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記事 4件
  • Vol.265 結城浩/マストドンとアイデンティティ(2)/核になるものを見つける/夫婦は不思議/

    2017-04-25 07:00  
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    Vol.265 結城浩/マストドンとアイデンティティ(2)/核になるものを見つける/夫婦は不思議/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年4月25日 Vol.265
    はじめに
    おはようございます。結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
     * * *
    新刊の話。
    『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』を書いています。 予定よりだいぶ遅れてしまいましたが、 ようやく脱稿が見えてきました!
    先週は第5章と第3章の残りをレビューアさんに送ることができました。 今週はエピローグとあとがきを書く予定です。 そこまでいけば、いったん脱稿し、 編集部に原稿を送れる……かな?
    原稿を送ったら、編集部の方で原稿整理しているあいだに、 レビューアさんの指摘事項を結城の方でチェックします。 そこからは並行して作業を進めていくことになりますね。
    考えてみれば現時点でも、著者である結城と、 レビューアさんの間では並行作業をしていることになります。 結城は一つの章を書き上げるごとにレビューアさんに原稿を送っています。 結城が次の章を書き進めるあいだに、 レビューアさんは原稿を読み、 結城あてにフィードバックをくれるからです。
    アマゾンではすでに予約が始まっていますので、 これからも気を抜かずにがんばろう!
     ◆『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』  https://bit.ly/girlnote09
    応援よろしくお願いいたします!
     * * *
    マストドンの話。
    今週の結城メルマガでは後ほど、 最近話題のSNSであるマストドンの話を書きます。 先週の続きです。
    先日結城はsocial.hyuki.netに、 「おひとりさまインスタンス」を実験的に立てました。
     ◆結城浩のマストドン(social.hyuki.net)実験中  https://social.hyuki.net/@hyuki
    でも、現在のところは mstdn.jp の @hyuki0000 というアカウントをメインで使っています。
     ◆結城浩のマストドン(hyuki0000)  https://mstdn.jp/@hyuki0000
     ◆マストドンやってます(告知画像)
    詳しくはまた後ほど。
     * * *
    自分最古のツイートの話。
    ところで、ふと、
     自分がTwitterでいちばん最初につぶやいたのはいつごろで、  いったいなんとツイートしたんだろう?
    という疑問が心に浮かびました。
    調べてみますと、最初のツイートは 2007年4月21日ですね。これです。
     --------  Created my twitter account.  https://twitter.com/hyuki/status/34236342  --------
     ◆スクリーンショット
    驚くべきことに、ちょうど十年前です(!)。
    この「結城が行った最古のツイート」は、 Twitterの「全ツイート履歴」から見つけました。
    Twitterには標準で「全ツイート履歴」を得る機能があります。 自分のツイートをバックアップしておきたい人には有益な機能ですね。
    Webでメニューの「設定とプライバシー」から、 「全ツイート履歴」をリクエストできるのです。
     ◆Twitter「設定とプライバシー」  https://twitter.com/settings/account
     ◆「全ツイート履歴」のリクエスト(スクリーンショット)
    「全ツイート履歴」では、 ツイートしたテキストが単にダウンロードできるだけじゃありません。 リンクをたどることもできる「生きた」形でのエクスポートになりますので、 過去を遡ってみることも容易です。
     * * *
    『数学ガール』紹介ビデオの話。
    先日(2017年4月10日)に、 結城の書籍『数学ガール』が紹介されているYouTube動画を見つけました。 ドラマーの神保洋平さん(@yoheijimbo)の動画です。
     ◆【数学ガール】女子高生と書評【結城浩】  https://youtu.be/Aa46z7J95wU
     ◆スクリーンショット
    動画の内容は『数学ガール』の紹介なのですが、 じんじん先生(神保さん)のやさしい数列の話もあって楽しかったです。
    おもしろいと思ったことが一つ。 画面に映っているのは本を紹介している神保さんだけなのですが、 ひとりでずっと話しているわけではありません。 画面には映らない人がときどきツッコミや質問を投げかけています。
    つまり、仮想的な《対話》がそこに提示されているというわけです。
    その《対話》によって、 視聴者は動画の内容を受け取りやすくなっているのですね。
    結城は、『数学ガール』や『数学ガールの秘密ノート』を書いていて、 《対話》がいかに大切であるかをいつも感じています。 登場人物たちは、数学トークという《対話》を行っています。 疑問を投げかけたり、それに答えたり、 相手の発言に異議を唱えたり。 そのようなやりとりがあることで、 ややこしい内容を解きほぐすことができています。
    解きほぐしているのは登場人物ですが、 その解きほぐしている場面に、 読者(視聴者)が立ち会い参加しているのが大事なのではないか…… と結城は思っています。
    そんなことを神保さんの動画を見ながら思いました。
    神保さんのブログにも、数学がいっぱいありますね!
