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  • 「『脱原発は都知事選の争点ではない』は本当か?」小林よしのりライジング Vol.71

    2014-01-28 19:40  
    105pt
    第71号 2014.1.28発行「小林よしのりライジング」
    『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
    毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、よしりんの心を揺さぶった“娯楽の数々”を紹介する「カルチャークラブ」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」、珍妙な商品が盛り沢山(!?)の『おぼっちゃまくん』キャラクターグッズを紹介する「茶魔ちゃま秘宝館」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが無限に想像をふくらませ、とことん自由に笑える「日本神話」の世界を語る「もくれんの『ザ・神様!』、秘書によるよしりん観察記「今週のよしりん」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)
    【今週のお知らせ】
    ※「ゴーマニズム宣言」…今週は号外で配信!日本が脱原発へ舵を切れるかどうかのラストチャンス・東京都知事選挙。しかし東京の有権者たちは、安倍政権・マスコミ・自称保守知識人の「ワン・イシューはいけない」「エネルギー政策は国の問題で、都知事選の争点ではない」という情報操作に洗脳されつつある。日本はこのまま3.11以前へと回帰してしまって良いのか!?福島第一原発事故から3年近くの間、原発維持・推進を企む者たちが言い続けたウソを徹底検証する! 
    ※メンコを題材にしたスポ根ギャグストーリー『メンぱっちん』を、はげまるどーん!とご紹介中の「よしりん漫画宝庫」。冷笑的パロディ文化が蔓延していた80年代に、マジで「情熱(パッション)を叫んだ稀有の作品!必読なのは、ゆーまでもないっ!!
    ※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」!作品を作る上で「狂気」と「客観性」のバランスはどうなってるの?男にとって初めて交際した女性は特別?ドラマ「明日、ママがいない」をどう思う?『大東亜論』来島が死に頭山が生き残ったのは、卑怯ではないのか?電子マネーを使わない人間は時代遅れ?好きな少女漫画は?よしりんの回答や如何に!?
    【今週の目次】
    1. ゴーマニズム宣言・号外「【都知事選】原発擁護派のウソ・ベスト8発表!」
    2. しゃべらせてクリ!・第32回「ぽっくん、風邪になんか負けられましぇ~ん!の巻<前編>」
    3. よしりん漫画宝庫・第59回「『メンぱっちん』③80年代にマジで『情熱(パッション)』を叫ぶ!」
    4. Q&Aコーナー
    5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
    6. 読者から寄せられた感想・ご要望など
    7. 編集後記
    【生放送予定】http://live.nicovideo.jp/watch/lv167291728
    「『大東亜論』を語る」(よしりんに、きいてみよっ!#30) 今週31日(金)20時から生放送予定!号外「【都知事選】原発擁護派のウソ・ベスト8発表!」(号外にて配信中! 配信ページ:http://ch.nicovideo.jp/yoshirin/blomaga/ar446875)第32回「ぽっくん、風邪になんか負けられましぇ~ん!の巻<前編>」
     びゃーーーーーっくしょん!!
     「バカは風邪をひかない」ってのは、丈夫で本当に風邪ひかないという意味じゃなくて、風邪をひいたことすら気付かないほど鈍感だって意味だそうでしゅね。
     ぽっくんデリケートでしゅから、身体の不調には敏感でしゅよ。でも、それを言ったら「軟弱だ」って言われるとでしゅ。どーすりゃいいんでしゅか!
     ほんじゃ今週も発表行きまーしゅ!

    1.(magomeさん)
      先週の続きでしゅ。正義の味方はつらかぶぁ~い!

    2.(くにぴゃさん)
      優しか~! 優しかぶぁい、柿野くん!
     やっぱり持つべきものは、友だちんこぶぁい!

    3.(萌えるブローカーさん)
      冷たか~! 冷たかぶぁい、柿野くん!
     プリン持ってきてくれるって言ったのも、迷惑だから帰らせたかっただけなんでしゅね。ぽっくん、もう誰も信じられんぶぁ~い!

    4.(カレーせんべいさん)
      前の作品のブローカーしゃんと「ボン☆カレー連合」を結成したカレーせんべいしゃん。今週も社会派ネタを送ってクリました。
     そーいや安倍ちゃんも、あんまり人の目ちゃんと見ましぇんね。

    5~6.(メルバさん)
      そういう過酷な労働の中からぽっくんも描き出されたとでしゅよ。
     よしりんはまだまだ意欲を持続しよるとでしゅが、スタッフが年とってついてこれなくなってるんじゃないかって心配してましゅ。
     
     ぽっくん、倒れて入院したって沙麻代ちゃんにデートしてもらいましゅ!
     …でも、そりってデートじゃなくて、ただの「お見舞い」になりましぇんか?

