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記事 27件
  • 台獣物語43(2,561字)

    2016-11-19 06:00  
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    43
     翌朝、ぼくがまだ眠っているときにそれは起こった。
     寝袋にくるまって眠っていたエミ子は、ふいに何かの物音に気づいて目を覚ました。ただ、その物音に不安や不信感を覚えたわけではなかった、なぜならその物音は、なんというかやさしく、穏やかな雰囲気をたたえていたからだ。
     それでエミ子は、普段家で眠っているときにもないような目覚めの良さで覚醒し、そこからおもむろに体を起こした。そして、手近に置いておいた眼鏡をかけると、その物音がした方を見たのである。
     すると、そこには鹿が立っていた。体は小さかったし、角も生えていなかったから、まだ子鹿だったのかもしれない。その子鹿は、たった一頭でそこに立っていた。
     エミ子は、その子鹿をじっと見つめた。子鹿も、少し小首をかしげるような仕草で、やっぱりエミ子のことをじっと見つめた。

     エミ子は、このときなぜか、驚いたり、慌てたりしなかった。不思議なことに、

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  • 宮﨑駿さんはなぜ川上量生さんを怒ったのか?(2,641字)

    2016-11-18 06:00  
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    2
    NHKで『終わらない人 宮﨑駿』という番組が放送された。
    その中で、宮﨑駿さんがジブリでプロデューサー見習いをしている川上量生さんを怒るという場面があった。
    これについて、ネットで大いに話題になった。目についた記事だけでも、以下のようにたくさんある。
    ・【速報】宮崎駿監督、ドワンゴ川上会長にマジギレ : IT速報
    ・宮崎駿監督、ドワンゴ川上量生会長を一喝「生命に対する侮辱」
    ・ドワンゴ川上氏への「極めて不愉快」発言は宮崎駿氏が圧倒的におかしい - さようなら、憂鬱な木曜日
    ・宮崎駿と川上量生の件で珍しく真剣にものを言いたくなった
    ・宮崎駿はなぜ身体障害者の話を持ち出したのか
    ・めっちゃ怒られているのがテレビで放送されてしまった - はてな匿名ダイアリー
    さらに、Facebookでは村上隆さんによるこんな発言もあった。
    ==========
    再び、宮﨑駿、長編復活のNHKドキュメントについて

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  • あしたの編集者:その22「人間が本質を見誤る理由」(2,089字)

    2016-11-17 06:00  
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    『ドラゴンクエスト』というゲームがある。このゲームの成功の要因はいくつもあるのだが、そのうちの一つに主人公の「スタート位置設定の秀逸さ」というのがある。
    『ドラゴンクエスト』第一作は、スタート地点とゴール地点が同じである。スタート地点ですでにゴール地点が見えている。スタート地点となる城のすぐ隣にゴール地点となる別の城がある。
    しかし、二つの城の間には小さな川が流れていて、すぐに行くことはできない。大きく迂回をして、散々冒険をした後に、ようやく辿り着ける。
    そうやって、長い時間さまざまな体験を経た後にスタート地点に戻ってくると、何が起こるか?
    それは、「同じ場所に立ちながら全く違った風景が見える」ということである。スタート地点とゴール地点とでは、同じ景色を見ているはずなのに、見え方が全然違う。
    それによって、人は気づかされる。それは、「人間の視野は狭い」ということだ。そして、「見えるものは非

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  • [Q&A]トランプ大統領になって日本はどうなりますか?(2,004字)

    2016-11-16 06:00  
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    [質問]
    「罠」にかけるなんてめっそうもございません。「罠」に簡単にかかりそうな人だと思ったら、こんなに馬鹿みたいに1年半も悩みや葛藤の質問をしてないですよ。質問送ってから誤字には気付きましたが(しまった~撲が)訂正質問を再度送るのもと思い、いつも通り校閲してくれるだろうとたかをくくっておりました。私、たかをくくっておりました。まぁ結果的に最後だと思ってたやり取りがもう1回増えたことを考えると「罠」にかかったという事でよろしいですかね(笑)
    [回答]
    いいですよ。
    [質問]
    ハックルさんが、もし今時間があったらぜひ見返したい、と思うコンテンツはありますか?
    [回答]
    ぼくはもう一回小説を読み直してみたいと思っています。
    特に『この私、クラウディウス』『百年の孤独』『虚構船団』など、読み通すのが面倒くさい小説を時間をたっぷりかけて読んでみたいですね。
    今も余暇はないことはないのですが、どうに

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  • 世界的なプロダクトを生み出す日本の美的感覚:その44(1,764字)

    2016-11-15 06:00  
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    『スペースインベーダー』の爆発的なヒットにより、日本には大きな「ゲーム市場」が立ち現れ、そこにたくさんの人々が参入してきた。そうした中で、『スペースインベーダー』のあとを担う大ヒットゲームも次々と生まれた。
    中でも、特筆すべきは『パックマン』と『ゼビウス』であろう。この二つは、ともにナムコが開発したのだが、共通しているのはゲームという文化を一段階押し進めたことだ。この頃は、ゲームはまだ黎明期だったため、さまざまな革新が為されていた。そのスピードはあまりにも急激で、それゆえとても刺激的だったので、多くのファンを惹きつけ、ゲーム市場の急拡大に大きく寄与した。
    取り分け、上記の二ゲームは革新の先鋒役を担った。そこでここでは、二つのゲームの果たした役割を順に見ていきたい。
    まず『パックマン』は、『スペースインベーダー』の発売から1年後の1980年に発売された。
    そのコンセプトは明確であった。当時、

