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Vol.208 結城浩/フロー・ライティング - 孤独の中で書く/言った!言わない/文章を書くと言うこと/
2016-03-22 07:00220ptVol.208 結城浩/フロー・ライティング - 孤独の中で書く/言った!言わない/文章を書くと言うこと/
結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年3月22日 Vol.208
はじめに
おはようございます。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
天気の変化が激しいですが、 少しずつ春が近づいている感じがしますね。 あたたかくなっていくというのは気持ちがいいものです。
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新刊の話。
『数学ガールの秘密ノート/場合の数』は四月刊行。 先週末に再校ゲラが届いたのでせっせと読んでいます。 現在は一回通し読みが終わり、二回目に入るところ。 今週末に再校読み合わせがあり、 その時点で、原稿に関しては結城の手をほぼ離れます。
毎回思うのですが、初校のときにあった文章のざらざらは、 再校のときにはもうだいぶ取れています。 楽しみながら読み、ときたま出てくる小さなミスに対処する感じですね。 大事なキーワードが二行に渡らないようにする細かい修正も行います。
書影が編集部から届いたら、 サイン本無料プレゼント企画を行い、 書店さん向けのメッセージカードやサイン本作りを行い、 ランディングページを整える予定です。 来月の出版に向けてがんばりますよ!
◆『数学ガールの秘密ノート/場合の数』(結城浩) http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4797387114/hyam-22/
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Web連載の話。
結城は毎週金曜日、cakesで「数学ガールの秘密ノート」 というやさしい数学物語を書いています。 ふだんは、金曜日の朝7:00から24時間、最新号が無料で読めます。
でも、いまは端境期。先日でちょうど150回を迎え、 現在はお休み中。再開するのは4月8日になります。
毎週、数学トークを書き続けるのは楽しい活動なのですが、 なかなか大変な部分もあります。 なので、10週ごとにお休みをいただいているのです。
Web連載は、10回分で一冊の本になるようにスケジュールを組んでいます。 先日終了した第141回〜第150回は「波の広がり」というシーズンでした。 物理的な波の定義から始まり、三角関数の和積公式や、「うなり」を体感したり、 フーリエ係数を計算したり、楽しいシーズンでした。 期間中に実施されたセンター試験でも、たまたま波の問題が出ましたね。
第150回を迎えたので、ストックされた題材は15冊分あります。 そのうち実際に書籍になったのは来月で7冊目。 つまり、まだ8冊分のストックが残っていることになります。 Web連載の方がずっと早いペースで進んでいるので、 さてさてどうしましょうかね。
結城はここ十年近く、数学ガールに出てくるキャラクタの、 楽しい数学トークに耳をすます生活を続けています。 とても豊かで幸せな人生だと感じます。数学は楽しいです。 自分のペースで学び、考える。読んで考え、書いて考える。 もしかしたら、人生最大の楽しみかもしれません。
幸いにして、とても多くの方が、数学ガールを応援してくださっています。 感謝です。結城はその期待に応えるべく、 自分なりにがんばって(でもがんばりすぎないように)いきたいと思います。 あなたの応援が支えです。
現在はWeb連載の新シーズンをどんなテーマにしようか検討中。 どうぞご期待くださいね!
◆Web連載「数学ガールの秘密ノート」 https://bit.ly/girlnote
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NHKの連ドラ「あさが来た」の話。
毎朝「あさが来た」をとても楽しみにしています。 ぜんぜん奇をてらうことがない王道のストーリーで、 たっぷり楽しめて満足できる好例だと思います。 この物語に「悪人」はほとんど出てこない。 みんな「まっとうなこと」を言う。 でも、なぜか目が離せない。楽しめる。 これは、恐らく脚本家の腕ですね。
物語の王道を進みつつも、シリアスあり、コミカルあり、 驚くほどのサスペンスもありと、毎朝15分と思えない充実ぶりである。 家内は「まるで毎日大河ドラマを見ているような」と評していた。
物語の絡みもうまい。 年配の女性の切ない恋物語である「うめさん」の話から、 一つの手鞠がころころ転がって、若者の初恋に繋がっていく。 物語に出てくるエピソードが有機的に絡んでいるのがすごい。
脇役の出し方もうまい。 キャラクタ一人一人がそれぞれ生き生きしていて、 しかもそれぞれにスポットライトが当たる場面がある。 ちゃんとキャラクタがそれぞれの人生を送っている、 生身の人間のように見える。 ご都合主義で動かされている感じがまったくない。
もうすぐ終わりになるけれど、 物語の作り方を学べるようなそんな連ドラですね。
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ほめる・けなすの話。
一般論ですが、何かを「ほめる」とき、 別の何かを「けなす」人がときどきいます。
「Aはいいよね! それに比べてBときたら…」
みたいに。本人はBをけなす意図はなくて、 単に言い方のクセなのかもしれませんが、 そういう発言ばかりだと、印象はあまり良くないと思います。
恐いのは、 言っている本人にその自覚がないということ。 人から言われると不愉快だけれど、 自分が人に不愉快な思いをさせていることに気付かない、 という状況はよくありそうです。
そしてもう一つ恐いのは、大人になると、 こういう発言に忠告してくれる人がいなくなるということ。 ということはフィードバックが掛からない。
結城はふだんネットでよく発言しているから、 フィードバックが掛からないのはとても恐い。 何か忠告してくれる人はほんとうに助かる。
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文章指導の話。
ときどき、新入社員への課題として結城の『数学文章作法』 を読ませているという話を聞きます。 基本的で大事なポイントが押さえられている文庫本なので、 課題として読ませるのにとてもよいとのことです。 ご利用ありがとうございます。
会社であれ学校であれ、 「正確で読みやすい説明文」を書く機会は多いものです。 でも、指導者には「書く内容」のほうを踏み込んで教えていただきたい。 基本中の基本である「読者のことを考える」や「接続詞に注意しよう」 というところから始めるのでは、指導者の時間がちょっともったいないですね。 なので、結城の『数学文章作法』をそういうところで活用していただくのは、 たいへんうれしいことです。
『数学文章作法 推敲編』の第1章は、 DRMなしのPDFで全文読めるようになっています。 登録不要で、もちろん無料です。 こちらからPDFをダウンロードできますので、ぜひご覧ください。
◆『数学文章作法 推敲編』第1章(PDF) http://www.chikumashobo.co.jp/special/yukihiroshi/data/read.pdf
なお、結城の『数学文章作法 推敲編』 Kindle版は、3月末までセールになっています。
◆『数学文章作法 推敲編』 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00UWBR406/hyuki-22/
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では、そんなところで、今週の結城メルマガを始めましょう。
今回は「フロー・ライティング」のコーナーで、
「孤独の中で書く」
という、いつもとちょっと雰囲気の違う文章をお送りします。
どうぞ、ごゆっくりお読みくださいね。
目次
はじめに
フロー・ライティング - 孤独の中で書く
文章を書くということ - 文章を書く心がけ
「言った!言ってない!」が出るのは失敗プロジェクト - 仕事の心がけ
現状に不満を抱いているあなたへ
夜中にふと目が覚めるときがある
おわりに
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Vol.205 結城浩/フロー・ライティング/現代に生きるということ/
2016-03-01 07:00220ptVol.205 結城浩/フロー・ライティング/現代に生きるということ/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年3月1日 Vol.205
はじめに
おはようございます。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
ここしばらく、天気の変化が激しいようです。 寒くなったと思ったら、急に暑くなったり。 雨になったり。
そのせいか、Twitterなどを見ていても、 体調を崩している方がおおいよう。 さらにインフルエンザがやってきています。
どうぞ体調に気を付けてくださいね。
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新刊の話。
四月刊行の『数学ガールの秘密ノート/場合の数』初校ゲラがやってきました。 先日脱稿した文章が大量の紙になって届きます。 いつものようにこれをじっくり読んで修正していくことになります。 まずは頭をリセットして、初校を虚心に読むことが大切。
初校ゲラがやって来るまでのあいだも、 結城はレビューアさんからの指摘を読み、 文章全体を読み返してたくさんの修正をファイルに行っていますので、 その修正を初校ゲラに反映する作業も、 もちろん必要です。
本を書くたびに、
→脱稿→初校→読み合わせ→再校→読み合わせ→
という手順を踏みます。 地道な作業ではありますけれど、 次第に品質が上がっていく文章を読むのは、 なんとも気持ちのいいものなんですよね。
ということで、初校読み合わせまで、 うまずたゆまず進みましょう。
◆『数学ガールの秘密ノート/場合の数』 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4797387114/hyam-22/
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アマゾンの話。
確定申告の関係もあって、 昨年一年の「アマゾンで購入したもの一覧」を眺めていました。 もっとも多く買っているものは本なのですが、 みごとに(?)読んでいませんね。積ん読がたくさんあります。
一年前も同じようなことを考えていた記憶がありますが、 「みっちり精読する本」と「とにかくパラパラめくって終わる本」 のメリハリをつける必要があるのではないでしょうかね。 アマゾンで本の購入ボタンを押して、 読んだ気分になるのはよくないですね。
また、ネット書店で本を買うのもいいけれど、 もっとリアル書店に足を運ぶべきかもしれません。 いいふるされていることですが、 「本との出会い」は確かにリアル書店の方があるように思いますね。
この本を買いたい、この著者の本を読みたい、 のように目的が明確ならネットで本を買うのは便利です。 でも、自分で何を読みたいのかわからないとき、 何か「頭の栄養素」が足りないように感じるとき、 リアル書店は効果があるような気がします。
それはそれとして、改めて思うのですが、 最近の私は、ほんとうにアマゾンをよく利用しています。 本や文具を購入する場所、 それからアフィリエイト、KDPで本を売る場所、 最近だとアマゾンプライムビデオなどもちらちらと利用。
そんな中、アマゾンの個人情報流出に関するWeb記事を見ました。 アマゾンのカスタマーサポート経由で情報が漏れるという話題です。
◆「Amazonの個人情報や購買情報は流出している」はマジでした。 http://d.hatena.ne.jp/canadie/20160125
このブログ記事によると、以下がポイントのようです。
「配送先か住所」+「メールアドレス」+「アマゾンの登録名」
という三点を知っている人(第三者)がいたら、 その第三者はアマゾンのカスタマーサポート経由で、
「荷物の配送先と購買内容」
を知ることが可能であるとのこと。
ということで、アマゾンで使う「メールアドレス」や「アマゾンの登録名」を、 他人が推測できないものにしておくべきでしょうね。
* * *
Dropboxの話。
結城はオンラインストレージ(クラウドストレージ)として、 Dropboxを使っています。主な使用目的は、
・大容量のファイルのバックアップ場所 ・MacとiPhoneで共用するファイルの置き場所 ・編集者に大きなファイルを渡すときの場所
の三点になります。
使い始めのころは最初の二点だけが使用目的だったのですが、 最近は最後の「編集者へのファイル渡し」用に重宝しています。
小さなファイルならメールで問題ないのですが、 大きなファイルでメールはつらい。 Dropboxなら共有リンクを作って、そのURLだけをメールすればいいので楽です。 それから、リンクにパスワードと有効期限を設定しておけるのもいいですね。
