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記事 15件
  • 「山口敬之の慰安婦ねつ造記事」小林よしのりライジング号外

    2020-01-28 19:00  
    100pt
     最新刊『慰安婦』が明後日・30日、幻冬舎から発売される。
     これは、わしが24年前に参戦したいわゆる「従軍慰安婦論争」の集大成であり、特に当時のことを知らない人に読んでほしいという思いを込めて作った本である。
     
     あの当時は自虐史観全盛で、慰安婦といえば問答無用の被害者であり、日本は謝罪するのが当然、それに異を唱えるような奴は極悪人という全体主義的な空気が完全に出来上がっており、わしは出版界から干されることまで覚悟して戦いに挑んだ。
     その戦いは熾烈を極めたが、幸いにして奇跡的な勝利を収めることができ、自虐史観の空気は薄められ、少なくとも国内においては慰安婦の実相というものがかなり知られるようになった。
     その経緯はライジング読者の方ならご存じだろうとは思うが、しかし、それも20年前のことである。時代は一瞬たりとも止まってはいない。下からどんどん当時を知らない世代が育ってくる。それをいいことに左翼は、とっくに論破された詭弁をそっくりそのまま繰り返し始め、若い世代を洗脳しようとしている最中だ。
     そうなるとこちらも対抗する手段を取らなければならない。『慰安婦』はそのための本である。
     そしてさらに問題なのが、保守側の連中である。
     わし自身の使命は、自虐史観全体主義の時代に風穴を開けたところで終わったものだと思っていた。わしには他にも描きたいものが山ほどあって、いつまでも慰安婦問題ばかりやっているわけにもいかないし、保守論壇には他にも人がいっぱいいるのだから、後は誰かが引き継いでやってくれるものだと思っていたのだ。
     ところが実際には、日本の保守論壇にいたのは自称保守・エセ保守ばかりで、本物の保守は全然いなかった。その劣化の度合いはすさまじく、左翼の企みに対して全く対抗できないばかりか、自ら事態を最悪の方向に追いやってしまうオウンゴールを連発して、慰安婦は「性奴隷」だったという認識を海外に定着させてしまった。
      そして安倍首相は日米首脳会談で、ブッシュ米大統領(当時)に対して慰安婦問題について謝罪し、共同記者会見で慰安婦とは「20世紀の女性の人権侵害」だったと認める発言をしてしまった。
     しかし自称保守の連中は、その失点に気づいてもいないという呆れ果てた有様なのである。
     そうなると結局は、わしが戦うしかないということになる。これも、『慰安婦』を出版することになった理由の一つである。
     今回はそんな『慰安婦』の出版を記念して(?)、慰安婦問題における自称保守の劣化の極みと言うべき事例を紹介しておこう。
     週刊文春2015年4月2日号に 「歴史的スクープ 韓国軍にベトナム人慰安婦がいた! 米機密公文書が暴く朴槿恵の“急所”」 と題する記事が載った。
      記事の筆者は、「あの」山口敬之!  伊藤詩織さんをレイプした犯人であると東京地裁に認定された、総理ベッタリ記者の山口敬之である。
     その内容は、 「ベトナム戦争当時、韓国軍が南ベトナム各地で慰安所を経営していた」 というもので、山口が全米各地を取材して「韓国兵専用の慰安所がある」と米軍当局が断定している公文書を発見、さらに証言者のインタビューで裏付けを得た…というものだった。
      だが、この記事は完全に捏造だったことを週刊新潮が暴いたのである。
  • 「アフガニスタン・ペーパーズ」小林よしのりライジング Vol.342

    2020-01-15 12:15  
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     これは決定的に重要だ! と思うようなニュースが、それほど大した扱いもされずに一度サラっと報道されただけで忘れ去られていくというようなことが、最近特に多いような気がする。
     いわゆる 「アフガニスタン・ペーパーズ」 のニュースなど、その最たるものである。
      昨年12月9日、アメリカの有力紙「ワシントン・ポスト」は、2001年から18年間にもわたって続いているアフガニスタンでの軍事作戦や復興支援が、完全に失敗していることをアメリカ政府高官らが認識していながら、国民に隠蔽していたとする内部文書を入手・公表した。
     この文書はアメリカ政府の「アフガン復興担当特別監察官室(SIGAR)」が、政府や軍高官、外交官、援助関係者ら600人以上から聞き取り調査をしてまとめた2000ページに及ぶ証言記録で、正式名称は「Lessons Learned(得られた教訓)」という。
     当初は機密文書に指定されてはいなかったが、2016年8月にポストが公開を求めるとSIGARがこれを拒み、国防総省や国務省が介入して文書の一部を機密扱いにして、当たり障りのない部分しか公開されなくなった。
     そこでポストは情報公開法に基づいてSIGARを連邦裁判所に提訴し、3年もの情報公開請求と2度の法廷闘争という執念の活動の末にようやく入手したのだった。
     ただし公開されたのは600人以上の調査のうち428人分で、政権関係者や軍高官らの名前の大半は「黒塗り」にされ、実名を明かしたのは62人分だけだったため、ポストは全員の公表を求め今も裁判中だという。
     ポストはこの文書を 「アフガニスタン・ペーパーズ その戦争の隠された歴史」 と題した大々的な記事にして公表した。
     アフガニスタン・ペーパーズという名称は、1971年にニューヨーク・タイムズが入手・公表し、ベトナム戦争の行方に決定的な影響を与えたアメリカ国防省の機密文書 「ペンタゴン・ペーパーズ」 に由来している。