    7~8.(後藤さん)
      ポエムなんてもんは、何かの熱に浮かされてる時にしか、口にできましぇ~ん!
     
  • 「【都知事選】原発擁護派のウソ・ベスト8発表!」小林よしのりライジング号外

    2014-01-28 12:50  
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    ゴーマニズム宣言
    「【都知事選】原発擁護派のウソ・ベスト8発表!」  今回の東京都知事選挙は、日本が脱原発へ舵を切れるかどうかのラスト・チャンスだと言っていい。
     しかし、東京の有権者たちはまんまと安倍政権・マスコミ・自称保守知識人の「 ワン・イシューはいけない 」「 エネルギー政策は国の問題で、都知事選の争点ではない 」という情報操作に洗脳されてしまったようで、選挙戦は舛添要一の有利が伝えられている。
     舛添も「徐々に原発の依存度を弱める」と言っているのだから、それでいいんじゃないかと思っているのかもしれないが、 これは安倍政権と完全に歩調を合わせた主張であり、原発再稼働は前提、新規原発の建設も視野に入っていることは間違いない。
     舛添が当選すれば、脱原発運動もついに敗北し、3.11以前へと回帰していくことになる。そして次の事故が起き、東京都にたっぷり放射能が降り注いでから、またパニックになるという愚かさを繰り返すのだろう。
     この選挙期間中のささやかな抵抗として、福島第一原発事故から3年近くの間、原発維持・推進を企む者たちが言い続けたウソを列挙しておこう。
    ① 原発がなくなると江戸時代に戻る
    ② 原発がなくなると電力不足になる
    ③ 運転中の原発で死亡した人はいない
    ④ 再生可能エネルギーでは原発を代替できない
    ⑤ 汚染水は海に放出してもいい
    ⑥ 核のゴミの最終処分場は確保できる
    ⑦ 原発のコストは安い
    ⑧ 原発がなくなると国富が逃げる
     近頃言われなくなったウソ、相変わらず言われ続けるウソ、最近言われ始めたウソ、これから強調されるはずのウソなどいろいろあるが、文字数の関係もあるので、「嘘っぱち」ということで以上8点選んで検証しよう。
    ① 原発がなくなると江戸時代に戻る
     今でも「 原発がなくなると生活水準が落ちる 」と脅す者はいるが、原発事故直後は「知識人」と称する者が、「 江戸時代に戻る 」とまでの暴論を平気で言っていたのだ。
     わざわざこんなこと言うのもバカバカしいが、明治期の「文明開化」は原発によってもたらされたものではない。そればかりか、戦後の高度経済成長だって、原発なしで達成されたのである。
      そして原発ゼロは現在、続いているが、江戸時代どころか、昭和にも戻っていない。
     高度経済成長の時代を生きていたはずの、わしより年上の「知識人」がこんなこともわからなくなっているということに、わしは本当に驚かされたものである。

    ② 原発がなくなると電力不足になる
     原発事故直後の「計画停電」のインパクトを背景に、原発がなくなれば電力不足になるというウソは当初ものすごい勢いで流布されたが、そもそも計画停電は、大震災によって火力・水力発電も損傷を受けて止まったために起きたことであり、これが復旧した後は、原発が全部止まった後も電気は足りたのである。
     電力会社は毎年夏になると電力不足の危機を煽り、節電要請を出し、結局電力需給に余裕を持ったまま夏が終わると、今度は冬に電力不足になると言い出し、やはり冬にも電力不足は起こらず…ということを繰り返していた。
      そして昨年夏は記録的猛暑だったにも関わらず、ついに「節電要請」も行なわれなかった。
     もう誰も「電力不足」を言わなくなり、原発推進派の主張は一斉に「 化石燃料費で貿易赤字が増える 」にスライドしたのだった。