万一、送信先をまちがってしまった! というときでも、あわてず共有リンクさえ切ってしまえばいいのです。 共有リンクが無関係な相手に届いても、 ファイルそのものにはアクセスできなくなるからです。 これなら、ファイル自体を添付してメールするより安全です。
現代では、オンラインストレージもいろんな種類があります。 先日「オンラインストレージを徹底比較!」という記事をFacebookで見かけたので、 何気なく読んでいました。
きれいにまとまってるなあ、と思いつつよく見ると、 この記事はDropboxの書いた記事のようです。一見公平な記事のようですが、 微妙にDropboxが優位になるように書かれている(ようにも読めます)。 他のサービス運営さんにも、同じような比較記事を書いてほしいな。
◆おすすめ 3 大オンラインストレージサービスを徹底比較! https://navi.dropbox.jp/online-storage-recommended/
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それでは、今週の結城メルマガを始めましょう。
今回は久しぶりに「フロー・ライティング」のコーナーをお送りします。 先日インタビューを受けたのですが、 そこからインスパイアされた読み物です。
それから「でんでんランディングページ」のカスタマイズの話題も少し。 二年ほど前に書いた「書籍ランディングページの作り方」も再掲しました。
どうぞ、ごゆっくりお読みくださいね。
目次
はじめに
フロー・ライティング - 対話について
ほめられたときには、素直に喜ぼう
でんでんランディングページのカスタマイズ - 本を書く心がけ
現代に生きるということ
おわりに
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Vol.183 結城浩/フロー・ライティング - 世界が変わる第一歩/メンツを守る/エゴサーチ/
2015-09-29 07:00220ptVol.183 結城浩/フロー・ライティング - 世界が変わる第一歩/メンツを守る/エゴサーチ/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2015年9月29日 Vol.183
はじめに
おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
微妙に曇っている天気のときもありますが、 暑すぎず、寒すぎず、いい感じの気候です。
秋ですね。
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ベクトル本の話。
今年の秋に刊行される予定の『数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実』。 現在は出版社から初校が届くのを待っているところ。 おそらく今週の終わりくらいには届くと思います。
それまでの時間、別の仕事に向かうこともできるのですが、 気になる点がいろいろあるので、もう一度全体を読み返しています。 また、レビューアさんから送られてくるレビューメールの反映も再チェック。 毎日ちまちまと文章を直したり、図版を改善したり。あれこれ大忙し。
◆あれこれ作業している様子(イメージ図)
今月どこかのタイミングで、 恒例の無料サイン本プレゼント企画を行いたいと思っていますが、 まだ日程は決まっていません。
毎回思うのですけれど「本を書く」というのは、 「教育・学習」に密接に関係があると思っています。 一つは著者から読者に向けて大切なことを伝えるという意味の教育・学習ですが、 もう一つは著者自身にとっての「教育・学習」です。
自分の知らないことを本に書くことは不可能ですから、 本を書くためには、少なくともその本に書けるほどの深さ・広さで、 ものごとを知っている必要があります。ですよね。 ですから書くことを通して著者は学ぶ。学ばされる。
今回もベクトル本を書きながら、結城はベクトルについて多くを学びました。 数学ガールたちの会話に耳をすませながら、 「なるほど!」と膝を打つことが何度もありました。 数学って、学ぶって、おもしろいですよね!
◆『数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実』 https://bit.ly/girlvector
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そういえば、ジュンク堂池袋本店では「結城浩書店」 というミニコーナーが展開されています。 結城の本はもちろんのこと、結城がオススメする本がずらりと並んでいます。 私の紹介文もありますよ。
もし池袋にいく機会がありましたら、ぜひお立ち寄りくださいね!
少なくとも、2015年9月末までは「結城浩書店」オープンしているそうです。
* * *
忙中閑あり。
結城はiPhoneでパズルゲームをするのが大好きです。 最近は、"Lara Croft GO" というゲームを楽しんでいましたが、 先日全画面コンプリートできました。
◆"Lara Croft GO" Launch Trailer(紹介動画) https://youtu.be/lfaDB9h6StA
上の紹介動画を見ると、アクションゲームみたいに見えるのですが、 まったくそんなことはありません。運や確率は関係なく、 タイミングを狙って操作する必要もありません。反射神経は不要です。 Lara Croft GOは、 純粋に詰め将棋のように一手ずつ進めていく種類のパズルゲームなのです。
詰め将棋と便宜上書きましたが、そんなに複雑でもないし、 難しくもありません。よいゲームに見られるように、 難易度の調整が非常にうまく出来ており、 飽きもせず、行き詰まりもせず、 少しずつ進んでいけるようにできています。
このパズルゲームを解いているとき、 説明文の書き方に通じるところがあると思いました。 新しい要素は同時にたくさん出てこない(ここで伝えたいたった一つのこと)。 必ず一種類ずつ登場する。しかも、初登場のシーンでは、 その特徴がよくわかるようになっている(良質の例題)。 二回目に登場するシーンでは、 その特徴を生かした応用例が出てくる (理解したかどうかを調べる練習問題)。
たとえば「壊れかかった道」という場所がある。 最初は必ずそこを通らせ「二回通ると落ちる」 という情報がユーザにはっきり伝わる。 それは、実際に二回通ると穴に落ちて死ぬからだ。 その情報がヘルプなど見なくてもちゃんと伝わる(良質の例題)。
少し進むと「壊れかかった道」が壁として使われる。 その場面では「二回通ると落ちる」という性質をうまく使い、 「わざと二回通って落ちることによって、先に進む」 ということを自力で発見しなければならない (理解したかどうかを調べる練習問題)。 うまいなあ。
そのようなシーンを積み重ねながら、 ユーザはこのゲームの世界の複雑な成り立ちを、 少しずつ少しずつ理解する。 しかもばらばらの知識が増えるのではなく、 相互関係をつかみつつ。
そうして、次第に解くのが難しいシーンに向かうのだが、 そこでは、ここまで無理なく得た知識を自分なりに組み合わせて解く。 そして、うまく組み合わせれば自然に解ける。 この難易度バランスが絶妙なのである。 思わず「私ってすごい!私ってもしかして賢い?」 と自画自賛しそうになってしまうほどだ。
ということで、この"Lara Croft GO"、 いつのまにかコンプリートしていたのでした。
◆Lara Croft GO http://www.laracroftgo.com
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おもしろかったツイート(@tsujimotter さんによる)。
-------- 「2は素数の中で唯一の偶数」っていうけど、 「3は素数の中で唯一の3の倍数」だし「5は素数の中で唯一の5の倍数」やで。 https://twitter.com/tsujimotter/status/639693716999958528 --------
確かにその通りですね。
「偶数」か「奇数」かという聞き方をすると何だか2が特別な感じがするけれど、 偶数のことを「2の倍数」と表現すれば、
・素数の中で、2は唯一の2の倍数 ・素数の中で、3は唯一の3の倍数 ・素数の中で、5は唯一の5の倍数
といえます。まったくその通り。一般に、
・素数の中で、pは唯一のpの倍数
ですね!
* * *
素数といえば、中学生のころ、こんなことを考えた。
出席番号が素数の人を考えよう。 素数なら2番でも11番でもいいけれど、その出席番号をpとする。
最初の番号1番から順にn人ずつのグループを作ることにする(nは2以上の整数)。 たとえば、n = 4なら、
1 2 3 4 で一グループ、 5 6 7 8 で一グループ、 9 10 11 12 で一グループ、 ...
という具合。
ここで「出席番号p番の人」と「出席番号p+1番の人」が、 別のグループにわかれてしまうのは、 「p人ずつのグループを作った場合」(つまり n = p の場合)だけである。 それ以外の場合、p番の人とp+1番の人は、必ず同じグループになる。
たとえば、p = 5として、5番の人と6番の人は、 ほとんど必ず同じグループになります。5番と6番がわかれるのは、 「5人ずつのグループ」でわけたときだけ。
子供心に「おお!」と思ったのをよく記憶しています。
* * *
「同じ」について。
Webサービスなどで 「住所は全角文字で入力してください」と強制されるときがある。 つまり(メルマガで区別つくかわからないけれど)、 「3」じゃなくて「3」にせよということである。 プログラムを書いたことがあると、こういう強制は理不尽だと感じる。 なぜなら、ユーザに強制しなくても、 プログラムで自動的にどちらかに統一することは容易だからだ。
入力する形式を統一させたくなるのは理解できる。 同一のものを表す方法が複数あるとトラブルになりやすいからだ。 たとえば、あるデータの所番地が「3丁目(半角)」と書かれていて、 別のデータの所番地が「3丁目(全角)」と書かれているために、 同一の所番地と判断できなくなってしまうことが起きる。 だから、同一のものは形式も同一に揃えておき、 毎回必ず同じ表現になるようにするほうがいい。
『数学文章作法』にも書いたけれど、 文章を書くときの用語の選び方でも同じことがいえる。 同一の概念を表す用語が何通りもあると、 読者は「この用語とあの用語は同じ概念を表しているのか?」と迷うことになる。 これは困る。用語統一は大事な作業だ。
ところがおもしろいことに、説明文を書くときには 「同一のものを複数の方法で説明する」のが有効である。 用語は同一のものを使うのだけれど、 インフォーマルに説明してからフォーマルに説明する。あるいは、 図で見せてから文章で解説する。そのようにした方が理解が深まる。
同一のものを複数の方法で説明されると、 読者は自分の理解を確認し、 別の角度から同じものをとらえ直すことができる。これで理解が深まる。 それが成り立つのは「別な表現方法を使っているけれど、 これらは同じものを表現している」と読者がわかって読むからだろう。
ところが、二つのものが同じかどうかの判定方法がその表現だけだとつらい。 表現が一致すれば同じもの、表現が少しでも違えば別のもの。 そういう状況の場合には、同じものに別の表現をされてしまっては、 トラブルになるわけだ。それは当たり前のことである。
同じかどうかを判定するためには、判定の基準を定めなければならない。 言い換えると「いかなる意味でこの二つは同じなのか」を明確にするということ。 これは簡単なようで、とても難しい。 たとえば、「3丁目4番5号」と「3-4-5」とは同じか。 所番地だという情報があれば同じといえるかもしれない。
なぜこんなありきたりのことをくどくど書いているかというと、 ちょうどいま書いている『数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実』で、 同値関係を決めるという話題を校正しているからである。
「こっちのベクトルと、あっちのベクトルは同じだ」
「こっち、あっちと場所が違うのに、なぜ同じ?」
「同じ」とはどういうことかを定めることは、難しいけれど大事なことである。
* * *
結城はプログラムや原稿ファイルのバージョン管理にgit(ギット) というバージョン管理ソフトウェアを使っています。 先日、GitHubやBitbucketのようなサービスを利用するのではなく、 自分所有のサーバにリポジトリを作る方法を調べていました。
検索しているうちに、 Pro Gitという参考書がまるまる一冊Webで公開されており、 その日本語訳も作られているのを見つけました。
◆Pro Git https://git-scm.com/book/ja/v2
調べたことをブログにまとめ、このWebサイトをTwitterで紹介したら、 このPro Git日本語訳をメンテしている方(@harupong さん) から「Pro Gitのご紹介ありがとうございます!」 とのリプライをいただきました。驚きです。
https://twitter.com/harupong/status/640471344337956865
この方は結城の『数学文章作法』の読者さんとのこと。 「訳文に迷ったときはいつも数学文章作法に助けてもらっています」 などと言っていただき、感激です。
こういうやりとりって、すごく嬉しいですね!
