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Vol.309 結城浩/Gmailを活用するオンラインレビュー/「見切る」ことの大切さ/変化が激しい分野ですぐに古くなる知識をどう学ぶか/
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Vol.309 結城浩/Gmailを活用するオンラインレビュー/「見切る」ことの大切さ/変化が激しい分野ですぐに古くなる知識をどう学ぶか/

2018-02-27 07:00
    Vol.309 結城浩/Gmailを活用するオンラインレビュー/「見切る」ことの大切さ/変化が激しい分野ですぐに古くなる知識をどう学ぶか/

    結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年2月27日 Vol.309

    はじめに

    結城浩です。

    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

     * * *

    『数学ガール/ポアンカレ予想』の話。

    2018年4月に刊行予定の『数学ガール/ポアンカレ予想』は、 現在のところ初校ゲラを読み返している段階です。 出版社から書籍と同じように組版された紙の束が送られてきているので、 そこに赤ペンで修正を書き込んでいます。

    結城の手元にはLaTeXで書かれた書籍の元ファイルがあるので、 それでチェックしても同じこと……のように思えるのですが、 紙に印刷されたものを読み返すのは大事なプロセスなのです。

    読者さんが最終的に読むのは結城の手元にあるファイルではなく、 印刷された紙なので、 読者の環境に近い状況で読むのがよいからです。

    そして実際、初校ゲラを読み返すと、 これまでに見つからなかった種類のミスが見つかります。 同じページに余分な繰り返し表現があったり、 不自然な文末を見つけたりします。 読む環境を変えるというのは、 文章を校正する上で大事なのだと実感しますね。 きっと読む環境を変えることで、

    「いつもの自分とは異なる目」

    を手に入れるからなのでしょう。

    自分は一人しかいませんが、 異なる目を手に入れれば複数人でチェックしているのと同じ。 読む環境を変えるのはそんな効果があるのです。

    来週(もう三月ですね!)には初校ゲラの読み合わせがあり、 しばらくすれば再校ゲラがやってきます。 再校ゲラの読み合わせが済めば、 著者である私の手からほぼ原稿は離れることになります。

    そして四月に入っていよいよ刊行です。 六年ぶりの「数学ガール」シリーズ本編の書き下ろし新作。 どうぞ応援してください!

     ◆『数学ガール/ポアンカレ予想』
     http://www.hyuki.com/girl/poincare.html

     * * *

    物理学の問題。

    神奈川立公立高校の入試問題が話題になっていました。 簡略化して書くと以下のような問題です。

     ----

    問題

    水平な地面に対して同じ高さから、 ある物体を真上(A)、水平(B)、真下(C)の三つの向きで、 同じ速さで投げ出します。

    A,B,Cそれぞれの向きに投げ出した物体が、 地面にぶつかる直前の速さの大小関係を調べてください。 空気抵抗は考えません。

     ----

    つまり、投げる速さは同じだけど、 投げる向きが違うとしたら、地面に到着したときの速さはどうなる? という問題ですね。

    正解は少し後に書きますので、 考えてみてください。

     * * *

    卒論発表の話。

    質問

    結城先生こんにちは。

    先日、卒業論文の発表が終わりました。

    しかし、準備に多くの時間をかけたにもかかわらず、 発表が上手くいきませんでした。

    こういうとき、 どんなふうに気持ちの整理をつけたらいいのでしょうか。

    回答

    卒業論文の発表、お疲れさまでした。

    卒論は、あなたにとって「初めての大仕事」 といえるのではないでしょうか。 もちろん卒論発表もそうです。

    初めての大仕事なんですから、 思ったようにうまくいかなくても不思議ではありません。

    大事な発表の準備に多くの時間をかけたのに、 うまくいかなかった。 それは悔しかったり、残念だったり、 いろんな思いが交錯する経験だと思います。 つい他の人と比べたりしてしまうかもしれません。

    がんばったからこそ、悩む。 時間をかけたからこそ、悔やむ。 それはあなたが真面目に取り組んだ証拠でもあります。

    しっかり振り返り、 悪かったところは真摯に反省しましょう。 でも、必要以上に悩まないように。

    一つの方法は、 あなたがいま感じている気持ちを、 「箇条書きにして書いてみる」ことです。 人に見せなくてもいいです。 とにかく心に浮かんでくる反省や悩みや悔やみを、 すべて箇条書きにして書き上げてみるのです。 ありったけ、ぜんぶ吐き出します。

    自分の心の中だけであれこれ考えると、 同じことを何度も思い返すので、 実際に気にしている内容が数倍にも感じられるものです。 まずは、自分の気持ちを箇条書きにして、 対象化してしまいましょう!