     ペンタゴン・ペーパーズには、ベトナム戦争の全面化につながった1964年の「トンキン湾事件」(北ベトナムがアメリカの軍艦に砲撃を加えたとされる事件)が、実はアメリカ側が仕組んだものであり、その3か月前には開戦のシナリオを完成させていたことが書かれていた。
     そしてさらにペンタゴン・ペーパーズで暴かれた重大な事実は、 ベトナム戦争には勝てる見込みがないことを知りながら、歴代政権が議会や国民に対して正確な情報を隠蔽し続けていたということだった。
     ケネディ、ジョンソン、ニクソンの歴代大統領は、自分の就任中にベトナム撤退という決定的敗北を認める決断を下せば、国内の反共主義者から猛攻撃を受けてしまうということを恐れ、「この戦争は近いうちに終わる」と嘘をつき、問題の先送りをしていた。
      そして政府の世論操作に有識者や有力メディアも騙され、国民は戦争が早期に終わると思い込み、アメリカの青年たちが戦争に送られて数万人が命を失い、 ベトナムの民衆は数十万人の単位で殺戮されていたのだった。
     ペンタゴン・ペーパーズをリークしたのは政府系シンクタンク「ランド研究所」の職員だった、ダニエル・エルズバーグという人物である。
     ランド研究所は国防総省の外部委託研究を行う機関で、ペンタゴン・ペーパーズの作成を委託され、エルズバーグもそのスタッフの一人だった。
     エルズバーグは政権に忠実・誠実な仕事をしてきた官僚タイプの人物だった。しかし、7000ページに及ぶペンタゴン・ペーパーズの全文を読み通し、ベトナム戦争の真実を知ったエルズバーグは、ベトナム戦争を終結するには米軍が完全無条件に撤退する以外にないが、このままでは永遠にそれが実現する見込みがないということを知る。
      そして戦争を終結させるためには、政府の機密文書という動かぬ証拠を暴露するしかないということを悟った。
     かくしてエルズバーグは7000ページの報告書をコピーして持ち出すという、命がけの内部告発に踏み切ったのだった。
     エルズバーグは合衆国法典793条E項違反で逮捕された。 スパイ法違反で法定刑は10年以下の懲役か罰金刑の併科、または選択刑である。だがエルズバーグは会見でこう言った。
    「もし私のしたことが戦争を終わらせるのに少しでも役立つなら、10年間刑務所入りしても安いものではないか」
     エルズバーグは大統領に忠誠を誓い、仕えてきた人間だった。それがこのような行動を起こしたことについて、後に彼は「大統領に対する忠誠心よりも、もっと深く広い忠誠心、長い間みられなかった忠誠心」を奮い立たせたためであるとして、こう語っている。
    「それはアメリカの建国理念、アメリカの憲法体系、アメリカ国民、自分自身の人間性、そしてアメリカの “同盟国” とアメリカが爆撃している民衆への忠誠心である。」
     エルズバーグは起訴されたが、ホワイトハウスの情報工作機関がエルズバーグの信用を失墜させるために、彼が診察を受けていた精神科医の事務所に侵入してカルテを盗もうとしたことが判明し、「政府の不正」があったとして裁判は却下された。
  • 「伊藤詩織氏、勝訴!」小林よしのりライジング Vol.340

    2019-12-24 21:40  
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     伊藤詩織さんの勝訴、久しぶりにいいニュースを聞いた気がする。
     わしはなぜか伊藤さん以外で唯一山口敬之から名誉毀損で訴えられたが、これでメディアは委縮したのか、週刊新潮など一部を除いてこの件をほとんど扱わなくなっていた。
     そんな苦しい状況の中でわしはひとり戦い続けていたのだが、 今回の判決が出るや、メディアは堰を切ったように、当たり前のように伊藤さんを被害者、山口を加害者と見る扱い方で報道している。
     またこのパターンかとは思うが、これも健全な常識の回復だと前向きに評価しておくことにしよう。
     判決は、伊藤さんの完全勝利と言っていい内容である。
     判決後、支援者に向けた報告集会が行われ、弁護団の村田智子弁護士が判決の解説をした。
     1100万円の賠償請求に対して330万円という判決は安いんじゃないかと思ってしまうが、この金額は今の日本の裁判の相場では決して低くはないという。
     そもそも日本の民事裁判の慰謝料の相場そのものが安いという問題はあるのだが、裁判結果の評価としては、330万円というのは「高くはないけれども、決して恥ずかしい金額ではない。立派な金額」なのだそうだ。
     さらに村田弁護士は、伊藤さんの勝因は非常にシンプルで、裁判官が伊藤さんと山口の供述を比べて、伊藤さんの方が信用できると判断し、その供述に沿った事実認定をしたからだという。
     第一には、 伊藤さんが寿司屋を出てホテルに連れていかれる前の時点で、すでに強度の酩酊状態にあったことが、ホテルの防犯カメラの映像などから認定されたこと。
     第二には、 伊藤さんの供述が一貫していること。
     第三には、 事件直後の伊藤さんの行動が、「シャワーを浴びることなく立ち去った」「その日のうちに産婦人科でアフターピルを処方してもらった」「数日後に友人らに相談し、その後あまり間をおかずに警察に相談した」など、いずれも「意に反して性行為が行われたこと」の裏付けとなっていること。
     そして第四に、 伊藤さんには嘘をつく動機が見当たらないこと。
     逆に山口の供述が信用できないと判断された理由は、第一にその供述が合理的ではないこと。例えば、 寿司屋から恵比寿駅まではわずか徒歩5分ほどの距離なのに、寿司屋を出てすぐ伊藤さんをタクシーに乗せ、ホテルに連れて行ったことに合理的な理由が認められない。
