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記事 4件
  • Vol.313 結城浩/数式を見ると頭が真っ白/「本を書く生活」の良し悪し/どんな部下が欲しいか/

    2018-03-27 07:00  
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    Vol.313 結城浩/数式を見ると頭が真っ白/「本を書く生活」の良し悪し/どんな部下が欲しいか/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年3月27日 Vol.313
    はじめに
    結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
     * * *
    『数学ガール/ポアンカレ予想』の話。
    先日、ようやく再校読み合わせが終わりました。
    これで、原稿に関して結城の仕事はほぼ終わり。 あとは4月中旬の刊行を待つばかりとなりました。
    2012年に『数学ガール/ガロア理論』を出してから、 今年で六年目。 「数学ガール」の新作の刊行はほんとうにうれしいです。 応援を感謝します!
    刊行の記念に、 《サイン本無料プレゼント》を個人的に企画しています。 ぜひ、以下のリンクをお読みの上、ご応募ください!
     ◆『数学ガール/ポアンカレ予想』《サイン本無料プレゼント》  https://snap.textfile.org/20180314090041/
    刊行開始よりも前に抽選を行いますので、 すでに書店さんへご予約なさった方もご応募してくださいね。
     * * *
    桜の話。
    この季節、 散歩していると「この樹も桜だったんだ」と気付くことが多いですね。 桜はいつもは目立たないけれど、一年に一度おおきな注目を浴びる木。
     私「おお、桜よ。また今年も会えたね!」  桜「私はずっとここにいるのですが」
    そんな対話がはじまりそうな、そんな春の日です。
     * * *
    「古今和歌集を読む」の話。
    『数学ガール/ポアンカレ予想』がだいぶ落ち着いてきたせいなのか、 ずいぶん以前に始めた「古今和歌集を読む」という企画を少し進行。
    ふと「古今和歌集」を検索したところ、 Wikipediaのページの次に来てやや焦っています。 これはnote(ノート)のSEOが優れているということなのでしょうか。
     ◆古今和歌集を読む  https://mm.hyuki.net/m/mfa4fe40c022b
     ◆Googleで「古今和歌集」を検索(スクリーンショット)
    それはさておき、この「古今和歌集を読む」というのは、 2014年の秋に結城が突発的に始めたものです。
    古今和歌集には千首以上の歌がありますので、 全部読むわけではありません。 自分の気に入ったものをピックアップして、 それに簡単な解説を付けた形になっています。
    「結城メルマガ」のVol.131には、 この企画を始めたときの記録が残っていました。 それによると、
     ・親しみやすい歌  ・読みやすい歌
    を中心にして、
     ・「歌そのもの」を前面に出す。  ・「現代語訳」で大づかみに内容を理解する。  ・「古語の説明」と「文法事項」で各要素を理解する。
    という構成にしようと思っていたようですね。
    これまでに、約40首ほどを読んでいます。 結城は専門家ではありませんので、 古語辞典を引き引き読んでいる状況です。
    それにしても、高校時代(頭が柔らかい時代)に、 もっとたくさん古文に触れ、暗記していたら良かったなあ…… と思わないではありません。
    古文を暗記するのは、有名な言い回しや例文をたくさん頭に入れるということ。 それは勉強のときにとても役に立ちますし、 文法を学ぶときにも役に立ちます。 そうそう、文法の活用ももっと暗記しておけばよかったですねえ。
    高校のときにしっかり覚えたことは、 三十年以上経ったいまでも忘れません。 カ行変格活用とか、係り結びとか、 「だに・すら」と「さへ」の違いとか、 「瀬を早み」の「み」とか。
    高校生当時に覚えた文法知識だけでも、 古今和歌集のいろんな歌を読んで楽しめるのですから、 もっと覚えていたら、もっと楽しめただろうなあ(反実仮想)。
    さいわいお婆ちゃんが百人一首好きだったので、 いくつも一緒に歌を覚えました。あれは楽しかったですね。
    いまはもう暗記ものは無理な歳になってしまいました。 古今和歌集を読み解いて楽しむけれど、 個々の歌を暗記するまでは無理。 せいぜい「言い回しを覚える」のが限度ですね。
    でも、少しずつ楽しんでいきたいと思います。
     ◆古今和歌集を読む  https://mm.hyuki.net/m/mfa4fe40c022b
     * * *
    重版の話。
    先日、編集部から重版の連絡がありました。 何と三冊が同時重版となりました!
