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お金にまつわる思考実験:その37(1,719字)
2023-07-13 06:00110pt今回でこの連載は最終回とする。
人類史を紐解くと、お金と「道」とは、きわめて深い関係があることが分かった。道の発展こそが、経済を発展させる。そのため、「これからの道の発展」を読み解ければ、これからの経済がどう発展するかも読み解けるだろう。
そうなると、一にも二にも道についての知見を深めることが重要になる。寡聞にして「道学」というものがあるのかどうかは分からないが、それでも学ぶ方法はいくつもある。まず都市計画的なアプローチがあるし、土木工学的にも知る必要がある。あるいは人間工学や自動車などからも、道を読み解くことができるだろう。
さらに、道というとローマ街道や日本の五街道など、歴史とも深い相関関係にある。特にローマと江戸は、政治が積極的に道に介入し、それによって社会を大きく変革させた代表的な事例だ。
だから、ローマ史や江戸史を「道」という視点から概観するのも面白い。さらに、この両時代の共通点 -
お金にまつわる思考実験:その36(1,883字)
2023-07-06 06:00110ptここまでお金について考えてきて、やはり「道」の未来が「経済」の未来、引いては「お金」の未来と思うようになった。これからの道の在り方が、お金の、社会の、そして世界の在り方を決めるのだ。
では、これからの道はどうなるのか?
それは、ここまで見てきたように、TPS――トヨタ生産方式によって決められるだろう。
TPSによって、道はどう決まるのか?
例えばテスラは、TPSで新しい道……ではないが、新しい「自動運転」を模索している。
テスラの車は、運転データーが逐一中央のコンピューターに記録される。それがビッグデータとして集約され、新しい自動運転の開発に活かされている。
しかも、それはテスラの試作車ではなく、実際に販売した100万台超だ。だから、そのデータは他のメーカーと比べると桁違いである。しかも、その量は今なおものすごいスピードで増え続けているので、この差はなかなか埋めにくい。
その桁違いのデータ -
お金にまつわる思考実験:その35(1,603字)
2023-06-29 06:00110pt『シムシティ』というゲームがある。街を造るシミュレーションゲームだが、今度最新作が出るそうだ。
Traffic AI I Feature Highlights #2 I Cities: Skylines II
このゲームで重要なポイントとなっているのが「道」である。街を造るということは、すなわち道を造るということなのだ。
そして、道は経済と深く結びついている。お金と深く結びついている。「タイム・イズ・マネー」という言葉があるが、「ロード・イズ・マネー」ともいえる。ロードを造るのにもお金がかかるが、ひとたび造り出されるとそれがお金を生み出しもする。
ところで、このロード――道の進化には「イノベーションのジレンマ」がつきまとう。特に、AI技術の進化にはそれが避けられない。
なぜかというと、AIが進化すると道交法違反者をロボットが取り締まれるようになるのだが、そうなると警察官の行き場所がなくなる -
お金にまつわる思考実験:その34(1,843字)
2023-06-22 06:00110ptTPSによって道をどう作るか?
それを考える前に、現代道路の成り立ち(構造)から見ていきたい。
現代道路というのは、なかなか面白い。というのも、それが芸術的ともいえるくらい、よくできているからだ。
19世紀の末頃から、石炭に代わって石油が新しいエネルギーとして注目されるようになった。原油から各種の油を精製する技術が発達したからだ。
そうして石油は一気に大量に精製されるようになった。それにともなって、精製された石油のうち、最も重い部分が余るようになった。石油は精製すると軽油とか重油とかガソリンとかに別れるが、そのうちの最も重い部分がアスファルトである。
このアスファルトが、他に使い道がない上に、大量に余るので、何か使い道はないかということになった。それで、「道の舗装がいい」ということになったのだ。
というのも、これは一石二鳥のアイデアだったからである。当時、ちょうどモータリゼーションが起こっ -
お金にまつわる思考実験:その33(1,749字)
2023-06-15 06:00110ptここから、「スマート道路のTPS化」について考える。
ところで、ここまで「お金」について考えてきたが、過去・現在・そして未来のお金(経済)は、全て「トランスポート」と深い相関関係にあると分かった。
実際、トランスポートの進化は文明の進化、引いては経済発展や文明の促進をもたらしてきた。また、過去・現在・未来のあらゆる時制において、トランスポートと無縁の人間もいない。
人間は、率直に言ってトランスポートが大好きなのである。それは、もともとはトランスポートが生存にきわめて有利だったからだ。だからこそ、それを好きな人間「だけ」が生き残ってきた。
かつては、「トランスポートが嫌いな人間」もいただろう。また、今の世でもトランスポートが嫌いな人間はいる。
しかし悲しいかな、そういう人間は長生きできない。従って、子孫も残せない。そうして人間社会は、トランスポートが好きな人間の遺伝子しか残らなかった。おかげ -
お金にまつわる思考実験:その32(1,565字)
2023-06-08 06:00110ptここまで長々「道」について書いてきたが、そもそもぼくが「道」を意識したのはトヨタの動画を見たことがきっかけだ。トヨタ公式のYouTubeチャンネルで、「ウーブンシティでスマート道路を開発している」ということを知り、興味を持ったのだ。
その当該動画は、香川照之氏がナビゲーターを勤めていたため、残念ながら今は氏のスキャンダルにより閲覧できなくなっている。が、ウーブンシティ全体の動画なら、こちらが非常に見応えがある。
【Woven City着工取材】Woven Planet 日本橋技術開発編 フルバージョン | トヨタイムズ
これを見ても、トヨタが今、どれほど「道」あるいは「移動」に開発の比重を傾けているかが分かる。もはや鮮明に「脱自動車会社」のイメージを打ち出しており、次世代の移動スキームのみならず、さらに先の変化を自ら作り出そうとしているのだ。
しかも、その作り方が面白く、なんとトヨタ伝統の -
お金にまつわる思考実験:その31(1,612字)
2023-06-01 06:00110pt日本の道は、どういう歴史を辿ってきたのか?
