外なことに、雅子妃の方が、まめにご自身の担当にお言葉をかけ、和やかに懇談されているほどです 」
     こんな話は、今まで週刊新潮は決して載せなかった。別に雅子さまが最近になって急にお声かけをするようになったわけじゃないだろうし、急に週刊新潮が雅子さまに好意的になったわけでもない。
      ただ単に「雅子さまにひきかえ紀子さまは…」と叩くダシに使えるから載せてるだけなのだ。
     週刊新潮は、このようなことから疲弊した職員や皇宮警察の一部に、「紀子」を「のりこ」と読んで秘かに「 のりぴい 」と呼ぶ者がいるという、どうでもいいような話を載せて「不謹慎というほかない」とわざとらしく憤ってみせ、これを「 不敬なニックネーム 」と記事タイトルにまでしている。
      自称保守雑誌の皇室バッシング記事は、必ず「自分は皇室のことを思っているからこそ、あえて書いている」という見え透いたポーズをとって書かれる。
     これもそんないつもの手口だが、本当に不敬なのは「 雅子妃バッシングがやりにくくなったから今度は紀子妃だ! 」とばかりにこんな記事を載せている週刊新潮ではないか!!
     しかもその半月後には、これと全く同じ趣旨の後追い記事が週刊現代11月23日号に載った。
     今年6月に週刊新潮が「 雅子妃が皇后に不適格だから、皇太子が将来天皇に即位しても、短期間で秋篠宮、そして悠仁さまへと皇位を『禅譲』させるプランを宮内庁が進めている 」という完全事実無根の記事を載せた際も、週刊現代はすぐ翌週に後追い記事を載せている。
     とはいえ週刊現代は必ずしも「男系固執・雅子妃バッシング」の週刊新潮と歩調を合わせているわけではなさそうで、11月9日号では女性天皇誕生の可能性にも触れつつ、雅子さまについて好意的に書いた記事を載せている。
     記事を見ると、週刊現代編集部には皇室に関する知識を持っている人が全くおらず、外部から持ち込まれた情報をそのまま載せていそうな状況が窺える。おそらく週刊新潮と週刊現代を行き来し、無知な週刊現代を利用して皇室バッシング記事の拡散に努めている人物が存在するのだろう。
     週刊現代記事のタイトルは『 日本の「国母」になる紀子妃の大研究 』である。紀子さまを「 将来の国母 」とする表現は週刊新潮にも見られるが、ここにとんでもない無知と不敬が表れている。
  • 「恐くないのか、特定秘密保護法案?」小林よしのりライジング Vol.61

    2013-11-12 13:25  
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    「恐くないのか、特定秘密保護法案?」
     アメリカ国家安全保障局(NSA)と中央情報局(CIA)が、世界の指導者の電話を盗聴していたという事実が発覚した。ドイツのメルケル首相は11年前から盗聴されていたという。
     これに関連して世耕弘成内閣官房副長官は、テレビ番組(11月2日・日本テレビ「ウェークアップ!ぷらす」)で「 オバマ大統領の電話は絶対傍受されないようセキュリティされているそうですが、安倍首相の電話はどうなんですか? 」
    と質問され、こう答えた。
     「 そんなことは答えられるわけないじゃないですか。常識で判断してくださいよ 」
     こんなヘンテコな答えがあるだろうか?
     具体的に、どんなセキュリティシステムを敷いているかと聞かれれば、それは答えられないのは常識だ。 しかし、セキュリティをしているか、していないかぐらいは答えられるはずだ。というか、こんな時はたとえやっていなくても嘘でも「 している 」と言うものだ。
     世耕は案外嘘のつけない人なのかもしれないが、褒められたものではない。 世耕の発言を「常識で判断」すれば、「 安倍首相の電話のセキュリティは、何もしていない 」と解釈するしかない。
     そうしたら案の定、その事実を証明する報道が出てきた。
     「サンデー毎日」11月17日号に、衝撃的な記事が載っている。
      今年9月上旬、米国防総省の中枢に、NSAとCIAの連名によるリポートが届いた。 その内容は、安倍首相が10月の靖国神社・秋の例大祭に参拝するために、周囲と協議をしているというものだったという。
     そして驚くべきことに、そこには首相官邸でいつどのような会話が交わされたか、日時まで特定して書き起こされていたというのだ。
     「 政権が長期になるので参拝を焦る必要はない 」
     という発言に対して、安倍首相などが
     「 中国や韓国との関係が修復できる気配がない今こそ、参拝に踏み切る絶好のタイミングだ 」
     と主張し、この意見が優勢だったと記されていたらしい。
     首相官邸の会話を、まるでリアルタイムで見聞きしてきたようなリポートが米国防総省に届いている!
