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「〈性自認〉の曖昧さを保守としてどう捉えるか?」小林よしのりライジング Vol.475
2023-07-18 16:55300ptひたすら弱者・少数者に同調し、あまつさえ弱者・少数者は「聖なる者」と思い込んだら、それは左翼、乃至リベラル・サヨクの空疎な立場に回収されてしまう。この世に楽園はないのだから、リアリズムに立脚した理想に向かう道を選ばざるを得ない。空想平和主義や、空想平等主義に堕ちるわけにはいかない。
先週は「LGBT理解増進法」について書いたが、偶然その配信日にトランスジェンダー女性の女子トイレ使用制限をめぐる訴訟の最高裁判決があった。
これは非常に意義のある判決で、次はそれを書こうと準備していたのだが、その翌日にはryuchell(りゅうちぇる)の自殺という衝撃的なニュースが入ってきた。
りゅうちぇるのことは最新刊『よしりん辻説法⑥ 恋愛論・完』でも描いているので、これは先に論じなければならないだろう。
りゅうちぇるについてはわしも見誤っていて、極めて普通の道徳的な感覚で捉えていた部分があった。
だから、りゅうちぇるとぺこが離婚した際は、まずぺこが可哀想だと感じ、りゅうちぇるは無責任じゃないかと思ってしまった。
それで、こんなことなら結婚しなければよかったし、子供を作らなければよかっただろうという道徳的な気持ちから、『恋愛論・完』の中で 「自分探しは子供をつくる前に終わらせておかねばな」 と書いてしまったのである。
だがこれではまだ「性自認」の認識が甘かったと言わざるを得ない。
「性自認」はどこかの時点で固定するもので、自身の意識の上でも踏ん切りがつけられるものだという思い込みが残っていたのだが、それは間違っていた。
人によっては、「性自認」が一生定まらずに揺れ動き続ける場合もあるし、それは本人の意識ではどうにもならないものだった。
りゅうちぇるの性自認は、幼少時にはLGBTのどれにも当てはまらなかったらしい。 前回書いたが、心の性にはLGBT以外に、 無性 (女性でも男性でもない)、 両性 (女性でも男性でもある)、 中性 (男性と女性の中間)という「Xジェンダー」と呼ばれるものもある。
りゅうちぇるは、身体性は男性で、女の子が好き、かわいいものが大好きで、仕草のいちいちが女っぽく、何をしてもからかわれることが多かったそうで、 「これで男の子が好きな方がまだわかりやすいし、楽って思っちゃってた。それか普通の男の子になりたいと思ってた。こんなにかわいいものが好きなのに、なんで女の子が好きなんだろう」 という葛藤を抱えていたと自ら語っていた。
りゅうちぇるは高校卒業後に沖縄から上京、バイト先の古着店でぺこと出会い、交際に発展。二人でタレントとして成功した後、結婚。男児が誕生する。
りゅうちぇるはこの時のことを、「 女性を好きになることは、僕の人生の中で、初めての事でした」「一生一緒に居たいと思えたからこそ結婚して 夫婦になる道を選択し そしてその愛が形になり、最愛の息子も生まれました」 と振り返っていた。
しかしその後、りゅうちぇるは 「父親」であることは心の底から誇りに思えるのに、「夫」であるということはものすごく苦しくなってしまい、生きていくことさえ辛いと思う瞬間もあったという。
「父親」の自認は誇りなのに、「夫」の自認は苦痛なんて、標準的な男であるわしからすれば、意味が分からないと思ってしまう。
そして、全ての気持ちをぺこに打ち明け、話し合った結果 「これからは“夫”と“妻”ではなく、人生のパートナー、そしてかけがえのない息子の親として、家族で人生を過ごしていこうね」 ということになり、離婚。そしてその後も家族として同居を続けていた。
血のつながった「親子」であれば、自分がこの子の父親だという関係は自然に受け入れられたが、元は他人である「夫婦」の場合は、その前提に「男」と「女」という性自認がなければ、関係が成り立たなかったということらしい。
りゅうちぇるにはおそらく「男」という明確な性自認がなく、それでもぺこと恋をして子供も出来て 「父」にはなったが、「夫」であり続けることには耐えられなかったのだろう。
そのために離婚して、ぺこと「夫婦」ではなくなるが、「人生のパートナー」ではあり続け、家族として一緒に生活するという判断をしたのだ。
では、離婚から1年足らずで自殺という悲劇に至った理由は何なのだろうか? -
「『よしりん辻説法⑥ 恋愛論・完』とLGBT法」小林よしのりライジング Vol.474
2023-07-11 18:10300pt『よしりん辻説法⑥ 恋愛論・完』(光文社)が発売中だ。
6年間続いた『よしりん辻説法』の完結編であるとともに、一昨年からのシリーズ『恋愛論』の締めくくりであり、さらに「よしりん最後のギャグ漫画」と銘打っている。今後、わしのギャグの才能はインド版アニメ『おぼっちゃまくん』に注力することになる。
『恋愛論・完』ではLGBTも射程に入れて「恋愛とは何か?」を論じたが、そのような視点で書かれた本は、これが初めてだろう。
この本には、29年前に美輪明宏と行った対談を描いた幻の作品『聖人列伝』を単行本初収録した。
読んでもらえばわかるとおり、わしはこの当時から美輪の性別を超えた魅力を認めている。それならば、現在論じられているLGBTについても認めなければ整合性が取れないわけだが、今回はその点でも論理が通ったものになっていると思う。
それにしても、今どきの知識人は「美輪明宏」という存在をどう捉えているのだろうか? 単にキワモノのタレントのように扱って無視しているんじゃないか?
