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記事 3件
  • 「アクセス数至上主義と広告代理店」小林よしのりライジング Vol.255

    2018-01-23 17:50  
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     前回は「Yahoo!ひとり勝ちの弊害」として、人々がネットに接続した際に最初に見る「ポータルサイト」が情報配信を握っていること、新聞社が記事制作の下請け状態になり、価値基準が崩壊していくことを書いた。
     ネットメディアは広告収入で運営しているから、アクセス数至上主義になり、ヤフー・ニュースなどでは、差別や排外主義、ヘイトスピーチの温床、助長につながるコメント欄も放置されてきた。
    ■排外主義を迎え入れるアクセス数至上主義
      ヤフー・ニュースは、月間12万件の記事を配信しており、月間150億PV(ページビュー)。そのうち、コメント欄のPVは、ヤフー・ニュース全体の13%を占めている という。
     ヤフーがすべて悪いと言いたいわけではないが、やはりネットのなかで膨大な集客力、巨大な影響力を持つようになった以上は、一定の責任を負うべき状況になっていると考えるべきだろう。
     ヤフー・ニュースのコメント欄に書き込まれる内容については、立教大学の木村正教授(ネットワーク社会論)とヤフー・ニュースが共同で分析を行っている。
     2017年4月28日に発表されたレポートでは、コメント欄に頻出する言葉は、1位から順に 「日本」「韓国」「中国」「日本人」「韓」「国民」「朝鮮」 とつづく。韓国がらみのコメントが全体の20%を占め、中国関連と合わせると25%。書き込まれた内容も嫌韓、嫌中が色濃い。 「慰安」「謝罪」「反日」「安倍」「在日」 などもよく登場する。
     この分析では、一週間で100回以上コメントを投稿した人が全体の1%おり、この1%の人のコメントが全体のコメント数の20%を占めていた。これを受けて、ようやくヤフーは、10年間放置しつづけてきたコメント欄に「複数アドレスで何度も投稿する行為を禁止」のルールを設けたが、頻繁に投稿しない人のなかにも、差別的な言葉をまき散らす人は多く、直接的な言葉が減っただけで「相変わらず」でしかない。
     調査した木村教授は 「少数派や弱者に対するいらだち」 と述べ、 「自分たちは多数派なのに、利益を享受していないという不満がある。ネットニュースへのコメントには、こうした社会心理が表れている」 と分析している。
     ケント・ギルバード、百田尚樹、小川榮太郎などのデタラメフェイク本がまかり通ってしまうのも、フェイクだろうと客観性がなかろうとおかまいなしの極右ニュースサイトが乱立して、それが実際に公共の路上へ飛び出していくのも、地続きの問題である。
    ■アクセス数至上主義と広告代理店
     情報も思考も極端に偏って、排外主義に陥ってネットでヘイトスピーチをまき散らす人々。ネット上にはそのような人々を慰撫して快感を与えるヘイトやフェイクニュースのサイトが乱立している。多くは 商売目的の業者 によるものだ。
     トンデモ見聞録・第52回「スマホとメディアとフェイクニュース」で紹介したが、2017年9月には、クラウドソーシングサービスで 「保守系のブログ記事作成依頼」 が掲載されていることが話題になった。「共産党に投票する人は反日」「天皇制は男系であるべき」「石破茂は総理にふさわしくない」などの記事を1件864円で買い取るというものだ。同時に、フェイクブログを量産する業者の実態も紹介した。業者は『週刊SPA!』のインタビューにこう答えていた。
    「右派ウケしそうなサイト、左派ウケしそうなサイト両方の運営をしていますが、右派系サイトのほうが儲かる。ネット右翼の人たちのほうが熱心だから(笑)」
      このような業者が成立するのは、どんなむちゃくちゃなフェイクサイトでも、排外主義的なサイトでも、 広告を設置してアクセス数をカネに変える仕組み があるからだ。
  • 「自主独立のために必要な“信頼醸成”とは?」小林よしのりライジング Vol.138