     第二には、 山口の供述が変遷していること。特に事件直後のメールでは、伊藤さんが山口の寝ていたベッドに入ってきたと書いていたのに、裁判所での本人尋問では、伊藤さんに呼ばれて、山口の方が伊藤さんのベッドに移動したと、正反対になったところは大きかったようだ。
     そして、判決で特に画期的だったのは、「性犯罪被害者の心理について、きちんと理解している」というところだった。
     山口は、ホテルのバスルームには電話機が設置してあったのに、なぜ伊藤さんはバスルームに逃げ込んだ時、電話で外に連絡しなかったのかなどと言っていたが、これについて判決文では 「原告の供述によれば、原告がバスルームに入ったのが、目が覚めて被告から性交渉されていることに気付いた直後である。動揺して自らの置かれている状況が把握できず、冷静な判断ができない状態であったことは、容易に推察されるから、電話機を使用して外部への連絡をしなかったことが不自然であるとは言えない」 と明確に認定している。
     また山口は、事件の数日後に伊藤さんが山口に、「無事にワシントンに戻りましたか?」とか「ビザはどうなりましたか?」といった、何事もなかったかのようなメールを出したことを挙げて、これは性行為に伊藤さんの同意があったからだと主張したが、これに対しても判決は 「同意のない性交渉をされた者が、その事実をにわかに受け入れられず、それ以前の日常生活と変わらない振る舞いをすることは充分にありうる」 と認定し、山口の主張を一蹴している。
     そしてさらに大きな意味があるのは、 伊藤さんがいろいろと公表したことは 「真実」 だと認め、それを公表したのは 「公益目的」 である として山口の「売名行為だ」との主張を退けたことである。
  • 「セカンドレイプ魔・小川榮太郎」小林よしのりライジング号外

    2019-09-10 16:10  
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     日本人は、未だに近代人にはなっていない。
     野蛮人としか言いようのない、知性も品性もない人間が「知識人」の扱いで「言論誌」に論理のかけらもない文章を載せている。
     しかもその内容が、レイプ被害者を侮蔑・嘲笑する「セカンドレイプ」以外の何物でもない代物なのだ。
     こんなものが平気で流通しているということだけは、決して海外には知られたくない。
    「月刊Hanada(10月号)」に、自称文芸評論家・小川榮太郎の 『性被害者を侮辱した「伊藤詩織」の正体』 と題する文章が載っている。
     詩織さんは性犯罪被害者のまさに当人なのに、その人をつかまえて「性被害者を侮辱した」とは、一体どういうつもりだろうか?
     まあ小川の目的が、詩織さんをレイプした容疑で逮捕状が出ていながら、逮捕を免れたジャーナリスト(元ジャーナリストか?)Yの擁護にあることは、読まなくてもわかる。小川もYも、共に安倍政権の提灯持ちである。同じ提灯を持つ者同士、お仲間意識も連帯感も相当に強かろう。
     文章は冒頭、熱海のホテルにおけるYの様子の描写から始まる。
     詩織さんがYを訴えた民事訴訟の裁判が行われた日、小川がYを熱海に誘ったそうで、小川は 「人生を賭けた裁判の疲労は並々ならなかっただろう」 とYをいたわっている。
     そして小川は、Yの父親が事件のショックから体調を崩し、昨年亡くなったことに触れ、 「私も先年、父を亡くした。レイプ犯の汚名を着た息子が孤立するなかで、病重くなり続けた氏の父上のことを思う都度、私は何度いたたまれぬ思いにかられたことだろう」 と、深い同情の気持ちを表明している。
     案の定、完全にYの味方をするつもりで書いている文章である。
     ところが信じられないことに、小川はこれだけYに肩入れしたすぐ後に、ヌケヌケと 「が、この件に情実は、絶対あってはならない」 と言ってのける。
     そしてさらに、 「私は山口氏を『信じる』という選択は、この件では全くするつもりはなかったし、してはならないと思っている」「私は、山口氏を信じるのではなく、証拠資料、証言を通じて、より真実に近い当日の出来事を知りたいと思った」 と強調して、中立・客観的な立場でこの件を論評するかのような態度を装うのだ!
     一体、どのツラ下げて?
     あれだけ、Yと個人的に親しいことを自ら明かし、Yの無実を願って死んだであろう父親に同情し、Yが父を死に追いやるような親不孝をしたのではないかとは露ほども疑っていない心情を吐露している人物が、今さらこの件を中立の視点で検証するなどと言ったところで、どこの誰が信用するか?
     この客観性皆無の頭の悪さには本当に驚く。フリチンで街中を闊歩しながら、「私は露出狂ではない!」と叫んでいるようなものである。
     Yはホテルの自室に詩織さんを連れ込み、性交したことは認めている。
     そこで争点は、その性交がレイプだったのかどうかに絞られる。
      レイプか否かを決定づける最大の要件は、「合意の有無」である。
     合意なく行われた性交はレイプ。それに尽きる。
     ライジングVol.307(https://ch.nicovideo.jp/yoshirin/blomaga/ar1743157)や『ゴーマニズム宣言』第50章「レイプ裁判の判決がおかしい!」(「SPA!7月2日号」)で詳述したように、現在の日本の裁判では「抗拒不能」(抵抗・拒否できない)という要件が過剰に考慮され、理不尽な判決が連続しているが、あくまでも第一に考えなければならないのは、というより、唯一考慮すべきなのは、「合意の有無」であると言っていい。この認識は、今日の世界的な潮流として定着しつつある。
     ところが小川は信じられないことに、最重要の要件である「合意の有無」を 「密室のことで、判定のしようはない」 とあっさり放り出し、完全に論点から切り捨ててしまうのだ!