若き日の美輪明宏の魅力は、三島由紀夫、江戸川乱歩、寺山修司、澁澤龍彦など多くの作家・知識人を虜にした。当時の知識人の知的レベルは非常に高く、美輪の持つ、性が明確ではない妖しさや美しさといったものを十分理解できたのである。
今どきの自称保守知識人のような、「男は男らしく、女は女らしく」だの、「世の中には男と女しかいない」だのという単細胞な意見を平気で言えるバカに、美輪明宏が理解できるわけがない。そもそも、昔だったらそんなバカは「知識人」など名乗れなかったはずで、「知識人」の劣化はあまりにも深刻である。
体の性別と心(脳)の性別は必ずしも一致するわけではなく、それは先天的なものであって、本人の意思で自己決定できるものではない。このことくらいは、もう一般常識にしなければいけない。
遺伝子による体の性別は、卵子と精子が受精した瞬間に決定する。
男女の性別は、母親の持つXX染色体と、父親の持つXY染色体の組み合わせによって決まる。XとXを受け継げば女児、XとYならば男児となる。Y染色体には「SRY」という性を決定する遺伝子があり、これを受け継ぐと精巣が形成されて男性になるのである。
ここまでは、あくまでも「体」の性別が決まるまでの仕組みで、既に広く知られた「理科」の領域である。
しかし、人の性別はこれだけで確定するほど単純なものではない。 実際には、SRY遺伝子が働かず、 染色体が「XY」なのに身体的特徴が女性 という人もいれば、 染色体が「XX」なのに身体は男性 という人もいるのだ。
そして、 心の性別は母親のお腹の中で、胎生12~22週の頃に決められる。
この時期の胎児の脳は性的に未分化な状態で、 男性ホルモンの「アンドロゲン」の作用を受けて初めて男性化する。 アンドロゲンは胎児自身の精巣から分泌され、女児の場合は精巣がないので脳も女性化する。
しかし男児でも、アンドロゲンが十分に働かない場合などは脳が女性化する わけで、このようなことが起こる原因までは十分解明されていないという。
また、さらに最近の研究では、脳の性別は母親のお腹の中にいる間に完成するわけではないということもわかってきたそうだ。
第二次性徴期と呼ばれる思春期は、性ホルモンの分泌が盛んになり 、この時期に分泌される男性ホルモンや女性ホルモンの働きによって、心身ともに大人の男性・女性へと変わっていく。
詳しいメカニズムはまだ解明されていないが、 この時期に脳も男性の脳、女性の脳へと発達していき、いわば、心の性別の仕上げが行われるという。
ここで「先天的」「後天的」という言葉を使うと、誤解を生じかねない。
生まれた後、思春期になってから決まるのなら「後天的」ではないのかと思われそうだが、「後天的」とは、生後の周囲の環境や本人の意思による行動・学習によって身に付くものをいう。
思春期にどのような性ホルモンの分泌が行われるかということが、生後の環境や、ましてや本人の行動・学習で左右されるわけがなく、この場合も「先天的」な変化と見なければいけない。
体と心の性別は思った以上に複雑に決められているもので、そのメカニズムは未だにわからない部分が多い。
異性に恋をするか、同性に恋をするかということも本人の意思でどうにかなるものではなく、いくつもの条件が重なった結果の「偶然」で決まっていると思うしかないものなのだ。
わしは普段「LGBT」と書いているが、それがいつの間にか「LGBTQ」になり、「LGBTQ+」になり、次々増えていっている。
しかし、本来はそうして細かく分類していくのもおかしいというべきで、それらの境界も、ものすごく曖昧なのだ。 -
「竹田恒泰スラップ訴訟」小林よしのりライジング Vol.473
2023-07-04 18:45300pt公論イベントSpecial「愛子さまを皇太子に」開催まで3週間を切った。
「男野系子」が参戦するという「SPA!」掲載の広告も大反響で、応募者が殺到して早々に締め切ることになったが、かなり落選者を出さなければならないかもしれない。落選した人、応募を見送った人は、ニコニコ生放送とYouTubeLIVEで行う完全無料生放送で楽しんでいただきたい。
この戦いは勝たなければならない。そして、勝つと確信している。
その確信を強くしてくれているのが、公論戦士たちによる「論破祭り」の連戦連勝、圧勝に次ぐ圧勝だ。