    ③ 運転中の原発で死亡した人はいない
     これは田母神俊夫が都知事選出馬の記者会見で言ったことだが、そもそもなぜ「 運転中の原発で 」と限定を付けているのか分からない。
      平成11年(1999)、茨城県東海村で作業員2名が死亡した臨界事故は多くの人が記憶しているはずだが、あれは「核燃料処理施設」であって、「運転中の原発」ではないと言うつもりか?  
     だとすれば相当悪質なごまかしだし、こんなごまかしを重ねれば、いくらでも被害を過少に見積もることは可能だ。
      原発作業員の被曝者は40万人とも50万人ともいわれており、低線量被曝によって起こると見られる免疫力の低下、白内障、心臓疾患、全身を倦怠感が襲う「原発ぶらぶら病」などの健康被害の報告は数限りないが、これまで原発労働者で労災認定されたのはわずかに10人。
     事実としてどんな被害があろうとも、認めさえしなければ「ゼロ」にしてしまえるのだ。
     そもそも田母神は、福島第一原発事故は「運転中の原発」を襲った事故ではないと言うのだろうか?
      昨年3月時点で、震災関連死・原発事故関連死として認定されたのは、岩手県389人、宮城県862人、福島県1383人である。
     震災関連死と原発事故関連死それぞれの人数は不明だが、他の被災地と比較して福島県の認定者数が際立って多いことから、その中に多くの「 原発事故関連死 」が含まれていると推測されるが、それを田母神は「 ひとりもいない 」と言ってのけるのである。
     もちろん、今後原発事故の放射能による健康被害の訴えがどのように出てこようとも、田母神はそれらすべてを原発事故とは関係ないと言い張るであろう。

    ④ 再生可能エネルギーでは原発を代替できない
      日本の電力10社の発電能力は東日本大震災の前で約2億Kw。
      それに対して、風力だけでも1・9億Kwの発電能力がある ということは、既に 『脱原発論』 で描いている。
     さらに、昨年12月24日の「報道ステーション」では、アメリカの著名な物理学者エイモリー・B・ロビンス博士に取材していたが、博士は 1983年以前に既に開発されていた省エネ技術の応用で、コロラド州連邦政府ビルで70%のエネルギー削減、ニューヨーク・エンパイアステートビルでは外観を残して40%のエネルギー削減を実現した と明言。
      米国では2050年の消費エネルギーが現在の半分にまで削減でき、原子力はおろか、石炭・石油もゼロにすることができると結論付けている。
     これからはエネルギー消費量そのものが減っていき、企業もその方が利益が上がり、経済成長につながるようになるのだ。