まず江戸時代に街道が整備され、その後明治になって馬車が導入され、舗装が進んだ。日本橋などは江戸時代まで、アーチ型のきつい勾配だったのが、馬車が通るために平らなものに架け直された。そういうふうに、随時質的改良が為されていった。
明治の中頃には人力車も一気に普及した。自動車はまだまだ珍しかったから、この頃は人力車がタクシー代わりだった。
自動車が珍しくなくなったのは大正も半ばを過ぎてからだ。大正は1912年から1926年までだ。アメリカでT型フォードの革命が起こるのが1910年頃で、第一次世界大戦の好景気が始まるのが1916年頃、つまり大正5年頃だ。その後、大正年間はずっと好景気だった。この間、自動車は日本でも徐々に普及する。ただし、もちろん高価だったので、乗るのは一部の特権階級に限られていた。
昭和に入ると商用車も普及し始める。しかし当初は東京の道 -
お金にまつわる思考実験:その30(1,687字)
2023-05-25 06:00110pt日本の道は、明治維新直後の社会の近代化――特に馬車の普及や自動車の登場――に伴って整備され始めたが、昭和初期の不況で中断した。その中断は戦争もあって、そのまま戦後まで20年近く持ち越した。
おかげで終戦直後には、日本の道は丸々20年世界から時代遅れとなった。そのため、アメリカの指導を仰ぎながら整備していくことになるのだが、なにしろお金がなかったので最初は騙し騙しだった。それで、アメリカから「日本の道は最低だ」と厳しく罵られることになる。
では、そんな時代遅れも甚だしかった日本の道が、どこから持ち直していったのか?
それはやはり朝鮮戦争によって始まる高度経済成長期だ。日本全国で朝鮮戦争で使うための物資の生産が急激に増大した。そのため、それを運ぶための道も急速に整備する必要が出てきた。そのための資金は、朝鮮戦争特需が下支えした。そんなふうに、日本は朝鮮戦争を景気に、一気に道をリビルドしていった -
お金にまつわる思考実験:その29(1,520字)
2023-05-18 06:00110ptぼくは、日本経済の要は今までも、そしてこれからも「道」にあると思う。なぜなら、日本人は道が得意だからだ。道が得意だからこそ、明治維新後猛スピードの近代化に成功し、なおかつ戦後猛スピードの復興を成し遂げられた。
そもそも、日本人は江戸時代から道が得意だった。経済は発展していないのに、道だけは発展した。普通、道が発展すれば経済も発展しそうなものだ。何よりローマは、その形で経済を発展させ、自国を際限なく富ませた。
しかし、日本人は道だけ作って経済的に発展しないという「離れ業」を江戸時代にやってのけた。それは、徳川が特殊な中央集権制度を構築するためであった。この施策は結局260年くらい「しか」保たなかったが、逆にいえば260年「も」保った。それほど堅牢なシステムだった。
その堅牢なシステムを維持する上での鍵は「参勤交代」にこそあった。参勤交代こそ、日本人に道を得意にさせ、明治や戦後日本の成長を決定 -
お金にまつわる思考実験:その28(1,697字)
2023-05-11 06:00110ptお金は「欲」と不可分の関係にある。人には「欲」があるからお金を使い、経済が成立する。
しかしながら、人間――とりわけ日本人は、「欲」について無知である。なぜなら、「臭いもの」として「蓋」をしがちだからだ。見て見ぬ振りをしてきた。これまでなきものとして扱ってきた。
ただし、日本人には二枚舌で裏表のある人間も多い。そういう人間は、表では欲についての無知を装いながら、裏ではしっかりと欲について勉強した。
その結果、日本人の欲についての知見には大きな格差が生まれることとなった。欲に無知な人間はそのままだが、詳しい人間は裏でこっそり学んでいるのだ。
そこで、ここでは欲について少し考えてみたい。人間にはどんな欲があるのか?
まず、「生きたい」という欲がある。これは見落とされがちだが、ほぼ全ての人間にとって最も根本的、根源的な欲だ。
それから、「負の欲」というものもある。これは、「嫌なもの・ことから避け
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