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2022年を振り返る(1,415字)
2022-12-30 06:00110pt今回で2022年最後の記事となる。来週はお休みをいただき、再開は2023年1月9日からとなります。
今年がぼくにとって良い年だったかというと、必ずしもそうとはいえない。というのも、ぼくの中にさまざまな恨みが澱のように溜まって、そのことが解消できず、ぼくを苦しめているからだ。
何が恨みかといえば、ぼく自身の面白いと思うものが、世間のほとんどの人に理解されないことだ。ぼくの見識が、世間の多くの人と乖離してしまった。その結果、ぼくの孤独は一段と加速した。これは、ぼくの「表現」というものに対しても少なからずの影響を与えている。有り体にいって、表現することに空しさがつきまとうようになったのだ。
ただ、ぼくはこれまでそうした経験がないわけではない。というより、ぼくの人生はだいたいにおいてそういう感じだった。ぼくの言うことはだいたいにおいて他者に理解してもらえない。それでぼくは艱難辛苦し、その結果思考が -
お金にまつわる思考実験:その10(1,533字)
2022-12-29 06:00110pt宝石の利点はいくつかある。
一つは輝き。人は基本的に輝くものが好きだ。なぜ好きかというと、そこに「命」を感じるからである。まず太陽が好きで、その影響で「光」や「輝き」が好きになったのだろう。そして、宝石は無機物の中で最も輝く存在だ。
また、「硬い」ということも宝石の大きな魅力の一つだ。単純に壊れにくいから、それだけ「永遠性」を感じられる。動物や植物などとは真逆である。生命は死ねば腐り、そのことによって「死」を感じさせられる。それは、人間が最も遠ざけたいものだ。
輝き続け、硬いということともう一つ、宝石には「小さくて持ち運びが可能」という利点がある。いわゆる「ポータビリティ」が高いのだ。
これは、見過ごされがちだが大きな魅力である。というのも、人はスペースを重視するからだ。宝石は、これを圧迫しない。
いかに価値のあるものでも、大きなものはスペースを圧迫するので、扱いに苦慮する。なぜならスペー -
[Q&A]2022年の私的5大ニュースは?(1,534字)
2022-12-28 06:00110pt1[質問]
日本の民主制度や公共インフラが崩壊しているのに全然アップデートされないのは、高齢化が原因なのでしょうか? それとも日本人の民主意識が低いせいなのでしょうか?
[回答]
いい質問ですね。
まず「日本の民主制度が崩壊」しているのは、民主制度そのものが「まやかし」だからです。それが社会の科学化によって暴かれつつあります。それ以上でもそれ以下でもありません。そのため、民主制度は日本だけではなく世界中で崩壊しつつあります。
次に、「公共インフラが崩壊」している――というのは、少し納得できません。日本は世界一公共インフラが整っているので、これを「崩壊」としてしまうと、やはり世界中に「成立」している国はないということになってしまいます。
また「アップデート」についてですが、日本のまやかしの民主主義は、すでにポジティプな意味で崩壊しつつあるので、遠からず新しい政治体制にアップデートされると思いま -
令和日本経済の行方:その27(1,946字)
2022-12-27 06:00110pt2日本には、いずれにしろこれから新しい「社会体制」が必要になるだろう。その際、急激な変革は上手くいかない。ムダな軋轢を生むだけだからだ。
そのため、そこでは緩慢な「なし崩し的変化」が求められる。「なし崩し」は普通悪い意味で使われるが、こと社会変革においては非常にポジティブな意味を持つ。
明治維新や敗戦後の社会変革も、なし崩し的に行われた部分が大きかった。だから上手くいったのだ。日本には、「なし崩し的な社会変革」が合っているということもある。だから今度の社会変革も、明治維新や敗戦と同じようになし崩し的に行われるだろう。
ただし、なし崩しとはいってもそこでいくらかの血が流れることは免れない。明治維新でも敗戦でも多くの血が流れ、多くの痛みが伴った。「痛みなくして前進なし」というが、それを体現するような変革がこの2つの事例だった。
そのことを、日本は再びくり返さなければならない。そういう局面にまです -
マンガのはじまり:その12(2,256字)
2022-12-26 06:00110ptここで、あらためて「明治の北澤楽天」について見ていきたい。
北澤楽天は明治9年(1876年)の生まれだ。進取の気性で若い頃から横浜に出入りし、外国人向けの新聞社」ボックス・オブ・キュリオス」で挿絵画家の職を得た。彼は、海外の文化に強い興味があった。新しもの好きの若者だったのだ。
そこで、先輩の風刺画家でオーストラリア人のナンキベルに大いに刺激され、風刺マンガを描き始める。その後、ナンキベルは退社してアメリカへ移住するが、福澤諭吉の義理の甥である今泉一瓢に引っ張られて、今度は時事新報で描き始める。明治32年(1899年)、楽天23歳のときだ。
ただ、そこで楽天は、風刺を封印することになる。特に政治を風刺しなくなった。というのも、福澤諭吉と彼の作った時事新報という新聞が、政治的に中立の立場だったからだ。福澤は、政治的には中立を保ちながら日本の「文明開化」に熱心だった。取り分け身分制度の打破を目 -
庭について:その12(1,696字)
2022-12-23 06:00110pt18世紀に活躍したイギリスの造園家ウィリアム・ケントは「自然は直線を嫌う」という言葉を残して、庭園における非幾何学的なデザインを押し進めた。これがイギリス式庭園のスタイルを作り出したのだが、一方ではこれを「風景式庭園」とも呼んだ。どこを切り取っても風景としての美しさをたたえているという意味だ。
このケントの生み出した庭の様式が、その後北欧に渡り、また日本にも渡ってきた。今日、日本でガーデニングをしている人の多くが日本式庭園ではなくイギリス式庭園、あるいはその流れを汲む北欧式庭園を指向している。これは庭を造る文化のある国において全世界的な傾向であろう。
北欧式庭園では「森」が大きなアクセントになっている。なぜなら森こそが非直線的な自然の象徴であるからだ。北欧人は「自然」と聞くと、自動的に森のことを思い出す。では、北欧式庭とは具体的にどのようなスタイルか?
