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ブルックリン物語 #14 フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン ”Fly me to the Moon”

キングコング・西野さんの絵を見たときの最初の印象を今も覚えている。モノクロなのに光の渦に巻き込まれたような。ずいぶん昔ぼくはこの絵の中にいた。その中を心の赴くままに飛び回っていた。空想の世界で遊んでいた幼い頃の記憶が一気に蘇る。 もともとお互いに面識のないぼくと西野さんだが、彼がNYにいる日本のアーテイストたちにツイッターでトライベッカでの個展へと誘ってくれたのがコトの始まりだった。ぼくは彼が絵を描いているらしいというのは知っていたので「もちろん! 行かせていただきます」と返事をして、すぐ友人の編曲家ダニエル・バーニッジを誘ってギャラリーを訪れた。 その日、入り口辺りは在米日系人のマスコミ関係者たちで溢れ、アートに造詣の深そうなアメリカ人たちが彼の絵に食い入るように見入っていた。取材のカメラクルーたちは西野さんの会話を書き留めようとライターの人たちとともに、民族大移動でギャラリーの中をゆっくり移動中だった。 ぼくは軽く西野さんに「はじめまして」の会釈をし、彼も同じように軽く会釈を返した。ごったがえした現場では、それ以上お互いに踏み込んだ会話は一切なかった。ぼくとダニエルは絵に見入り、感嘆符を吐き、気がつくといつしかそれぞれ想像の世界をさまよっていた。 「おーい、ダニエル、このあとどうするよ? なんだかすっかり入り込んじゃったから、どこか静かな場所に移動したいと思うのだけれど」 「それはいい案だ。そしてどこかで彼の絵について語り合おう」 時折吹く風がトライベッカのでこぼこの車道から舞い上がり、空まで飛ばされそうな勢いの夜だった。 「西野さんて、ものすごいギーク(おたく)だよね」 「うん、たしかに生粋の、あそこまで描くのは尋常じゃない想像力だ」 月がそんなぼくたちを静かに何も言わずに見下ろしていた。 ダニエルとぼくは腕を組んでカフェでワインを前に西野さんの絵を語り合った。 「あの細やかな描き込み、ペンのタッチ、彼は別の仕事をしながらいったいいつ描いているのだろう」 「相当の情熱だ。きみはおそらく彼と近い将来仕事をするような予感がする」  

ブルックリン物語 #14  フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン ”Fly me to the Moon”

ブルックリン物語 #13 雨に唄えば “Singin' in the Rain”

「昨日からちょうど梅雨に入りましたよ」 ぼくにとって今年2度目の帰国になる日本は、しっとりとした季節突入の頃だった。NYにいると梅雨を意識することがあまりない。雨が若干多いなと思っても梅雨だと気がつくよりも先に夏になっていることが多い。夏は夏で、トンボの姿を目にするまで「駿足」に駆け抜けていく。日本の梅雨は「初夏と真夏の間に万(よろず)の神様が置いたギフト」、今回そう実感した。宿泊しているホテルの窓越しに、どこまでも曇り空が広がり、まるで薄い墨を塗ったかのような不安な世界。その中を霧雨が矢のように降ってくる。ガラスについた矢の先の雨粒が、まるで包装紙の模様のように空のグレイを丁寧に包み込んでいく。 NYとの時差もあり、誰もいない早朝に目が開いたぼくは朝定食を食べにホテルを出る。その朝もぽつぽつ降り出していた。ハンカチを被り歩く人やにわかに雨宿りをする人もいる。出勤する人の波に逆らうように歩くと、映画「雨に唄えば」のワンシーンのようになる。 「頭の上の雲を笑って   心の中にはいっぱいの太陽   恋する気持ちが始まっている」 ドラマ(「十年愛」)共演以来20数年ぶりに、鈴木杏樹さんとラジオで会う機会があった。久しぶりにその中で偶然雨宿りする男女を演じた。素性を知らない者同士が「雨」よけでひとつの軒先で隣同士になる。どちらからともなく始まる会話の中に、鎌倉の「あじさい寺」が出てくる。妙月院のあじさい。湿気が多いとその色が濃くなると言われるあじさい。雨上がりの時刻に居合わせると、それはまるで魔法のように鮮やかな色彩を放つ。  

ブルックリン物語 #13 雨に唄えば “Singin' in the Rain”
ブルックリンでジャズを耕す

47歳でポップミューシャンのキャリアを捨て、ニューヨークのニュースクールへジャズ留学する。20歳のクラスメイトに「ジャズができていない」と言われ、猛練習をすれば肩を壊し。自信喪失の日々の中、ジャズの種を蒔き、水をやり、仲間を得て、ようやく芽が出てきた。マンハッタンからブルックリンに越してきて5年。相棒・ぴ(ダックスフント)と住む部屋には広いウッドデッキがある。まだまだ、ジャズを耕す日々は続く。「プルックリン物語」「大江屋レシビ」「アミーゴ千里のお悩み相談」など、ブルックリンから海を越えてデリバリー!

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大江千里

1960年生まれ。関西学院大学在学中にデビュー。「格好悪いふられ方」「夏の決心」など45枚のシングルと18枚のアルバムを発表。映画、ドラマ、「トップランナー」司会の他、執筆活動も。2008年、NYのニュースクールにジャズピアノ専攻で入学。2012年『Boys Mature Slow』、2013年『Spooky Hotel』がビルボード日本ジャズチャート1位に。2015年、『Collective Scribble』、単行本『9番目の音を探して 47歳からのニューヨークジャズ留学』を発表。東京ジャズ、ブルーノート、富ジャズ他、ニューオリンズ、アムステルダムなど、精力的に活動中。

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