     これでは話にならない。 小川は法的・社会的にレイプがどう定義づけられているのか、特に最近はどう考えられているかを一切調べようともせず、完全な無知のまま、 「合意の有無など言っても意味がない」 と決めつけているのだ。
     小川は「新潮45」の廃刊号となった昨年10月号に載せた、杉田水脈の「LGBTは生産性がない」発言を擁護する文章でも 「LGBTという概念について私は詳細を知らないし、馬鹿らしくて詳細など知るつもりもない」 と開き直り、LGBTを「全くの性的嗜好」と完全に間違ったことを平然と書き、LGBTよりも 「痴漢症候群の男の困苦こそ極めて根深かろう」 とまで暴言を吐き散らした。
     議論の前提として必要最低限の知識すら知ろうともせず、完全無知のまま、自分の思い込みだけで平気で誤りを書きまくることを常とする小川榮太郎には、根本的に物書きの資格などないのだ。
     小川は、Yが詩織さんをレイプしたとされる2015年4月3日の詩織さんの行動について、いちいち批判を加えていく。
     その日、詩織さんは靖国神社の奉納相撲の取材をした後、砂埃を浴びた服を着替えるため自宅に寄り、待ち合わせ場所の居酒屋に時間に遅れて着いているが、それに小川はこんな難癖をつけるのだ。
  • 「対韓輸出管理の反応に見るリベラルと保守の違い」小林よしのりライジング Vol.323

    2019-07-23 19:20  
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     政府は韓国向け半導体材料などの輸出規制を強化した。
     世論調査ではこれに対して 「支持する」という回答が70.7% 、 「韓国は信用できる国だと思うか」という問いにも「思わない」が74.7% にも上っている(7月14、15日 産経新聞・FNN合同世論調査)。
     わしは、これでいいと思う。
     今回の 対韓輸出規制強化 が「徴用工問題」への対抗措置なのかどうかについては、判然としていない。
     日本政府は「対抗措置ではない」とは主張しているが、その背景には徴用工問題があることを認めており、 韓国が国際法上の国と国の約束を守らないため「信頼関係が著しく損なわれ」、それにより「安保上の懸念」が生じている と説明している。
     わしはこれは正しいと思う。
     そもそも今回規制対象となった フッ化水素 などは化学兵器の生産などに軍事転用できるもので、もともと輸出規制して当然のところを、今までは信頼関係があるからということで、ほぼフリーに輸出していたのだ。その信頼関係がここまで破壊されたのだから、規制は強化して当然である。
     自民党からは「 (過去輸出した分の)行き先が分からないような事案が見つかっているわけだからこうしたことに対して措置を取るのは当然だと思う 」(萩生田光一幹事長代行)、「 今までウラン濃縮素材(フッ化水素)について韓国企業が“100欲しい”と言ったら100渡していた。しかし工業製品に使うのは70ぐらいで残りを何に使うか韓国は返答しなかった 」(小野寺五典元防衛相)といった発言があり、もっとはっきり「 北朝鮮に横流しされている 」とする報道も一部には出ていた。
      もしかしたら、政府は公式には言わないが、輸出した半導体材料がどのように流れているかの情報を秘密裡に抑えているのかもしれないし、もしそうであれば、この措置は正しいと言うしかない。
     韓国は今回の規制強化を報復と思ってギャーギャー怒っているし、日本のネトウヨなどもこれを報復だと思って、ワーワー拍手喝采している。
      わしは基本的にはこれを報復とは思っていないのだが、もし仮に報復だったとしても、もうそれでいいんじゃないかと思っている。
      ところがリベラル系の者は、こぞって輸出規制強化に反対を唱えている。
     例えば朝日新聞は3日の社説で「確かに徴用工問題での韓国政府の対応には問題がある」としながらも、 「日韓両政府は頭を冷やす時だ。外交当局の高官協議で打開の模索を急ぐべきである」 と書いている。
     東京新聞も3日の社説で 「対話の糸口を見つけ、早期収拾を図るべきだ」「確かに日韓関係は厳しい。損なわれた信頼関係を修復する努力をそれでも怠り、感情的な争いになれば、お互いが不幸な被害を受ける結末になってしまう」 と主張している。
     朝日も東京も、冷静になって話し合えと唱えているのだ。
     ここがリベラルと保守の違いなのである。
     リベラルは相手を信頼する。
     そして リベラルは、国民性の違いというものを認めない。
     人類みな兄弟、あの国の人もこの国の人も同じ人間同士。だから感情的にならず、冷静になって話せばわかると思うのだ。
      だが保守の感覚では、それぞれの国にはそれぞれの国民性があり、価値観の相違があり、これは話し合っても決して乗り越えられないと諦観しているのである。
     韓国については、もはや「反日」が国民性になってしまっていて、これを説得して変えるなんてことはできないと保守は考えるのだ。
     西郷隆盛の時代ならば、一か八かの話し合いが功を奏す可能性はあったが、それができずに、その後は日本政府が砲艦外交をやったために、両国の信頼性は失われ、朝鮮半島に「恨」が蓄積するのみになった。
     リベラルは、世界の誰とでも「話せばわかる」というが、それならば、リベラル知識人がまず話してわからせて韓国の反日をやめさせてほしい。
     だがそれは現実には絶対不可能だ。 韓国人が自分たちのアイデンティティーを保つための核が「反日」になっていて、反日をやめたら韓国は崩壊してしまう。