     ◆ひとりごち - 神保洋平さんのブログ(id:yoheijimbo)  http://final-jinjin.hatenablog.com
     * * *
    素数の話。
    こんなツイートを見かけました。
     --------  そもそも143が『11と13の積』っていう  「お前素数じゃないのかよ」界のサラブレッドなので、  そこに数多の『素数っぽい数字』を生み出した  直感に反するベテラン7をかける事によって、  1001の「お前素数じゃないのかよ」  具合はそんじょそこらの自然数では太刀打ち出来ないレベルにまで達する。  https://twitter.com/ebleco/status/851382665060139009  --------
     --------  143が素数っぽいって言われたら  「え、何いってるの・・・?」って感じあるし、  1001も同様なんだけど、  289の素数っぽさは個人的に凄いと思うし、  これは個人差がありそう。  https://twitter.com/chokudai/status/851945592590925825  --------
    結城には、143も289も1001も素数っぽく感じられます。
    何が「素数っぽい」かはさておき、 こういうツイートを見かけると、 結城も何か気の利いたことを言いたくなってきますね (自己顕示欲の発露)。 そこで、考えたのがこれ。
     --------  「314159」  「円周率?」  「素数」  https://twitter.com/hyuki/status/851947822324752384  --------
    「314159」という数の並びを見ると、 多くの人が円周率の、
     3.14159...
    のことを想像します。 でもよく見ると「3.14159」ではなくて「314159」。 そしてこの数は「素数」です。 おもしろいですよね(無理矢理に賛同を求める姿勢)。
    ちなみに「314159が素数である」というのは、 自分で暗記していたわけではありません。 ふと、円周率っぽい数の並びで素数はあるかな……と思ったときに、 「素数判定ツール」を検索して見つかった以下のサイトで調べました。
     ◆素数判定ツール  https://www.keisan-mondai.com/sosuu.htm
    これを使って(手で)調べてみると、
     3 は素数である  31 は素数である  314 は素数ではない  3141 は素数ではない  31415 は素数ではない  314159 は素数である
    となるようですね。
    Rubyには素数に関する prime というライブラリがあるので、 少しプログラムを書けば同じことを実現できます。
     ◆円周率のような数字列を頭から見て素数を探す(prime.rb)  https://gist.github.com/hyuki0000/8a84085715545078942163abf4d01aff
    実行結果は、以下のようになります。
     --------  3 is prime.  31 is prime.  314 is not prime.  3141 is not prime.  31415 is not prime.  314159 is prime.  3141592 is not prime.  31415926 is not prime.  314159265 is not prime.  3141592653 is not prime.  31415926535 is not prime.  --------
    この Prime というモジュールには、 素数を列挙するメソッドもありますので、 いろいろ楽しめそうです。
     ◆primeライブラリ  https://docs.ruby-lang.org/ja/latest/library/prime.html
     * * *
    円周率の話。
    円周率についてこんなアンケートを取ってみました。
     --------  円周率は3.1415926535...と無限に数字が並びます。  この数字の並びの中に0は出てきますか?  --------
    結果は以下の通り。
     ◆アンケート結果(スクリーンショット)
    1003票のうち66%が「0は出てくる」で、 34%が「0は出てこない」でした。
    以下のように「0は出てくる」が正解です。
     3.14159265358979323846264338327950…
    想像より誤答の人数が多かったですね。
    結城がこの問題を出したのは、
     (1) 割り切れること(有限小数で表せること)  (2) 数字の並びに0が出てくること
    という二つの概念は混同しやすそうだなと思ったからです。
    円周率は有限小数では表せませんので(1)は満たしませんが、 0は出てくるので(2)は満たします。
    割り算の場合には0が出ると、 「割り切れた!終わりになった!」という気分になります。 割り切れること(1)と、数字の並びに0が出てくること(2)とは、 別の概念なのです。
     * * *
    統計の話。
    先日、大羽成征さん(@shigepong)がツイートなさった、 以下の図に大変感動しました。
     ◆大羽成征さん(@shigepong)による「母集団・母数・標本・統計量」の図
     ◆大羽成征さんのツイート  https://twitter.com/shigepong/status/852328842681131009
    この図では、母集団・母数・標本・統計量という4つの概念が、
     ・未知か既知か、  ・現実かモデルか、
    という二つの軸で整理されています。
     母集団は、未知の現実  母数は、未知のモデル  標本は、既知の現実  統計量は、既知のモデル
    ということになります。そしてさらに、
     サンプリングとは、  「未知の現実」である母集団から、  「既知の現実」である標本を得ること
    などのように、四つの概念の相互関係も図から読み取れます。 すばらしい!
    この図を見ると、統計では「似て非なるもの」 が重要概念になっていることがよくわかります。 似たような文字、似たような記号で、 異なる四つの概念を扱うのですから、 難しく感じるのはあたりまえかもしれません。
    この図を見て感動するのは、 その似て非なる部分がきれいに整理されているからでしょう。 頭の中がきちっと整えられていく感じがします。
     * * *
    Webで動くMacintoshの話。
    1991年のMacintosh OS System 7.0.1がWebブラウザで動作する、 というニュースを知りました。
     ◆Macintoshの「System 7.0.1」がウェブブラウザーで操作できる、Internet Archiveが公開  http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/1055220.html
    本体は以下です。
     ◆MacOS System 7.0.1 Compilation  https://archive.org/details/mac_MacOS_7.0.1_compilation
    このページの中央にある「電源ボタン」を押すと、 各種データをダウンロードして、やがて……
     Welcome to Macintosh
    というオープニングになります。感動ものですね!
