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記事 20件
  • 庭について:その27(1,940字)

    2023-04-28 06:00  
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    18世紀のイギリスで、庭の進化がピクチャレスクという概念を生み、そこで発展したピクチャレスクという概念が、また庭にフィードバックするという現象が起こった。
    そうして18世紀の終盤になると、ピクチャレスクという概念が沸騰し、これをめぐってさまざまな議論が取り交わされた。
    その結果、庭とピクチャレスクは共に進化したが、一方でとらえにくい、難しいものにもなった。なぜそうなったかといえば、庭というのが基本的に難しいものだったからだ。奥が深く、とらえどころのないものだったのである。
    例えば「ディズニーランド」という「庭」がある。ぼくは全く美しいとは思わないし、ぼくと同様に考える人も少なくない。
    一方で、あれに強烈な「美しさ」を感じる人もいる。なんなら、ディズニーランドに庭としての究極の美を見出す人もいる。
    それだけなら「趣味の違い」で済む話かもしれないが、ややこしいのはここからだ。ディズニーランドは

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  • お金にまつわる思考実験:その26(1,845字)

    2023-04-27 06:00  
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    「トランスポート」という言葉がある。「物を動かす」という意味だが、古来よりトランスポートは経済の鍵を握ってきた。
    「ロジスティック」という言葉もあって、これは日本語では「物流」と訳される、トランスポートの中心的な概念だ。ただ、元々はローマ時代の戦争で、前線の兵士に武器や食料を届けることを意味した。日本語だと「兵站」だが、これが「戦争に勝つか負けるか」の鍵になったのでローマは、ロジスティック――いかに物資を前線に運ぶかを研究し尽くした。
    その結果、出てきた答えが「道を作る」というものだった。そこでローマは、道を作るための技術をこれでもかと積み重ねた。
    そうしてやがて土木大国となるのだが、それが巨大な帝国を作ることにもつながった。道を作るということが、国を作る上でも大きな役割を果たしたのである。
    なぜかというと、道は「一石三鳥」だからだ。まず、上記のように前線に物資を運ぶのに役立つので、戦争に

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  • [Q&A]お気に入りの建築はありますか?(1,849字)

    2023-04-26 06:00  
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    [質問]
    WBCが終わって早1ヶ月。今回の優勝に関してイチローさんは、栗山監督とのあまり良くない関係があるからか、あまり発言していません。
    イチローさんほどの人ですから、割り切っていろいろ話をしたりすることはできなかったものなんでしょうか? 岩崎さんはどう思われますか?
    [回答]
    今回の質問をいただいて、「それは気づかなかったけど、言われてみると確かにそうだな」と思いました。確かにイチローは、かつてのWBCで活躍したことからも、日本チームには相当深い思い入れがあるはずなのです。それなのに、今回の優勝に関する発言を聞きませんね。仰るように、栗山監督にわだかまりがあるからなのでしょう。
    逆にいえば、栗山監督はすごいですよね。イチローにこれだけ疎まれているのに、しっかりと栄光をつかむ。それは、よほどの実力がないとできないことです。
    ぼくは、栗山監督は修羅場をくぐり抜けてきたいい顔をしていると思い

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  • アーティストとして生きるには:その2(1,413字)

    2023-04-25 06:00  
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    これからは、全ての人がアーティストとして生きなければならない。「アーティスト」の定義は、前回も述べたが「表現によって他者をインスパイアする者」だ。
    なぜアーティストとして生きなければならないかというと、「非アーティスト的な生き方」がどんどん減っているからだ。もっというと許されなくなっている。
    「非アーティスト的な生き方」とは、簡単にいうと「機械的に生きる人」だ。言われたとおり、正確に動く人間のことである。そういう人の居場所がなくなっている。
    なぜなら、本物の機械に奪われているからだ。しかも、昨今話題のChatGPTに奪われているのではなく、ずっと前から失われ続けている。
    そもそも、この流れはすでに産業革命が起こったときから始まった。ただ、本格化したのは21世紀に入ってからだ。それでも、もう20年以上が経過した。
    AIは、その流れの最終章なのだ。「とどめ」である。今、「AIの出現によって人間

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  • マンガのはじまり:その28(1,696字)

    2023-04-24 06:00  
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    1
    近藤日出造は、1932年に新漫画派集団を作って波に乗り、1933年から読売新聞の嘱託となって売れ始めた。
    しかしこの頃から段々と戦争の影が忍び寄る。近藤は政治家や役人が嫌いだったから、なるべく距離を取ろうとしていた。戦争に対しても、なるべく中立な立場を取ろうとしていた。
    ただ、持ち前の風刺精神、ナンセンス精神は旺盛だったから、中国戦争初期にはこれを皮肉り、あざ笑う漫画をいくつか描いた。すると、2回ほど憲兵に捕まってしまい、手ひどい取り調べを受けた。近藤の皮肉が不敬罪に当たるというわけだ。
    しかし近藤は、二度ともなんとか起訴を免れた。理由は、憲兵に土下座して謝ったからだ。無駄な抵抗は一切しなかった。
    近藤は、役人が好きではなかったが、抵抗するプロレタリア勢力とも一線を引いていた。自分はあくまでも一介の漫画家であり、運動家ではないという矜持を強く持っていたのだ。だから、国家とは距離を取りつつも