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ツイートでのやりとりといえば。
先日、Twitterで、著名な数学者のSteven Strogatz氏が"Math Girls" に興味を持ったというツイートをなさっていました。 緊張しつつリプライしたところ、 "congratulations - it sounds like a wonderful series of books!" という応援メッセージまでいただきました。
(スクリーンキャプチャ)
https://twitter.com/hyuki/status/641218043863937024
たいへんうれしいできごとでした。 さっと紹介できるように、英語版のWebページを作っておいてよかったです。
◆数学ガールの英語ページ http://www.hyuki.com/girl/en.html
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ベクトル本、先週は毎日一章ずつ見直していました。 積み残しもあるけれど、毎日一章というのはよいペースでした。
ばりばりと読んでばりばりと直す作業。 仕事が与えられているというのは、ほんとうに感謝なことです。 いつも喜び、たえず祈り、すべてに感謝して歩みましょう。
原稿に向かっていないときは「あそこが弱い」や、 「こっちも書けていない」という不安がよぎるものです。 でも、いったん原稿に向かって読んでいくと、 おもしろくてどんどん先に進んでしまいます。 これは原稿を直しているといつも起きる現象です。 不思議なものですね。
日曜日の夜に「明日は月曜日か〜」 といって憂鬱になる人は多いと思いますが、 いったん月曜日になり、火曜日を迎えると何とか過ごせるもの。 これもまた、いったんいつもの仕事に向かえば、 普通に進むことができるという同じ現象かもしれませんね。
だから、ぼんやりとした不安と戦ってはいけないのかもしれません。 「対処できる問題は何かを見つけること」 それから「対処方法を考えること」に力を注ぐ。 しっかり判断、淡々と実行。 自分の最善を尽くしたならば、安心して休息を取る。 それがいいのではないだろうか。
仕事にきちんと向かわず、 ぼんやりとした不安に無理矢理対処しようとすると、 労力は分散されるし、進捗も明確じゃないし、 残っている作業もよくわからない。 それでは不安も消えることはあるまい。
疲れているときや不安になっているときは、 自分の「できなかった部分」や「できていない部分」 に心が行きがちである。 「あれもこれもできてない……」ってね。
けれども、しっかりと「できた部分」にも目を向ける。 自分に正当な評価を与えた方がいい。 具体的には「自分をほめる」ということです。 特に「自分はだめだ」とばかり考えている人は、 もっともっと、自分をほめてもいいと思うのですよ。
あなたはどう思いますか。
* * *
それでは今週の結城メルマガを始めます。 今回は「フロー・ライティング」のコーナーで、
「世界が変わる第一歩」
という文章をお送りします。
どうぞごゆっくりお楽しみください!
目次
はじめに
フロー・ライティング - 世界が変わる第一歩
メンツを守る
エゴサーチで傷つかないか - Q&A
おわりに
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Vol.181 結城浩/フロー・ライティング/「ぼやき系」と感謝の言葉/文章の「読み返し」/
2015-09-15 07:00220ptVol.181 結城浩/フロー・ライティング/「ぼやき系」と感謝の言葉/文章の「読み返し」/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2015年9月15日 Vol.181
はじめに
おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
* * *
電子書籍の話。
編集部より連絡があり、 『暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス』の《電子書籍版》が、 今週末までには配信開始になるとのことです。
最速で配信となるのはおそらくKindle版で、 他の電子書籍ストアからも順次配信開始になるはずです。 たいへんお待たせして申し訳ありません。
なお、『暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス』の電子書籍版は、 図版が多い関係でリフロー型ではなく、固定レイアウト型になります。 ご了承ください。ご購入の前には、 必ず無料のサンプル版で使用感をお確かめくださいますようお願いします。
電子書籍も応援してくださいね!
◆『暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス』 (まだ電子書籍へのリンクはありません) http://cr.textfile.org/
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電子書籍といえば……
Knuth先生の古典的名著である The Art of Computer Programming(日本語版)が達人出版会で購入できますね(PDF)。
◆Vol.1 http://tatsu-zine.com/books/taocp-vol1
◆Vol.2 http://tatsu-zine.com/books/taocp-vol2
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秘密ノートの話。
現在結城は『数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実』のラストスパート。 今週中にはいったん脱稿となりますが、 この秋刊行へ向けてびしばしと校正を進めていくことになります。
◆『数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実』 https://bit.ly/girlvector
もう少し先になりますが、 恒例のサイン本プレゼント企画も進めていきたいと思います。 ご期待くださいね!
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「結城浩ニュースレター」の話。
「結城浩ニュースレター」というのは、 結城浩の活動を短いメールでお知らせするという無料サービスです。 現在、おおよそ400名の方が登録してくださっています。
結城メルマガのように読み物が掲載されているわけではありません。 結城が関わっているWebページを案内するようなイメージですね。 もしも登録がまだでしたら、ぜひあなたも! 月に一回、多くても二回の頻度ですので、邪魔にはならないと思います。
◆結城浩ニュースレター http://www.hyuki.com/newsletter/
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「結城浩書店」の話。
ジュンク堂池袋本店で「結城浩書店」が開店しています。
これは、『暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス』 刊行を記念して行っているジュンク堂さんの企画で、 結城浩の著作と、結城の推薦書籍を並べて「本屋さん」にしちゃうというもの。 私からの推薦文や紹介文もあります!
この企画、少なくとも9月いっぱいは続くという話ですので、 池袋にいらした方はぜひジュンク堂池袋本店へも!
◆ジュンク堂池袋本店/PC書さんのツイート https://twitter.com/junkudo_ike_pc/status/638524441194967040
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「なりすまし」の話。
先日からTwitterで pyadyshev_super というアカウントが、 結城浩の「なりすまし」として動いています。 「結城浩」の名前とアイコンを丸ごとコピーして、 おそらく機械的に動いているようです。
この「なりすまし」アカウントは、 結城のフォロワーさんに向かってフォローを行い、 結城からのフォローだと誤認させ、 フォローバックされることをねらっているような動きをしています。 誤ってフォローしたりしないようにご注意ください。
◆結城浩の「なりすまし」アカウント(スクリーンショット)
「他人のアカウントをコピーし、そのフォロワーをフォローしまくる」 という行為の目的ははっきりとわかりません。 フォローバックすることでフォロワー数を増やし、 増えたところでそのアカウントを他人に売るのかもしれません。 また、もしかすると「よく考えずにフォローバックしてくれるユーザ」 を探している可能性もあります。
ちなみにこちらの「結城浩bot」は「なりすまし」ではなく、 結城が管理しているツイートbotです。
◆結城浩bot(なりすましではありません) https://twitter.com/hyukibot
* * *
それでは今週の結城メルマガを始めます。 今回は「フロー・ライティング」のコーナーで、
「文章で、何を書くのか」
についてお話しします。説明文の話ではなく、 「何でも好きなことを書いていいよ」と言われたら、 何を書くかという話題です。
どうぞごゆっくりお楽しみください!
目次
はじめに
フロー・ライティング - 文章で、何を書くのか
「ぼやき系」と感謝の言葉 - 仕事の心がけ
文章の「読み返し」をどうするか - 文章を書く心がけ
勝負はいつも時間で決まる
おわりに
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Vol.173 結城浩/フロー・ライティング - 伝えるトーン、伝わるトーン/Q&A - 誰も話を聞いてくれない/
2015-07-21 07:00220ptVol.173 結城浩/フロー・ライティング - 伝えるトーン、伝わるトーン/Q&A - 誰も話を聞いてくれない/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2015年7月21日 Vol.173
はじめに
おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
* * *
来月刊行の新刊の話。
今回の結城メルマガが配信されるのは火曜日ですが、 火曜日の夜は『暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス』の初校読み合わせで、 編集部に行くことになっています。
◆『暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス』 http://www.hyuki.com/cr/
最近はずっとこの暗号本の校正をしているので、少し内容紹介をさせてください。 そもそも第1版の『暗号技術入門』が出たのは2003年。 ということは、いまから12年も前のことですね。 時の流れでめまいがしますが、 こういう技術書で12年も改版を続けて愛読されているというのは、 まったく光栄なことですね。
『暗号技術入門』では、現代の人が知っておくべき暗号技術として 「暗号学者の道具箱」を紹介しています。具体的には、
(1)対称暗号 (2)公開鍵暗号 (3)一方向ハッシュ関数 (4)メッセージ認証コード (5)デジタル署名 (6)擬似乱数生成器
の六個です。
「暗号学者の道具箱」という表現は、古典的な暗号本"Applied Cryptography" の著者であるシュナイアーの表現ですが、現在でも有効な概念だと思います。 これだけ理解して十分とは言えないけれど、 これを知らないで暗号技術は語れないという基本中の基本になります。
そもそも暗号技術は難しいものですし、 きちんと学ぶためには多くの数学的知識が必要です。 しかし、暗号技術の基本を理解するだけならば、 それほど数学を知らなくても大丈夫です。 結城の『暗号技術入門』ではそれに挑戦すべく、 数式をできるだけ使わず、その代わりに図を多用して解説を組み立てています。
暗号技術を学ぶ上で大事なことは、 暗号技術の「相互関係」を理解することです。 ネットでニュースをちらちら見ていると、 暗号やセキュリティに関わるニュースは毎日のようにたくさん流れています。 しかし、基礎を知らずに個々の事象を追いかけても理解は深まりません。 何だか難しいな、で終わってしまう。
拙著『暗号技術入門』で解説している「暗号学者の道具箱」 という基本を一度理解すると、 ニュースに流れている個々の事象に対して、
「ははーん。これは機密性の問題か」
あるいは、
「なるほど。これは予測可能なビット列の問題だ」
のように理解できるようになります。
暗号技術は、個々の技術だけで成り立っているのではなく、 たくさんの技術が絡み合って作られています。 しかも、ニュースなどでは情報が歪曲されて報じられることもあります。 ですから一度、基本を頭に入れておくことはとても大事なのです。
結城が書いた『暗号技術入門 秘密の国のアリス』は2003年に第1版が刊行され、 その後、新版というタイトルで2008年に第2版が刊行されました。 それから7年が過ぎ、情報をアップデートすると共に、 新たなトピックも盛り込んだ「第3版」を出すことになりました。 それが来月刊行となる結城の最新刊です。
本書『暗号技術入門』は、2003年の刊行以来、 セキュリティを学ぶ人の第一歩として読者さんに喜ばれてきました。 最近はセキュリティに関する試験を受ける方の定番本として、 特に人気を博していたようです。感謝です。
第2版(2008年の新版)では、対称暗号の新標準である AESのコンペについて加筆がなされました。 そして今回の第3版(2015年8月刊行)では、 一方向ハッシュ関数の新標準であるSHA-3のコンペが重要な加筆のひとつとなります。
主な加筆内容としては、 新標準となるSHA-3のコンペティションとKeccakのアルゴリズム紹介、 仮想通貨ビットコインの技術的内容とその意味。 それから、短いビット長で高い機密性を保つ楕円曲線暗号の概要紹介、 さらに近年のニュースで話題になった、POODLE, Superfish, FREAK, HeartBleedといったインシデントに関するやさしい技術解説。 さらに、分量はそれほど多くありませんが、 GCM, RSA-OAEP, RSA-PSS, 認証付き暗号やID暗号など、 これからの暗号技術に関わる内容もコラムとして紹介しています。
といっても、専門家向けonlyというわけでもありませんし、 技術者しか読めない本でもありません。 先日カンバーバッチ主演で話題になった映画 『イミテーション・ゲーム』がありましたが、 あそこに登場する「エニグマ」という暗号機械に関する話題も書かれており、 非技術者でも十分楽しめます。
ドイツ軍が使っていた「エニグマ」の暗号方式は、おもしろいことに、 私たちが毎日使っているSSLの暗号方式に通じるところがあるのです。 つまり「歴史を歴史として学ぶ」だけではなく、 「歴史を現代に通じる道」として学ぶことができる。 これはわくわくする物語です。
暗号といえば有名なのが、 エドガー・アラン・ポーの『黄金虫』という名作ですが、 あそこで使われている暗号をどのようにして解くかという話題も登場します。
「エニグマ」や「黄金虫」などの歴史的な暗号から、 現代のビットコインや楕円曲線暗号に至るまでを楽しく一望できる一冊ですので、 どうぞご期待&応援ください!