     ◆ブラウザで動くMacintosh(1)スクリーンショット
    そしてもちろん、Macの操作画面に移ります。 Macの操作は、ふつうにマウスで行うことができます。 ほんとにWebブラウザ内でMacが動いているのです。
     ◆ブラウザで動くMacintosh(2)スクリーンショット
    以下は、製図ソフトのMacDrawを動かしているようすです。
     ◆ブラウザで動くMacintosh(3)スクリーンショット
    むかしハードウェアで実現していたものが、 現在は、JavaScriptの上で動いていることになります。 まったく驚きですね!
     * * *
    それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    マストドンとアイデンティティ(2)
    核になるものを見つける - 仕事の心がけ
    夫婦は不思議
    おわりに
     
  • Vol.264 結城浩/マストドンとアイデンティティ/書くことと学ぶこと/

    2017-04-18 07:00  
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    Vol.264 結城浩/マストドンとアイデンティティ/書くことと学ぶこと/
    結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年4月18日 Vol.264
    はじめに
    おはようございます。結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
    先週は、 雨をくぐり抜けて咲く桜を楽しむことができました。
    でも、関東の桜の花はそろそろ終わり。
    春から初夏へ少しずつ季節は移っていきます。
    2017年になってばたばた忙しかった結城の生活も、 ありがたいことに、少し落ち着いてきたようです。
    本の完成へ向けてがんばらなくては。
     * * *
    新刊の話。
    『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』を書いています。 当初の予定よりずいぶん遅くなってしまいましたが、 先週はやや進捗がありました。 第3章と第4章をレビューアさんに送ることができたのです。
    今週は第5章とエピローグに取り組む予定。
    結城は執筆作業を進めるときに、簡単な作業ログを書いています。 そして作業開始時には、 自動的に最近の作業ログが表示されるようにしています。 最近の作業ログはこんな感じです。
     ◆『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』作業ログ(スクリーンショット)
    構成を大きくいじっているときには作業ログにもいろいろ書くのですが、 微調整の段階になってくるとあまり書くことがありません。 ひたすら何度も何度も読んでいき、ちまちまと直すだけです。 なので、作業ログも「第3章。」だけになっちゃってますね。
    作業ログをときどき読み返すのはモチベーションアップになります。 「なぜこんなに作業が進まないんだろうか」という疑問に対して、 「そもそも時間が掛かる作業なのだ」というのを実感できるからです。
    自分はベストを尽くしていると実感できるのは、 次の一歩を進める上で重要です。
     ◆ただいま朱入れ中……
    アマゾンではすでに予約が始まっていますが、 焦ることなく最高の作品を作っていきましょう!
     ◆『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』  https://bit.ly/girlnote09
     * * *
    ホームビデオの話。
    先日、ひょんなことから妻と二人でホームビデオを見ていました。 いまから二十年以上もむかしのビデオです。 長男が生まれたころ、 彼女と私の両親がお祝いに集っているところなど。
    当時のビデオはシャープの液晶ビューカムで撮りました。 撮影してから数年して別の機械(たぶんソニー)を買ったので、 それで再生できるメディアに移し替えました。 また数年経って今度はVHSに移し替えました。
    物理メディアは適当なタイミングで移し替えないと、 機械がなくなって再生できなくなったりします。 こんなこと繰り返してもしょうがないと思い、 結局、ある時点でMP4ファイルに落としました。 現在はDropboxで管理しています。
    物理的な「もの」を管理するのは、 自分の住居スペースを圧迫しますし、 破壊や劣化を招く場合もあります。 電子的な形で保存できるなら、 それに越したことはありません。
    二十年以上も前のホームビデオを見ると、 なつかしいと思うのはもちろんです。 でも、切なさとか、さみしさとか、 何ともいえない独特の感情を抱くようになってきました。
    ビデオに写っている父親二人はどちらも他界していますし、 母親二人も(そして私たち夫婦も)みんな二十年分、 歳をとっているわけです。
    時が流れると、すべてが変化していくのですね。
    もののあはれ。
     * * *
    MathJaxの話。
    Webで数式交じりの文章を美しく表示するとき、MathJaxは便利です。 WebページのheadでMathJaxの設定をするだけで、 Webページ中に書かれたLaTeXコマンドが数式に変換されます。
     ◆MathJax  https://mathjax.org/
     ◆MathJax公式ページのサンプル
    たとえば、CakesのWeb連載「数学ガールの秘密ノート」でも、 MathJaxを利用しています。
    先日、MathJax公式から「MathJax CDNのサービス終了」 というアナウンスがありました。具体的には、
     cdn.mathjax.org  beta.mathjax.org
    でのCDNサービスを停止するということです。 ここにリンクしてMathJaxを利用している人は、 代替サービスとして、
     cdnjs.cloudflare.com
    を使うことが求められています。
    結城も、自分が管理しているサイトをチェックして、 期限となっている2017年4月末までに直さなくては。
    詳しい情報や、具体的にどのように変更すればいいかは、 以下のページで解説されています。
     ◆MathJax CDN shutting down on April 30, 2017.   Alternatives available.  https://www.mathjax.org/cdn-shutting-down/
     * * *
    コンピュータサイエンスの授業の話。
    先日、Rui Ueyamaさんのnote(ノート)を読みました。 Rui UeyamaさんはシリコンバレーのGoogleで働きつつ、 スタンフォード大学で学んでいる方です。
     ◆スタンフォードのコンピュータサイエンスの授業の感想  https://note.mu/ruiu/n/n4d720b650c5b
    これを読んでいると、すごく楽しそう!と感じます。
    難しくても、大変でも、 やっぱり学ぶって楽しいことなんですよね。
    それにしても、Webがなかった時代には、 さっきのnote(ノート)のような個人の体験記を見る手段って、 ほとんどなかったんじゃないでしょうか。
