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記事 23件
  • 庭について:その23(1,703字)

    2023-03-31 06:00  
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    トマス・ウェストという人が1778年に『湖水地方案内』という本を書いている。この本では、「ピクチャレスク」の概念が詳細に述べられている。ピクチャレスクを味わうために、「湖水地方に旅行へ行こう」という主旨だ。
    ここに端的に見られるように、18世紀も後半になるとピクチャレスクという概念はイギリス市井の人々に魅力的な価値として広まっていた。しかも、単に庭にだけ当てはまるものではなく、一般の風景や自然にも当てはめられるようになっていた。
    そんなふうに、もともとは「絵画の中に描かれていた自然」から始まった美の観念が、とうとう実際の自然にも当てはめられるようになったのだ。自然は絵画に描かれたようなものこそ美しい――というわけである。
    これはなかなか「倒錯した価値観」で面白い。もとは画家たちが美しい自然に感動してそれを絵に描いたのに、今度はその絵を見た人たちが自然を見て、「これは絵のように美しい」という

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  • お金にまつわる思考実験:その22(1,555字)

    2023-03-30 06:00  
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    お金は共同幻想として機能し、人間同士の信用を担保する。これのおかげで、我々は初めて行く国でも信用を得られる。ぼくが初めて行ったジョージアで普通にタクシーに乗ってホテルに泊まることができたのも、お金の信用があったからだ。これはなかなかにすごいことだ。
    その意味で、「お金」という共同幻想はすでにほぼ「世界統一」しているといっていいだろう。もちろん、各国の「通貨」は統一されておらず、そこには「両替の壁」もある。ただ、それでも世界中で通じるのである。
    では、逆になぜ通貨は世界統一されないのか?
    それにはいろんな理由があるが、最も大きいのはやはり「不都合がある」ということだろう。その不都合は、ユーロの例を見ると分かりやすい。
    ユーロはEU各国が採用している。その中で、一番豊かなのはドイツで、一番貧しいのはギリシアだ。
    このとき、貧しいギリシアで不都合が起こる。どういう不都合かというと、どれほど貧しく

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  • [Q&A]現代において結婚をする意味は?(2,158字)

    2023-03-29 06:00  
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    1
    [質問]
    今、庭についての連載をされていますが、ハックルさん自身が好きな庭、理想とする庭はありますか?
    [回答]
    ぼく自身、実は庭というものについて考え始めてからまだ日が浅いので、そこまでの深い見識というのはありません。そうした中でも好きなものといえば、やはりイングリッシュ・ガーデン、あるいは北欧風の庭ということになるかと思います。
    もともと、『エクス・マキナ』という映画を見たときに、そこに出てきた建築がすごく良かったんです。それで、調べてみたら映画用のセットではなく、実際にある建築だということが分かりました。
    「エクス・マキナ」予告編
    この建築を作ったのは、ヤン・オラフ・イェンセンというノルウェーの建築家です。
    ヤン・オラフ・イェンセン
    この人の作った建築のうち2棟を、映画では1つの建物に見せるという凝った撮り方をしていたのですが、なんといっても雄大な森の借景が圧巻です。ぼくは、こういう

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  • 令和日本経済の行方:その39(1,654字)

    2023-03-28 06:00  
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    2
    GPTに代表されるAIを「LLM」という。「Large Language Model」の略で、日本語に訳すと「大規模言語モデル」となる。
    LLMは、AIがあらかじめ言語を大量にインプットしておき、そこで言葉の並び方のパターンを覚える。そうすることで、そのパターンから類推した新たな言葉の並びを生成し、まるで実際にしゃべっているかのように見せる技術だ。
    これができたことで、いわゆる「知的労働」と呼ばれるものが、それほど『人間的』ではなかった――ということがバレ始めている。
    それまでは、工場などの機械に代替されるような肉体労働が「機械的」な仕事とされていて、頭脳労働――特に過去のデータ(言語)を大量に覚え、それを元に新しい言語を生成する仕事は、最も「人間的」な仕事とされてきた。しかし、LLMができたことで、それらも基本的には肉体労働と全く同じ、機械的な仕事だと分かったのである。
    そもそも、肉体労

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  • マンガのはじまり:その24(1,610字)

    2023-03-27 06:00  
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    近藤日出造は1908年生まれ。1876年生まれの北澤楽天より32歳下。1886年生まれの岡本一平よりも22歳下である。一平の息子の岡本太郎が1911年生まれなので、3つ上。つまり近藤は、一平の息子のような年齢だった。
    長野県北部の生まれで、実家は衣料や雑貨を扱う商店。6人兄弟の次男だった。
    小学校卒業後、東京に働きに出るも脚気を患い、すぐに実家に戻る。今度は長野市内の洋服屋に丁稚に出るも、やはり性に合わず、戻ってくる。
    そうして実家にいたところ、朝日新聞の懸賞マンガで入選し、3円を得る。これを契機に投稿を重ね、やがて漫画家を志すようになると、再度上京して東京美術学校に入ろうとする。ところが、小学校しか卒業していなかったため入学資格がなかった。そこで、遠い知り合いだった漫画家の宮尾しげをを頼り、宮尾を通じて岡本一平に会う。それが縁で、一平塾へと入るのだ。1928年、近藤20歳のときであった。