◆『暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス』現在予約受付中! http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4797382228/hyuki-22/
* * *
理系マンガ紹介。
実はまだ(2)しか読んでいないのですが、 おもしろいはずなのでフライングして紹介します。
◆『決してマネしないでください。(1)』(蛇蔵) http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00R2OALNI/hyam-22/
◆『決してマネしないでください。(2)』(蛇蔵) http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00ZERPNWY/hyam-22/
科学者や技術者がどんなことを考えているか、 理系的なくすぐりネタと合わせ、 また歴史的なおもしろトピックと合わせて紹介しているマンガです。
コミックなのでおふざけ部分もあるのですが、 全体的にいい感じに整えられていて、読んでも不愉快な部分がありません。 楽しく読むことができました。
* * *
マネジメントの話。
先日、以下のブログ記事を読みました。
◆エンジニア35才定年説に挑戦する http://www.fringe81.com/blog/?p=1937
この会社では「プロパー社員エンジニアはコードだけ書く。 派遣/契約エンジニアが社員をマネジメントする」 ということをやっているようです。マネジメントはやりたくない、 技術的なことをずっとやっていきたいというエンジニアは多いので、 これは一つの試みとして興味深いと思いました。
「常識的ではない」とはいえるのですが、 「プロパー社員の方が派遣社員よりも偉いから、 マネジメントはプロパー社員側が行わなければならない」 というような思い込みさえ捨てれば、妥当性があるとわかります。 もちろん、うまく行くかどうかはわかりませんが。
話は少しずれるのですが、 結城もたまに「上司」を雇いたくなることがあります。 つまり結城の行動に指示を出したり、評価を下したり、 注意を促したりする存在が欲しくなるのですね。 いや、欲しくはないか。必要性を感じることがある、 くらいですかね、正確にいうと。
「上司」を雇った場合、その上司に給料を払うのは結城になります。 お金を払って指示をしてもらうというのは 変な話に聞こえるかもしれませんが、 一人で仕事をしていると、その必要性を感じるのです。
たとえば、自分がどうもサボりがちになったとき、 他の人の目をちょっと意識するだけで本来の行動に戻るものです。 結城がカフェで仕事をするのが好きな理由の一つがそれです。 家だとついついだらだら…と寝転びたくなるのですが、 カフェだとそうは行かない。
毎日(結城が何をしているかちゃんと把握している)上司に、 「今日はこれこれの仕事をしました」と報告しなくてはならないとしたら、 ぐっと身の引き締まる毎日になるのではないかな、と思います。
結城は毎日、TumblrやTwitterで自分の活動を書き込んでいるのは、 擬似的にそれに近い状況を作りたいからかもしれませんね。 パブリックに「今日はこれをがんばろう」と一言でも書いてしまうと、 その力によって行動が導かれる。そんなこともあるのです。
あなたに「上司」はいますか。
その「上司」はうまく機能していますか。
* * *
物書きについて。
物書きを評価したかったら、初めの一文で評価すればいい。 初めの一段落で、初めの一章で評価すればいい。
物書きは、すべての言葉で勝負している。 どこを切り取ってくださっても結構。 どこを捨ててくださっても結構。 すべての言葉で勝負する。それが、物書きの心意気だ。
読者を批判するのは意味がない。読者が誤読したとしたら、 読者にそう読ませてしまったのは書き手の責任であると思っている。 もちろん、読者の読み方が悪いことだって実際にはあるだろうけれど、 そこで読者を批判するのは書き手として筋が悪い。
そんなふうに思っている。
* * *
Web連載の話。
結城は毎週金曜日にWeb連載「数学ガールの秘密ノート」を更新しています。
◆Web連載「数学ガールの秘密ノート」 https://cakes.mu/series/339
先日から始まったのは「やさしい統計」というシーズン。 今週の金曜日で第4回目となります。 いまは「分散」という概念について彼女たちがあれこれ議論しているところ。
結城は数学読み物を書くのが好きです。 このWeb連載も毎週楽しく書いています。 何が楽しいかというと、 私自身が書いている中でたくさんのことを学ぶからです。
「数学ガールの秘密ノート」シリーズは、 「数学ガール」シリーズに比べるとずっとやさしい内容を扱っています。 何ヶ月も調べなければ私が理解できないような話は扱っていません。
でも、だからといって、 自分が知っていることをちょいちょいと書いて、 それで終わりにしているわけでもありません(当然ながら)。
毎回、何かしらの「発見」を求めて考えつつ書いています。 これまでにも何度も書いていますが、その発見は、 登場人物たちの素朴な疑問に端を発することが多いですね。
数学の概念ひとつとっても「ところで、この概念は、 ほんとうのところ、何を意味しているんだろう」と問うと、 深い洞察へと導かれるものです。
たとえば「平均値」。 平均値はたくさんの数値をある意味で「平らに均した値」になりますが、 それはいったいどんな意味を持つのか。 あるいはまた「分散」。分散は、たくさんの数値が、 平均値からどれだけずれているか(偏差)を二乗したものを、 平均した値ですが、それはどんな意味を持つのか。
「分散」は、ある意味で「散らばり」を表しているけれど、 「散らばり」を知ることはいったいどんな意味を持つのか。 何の役に立つのか。
このような問いに答えることは、単に定義を暗記することや、 具体的な計算を行うこととは違う思考を必要とします。 定義の暗記や具体的な計算はとても大事です。 でもそこからさらに一歩進んで、
ということは、もしかして、 こんな意味が生まれるのではあるまいか!
という段階にたどり着けたなら、 どれほど大きな喜びがあるでしょう。 そのとき、無味乾燥に見えた定義や、 ややこしいだけに感じられた計算がいきいきと輝き出す。 そんなふうに思えませんか。
必ずしも毎回成功しているかどうかはわかりませんが、 結城がWeb連載を書くときには毎週、 その段階に至れるようになりたいと思いつつ執筆をしています。 時間的な制約があるので、ときに荒削りのままになりますが、 結城自身が感じている大きな喜びを、 読者さんに伝えられたらうれしいと思いながら書いています。 そして書籍化の段階ではさらにブラッシュアップする。
Web連載は次回で早くも124回になります。
これからも応援よろしくお願いします!