    箇条書きにしたあとは、 同じ項目を一つにまとめたり、 並べ替えて、同種類の項目をグルーピングしたり、 整理します。そうすると、 自分が何を考えているのか、 どんなところに悩んでいるのかが、 しだいに明確になるはずです。

    以下も合わせてごらんください。

     ◆ロビンソン式悩み解決法
     http://www.hyuki.com/kokoro/#robinson

     * * *

    数学科教員に望むことの話。

    質問

    私は数学科教員です。

    結城さんが数学科教員に望むことはあるでしょうか。

    あるならば、それはなんでしょうか。

    回答

    ご質問ありがとうございます。

    これはたいへん興味深い問いです。

    まず最初に、私は「教育現場の先生」に対して、 大きなエールを送りたいです。

    日々リアルな生徒に向き合って、 そこで生じるあらゆる問題に現実的な解決策を見つけ出さねばならない、 そんな先生方に対して私は深く敬意を抱く者です。

    その上であえて望むこととしては、

     数学を、生徒の「嫌いな科目」にさせないでほしい

    ということです。 もちろん、数学を生徒の「好きな科目」にしていただけるなら、 それに越したことはありません。 でも、せめて、嫌いにさせないでほしいと願います。

    いきなり後ろ向きな願いに聞こえるかもしれないですが、 私は大事なことだと思います。

    先生が、その生徒に対して数学を教える期間は短いものです。 長くて数年ですよね。先生のところから巣立っていった後、 生徒の生活を想像してみます。 もし、数学を嫌いになっていなければ、 どこかで数学を好きになるチャンスがあるかもしれません。

    でも、いったん嫌いになってしまったら、 数学に触れる機会すら少なくなるのではないでしょうか。 それは、とても悲しいことです。 なので、数学の先生には 「生徒を数学嫌いにさせないでほしい」と思うのです。 とても難しいことはわかりますけれど。

    といっても、数学で面倒な計算をさせるなとか、 数学のテストをするなとか、 そういう無茶なことを言いたいわけではありません。

    そうではなくて、たとえば、 以下のようなことは「やめてほしい」という意味です。

     ・「罰」のような形で数学の問題を解かせる
     ・正当な疑問を抱いた生徒に理不尽な押し付けをする
     ・数学的に正しい答えをしたにも関わらずバツを付ける
     ・素朴な疑問に対して、馬鹿にしたような評価をする

    そういう教え方はしないでほしいということです。

    数学は、 教師が生徒に「圧」をかけやすい科目じゃないかと感じます。 教師は答えを持っていますし、正しいかそうじゃないかは明確です。 ですから、生徒のまちがいがときに愚かしく見え、 必要以上に糾弾する危険性があるのです。

    「しないでほしいこと」だけでは何ですから、 「してほしいこと」も書いておきます。

    難しい計算や概念が出てきたときには、 苦労だけではなく面白さが見いだせる工夫をしていただきたいし、 小さなことに対しても達成感が味わえ、 もっと学びたいという気持ちを起こさせるようにしてほしいです。

    そして、強く願うことは、

     ・単元や分野を越える数学の面白さをぜひ伝えてほしい

    ということです。ある問題を解くときに、 「この方法でなくてはダメ、これ以外はバツ!」 という決めつけではなく、別の方法でもかまわない。 数学的に正しければいいのだと積極的に教えて欲しいです。