    ふつうの人がどんなことを考えているか、 それを垣間見ることができるのが現代なのですね。
    Webの黎明期には「個人が行う情報発信」 ということがよく言われました。 そこには「個人が特別のことを情報発信する」 というイメージがあったように思います。 でも実は、各個人が「自分の日常」を語るだけでも、 十分おもしろい情報発信になっているんだと思います。
    Twitterや、後ほどお話するMastodon(マストドン)でも、 自分のふだんの当たり前の日常を語っているわけですし。
     * * *
    TAOCPの話。
    The Art of Computer Programming(略称TAOCP)といえば、 LaTeXを作ったKnuth先生のライフワークである書籍シリーズです。
    「アルゴリズムの解析」を扱ったこのシリーズの最新刊、 (第4A巻)の日本語訳が出ました。
     ◆The Art of Computer Programming Vol.4A日本語訳  https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4048930559/hyuki-22/
    こういう本は即買いしています。
    実をいうと、TAOCP Vol.4Aは原書のときも購入しています。 しかも二冊。一冊はスキャンしてPDFにしています。 もう一冊は紙のまま使っています。
    さらにいうなら、Vol.4Aとしてまとまる前の分冊(Fascicle) も原書と日本語訳を買っています。 いったい何回買うんだ自分……
    結城には、このレベルの難しさの本は、 すべてが読めるわけではありません。でも、 すべてが読めないわけでもありません。 ということは、この本の中には、 自分の「読める/読めない」の境界線があるということになりますね。
    《自分の理解の最前線》にはおもしろいものがいっぱいあります。 それは経験上よくわかっています。 少しがんばって読み解けば「なるほど、そういうことか!」 といえるものがたくさんあるということですね。 開けるのに少し力が必要なおもちゃ箱といいますか、 宝石箱といいますか。
    なので、やや背伸びをしても、ともかく本を買う。 手元に置いて、ときどきパラパラとめくる。 読めそうなところがあったらじっくり読む。 そんなことを繰り返そうと思っています。
    そんなことをしても、 今日明日で何かが起きるわけではありません。 でも、一年二年しているうちに、 おもしろいことが起きる(かもしれません)。
    『コンピュータの数学』も、 そんなふうにして読んでいったんですよ。 問題を解くまではいかないけれど、 内容はずいぶん読めるようになったんじゃないかなあ。
     ◆『コンピュータの数学』(グレアム+クヌース+パタシュニク)(アマゾン)  http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4320026683/hyuki-22/
     * * *
    カフェで見た女の子の話。
    カフェで仕事中、 三歳くらいの女の子が店の中を歩いているのを見かけた。
    その後ろを、五歳くらいの男の子が歩いている。 女の子が歩く速さに合わせて歩いているので、 たぶん、女の子のお兄ちゃんなんだろう。
    女の子は身体全体を使って、
     「わたくし、機嫌悪いんですのよ」
    という雰囲気をまわりにふりまいている。 彼女の顔の動きも、手を組む仕草も、 ときどきちらっとお兄ちゃんを振り返る視線も、 まるで大人の女性のように見える。
    お兄ちゃんは、 つたない表現でなだめる言葉を口にしつつ、 不機嫌な妹の後をずっと歩き続けている。
    私は、そんな二人を眺めていた。
     * * *
    では、そんなところで、 今回の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    数学の問題に挑戦しよう!(問題編)
    マストドンとアイデンティティ
    書くことと学ぶこと - 本を書く心がけ
    数学の問題に挑戦しよう!(解答編)
    おわりに
     
  • Vol.263 結城浩/再発見の発想法/九九表から始まる冒険/お絵描きして元気になろう/

    2017-04-11 07:00  
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    Vol.263 結城浩/再発見の発想法/九九表から始まる冒険/お絵描きして元気になろう/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年4月11日 Vol.263
    はじめに
    おはようございます。結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
    桜が咲きました。
    先週の雨も乗り越えて咲いていましたが、 今週でそろそろ咲き納めになるでしょうか。
    毎年思うことですが、 桜が咲く週は天気が急変することが多いです。 風が強く吹いて桜を散らしたり、 夜半から雨が降り出したり。 春の落ち着かない気持ちそのままの天気が多いです。
    私は個人的な事情でばたばたしてばかりで、 特に大掛かりなお花見はできませんでしたが、 道を歩いてふと見かける桜もいいものです。 先日は妻と二人で散歩しながら桜を楽しみました。
    桜の花を見るたびに、
     さくらさくら  さくさくら  ちるさくら
    という言葉を思い出すよと妻に話すと、 それはあなたのオリジナルなの?と聞き返されました。
    もちろん違います。 確かこれは種田山頭火の俳句のはず。
     * * *
    新刊の話。
    『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』を書いています。 もともとは二月末に脱稿するつもりでおりましたが、 諸事情によりまだ執筆が続いています。
    先日、ようやく第1章と第2章をレビューアさんに送ることができました。
     ◆『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』執筆中(イメージ)
    結城は、何人かのレビューアさんに「オンラインレビュー」 をしてもらっています。直接会うことはありません。 メールとWebサイトを使ってPDFファイルを送り、 読んでもらうのです。
    数学的なまちがいや、読みにくい部分、 誤解しやすい部分などを指摘していただき、 文章の品質を上げようという試みですね。
    書く身としても、 レビューアさんという「ひとさま」に見せる状態にするため、 がんばって書くことになります。
    レビューアさんには、章を書き上げるごとにメールを送ります。 そのたびに大きく前進した気分になれるのもいいですね。 自分の個人的な感覚ではなく、 客観的な「進捗」を感じることができるからだと思います。
    そのように苦戦しながら執筆中の新刊。 『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』 の予約がアマゾンで始まりました。
     ◆『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』(アマゾン)  https://bit.ly/girlnote09
    読者さんがたくさん期待していますので、 がんばって書かなくちゃ!