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  • 庭について:その26(1,653字)

    2023-04-21 06:00  
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    18世紀末――1790年頃から庭園における「ピクチャレスク」の概念についての再定義、再解釈が行われる。この議論を先導した人物は3人いて、ウィリアム・ギルピン、ユヴテイル・プライス、リチャード・ペイン・ナイトだ。
    このうち、まずはギルピンから見ていく。ギルピンは造園家ではなく、評論家兼文筆家であった。彼の代表作は『ワイ川紀行』という本で、これはこの頃流行り始めていた旅行のガイド本でもあるのだが、その中で縦横にピクチャレスクについての議論を展開している。
    そうして、ワイ川周辺の奥深い景観を引き合いに、ランスロット・ブラウンの庭の底の浅さ=「非ピクチャレスク性」を批判している。そのため、ギルピンの推奨する「ピクチャレスク」な景観のお手本には、ワイ川があった。
    では、ワイ川はどんな川か?
    Wikipediaに、その多様な景観が掲載されている。
    ワイ川 - Wikipedia
    ワイ川は、もちろんとて

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  • お金にまつわる思考実験:その25(1,449字)

    2023-04-20 06:00  
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    ぼくは一時期カメラの骨董的なレンズ(オールドレンズという)にハマったことがあって、取り分け「アンジェニュー(angenieux)」というフランスのメーカーの25mmのものが好きだった。これで動画を写すと、画面の周囲になんともいえない魅力的な「歪み」が発生し、それがまさにフランス映画みたいでかっこいいのだ。
    アンジェニューで映した映像 – YouTube
    アンジェニューはもともと映画撮影用のレンズメーカーだった。だから動画を撮るのに向いているということもある。それで近年、動画用のカメラが安価になり、利用者が増えたことで、俄然注目を浴びるようになったのだ。
    面白いことに、「カメラ」というのは日進月歩で、古いものを使っている人はほとんどいない。ところが「レンズ」はそうではない。古いもの――それこそ半世紀以上前の骨董品でも、今でも十分使えるのだ。そのため、中古価格が下がらない。
    その中で、製造数が

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  • [Q&A]復讐の方法を教えてください(1,902字)

    2023-04-19 06:00  
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    [質問]
    復讐について質問です。
    自分の大切なものを盗まれた時、理不尽に人生を壊された時に、復讐する方法を教えてください。「そういった事はキッパリ忘れて、自分が幸せになるのが一番の復讐だ」という話も良く聞きますが、時間が経っても忘れる事や諦める事は出来ず、泣き寝入りする気にもなれません。
    [回答]
    まずは『モンテ・クリスト伯』を読むことをおすすめします。この本は、ずばり復讐がテーマです。自分の人生を壊されたモンテ・クリスト伯が、長い時間を掛けて一つ一つ復讐を果たしていく話です。
    復讐は、ぼくにとっても大きなテーマです。ぼくの人生は幼い頃から壊されており、それはいまだに壊され続けています。ぼくほど逆境が数多く立ちはだかった人間はいないのではないかとすら思ってしまいます。
    そういう逆境に対し、ぼくはいつも復讐を誓いました。それが果たせたかどうかは微妙ですが、これから果たす機は満々です。そして、

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  • アーティストとして生きるには:その1(1,447字)

    2023-04-18 06:00  
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    いきなりだが、これからの時代は誰もが大なり小なり「アーティスト」として生きなければならないだろう。「アーティスト」とは何か? 人によってさまざまな定義はあるだろうが、ここでは「表現によって他者をインスパイアする者」のことをいう。
    例えば、レオナルド・ダヴィンチは実に本質的な意味でのアーティストだった。彼が仕えたパトロンの一人、チェーザレ・ボルジアは世界の王となることを欲していたが、そのビジョンの強化には少なからずダヴィンチの影響があった。チェーザレがダヴィンチの持っていた価値観に共鳴し、ビジョンが生み出されたのだ。
    ダヴィンチはチェーザレのために戦車やヘリコプター、それに都市などを計画した。これは今でもアーティストとは無関係のように見え、ダヴィンチの業績の中でも異色とされている。ダヴィンチは、基本的に『モナリザ』や『最後の晩餐』などの「絵描き」として知られている。
    しかしダヴィンチの生涯を

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  • マンガのはじまり:その27(1,660字)

    2023-04-17 06:00  
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    近藤日出造は、知れば知るほど複雑な人物である。「多面性」というより、多面的な「二面性」があって、なかなかとらえきれない。頑固に見えて柔軟である。頭が良いことは確かだが、ふとしたところで抜けている。逞しいようで存外にもろい。
    近藤と横山、それに杉浦を中心とした新漫画派集団は、結成後に「ナンセンス漫画」というジャンルを確立した。そうして、それまでの北澤楽天一派や岡本一平らの漫画を駆逐し、大きな人気を獲得していった。
    それは、ちょうど大正から昭和への「時代の移り変わり」でもあった。大正時代は経済的に豊かで、人々は社会性や物語性のある娯楽色の強い漫画を求めた。ところが、昭和に入って世の中が混沌とすると、娯楽性よりもっと刺激の強い「ナンセンス」を求めるようになったのだ。
    ナンセンスは、第二次大戦直後にも流行する。このときは、ほとんどの人がひもじい思いをするというどん底の経済状況を背景にしてのことだっ

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