     『数学ガール』29刷(初版2007年)  『数学ガール/ガロア理論』5刷(初版2012年)  『数学ガールの秘密ノート/微分を追いかけて』3刷(初版2015年)
    同時重版となったのは新刊『数学ガール/ポアンカレ予想』 が刊行されるタイミングがあるからでしょう。 新刊が出ると既刊本も動くので、 出版社さんは売り切れ状態を作らないように考えるのですね。
    ともかく、最初の『数学ガール』は2007年初版なので、 今年でシリーズ11年目。ロングセラーとなっています。 読者さんの継続的な応援に心から感謝します! \重版出来!/
     * * *
    日本に不安を感じる高校生の話。
    質問
    高校生です。 漠然とした質問で申し訳ありません。
    今後の日本に大きな不安を感じています。 どうしたらいいでしょうか……
    回答
    あなたがやることは明確です。
    広い意味で、自分を育てましょう。
    さまざまな本をよく読み、 自分の頭できちんと考え、 身体もしっかり鍛え、 豊かな心を持ちましょう。
    将来の日本をあなたが支えるにしろ、 日本から出て行くにしろ、 自分を育てておく必要があるからです。
    世の中にはいろんな人がいます。 あなたの不安につけこむ人もたくさんいます。 そのときに、 あなたはちゃんと判断できるかどうか。
    その判断力を身につけるには、 自分で自分を育てておく必要があります。 頭だけではなく、身体も、心も。
    応援しています。
     * * *
    面接官をしたときの話。
    もう何十年も前の話になりますが、 ある会社の面接官をしたことがあります。
    そのときには「具体的に尋ねる」という質問をよく行いました。 面接を受けに来た人はいろいろ自己アピールをしますよね。 そのアピールを受け取って具体的に深掘りしていくのです。
     「ものづくりが好きなんです」
    と言われたら、
     「どんなものを作りますか」
    と尋ねます。また、
     「グループのムードメーカーだと言われます」
    というアピールを聞いたなら、
     「たとえばどんなエピソードがありますか」
    と尋ねます。
    本当に自分の経験として持っている人は、 具体的なことを尋ねると目を輝かせて答えてくれます。 でも、面接用の対策として話を盛っている人は、 答えが次第にあやふやになってしまいます。
    深掘りしていくというのは、 負荷を掛ける面接ではありません。 アピールポイントを具体的に尋ねることで肉付けし、 より明確に自己アピールができるように手助けすることです。
    面接で自己紹介・自己アピールするときには、 「抽象的・一般的な表現」と、 「具体的・個別的な表現」の両方を準備しておくのは、 悪くはないと思います。
    たとえば、「ものづくりが好きです」というのは、 抽象的・一般的なアピールです。 それに対して「子供のころ●●を組み立てました。 最近は△△を作っています」というのは、 具体的・個別的なアピールになります。
    面接を受ける人の自己アピールというのは、 面接官に対して「私はこういう人です」 ということをはっきり伝えるのが目的です。 ですから、抽象的・一般的な表現だけだと 「物語の人物設定」を読んでるみたいになってしまいます。 具体的・個別的なエピソードがあってこそ、 その人らしさが表現されると思います。
    面接官は多数の学生を相手にしているので、 「ありがちなアピール」や、 「面接指南書に書かれているような表現」は、 聞き飽きているはずです。 聞き飽きたという顔はしないでしょうけれど。 私がとある会社の面接官をしたときには、 来る学生が異口同音に、 「私はものづくりが小さい頃から好き」 というアピールをしていました。 その時点ではまったく差別化されません。
    でも、深掘りして具体的なエピソードを尋ねていくと、 各人の考え方や物事への取り組み方が、 驚くほどはっきりわかるものなのです。
    これから就職活動をする方が、 適切な自己アピールをすることができ、 ぴったり合った仕事に出会えますように!