     * * *
    環境改善の話。
    執筆に疲れたときには「環境改善」に時間を使うようにしています。
    先日はLaTeXGrepというツールを作りました。
    結城は数式交じりの読み物をLaTeXで書いています。 書籍やWeb連載などでたくさんの文章がありますが、 そこに出てくる数式はすべて、 LaTeXのコマンドとして書かれています。
    数式を書こうとしたとき、 「これと似たような数式を以前書いたことがあるぞ」 と思うことはよくあります。 そんなときは、LaTeXの参考書で一から調べるよりも、 自分の過去の原稿を検索した方がてっとりばやいですね。 そこで、
     「過去に自分がLaTeXで書いた文章から指定した文字列を検索する」
    というコマンドを作りました。それがLaTeXGrepです。
    結城はテキストエディタとしてVimを使っていますので、 Vim scriptを使って実現しました。ソースは以下です。
     ◆LaTeXGrep - 前もって定めておいたディレクトリ内をvimgrepするコマンド  https://gist.github.com/hyuki0000/c2eec9f51b4870acad9b2a26b8831cc6
    ソースを見ればわかるように「実現しました」といっても、 ほんの6行程度の小さなプログラム。 すでにvimgrepというコマンドはVimに用意されているので、 そのvimgrepにディレクトリを与えるだけの簡単な処理です。
    しかしながら、プログラムが小さいことと便利さとは無関係です。 自分がたまに実行する検索がこれでかなり便利になるので、 私としては満足です。
    LaTeXGrepの成果は自分の設定ファイル ~/.vimrc に反映し、 同じようなことを考えている人のためにGistで公開してツイート。 ここまで約一時間の作業です。
    プログラムを作るのは気分転換にもなりますし、 今後の執筆によい影響を与える環境改善ができました。
     * * *
    Web連載の話。
    結城は毎週cakesでWeb連載をしています。
    現在は、シーズンの端境期でお休みをいただいています。 再開は2017年4月21日(金)から。
    端境期といっても何も作業をしていないわけではありません。 新しいシーズン(十回分)の準備を進めています。
    Web連載「数学ガールの秘密ノート」は数学を題材にした読み物ですから、 準備というのは具体的には数学の本を読むことです。 おおよその分野を決めたら、やさしいものから難しいものまで、 ざくざくと本を読んでいきます。
    基本的に、参考書となる本は購入します。 アマゾンでどんどん注文し、毎日のように本が届きます。 それにバリバリと目を通していきます(バリバリ目を通すって、 擬音の使い方がおかしいですが、まあ感覚として)。
    たくさんの本を読む(目を通す)ことは大事です。 どんな本にも登場する話題は基礎となる項目であることがわかるからです。 また、やさしい本で雰囲気をつかみ、 専門書で厳密な内容を押さえるということもできるからです。
    自分には理解できない参考書を買うこともよくあります。 理解はできなくても、もっと広い世界やもっと深い理論があるのだなあ……と、 ちらちら感触を探っておくことが必要だと思っているからです。
    目を通すうちに「おもしろそうな話題」を見つけます。 そうしたら読むスピードを落とし、 自分でノートに書きながら計算をしたり例を作ったりします。 能力と時間に限りがあるので、 自分の手に負える題材かどうかの感触を確かめます。
    そんなこんなしているうちに、 自分の中で次のシーズンの形がぼんやりと見えてきます。
     ・全体のテーマとしては何を選ぶか  ・5章(10回)分の題材として何を選ぶか  ・難易度はどのくらいにするか  ・クライマックスはどのあたりをねらうか
    ……といった内容を考えながら、 Evernoteにメモを取っていきます。
    準備の材料は少し多めに用意します。 自分が調理できると思ったけれど、 実際に書いてみたら難しすぎたり易しすぎたりするからです。 アイディアが没になることもよくあります。 材料は少し多めに用意しておいて、臨機応変に執筆を進めます。
    書いているうちに数学がおもしろくて夢中になることもあります。 先日の「いにしえの数学」シーズン(古代数学史)のときも、 平方根のアルゴリズムや、ヒエログリフでの計算などは、 解き明かすべき謎が満載で夢中になってしまいました。
    結城は数学者ではありません。でも、 数学の話題を楽しんでいる数学愛好者とはいえるかも。 何百年、何千年も前の話題でも、数学は楽しいものです。
    自分の頭で改めて考え、自分で納得するまで計算を行い、 それを人に楽しんでもらえる形に変換する。 そんなお仕事は、控えめに言って最高ですね。
    これからも自分なりに学び、 楽しいWeb連載(そして書籍執筆)にいそしみたいと思います。
    ぜひ、応援してくださいね!