* * *
書籍化準備と数学的図版の話。
そして「数学ガールの秘密ノート」シリーズの次なる書籍化は、
『数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実』
となりました。サブタイトルの通り、ベクトルがテーマとなります。
ベクトルは、三角関数同様に高校生が苦手とする分野のひとつでもあります。 矢印なので一見わかりやすそうに思えるのですが、 抽象的な「何か」が邪魔をして、問題を解くのが難しいことが多いのです。
『数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実』は、 今年の秋(もうすぐですね……)に刊行の予定です。
先日は書籍で使う図版を作成していました。 Web連載時にはカラーのPNGで作っていた画像ファイルを、 モノクロのEPSで作り直す作業です。
『数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実』の図版は、 大きく分けて次の二種類があります。
・OmniGraffle Professionalで作ったもの ・TikZで作ったもの
OmniGraffle Professionalというのは、 いわゆるドローツールですね。 説明図の線画を作るのには欠かせないソフトです。 WindowsではVisioに近いツールです。 これは、自分のイメージに近い画像を作るのに非常に手軽です。
TikZというのは、LaTeXのパッケージとして提供されているもので、 TikZとして定義されている言語を用いて、 数学的な図形を描くものです。座標値を自動的に計算させたり、 グラフを描いたりするときに重宝します。 マニュアルも非常に充実していて使いやすいのですが、 使い慣れるまではイメージした通りの図形を作るのは難しいですね。
TikZでどんな図形が描けるかは、 以下のExamplesをごらんください。
◆TikZ and PGF examples http://www.texample.net/tikz/examples/
TikZで記述した図形は普通の文書になるのですが、 結城は図形を「ひとつの図版」として作りたいので、 TeX2imgというツールを使っています。
◆TeX2img 配布サイト http://island.geocities.jp/loveinequality/
TikZ + TeX2imgで数学的な図版を作るのはたいへん楽になりました。
* * *
ガロア理論の話。
先日、小学二年生が数学検定準一級に受かったことが話題になっていました。 結城はTV報道を直接見てはいないのですが、 その少年はテレビに写っていたときに、 『数学ガール/ガロア理論』を手にしていたようですね。 結城の本を読んでいただいたようで、うれしいです。
◆『数学ガール/ガロア理論』 http://www.hyuki.com/girl/galois.html
小学生に限らず、数学に興味を持ち、難しい概念を理解し、 問題も解いていく人が増えるというのは楽しいことです。
少年が「五次以上の次数の方程式が……」と正しく説明していたのに、 ニュースの字幕では「50以上の実数の方程式が……」 と書かれていたことも話題になっていましたね。 五次ではなく誤字か。
そういえば、@tsujimotter さんが、 わかりやすいスライドを公開していたのでぜひごらんください。
◆五次方程式は、なぜ解けないのか? https://codeiq.jp/magazine/2015/07/25424/
* * *
数学は音楽と同じである。 それを専門にする人は血のにじむような努力と、 気が遠くなるような過酷な競争にさらされる。 でも、それとはまったく関係なく、 誰でも、自分のペースでのどかに楽しんだり、 味わったりできる。
結城は数学の専門家ではないけれど、 数学の楽しさや美しさのほんの一端を知っている。 自分の出来る限りのことは読者さんに伝えたい。 たとえ、数学の専門家には当たり前のことでも。 数学に詳しい人には自明のことでも。
* * *
「わかりやすい説明」の話。
「わかりやすい説明」を論じるときには、 「誰にとって?」という視点を忘れないことが大切です。
すでに持っている知識や、考え方のパターンや、 その説明を聞いて何をしたいのかは人によって違いますので、 どんな説明が「わかりやすい説明」なのかは、人によって変わるものです。
説明者が「説明する内容」をよく理解していることはもちろん必要です。 さらにいえば、何が大事なことで何が細かいことかという「重要度の違い」 を把握することも必要になるでしょう。 そしてもう一歩踏み込むなら「理解しやすいことが何で、理解しにくいことが何か」 まで把握していたらすばらしいですね。
理解しやすくて大事なことは説明すればいいし、 理解しにくくて細かいことは省けばいい。 ポイントは「理解しにくいけれど大事なこと」をどう説明するか。 そこが腕の見せどころでしょう。 「理解しやすいけど細かいこと」ばかり説明していると、 紙数稼ぎと思われるかもしれませんね。
……という話は『数学文章作法 執筆編』に出てくるような話題なのですが、 最近、執筆が停滞していますな……
* * *
外国人の話。
先日、新宿を歩いていたら、交差点でドイツの人っぽい家族四人が困っていた。 結城が信号待ちをしながら見ていると、 男性(お父さん)がiPhoneを使って地図検索してる。 でもなかなか見つからず時間が掛かってる様子。 奥さんはそれを心配そうに見てる。 そばで男の子たちが軽くパンチしあって遊んでる。 なかなか目的地は見つからない。
息子1が「日本暑いな!」みたいなことを言う。 息子2が「涼しいとこ行こうよ!」みたいなことを言う (ドイツ語らしいので正確にはわからない)。
男性は無言で検索。奥さんは心配げ。 結城はつい「何かお手伝いしましょうか?」と言う。
「あらあらありがとう。でも大丈夫」と奥さんが言う。 「すぐ見つかるさ」と男性が言う。 信号が青になる。結城が道路を渡って振り返ると、 家族は動き出していた。行き先が見つかったらしい。 よかった。
地図を開いて困っている外国人はヘルプしやすい。
「私たちはいまここにいる」 「この道路はここです」
と教えられるから。 海外旅行中の人は、ちょっとしたことでも大きな助けになるので、 できるだけ声をかけたい。たとえ断られても、 「困っていると、日本人は声をかけてくれる」 と伝わるだけでもいいのではないか、と思う。
発音なんか気にしなくていい。 何かできることがあるかもしれない。 無理しなくてもいいけれど、すぐ近くに困っている外国人がいたら、 できるだけは助けてあげたい。
何年か前、ヨーロッパ行ったときに、 駅でたまたまクレジットカードしかなくて、 時間がなくて、自販機で切符買う方法がわからなくて、 だいたい18歳くらいの痩せて青い帽子をかぶった通りがかりのお兄ちゃんが、 いっしょに四苦八苦してくれたのを思い出す。 そのお兄ちゃんもクレジットカードの使い方はわからなくて、 最後には何とお金を立て替えて切符買ってくれた(!)。
電車の乗り方ひとつ、切符の買い方ひとつでも、海外の人は戸惑うもの。 ちょっとしたことも大きな助けになる。 声をかけるのは抵抗あるものだけれど、できるだけ助けになりたい。
Can I help you? What can I do for you?
を受験で覚えたのは、そういうときのためじゃないか。
* * *
さて、それでは今週の結城メルマガを始めましょう。
今回は、「フロー・ライティング」のコーナーで、
「伝えるトーン、伝わるトーン」
というお話をします。今回はどちらかというと、 スタンダードな文章の書き方の話になりました。 ふだん文章を書いている人にとってはあたりまえのことかもしれませんが、
・「文章のトーン」とは何か ・「文章のトーン」がどのように生まれるか ・「文章のトーン」をどのように作るか
という話題をお届けします。
それから久しぶりの「Q&A」コーナーでは、 「誰も話を聞いてくれない」という質問(?)にお答えします。
どうぞお楽しみください!
目次
はじめに
フロー・ライティング - 伝えるトーン、伝わるトーン
Q&A - 誰も話を聞いてくれない
おわりに
-
Vol.169 結城浩/フロー・ライティング - 「作業としての執筆」と「夢中になれる執筆」と/数学文章作法のスケッチ/
2015-06-23 07:00220ptVol.169 結城浩/フロー・ライティング - 「作業としての執筆」と「夢中になれる執筆」と/数学文章作法のスケッチ/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2015年6月23日 Vol.169
はじめに
おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
* * *
新刊の話。
もう少しで、
『第3版 暗号技術入門 秘密の国のアリス』(2015年)
が刊行されます。これは結城が以前刊行した、
『新版 暗号技術入門 秘密の国のアリス』(2008年)
の大幅な改訂版となります。第3版が出ることで、 「新版」の方が古くなってしまいましたが、 今度刊行される「第3版」の方が新しいものです。 ややこしくてごめんなさい。
これで『暗号技術入門』の大きな改訂は二回目になります。
2003年『暗号技術入門』 2008年『新版 暗号技術入門』 2015年『第3版 暗号技術入門』
本書は、たいへんありがたいことに、 暗号技術の入門書として多くの方に親しまれてきました。
暗号というとスパイやアングラなイメージを持つ方もいるかもしれませんが、 現代のネットを支えているのはまさに本書に登場するような暗号技術です。 URLが http: ではなく https: で始まるとき、 本書にも登場する暗号技術の一つ SSL/TLS が使われます。 ネットで買い物をするとき、この恩恵を受けない人はいません。
暗号技術は非常に重要なのですが、複数の技術が絡み合っているため、 Webで個々のニュースや細かい解説を読んでも全体像はなかなか見えません。 本書を読むと大ざっぱ過ぎず、細かすぎず、 暗号技術の全体像がつかめるはずです。
本書は、セキュリティの資格を取る人の一冊目として読まれるだけではなく、 技術的な読み物として一般の人にも広く読まれてきました。 今回の第3版では、これまでの基本構成はそのままに、 情報をアップデートし、新しいトピックも追加しました。
刊行は2015年の8月/9月ころになる予定です。 あと二ヶ月くらいありますが、どうぞご期待くださいね。
詳細は、
『第3版 暗号技術入門 秘密の国のアリス』 http://www.hyuki.com/cr/
のWebページを参照してください。
また、今回の「フロー・ライティング」では、 今回の改訂作業にまつわるエピソードをお話しします。
* * *
コーヒーの話。
先日、非常にめずらしく一晩中眠れないというときがありました。
次の日も一日中ふつうに活動できたので、 もしかしたら知らないうちにうとうとしていたのかもしれませんが、 少なくとも主観的には一晩中起きていたのです。
原因はたぶんコーヒーの飲み過ぎ。 前の日、朝昼晩夕夜とコーヒーを飲み過ぎました。
結城はふだん、寝付きが非常に良い方です。 横になるとすぐに眠れます。眠れないときでも、 頭の中で適当な計算をしたり、 プログラムや数式のことを考えるといつのまにか眠っています。
しかし、眠れなかったその夜はつらかった。 眠れないというのはほんとうに苦しいものですね。 なんというんでしょうか、中途半端なところに吊されている感じ。 ちゅうぶらりんです。
しっかり目覚めていれば、 起きて仕事をしたり本を読んだりして、 それなりに時間を過ごせる。 逆に眠気がやってくれば、それこそ素直に眠ればいい。 でも「眠れない」という状況はそのちょうど中間です。 起きることも眠ることもできなくて、 何もできないまま時間が(ゆっくり)過ぎるのを待つ。 これは苦痛でした。
なので、次の日からコーヒーの摂取量には十分注意して、 飲み過ぎないようにしています。 コーヒーを飲むと頭がしゃんとして仕事もはかどるので、 つい調子にのって飲み過ぎたんですね。
注意注意。
* * *
英語の話。
三重大学の奥村先生が、2012年にノーベル経済学賞を受賞した Lloyd S. Shapleyの論文(1962年)をお薦めしていました。 タイトルは College Admission and the Stability of Marriage (大学選抜と結婚の安定性)というもの。 数式もなく、予備知識も要らず、 短くて高校生でも読めるけれど応用範囲が広いとのこと。
◆College Admission and the Stability of Marriage http://www.eecs.harvard.edu/cs286r/courses/fall09/papers/galeshapley.pdf
大学選抜はさておき「結婚の安定性」というのは、 初めて聞いた人には聞き捨てならない用語に思えるかもしれませんね。
これは、たとえば男性A,B,Cと女性a,b,cがいて、 男性と女性で結婚するようなシチュエーションを想定しています。 男性と女性にはそれぞれパートナーに対する好みがあるので、 「あの人よりはこちらの人がいい」という状況になります。 でも、いくら自分が好きでも、相手は別の人の方が好きかもしれませんよね。
いざ結婚したときに、
・男性Aが「妻のaより、bの方が好き」 ・女性bが「夫のBより、Aの方が好き」
という状態というのは「不安定な結婚」といえるでしょう。
上の論文では、「不安定な結婚」の部分の説明はこうなっています。
... there are a man and a woman who are not married to each other but prefer each other to their actual mates.
確かに「男性Aは結婚相手aより好きな女性bがいて、 しかもその女性bも結婚相手BよりAの方が好き」 ということになったら、結婚は不安定になりそうです(苦笑)。 さてこのような「不安定な結婚」を防ぐ方法はあるのでしょうか。 これは現在では有名なアルゴリズムとなっています。
こういう問題は結婚や大学選抜に限らず、 マッチングを行う場面でたくさん応用がありそうですね。
* * *
さて、それでは今週の結城メルマガを始めます。
今回は、フロー・ライティングのコーナーで、
「作業としての執筆」と「夢中になれる執筆」と
という読み物をお送りします。 先ほども書いた「書籍の改訂作業」に関連したお話です。 文章を書く人には思い当たる部分も多いかもしれない話題です。
では、どうぞごゆっくりお読みください!