  • 「やっぱり慰安婦問題は終わらなかった」小林よしのりライジング Vol.322

    2019-07-16 18:40  
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     韓国に 「和解・癒し財団」 というものがあったのだが、これが登記上、正式に解散されたことがわかった。
     これでまたひとつ、安倍晋三の外交大失敗が確定した。
     財団は、慰安婦問題を 「最終的かつ不可逆的に解決」 するとして、 2015年12月28日の日韓外相会談で交わされた 「日韓合意」 に基づき、韓国政府が設立していた。
      これは日韓合意の中核となる事業であり、日本政府が国民の税金から拠出した10億円を財源に、元慰安婦には1億ウォン(約1000万円)、遺族には2000万ウォン(約200万円)の支給金の支払いなどを行っていた。
      事業の対象になったのは元慰安婦47人と遺族199人で、そのうち元慰安婦36人と遺族71人が受給を希望したという。
     ところが2017年、朴槿恵(パク・クネ)政権が倒れて文在寅(ムン・ジェイン)政権に代わると、韓国政府は 「合意には法的拘束力がない」 と言い出して日韓合意の検証作業を行い、その後、文在寅は 「政府間の約束であれ、大統領として、この合意で慰安婦問題が解決できないことを明確にする」 と表明した。
      政府間の約束でも、大統領の一存で無効にすると平気で公言するのだからデタラメにも程があるが、それが韓国というものである。
      そして昨年11月、韓国政府は一方的に財団の解散と事業終了の方針を発表し、日本政府の同意なしに手続きを進めた。 その手続きが終了して財団は正式に解散したわけだが、その際にも日本政府への通知はなされなかったという。
     これは韓国側による日韓合意の一方的破棄であり、仰々しく謳い上げた 「最終的かつ不可逆的解決」 は、たった4年も持たずに完全破綻したのだ。
     そもそも韓国は財団設立当初から「裏切り行為」を行っていたそうで、その経緯を「文春オンライン」が記事にしている。書いたのは、山尾志桜里と倉持麟太郎を追い回し、わしに対して「我々はとんでもない証拠を持っている」と見え見えのブラフをかけた赤石晋一郎だ。なんだ、マトモな記事も書けるのか。
     記事によれば、 日韓協議では両国政府が10億円ずつ拠出して「未来志向財団」のようなものを作り、慰安婦問題だけではなく、若者の留学支援など、よりよい日韓関係を築くためのバックアップを行うというプランだったそうだ。
     ところが韓国政府は10億円拠出を立ち消えにさせ、慰安婦問題のみを扱う財団を設立。当然日本政府側は「話が違う」となったが、安倍首相の目的は慰安婦問題に決着をつけ、その様子を米国始め国際社会に証人として見てもらうことにあったので、「それくらいは許容しよう」という判断になったという。
     そして財団による支給金の給付が始まると、韓国の反日団体・ 挺対協 (韓国挺身隊問題対策協議会、現在は 「日本軍性奴隷制問題解決の為の正義記憶連帯」 という、ものすごい名前になっているらしい)などによる妨害工作が始まった。
     村山政権下で発足し、元慰安婦に「償い金」を支給した「アジア女性基金」の時と同様、挺対協らは元慰安婦に 「日本の汚いお金を受け取るな」 と圧力をかけた。 「待てば倍のお金が出るから、財団のお金は受け取らないように」 と言われた元慰安婦もいた。もちろん、その後「倍のお金」など出なかった。
      元慰安婦の7割以上が支給金受け取りを希望し、中には日本国民に感謝の言葉を述べた人もいたのに、そういう事実は一切無視された。
     財団の韓国人スタッフは反対派の脅迫や嫌がらせを何回も受けた。理事長は催涙スプレーをかけられ、脅迫が家族にまで及んで辞任、ショックで外出できなくなったという。
     そして、支給金を申請した人のうち元慰安婦2人と遺族13人にはまだ支払いが済んでいなかったにもかかわらず、財団は強引に解散させられ、未払いの人たちが支給を受けられるかどうかは不明だという。
      毎度のことだが、韓国の「慰安婦支援団体」は実際には「反日」だけが目的で、問題の解決など一切望んでいない。 元慰安婦は反日の道具として利用するものとしか思っておらず、元慰安婦本人のことなど、本当はどうでもいいのだ。
  • 「トランプ大統領への手紙」小林よしのりライジング Vol.321

    2019-07-02 20:20  
    153pt
     拝啓 アメリカ合衆国大統領 ドナルド・トランプ閣下
     トランプ大統領にはこの度、素晴らしいお言葉を賜りました。
     今回のライジングでは、その感激の思いを記して大統領に捧げたいと存じます。
     思えばわしは、トランプ大統領が誕生した時からその発言に注目し、ずっと期待して参りました。
    「米国を再び偉大な国にしよう」
    「私たちは、『米国製品を買い、米国人を雇う』という2つの単純なルールに従うことになる」
    「自由貿易は恐ろしい。もし国民が賢ければ、自由貿易は素晴らしいものになる。しかし、我々の国民は愚かだ」
    「もう私たちは、この国や国民をグローバリズムの偽りの唄に溺れさせない」
    「メキシコが人々を送り込んでくるとき、それは最良の人々ではない。彼らは多くの問題を抱えた人々を送り込んでくるんだ。薬物を持っていたり、犯罪者だったり、強姦魔だったり」
     最後のメキシコ云々の発言は物議を醸しましたが、これらの発言で主張しているのは内需優先、保護主義、自由貿易・グローバリズム反対、移民制限であり、これはわしの意見とも一致する、素晴らしい政策だと思ったものです。