     * * *
    それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。
    今回は、生徒の側の「わからない」と、 先生の側の「わからない」が並んだ回になりました。
    前者は「学ぶときの心がけ」に、 後者は「教えるときの心がけ」に置きました。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    数式を見ると頭が真っ白になってしまいます - 学ぶときの心がけ
    「本を書く生活」の良し悪し - 本を書く心がけ
    どんな部下が欲しいか - 仕事の心がけ
    おわりに
     
  • Vol.312 結城浩/再発見の発想法/学び四態/勉強が得意な生徒と苦手な生徒の違い/勉強を実行に移せない/

    2018-03-20 07:00  
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    Vol.312 結城浩/再発見の発想法/学び四態/勉強が得意な生徒と苦手な生徒の違い/勉強を実行に移せない/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年3月20日 Vol.312
    はじめに
    結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
     * * *
    《サイン本無料プレゼント》の話。
    『数学ガール/ポアンカレ予想』が2018年4月に刊行予定です。
    刊行を記念し、みなさんの応援に感謝をこめて 《サイン本無料プレゼント》を企画しました。
    ぜひ、以下のリンクをお読みの上、ご応募ください!
     ◆『数学ガール/ポアンカレ予想』《サイン本無料プレゼント》  https://snap.textfile.org/20180314090041/
    刊行開始よりも前に抽選を行いますので、 すでに書店さんへご予約なさった方もご応募してくださいね。
    ちなみに、いつものパターンですと、 当選確率は数パーセントくらいです。
     * * *
    『数学ガール/ポアンカレ予想』の話。
    「結城メルマガ」執筆中に書影が届きました! 今回の表紙も素敵です!
     ◆『数学ガール/ポアンカレ予想』書影
    表紙・イラスト:たなか鮎子さん/ 装丁・デザイン:米谷テツヤさん
    実際の刊行準備はどうなっているかといいますと、 現在は結城の手元に再校ゲラが届いている状態。 予定通りなら、今週末に再校読み合わせがあります。 そこまでいったら、 原稿に関しては結城の手をほぼ離れることになります。
    ほんとうのラストスパートになります。 ぜひ、応援してくださいね。
     ◆『数学ガール/ポアンカレ予想』  http://www.hyuki.com/girl/poincare.html
     * * *
    志望校へ行けなかった話。
    質問
    大学受験に失敗しました。 正確にいうと、高校三年生の夏前に体調を崩して二〜三ヶ月、 家か病院にこもる生活を余儀なくされ、 秋から復学したのですが、 それでも受験勉強はしばらく体調的にできず、 しかたなく受験校を地元の国立大学に下げました。
    高校一年二年ではたくさん勉強し、 青春=勉強になっていたのですが結局志望校には行けず、 自分が積み上げた努力がすべて崩れたようでつらいですし、 友達のかつて僕の志望校だった大学の合格を聞くたびに、 友を妬むという醜い自分もいて自分が嫌です。
    過去の挫折を断ち切り心機一転、 新しく勉強に取り組むにはどうすればいいでしょうか。
    アドバイスお願いします。
    回答
    体調を崩して志望校に行けなかったとのこと、 それは、本当に本当につらいことだと思います。 お察しいたします。
    そんな中で心機一転、 新たな気持ちで勉学に向かおうとする態度は、 この上なく立派なことだと心から思います。
    残念ながら、つらい気持ちをガラリと変える魔法はありません。 しかし、あなたの強い味方として「時間」がいます。
    いまのあなたは、つらい気持ちと、 がんばろうという気持ちを持っています。 その両方の気持ちが長い時間を掛けて 「あなた」という一つの人格の中で熟成されていくなら、 それを通して、
     現在のつらさを通らなければ、  決して手に入らなかった「あなた」
    を手に入れることができるのです。
    挫折を断ち切って進もうとするのも大事です。 しかし、あなたが「いま」をしっかり受け止め、 その上で進むなら、 現在のあなたには挫折にしか見えないことが、 未来のあなたには違う意味を持ってくるかもしれません。