イギリス式との一番の違いは、生け垣や -
お金にまつわる思考実験:その9(1,639字)
2022-12-22 06:00110pt人には美醜を見分ける能力がある。それは生きていく上で必要であり重要だからだ。
なぜ必要であり重要かというと、美醜は真贋を見極める上での物差しになるからだ。そして人は、真実に近づかないと長生きできない。逆に、贋に近づくと死んでしまう。だから、真贋を見分ける能力は生き死ににかかわるという意味で必要だし重要なのだ。
真実は、たいてい美しい。そして贋物は、たいてい醜い。だから、真贋を見分けられる能力のある人が、長生きできるシステムにこの世界はなっているのだ。
では、美しいとは何か? その逆に、醜いとは何か?
答えは、美しいものは生命であり、醜いものは死である。人は生命を美しいと思い、死を醜いと思う。
ところで、そうした価値体系とは別に、「生命ではないのに美しいと感じるもの」がある。それは宝石だ。宝石は、この価値体系にとっては例外的に、無機物なのに美しい。
それは、人間の本質的な価値体系の外側の存在 -
[Q&A]引きこもりになる原因は?(2,161字)
2022-12-21 06:00110pt[質問]
売れる本のタイトルの付け方があれば教えてください。
[回答]
やはり「の」をつけることと、異化効果で本来無関係なもの同士を結びつけることがコツではないでしょうか。ぼくがタイトルをつけるときは、いつもジブリをお手本としています。また「の」はつきませんが、赤川次郎の『セーラー服と機関銃』もいつも念頭にあります。
[質問]
片付けが苦手な人が、片付けが好きになる方法があったら教えてください。
[回答]
ぼくは、必ずしも片付けはそれほど重要ではないと思っています。というのも、「部屋活」以降、もっと構造的・本質的に「人はなぜ片付けをするのか?」ということを考えた結果、片付けは必ずしも正しいとは限らないとの結論が出たからです。
そうした結論に至った理由は二つあって、一つは子供が片付けをしないということです。それを見るうちに、彼らは必ずしもできないからしないのではなく、「あえてそうしているのだ -
令和日本経済の行方:その26(2,119字)
2022-12-20 06:00110pt科学化された社会の運営において、リーダーは「独裁者」が望ましい。なぜなら、独裁者の方が合理的だからだ。そうして、あくなき合理性を追求するのが科学化社会である。
ただ、独裁者には「小利口化して世の中を不幸に陥れる」という危険性が伴う。だから、それを計画的(科学的)に避ける必要がある。予防する必要がある。
独裁者の小利口化を予防するには、まず「なぜ独裁者は小利口化するのか?」ということを解き明かす必要があるだろう。ただ、これの答えはほとんど2つしかない。1つは、「独裁者の道を退いたとき、大きな厄災が待っている」ということ。もう1つは、「独裁の地位に酔いしれ、それに固執してしまう」ということ。
20世紀の有名な独裁者に、ヒトラー、スターリン、毛沢東の3名がいるが、彼らはいずれも上記2つの理由によって小利口化した。そうして就任後になって悪政を展開するようになり、社会を不幸のどん底に陥れた。
それに -
マンガのはじまり:その11(1,703字)
2022-12-19 06:00110pt北澤楽天は1902年から時事新報に「時事漫画」の連載を始めた。楽天26歳の年である。
前にも書いた通り、これの形式はアメリカ由来の「コミック・ストリップ」だった。おかげで以降、コミック・ストリップのスタイルが「漫画」と呼ばれるようになる。
こうしてみると、漫画の源流にはアメリカという国もあったことになる。『北斎漫画』など日本の浮世絵、フランスの風刺画、イギリスのパンチ系雑誌、アメリカのコミック・ストリップなどが絶妙に組み合わさって、徐々に新しいスタイルが組み上がっていったのだ。
この「時事漫画」が絶大な人気を獲得し、北澤は1905年に『東京パック』という漫画雑誌を自ら創刊している。この「パック」という名は、恩師ナンキベルがアメリカで編集していた雑誌『パック』にちなんでいる。
『東京パック』のサイズはB4変形版で、つまりA4よりも一回り大きい。昔のグラフ誌のようなサイズだ。中身もオールカラー
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