男系派の論客はひとつ何か言えば、たちまち反論の集中砲火を浴びる。しかもその反論の仕方がひとつひとつ全て違って、あらゆる角度から論破されまくるのだから、怖くて仕方がないだろう。最初は虚勢を張ってマウントを取りに来ていた言葉の勢いが、明らかに弱々しくなっていくのが見えるのも愉快なところだ。
中でもニセ旧皇族の竹田恒泰については、公論戦士たちがツイッター上で連日「宮さま詐欺師」と批判し続け、これをまとめて総合プロデューサー・ちぇぶがゴー宣道場ホームページにアップしている。
すると竹田は6月26日、ツイッターに
「詐欺師」というのは名誉毀損に該当します。削除をお勧めします。リツイートや拡散するのも同様です。見かけた方はリツイートした方に教えてあげてください。最近は言論空間での誹謗中傷は社会問題となっていて、侮辱罪も厳罰化されました。
と投稿、続けて27日には
【訴訟予告】警告しましたが対応がありませんので、サイトの運営責任者である有限会社よしりん企画と執筆者「ちぇぶ」への訴訟を準備します。
と投稿した。
議論もせずに、いきなり訴訟をチラつかせ始めたのだ。
そもそも竹田に対して「宮さま詐欺」とか「いるいる詐欺」とか言い出したのはわしが最初だし、ゴー宣道場サイトも、ちぇぶが総合Pを務める公論イベントも、わしが主催者であることは誰にもわかるはずだ。
それなのに竹田は「小林よしのり」だけは避けて「よしりん企画」と「ちぇぶ」をターゲットにしているわけで、これだけでも竹田の卑怯さとヘタレぶりが露わになりすぎていて、何の脅しにもなっていない。
実際、公論戦士たちも全くひるむことなく、変わらぬペースで竹田の論破を続けている。この調子でどんどん竹田を「宮さま詐欺師」と呼んで、その事実を一般常識として定着させてほしい。
たとえ竹田が裁判に訴えたとしても、ダメージを喰らうのは一方的に竹田だけだ。むしろ、訴えるつもりならぜひどうぞと言いたいくらいだ。
実は竹田は以前にも、これと全く同じといっていい形で、ツイッター上の批判を「名誉毀損」として裁判を起こし、地裁・高裁で全面敗訴、最高裁で上告棄却という「完敗」を喫している。
その裁判については、訴えられた戦史・紛争史研究家の山﨑雅弘氏が 『ある裁判の戦記 竹田恒泰との811日間の戦い』 (かもがわ出版)という著書にまとめているので、今回は同書から、竹田がやったことを紹介しておこう。
事の発端は令和元年(2019)11月、富山県朝日町の教育委員会が町内の中高生全員に受講させる「教育講演会」の講師に、竹田を招こうとしたことだった。
山崎氏はそれをツイッターで、こう批判した。
竹田恒泰という人物が過去に書いたツイートを4つほど紹介するだけでも、この人物が教育現場に出してはいけない人権侵害常習犯の差別主義者だとすぐわかる。富山県朝日町の教育委員会が、何も知らずに彼をわざわざ東京から招聘するわけがない。つまり今は教育委員会にも差別主義者がいる可能性が高い。
これに続けて山崎氏は、竹田のツイートから 「韓国は、ゆすりたかりの名人で、暴力団よりたちが悪い国だ。そういう国とは、付き合わないのが一番」「そもそも韓国に、毀損されるような名誉があるのか???」 などの発言を引用、紹介した。
するとその数日後、山崎氏のツイートとの関連は不明だが、朝日町教委は竹田の講演会中止を発表。竹田は、山崎氏が脅威への「脅迫」を煽動したから中止にされたと言いがかりをつけ、さらに 「ツイートを削除しなければ名誉棄損で訴訟を起こす。リツイートした者も提訴を検討する」 と脅し始めた。
竹田は今も 「ツイートを削除しなければ訴訟。リツイートした者も同様」 と脅しをかけているわけで、やっていることは全く変わらない。
山崎氏が削除を拒否すると、竹田はツイートの削除と謝罪、そして慰謝料550万円を求めて訴えた。
実際に提訴されると、山﨑氏は弁護士報酬など裁判費用の捻出に頭を抱えた。しかし、竹田の脅しを跳ねつけリツイートを解除しなかった思想家・内田樹氏が支援を表明して「裁判を支援する会」を立ち上げ、裁判費用の募金を呼びかけた。すると2週間で1000万円を超える寄付が集まり、裁判闘争が可能になったのだった。
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