     北朝鮮外交ではトランプ大統領は戦争も辞さないかのように、ツイッターでこう挑発をされました。
    「北朝鮮の外相が国連で演説するのを今聞いた。もし小さなロケットマンの考えを繰り返すなら、彼らは長く続かない」
     これを北朝鮮外相が「宣戦布告」と見なし、「米国が我が国に宣戦布告をしたのだから、我々にはあらゆる対抗措置を取る権利がある」と述べた時には、ついにツイッターから戦争が始まる時代が来たかと思ったものです。
     しかし今では、大統領はツイッターで金正恩と会談したい意向を表明して、
    「もし金委員長がこの書き込みを見ていたら、握手をして挨拶をするためだけに会おうと思う」
     と書き込んでおられます。
     やっぱり大統領は、ツイッターは戦争を起こすのではなく、友好のために使った方がいいと考える、心優しいお方だったのですね。
     今はイランに対して、イスラエルを助けるために、ものすごく居丈高に振る舞っているけれども、それもきっと本心からではないのでしょう。もし偶発的にでも戦争が始まってしまったら大変なことになるということくらい、わからないはずがないですから。
     前置きが長くなりました。
     わしが素晴らしいと感じたトランプ大統領の言葉は、ズバリ「日米安保条約破棄」です。
     6月24日、米ブルームバーグ通信は大統領が「日本が米国の防衛に駆けつける義務がないのは一方的すぎる」として、「日米安全保障条約を破棄する可能性について側近に漏らしていた」と報道しました。
     この報道に対して、菅官房長官は記者会見で「米大統領府から『米政府の立場と相いれない』と確認した」と全否定、米政府側も日本の通信社などに対して「発言はなかった」と回答していました。
     ところが続く26日には、FOXビジネスニュースの電話インタビューで、大統領ご自身が 「日本が攻撃された時、アメリカは第3次世界大戦を戦い、猛烈な犠牲を払うことになるが、アメリカが攻撃されて救援が必要なとき、日本はソニーのテレビで見物するだけだ」 と安保条約への不満を公言しました。
     日米両政府が火消しに躍起になっているのも一切構わず、堂々と「日米安保条約破棄」が自身の本音であることを公言してしまう潔さは、すごいものがあります。
     思えばトランプ大統領は2016年の大統領選に当選した当時にも 「日本は駐留米軍の経費を100%払うべきだ。そうしないならアメリカ軍は撤退する。その代わりに核武装を許してやろう」 と発言しており、その考えは一貫して全くブレていません。
     とにかく「日米安保条約破棄」という、一番素晴らしいことを言ってくださって、感謝するばかりです!
      日米安保条約がある限り、日本は米軍の占領状態が継続され、主権を喪失し、軍隊を持つこともできない属国であり続ける以外になく、主権がない以上、民主主義も機能しません。
     アメリカ大統領が日米安保条約破棄に言及するということは、日本を属国にするのをやめると言っているのと同じことです。これでようやく日本が独立した民主主義国家になるチャンスが生まれてきました。これは大喜びです。パーティーでも開きたい気分です!
     トランプ大統領は24日にツイッターで 「中国は原油の91%、日本は62%、ほかの多くの国も同様にホルムズ海峡から輸入している。なぜアメリカはこれらの国のために無償で航路を守っているのか。これらの国は自国の船を自分で守るべきだ」 とも発言しています。
     全くの正論です。守りましょう、ぜひとも!
      日米安保条約さえ破棄されれば、直ちに自主防衛体制を整え、自国の船は自力で守るようにします!
     当然、沖縄から米軍基地も叩き出しますし、日本の領空を米軍が占領している状態も、すぐにもやめていただきます。オスプレイも、イージス・アショアもやめましょう! そして日本は必ずや核を自前で持ちます!
     そうすれば、日本は外交交渉も自分の意思でできます。北方領土が返還されても絶対そこに米軍基地を置かないとロシアに確約できるから、返還交渉が進む可能性も格段に高まります!
      ところがおかしなことに、日本には「日米安保は片務条約ではない」とか言って、トランプ大統領に異議を唱える人がいます。 沖縄に米軍基地を置くことで、アメリカの世界戦略に協力しているとか、しかもその駐留経費に莫大な「思いやり予算」を投じているとか言って、日本も相応の負担をしていると言い張るのです。
     親米保守派がそう言うのはまだわかるのですが、どういうわけだか最近では、左翼リベラルの論者にもそう唱える人が出てきて、「朝日より左」と言われる東京新聞までが6月29日の社説で「『安保ただ乗り論』は当たらない」と同様の主張をしており、わしは全く理解に苦しんでいます。
  • 「中高年ひきこもりは親の責任」小林よしのりライジング Vol.318

    2019-06-11 20:55  
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     中高年ひきこもりは一過性の話題では済まない。
     もはや、日本の未来を危うくする大問題となっている。
     51歳ひきこもり男が起こした川崎市の20人殺傷事件に誘発される形で、今度は76歳の 父親が44歳のひきこもり息子を刺殺する事件を起こした。
     息子を殺した熊沢英昭は、農水省トップの事務次官にまで上り詰めた元エリート官僚だった。
     殺害された息子・熊沢英一郎は、都内屈指のエリート校である私立駒場東邦中学・高校へ進むが、同校からは毎年数十人が東大に入るのに対し、英一郎が進んだのは代々木アニメーション学院だった。