    もちろん、 ある技法を学ぶためにそれを練習することはあるでしょうけれど、 それにとどまらないでほしいのです。

    この問題のパターンなら、この解答だけが正解。 このパターンなら、この解答だけが正解。 というのでは数学のおもしろみをかき消してしまうと思います。

    数学的に正しければ、 驚くべき発想から生まれる解法でもかまわない。 そもそも問題を解くだけが数学ではない。 そういう点を積極的に教えて欲しいです。

    繰り返しになりますが、最後にもう一度書きます。 私はいつも現場の先生に対し、強い尊敬の念を抱いています。 さまざまな限界や制約の中で、生徒のことを思い、 現実的に解決策を見出していこうとしている先生方に。

    子供たちを、どうぞよろしくお願いいたします。

     * * *

    物理学の問題の続き。

    問題

    水平な地面に対して同じ高さから、 ある物体を真上(A)、水平(B)、真下(C)の三つの向きで、 同じ速さで投げ出します。

    A,B,Cそれぞれの向きに投げ出した物体が、 地面にぶつかる直前の速さの大小関係を調べてください。 空気抵抗は考えません。

    解答

    A = B = C になります。

    すなわち、投げるときの速さが等しいなら、 向きに関わらず、地面にぶつかる直前の速さはみな等しいのです。

    結城がこの問題を知ったとき、A = C はすぐにわかりました。 でも B がどうなるかはよくわかりませんでした。

    A = C がどうしてすぐにわかったかというと、 真上(A)に投げた物体が、投げた高さまで戻ってきたときには、 真下(C)の向きで同じ速さになるからです。

    B がどうしてわからなかったかというと、 「地面についたときは斜めになっているから……あれ?」 と余計なことを考えてしまったからです。

    ちゃんと考えるとしたら、次のようになります。

    投げた瞬間の物体が持つエネルギーは、 位置エネルギーと運動エネルギーの和です。 物体の質量が一定なら、 位置エネルギーは高さで決まりますし、 運動エネルギーは速さで決まりますから、 A,B,Cのエネルギーはいずれも等しくなります。

    エネルギー保存則より、 投げた瞬間と地面にあたる瞬間のエネルギーは等しくなります。

    地面にあたる瞬間、 A,B,Cの位置エネルギーは高さが同じなので、 いずれも等しくなります。 そのため、運動エネルギーも等しくなります。

    A,B,Cの運動エネルギーが等しいということから、 A,B,Cの速さは等しいといえます。

    この問題は、 以下のことを知っていれば解けます。

     ・この場合のエネルギーは、運動エネルギーと位置エネルギーの和
     ・運動エネルギーは速さで決まる
     ・位置エネルギーは高さで決まる
     ・エネルギー保存則

    具体的な数式をまったく知らなくても、 問題が解けるというのが楽しいですね。

    なお、エネルギー保存則は中学校で学ぶ内容で、 高校入試では頻出らしいです。

    「エネルギーは保存量である」 ということを理解しているかどうか。 経路を問わず、投げる瞬間のエネルギーと、 地面にあたる瞬間のエネルギーという二点を考えるだけですむ。 そこがとても楽しいです。 保存量に注目すべき理由がよくわかります。

    数学ガールのミルカさんが言う、 《不変なものには名前をつける価値がある》 にあたりますね。物理ならば、 《保存する量には名前をつける価値がある》 になるでしょうか。 この問題では「エネルギー」という保存量に注目です。

    以下は余談。 もともとの入試では、 大小関係の選択肢が与えられており、 その中から選ぶ出題形式になっていました。

    この問題に具体的な速さが書いてないことに注目すると、 速さが非常に0に近くても成り立たなければならないと考え、 物理的な理屈がわからないとしても、 A = B = C に賭けるのがいいかもしれませんね!

     * * *

    それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。

    どうぞ、ごゆっくりお読みください!

    目次

    • はじめに
    • Gmailを活用する書籍のオンラインレビュー - 本を書く心がけ
    • 「見切る」ことは大切だが難しい - 本を書く心がけ
    • 変化が激しい分野ですぐに古くなる知識をどう学ぶか - 仕事の心がけ
    • おわりに
     
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