     ◆Web連載「数学ガールの秘密ノート」(Cakesのページ)  https://bit.ly/girlnote
     ◆スクリーンショット
     * * *
    環境改善と変化の話。
    先日「メールアドレス変更の話題」を書きました。
    簡単に言えば、 スパムメールが多いのでメールアドレスを変え、 スパムメールが来なくなりました、 という当然の話です。これは大きな環境改善なのですが、 その結果として副産物もありました。
    いままではしょっちゅうスパムメールが来るので、 未読メールが常時何百とありました。 でも、メールアドレスを変えてからは、 それががらっと変わりました。メールがめったに来ないので、 メールが到着することのインパクトが非常に大きくなったのです。
    その結果、自分が収集している情報メールをじっくり読めるようになり、 新しい情報を得ることができるようになりました。 また「あれ? どうしてこのサービスからメールが届くんだろう?」 という気付きも増えました。 いままでは、そのような気付きはスパムに埋もれていたのですね。
    メールアドレスを変えて、自分が管理するメールを激減させる。 すると、個々のメールの重みが大きくなる。 その結果、新しい発見や気付きが増える。 ……そのような好循環を生んでいるようです。
    管理するものを減らす。
    これは想像以上に大事な環境改善なのだな、 と改めて思った次第です。
     * * *
    人間関係の話。
    先日、進学や卒業のタイミングで、 SNSのアカウントをサクッと消す人の話を聞きました。 新しい環境に向けて人間関係をリセットするのだそうです。 そういう人って多いのでしょうか。
     * * *
    自分をロボットにする話。
    「この作業をしようか、それともやめておこうか」 のように考え込むのはかなりのストレスになります。
    できるなら、 なにも考えないで始めてしまうのはいい方法です。 サッと着手して、なにも考えずに進めてしまいましょう。
    考えないで始めると、 時間が無駄になりません。 自分の限られたエネルギーも無駄になりません。
    結城は自分のことを「作業ロボット」に見立てることがあります。 自分というロボットに「はい、これやりましょう」と指示を出し、 その指示に機械的に自分が従うのです。 これは非常に作業がはかどります。
    私のこめかみのあたりに起動スイッチがあるイメージです。 手をこめかみにあて、ゼンマイを巻くような仕草をします。 そして「はい、ロボットくん。作業スタート」といいます。 その指示を受けて、作業開始です!
    おもしろい現象があります。 自分をロボットに見立てて作業を始めるんですが、 作業しているうちに自分がロボットであることを忘れるんです。 いつのまにか人間として作業を進めている自分がいます。
    もしかしたら、 人間が仕事を進めるためには、 適切な「ギアチェンジ」が必要なのかもしれません。
    仕事を始めるのがつらいという人は多いと思いますが、 それは、自分を最初からトップギアに入れようとするからかも。 いきなりトップギアで走ろうとしたらつらいのは当然です。
    まずはともかく進むローギアから。 そして最初の一歩を踏み出すために自分をロボットと見なす。 機械的な作業を進めながら、だんだん回転数が上がるのを待つ。 そしたらギアを上げて、仕事にノッていく。
    そのように考えると、 作業開始時に、自分をロボットのように見なすのは、 人間としての自分にやさしい態度なのかもしれませんね。 逆説的な話ですけれど。
     * * *
    Simplenoteの話。
    Simplenoteというサービスを愛用しています。
    Simplenoteというのは、 プレーンテキストをクラウドに保存しておくことができるサービスです。 クラウドにありますので、 iPhoneでメモした内容をあとからMacで編集することが非常に手軽にできます。
    Evernoteを使えばいいのでは、 という疑問が浮かびますが、Evernoteは起動するのが重いし、 たくさんのノートがすでにあるので、 気分的に「ちょっと書いておく」というアクションが取りにくいのです。
    長期的に保存するわけじゃなく、 ほんとうに「ちょっと書く」ときにはSimplenoteが便利です。
     ◆Simplenote  http://simplenote.com
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     あなたが学んでも学ばなくても、  世界はまったく変わらない。
     しかし、あなたが学べばあなたは変わる。
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    では、そんなところで、 今回の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    再発見の発想法 - ガベージコレクション
    ロマンティック数学ナイトへの出題、結城浩の《挑戦状》
    九九表から始まる冒険
    書くことで、不安を御す
    お絵描きして元気になろう
    おわりに
     
  • Vol.262 結城浩/外部要因を制御する/《問いかけ》が持つ危険性/

    2017-04-04 07:00  
    220pt
    Vol.262 結城浩/外部要因を制御する/《問いかけ》が持つ危険性/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年4月4日 Vol.262
    はじめに
    おはようございます。結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
    もう四月ですね。
    待望の春です!
