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記事 57件
  • 台獣物語56(最終回)(3,603字)

    2017-03-04 06:00  
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    56
     ぼくらは、冬休みを利用してもう一度クリヤビトの村を訪ねることにした。本当は、高校受験があるので他の何かをしている場合ではなかったのだが、しかしぼくはいてもたってもいられなくなり、それを確かめないと受験勉強も手につかない有様だった。
     それで、エミ子を誘ってもう一度クリヤビトの村を訪れることにしたのだ。本当は、自分一人で行った方が良かったのかもしれないが、このことはできればエミ子とも共有しておきたかった。だから、もし彼女が断ったら無理にとは思わなかったが、念のため誘ってみたのだ。
     そうしたところ、彼女は一も二もなく同行することを承諾してくれた。もしかしたら、彼女の中でも何か引っかかっていたのかもしれない。それで、ぼくらは終業式の次の日に、早速クリヤビトの村を目指して旅立った。
     今度も、バスで獣道との境界まで行き、秘密のルートを使って獣道を超え、そこからは徒歩でクリヤビトの村を目指

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  • 台獣物語55(2,619字)

    2017-02-25 06:00  
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    55
     台獣は、なぜかシビライザーへの攻撃を中止した。そして再び北上を始めると、いつものように日本海沖で霧のように忽然と姿を消してしまった。
     台獣が大山の向こう側に去った後、ぼくらは倒れたままのシビライザーから英二を助け出した。
     助け出したとき、英二は放心したように動かず、ぼくらが呼びかけても返答はなかった。ただ、目は薄く開いており、呼吸もしていて、意識はあるようだった。泣き腫らしたのか、頬のところに幾筋もの涙の跡があった。
     ただ、あれほどの激しい戦いであったにもかかわらず、怪我はほとんど負っていなかった。その後、到着した自衛隊のステルスヘリコプターで病院に搬送されたけれど、もちろん命に別状もなかった。それでも、心のショックが激しかったのか、結局二週間も入院していた。
     ぼくらは、ヘリコプターが到着する前にそっとその場を離れた。そして、来たときと同じように時間をかけて、歩いて家まで帰

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  • 台獣物語54(2,498字)

    2017-02-18 06:00  
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    「英二、おまえはやさしい。とてもやさしい。しかし、やさしすぎるのは弱点だ。おまえは、おれと違う。おれと違って、いつも誰かのために道を譲る。しかし英二。これはおれが言うべきことではないかも知れないが、人は、生きているだけで誰かに迷惑をかけることがある。人は、生まれながらにして罪深い存在だ。だから、それを受け入れなければならない。どういうことかというと、罪深い存在としての、逞しさを持つ必要があるということだ。罪深い存在として、もっとエゴイスティックに生きる必要があるということだ。
     英二。おまえは、今のままではやさしすぎる。今のままでは弱すぎる。もう少し強くならなければならない。もう少し図々しくならなければならない。もう少し世の中の良い面だけではなく、悪い面も見つめなければならない。もう少し潔癖ではなく、もう少し汚く生きなければならない。
     英二。本当に純粋な水のところでは、魚は暮らして

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  • 台獣物語53(2,950字)

    2017-02-11 06:00  
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    「怖い。大変なことが起きた。今緊急で書き留める。
     今は朝の五時二〇分だ。先ほど連絡あり、台獣が北上中とのこと。姿は確認できていない。しかし、風は確実に強くなってきた。
     今、パニックだ。研究隊の何人かは、逃げ出した。しかし、走って逃げられる距離ではない。車は、ない。ヘリコプターは、朝にならないと来ない。全く失敗した。もっと慎重になっておくべきだった。
     今、タヱ子が様子を見に行ってる。まだ、帰ってこない。風は強くなるばかりだ。予想外だった。ここまでのスピードとは思わなかった。我々の考えを越えているのは間違いない。
     我々は浅はかだった。台獣を制御しきれると思っていた。それは愚かなことだった。
     もうダメかも知れない。クリヤビトの長は助かる方法があると言った。我々はそれを聞き流していた。くだらないと一蹴してしまった。
     なんてことだ。我々は全く失敗だ。太陽に近すぎたイカロスのようだ。

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  • 台獣物語52(2,558字)

    2017-02-04 06:00  
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     シビライザーは、さらにもう一つの花弁に手をかけ、これも力任せに引き抜いた。台獣は再び咆哮し、それは木霊となって大山の麓一帯に響いた。
     シビライザーは、さらにもう一つの花弁に手をかけようとした。ところが、そのときだった。台獣が突然、のけぞるようにして後ろ足で立ち上がった。それから、前足でぴょんぴょんと飛び跳ねながら、シビライザーを激しく揺さぶった。
     そのため、シビライザーは暴れ馬に乗っているような格好となった。台獣の花弁を手綱にして必死にしがみつき、振り落とされないようにするのが精一杯だった。
     そして、次の瞬間だった。台獣の背中の花の中から、出し抜けに歯茎のような触手が伸びてくると、シビライザーの足をとらえた。触手は、そのままシビライザーの足を花弁の中に引き込もうとした。
    「あっ!」
     この攻撃は予測していなかったのか、シビライザーは両足ごと絡め取られると、そのまま一気に花弁の

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  • 台獣物語51(2,645字)