     その後、数年おいて流通経済大学に入るなどもしたようだが、結局は定職にもつかず、ネットとゲーム三昧の「ネトゲ廃人」といわれる生活を送っていた。 その生活費やゲーム代は全て父親が出しており、1か月のゲーム課金額が32万円にも上っていたらしい。
     英一郎はツイッターで「元農水省トップの父」をしきりに自慢し、 「私は、お前ら庶民とは、生まれた時から人生が違うのさw」 などと他人を見下し、誹謗中傷する書き込みを繰り返していた。
     一方、母親については 「中2の時、初めて愚母を殴り倒した時の快感は今でも覚えている」「愚母を殺したい」「貴様の葬式では遺影に灰を投げつけてやる」 などと憎悪をむき出しにしている。
     また、真偽は不明だが 「私は肉体は健康だが脳は生まれつきアスペルガー症候群だし、18歳で統合失調症という呪われて産まれた身体。私が1度でも産んでくれと親に頼んだか?」 というツイートなどもあり、ネット内では「ヤバい人」として有名だったらしい。
     英一郎はここ10年ほどひとり暮らしをしていたが、近所とゴミ出しのトラブルを起こし、5月末に実家に戻ってきた。 するとたちまち両親に対して殴る蹴るの暴行を繰り返すようになり、父親は身の危険を感じたという。
     そして、川崎の事件から4日後の6月1日、 家に隣接する小学校の運動会に英一郎は 「うるせぇな、ぶっ殺してやる」 と騒ぎ、それを注意した父親と口論となった。
      そこで父親は、息子が川崎のような事件を起こすことを恐れ、台所の包丁で胸など10数か所を刺し、殺害した。英一郎が実家に戻ってから、わずか1週間ほど後のことだった。
     ひきこもりなどの自立・更生支援等の事業を手掛け、ジャーナリストとしても活動する押川剛氏が『「子供を殺してください」という親たち』(新潮文庫)という著書を出している。
     押川氏のもとには毎日のように、子供の暴力や暴言に悩む親からの相談や依頼がある。 「子供を殺してください」 は実際にその中で言われた言葉で、他にも 「いっそ子供が死んでくれたら」 などという訴えをよく聞くという。
     これは単に「家庭内暴力」の一言で済まされるような問題ではなく、その背景には重度の統合失調症、うつ病、強迫症、パニック症といった精神疾患や、薬物やアルコール、ギャンブル、ネット、ゲームへの依存症や嗜癖、ストーカー、DV、性犯罪などの問題が存在する。
     そして「ひきこもり」も、それらの問題のうちの一つなのである。
     押川氏は同書で「近年、爆発的に増えている」ケースとして、こんな特徴を挙げている。
    「年齢は三十代から四十代で、ひきこもりや無就労の状態が長くつづいている。暴言や束縛で親を苦しめる一方で、精神科への通院歴があることも多く、家族は本人をどのように導いたら良いのかわからないまま手をこまぬいている。
     そしてもう一つの典型例は、本人に立派な学歴や経歴がついていることである。中学や高校からの不登校というよりは、高校までは進学校に進みながら、大学受験で失敗した例や、大学卒業後、それなりの企業に就職したが短期間で離職した例が多い。強烈な挫折感を味わいながらも、『勉強ができる』という自負がある」
     熊沢英一郎は、完全な典型例だったのである。
     そしてその根底にある要因を、押川氏はこう指摘する。
    「その生育過程においては、親からの攻撃や抑圧、束縛などを受けてきている。過干渉と言えるほどの育て方をされる一方で、そこに心の触れ合いはなく、強い孤独を感じながら生きてきたのだ」
    「常に緊張を強いられ、安心感を得ないまま大人になったような子供が、受験や就職の失敗により人生を見失ったとき、その怒りは親に向かう」
      結局のところ、問題行動の原因は「親の愛情不足」に尽きるようだ。
     生まれてこの方、この世には愛情や信頼で成り立つ人間関係があるということを知らない。「支配・被支配」の関係しか知らない。相手を攻撃する、束縛する、支配するというコミュニケーションの取り方しか知らない。
     当然、そんな人間はどこへ行っても嫌われ、孤立する。それでひきこもりになって、自分が何もかもうまくいかないのは親のせいだと、憎悪の念を持つようになるのだ。
     押川氏は 「子供の頃に親からされたことに、今になって仕返しをしているのではないかと思うほどです」 と記している。
      自分が子供に愛情をかけず、モンスターに育ててしまったのだから、そいつが他人の子供を殺す前に自分で始末をつけるというのも、子育てに失敗した親のひとつの責任の取り方として、わしは肯定する。
     ところが、メディアではそんな意見は言ってはいけないことにされていて、「どんな理由があろうと、殺してはいけない」という意見しか許されないような状態になっている。
  • 「川崎殺傷事件:自殺テロの防ぎ方」小林よしのりライジング Vol.317

    2019-06-04 20:10  
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     何とも痛ましい事件が起こってしまった。
     川崎市の20人殺傷事件である。
     犯行は計画的で、スクールバスを待つ小学生らに背後から無言で忍び寄り、両手に持った刃渡り30㎝の柳刃包丁で手当たり次第にめった刺ししてから自殺、その間わずか十数秒だったというから、これではいくら警備を強化しても防ぎようがない。
     しかも目的が「自殺」にあるのだから、どんなに刑を厳罰化しても何の抑止力にもならない。
     それならば、同様の事件の再発を防ぐにはどうしたらいいのだろうか?