    関東はあちこちで桜が見られるようになりました。 今週が見頃なんでしょうか。
    新年度、 新しい場所でスタートを切った方も多いでしょうね。 あなたのスタートはいかがですか。
    結城は今年に入ってから、 家庭の事情で何かと気ぜわしく、 仕事に十分な時間を注げない日々が続いています。 なかなかつらいです。
    でも、今年は晴れた日が多くて、 それだけでも気分はすこしよくなりますね。
    新刊となる『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』 の執筆もがんばっています。
    微分が瞬間の変化をとらえたものだとすれば、 積分は変化を集めていったものともいえます。
    季節の変化も、気分の変化も、 生きている証拠。
    生きているからこそ変化に出会い、 変化を感じ取ることができるのです。
    新しく巡ってきた春という季節を、 ていねいに過ごしていきましょう!
     * * *
    十年目の話。
    先日、編集部より、
     『数学ガール』が増刷になる
    という連絡が入りました。感謝です!
    今回の増刷で28刷。初版が刊行されたのが2007年ですので、 今年で丸十年になりますね。 読者さんが継続的に応援してくださること、 心から感謝しています!
     ◆「数学ガール」シリーズ  http://www.hyuki.com/girl/
     ◆いつも、ありがとうございますの図
     * * *
    黄金比の話。
    John D. Cookのブログで「黄金比φの冪乗は整数に非常に近い」 という話題が書かれていました。
     ◆Golden powers are nearly integers  https://www.johndcook.com/blog/2017/03/22/golden-powers-are-nearly-integers/
    黄金比φは、フィボナッチ数1,1,2,3,5,...の比の極限値に等しく、 具体的には(1+√5)/2=1.61803...という値です。 この黄金比の2乗、3乗、4乗、……を計算していくと、 非常に整数に近くなるというのです。
    上のブログでは、ちょっとしたコードを書いて確かめていました。 結城も同じようにちょっとしたコードを書いて確かめたくなりました。 以下にRubyで書いたコードがあります。
     ◆φ^n looks like an integer.  https://gist.github.com/hyuki0000/2e33150caa99195330a817fb07d98472
     ◆φ^n looks like an integer(スクリーンショット)
    このコードでは「黄金比を冪乗した値」と「その値を切り捨てた値」 との差を計算しています。すると……
     0.0  0.6180339887498949  0.6180339887498949  0.2360679774997898  0.8541019662496856  0.09016994374947629  0.9442719099991628  0.03444185374863906  0.9787137637478054  0.013155617496451555  0.9918693812442569  0.005024998740708497  0.9968943799850081  0.0019193787256881478  0.9988137587107531  0.0007331374365548982  ...
    のように、 どんどん0または1に近づいていくのがわかります。 とても興味深いことです。
    そして自分で「ちょっとしたコード」を書いて試すというのは、 自分の印象に強く残るということも実感しました。
    わずか5行のコードですけれど、 これを書くためには、 「黄金比の冪乗は整数に近い」という文章を理解し、 それをプログラミング言語で表現する必要があります。 そのプロセスを通り抜けることによって、 強く印象付けられるのかもしれませんね。
     * * *
    ネット時代を心穏やかに過ごす話。
    Twitterでいろんな人のツイートをながめていると、 ときどき、
     ・自分の考えにまっこうから反対の意見を述べるツイート  ・自分が大事にしているものを非難するツイート
    を見かけることがあります。
    当然ながら、 そのようなツイートを読むと心は穏やかではありません。 つい、その意見にリプライしたり、反論を試みたくなります。 そんな経験はありませんか。
    結城は、他人のツイートを読むときに、
     ……と、この人はツイートしている。
    あるいは、
     ……と、この人は考えている。
    などをツイートに付加して読むように心がけています。 そのようにすると、 心穏やかに過ごせるケースが多いのです。
    たとえば、
     「○○はまちがっている!絶対に△△だ!」
    というツイートを見かけたときには、
     「○○はまちがっている!絶対に△△だ!」  ……と、この人はツイートしている。
    と読み替えるのです。
    あるいはまた、
     「作家の□□が書いた小説はつまらんな!」
    というツイートを見かけたときには、
     「作家の□□が書いた小説はつまらんな!」  ……と、この人は考えている。
    と読み替えるのです。
    読んだときの印象がずいぶん変わりますよね。
    ツイートを通して、言葉は目に飛び込んできます。するとつい、 その言葉を額面通りに受け取ってしまいそうになります。 言葉には力があるからです。
    でも、実際は、ある特定個人のツイートにすぎませんし、 その人の個人的な考えの表明にすぎません。
     「    」……と、この人はツイートしている。
     「    」……と、この人は考えている。
    そのようにワンクッション置くことで、 違った景色が見えてくるものです。
    ネット時代を心穏やかに過ごすために、 ぜひ、試してみてください。
    ……と、結城は考えています。
     * * *
    報道機関の話。
    上に書いたのはTwitterのことですが、 報道機関についても同じような感覚は必要かもしれません。
    フェイク・ニュースとまでは行かなくても、 どんな報道機関も何かしらのバイアスは掛かっているものです。 ですから、ニュースを見聞きしたときにはニュース・ソースを確認して、