    受験ではありませんでしたが、 私自身も挫折したことがあります。 何十年も前の話です。 その頃を現在から振り返ると、
     あの経験がなかったら、  現在の私もなかった。
    と思います。
    もちろん、その当時はそんなふうには絶対に思えなかった。 達観することはできなかった。できるわけがありません。 つらい状況を通過している真っ最中には無理です。
    しかし、 挫折でこの上なくつらい気持ちを通過した後、 その挫折の意味を変えてくれるのが「時間」です。
    つらさも、くやしさも、ねたみも、 自負も、希望も、ありとあらゆるものを抱え、 熟成させて、じっくりと足を踏みしめて進んでいきましょう。
    つらい中にあっても、 心機一転がんばりたいと考える「あなた」には、 それができます。
    「時間」を味方につけて、大きく成長してください。 大変だと思いますが、応援しています。
     * * *
    それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    再発見の発想法 - プレースホルダ
    学び四態 - 学ぶときの心がけ
    勉強が得意な生徒と苦手な生徒の違い - 教えるときの心がけ
    「こうすればいい」とわかっているのに実行に移せない - Q&A
    おわりに
     
  • Vol.311 結城浩/問題を解く学習で大切なこと/趣味として数学書を読む/相手の話を聞く/

    2018-03-13 07:00  
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    Vol.311 結城浩/問題を解く学習で大切なこと/趣味として数学書を読む/相手の話を聞く/
    結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年3月13日 Vol.311
    はじめに
    結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
     * * *
    『数学ガール/ポアンカレ予想』の話。
    先週の火曜日に初校読み合わせが終わり、 気が緩んでしまったのか、 風邪を引いてしまいました(弱い)。 さいわい悪化することもなく、 何とか快復しそうです。
    今週には再校ゲラが届き、 来週末には再校読み合わせ。そこを過ぎれば、 原稿に関しては結城の手を離れることになります。 ラストスパート、がんばりましょう。
    書店に掲示されるPOP作成や、 書籍に同梱されるメッセージカード作成など、 いわゆる販促活動準備も今週〆切です。 こちらもがんばらなくては。
    刊行は2018年4月。
    応援よろしくお願いします!
     ◆『数学ガール/ポアンカレ予想』  http://www.hyuki.com/girl/poincare.html
     * * *
    数学を楽しむ話。
    受験シーズンの関係か、 「勉強の方法」や「数学の学び方」のような質問を最近よくいただきます。
    その質問の中で「数学を学ぶこと」を、 「数学の問題を解くこと」だと思っている人がときどきいます。
    確かに学校で「数学を学ぶ」というと、 多くの場合は問題を解くことになりますし、 定期試験や実力テストや入試などではもちろん問題を解きます。
    でも「数学を学ぶこと」がすなわち「数学の問題を解くこと」 ではありません。少なくとも私はそう思っています。
    学校の数学の時間に「微分」を学んだとしましょう。 そうすると定期試験で「この関数を微分しなさい」のような問題が出ます。 それはまあそうですよね。でも、そもそも、
     ・微分というのはどういうものなのか  ・微分で何ができるのか  ・そもそもどうして微分というものを考えるのか
    という内容が腑に落ちていないと、 難しい問題が出たときに困ってしまいます。 なぜなら、問題を考えている途中で、
     「よし、ここで微分すればいいな!」
    という発想になかなか至れないからです。
    結城が高校生だったのはもう遠い昔ですが、 数学の時間に「複雑な関数を調べる」という、 ざっくりした課題の授業がありました。 ややこしい関数の式が与えられて、 その関数がどんなものであるかを自由に調べましょう…… そんな授業でした。
    結城はその時間で、 数学に対する大きな理解の進展がありました。 それは、
     そうか!これまで数学で習ったことを使えば、  このややこしい関数の式を解きほぐし、  関数の様子をいろいろ調べられるんだ!
