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ぼくは、子どもの頃――つまり70年代に、夢中になってマンガを読んでいた。
おかげで、「70年代マンガの面白さ」になかなか気づけなかった。
どういうことかというと、70年代のマンガは読むものがだいたい面白かったので、「マンガというジャンルそのものが面白いのだ」と認識しまったからだ。マンガの面白さに「絶対性」のようなものを感じていた。
しかし、それは誤りだった。マンガ自体が絶対的に面白かったわけではなく、70年代マンガがたまたま特異的に面白かったのだ。その頃のマンガはちょうど市場が急拡大していく時期で、乗りに乗っていた。ぼくは、上手い具合にその時代を子どもとして過ごすことができたのである。
そう気づけたのには、一つのきっかけがある。それは『HUNTER×HUNTER』の34巻で、冨樫義博氏が巻末に自作の解説をしていたのだが、そこにこんな記述があったからだ。
「私は主人公の敵同士が戦うという話が好きで、中でも一番燃えたのが『ドカベン』の土佐丸高校VS弁慶高校です。これをぜひ自分の作品の中でやりたかった」
ぼくは今、一番面白く読んでいるマンガが『HUNTER×HUNTER』なのだが、なぜ『HUNTER×HUNTER』が面白いのかは、あまり深く考えてこなかった。ただ面白いと思いながら読んでいただけだった。
それが、この記述を見てハッと目を見開かされた。というのも、『HUNTER×HUNTER』の面白さの根底には、70年代マンガを代表する作品の一つである『ドカベン』があったと、初めて知ったからだ。
『ドカベン』に限らず、冨樫義博氏はぼくと同じくらいの年(冨樫氏が2つ上)なので、子どもの頃にあの70年代マンガの豊穣というものを同じように味わっていたはずだ。そして彼は、その豊穣を移し替えるというやり方で、『HUNTER×HUNTER』の面白さを担保していたのである。
それに気づいてから、ぼくは70年代のマンガの面白さというものをもう少し深く研究したいと考えるようになった。そういうときに、『マンガの歴史』という本を作ることになった。
これは、ぼくの中に「70年代マンガはなぜ面白かったのか?」というテーマが無意識のうちにもあったからだろう。それを、歴史を知ることで理解したいと思ったのだ。
実際、『マンガの歴史』の第1巻を作る過程で、作者のみなもと太郎さんから教えていただいたことがあった。それは、『あしたのジョー』が築いたある「マンガの法則」についてだ。
『あしたのジョー』は、原作の高森朝雄氏が初めはビルドゥングスロマンを企図して作った。つまり、「主人公の成長」がテーマだった。
ところが、話の流れでライバルが死んでしまい、主人公は目的を見失った。おかげで以降は、目的を探すために放浪するような格好となった。放浪しながら戦いを続けたのだ。
そうしたところ、人気の異様な高まりを得た。そのため、「マンガの主人公に目的はむしろいらない」ということが、図らずも証明された格好となったのである。目的もなく戦っているだけの方が、かえって面白いと分かったのだ。
この法則は、やがて少年ジャンプの『キン肉マン』に「超人バトル」という形で受け継がれ、さらに『ドラゴンボール』で一つの頂点を極める。
もちろん『HUNTER×HUNTER』もその系譜に連なる作品だ。『HUNTER×HUNTER』の元となっている『ドカベン』も、『あしたのジョー』の深甚な影響下にある。主人公のドカベンは、目的もなくただ次々と強い敵に相対するだけなのだ。
そんなふうに、70年代マンガの面白さの構造というものが、少しだけ読み解けてきた。
そんな70年代マンガの構造から、現代の『HUNTER×HUNTER』に至るまでを、今度、トークショーの中でさらに突き詰めていきたいと考えている。
11月21日(火)の夜に、新宿のロフトプラスワンで、みなもと太郎さんと気鋭の若手マンガ評論家・兎来栄寿さんとともに、70年代マンガがなぜ面白かったのか、またそれは『HUNTER×HUNTERを初めとする現代マンガにどのようにつながっているのか、ということを議論する。
兎来栄寿さんは、若いながらその膨大な読書量で、現代のマンガはもちろん、過去のマンガに対する知識にも圧倒的なものがある。そんな彼だからこそ、今年70歳になったみなもと太郎さんと交わったときに、新たな発見がもたらされるのではないかと、今から期待している。
このイベントの司会は、ぼくが務めさせていただく。みなさま、もしお時間がありましたら、ぜひともお越しください。一緒に、「70年代マンガの面白さとは何か?」ということを探っていければと思います。
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