     「    」……と、○○新聞は考えている。  「    」……と、○○テレビ局は考えている。
    のように判断する必要はあるでしょうね。
     「社会を変えたい」と考える報道機関よりも、  「自分たちの考えに反することでも事実は事実として伝える」  と考える報道機関の方が社会を変える。
    結城はそのように考えています。また、
     「私たちは間違わない」と考える報道機関よりも、  「私たちは間違う。間違いは認めて訂正する」  と考える報道機関の方が信用できる。
    とも思います。
    報道機関が「社会を変えたい」と考えすぎると、 そのような考えに合致するニュースを強く報道し、 その考えに反するニュースを軽んじる危険性があります。 それこそがバイアスになります。
    報道機関が「私たちは間違わない」と考えると、 誤った報道をしてしまった場合の訂正が遅れる危険性があります。
    バイアスがまったく存在しない報道機関はありえないでしょう。 しかし、報道機関には科学的な態度が必要です。
    ここでいう科学的な態度というのは、 「現在の自分の考えが正しいとは限らない」というほどの意味です。
    自分の考えが正しいとは限らないという認識に立つと、 何かを報道するときでも注意深くなるでしょう。 自社の考えを補強するようなニュースだけを報じるのではなく、 社会のようすをできるだけ正確に報じる姿勢になるでしょう。
    これに関連して、 メダワーの書籍『若き科学者へ』も思い出しました。
     --------  ある仮説を真であると信じる気持の強さは、  それが真であるか否かには何の関係もない。  --------
     ◆『若き科学者へ【新版】』(ピーター・B・メダワー)  https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4622085305/hyuki-22/
    おりしも新学期。高校生・大学生に、 この『若き科学者へ』を強くお勧めいたします (結城は本書新版の巻末解説を書きました)。
     * * *
    発想をうながす話。
    結城は「発想をうながす」ことに関心があります。 それは、ふだん一人で仕事をしていることが多いからかもしれません。
    一人で仕事をしていると、 自分のふだんの発想だけで考えを進めてしまいがち。 そうすると話は広がらないし、新しいものを生み出すのは難しい。 ということで「発想をうながす」ことに関心があるのです。
    Twitterを見るのが好きなのも、それに関係がありそうです。 他人のつぶやきを眺めていると、そこで提示されている話題について、 つい考えてしまいます。他の人がツイートしていることなので、 ふだん自分が考えないような話題が出てきたりします。 それは確かに、自分の「発想をうながす」ことにつながっています。 職場で同僚とおしゃべりする感覚に近いかもしれませんね。
    以前、こんなサービスを考えたことがあります。 自分が持っている本(PDF化された本)の、 ランダムなページを自分にちらっと見せるというサービス。 もちろん、著作権の問題があるので、 パブリックなサービスにはできませんし、 結局実装もしませんでした。
    自分が持っている本は、自分が関心のある話題について書かれています。 ですから、その中身を「チラ見せ」することで、 自分の頭に刺激を与えることができるんじゃないかな、 と思ったのです。
    「チラ見せ」サービスは、 体系的に学ぶには不向きですけれど、 「理解のブレークスルー」を起こす効果があるように思います。
    学生時代なのでずいぶん昔の話になりますが、 アルゴリズムについて友人とおしゃべりしていたことがあります。 O(n)やO(log n)のようなアルゴリズムの「オーダー」 について私はまだ理解していませんでした。
    でも、友人が、 「アルゴリズムに掛かる手間はデータサイズnに依存するよね」 と一言いった瞬間に、 「なるほど!そういう概念なのか!」 と深く理解した経験があります。
    そのとき、概念を理解するための素材は頭の中に蓄えられていました。 その状態で、友人からの一言が刺激となって、 「理解のブレークスルー」を引き起こしたのですね。 あの体験は忘れがたいものでした。
    順序を追って学ぶのは大事なことです。でもそれとは別に、 友人の一言や、ちらっと見かけたツイートを通して、 頭の中で何かが発火して「理解のブレークスルー」を起こす。 そして、新しい発想がうながされる。 そのようなプロセスも、学ぶ上で大事じゃないかなと思うんです。
    ものごとの理解は、一直線に進むとは限らないからです。
     * * *
    とってもかわいいissueの話。
    Githubは、ソフトウェアを開発するWebサービスのひとつです。 多くのプログラマが日々ソースコードを公開したり、 バグ報告をしたりとGithubを使っています。
    先日、とってもかわいいissueの話題を知りました。 バグや質問などを報告するissueとして、 このような謎の書き込みがあったのです。
     --------  ///333333333333333333333333333  333333333333333333333333333333  33333333333333333333333333333333-g=-[=  --------
    まるで暗号ですね。そしてその直後、 この投稿を行ったjake01859氏が、こう書き込みました。
     --------  Cat walked over the keyboard sorry guys.  (猫がキーボードの上、歩いたんだよ。ゴメン、みんな)  --------
    猫がキーボードを歩いたために、 謎のissueが投稿されてしまったのですね。
    猫の様子を想像して、たいへん和みました!
     ◆猫のissue(スクリーンショット)
    それに続く開発者たちのコメントも、 駄洒落を書いたり、猫の歩いたようすを解析したり、 猫がいないから再現できないといったり…… たいへん楽しいものでした。
     ◆猫のissue  https://github.com/antirez/redis/issues/3909
     * * *
    では、そんなところで、 今回の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    外部要因を制御する - 仕事の心がけ
    《問いかけ》が持つ危険性
    執筆が進まないのには理由がある - 本を書く心がけ
    またね!
    おわりに