    と高校時代の私は気付いたからでした。
    数学というものを「与えられた問題を解く科目」 だと考えるのはとてももったいないと思いました。 問題を解くこと、問題を解けることは重要ですけれど、 そこからもう一歩踏み込むことができたら、 とても楽しくなるからです。
    自分が知った概念、自分が知った技法を使って、 あれこれ自由に考え、試し、調べることができる。 それはすごく楽しいことです。 何をやっても(数学的におかしくなければ)怒られない。 自由に試して構わない。 もちろん、自分が未熟ならば大した結果は得られないけれど、 でも自分なりの工夫によって、 ちょうど身の丈に合った学びを進めることができる。 主体が自分にある。これはとても楽しいことです。
    それは、たとえていうならば、 新しく買ってもらった自転車のようなものです。 ハンドルやブレーキの仕組みを覚えるだけではつまらなくて、 自分が実際に乗って、自由に走ってみる。 うまくハンドルさばきができなくて倒れるかもしれない。 でも、自転車で風を切って走る気分は最高です!
    もしかしたら、数学に限らない話かもしれません。 数学も、国語も、英語も、どんな科目にも当てはまるかも。 中学や高校では基礎知識と基本技能が与えられている。 それを身につけるように努力し、 身についたかどうか、問題を解いて確かめるのは大事です。 でも、ほんとうに楽しいのはその先。
     《それ》を使って好きなことをやっていいんだよ!
    自分が身につけた基礎知識と基本技能を、 自由に役立てていい。 その認識が大事じゃないかな、とよく思います。
     * * *
    LaTeX本の話。
    数式混じりの文書を作成するデファクトスタンダードはLaTeXです。
    『数学ガール』もLaTeXで書いていますし、 多くの論文はLaTeXで書かれています。
    LaTeXを学びたいという人にオススメの行動は、 奥村先生の『LaTeX2ε美文書作成入門』を買い、 つべこべ言わずにまずは一通りこの本を読むことです。
     ◆[改訂第7版]LaTeX2ε美文書作成入門(アマゾン)  https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4774187054/hyuki-22/
    技術評論社ではPDF版を購入できます。
     ◆ [改訂第7版]LaTeX2ε美文書作成入門(技術評論社)  https://gihyo.jp/dp/ebook/2017/978-4-7741-8764-8
    「本など買わなくても、必要なことは検索すればいいのでは? 無料だし」 のように考える人もいますけれど、私はそうは思いません。
    LaTeXをネットだけで学ぼうとすると、 どうしても断片的な知識になってしまい、 全体像をなかなかつかむことができません。
    また、ネットには古い情報と新しい情報が混ざっていますので、 学習した知識がゆがんでしまうことになりかねません。
    さらに、本を読めば最初に書いてあるような 「ありがちなトラブル」に対処しなくてはならず、 無駄な時間を使ってしまいがち。
    確かにネットは無料ですが、 どうせ学ぶなら定番の良書を一冊買う方が、 結果的には無駄が少ないと私は思います。
    LaTeXを学ぶなら、 「数千円と、数日を掛けて、この本を一通り読む」 という行動をお勧めするのはそのためです。
    全部覚えようとする必要はありません。 LaTeXの概要をつかみ、どんなことをしたら何が起きるか、 ありがちなトラブルは何かを押さえながら全体像を理解するのです。
    ネットで検索するのが悪いわけではありません。 この本を一通り読んだ後は、 ネットで見つかる情報をよりよく生かせるようになるはずです。
    ここまでLaTeXの話を書いてきましたが、 実は似たようなことはいろんな分野に当てはまります。 全体像を知らない分野について、 ネットだけで解決しようとするのはやや無理があります。 もしもいい入門書や定番の本があったらそれを入手し、 一通り目を通す。それだけでグンと学習効率がアップするはずです。
    本とネットは対立するものではなく、 相補的に活用することが大切だといつも思います。
     ◆[改訂第7版]LaTeX2ε美文書作成入門  https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4774187054/hyuki-22/
    なお、奥村晴彦氏,黒木裕介氏はこの書籍で、 2018年度日本数学会出版賞を受賞しています。
     ◆日本数学会(2018年度日本数学会出版賞)  http://mathsoc.jp/publicity/pubprize2018.html
     * * *
    受験勉強で好奇心がどこかへ行った話。
    質問
    好奇心を取り戻す方法を教えてください。
    私は一年浪人して、 自分のやりたいさまざまなことを、 約二年間我慢し続けて勉強してきました。
    そしていま、とりあえず大学に行けることが決まり、 受験勉強から解放されて自由な時間が増えました。
    でも、自分が受験前と変化していることに気付きました。 それは、何にも興味がなくなってしまったということです。
    受験前は少しでも不思議に思うことがあったら、 熱中して調べたり考えたりしていたのですが、 いまはまったくそんな気力がありません。
    そんな状態を打破しようと、 以前興味があった分野の本を読み始めてみたのですが、 無味のガムをひたすら噛んでいるような感覚で、 内容が頭にまったく入ってきません。
    二年間の受験勉強が自分の好奇心を殺してしまったんじゃないかと感じて、 すごく怖いです。
    結城さん、好奇心を湧かせる術を知っていたら、 どうか教えてください。
    回答
    まずは、受験お疲れさまでした!
