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記事 4件
  • 「表現の自由と権力の介入」小林よしのりライジング Vol.229

    2017-06-27 19:05  
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     埼玉県警が、ある漫画家にエロ表現を規制するよう「申し入れ」をしていたという、信じられないような話が報道され、波紋を呼んでいる。
     事の発端は、埼玉県草加市在住の35歳の無職男性が、女子中学生にわいせつ行為をして逮捕された事件である。
     男は「放射能の調査をする」などと言って住居へ侵入しており、その手口について「インターネットで知った漫画作品を模倣した」と供述した。
      そこで県警は、その作者であるロリコンエロ漫画家を訪問し、作品内容が模倣されないようにと要請、漫画家も 「少女が性的被害に遭うような漫画は今後描かない」 と了承したというのだ。
     ただし漫画家本人の弁では報道とはややニュアンスが違い、警察は菓子折りを持ってきて終始低姿勢で、ゆるい雰囲気の中で会話が行われたという。
     そして漫画家は、問題の作品を描いたのは約4年前で、今は描きたいものの興味も変わっているし、犯人がその作品を見て真似たと供述していると聞いては、今後同じようなものを描く気にはならないだろうと答えたそうで、 「『表現の自由が脅かされた』とか『警察の圧力に屈した』とか『前例ができた』といった類の話だとは思ってほしくない」 とコメントしている。
     だがこれは、今回「申し入れ」をした警察官の態度がどうだったかとか、それを受けた漫画家がどう思ったかとかいうことが問題なのではない。
      表現の内容に関して、警察権力が介入してきたこと自体が、大問題なのだ!
     共謀罪に反対した京都大学の高山佳奈子教授は 「表現の自由に対する重大な脅威」「性表現は弾圧されやすいが、同じ理屈ならミステリー小説やホラーなども規制されるべきことになってしまう」 と懸念を表明。
     また、甲南大学法科大学院の園田寿教授は 「そもそも人は何から影響を受けるか分からないし、また行為を行った後で、なぜそのような行為を行ったのかの理由は、後付けでどんな理由でも考えることができる。いわゆる模倣犯がいるのは事実だが、それを防止するために事件報道や出版を控えたり、自粛を(警察が)求めることの方が、国の存立にとってはるかに危ういことである」 とコメントしている。
     そもそも、何らかの犯罪を誘発するような作品は描いてはいけないなどと言われたら、わしは漫画を描けなくなってしまう。
     昭和54年(1979)1月、早稲田大学高等学院1年生の16歳少年が、東京都世田谷区砧の自宅で祖母を金鎚で殴った上で、キリや果物ナイフでメッタ刺しにして惨殺した後、飛び降り自殺した。
     少年は大学ノート40ページにぎっしり書かれた遺書を遺しており、そこには事件を起こした動機を 「エリートをねたむ貧相で無教養で下品で無神経で低能な大衆・劣等生どもが憎いから。そしてこういう馬鹿を1人でも減らすため」 とするなど、自らを「エリート」として、「大衆・劣等生ども」を憎悪する内容が綴られていた。
     衝撃的な事件だったため、その「背景」が色々と取りざたされたが、その中で、 少年が筒井康隆の小説とわしの『東大一直線』を愛読していたことが報じられた。
     それで、わしの影響で少年が殺人をしたかのような言われ方をして、非常に迷惑な思いをしたものだ。
     ちなみにその2年後、わしは『東大一直線』の続編『東大快進撃』で、主人公が父親を金属バットでボコボコに殴りつけるシーンを描いている。これは当時話題となっていた、20歳の予備校生が両親を金属バットで撲殺した事件をモチーフにしているのだが、今だったら確実に「炎上」だ。
     祖母を金槌で殴り殺した少年に影響を与えた漫画で、こんなシーンを描くなんて不謹慎極まりない!と非難轟々になることは必至、いや、それ以前に、編集部が描かせてくれないだろう。
     表現の幅は、昔と比べて確実に狭まっている。
     