    2017-01-28 06:00  
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     台獣は再び変態した。これで三つ目の形態だ。ここでは仮に第三形態と呼んでおこう。
     台獣の第三形態は、象のような体躯と、鷺のような大きな羽根を持っていた。蛇のような頭の他に、背中には花のような開口部を持っていて、内部が薄赤く光って見えている。
     やがて第三形態は、羽を羽ばたかせると、ゆっくりと浮かび始めた。

     シビライザーは、その前に立ちはだかった。そして、しばらくはその第三形態を見つめていたが、やがて再び腹部から、高速タービンのような音色を響かせ始めた。
    (また撃つのか?)
     そうぼくが思った瞬間、シビライザーは再び光線を発射した。
     するとそれは、正確に第三形態の顔の部分を射貫いた。そして、再び大量の煙が湧き上がった。
    「やった……かっ!?」
     台獣は、再び白煙に包み込まれた。
     ところが、その白煙がやがて風に吹き流されると、ぼくらは驚くべき光景を目の当たりにする。第三形態の頭

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  • 台獣物語50(2,606字)

    2017-01-21 06:00  
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    「やった!」
     と、ぼくは思わず叫んだ。
     光線が体を貫くと、台獣は風船のように丸くなって膨らんだが、次の瞬間には一気に収縮して弾け飛んだ。直後、白い煙のようなものが立ち上がり、台獣のいた辺りを覆い尽くした。
     それは、煙というよりは雲に見えた。前に早回しの映像で見たことのある、猛烈な勢いでもくもくと湧き上がる夏の入道雲ようだった。
     ぼくらは、しばらく固唾を飲んでその雲を見守った。しかしやがて、西の方からそよそよとした風が吹き始めると、その雲は次第に押し流されていった。
     すると、それを見たエミ子がまず「あっ!」と声を上げた。
     次いで、ぼくもその姿を確認した。その霧散しつつある雲の中に、何やら黒い影が確認できたのだ。
    「生きてる?」
     ぼくは、破裂したように見えた台獣が、再び形を為して立ち上がったのかと最初は思った。ところが、雲があらかた払われて、その異様が次第に露わになってくる

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  • 台獣物語49(2,527字)

    2017-01-14 06:00  
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    第一三章「明日に架ける橋」
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     台獣は、黒雲を従えながらゆっくりと、しかし確実に森を抜け、ついに高原に姿を現した。
     ぼくらは初めてその巨大な姿を間近に見た。その台獣は一見すると人のような姿をしていた。そこには確かに顔があり、切れ長の目と引き結んだ唇が特徴的であった。表情は、まるで仏像のような無表情――もしくは少しだけ微笑んでいるようにも見えた。

     その台獣には手足もあって、特に長い足が目についたが、しかしそれを使って歩いているわけではなかった。台獣は地上から確実に一〇メートルは浮いていて、移動はベルトコンベアーで運ばれるかのような上下動のない、滑らかなものであった。
     そして、その台獣の正面にロボットが立ちはだかった。よく見ると、そのロボットの背中の部分には銀色のボディに赤い塗装で文字が描かれていた。
    「『CーIーVーIーLーZーEーRー0ー1』って書いてある。『CIVILZER-

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  • 台獣物語48(2,550字)

    2016-12-24 06:00  
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     ぼくらは、慌てて丸太小屋の外に出た。すると、辺りはすでに仄白い朝の光に満ちていたが、しかしまだ太陽は昇っていなかった。ちょうど夜明けの時刻なのだ。
     しかしそれより、周囲には強く生暖かい風が俟っていた。もちろん、立っていられないほど強いというわけではなかったが、しかしぼくらが着ていたクリヤビトから借りた民族衣装がバタバタとはためいて、音が鳴るくらいには強かった。
     ぼくとエミ子は、急ぎ小屋から離れると林を抜け、昨日来た高原のところまで戻った。そこまで来ると、景色が開け、東の空から顔を出したばかりの朝日も確認することができた。
     それと同時に、南の方角に明らかに不穏な空気が漂っているのが分かった。南の森の遙か向こうに、黒い雲のようなものがもくもくと立ち上がって渦を巻いているのだ。それは、朝日に照らされている森の他のところとは明らかに異なっていて、ただならぬ雰囲気を醸し出していた。
     

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  • 台獣物語47(2,894字)

    2016-12-17 06:00  
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     それからタカコは、今来た道を一人、戻っていった。ぼくらは、そんな彼女の後ろ姿が曲がり道の向こうに見えなくなるまで、ずっと見送り続けていた。
     それから、鏡ヶ成の高原地帯をさらに北に向かって歩いた。
     ほどなくすると、草原が途切れ小さな林に入ったが、そのすぐのところに目的の丸太小屋があった。しかしそれより、ぼくらが興味を引かれたのが、そのすぐ隣にある粉々に破壊された建物の跡だった。
     それは、途中で通った街と同じように、細かな砂利になるまで破壊し尽くされていて、ほとんど面影を残していなかったが、そこだけ林が途切れていることや、周囲に石畳が残っているので、かつて何かの建物が建っていたというのはすぐに分かった。
     もとは、民宿かホテルだったのかもしれない。もしくは、企業の保養所か。敷地の形や残っている石畳などから、ぼくらそんなふうに推測した。
    「すごい! 台獣は、こんな林の中の建物も破壊

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