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  • 会社の経営は将棋に似ていると思った話(このコンテンツには宣伝が含まれます)(2,072字)

    2016-11-14 06:00  
    経営というのは将棋に似ている。
    昔よく、囲碁をしたり将棋をしたりしている人が、「なぜするのですか?」と問われ「経営戦略を立てるのに役立つのですよ」と答えていた。
    それを見て、ぼくは「本当か? 実際は趣味でやっているだけで、遊んでいる後ろめたさを隠すためにそう言い訳しているのだろう」と訝っていたが、大人になってみると「それは必ずしも嘘ではなかった」ということが分かってきた。
    ぼくが大人になり、実際に会社の経営に携わってみて思ったのは、「経営は将棋に似ている」ということだ。これは、必ずしも最近になって思ったわけではない。もうだいぶん前から知ってはいたが、あらためて思わされたということだ。
    では、どういうところが似ているか?
    将棋というのは、まさに「戦略を教えてくれる」ということである。
    将棋は、先の見通しが立たない中で指す。勝ち負けがはっきりしない中で指すのだから当たり前といえば当たり前だが、

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  • 台獣物語42(2,558字)

    2016-11-12 06:00  
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    42
    「これはね、お父さんが言っていたらしんだけど」
    「うん」
    「科学というものも、色々研究が進んでいくと、そのたびに、新たに『分からないもの』が生まれてくるんだって」
    「分からないもの?」
    「うん――例えば、ある謎を研究していてそれを解明すると、また新たな謎が出てくるって」
    「ふむ」
    「それはまるで、ウィルスの抗体を発明するとまた新たなウィルスが出てくるようなものだって。それとよく似てるって」
    「なるほど」
    「でね、台獣というのは、この新種のウィルスみたいなもんじゃないかって」
    「えっ?」
    「というのも、人間というのはこの地球上のことや、そこで暮らす生き物なんかは、あらかた研究し尽くしちゃったらしいの」
    「ふむ」
    「だいたい、世界中でまだ人間が行ったことのない場所なんて、もうないでしょ?」
    「確かに……南極もエベレストもマリアナ海溝も、20世紀で行き尽くしたからね」
    「うん。だから台獣は

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  • トランプ氏の当選について(1,922字)

    2016-11-11 06:00  
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    トランプ氏が大統領に当選した。ぼくは以前に氏が大統領になるのではないかと予測したが、それが見事に当たった。
    見事には当たったものの、それでちょっと怖くなった。なぜかというと、世の中のほとんどの人がその意味を理解していないからだ。日本では、取り分け知識人あるいは文化人と呼ばれる人々がその意味を理解していない。それで、恐ろしくなったのである。
    彼らは、日本では大変に頭がいいとされている。その頭のいい人が理解できないことを、ぼくは理解できる。しかもそれは理解するのが大変に難しいらしく、頭がいいと言われている人にいくら噛み砕いて説明しても分からないくらい難しい。ぼくは『もしドラ』の作者だから、おそらく難しいことを噛み砕いて説明するのが世界で最も上手な人間の一人であるとは思うのだが、そのぼくが説明したって彼らは分からないのである。
    「バカの壁」という言葉があるけれども、その壁のなんと高きことよ。そう

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  • あしたの編集者:その21「子供が嘘つきになるきっかけ」(1,883字)

    2016-11-10 06:00  
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    子供の話というのは、当たり前のことではあるが、たいていつまらない。それは、知力をはじめさまざまな能力が欠けているからである。能力が欠けているからこそ、逆に奇想天外な話になり、かえって面白いということもあることはある。ただ、それはあくまでもイレギュラーなことで、本質的には、話術が足りないから話がつまらなくなる。
    子供は、よく見聞きしたことを母親に報告する(物語る)。が、そこでたいてい、自らの話術が拙いために、母親につまらなそうな顔をされるという経験をする。あるいは、反応してもらえなかったり、無視されたりという事態も起きる。
    そうしたときに、子供は当然の帰結として、「もっと面白い話をしよう」と考える。あるいは、考える以前に、本能的にそうしようとする。
    幼い子供にとって、母親に相手にされないのは大きなストレスだから、なんとかそうならないよう状況を改善しようとする。
    そうしたときに、ほとんどの子供

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  • [Q&A]同じような系統の質問ばかりになるので今回で、撲は終わりにします(2,532字)

    2016-11-09 06:00  
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    [質問]
    同じような系統の質問ばかりになるので今回で、撲は終わりにします。コーナーの趣旨とは離れたと思いますが、おかげさまで以前より自分の膿みが出せて気が晴れて楽になりました。感謝してます。その時々の気持ちに従ったので不快にさせた質問があったら申し訳ありません。もし自分にも人に何か貢献できる要素持っているものがあるのなら現在持ち合わせてなくても作れるように、数多くはないかもしれませんが他人に貢献できる、喜びを与えていけるような人間になります。自分なりに楽しく生きていきます。お世話になりました。
    [回答]
    同じ質問をしてもいいんですよ。この世の一切は空しいので、むしろ同じ質問を延々とくり返す行為の中にこそ、問答の本質があるのかもしれません。
    ところで、最後にぼくからも質問なのですが、質問の文中にある「ぼく」が「僕」ではなく「撲」になっていますが、これは何かの罠でしょうか?
    [質問]
    ハックル

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