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野球道とは負けることと見つけたり:その14(2,098字)
文也の父は教師であった。それも徳島商業の教師であった。だから文也は徳商に行くのは初めは嫌がっていたという。父が教師をしている学校に行くのが恥ずかしかったのだ。この恥ずかしさには、単に「父だから」ということの他に、もう一つの理由があった。それは文也の父がアル中だったことだ。それもかなり重度のアル中だった。なにしろ勤務先の神聖なる学校にも、酒の匂いをさせていくぐらいだった。だから文也も、入った当初は、上級生から「おまえも酒臭いぞ」とからかわれたという。そんなふうに、父は教師という聖職にありながら生徒にも知れ渡るほどのアル中だった。アル中の父は、文也をよく池田町の酒場に連れて行ったという。まだほんの子供だった文也を連れて、夜な夜な酒場をはしごした。文也は、その時間が苦痛だった。酔っ払う父や父の知人たちがだらしなく見えたからだ。だから文也は、父に対して素直な愛情を抱けなくなった。それと同時に -
1994:その39(1,825字)
松田聖子は当時は単なるアイドルあるいは芸能人として社会的には軽視されていたが、今考えると実に巨大な社会的アイコンであった。松田聖子の真に偉大なところは、無数の若い女性フォロワーを生み出し、日本の文化――特に恋愛文化を大きく変化させたことである。当時の松田聖子は、若い女性に巨大な影響力を持っていた。そして80年代から90年代にかけては、若い女性が社会の中で最も強い影響力を持った層だったから、それはそのまま日本そのものに巨大な影響力を持っていたということにもなる。松田聖子は女の子の在り方――「スタイル」というものを規定した。多くの女の子が、「松田聖子のようにならなければ男性からモテない」と強く信じた。そして当時は、多くの女性が「男性からモテたい」と思っていた。いや「モテなければ女じゃない」という強い強迫観念に縛られてさえいた。この二つの思いすなわち「松田聖子でなければモテない」「モテなけ -
[Q&A]子供を生まないという選択をする若者についてどう思うか(1,700字)
[質問]こんな記事がありました。
ハックルさんはまさに「東京にこだわらない」からこそ地方移住したかと思うのですが、東京にこだわり続ける若者について、どのように思われますか?[回答]ぼくの親しい人たちもたいてい東京に住んでいるのであまり悪くは言えないのですが、有り体にいって損をしていると思います。経済的にも肉体的にも精神的にも損をしていると思います。日本の田舎は土に触れられる環境がたくさんあります。ぼくは地方に移住して土に触れることで、経済的、肉体的、精神的メリットを多大に享受しています。都会に住むことの何倍も楽しく、また幸せに暮らせるようになりました。さらにネットもあるので、都会と代わらないリクリエーションも充実しています。正直、30年前だったら東京も魅力的だったと思います。し
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