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世界的なプロダクトを生み出す日本の美的感覚:その58(1,702字)
2017-02-28 06:00110pt日本人は、既存のものに細かなカイゼンをくり返していくことで大きな変革につなげる――という形のイノベーションが得意である。『ドラクエ』も、『ウィザードリィ』や『ウルティマ』の面白いところを組み合わせ、さらにそれを細かくカイゼンしていったところに成功の秘訣があった。
堀井雄二は、自身もマンガ家志望だったため、絵がとても上手い。その美的感覚で、『ドラクエ』をグラフィカルにデザインした。『ドラクエ』の成功は、このグラフィカルなデザイン――あるいは日本の美的感覚なしにはありえなかっただろう。
『ドラクエ』は、当時のファミコンをプラットフォームに制作されたため、描ける絵の細かさに限界があった。ユニットの最小単位は16×16ドットなので、これを基準にキャラクターやモジュールを描いていった。いや、それ以外に選択肢がなかった。
そのため堀井雄二は、この16×16ドットという「小ささ」を逆に利用することで、豊 -
今ポリコレ的な立場を取ることの意味(1,999字)
2017-02-27 06:00110pt2任天堂が、マリカーという会社を訴えた。
「マリカー」というのは、公道で走るカートを貸し出している会社なのだが、渋谷にも支店があり、ぼく自身は利用したことはないが、それに乗っている人々ならよく見ていた。
マリカーが問題なのは、カートを借りる客に任天堂キャラの衣装を貸し出し、それを着させることでコスプレとしての面白さを演出していることだ。任天堂キャラのコスプレをして公道をカートで走ると自分がマリオカートの世界の住人になったかのような気分が味わえるので楽しい。しかもそれを渋谷の人通りの多いところでできるので、周囲の注目も集められるし、外国人とっては観光効果も高いだろう。
つまり、非常によくできたアイデアではあるのだが、いけないのはそれを他人のキャラクターを使って無許可でやっているところである。しかも再三の警告にも対応しないという甚だしい不誠実さも見受けられる。
というわけで、任天堂が訴えたのも当 -
台獣物語55(2,619字)
2017-02-25 06:00110pt55
台獣は、なぜかシビライザーへの攻撃を中止した。そして再び北上を始めると、いつものように日本海沖で霧のように忽然と姿を消してしまった。
台獣が大山の向こう側に去った後、ぼくらは倒れたままのシビライザーから英二を助け出した。
助け出したとき、英二は放心したように動かず、ぼくらが呼びかけても返答はなかった。ただ、目は薄く開いており、呼吸もしていて、意識はあるようだった。泣き腫らしたのか、頬のところに幾筋もの涙の跡があった。
ただ、あれほどの激しい戦いであったにもかかわらず、怪我はほとんど負っていなかった。その後、到着した自衛隊のステルスヘリコプターで病院に搬送されたけれど、もちろん命に別状もなかった。それでも、心のショックが激しかったのか、結局二週間も入院していた。
ぼくらは、ヘリコプターが到着する前にそっとその場を離れた。そして、来たときと同じように時間をかけて、歩いて家まで帰 -
映画の撮影をしていて分かったこと(1,868字)
2017-02-24 06:00110pt今、映画の撮影をしている。
映画の撮影をしていると、いろんな壁に突き当たる。一つは「カット割りの壁」だ。
映画というのは「編集」をすることによってダイナミズムが生まれる。同じシーンでもカットを編集することで動きが生まれ、見る人の興味を惹きつけられる。黒澤映画などでは、見ている人がほとんど気づかないようなカット割りがある。バストショットで写していたのを、ちょっと右から同じような画角で撮ったものにパッと切り替わる。しかしそれだけでも画面に大きな動きが生まれ、見ていて興奮させられるのだ。面白いのである。
それに比べると、ワンカットの長回しは飽きる。いわゆる「絵が持たない」。だから、逆にワンカットの絵をどう持たせようかいろいろ工夫する人も現れたりする。『ゼロ・グラビティ』という映画では、ルベツキという撮影監督がそれに挑戦している。
しかしそれはあまりに高度なので、ぼくはやっぱりカット割りに挑む。そ -
あしたの編集者:その35「バッターボックスに立ち続ける方法:後編」(1953字)
2017-02-23 06:00110ptバッターボックスに立ち続けるために必要な能力の第三は、「演出力」である。何を「演出」するかというと、「ヒットを打ちそうだ」という気配である。あるいは、ヒットを打てなかったとしても「あいつが打てなかったらしょうがない」と思わせる雰囲気である。
例えば、野球のイチローを観察していると、バッターボックスに立ち続けるために必要な「演出力」とは何か、ということがよく分かる。どういうことかというと、凡退した後の態度が、他のバッターと全く違うのだ。
他のほとんどのバッターは、凡退すると悔しそうな態度を見せる。それに対してイチローは、凡退するとかえって堂々とした態度を取る。凡退したときにこそ、胸を張ってベンチに戻るのである。
それを見た周囲の人々はどう思うか?