    2015-06-23 20:20  
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     第48回ゴー宣道場は6月14日、「戦争と道徳」をテーマに、思想家・東浩紀氏と社会学者・宮台真司氏をゲストに迎えて開催された。
     東氏が主宰する「ゲンロンカフェ」がゴー宣道場をジャックするというコンセプトで、第1部では司会を東氏に任せ、宮台氏とわしらの議論を自由に仕切ってもらうという初の試みに挑戦した。
     試みは成功したようで、参加者のアンケートを見ても好評なものが多く、特に二人の人柄の面白さに好感を持った人が多かったようだ。
     だが、言うまでもなく東・宮台両氏とわしの意見が完全に一致しているわけではない。むしろ、相違点があるからこそゲストとして招く意味があるのだ。
     会場が和気あいあいの雰囲気になったのはいいが、それに流されてしまわぬように、当日の宮台氏の発言の中で、わしが疑問を感じた部分を挙げておこう。
     宮台氏は、「 戦争に負けたんだから、戦勝国のレジーム引き受けるのは当たり前 」という。そうしなければ、誰も戦後復興に協力してくれなかったからだという。
     その上で、「東京裁判史観」とは日中共同声明で周恩来が繰り返した「 日本国民は悪くない。日本国民も中国国民も、共通して日本の軍国主義者の被害者である 」というものだという。
      つまり「A級戦犯」とは天皇陛下や日本国民から戦争責任を免罪するためのスキーム(仕組み)だというのだ。
     要するに宮台氏は、東京裁判の図式を認めれば中国と友好関係が築けると考えている。
     村山談話のような謝罪を繰り返して、靖国神社からいわゆるA級戦犯を分祀するか、国立追悼施設を作るなどしてしまえば、首相の靖国参拝も天皇陛下の御親拝も許されるし、宮台氏の言う重武装中立が可能になるというわけだ。
     まあ、いわゆるA級戦犯の方々に申し訳ないが、軍部=悪、国民=犠牲者の図式を建前上だけ認めておくという偽装ができれば、確実に自主防衛が出来るというなら、妥協してもいいかもしれない。
     だが、わしは宮台氏の意見に異論を呈しておいた。
     わしは、中国には日本を「永遠の敗戦国」にしておきたいという意図があると見ている。
     日本を、ポツダム宣言に言われているような「世界征服を企んだ悪の国」だったことにして、国連の「敵国条項」の中に封じ込め、国際社会の覇権ゲームに参加させないというのが中国の意志であり、それはアメリカもロシアもそうであり、そして韓国も事大主義で日本のプレイヤーとしての復活を願っていないと思うのだ。
     この意見に対して、宮台氏はこう言った。
    「 それはわかる。しかし問題はね、その状態からどうやって僕たちが脱することができるかということだよね。そこから脱するという目標を立てた場合はですね、基本、政治家がやってきたことは非常によくないことなんだよね。
     まず、僕たちは敗戦しました。で、僕たちが民主主義国として再建できるためには、日本国民は駄目な国民ではないという枠組みを作る必要があるので、まあ、極東国際軍事裁判(東京裁判)図式は不可避。それ以外の図式で日本が民主主義国として再出発することはありえない。これまず認める必要がある 」
     さあ、読者諸君はこの意見をどう思うか?
     さらに宮台氏は、中国は日本を単に「永遠の敗戦国」にしておきたいと思うほど感情的なバカではなく、偉い人はたくさんいると言った。
     そして大事なことは、 中国が危惧しているのは、日本が本当に戦前と手を切ったのかという問題なのだという。
     中国はそのことに危惧を抱き続け、1970年代、田中角栄の日中国交正常化の頃には、もうそろそろ危惧するのはやめてもよいかなと思った時期もあったが、すぐその危惧は復活し、現在に至っているというのだ。
  • 「ヘイトスピーチや荒らしに対する処方箋」小林よしのりライジング Vol.111

    2014-12-02 20:45  
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     社会学者の宮台真司氏が「リテラ」というサイトのインタビューでネトウヨの分析をしている。
     この中で宮台自身が言っているとおり、「リテラ」とはかつての雑誌「噂の真相」を彷彿させる「左翼ゴロ路線」の下品なサイトで、載っている記事も眉ツバな匂いが芬々という感じなのだが、それはともかく、この宮台のインタビューはちょっと面白い。
    http://lite-ra.com/2014/11/post-601.html
     宮台は「 あれは知性の劣化ではなく感情の劣化だ 」と言う。まさにその通りだ。
     そして、「表現」と「表出」という言葉を使って分類をする。
    「表現」は、理論で相手を説得し、従わせようとすること。
     それに対して「表出」は、自分の感情を吐き出すことだけが目的。
      相手の反応など全く関心がなく、ただ自分の気分がスッキリすればそれでいいというのが「表出」であるという。
     ヘイトスピーチをやっている連中は、それが気持ちいいと思って「表出」しているだけだから、説得なんか不可能なのだ。
     いくら理論立てて「在日特権なんかない」と「表現」したところで無駄。もともと真理へと到達したいなんていう意識は毛頭ない。ただ感情をぶちまけたいだけなのだから。
     真理が知りたいというような最終的な目的があれば、その過程における感情はある程度制御して臨むことになる。ところがネトウヨは感情を制御できず、最終的な目標なんかどうでもよく、とにかく今すぐここでカタルシスを得たいという短絡的、刹那的な者たちであり、そのために「表出」に固着し、ヘイトスピーチをわめき散らす。
     だからこれは「 感情の劣化 」だということになるのだ。
     もっと簡単に言ってしまえば、全く躾をされず、我慢することを一切覚えていないクソガキみたいなものだ。人としての感情が成熟していない、獣に近い状態と言ってもいいだろう。
     それでは、このように感情を劣化させた、説得不可能な連中に対して一体どう対処すればよいのだろうか?
     宮台は「レイシストをしばき隊」のようなカウンター運動が有効だと唱えている。 毒を以て毒を制すというか、「劣化した感情」には別の「劣化した感情」をぶつければいいというのだ。
     理論で対抗してもしょうがないから、感情と感情で戦うしかない。「キモいか立派か」という感情に訴えれば、「ヘイトはキモい。YouTubeとかで観たらキモいオヤジとオバハンばかり。筋骨隆々としてタトゥーが入ったしばき隊の方が格好いいぜ」となるという戦略なのだそうだ。
     
     だが、わしはこの意見には同意できない。