    受験を終えて気付いたら、 自分の好奇心が失われたようだということですね。 お気持ち、お察しいたします。
    受験期間では、いろんなことを耐えてきたでしょうから、 なかなか急に元に戻るのは難しいかもしれませんね。
    たとえていうならあなたは、 受験に向けて同じ姿勢をずっと取ってきたわけです。 ですから、いきなりダンスを踊るのは無理ですし、 マラソンするのも無理でしょう。
    受験前と同じ状態まで一気に戻るのは難しいでしょうから、 あなたにまず必要なのは、 心と身体をほぐすことではないでしょうか。 それには、ある程度の時間が必要です。
    あなたは「受験勉強が自分の好奇心を殺してしまった」 と心配なさっていますが、大丈夫。 そんなことは絶対にありません。 あなたは若いのですから、きちんと心と身体をほぐし、 時間をかけて自分とあたりを見回し、 自分が面白いと感じることを、 少しずつ思い出し、取り戻し、 感じ取っていくことは必ずできます。
    そんなにあわてないで。 急がないで。
    まずは、あなたが自分自身をほめてあげましょう。
    よくやったね。
    長い間本当にがんばったね。
    とにもかくにも、よく乗り越えてきたね。
    つらかった時間もめげずに越えてきたね。
    浪人時代を越えてきたんだ。
    えらかったぞ!
    なかなか、たいしたもんだ!
    と自分をたっぷりとねぎらいましょう。
    これまでの浪人時代には、 多くのことをがんばって乗り越えてきたわけですから、 自分の好奇心もがんばって取り戻したくなりますが、 あわてず自分に時間を与えてください。
    好奇心はいなくなったわけではなく、 臆病な小動物のように、 木陰に隠れているのかもしれません。 受験時代の我慢やプレッシャーやストレスのために、 好奇心は木陰からなかなか出てこられないのでしょう。
    ですからまず、ゆっくりと自分をねぎらい、ほめましょう。 たっぷりとほめましょう。そのようにして、 自分を「本来の自分」に戻していきましょう。 そうしているうちに、 好奇心もあなたのところに戻ってきます。
    お疲れさまでした!