     さらに『戦争論』では、より直接的に影響を受け、犯罪に及んだ者がいる。
  • 「グローバリストが共謀罪を望む」小林よしのりライジング Vol.228

    2017-06-20 18:40  
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     安倍政権及び自民党の不祥事一覧は、さすがにみんな食傷気味のようなので、今回は一旦お休みとする。
     と言っても、代わりに書くのも安倍政権における最新で最大の不祥事、共謀罪についてである。
    「共謀罪」法が騙し討ち的な強行採決で成立した翌日・6月16日付朝日新聞社会面に、共謀罪に反対する高山佳奈子・京都大教授と、賛成する井田良(まこと)・中央大院教授の意見が両論併記で載った。
     二人はわしが民進党推薦の参考人として招致された4月25日の衆院法務委員会で、両隣に座っていた人だ。高山教授は共産党推薦、井田教授は公明党推薦の参考人だった。
     高山教授は、組織的テロは現行法で十分対応できると主張している。 予備罪の範囲は広く、共謀共同正犯を組み合わせれば、犯罪の前段階で広範囲の処罰が可能であり、「共謀罪」を作らずにTOC条約(国際組織犯罪防止条約)を締結できた という。
     また、 277の対象犯罪からは、公職選挙法や政治資金規正法などが抜けており、権力にとってだけ都合よく、極めて恣意的にできている ことも指摘している。
     やはりわしは高山教授の主張に納得する。「共謀罪」法は、全く非常識な法である。その目的はテロ対策ではなく、277の対象犯罪について、犯罪が起こらない前に、共謀段階で捕えようというものなのだ。
     そして、 起きてもいない犯罪で捕えるということは、内心の自由を侵食することであり、内心を知るには監視が必要 ということになるのである。
     一方の井田教授が言っていることは、どう見てもデタラメだ。
     井田は 「条文だけ見てあいまいと言う人が多いが、組織的犯罪処罰法の改正という点を認識すべきだ」 と言う。
     これ、本当に法学者?
     どんな事情があろうが、法律の条文が曖昧でいいわけがない。 条文が曖昧であれば、恣意的な運用ができてしまう ではないか!
     井田は、組織的犯罪処罰法が対象とするのは 「指揮命令系統、継続的・反復的な行動」 などがあり 「重大な犯罪の実行」 を目的とする組織的犯罪集団だけで、これは 「諸外国に例を見ないほど十分な縛りだ」 という。
     井田は、国会の論戦を見ていないのだろうか?
     安倍首相は当初、処罰対象について 「組織的犯罪集団に限定されており、一般の人が対象になることはあり得ない」 と強調した。
     ところがその後、金田法相は 「対外的には環境保護や人権保護を標榜していても、それが隠れみのであって、実態として目的が重大な犯罪等の実行にあれば、組織的犯罪集団と認められる」 と答弁。さらに犯罪集団の構成員だけでなく 「周辺者」 も対象だと説明した。
      もう既に、組織的犯罪処罰法の「縛り」は曖昧にされているのだ。
     
    「隠れみのの団体ではないか?本当は犯罪集団ではないか?奴らと関係がある家族・友人ら関係者にも網を張って監視する必要があるな」 と警察が邪推すれば、一般人が監視されることになる。
      現時点でさえ、どう見ても「組織的犯罪集団」ではない者に対して警察が違法な監視活動を行い、問題となった事例が続出している。
  • 「醜い女性宮家反対運動と有村治子」小林よしのりライジング Vol.227

    2017-06-13 22:10  
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    第36回「醜い女性宮家反対運動と有村治子」  二週間ほど前のことだったか。朝刊をめくると、天皇陛下のカラーのお写真と、4段ぶち抜きぐらいの巨大な文字で「一代限りの特例法」、そのそばに小さめの見出しで「将来の先例となり得る」という文字の踊る特集ページが目に入り、困惑した。
     ほかのメディアでも「退位特例法、天皇陛下一代限り」「一代限り退位」という言葉が溢れかえっている。当初から 「皇室典範の改正VS特例法」 の戦いがあったため、「ついに特例法に決着、一代限りに決定!」というイメージがついたのだと思うが、しかし、この報道は正しくない。
    ■「一代限り」はとっくに撤回されている
     平成29年6月11日の「ゴー宣道場」にゲスト登壇された民進党の馬淵澄夫議員から、時系列を追って非常にわかりやすく語られたが、実際には、 民進党のねばり強い交渉によって、当初「今上陛下一代限りの特例法」を強調していた自民党が大幅に譲歩し、「一代限り」という言葉はとっくに撤回されている のだ。
     議論の経過を経て、自民党の「天皇の退位等についての懇談会」座長の高村正彦副総裁は、こう発言している。
    「誤解を受けないように、今後は『一代限り』という言葉は使わない」
    「『一代限り』というのは語弊がある。将来の天皇の退位を否定しているものではありません」
     それでも強硬に「今上陛下の例外退位」を強調して譲らなかったのは安倍首相。 「ぼくちゃんの周りには、一代限りだと言ってる人のほうが多いもーん!」 と駄々をこねるので、高村副総裁は、現実には恒久制度化を求める世論のほうが大きいのだということを説明し、
    「有識者会議が『一代限り』を強調し過ぎ、将来の天皇は退位できないと誤解された」
    「退位の先例となるニュアンスを出すために『今上』は入れない方がいい」
    と発言し、首相を説得したことも報じられている。 「陛下のご意向を実現する」という意志を強く持った民進党が、特例法でありながらも先例となりうる恒久制度に道筋をつけた のだ。
     しかし、安倍首相のご意向を忖度するメディアは、どうしても「例外性」を強調したがるし、天皇陛下のご意向を忖度するメディアとて、この議論の過程と結論を、きちんと理解できていないのではないか?
     いつまでも「一代限り」という言葉が使われる現状、正確に報道できるメディアがないことで、民進党の努力と活躍を、国民が知るチャンスが損なわれている現状が本当に歯がゆい。
    ■全会一致を目指す女性宮家創設に反対した女性議員
     平成29年6月7日の参議院特別委員会では、厳かな空気のなか、退位に関する特例法案について、共産党ふくめ参加した全議員が賛成して起立し、全会一致で可決された。
     その後、この可決に続いて 「 女性宮家の創設等 について、皇族方のご年齢からしても先延ばしすることはけいない重要な課題であることに鑑み……」 といった文言を盛り込んだ付帯決議案が読み上げられ、採決の時間になった。当然こちらも全会一致だろうと思いきや、なんとたった一人、反対した人物が現れたのだ。
     残念ながら女性宮家の創設については、「全会一致」ではなく、 「多数をもって決議」 となった。
     