目次
はじめに
フロー・ライティング - 「作業としての執筆」と「夢中になれる執筆」と
ゲームと文章 - 文章を書く心がけ
数学文章作法のスケッチ(11) - 文章を書くときに二番目に大切なこと
おわりに
-
Vol.165 結城浩/フロー・ライティング - メタな視点と講演準備/複雑さと戦う/学ぶことは楽しい/
2015-05-26 07:00220ptVol.165 結城浩/フロー・ライティング - メタな視点と講演準備/複雑さと戦う/学ぶことは楽しい/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2015年5月26日 Vol.165
はじめに
おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
* * *
ソフトの話。
MacBookを使っています。 先日導入したPopClipというソフトがたいへん便利なのでお薦めします。
Macを使っていて、たとえばブラウザの上で「テキスト範囲選択」しますよね。 範囲選択が終わるとすぐにその上に「カット|コピー|ペースト」 というメニューがポップアップ表示されるのです。 これはちょうど、iPhoneで指で範囲指定したときとそっくりなUIになるのです。
これまでだったら範囲選択した後、Command + Cを使ってコピーしていました。 それがマウスクリック一発に変わるということですね。
これが便利かどうか、さっぱりわからなかったのですが、 ものは試しと思って導入したらたいへん便利! そもそも、 一日のうちにこれほど何回も範囲選択していたのかと驚くほどです。 PopClipを使い始めてしばらくはポップアップするたびに「うわっ」 と驚いていました。 それだけふだんは無意識に範囲選択していたということなのでしょうね。
◆あんなことやこんなことも出来る「PopClip」ってMacアプリが便利すぎて悶絶 http://sinack.com/mac/popclip.html
* * *
先日の「母の日」の出来事。
母の日なので、母に「ありがとう」のメールを送った。
私を産んでくれてありがとう。 私を育ててくれてありがとう。 たくさんのはげましをいつもありがとう。
すると、しばらくして母から返事のメールが来た。
「ありがとうにありがとう」
何とおしゃれな答え!
* * *
本の話。
森博嗣さんの『喜嶋先生の静かな世界』が電子書籍になっていました。
◆『喜嶋先生の静かな世界』(森博嗣) http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00GD6ES2Q/hyam-22/
この本は……と説明するのは難しい。 大学の先生、特に理系の研究者をめぐる物語ですね。
いわゆる「あるある」な話もたくさん出てくるのですが、 全体としては、やはりこのタイトルに出てくる「静かな世界」が、 うまく全体の空気を表現しているように思います。
研究の厳しさのような、研究の冷たさのような、 それから、研究に取り付かれた「狂気」のような。
そんなことを思いつつ、「静かな世界」を感じる本です。
* * *
キーボードの話。
スターウォーズのR2-D2が照らすライトを使ったバーチャルキーボード。 これはかっこいい。
◆imp. R2-D2 バーチャルキーボード IMP-101
◆imp. R2-D2 バーチャルキーボード IMP-101(アマゾン) http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00UT1HZT4/hyam-22/
持ち歩くのも楽そうだけれど、タッチタイプには向かないような気がする。 どうなんだろう。
* * *
質問の話。
ネットで質問をもらうことが多い。ask.fmのような質問サイト経由のこともあるし、 メールのこともある。もちろんTwitterでもらうこともある。
◆ask.fm(結城浩) http://ask.fm/hyuki0000/best
そんな中で、
「◯◯は何の役に立つんですか?」
という質問をもらうことも少なくない。たとえば、
「数学は何の役に立つんですか?」
などは典型的な質問である。
ところで、この質問を聞いたとき、私は一瞬身構える。
・これは、素朴で真摯で純粋な問いなのだろうか。 ・それとも、レトリカル・クエスチョンの一種なのだろうか。
つまり、ほんとうに質問なのか、質問の姿をした非難や愚痴や皮肉なのか、 そのどちらだろうということです。
「○○は何の役に立つんですか?」
というのは、ときに、
「○○なんか役に立たない!」
という意味で使われることがあるからです。
自分がよく知らない人からの初めての質問なら「素朴で真摯で純粋な問い」 として、答える方がいいだろうなと私は思っています。
レトリカル・クエスチョンに対して真面目に答えるのは、 答える人がちょっと馬鹿っぽく見える可能性もありますが、 私はそれの方が逆よりもいいだろうなと思います。
「○○は何の役に立つんですか?」という問いに対して、 私が情報や知識を持っていないこともあります。 その場合でも、質問に対してはできるだけ、 礼儀正しく真摯に答える方がいいでしょうね。
質問者というものは答えそのものを求めているだけではありません。 自分が質問をするほど信頼している「先生」が、 どう答えるかという姿勢にも注目しています。 真摯に答えようとする姿勢もまた、 答えの一部になっているのだと思います。
* * *
言葉の話。
Webであちこちを歩いていると、
「何かの能力が低い人を罵倒する人」
を見かけることがよくある。 「何かができない」ことや「できるけれど完成度が低い」ことを馬鹿にしたり、 むやみと怒ったりする人のことである。
そしてまたややこしいことに、 そのような「能力が低い人を罵倒する人」を罵倒する人もいる。 「能力が低い人を罵倒するなんて!」と怒りに燃える人である。
でも、「能力が低い人を罵倒する人」というのは、 「言葉を使う能力や影響を想像する能力が低い人」 かもしれないので、優しく接するのがいいですね。
さもないと、自己矛盾を起こすことになってしまうから。
* * *
学びのエッセンスの話。
数学ガールを書いていて思うのは、 数学の中には「学びのエッセンス」が純粋な形で含まれているということ。 そして、柔らかく真剣な対話を通して、 その「学びのエッセンス」が学びの場に香り高く広がっていくということ。
学びは一人で進めるものだけど、要所要所には出会いがある。 誰かのちょっとした一言がブレークスルーになることがある。 答えではなく問いかけが、大きなヒントになることもある。 それを生み出すのは、信頼できる相手との対話であることが多い。
そういう体験は、数学と同じように「時を越える」ものだと思う。 その記憶が、一人の人の心の中でずっと命を持ち続けていることもあるし、 語り継がれ、本に描かれて伝わることもある。 発見や、体験や、経験が、時を越えて人々に感動を与える。
数学は、そのような「学びのエッセンス」を私たちにしっかり教えてくれる。 その厳密さやその堅さを通して。その精密さやその美しさを通して。
* * *
さて、それでは今週の結城メルマガを始めます。
今回は、「フロー・ライティング」のコーナーで、 「メタな視点と講演準備」という読み物をお送りします。
では、結城メルマガをゆっくりお楽しみください!
目次
はじめに
フロー・ライティング - メタな視点と講演準備
複雑さと戦う
学ぶことは楽しい - 学ぶときの心がけ
「連ツイ」を書き換えてブログ風に
おわりに
-
Vol.159 結城浩/フロー・ライティング - 文章について妻と話す/売上分析/継続は力なり/
2015-04-14 07:00220ptVol.159 結城浩/フロー・ライティング - 文章について妻と話す/売上分析/継続は力なり/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2015年4月14日 Vol.159
はじめに
おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
早くも四月半ばになってしまいました。 このあいだ2015年が始まったと思ったのに!
このあいだまで桜が咲いていて、何だかポカポカ陽気だったのに、 「花冷え」というのでしょうか、急激に寒くなってしまいました。 お元気ですか。
* * *
新刊の話。
いよいよ今週後半ごろから、 新刊の『数学ガールの秘密ノート/微分を追いかけて』が書店に並びます。 何冊本を出しても、この喜びは変わりませんね。 新しい!本が!出まーす!
この結城メルマガが配信される火曜日は、 いくつかの書店さんに並ぶサイン本を作りに編集部へ。 公開できる情報があったら、また随時アナウンスしますね。
◆『数学ガールの秘密ノート/微分を追いかけて』 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4797382317/hyuki-22/
* * *
書籍といえば。
Twitterで、よつとあ(@yotsutoa)さんが、 結城の本を積み上げた写真を投稿なさっていました。 よつとあさんが持っている本は積み上げると65cm, 5.1kgもあったとのこと。 すごいですね…たくさんお読みいただき、ありがとうございます!
https://twitter.com/yotsutoa/status/582047152098029568/photo/1
* * *
「数学メモ」というサイトを作りました。
◆数学メモ http://mathmemo.textfile.org/
それほどちゃんとした文章ではありませんが、 数式混じりのちょっとしたメモを書くためのサイトです。
このような数式をWebで書くときにはMathJaxを使うと便利です。
◆MathJax http://www.mathjax.org
Webのhead要素に少し書き足すだけで、 本文中にLaTeXの数式を書けば、この「数学メモ」のように数式が表示されます。 すばらしい時代ですね。
結城はこの「数学メモ」を自分専用(自分だけが書き込める) サイトとして作りました。自分だけがユーザだと、 プログラムを作るのがとても簡単になります。 昔ながらのCGIの技術で、Rubyでちょっとプログラムを書くだけで完成。
今回「数学メモ」を書くときに工夫したのは、 Web経由で書くことと、直接ファイルをエディタで書くことを融合させることでした。
実はこの「数学メモ」はDropboxを利用しています。 Webから「数学メモ」を書いた結果は、 テキストファイルとしてサーバに保存されます(ファイルの拡張子は .tex)。
保存されたテキストファイルはDropbox経由で結城の手元のMacにやってきます。 結城がMacでそのファイルを編集すると、 またDropbox経由でサーバのファイルと同期が行われ、 Webに表示される内容も更新される。
たとえば、電車の中でiPhoneでWeb経由で書き込んだメモを、 後からMacのエディタでさらに編集するということが簡単にできるのです。
ちょっとしたプログラムを自分で組めるというのは楽しいものですね。
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科学読み物の話。
『ドミトリーともきんす』という高野文子さんの漫画が人気です。
アカデミカルな『めぞん一刻』みたいな本、というと語弊があるでしょうか。 学生時代の湯川秀樹、朝永振一郎、中谷宇吉郎、牧野富太郎の四人が、 とある学生寮で青春時代を送っていた……という設定の漫画です。 サイエンス読み物好きにはこたえられない一冊だと思います。
◆『ドミトリーともきんす』(高野 文子) http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4120046575/hyuki-22/
『めぞん一刻』みたいと書いたのは、 その寮には「とも子さん」という寮母さんと娘の「きん子」さんが登場するため。 二人合わせて「ともきんす」。 もちろん、ガモフが書いた《トムキンス》にならったもの。
『めぞん一刻』のような恋愛ものではないけれど、 『ドミトリーともきんす』に描かれるような学徒の姿に、 結城はなぜか甘い青春時代を感じてしまうのです。
◆高野文子インタビュー(数理的発想法11) http://www.hitachi.co.jp/Prod/comp/soft1/omr/vol70/mathematical/index.html
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さて、それでは今週の結城メルマガを始めましょう。
今回は「フロー・ライティング」をPDFでお送りします。 私と妻が食卓で「文章を書くこと」についておしゃべりしたときの様子です。 PDFをダウンロードしてお読みください。
また「仕事の心がけ」のコーナーでは、 確定申告も済んだので「一年の売上を分析する」ことを書きます。 具体的な売上は書きませんけれど、 「どんなふうに分析するか」を簡単にお話します。
さらに、問題解決のちょっとしたヒントとして、 「レベルを変えて問題解決」もお届けしましょう。
そして「学ぶときの心がけ」のコーナーでは、 春という季節に思う「継続は力なり」を書いてみました。
お楽しみいただければ感謝です!