     犯人の51歳男性・岩崎隆一は両親の離婚後、父母のどちらにも引き取られず、父方の伯父夫婦家族と暮らし、中学卒業後は定職にもつかず、30年以上子供部屋に籠って社会との繋がりをほぼ拒絶して生きていた。
     NHKが取材をしても、 中学卒業後、犯行に至るまでの間の岩崎について知っている人は一人も見つからなかったというし、当人の写真も中学の卒業アルバム以降のものは、どうやら一枚も存在していないようだ。 近所の人も、事件を起こす間際に見かけるようになるまで30年以上、その家に岩崎が住んでいることも知らなかったという。
     伯父夫婦とのコミュニケーションも断絶していたようで、ひとつ屋根の下に住んでいながら、何か言うにも部屋の前に手紙を置かなければならないような状態だったらしい。
      親の愛情も、社会との関わりも何もない、一切の束縛を失った「自由」の中では、人間は狂う。 わしは『戦争論』などで何度もそのことを描いてきたが、今回もまさにその典型例と言うべきだろう。
    「自分を一番自由にしてくれる束縛は何か?それを大事に思う心を育てよう」
    『戦争論』でそう描いたのに、誰もそこを重要視しない。日本軍は正義だったか、悪だったかと、喧嘩してるばかりで、「個と公」というテーマには、右も左も熟考することがなかった。
     岩崎が「ひきこもり」傾向にあったことで、ひきこもりが「犯罪者予備軍」であるかのような偏見が助長されることが危惧されるとして、ひきこもり当事者の支援団体「ひきこもりUX会議」は声明文を発表した。
     声明文では「『ひきこもり』かどうかによらず、周囲の無理解や孤立のうちに長く置かれ、絶望を深めてしまうと、ひとは極端な行動に出てしまうことがあります」と主張している。
     確かに、今回の犯行は池田小事件の宅間守、秋葉原通り魔事件の加藤智大や、新幹線通り魔事件の小島一朗らと同種のものであり、それらの犯人たちはひきこもりだったわけではない。
     ひきこもりによる孤立感や、80代の老親が50代のひきこもりの子を養っている「8050問題」による、将来に対する絶望感が要因となったことは考えられるが、ひきこもりだから事件を起こしたというよりは、今回はたまたまひきこもりの男が、宅間守や加藤智大と同様の心理状態になって起こしたものと考えるべきであろう。
      ひきこもりかどうかに関係なく、未来に孤独と絶望しかなく、自暴自棄になって凶行に及びかねない「予備軍」は、いつどこにいるかわからないと思っておかなければならないのである。
      強い自殺願望を抱いている者が社会に恨みを持ち、一人で死ぬのは嫌だ、バカらしいと考え、誰かを巻き添えにして死のうとすることを「拡大自殺」というそうだが、わしはこれを「自殺テロ」と呼びたい。
     失うものがない「無敵の人」がヤケクソで起こした自殺テロの巻き添えで、幼い子供や将来有望な人物が犠牲になるなんてとても許せるものではなく、わしとて「死ぬなら一人で死ね!」と言いたくもなるが、公にそう言っては、かえって危ないらしい。
     自殺テロ予備軍の人間は、宅間や加藤や今回の岩崎隆一のような人間に感情移入し、自分と重ねて見ていたりするので、彼らが「一人で死ね!」と言われると、自分が「一人で死ね!」と言われているように感じ、社会から疎外されているように思い、社会に対する恨みを募らせてしまうのだという。
     勝手な被害者感情だとは思うが、そう感じるのをやめさせることはできないのだから、それならなるべく刺激しないようにしておくしかない。その代わり、社会や行政がそういう人間を孤独から救い、就職の面倒まで見るようにする施策が必要である。
     岩崎隆一は携帯もパソコンも持っておらず、かつて所有していた形跡も一切なかったという。
  • 「男系カルト・阿比留瑠比、論破まつり」小林よしのりライジング Vol.314

    2019-05-14 21:20  
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     新天皇陛下の即位により、現状では皇位継承資格者がたった3人、次世代の者は悠仁さまたった一人という恐るべき事実が誰の目にも明らかになった。
     そしてこれに対処する方法は、女性宮家を創設し、女性・女系天皇を認める以外にないということも、大多数の国民の共通認識となってきた。
     これに対して尋常ではない危機感を抱いているのが、男系男子固執の自称保守陣営だが、追い詰められて主張がどんどんトチ狂っていくのがなかなか見ものではある。
     この問題は、必ず女系(双系)公認の側が勝つ。その時に、逆賊たちが何を言っていたかは確実に歴史に残しておく必要があるので、このライジングの『ゴー宣』も、随時そんな記録の場としたいと思う。
     新天皇ご即位の記事が紙面を賑わした5月2日の産経新聞には、「皇位継承 歴史の重み 女性宮家創設には問題」という記事が載った。
     
     筆者は産経のエース記者・阿比留瑠比だが、どう見ても「問題」なのは阿比留の頭の中の方だ。
     なにしろ、阿比留は 「『女性宮家の創設』には、見逃せない陥穽(かんせい)がある」 として、こんなことを書いているのだ。
     現在、与野党を問わず女性宮家創設や、現在は皇室典範で父方の系統に天皇を持つ男系の男子に限られている皇位継承資格を、女性や女系の皇族の子孫に拡大することを検討すべきだとの意見が根強くある。
     とはいえ、これはあまりに安易に過ぎよう。
     仮に女性宮家を創設しても、一時的に皇族減少を防ぐだけで皇位継承資格者が増えるわけではなく、その場しのぎでしかない。
     何を言ってるのか、全くわからない。
      女性宮家を創設して、皇位継承資格を女性や女系の皇族まで拡大すれば、当然皇位継承資格者は増える。
     それなのに阿比留は、女性宮家を創設しても 「皇位継承資格者が増えるわけではなく、その場しのぎでしかない」 と書いている!
      どうやら阿比留は「女性宮家創設」と「女性・女系皇族への皇位継承資格拡大」を、全く別物と考えているらしい。
      女性宮家とは、皇位継承権がなく公務をするだけのものと、勝手に思っているのだ!
     確かに野田政権下で検討された「一代限りの女性宮家」はそういうもので、「公務の負担軽減」だけを目的とする「その場しのぎ」でしかなかったが、今回は違う。退位特例法の付帯決議は、こう書いているのだ。
     政府は、安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等について、皇族方のご年齢からしても先延ばしすることはできない重要な課題であることに鑑み、本法施行後速やかに、皇族方のご事情等を踏まえ、全体として整合性が取れるよう検討を行い、その結果を、速やかに国会に報告すること。  つまり、 「安定的な皇位継承を確保するための諸課題」、具体的には「女性宮家の創設等について」 検討するよう政府に求めているのである。
     ところがこの文章を、八木秀次(麗澤大教授)は信じられない解釈で読んだ。