悔しそうな態度を見せると、それはすなわち「打つチャンスがあったのではないか?」と疑わせるところがある。悔しがるということは、「本当は打てた球なのに -
[Q&A]上野千鶴子氏の「平等に貧乏になろう」という意見をどう思うか?(1,031字)
2017-02-22 06:00110pt[質問]
ハックルさんが小学生のうちに是非読んでおいた方がいいと思う小説があったら教えて下さい。
ちなみにウチの娘は『冒険者たち』『グリック冒険』『ガンバとカワウソの冒険』などを読んでいて、最近は小学生向けのライトノベルにはまりつつあります。
[回答]
それでしたらいくつかあります。
まず『赤毛のアン』です。西村書店から出ているのがおすすめです。
それからドリトル先生でしょうね。これは不朽の名作です。
少し早いかも知れませんが『ゲド戦記』も、やっぱり子どもの頃に読んでおくといいでしょう。ぼくはこの3冊が本当に大好きです。親も読んで、一緒に感想を語り合うのがいいでしょう。
[質問]
岩崎さんが先日のTwitterでリツイートしていた『上野千鶴子「日本人は多文化共生に耐えられないから移民を入れるのは無理。平等に貧しくなろう」』を読みました。
上野千鶴子「日本人は多文化共生に耐えられないから移民 -
世界的なプロダクトを生み出す日本の美的感覚:その57(2,053字)
2017-02-21 06:00110pt『スーパーマリオブラザーズ』の大ヒットによって、ファミコンは家庭用ゲーム機のスタンダードとなった。そのため、その後しばらくはファミコンをプラットフォームとしたゲームの開発競争がくり広げられる。その中でも、特筆すべき画期的なゲームが誕生する。それが、1986年に発売された『ドラゴンクエスト』である。『ドラゴンクエスト(以下「ドラクエ」)』は、日本で最初に大ヒットしたロール・プレーイング・ゲーム(以下「RGB」)だ。『ドラクエ』の大ヒットによって、RPGはゲームの主要なジャンルの一つとなった。また、RPGはその後、日本国内において独自の進化を遂げたため、外国のRPGと区別して「JRPG」などと呼ばれるようにもなった(JはJAPANの頭文字)。この「JRPG」という言葉からも分かる通り、日本のRPGは、他のジャンルのゲームとは違った進化を遂げる。いわゆるガラパゴス的な進化だ。『スーパーマリオブラ -
『キングダム』を読んでヒットするマンガの法則を考えてみる(2,180字)
2017-02-20 06:00110pt今さらなのだが『キングダム』というマンガを読んでいる。10巻まで読んだが、あっという間だった。息をもつかせぬ面白さ、とはこのことである。48歳になってマンガに夢中になれるというのはなかなかないので、大変にありがたい。
知っている方も多いかと思うが、知らない方のために説明すると、『キングダム』とは集英社のヤングジャンプ誌に連載されているマンガで、現在45巻まで刊行されている。累計で2千万部が売れている、今や『ONE PIECE』に並ぶ集英社の稼ぎ頭だ。
『キングダム』を読み始めたきっかけは、集英社の新年会にお邪魔したとき、話題に上っていたからだ。集英社の青年誌を引っ張る存在として、多くのマンガ家や編集者たちの目標となっているのである。
そこで今回は、「『キングダム』はなぜ面白いのか?」ということについて、ぼくなりに分析してみたい。そうすることで、新たなヒットの法則が見つかるかもしれない。
ぼ -
台獣物語54(2,498字)
2017-02-18 06:00110pt54
「英二、おまえはやさしい。とてもやさしい。しかし、やさしすぎるのは弱点だ。おまえは、おれと違う。おれと違って、いつも誰かのために道を譲る。しかし英二。これはおれが言うべきことではないかも知れないが、人は、生きているだけで誰かに迷惑をかけることがある。人は、生まれながらにして罪深い存在だ。だから、それを受け入れなければならない。どういうことかというと、罪深い存在としての、逞しさを持つ必要があるということだ。罪深い存在として、もっとエゴイスティックに生きる必要があるということだ。
英二。おまえは、今のままではやさしすぎる。今のままでは弱すぎる。もう少し強くならなければならない。もう少し図々しくならなければならない。もう少し世の中の良い面だけではなく、悪い面も見つめなければならない。もう少し潔癖ではなく、もう少し汚く生きなければならない。
英二。本当に純粋な水のところでは、魚は暮らして -
社会的信用を得る方法とその意味(1,938字)
2017-02-17 06:00110pt世の中には「社会的信用」というものがある。それは、人から好かれたり嫌われたりするのとはちょっと違う。
社会的信用は、仕事と直結する。社会的信用がある人は仕事が上手くいき、社会的な信用がない人は仕事が上手くいかない。
だから、社会的信用がある人はお金が入ってくるし、社会的信用がない人はお金が入ってこない。そういう経済格差につながるだろう。
ぼくが社会的信用に気づいたのは、放送作家をし始めてしばらく経ってからだ。
ぼくの同期の放送作家がいたのだが、彼は飲み会にも参加しないし、先輩たちともそれほど仲がいいわけではないのに、仕事がバンバン入ってくる。みんな、彼を遊びには誘わないのに、仕事となると彼に頼む。
その逆に、ぼくは先輩たちと仲が良く、遊びには皆勤したが、仕事は全然回ってこない。ちっとも信用が得られていない。
ぼくははじめ、それは「放送作家としての能力が足りないからではないか」と思っていた。
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