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  • 庭について:その22(1,862字)

    2023-03-24 06:00  
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    ストウ庭園は、ロンドンの中心部から北西に約100キロ行ったところにある。日本でいうと、東京の中心部に対する群馬県高崎市くらいの位置だ。
    このストウ庭園は、まずブリッジマンが下地を作って、そこにケントがさまざまな意匠を凝らした。そうして最後に、ランスロット・ブラウンが参加して仕上げることとなった。
    このブラウンが天才で、イギリス式庭園を一つの様式として確立させた。今日「イギリス式庭園」あるいは「イングリッシュ・ガーデン」というと、ブラウンが作った庭のことを指すほどだ。
    ブラウンは多作で、分かっているだけでも170を超える庭を造った。そんな彼の生い立ちを、ここでは簡単に見てみたい。
    ブラウンは1715年か16年に、イギリス北部、スコットランドと国境を接するノーサンバーランド州のカークハールというところで生まれた。父親は土地管理人で、サー・ウィリアム・ロレインという貴族につかえていた。母親は、や

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  • お金にまつわる思考実験:その21(1,491字)

    2023-03-23 06:00  
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    お金の価値というのは基本的に「幻想」である。しかし面白いことに、その幻想を多くの人が幻想とは分かっていながらなお、信じることができる。これを「共同幻想」という。人間には、共同幻想を抱く力が備わっている。
    この「共同幻想力」ともいうべき特性が、人が巨大な社会を作る上での大きな推進力となった。お金、国家、宗教――全てこの能力に基づいて作られたし、それらがあったからネアンデルタールとの地球上の覇権をかけた争いにも勝利できた。ネアンデルタール人には「共同幻想力」がなかった。だから巨大な組織を構成することができず、我々ホモ・サピエンスに殺し合いによって敗れ去った。
    この共同幻想力は、今後も人間が失うことは基本的にないだろう。ホモ・サピエンスがこの世に存続する限り、ともにあり続ける。
    ところで、この共同幻想力には「限界」もある。というのも、当たり前といえば当たり前だが、規模が大きくなればなるほど、社会

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  • [Q&A]就活という「不条理」から逃れるにはどうすればいいか?(2,983字)

    2023-03-22 06:00  
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    [質問]
    私は今大学2年生で来年から就活が始まるのですが、今一つ気乗りがしません。エントリーシートを出してから決められた手順でコマを進めていき、内定をもらったらそこがゴール。そんなベルトコンベアーのように自分の人生が機械的に処理されていくことが、どうにも不条理に感じてしまいます。しかし就活、その先の卒業は否応なく迫ってくるわけで、もたもたしていると手遅れになりそうな焦りも感じています。そこで相談したいのは、この問題に巻き込まれないためにはどのような方策があるのか、何か抜本的な解決に至るための視点や考え方があればお教えください。
    [回答]
    今の大学生にとっては、世の中はとても難しくなっていると感じます。というのも、仰るように「新しい視点」が必要とされているのですが、そこにリーチするのが非常に難しい。ほとんどの人にとって世の中の先行きは不透明で、何にベットしていいのか分からない状況だと思います

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  • 令和日本経済の行方:その38(1,648字)

    2023-03-21 06:00  
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    ここに来て、GPTが評判である。
    OpenAIというAI研究所が作ったAIで、2022年に発表されたChatGPTでは、人間の質問に対してきわめて自然な回答ができる(会話ができる)AIだと、世界中で話題になった。
    すると年が明けた2023年3月14日。GPT-4を発表。すると今度は性能がさらに進化しており、これまでChatGPTが苦手としていた「正確性」に、各段の進歩を見せた。人間のするあらゆる質問や要望に、ほぼ正確に答え(応え)られるようになった。その知能は、すでに世界最高の知能を持った人間さえをも完全に凌駕している。
    「GPT」は「Generative Pretrained Transformer」の略である。意味は、日本語にするのは難しいが、「生成的な、事前に学習を行った、変容機」というものだ。
    GPTは、事前に行った深層学習によって得た情報を、生成的に変容して吐き出す。そのため、基

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  • マンガのはじまり:その23(1,776字)

    2023-03-20 06:00  
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    近藤日出造というマンガ家がいた。今ではほとんど知る人のない存在だが、面白いことにこの人が、岡本一平を代表とする「戦前マンガ」と、手塚治虫を代表とする「戦後マンガ」をつなぐ、マンガ史上のマスターピースだ。
    現在、多くの人がマンガを「手塚治虫が始めた」と思っている。それまで北澤楽天や岡本一平が営々と築き上げてきた戦前のマンガは、今ではすっかり忘却の彼方で、誰も読まないどころか存在さえなかったことにされている。
    それは、手塚の存在やその影響があまりにも大きかったことや、彼のデビューが終戦直後でちょうど世の中が大きく変化していたことなどが相まって、そう見えているところも大きいだろう。しかしそれ以上に大きいのは、手塚のマンガが戦前のマンガとは大きく質を異にしていることだ。そこで、マンガの持っている遺伝子のようなものがガラリと入れ替わってしまったのだ。
    もっとはっきりいうと、手塚がマンガを生まれ変わら

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