目次
はじめに
フロー・ライティング - 文章について妻と話す
一年の売上を分析する - 仕事の心がけ
レベルを変えて問題解決 - 仕事の心がけ
継続は力なり - 学ぶときの心がけ
おわりに
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Vol.157 結城浩/フロー・ライティング/note(ノート)を一年利用して/仕事の心がけ/高校時代の思い出/
2015-03-31 07:00220ptVol.157 結城浩/フロー・ライティング/note(ノート)を一年利用して/仕事の心がけ/高校時代の思い出/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2015年3月31日 Vol.157
はじめに
おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
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新刊の話。
『数学ガールの秘密ノート/微分を追いかけて』は再校読み合わせを無事終えました。 これで結城の手はほぼ離れて、編集部そして印刷所にボールが渡りました。 私には、四月に入ってサイン本を作るお仕事が残るのみです。
◆『数学ガールの秘密ノート/微分を追いかけて』 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4797382317/hyuki-22/
今回は「数学ガールの秘密ノート」シリーズの五冊目。 とうとう「数学ガール」シリーズと冊数が並んでしまいました。 がんばって「数学ガール」シリーズ(本編)も書かなくては!
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電子書籍の話。
『数学文章作法 推敲編』の電子書籍が配信されました。
◆『数学文章作法 推敲編』(Kindle) http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00UWBR406/hyuki-22/
電子書籍発売を記念して、筑摩書房さんより、
・結城浩の直筆メッセージカード ・1000円分のQUOカード
のプレゼント企画が行われています(2015年4月3日まで)。 詳しくは、以下のページをご覧ください!
◆【プレゼント】結城浩さん直筆メッセージ&QUOカード ツイッターキャンペーン http://www.chikumashobo.co.jp/blog/news/entry/1114/
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SNSでのもめごとの話。
結城はTwitterでよくおしゃべりをしている。 比較的自由にしゃべっているけれど、注意していることもある。 たとえば、人や物事を闇雲に批判しない(disらない)というのはその一つである。
自分が嫌いなものであっても、それを好きな人もいる。 自分が好きなものを闇雲に批判されたらムッとくる人も多いだろう。 もめごと回避のためには闇雲な批判は避けた方がいいと思っている。
しかしながら、もめごとを回避することが100%可能というわけではない。 また、もめごとを回避した方がいいかどうかも難しいところである。
それこそ、もめごとが起きるので具体的には書かないが、 ずいぶん以前、結城のツイートに含まれている単語に対して、 ある人から文句を言われたことがある。 相手は、その単語に対してカチンと来たらしいのだ。
そういうとき、どうしたらいいのか。
まずは、脊髄反射的にリプライしない方がいい、と思っている。 深呼吸の一つでもして「自分はその単語にこだわりを持っているのか」 と自問する。
もしもこだわりを持っていないなら、 必要に応じて発言を撤回するなり、お詫びをするのがいいと思う。 もしもこだわりがあり、自分にとって重要な意味を持つものなら、 きちんと自分の考えを述べるのがいいと思う。 当たり前のことである。
ただし、自分の考えを述べることで、 相手の考えを変えようと思うのは無駄だ。 自分の考えを述べることは自分の問題だけれど、 相手が考えを変えるかどうかは相手の問題だからである。 一言でいえば、
「論破しようとするな」
である。そこを間違えると、 相手と不毛なやりとりを繰り返すことになってしまう。
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編集者の話。
ある出版社の編集者は、結城が原稿を送ったときの返信で、 必ずと言っていいほど、
「今回の原稿を一読した個人的感想」
を一言書いてくれる。もちろん、私はとてもうれしい。
こういう行動というのは、編集部で教わるものなんだろうか。 それとも、その編集者が個人的技量なのだろうか。 また、その編集者は意識的にやっていることなのか、 それとも自然とやっていることなのか。 そんなことを思う。
念のため書いておくと、 原稿を送ったときの返信に「一言感想」を書かない編集者に対して、 不愉快に思っているわけではない。 原稿を渡し、編集してもらうということに関して、 「一言感想」を書くかどうかというのは本質的ではないと思っている。
現実問題、長い原稿の場合には一読するのも時間が掛かる。 「一言感想」のために返信が遅れるのでは本末転倒である。
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pplogの話。
最近、pplogというサイトがお気に入りです。
◆pplog https://www.pplog.net
このサイトは、 「最新の1件しか公開されたネット上に残せないブログのような何か」 を書くためのサイトです。ブログでいう一つのエントリ(記事)は、 このサイトでは「ポエム」と呼ばれています。 ポエムといっても詩が書かれているとは限らず、 あくまで「ブログ記事のような何か」なのですが。
iPhoneでこのサイトにアクセスし、 ぽつぽつと文章を書き残すのが最近のマイブーム。
◆結城のポエム https://www.pplog.net/u/hyuki
他の人が書いたポエムも最新の1件しか見ることができないので、 大げさに言えば、文章との一期一会が生まれることになります。
pplogでは、次のポエムを書いたら、 過去のポエムは他人から見られなくなる「安心感」があります。 そのためか、ほんとにポエムっぽい文章が登場したり、 あまり公の場では見られないような心情の吐露が行われたりします。 なさけない弱音だったり、愚痴だったり、不安だったり。
でも不思議なもので、そのような心情の吐露によって、 逆にそのポエムの書き手への共感や親しみが湧いてくることも多いのです。 文章ってあなどれません。
一般に、誰かと「深い会話」をするためには、 どこかで自分の深い部分を開示する必要があります。 互いに表向きの顔をし続けたまま、 「深い会話」に入るのは難しいですよね。 でも、自分の深い部分を開示するのには、 いろんな意味でのリスクがつきまといます。 誰しも、かっこわるい自分を他の人に見せたくはないものですから。
ところがこのpplogでは、 図らずも深い部分の開示が行われてしまうことがあり、 そのために深い共感や親しみを感じてしまうのかもしれません。
このpplogというサイトの可能性に興味津々です。
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彼女の話。
結城は彼女(妻)からこんなふうに言われることがある。
----- あなたはよく、 『これならばこうだ。 でも違ったならば、こうだ』 と言う。 でもそれじゃ、あなたはどう思っているのかわからない。 あなたの考えがわからない。 -----
どうも、条件を切り分けたり、分析的な言い回しで考えを述べることが、 《当事者意識の欠如》と誤解されているのではないかと思う。 というこの文章自体が分析的だな。
しかし、自分としては《当事者意識》があるときほど分析的になる傾向がある。 つまり、当事者となって、何とかしなくちゃと思えば思うほど、 感情ではなくて論理で判断しなくてはという傾向が強まるという意味である。
そういえば、結城は彼女に対して「大事な問題なのに、 そんなにのめり込んだら適切な判断はできないんじゃないか」 と思うことがある。考えてみると、さっきの彼女の発言とちょうど正反対である。
特に結論はない。
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アイコンの話。
先日のホワイトデー(3/11)で、 結城のアイコンと数学ガールの登場人物を「クッキー」 にしてくださった方( @Ruriatto さん)がいらっしゃいましたのでご紹介。
https://twitter.com/Ruriatto/status/576644054319935488/photo/1
こちらは同じ方の円周率クッキーです。
https://twitter.com/Ruriatto/status/576678788244713472/photo/1
また、結城のアイコンをピクセルで描いてくださった方( @nun_ さん) もいらっしゃいましたので、ご紹介します。
https://twitter.com/nun_/status/575466174449774594/photo/1
それから、結城のアイコンをフェルトマスコットにしてくださった方( @ippikihtz さん) もいらっしゃいました。彼女の分まで作ってくださり感謝です!
https://twitter.com/ippikihtz/status/580355868165701632/photo/1
みなさんに感謝です!
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さて、それでは今週の結城メルマガを始めましょう。
今週は文章を書くことについての連載エッセイ「フロー・ライティング」で、 「春に思う」というお話をお届けします。 春になって新しいことを始めたいけれど……という話題です。
それから、note(ノート)を始めて一年になるので、 一年間の数字を交えて簡単な振り返りをします。
「仕事の心がけ」のコーナーでは 「作業ログとお知らせシステム」という話、 「教えるときの心がけ」のコーナーでは 「高校時代の思い出」をお送りします。
お楽しみください!