    ⑤ 汚染水は海に放出してもいい
  • 「『ポエム化社会』にある深刻な問題とは?」小林よしのりライジング Vol.70

    2014-01-21 18:30  
    157pt
    「ポエム化社会、マジとパロディの両立が必要」  現代は「 ポエム化 」しているという。
     前向きで優しく、聞き心地はよいのだが、大げさで意味不明な詩のような言葉が、社会のあちこちに氾濫しているというのだ。
    「日刊SPA!」のウェブサイト(http://nikkan-spa.jp/507075)にその「症例報告」が載っていたので、その中からいくつか拾ってみよう。
      新築分譲マンションのチラシやパンフレット には…
    「 天空に舞い踊る星々のトレモロ。人々の営みを物語る地上に散りばめられた灯火のロマネスク。あるいは、早朝のまどろみから朝日に洗われつつ姿を現す都会のエクリチュール 」
      旅館やホテルのHP では…
    「 がんばるのに少し疲れたな…と思ったら、『月のうさぎ』におかえりなさい。あなたは現世のかぐや姫。そしてここはあなたの心の故郷。胸のもやもや、隠し事も、ほんのり月夜に消えてしまいます 」
      大学案内 では…
    「 『学び』というペンで、夢を未来を描き出そう。開いたノートが『まだ、まっ白!』でもかまわない。未完成だからこそ、想像以上の私になれる 」
      朝日新聞の『天声人語』 も…
    「 文筆に卒業はない。厳しくも温かい恩師である読者との交流を糧に、外へと踏み出したい。東京は残花を惜しむ週末。ひとひら風に舞って、この国を、また好きになる 」
      ラーメン屋の壁 には…
    「 いま居る処が最後の砦 そしてすべての始まりなんだ がんばろうぜ 」
    「 この人生は一生懸命 私の人生は一笑賢命 いつでもどこでも いっしょうけんめいが いちばん美しい 」
     さらには、 自治体の条例の名称 まで「ポエム化」が蔓延しているそうで、
     熊本県人吉市「 子どもたちのポケットに夢がいっぱい、そんな笑顔を忘れない古都人吉応援団条例 」
     滋賀県草津市「 愛する地球のために約束する草津市条例 」
     北海道厚沢部町「 素敵な過疎のまちづくり基本条例 」
     秋田県横手市「 雪となかよく暮らす条例 」
     新潟県阿賀野市「 みんなで支えよう『こころ』と『いのち』を守る条例(案) 」
     …といった、正体不明の条例が続々と誕生しているという。
     1月14日のNHKクローズアップ現代『 あふれる“ポエム”?!~不透明な社会を覆うやさしいコトバ~ 』は、その「ポエム化」社会をレポートしていたが、特に目を引いたのは、「居酒屋」とそこに勤める若者たちの現状だった。
     居酒屋というのはもともと「ポエム」の宝庫で、 相田みつを まがいの筆文字の「ポエム」が店中の壁一面、トイレにまで『耳なし芳一』みたいに書き込まれた居酒屋なんかもよくあるそうだが、問題はそんなことには留まらない。
     昨年11月、5000人の聴衆を集め、「日本一の居酒屋」を決める「居酒屋甲子園」なるイベントが開催された。
     決勝大会の審査基準は料理の味や接客ではなく、 居酒屋で働くことの「希望や夢」を謳いあげる「魂の“ポエム”」 だという。
     そこでは居酒屋で働く若者が、自らの過去のつらい体験を告白し、 「愛」「希望」「勇気」「絆」「仲間を大事に」「笑顔」 等々の綺麗事の言葉をちりばめて、決して楽ではない居酒屋の現場で働く中で、前向きに生きる希望や夢を見つけることができたという「喜び」を情感たっぷりに訴えかける。
    「 夢はひとりで見るもんなんかじゃなくて、みんなで見るもんなんだ!人は夢を持つから、熱く、熱く、生きられるんだ! 」と絶叫する金髪の若者。
    「 変わりたい。今の自分は嫌だ!みんなから愛される店長になりたい! 」と、目を潤ませながら語る店長。
    「 私にガンが見つかりました。どうして私が、なんでこんなつらい思いを… 」という体験を打ち明ける女性店員…。
     そして、それを聞いた観客も感激して涙ぐんだりしているのだ。
     同様のコンテストは今、居酒屋だけではなくトラックドライバーや介護士、歯科助手、パチンコ店員、エステティシャンなど、10以上の業種で行なわれているという。
     出場者は居酒屋で働く「夢と誇り」を、全身の身振り手振り、満面の表情に浮かべて絶叫し、涙まで流して訴え、観客はそれを見てストレートに感動している。
     そんな「居酒屋甲子園」の様子を見て、わしはどうにもむずがゆくてたまらない気持になった。
     それは新興宗教や、自己啓発セミナーにもよく似た一種異様な光景とも見えたが、ここでわしが連想したのは、かつて毎年成人の日に行なわれていた『青年の主張』だ。
      『 青年の主張 』は昭和31年(1956)からNHKが開催していた弁論コンテストで、毎年テレビ・ラジオで全国放送されていた。
     毎年設定されるテーマに沿って、その年の新成人が「主張」を発表するのだが、その内容はといえば、自分の不幸な過去を告白し、それから綺麗事の言葉を並べ立てて、自分が今、いかに前向きに夢や希望を持って生きているかを訴えるという、青臭く、公に言うのは恥ずかしい、偽善的といってもいいようなものがとにかく目についた。
  • 「遺骨収集・千鳥ヶ淵墓苑が形骸化する理由」小林よしのりライジング Vol.69

    2014-01-14 22:20  
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    「遺骨収集・千鳥ヶ淵墓苑が形骸化する理由」  安倍首相は昨年4月、大東亜戦争末期の激戦地で、今も日本兵約1万2千の遺骨が残る硫黄島を訪れ、「 遺骨帰還事業を着実に進める 」と表明した。
     これを受け政府は 厚労、防衛、外務各省による作業チームを結成。 事業費として平成26年度予算に数十億円を計上し、部分的な収容と調査を並行して着手するという。
     さらに安倍首相は今年から2年間を目標に、同じく大東亜戦争末期の激戦地だった南太平洋の島国へ、現職首相としては29年ぶりとなる歴訪の方針を固め、合わせて 政府は平成26年度から、南太平洋諸国やミャンマーなどでの戦没者の遺骨収集事業を強化する方針を固めた。
     いずれも日本人戦没者を慰霊し、遺骨収集活動を強化したいとする安倍首相の強い意向によるという。