     情報提供者の、オバマ大統領のブレーン機関関係者はこう語っている。
    「 堂々とスパイが潜り込んでいるとは思えません。何らかの手段で、通信を傍受していたとみるのが自然でしょう 」
      そのリポートのタイトルはなんと「 増長と暴走の止まらない日本と、有効な制御策 」だったという。
     米国政府は9月の時点で、安倍が10月の例大祭に靖国参拝をしようとしていたのを「 増長と暴走 」と捉え、「 有効な制御策 」を講じていたのだ。 そしてそれが功を奏し、周知の通り安倍晋三は秋の例大祭の靖国参拝を見送ったのである!
     首相官邸内の会話が米国政府に筒抜けになっていて、完全に首根っこを押さえられている状態だというのに、それでも一切「秘密保護」をしようともしない 安倍政権が、自国民に対しては「 特定秘密保護法 」の網をかけようとしている。 これに危機感を覚えなかったらどうかしている。
     以前から自称保守派は全員一致で、「日本はスパイ天国」であり、安全保障のために秘密保護の法律を制定すべきであり、それに反対するのは「左翼」であり、外国勢力に与する者だと主張してきた。だがやはり、自称保守派が全員一致で唱えることは常に間違いだったのだ。
      そもそも、安全保障上の秘密漏洩を防止する法律は既に整備されている。
      2001年、自衛隊法の改正によって防衛秘密保護制度が導入され、指定された情報が漏洩した場合、5年以下の懲役が科せられるようになった。
     また、国家公務員法・地方公務員法では守秘義務違反は1年以下の懲役で、教唆・共謀した民間人も処罰対象となっている。
     他にも、 日米地位協定の実施に伴う刑事特別法 というものがあり、米軍機密を不当に探知、収集、漏洩した者は10年以下の懲役、陰謀した者は5年以下の懲役となる。
     なんで米軍機密の方が自衛隊の機密より重いのかという疑問も湧くが、とにかく、それでも 安全保障上の秘密漏洩が懸念されるなら、これらの法を改正すれば済む話で、新法を制定する必要などないのである。
     10月31日放送のテレビ朝日「モーニングバード!」の「そもそも総研たまペディア」では、この法案の問題点について切り込んでいた。
     VTRには日弁連・秘密保全法制対策本部事務局長の清水勉弁護士が登場。『ゴーマニズム宣言』では薬害エイズの際に登場し、オウム真理教との裁判ではよしりん弁護団の一員だった人である。
     清水氏は今回の法案について、「 条文に定義されている『秘密』の範囲が非常に広くあいまいで、それが処罰とリンクされているため、処罰範囲がどこまで広がるか分からないという非常に重大な問題、欠陥がある 」と指摘する。
     わしもいくつか裁判を経験して、もうイヤというほど思い知らされたことだが、 法律というものは細かい条文の解釈次第でどうにでもなる。 ほんの些細な表現の違和感も、決して放置してはならないのだ。
      法案では、まず「 テロリズム 」の定義がおかしい。
     「テロリズム」とは「暴力行為によって政治上その他の主義主張を他者に強要する行為」である。世界中どこでもそういう定義である。
     最近、バイト先での悪ふざけ画像をツイッター等に投稿する行為が「バイトテロ」と呼ばれ、山本太郎が天皇陛下に手紙を渡したことまで「手紙テロ」という馬鹿までいて、単に「非常識な行動」を「テロ」というような風潮が出てきているが、これが「テロリズム」の定義から完全に外れていることは言うまでもない。
     ところが、特定秘密保護法案におけるテロリズムの定義は、明らかにおかしい。
     繰り返すが、常識的なテロリズムの定義は「 暴力行為 によって 、政治上その他の主義主張を他者に強要する行為 」である。
     ところが、法案では「 政治上その他の主義主張を他者に強要する行為、 又は そのための暴力行為 」となっている。  これは似ているようで全然違う。
  • 「山本太郎の天皇陛下への直訴は政治利用なのか?」小林よしのりライジング Vol.60

    2013-11-05 20:50  
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    「山本太郎には天皇を『政治利用』する力などない!」  山本太郎参院議員が園遊会で福島第一原発事故に関する手紙を、天皇陛下に直接手渡したことが、天皇の政治利用だと非難されている。
     政治的に議論のある案件を書いた手紙を天皇陛下に手渡すのは、国会議員として良くない。 まさにその政治的案件を国民の代表として議論するために国会議員になったのではないか!
     当選してさっそく陛下に陳情するような情けない国会議員では、国民から見れば頼りにならない。
     さらに天皇は権力を持っていない。権力を持っているのは国会議員であり、時の政権与党である。国会議員ならば、権力を取って政策を実行することに、全力を尽くさねばならない。
     天皇陛下は被災地のことも、原発のことも、放射能のことも、すべて知っておられる。山本太郎よりも知っておられるかもしれないのに、畏れ多いと思わなかったのだろうか?