      全会一致を目指す決議案の採決で、ひとり反対して着席している有村治子議員
     採決時、全議員が起立して賛成するなか、ひと際目立つ、白いスーツを着た女性議員が、着席したまま反対に票を投じている。 自民党の有村治子議員 である。
     
     自身のホームページにもPRチラシにも、子供たちに囲まれた写真を多用する有村議員。妊婦のために「マタニティマーク」を広める活動にも尽力したらしい。過去、安倍内閣のもとで、内閣特命担当大臣として少子化対策や男女共同参画に従事したり、女性活躍担当大臣として……なにをしていたのかはわからないが、なにかをしていたようだ。
     記憶に新しいのは、参議院内閣委員会で質問に立ち、NHKの「スクランブル発進が過去最多」というニュースに使われた映像について、 「中国国旗が日の丸の上に配置されていた!」 と言い出した件だ。
     
     その時は、いろんなネトウヨがいるもんだなあと思って眺めていたが、これがやっぱり強固な男系カルト信者だったのだ。
     有村氏は、特例法案に関する特別委員会の次席理事をつとめていたが、女性宮家の創設を盛り込む付帯決議案が現実化した直後、辞任。その理由として発表した文書がひどいのなんの。
  • 「内閣人事局は独裁システムだ」小林よしのりライジング Vol.226

    2017-06-06 23:10  
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     平成26年(2014)5月30日の 「内閣人事局設置」 について書いておく。
      内閣人事局の設置により、各省庁に任されていた事務次官以下幹部職員、計600人の人事権が首相官邸に移された。首相の独断で官僚の上層部の人事を左右できるようにしてしまったのだ。
     これは、日本の官僚システムを根底からひっくり返すものだった。
     それまでは、官僚の出世競争や人事の決定は、実力主義と実績主義で極めてフェアに行われてきた。
      ところが今後は、どんなに国民のことを考えて公正中立な仕事をする有能な官僚でも、時の首相に嫌われたら決して出世できないのだ。
      官僚の倫理観は「国民のために」から「官邸のために」へと根本的大転換を遂げた。官僚たちは官邸の意向をビクビクうかがい、安倍晋三が喜ぶ仕事をすることに邁進するようになった。
     その結果として起きたのが森友学園疑獄であり、加計学園疑獄なのである。
     90年代中盤以降、住専破綻、薬害エイズ事件、大蔵省ノーパンしゃぶしゃぶ接待汚職、防衛庁調達本部巨額背任事件など、官僚による不祥事が相次ぎ、これに天下り問題も絡み、官僚バッシングの嵐が吹き荒れた。
     官僚が日本政治を牛耳っているのが諸悪の根源だと主張したカレル・ヴァン・ウォルフレンの『人間を幸福にしない日本というシステム』は30万部のベストセラーになり、「官から民へ」の大合唱が起きた。
     わしは当時からその風潮に疑問を感じていた。官僚さえ叩けば世の中がよくなるなんてわけがなく、これは単なる大衆の破壊衝動ではないかと、『ゴー宣』でも何度か懸念を表明した。
     だがその後も、政治家が官僚の傀儡になってしまうとか、官僚が自分たちの省益を優先した政策を企画立案するとか、「縦割り」の弊害が起きるとかいった、官僚制度のデメリットは事あるごとに指摘された。
     そしてこれらのデメリットを取り除くには、政治家主導で官僚をコントロールして、時の政権の優先課題を政府・官僚が一体となって進められるシステムを作るべきだという理念が唱えられ、それが「内閣人事局」の創設へとつながっていったのだ。
     もっともこの理念は単なるタテマエで、ホンネは最初から、政治家が私利私欲で思いのままに官僚を動かせるような仕組みを作りたかっただけかもしれない。 なぜなら、現在の「内閣人事局」に直接つながる提言を行った懇談会を設置したのが、他ならぬ第一次安倍政権だったからだ。
     第一次安倍内閣が倒れた後、内閣人事局構想は福田内閣、麻生内閣に引き継がれたが、自民党内部からも異論が出されて実現しないまま、民主党に政権交代して構想は一旦頓挫した。
     ところが安倍晋三が政権に復帰すると、あれよあれよという間に内閣人事局は設置されてしまったのだった。