     南太平洋諸国やミャンマーへの訪問には、中国の進出を牽制する狙いがあるとか、 昨年末の「 靖国神社参拝 」と「 遺骨収集の強化 」を「 慰霊のため 」の一連の行動だと強調する ことで、靖国参拝に対する中国や韓国の反発を和らげようとの思惑があるとか言われている。
    「靖国神社参拝」が「遺骨収集」と同じ「慰霊」だと、国民にも、諸外国にも、強調すること自体が完全に間違っている。
      靖国神社は「特段、英(ひい)でた霊」に対する「顕彰」の施設であって、「慰霊」の施設ではない。
     英霊は犠牲者ではなく、英雄であって、靖国神社に参拝したら、命を賭けて国を守ってくれた英霊に感謝し、我々もその覚悟を誓うのが本当なのだ。
    「遺骨収集」は「犠牲者」に対する「慰霊」だから、靖国神社とは根本的に理念が違う。

     そもそも硫黄島への入島制限を緩和し、事業費を10倍に拡大するなどの方針を打ち出し、同島の遺骨収集事業を大幅に推進したのは民主党の菅政権で、政権交代以前から国による遺骨収集事業は推進される傾向にあった。
     菅直人も以前から遺骨収集には積極的だったということで、当時、菅は
    「 せめて御遺骨を御家族の待つ地にお返ししなければならない。これは国の責務であります 」
    「 われわれは、尊い命を賭して祖国を守ろうと硫黄島で奮闘された英霊に思いを致し、この国の平和と繁栄をしっかり築いていかなければなりません 」
     といった発言をしている。ただ、自称保守派やネトウヨたちが、靖国神社に冷淡な菅直人のやることだから「欺瞞」だと決めつけ、無視していただけのことである。

     遺骨収集など、戦没者慰霊事業の担当部署である厚生労働省によると、海外における戦没者は約240万人で、収容された遺骨は約127万体。海に沈むなどして収容が不可能なものや、国交のない北朝鮮などにある遺骨を除き、まだ約60万体の収集が可能という。
     これらの戦没者を、一人でも多く、一刻も早く「帰還」させたい…実はわしもかつてはそう思っていた。遺骨に魂が宿っているという遺骨信仰がわしの中にも残っていたのだ。
     だが同時にこういう疑念が拭い去れなかった。
      それでは、遺骨が収容されていない戦没者の霊は、日本に「帰還」していないのか?
      太平洋に没した遺骨、シベリアに斃れた遺骨、満州・シナ・朝鮮に埋もれた遺骨はどうなるのか?
      戦没者の霊は、全て英霊として祖国に帰還し、靖国神社に祀ってあるのではなかったのか?
      靖国神社に遺骨はない。祀られているのは「霊」だけだ。
      遺骨収集は日本人の骨への信仰で成り立つのだろうが、その聖地は千鳥ヶ淵墓苑である。
     もともと神様を数える単位である「柱」が、遺骨を数える単位としても使われていることなどから混同されやすいのだが、 遺骨信仰と、霊魂信仰は違う。むしろ、相反するものとさえ言える。
      遺骨が還らなければ帰還したことにならないというのでは、靖国神社の否定につながってしまうのだ。
     だから、菅直人が靖国神社を否定する一方で、遺骨収集事業に熱心だったとしても、これには全く矛盾はない。
      逆に靖国神社と遺骨収集事業を一続きのもののように思っている、安倍政権や自称保守の感覚の方がおかしいのだ。

     遺骨収集は昭和27年の「遺骨送還に関する閣議了解」などに基づき実施されているが、政府が推進する上での法的根拠は弱く、民間が中心となって行なわれてきた。
     この「民間」というのは具体的には各地の 戦友会 や 遺族会 などである。これらの人々にとっては、 戦没者は自分に近しい存在だったわけだから、遺骨を野ざらしにしておきたくはない、できれば日本に帰還させ、きちんと弔いたいという思いは「情」として全く当然のものだった。
     だが平成に入った頃から、戦友会や遺族会の人たちが高齢化し、現地入りすることが困難となってきたのに伴って、戦没者とは直接のつながりを持たないボランティア団体が遺骨収集に関わるようになってきた。ここが、遺骨収集事業の大きな転機となったのである。
  • 「ポジショントークに堕す論壇ムラの裏事情」小林よしのりライジング Vol.68

