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ブルックリン物語 #13 雨に唄えば “Singin' in the Rain”

「昨日からちょうど梅雨に入りましたよ」 ぼくにとって今年2度目の帰国になる日本は、しっとりとした季節突入の頃だった。NYにいると梅雨を意識することがあまりない。雨が若干多いなと思っても梅雨だと気がつくよりも先に夏になっていることが多い。夏は夏で、トンボの姿を目にするまで「駿足」に駆け抜けていく。日本の梅雨は「初夏と真夏の間に万(よろず)の神様が置いたギフト」、今回そう実感した。宿泊しているホテルの窓越しに、どこまでも曇り空が広がり、まるで薄い墨を塗ったかのような不安な世界。その中を霧雨が矢のように降ってくる。ガラスについた矢の先の雨粒が、まるで包装紙の模様のように空のグレイを丁寧に包み込んでいく。 NYとの時差もあり、誰もいない早朝に目が開いたぼくは朝定食を食べにホテルを出る。その朝もぽつぽつ降り出していた。ハンカチを被り歩く人やにわかに雨宿りをする人もいる。出勤する人の波に逆らうように歩くと、映画「雨に唄えば」のワンシーンのようになる。 「頭の上の雲を笑って   心の中にはいっぱいの太陽   恋する気持ちが始まっている」 ドラマ(「十年愛」)共演以来20数年ぶりに、鈴木杏樹さんとラジオで会う機会があった。久しぶりにその中で偶然雨宿りする男女を演じた。素性を知らない者同士が「雨」よけでひとつの軒先で隣同士になる。どちらからともなく始まる会話の中に、鎌倉の「あじさい寺」が出てくる。妙月院のあじさい。湿気が多いとその色が濃くなると言われるあじさい。雨上がりの時刻に居合わせると、それはまるで魔法のように鮮やかな色彩を放つ。  

ブルックリン物語 #13 雨に唄えば “Singin' in the Rain”
ブルックリンでジャズを耕す

47歳でポップミューシャンのキャリアを捨て、ニューヨークのニュースクールへジャズ留学する。20歳のクラスメイトに「ジャズができていない」と言われ、猛練習をすれば肩を壊し。自信喪失の日々の中、ジャズの種を蒔き、水をやり、仲間を得て、ようやく芽が出てきた。マンハッタンからブルックリンに越してきて5年。相棒・ぴ(ダックスフント)と住む部屋には広いウッドデッキがある。まだまだ、ジャズを耕す日々は続く。「プルックリン物語」「大江屋レシビ」「アミーゴ千里のお悩み相談」など、ブルックリンから海を越えてデリバリー!

著者イメージ

大江千里

1960年生まれ。関西学院大学在学中にデビュー。「格好悪いふられ方」「夏の決心」など45枚のシングルと18枚のアルバムを発表。映画、ドラマ、「トップランナー」司会の他、執筆活動も。2008年、NYのニュースクールにジャズピアノ専攻で入学。2012年『Boys Mature Slow』、2013年『Spooky Hotel』がビルボード日本ジャズチャート1位に。2015年、『Collective Scribble』、単行本『9番目の音を探して 47歳からのニューヨークジャズ留学』を発表。東京ジャズ、ブルーノート、富ジャズ他、ニューオリンズ、アムステルダムなど、精力的に活動中。

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