     * * *
    それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    問題を解く学習で大切なこと
    趣味として、やや専門的な数学書を読みたい
    相手の話を聞く練習
    おわりに
     
  • Vol.310 結城浩/数学力を向上させる復習法/前提や推論をねじ曲げる人/高校数学でつまずく単元/

    2018-03-06 07:00  
    220pt
    Vol.310 結城浩/数学力を向上させる復習法/前提や推論をねじ曲げる人/高校数学でつまずく単元/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年3月6日 Vol.310
    はじめに
    結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
     * * *
    ポイント還元セールの話。
    2018年3月8日(木)まで、 SBクリエイティブがキャンペーンを行っています。 アマゾンのKindle本が「50%ポイント還元」とのこと。
     ◆【50%ポイント還元】SBクリエイティブキャンペーン  http://amzn.to/2oHMCns
    結城の本の大半はSBクリエイティブから刊行されており、 今回のキャンペーン対象に入っています。
    「数学ガール」と「数学ガールの秘密ノート」シリーズすべて、 『暗号技術入門第3版』、『プログラマの数学第2版』、 『Java言語で学ぶデザインパターン入門』などのKindle本が、 すべて50%ポイント還元になっています。
    電子書籍でのご購入を予定している方は、 ぜひこの機会をご利用ください。
    『数学文章作法』は筑摩書房からの刊行ですので、 キャンペーン対象ではありません。
    対象書籍一覧へのリンクを、 以下のページにまとめてありますのでご利用ください。
     ◆【50%ポイント還元】『数学ガール』『プログラマの数学第2版』など《結城浩のKindle本》多数  https://bit.ly/2H03Pzh
     * * *
    『数学ガール/ポアンカレ予想』の話。
    6年ぶりの「数学ガール」シリーズ新作。
    ちょうど今日、初校読み合わせがあります。 ここまでで大きな修正はほぼ終わり、 再校に向けてはやや細かい微調整が多くなります。
    次第にゲラが滑らかになり、 読み返すのも楽しくなってくる時期ですね。
    刊行は2018年4月!
     ◆『数学ガール/ポアンカレ予想』  http://www.hyuki.com/girl/poincare.html
     * * *
    幾何に取り組む話。
    質問
    現在中学生で、来年から高校生になります。
    代数よりの問題(確率や一次関数のグラフなど) では数を操作しているようで楽しく、 解きやすいと感じます。
    でも幾何よりの問題(平面図形や空間図形など) ではとたんに解けなくなります。
    幾何の分野では、 「ひらめき」や「感覚」が必要とされている気がして、 どうしても自信が持てません。
    考え方や問題への取り組み方のコツはあるでしょうか。
    回答
    ご質問ありがとうございます。
    確かに幾何の問題は、 平面図形にしろ空間図形にしろ、 苦手と感じる人は多いかもしれません。
    「ひらめき」や「感覚」あるいは「センス」が必要…… と言いたくなりますが、そこには注意が必要です。 というのは「ひらめき」や「感覚」や「センス」 という言い方をしたとたん、 「生まれ持ったものであり、自分にはどうしようもない」 と勘違いしそうになるからです。
    そこから一歩進むと、 言い訳と思考停止につながります。 それは危険な道だと思います。 中学生・高校生の段階では、特にそうです。 「ひらめき」や「感覚」や「センス」 の存在を否定するわけではありませんが……
    そのように考えるのではなく、 幾何に関しては、
     ・多種多様な図形をリアルに体験すること  ・多種多様な図形を見ずに想像すること
    の二つを心がけるというのをお勧めします。
    たとえば、三角形の図を描くときでも、 一つだけ描くのではなく、できるだけたくさん描いてみる。 しかも同じような三角形ではなく、 できるだけ形の違う三角形を描いてみる。 そしてじっと時間を掛けて眺める。
    例として三角形を挙げましたが、 これはもちろん一例に過ぎません。 数学図鑑などでいろんな図形をピックアップして、 しかも複数並べてみたり、接する様子を描いてみたり、 重ねてみたり……たっぷり平面図形を体験するのです。
    コンパスや定規を使って描くのもいいですが、 フリーハンドで描くのも非常にいいことです。 これはまさに「体験」になりますね。
    立体図形も同様です。 描かれた図形や透視図を見るだけではなく、 実際に粘土や紙工作で作ってみましょう。 作るだけではなく、作った後もじっくり眺めましょう。