     知っていても、権力がないから、被災者を励まし、汚染された国土の回復のために祈っておられるのだ。
     天皇陛下の役割と権限の限界、政治権力との距離について、山本太郎は勉強すべきだろう。参議院は良識の府ではないか!
     だが同時に、山本太郎は極左がバックについていると噂されていたが、どうやら本人自身は自覚的な左翼イデオロギーの人ではなさそうだ。
     左翼なら、天皇に直訴しようなんて発想自体、浮かぶわけがない。それは天皇に何らかの政治的な力があると思い込んでいるから、やれることである。山本太郎は天皇陛下に「権威」を感じているのだ。
      山本太郎は、天皇を「民の父母」と感じる、実に素朴な庶民感覚の人のようだ。
     放射能で社稷(しゃしょく)が汚されている、国の宝である子供たちの健康が脅かされている。その事実を天皇陛下に知っていただきたいというやむにやまれぬ思いで、後先考えずに行動してしまったのだから、やったことはほとんど右翼青年みたいなものだ。
     最近の右翼や自称保守は「社稷」という言葉すら知らないだろうが、それは神と五穀が宿る郷土のことである。
     「ゴー宣道場」の門弟が、「 本来なら山本太郎は、国民として天皇陛下に謝罪文を渡せば良かった 」と主張していた。これは筋の通った意見である。
      福島という国土の一部が、人を拒絶する地域になってしまった。社稷を汚したのは国民である。原発の恩恵を受けて、その危険性を見くびっていた。
      本来、国民は天皇陛下に謝罪しなければならないはずだ。
     だが、山本太郎を非難する与野党の議員たち、自称保守派の者たち、ネトウヨらは、そのような感覚を持っているだろうか?
     否である。それどころか、原発推進派という自らのポジションに固執して、脱原発派が嫌いだからこそ、山本太郎に「天皇の政治利用」というインネンをつけているのだ。これは完全なポジション・トークである。
     それでは言うが、「 天皇の政治利用 」とはどういう意味なのか?
      天皇や皇族を動かして、その行動を通して特定の政治目的を達成しようとすることが、「政治利用」のはずだ。
     しかし、山本太郎の手紙を受け取ったからといって、天皇陛下がその意を受けて、特定の政治目的のために動くことはない。
     八木秀次という皇位継承の「Y遺伝子説」を唱えた馬鹿な学者がいるが、今回の山本太郎の件を、 政治利用「未遂」 などと言って批判している。
     「未遂」なら政治利用にはなっていないし、山本太郎が「 未遂 」ならば、もっと明白な「 既遂 」があったではないか!
      すでに遂行してしまった「政治利用」は、オリンピック招致という政治目的のために、高円宮妃殿下をIOC総会に出席させた件である!
      あるいは、沖縄県民の強い反対を押し切って、陛下のご出席を実現させてしまった「主権回復記念日」こそが「既遂」の「政治利用」である!
     そして、今月末に予定されている天皇皇后両陛下のインドご訪問も、「中国包囲網」作りのために政治利用されるのではないかと懸念されている。
     天皇陛下も、皇族方や宮内庁も、「政治利用」になるような行動は避けるように、常に細心の注意を払っている。
      それをゴリ押しして、無理やり「政治利用」につながる行動を取らせるなんてことは、その時の政権にしかできないのである!
     一議員が手紙を渡したところで、それは政治利用でも何でもない!
     社会的に注目を集めることだけでも「政治利用」に当たるというような批判もあるが、それはかなり牽強付会である。
     そんなことを言い出したら、天皇皇后両陛下に関わるものは何だって社会的に注目を集めてしまうのだから、その行きつく先は、両陛下は何もできない、言えないということになってしまう。
     例えば今回の園遊会で天皇陛下が心臓バイパス手術後のリハビリの際、BGMに由紀さおりの『夜明けのスキャット』を聞いていたという話を明かしておられたが、このことで『夜明けのスキャット』がまた注目を浴び、CDセールスにつながったりすると天皇の「公平」が損なわれるから、両陛下がそんなことをおっしゃるべきではない、なんて意見も成立してしまう。
     これは冗談で言っているのではない。20年前には「昭和天皇は見ているテレビ番組も、好きな力士の名前も言わなかったのに、今の天皇皇后は自分の好みを言い過ぎ、『公』の精神に欠ける」と言って両陛下をバッシングする論調が本当にあったのである。
     山本太郎は、もし政治宣伝のような意図があるのなら、陛下に渡した手紙自体をもう公表していると言っている。確かにそうで、とにかく思いを伝えたかったということだろう。
     山本太郎に対しては、下村博文文部科学大臣が「議員辞職ものだ、政治利用そのものだ」と批判している。
      宮内庁に高円宮妃殿下のIOD総会出席を直接要請し、正真正銘の政治利用を行なった張本人である下村博文が!!