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  • 「アメリカの文明の野蛮」小林よしのりライジング Vol.335

    2019-11-06 14:40  
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     以前も紹介したが、岡本太郎は70年大阪万博のテーマ館プロデューサーに就任し、「人類の進歩と調和」というテーマに対して「人類は進歩なんかしていないし、調和もしていない」と断言した。
    「人類の進歩と調和」は「科学技術万歳」で、科学力さえ進歩すれば人類も進歩するという発想によるものだったが、それを真っ向から否定したのだ。
     50年後の今、岡本太郎は完全に正しかったと常に思わされる。
     先月27日、アメリカのトランプ大統領はホワイトハウスで「昨夜、アメリカは世界最悪のテロリストのリーダーに正義の鉄槌を下した」と演説し、米軍の軍事作戦によって武装過激派組織イスラム国(IS)の指導者、アブ・バクル・アル・バグダディが死亡したと発表した。
     米軍は数週間前にシリア北西部のバグダディの潜伏先を突き止め、2週間ほど前から秘密裏に作戦を計画。
     作戦は現地時間26日夜に実行され、米軍の特殊部隊がヘリコプター8機で潜伏先の建物を急襲。建物の正面には爆弾が仕掛けられていたため、部隊は建物の横に穴を開けて侵入し、応戦してきた戦闘員5人と、自爆ベストを着ていたバグダディの妻2人を殺害。
     バグダディは周辺のトンネルに逃げ込むが、軍用犬に追い詰められて自爆ベストを起動させ、一緒にいた3人の子供と共に死亡したという。
     トランプはホワイトハウス地下の作戦指令室で現地からの生中継を視聴、「映画を見ているようだった」と言い、自爆する直前のバグダディについて「臆病者のように泣き叫んでいた」と述べた。
     本当にバグダディが泣き叫んでいたかどうかについては、記者会見で作戦の詳細を説明した中央軍司令官が「確認できない」と述べており、トランプがバクダディを「臆病者」として印象づけるために話を「盛った」のではないかと言われている。
     ともかくトランプは、現地から遠く離れた全く安全な場所で、まるでゲームのように面白おかしくそれを見物しておけばいいのだ。
     前任の大統領で、なぜかノーベル平和賞受賞者であるオバマも、かつて同じことをやった。
     2011年、米軍が9.11テロの首謀者とされるオサマ・ビンラディンを殺害した際、オバマら政権中枢は今回と全く同じようにホワイトハウスの作戦指令室で現地からの生中継を見物し、ビンラディンの死亡を確認すると、記者会見で「正義はなされた」と宣言したのだった。
     科学力の進歩が、そういう事態を作り上げてしまった。アメリカという「文明国」だから、それが出来るのだ。
     わしは基本的に、イスラム国は大嫌いである。あれは日本の自称保守派と同じ男尊女卑の連中だから、潰して全然構わない。とはいえ、その指導者が無惨に殺害されていく様を、全くの他人事のように高みの見物で眺めていられる神経には、呆れ果てるばかりだ。
     トランプは、少しは自分の身に置き換えてものを考えるということができないのだろうか。
     例えばものすごく性能のいいドローンが開発されたら、トランプだってどこかの何者かからどんどん追い詰められて、暗殺されてしまうことだってあり得るのではないか?
     大国にしかできないこととは限らない。このままメカの性能がどんどん発達して行ったら、中東からの遠隔操作で暗殺ドローンが大量にホワイトハウスを襲撃することだって、不可能とはいえない。
     そんなことになったら、トランプはどんな臆病者の醜態を見せることになるだろう? 泣き叫びながら小便垂れ流して逃げ回った挙句、惨めな死にざまをさらすんじゃないか?
     そんなことを一切想像もせず、たまたま自分が圧倒的に有利な立場にいるということだけに乗っかって、追い詰められて死んでいく敗者をせせら笑う精神は、とてつもなく野蛮だとしか言いようがない。
     トランプはイスラム国を潰すために利用したクルド人を、あっさり裏切った。
     米国は2014年、イスラム国の支配圏拡大を阻止するためにクルド人に協力を要請。武器と金を渡し、訓練と後方支援を行い、戦闘に当たらせてきた。