目次
はじめに
フロー・ライティング - 春に思う
note(ノート)を始めて一年を振り返る
作業ログとお知らせシステム - 仕事の心がけ
高校時代の思い出 - 教えるときの心がけ
おわりに
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Vol.155 結城浩/フロー・ライティング/数学文章作法のスケッチ(10)/受験のときの「お守り」/
2015-03-17 07:00220ptVol.155 結城浩/フロー・ライティング/数学文章作法のスケッチ(10)/受験のときの「お守り」/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2015年3月17日 Vol.155
はじめに
おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
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新刊の話。
先週の金曜日『数学ガールの秘密ノート/微分を追いかけて』の初校読み合わせが、 何とか終了しました。何点か再校までの「宿題」を残しましたが、 無事にボールを編集部に返すことができました。感謝です。
今回の新刊はいろいろと難産です。 昨年末の脱稿のときにも体調を崩しましたし、 初校直前の先週も体調がよくありませんでした。
しかしながら、何とか初校読み合わせを終えて四月刊行には間に合いそうです。 体調を整えつつ再校に臨みたいと思います。
◆『数学ガールの秘密ノート/微分を追いかけて』 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4797382317/hyuki-22/
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感謝の話。
結城が好きな聖書の言葉に「すべての事について、感謝しなさい」がある。 文章の通り、すべてに感謝しなさいという意味の命令である。 これに対して、ときどき「すべてのことを感謝するなんてできないよ」 と言う人もいる。まあ、実際問題として、それはそうである。
そうなんだけど、すべてに感謝しようとする習慣は大事ではないかと思っている。 実際に感謝できるかどうかという結果だけではなく、 実際に感謝しようとするという姿勢が大事だという意味だ。 「すべてに感謝しよう」という習慣は、 さまざまな局面で「感謝を探し出す」習慣につながっていくものだから。
「感謝を探し出す」習慣が身に付いていないと、 自分がどんなにすばらしい状況に置かれても、 どんなに恵まれた環境に置かれても、感謝するのは難しいのではないだろうか。
学校でも会社でもいいけれど、人が集まるところでぐるっと見渡してみよう。 いつもニコニコして感謝している人がいる。 その一方で、いつも不平しか言わない人もいる。 そんなことはないですか。
知人がどんなことを言いそうかを想像したとき、 感謝の言葉が出てくるか、不満の言葉が出てくるか。 そして自分のことを他人が想像したときに、 どんなことを言いそうだと他人が考えるか。
とはいっても、不平や不満を言う人を非難したいというわけではない。 各人の感情の発露を他人があれこれ非難しても意味はないから。
安全のために(?)自分の話にしよう。 私としては、できたら、「感謝することを探す習慣」を身に付けたい。 それは、批判精神を失えということではないし、改善をサボろうと言うのでもない。
油断すると不満ばかりに目が行きがちな習慣を正し、 感謝の心を忘れずにいたいと考えているのである。
そして、おもしろいことに、いつもたっぷり感謝をしていると、 感謝すべきことが倍増してやってくるのである。
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誠実さの話。
数学はおもしろい。でも、数学は難しい。
難しい数学をやさしくすれば、みんなが数学を好きになるだろうか。 そんなことはない。 やさしくすれば取っつきやすくはなるだろうけれど、 それだけで好きになる保証はない。やさしくすることで、失われるものがある。
数式を少なくすれば、みんなが数学を好きになるだろうか。 そうとも限らない。 数式を少なくすれば読みやすくなるかもしれないが、 数学が表現しようとしている大事なものが失われることがある。
「やさしくすればいい」「数式を少なくすればいい」 と安直に考えたのではきっと駄目で、 教える側がほんとうによく考えなければいけないだろう、と思っている。
『数学ガール』を書いて感動したことがある。 少なからぬ数の中学生が、
「数式の意味はわからないけれど、数学が好きになりました」
という感想をくれたことだ。読者が「ここには本物の何かがある」と感じとってくれた。 読者が「ここには自分の時間をかける価値のある何かがある」と思ってくれた。 読者のフィードバックから、私はそんな思いを感じ取ったのである。
「数学ガール」シリーズで描かれているのはいつも、 本物の数学と、それに微力ながらも真摯に立ち向かう若者たちである。 そこから数学を読み取る人もいる。 若者の学びを読み取る人もいる。 若者への教授法を読み取る人もいる。
大切なのは誠実さだ。真摯さ、正直さ、何と呼んでもいいけれど、 ともかく「真面目にことにあたる心意気」のことである。 数学に限らず、学ぶことは誠実さに直結している。 教師のいうことを素直に聞けたなら、教育の半分は成功ではないだろうか。
教師のことを盲目的に聞けというのではない。 健全な懐疑の態度も含め、生徒は教師の誠実さをすぐに見抜く。 信頼できる教師と、信頼できない教師を、若者は残酷なまでに峻別する。
だから、教師は「ちゃんとやる」のが最善の策である。 真面目に考え、生徒のことを考え、準備する。 生徒に媚びるのではなく、本当の学びの面白さを語る。 生徒はすべてを見抜く。 教師が本物に感動し、生徒にその感動を伝えるしかない。 自分が「本物の教師」になるしかない。そんなふうに思う。
教師は自分に限界があることを認めつつ、 真摯に最善を尽くしている姿を見せる必要があるのだろう。 生徒の目は厳しい。他の教師と見比べる。 でも、生徒は、本当に信頼できる教師を、本当に信頼する。
結城メルマガでも何度も書いているが、 結城はいつも、現場の先生に深い敬意を抱いている。
私は本を書く仕事をしていて、本は何度も校正できる。 でも、先生はリアルタイムで、たくさんの生徒の前で全ての発言を行っている。 これはすごいことだと思う。
若者に直接に語る機会を持つ先生に対し、 結城は心からエールを送りたい。
「大変な、でも大切なお仕事をありがとうございます」
厳しいけれど、大事な仕事である。 良いメッセージをたくさん送ってください。 ポジティブなストロークをたくさん与えてください。
先生、生徒たちをよろしくお願いします。
* * *
労働の話。
ベストセラーとなった『WORK SHIFT』はとても濃厚な本で、 これを読んでいるだけで未来が来てしまいそうなボリュームである。 でも、繰り返し読む価値のある珍しい本の一つかな、とは思います。
◆『ワーク・シフト ─ 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図』 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B009DFJE9Q/hyuki-mm-22/
結城にとって、本は主に「考えるために読む」ものです。 読みながら考える。 そこに書かれたことを「ほんとうかな?」などと問いつつ読む。 その過程を楽しんでいます。
WORK SHIFTに話を戻そう。私たちは働いている。 でも、その働き方は今後どれだけ有効なんだろうか。
私たちが労働について語るときには、とても少ない情報をベースに語るものである。 なぜなら、直接体験できる労働というのは、自分の職業の近辺のみだから。 他の人の話を聞くにしても、せいぜい身の回りの十数人くらいですよね。 WORK SHIFTでは、大規模な調査と未来予測を元に、 半分ストーリー仕立てで「労働」を考えています。
最近、ネットでも「将来消える職業」が話題になる。 自分の子供世代は現在は存在しない職業に就く、などと。
自分が惚れ込んだ活動で頑張るのは当然としても、 そもそも、その分野は未来どうなっているのか。 WORK SHIFTという本は、それを少し垣間見させてくれるものである。
現代から未来にかけてテクノロジーがさらに発展するのは間違いないから、 コンピュータや技術に無知では居られないだろう。 でも、では、プログラマになるのが至高の道なのか。 そうとも限らないだろう、と私は思っている。 世の中の動向を知ることは大事だろうけれど、 そこに流されるばかりでいいのか。とも思う。
やはり人には得意不得意というものがあるし、好き嫌いもある。 クリエイティビティがある人が必要とされるのはそうだろうけれど、 人の幸福はそんなに単純なものではない。
現代こそ、理屈を越えた思考が重要になる時代かもしれない。 論理的に考えたら「こういう仕事が儲かる」あるいは「こういう活動がウケる」 と理解しつつも「いや、私はあえてこれを選ぶ」 という判断が大事になってくるのかもしれない。 『WORK SHIFT』の中にもそういう事例がいくつか出てきた。 金銭以外の価値を求めて働く人たちの話だ。
結城がいつも思うのは、個人としての満足感である。 いくらお金が入っても、いくら他人から賞賛されても、 自分が個人として深い満足を抱けないなら、それは幸福ではない。 幸福は個人的なものなのだ。
幸福は極めて個人的であり、極めて主観的なものである。 何百万何千万儲けたら、その個人は幸福であるなどと、 客観的な指標を立てることは不可能だ。
労働の選択は、人生において重要な問題である。 何をして生活の糧を得るか。 何をして人生の重要で長い時間を過ごすのか。 これは重要な選択であると同時に、非常に個人的な選択である。 ある意味では、誰も他人の選択に口をはさめないし、責任も取れない。
大きな会社が左前になったり、リストラしたり、 というのは別にめずらしい状況ではない。 そのリストラされた世代の人たちも、 就職時に「これで一生安泰」と思ったかもしれない。
人生は残酷である、と同時にチャレンジに満ちている。 リストラされた人の中には絶望にあった人も多いだろうけれど、 そこで何かをつかんで、 新しい人生を見つけた人もいるだろう(と結城は確信している)。
人生は予測不可能な困難に満ちている。 でも、その困難に出会ったときにめげる人もいれば、新たな道をつかむ人もいる。 受験もそうかもしれない。 合格/不合格は一つの結果だけれど、それが直接、 幸福/不幸に繋がるものでもない(長期的に見れば)。
人生は困難に満ちている。
でも、チャレンジにも満ちている。
『WORK SHIFT』を読みながら、そんなことを考えている。
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老いと失言の話。
ネットが発達した現代は「失言」があっというまに 「ネガティブキャンペーン」になってしまう。しかも国際的に。 一ヶ月くらい前に、 有名なおばあちゃん作家が国際的な失言をするという話題があった。
あのニュースを、結城は関心をもってながめておりました。 自分も歳を取ったらあんなふうになってしまうのかな、こわいな。 そういう思いで見ていたのです。
もちろん、自分の存在意義に関わることならば、 頑として自己の発言を曲げないことも大事だろう。 しかし、単純な失言だったならば素直に謝るとか、 認識が時代遅れだったら「お恥ずかしい」と認めるとか、 その方が大事ではないかと思っている。
例のおばあちゃん作家を見ていて悲しかったのは、 作家ならば未来を向いてほしいのに、柔軟な思考ができてほしいのに、 と感じるからだ。 自分を守るための言葉選びに終始してほしくないからだ。
そして、我が身を思う。 あと30年後に私もあんな感じに耄碌するんだろうか。 いやだけど、ありえないことではない。
将来、結城が何かトンデモな発言をしたときに、 「ねえ結城さん、それちょっとおかしいですよ」 と言ってくれる人がそばにいるようにしたいな、と思う。
いつも若い人と接するようにしよう。 自分を建設的に批判し、励まてくれる人を大事にしよう。 そんなふうに思った。
記憶で書いてるから、詳細は怪しいけれど、作家のC.S.ルイスは、 老いつつあるときに「自分の短気さがつのる」ことを気にしていた。
結城は、自分の老いを思うとき、短気さがつのることは気にしていない。 もともとそんなに怒りっぽい方ではないからだ。 気になるのは自分の尊大さと傲慢さ、 それから「自分のことを特別扱いしてほしい」というさもしさ。 気にしているのはそのあたりの欠点である。
きっと、それらの欠点は歳を経るごとに大きくなるだろう。 悲しいことだけれど。
できるだけ若い人の声を聞き、アドバイスに耳を傾け、 傲慢にならないように(でも言うべきことは言う)という生き方を、 自分は80歳以降も続けられるのだろうか。 これから30年近くある。気を引き締めていかんとな、と思う。
先月のおばあちゃん作家の出来事は、 反面教師として、また、セルフブランディングでやってはいけない事例として、 記憶に残している。特に「自分は正しい」と思ったときが危険そうだな。
これから長い年月が過ぎて、結城が耄碌して、 公の場で怪しいことを言い始めたら、ぜひ、優しい声で、
「結城さん、ちょっとずれてきてませんか?」
と教えてくださいね。お願いします。
* * *
学ぶ話。
中学生の息子がときどき、
「ねー、おとーさん、これ教えて!」
と数学の問題を持ってきます。 多くの場合、結城はその問題文や、 直前に書いてある例題を解説もなしにゆっくりと音読します。
その後で息子に、
「それで?」
と聞き返すと、息子は「あっ!」と声を上げて何かに気付きます。
数学を学ぶ上でもっとも大事なことの一つは、 教科書に書かれたことを読んで、本当に理解しようとする気持ちである。 結城はそう思っています。
* * *
カップルの話。
夜遅く、家に帰ろうとしている私は、駅のホームに立っていた。
ふと見ると、初々しい社会人カップルが「別れの儀式」を行なっていた。
二人は、じっと立って見つめ合う。
やがて、両手をつないで、くるくる回り始めた。
きっと、どうしようもない思いを身体で表現しているんだろう。
「儀式」がこのまま続けば、 空から七色の光を放つUFOが現れるのかも、と思ったけれど、 その前に電車がやってきた。私はカップルを残してその場を離れる。
電車の窓から振り返ると、まだホームで二人はくるくる回っていた。
* * *
さて、それでは今週の結城メルマガを始めましょう。
今週は「フロー・ライティング」で「心を探る」というお話をお送りします。
お楽しみください!
目次
はじめに
フロー・ライティング - 心を探る
数学文章作法のスケッチ(10) - 執筆計画
受験のときの「お守り」
おわりに
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