    2014-01-07 16:50  
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    「論壇ムラの『個』のない事情」 「 ポジショントーク 」は、なかなか便利な言葉である。
     国権を強くしたいと考える右派も、民権を強くしたいと考える左派も、双方の論壇ムラの「ポジション」に立つと、そのムラの世間に同調して、まったく同じ定型の主張しかしなくなってしまう。
    「個」が消滅して、「集」に融合してしまうのだ。
    「ポジショントーク」は、その現象を一言で表している言葉である。
     かつて「わしズム」や「ゴー宣道場」において一時は期待した言論人が、自称保守論壇ムラに入るや、たちまち紋切り型のポジショントークしかできなくなってしまうという惨状を、わしは何度も見てきた。
     なぜそんなことになってしまうのか、今回はその構造を解き明かしてみたい。
     世間一般的には馴染みもなければ、価値も権威も認められていないが、「正論大賞」というものがある。フジサンケイグループ主催の言論賞で、同グループの基本理念ということになっている「自由と民主主義のために闘う正論路線」において「特筆すべき言論活動を行ったオピニオンリーダー」に贈られるという賞である。
     要するに「正論路線」(正確には「自称・正論路線」と言うべきだが)なる「 産経新聞 」の論調に合わせた主張でなければ受賞できないということが、最初から決まっている賞なのだ。
      その「正論路線」とは具体的には、外交は「反韓・反中・親米」。
      経済はとにかく「経済界の主張の後押し」。当然ながら「原発は推進」、「TPP賛成」。
      国権の強化が好きで、「特定秘密保護法は賛成」、「集団的自衛権行使は賛成」となる。
      そして皇統は男系絶対ということに決まっている。
     本当に「自由と民主主義のために闘う」というのなら、自由経済から完全に外れている原発を推進しているのはおかしいし、民主主義の根幹に関わる特定秘密保護法には反対しなければ筋が通らないはずだが、彼らはそんなことはいちいち考えない。
    「脱原発」は左翼、「女系公認・直系優先」は左翼、「反米」は左翼、「護憲」は左翼という風に決められている。
     彼らの憲法観はかなり異様で、憲法改正すれば、戦後レジームから脱却したことになり、日本は誇り高く美しい国になると信じているのである。
     断言しておくが、憲法は魔法の呪文ではない。左翼が、現行憲法が戦後の平和を守ったと言い張るのと同じくらい、改正憲法が将来の日本をバラ色にするということもないのだ。
     兎にも角にもムラのお決まりの主張を唱える様子が目立って、産経新聞のお眼鏡にかなえば晴れて正論大賞受賞というわけだ。
     正論大賞の第1回は昭和60年(1985)で、受賞者は渡部昇一。以下、主な受賞者を並べると、曽野綾子、竹村健一、堺屋太一、西部邁、上坂冬子、西尾幹二、岡崎久彦、田久保忠衛、江藤淳、石原慎太郎、小堀桂一郎、屋山太郎、中西輝政、森本敏、藤岡信勝、櫻井よしこ…
    「反米」の主張がある西部や江藤が受賞しているのは、2001年の米国同時多発テロより以前だったからだろう。
    「9・11」以降、自称保守論壇の空気が一気に変わり、米国批判をしたら猛バッシングを食らうようになったというのは、わし自身が体験してきたことだ。
     言論に関する賞なんてものは、どこでも大なり小なり仲間内の論功行賞という性格があるものだが、正論大賞は特に露骨で、やっててよく恥ずかしくないなと思うような、産経御用知識人を「内輪褒め」するためだけに存在する賞である。
     ところが、そんな正論大賞でも欲しがっている自称保守言論人はいるし、その産経の路線に沿った発言をする者は多い。
      日本会議 のような保守系団体や、 神社本庁 なども産経新聞と同じ主張をしているから、産経御用のお墨付きを得られれば、それらの団体の関係であちこちに行って講演ができて、ギャラがもらえて、「先生」「先生」とチヤホヤしてもらえるのだ。
     わしには理解できないが、それはどうやら、すごく気持ちのいいものらしい。
     講演会の後には懇親会などが開かれるから、そこで顔なじみの人がいっぱいできて、コネがどんどん作られていく。
     それでまた別の集会などから講演のお呼びがかかり、そこに出かければまた「先生」「先生」と持ち上げられ、いい気持ちになってギャラがもらえるのだ。
     さらに異様に国権に傾いた「 チャンネル桜 」というものがあって、その世間に入ったら、テレビのキャスターごっこができる。
     ちゃちなものだがテレビスタジオがあって、何台かカメラが回ってて、そこでしゃべればあたかも自分がメジャーなテレビのコメンテーターか何かになれたかのような錯覚に浸ることができるのだ。