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この作品は、前から見たいと思っていた。なぜなら、ぼくがよく見るブログで魅力的に紹介されていたからだ。
さて、そうして実際に見たのだが、とても魅力的だった。何が魅力的だったかといえば、あえて誤解を怖れずにいうと、「低予算」なところである。
どういう意味か?
この作品には、「予算がない中で魅力的な映画を作るためにはどうすればいいか?」という問いに対する答えが詰まっている。つまり、「映画にとって本質的な魅力とは何か?」というところをとことん突き詰めているのだ。
それが、「映画とは何か?」ということを考えたい映画ファンにはたまらない魅力となっている。そういうことを語り合える友人と一緒に見れば、盛り上がることは請け合いだ。
では、『エクス・マキナ』で突き詰められている「映画にとっての魅力」とは何か?
ぼくは、主に以下の三つがあると感じた。
第一は、「魅力的な役者」である。
『エクス・マキナ』は、低予算だ。だから、たくさんの俳優を起用できるわけではない。限られた人数しか出せない。シナリオもそういう作りになっている。
だから、その限られた数人の役者の魅力にこだわった。特に、その「ドキュメンタリー的な魅力」にこだわった。
映画というのは、たとえフィクションであっても、必ず「ドキュメンタリー」的な要素が含まれる。どういうことかというと、フィクション映画においては、役者がカメラの前で演技をする。そして、その「演技をした」ということ事態は、実際に起きたことなのだ。だから、フィクション映画を見るということは、「その役者が演技しているドキュメンタリーを見る」ということもできるのである。
この『エクス・マキナ』という映画は、そのドキュメンタリー的に素晴らしい演技をする役者にこだわった。特に、中心となる三人はそれぞれ嘘をついているのだが、その嘘のケレン味を楽しめるような作りになっていた。その嘘に、まるで歌舞伎のような華々しさがあるのだ。
だから、観客はそのストーリーと同時に役者の演技を楽しむこともできた。それゆえ、低予算でも面白く見ることができたのだ。
第二は、「魅力的な空間」である。あるいは、「魅力的な建築」といってもいい。
映像の醍醐味は、絵が動くことだ。写真と違って、被写体が動いたり、カメラ自体が動いたりする。だから映像は、写真に比べると「空間」を描くことにすぐれている。
写真と映像の違いは、人が「風景」を見るときと「建築」を見るときの違いに似ている。
人は、風景を見るとき立ち止まる。山頂から遠景を見通すときなど、その典型だ。それは、写真の楽しみ方と似ている。それゆえ、写真と風景は相性がいい。
一方、人は、建築を見るとき動いている。その内部を自由に歩き回りながら味わう。それは、映像の楽しみ方と似ている。それゆえ、映像と建築は相性がいいのだ。
つまり、魅力的な建築はそれだけに「絵」、いや「映像」になる。映画向きなのだ。
『エクス・マキナ』は、その映画向きな建築にこだわった。低予算なので、大がかりなセットやロケーションを組むことはできない。そこで、実在の魅力的な建築をロケ地として選んだ。内容も、それに合わせて密室劇としたのである。
ここでは、ノルウェーのフィヨルドの中に建っている、イェンセン&スコトヴィンという建築事務所が設計した建物をロケ地として使った。
その建築は、建物と同時に、借景として活かしている周囲のフィヨルドも魅力的だ。このロケ地があったからこそ、『エクス・マキナ』は低予算であるにもかかわらず魅力的な映画になった。映画を見ている間中、観客はその内容と同時に、美しい建築と景観を楽しむこともできるのだ。
第三は、「撮影の魅力」である。
近年、映画は(ドラマもそうだが)カメラが動くことが当たり前となった。それは、技術の進歩でカメラが小型化し、以前に比べ動かしやすくなったというのもあるが、それ以上に、カメラが動いていた方が映像が魅力的になるということがある。
それは、その方が空間を表現できるからである。
映像は、人が動いているときに見ている光景――つまり空間を再現することにすぐれている。そして、カメラは止まっているよりも動いていた方が、空間の再現度はより高くなるのだ。そのため今では、映画のカメラは「動かすか動かさないか」ではなく「どのように動かすか」がテーマとなっている。
この『エクス・マキナ』でも、そのカメラの動かし方にこだわっている。具体的にいうと、その微細さにこだわっている。気づかないくらいにゆっくりと、僅かずつ動かすのだ。
なぜかといえば、微細な動きは、人間が緊張しているとき――例えばかくれんぼをして物陰から鬼の様子を窺うとき――の状態をシミュレートしているからである。そのため、観客はカメラが微細に動くだけで、言いしれぬ不安を感じる。この映画は、そのテクニックを十全に駆使して撮られているのだ。
このように、『エクス・マキナ』は低予算のハンデキャップを逆に利用し、お金のかからないアイデアを徹底的に練り込んでいる。そこが大きな魅力となっているのだ。
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