    数学の勉強だけでなく、 毎日の生活の中で見る形にも注意を向けます。 テレビを見たら縦と横の長さの比を想像したり調べたり。 対角線の長さを当ててみたり。 私たちの周りは形で満ちていますので、 試してみることは無数にありますね。
    以上のように、 図形や立体をリアルにたっぷり体験するのです。 図形を100個描いたらテストの点数が10点上がる…… なんていう約束はできませんし、 リアルな体験がどんな効果を上げるかはわかりません。
    でも、あなたが「数を操作しているようで楽しい」 といったのと同じ感覚を、 図形や立体に感じる一歩になるかもしれませんよ。
    そして、もう一つ。
    リアルに体験するだけではなく、 何も見ないで頭の中だけで図形や立体を想像し、 操作する練習もぜひやってみてください。
    具体的に列挙したらきりがありませんが…… たとえば、正三角形を想像するのはできますよね。 正方形も簡単に想像できるでしょう。
    では、正六角形は? 正六角形のカードを二つ折りする様子は想像できますか。
    正方形の折り紙を想像し、 そこから鶴を折る様子を頭の中だけで想像できますか。
    立体も同様です。有名な問題ですが、 立方体を平面で切断する様子を想像したとき、 断面にはどんな形があらわれるでしょうか。 何通り想像することができますか。
    小さな立方体27個を1個ずつ積み上げて、 3×3×3の大きな立方体を作る様子を、 コマ送りで想像できますか。
    鉄棒で自分が大車輪をやったと仮定して、 周りの景色はどんなふうに見えるでしょう。
    以上のように、 図形と立体にまつわるリアルな体験と想像を意識して行ってみましょう。 それはなかなかいいと思います。
    あなたが代数的な操作が好きなのは、 これまでたくさんやってきて慣れているからかもしれませんよ。 幾何でも、そのような体験をたくさんやってみてください。
    Enjoy!
     * * *
    理屈で考えすぎてしまう話。
    質問
    いわゆる「理系的」な思考をしているせいか、 絵を描いたり、文章を書いたりするときに、 「理屈で考えすぎている」 とよく言われます。
    確かに考えすぎて筆が進まないときもあります。
    理屈に惑わされないようにするには、 どうしたらいいでしょうか。
    回答
    ご質問の内容は、よくあることです。
    理屈で考えた作品は、 つじつまは確かに合っているけれど、 魅力を感じなかったり、 心を揺さぶられる部分や印象に残る部分が少なかったりします。
    難しいですよね。
    この対策には、有名な言い回しがあります。 それは、
     「説明するな、描写せよ」
    というものです。
    「説明」というのは理屈で考えて、 つじつまを合わせたり、矛盾をなくしたり、 起きていることに必ず理由を付けたりすることです。
    それに対して「描写」というのは、 目で見たものや、耳で聞いたもの、 感じたことをそのまま受け手に伝えようとすることです。
    これはこうなってますよと説明するのではなく、 受け手に直接感覚を届けるために描写するのですね。
    説明はものごとを対象化してしまいますから、 受け手は安全圏にいて対象を受け取る形になります。 それに対して描写は違います。 適切に描写するならば受け手の中で感覚が直接再現されますので、 その空間に入り込み、 深い体験をしてもらうことが可能になります。
    もちろん、それを実際に行うのは技術を必要とする話です。 しかし、 「説明」をなくして「描写」に徹底することを意識するのは、 悪くない取り組みだと思います。
    描写に徹底する方法の一つとしては、 自分自身がまずその世界に飛び込むことが挙げられるでしょう。
    自分が世界の外にいて、あれはあれだ、これはこれだ、 とやっていると、どうしても説明になってしまいます。 自分が世界の中に飛び込んで、
     いま何が聞こえる? 何が見える? 何を感じる?
    と問うのです。
    そしてそのためには、 実はリアルなこの世界にいるときも同じように、
     いま何が聞こえる? 何が見える? 何を感じる?
    と問うことが大切ではないでしょうか。
     「説明するな、描写せよ」
    というのは、言い換えると、
     「対象化するな、体験せよ」
    ということなのですね。
    ぜひ、試してみてください。
     * * *
    それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。
    今回は受験シーズンから新学期直前のためか、 数学を学ぶことに関するQ&Aが多くなりました。
    でも実は「数学」に特化した話ではないかも……と思っています。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    数学の問題をまちがったとき、どう復習すれば数学力を向上できますか - Q&A
    前提や推論をねじ曲げたがる人について
    高校数学で多くの人がつまずく単元は何ですか - Q&A
    おわりに