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  • Vol.213 結城浩/悩みつつ『数学ガール6』を書いている - 本を書く心がけ/結論は特にないけれど/

    2016-04-26 07:00  
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    Vol.213 結城浩/悩みつつ『数学ガール6』を書いている - 本を書く心がけ/結論は特にないけれど/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年4月26日 Vol.213
    はじめに
    おはようございます。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
    熊本地震で被災なさっている方に、 心よりお見舞い申し上げます。
    (ここに、お見舞いの言葉を何回か書いては消し、 書いては消ししたのですが、 やはりどうにも言葉になりません。ごめんなさい。 心よりお見舞い申し上げますとだけ……)
     * * *
     * * *
    新刊の話。
    『数学ガールの秘密ノート/場合の数』が発売です。
    発売直後にアマゾン数学一般書でランキング一位となりました。 応援ありがとうございます!
     ◆ランキング一位の記念撮影(スクリーンショット)
    今回は、「紙の本」とKindleやKoboなどの「電子書籍」が同日発売となりました。 これは出版社であるSBクリエイティブさんの尽力によるものです。 ありがたいことに、Kindle本も数学書でランキング一位。 ほんとうにうれしいです。感謝!
    電子書籍の刊行に合わせて編集部から、 Webですぐに読める《立ち読み版》が提供されています。 表紙から25ページまで読むことができますので、 「どんな感じなのかな」という方はチェックしてみてください。
     ◆『数学ガールの秘密ノート/場合の数』《立ち読み版》  http://ul.sbcr.jp/MATH-SJddk
    一部のチェーン書店さんでは《結城浩のメッセージカード》 が同梱された書籍が販売されています。 Twitterでは、いろんな方が「メッセージカード入ってました!」 というツイートをしてくださっています。 ありがとうございます!
     ◆『数学ガールの秘密ノート/場合の数』メッセージカード取扱店情報  https://note.mu/hyuki/n/n5f9733f8cefc
    当然ですが、新刊が出て、 多くの方からあたたかく迎えられるとホッとします。
    本を書くのは泥臭くて地道な作業で、いわば《ケ》になりますが、 新刊が出るのはいわば《ハレ》のときになりますね。
    これからもがんばって書き続けていかなくては。
     ◆『数学ガールの秘密ノート/場合の数』  http://note7.hyuki.net
    そして懸案事項は『数学ガール6』です。 後ほど少し苦労話をお話しします。
     * * *
    英語版の話。
    「数学ガール」と「数学ガールの秘密ノート」両シリーズは、 英語版も出ています。
     ◆Math Girls  http://www.hyuki.com/girl/en.html
    「数学ガール」シリーズでは、これまで、 『数学ガール』と『数学ガール/フェルマーの最終定理』 という二冊だけが刊行されていました。
    このたび、いよいよ三巻目の『数学ガール/ゲーデルの不完全性定理』 が刊行されることになりました。
    英語版を出版しているBentoBooksさんでサンプルPDFが公開されていますので、 ぜひご覧ください。有名な 0.999... = 1 の章ですね。 ちょうど先週の結城メルマガで話題にしたところです。
     ◆Math Girls 3: Sample Chapter(PDF)  http://bentobooks.com/resources/MG3-Sample.pdf
    実際の書籍については、 現在アマゾンで予約受付中になっています。
     ◆Math Girls 3: Goedel's Incompleteness Theorems  http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/1939326273/hyam-22/
    以下は既刊です。
     ◆Math Girls  http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0983951306/hyam-22/
     ◆Math Girls 2: Fermat's Last Theorem  http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0983951322/hyam-22/
    なお「数学ガールの秘密ノート」シリーズの英語版は、 "Math Girls Talk about ..." (数学ガールが…についておしゃべりする) というシリーズ名で三巻まで刊行されています。 やさしい数学をナチュラルな英語といっしょに学ぶというのも楽しいかも?
     ◆Math Girls Talk about Equations & Graphs(式とグラフ)  http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/1939326192/hyam-22/
     ◆Math Girls Talk about Integers(整数で遊ぼう)  http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/1939326230/hyam-22/
     ◆Math Girls Talk about Trigonometry(丸い三角関数)  http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/1939326257/hyam-22/
     * * *
    数学を学ぶ人のための読書リストの話。
    春。
    新学期。
    ということで、 西原史暁さん( @f_nisihara )が、 「これから数学を学ぼうと思った人のための読書リスト(2016年4月版)」 という記事を公開していましたので、ご紹介します。
     ◆これから数学を学ぼうと思った人のための読書リスト(2016年4月版)  http://id.fnshr.info/2016/04/22/math201604/
     * * *
    コードとコメントの話。
    先日、コードにコメントを書く/書かないという話題を見かけた。
    「コード」というのは、プログラムのソースコードのこと。 いくつかの処理の後、 コンピュータに与えると実際の動作を行うためのものだ。
    「コメント」というのは、コードに対してプログラマが書く注釈のこと。 このコードは何を行うためのものなのか、注意すべき点は何か、 そのようなことがコードに添えて書かれている。
    コメントがまったく書かれていないコードは、 数式だけが書かれた証明に似ている。
    論理的には問題はないけれど、 その意味を人間が理解するためには障害になる(ことがある)。
    複雑な構造物を説明するときに《二回記述》することは大事だ。 一つのものが二回記述されていると、理解しやすくなる。
    もしもその二つの記述のあいだに矛盾があるなら、 何かおかしいことが起きているのだとわかる。 すなわち、エラーの《検出》ができる。
    ただし、二つでは多数決をするわけにはいかないから、 二つの記述のどちらに誤りがあるかを訂正するまではいかない。 すなわち、エラーの《訂正》までは至らない。
    プログラムの「読者」は二人いる。 コンピュータと人間だ。 コンピュータはコードだけを読み、動作する。 人間はコードとコメントを読み、メンテナンスする。
    二つの記述を同じ観点で行うのは意味がない。 なぜなら、同じ観点で書いた場合にはエラー検出しにくくなるからだ。 だから、コードと同じことをコメントに書くのは無意味だ。
    一回目はインフォーマルに、 二回目はフォーマルに記述するのは一法である。 コメントはインフォーマルな記述、 コードはフォーマルな記述といえなくはない。
    ただし、すべてのコードにコメントを付けるのは、 これまた意味はない。 多すぎるコメントは人間という読者への負担となるからだ。
    適切なコメントを書かないプログラマは、 読者としてコンピュータしか想定していない。 コメントを書くか書かないか、という単純な話ではなく、 適切なコメントは何か、どう書くのが「読者」に寄与するのか、 それを考えるのが正しい姿勢だろう。
    つまり、プログラムを書くという行為でもまた、 《読者のことを考える》という原則が有効なのである。
    読みやすいコードについての最近の定番書はこちら。
     ◆『リーダブルコード』  http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4873115655/hyam-22/
     * * *
    オリジナリティについて。
    ふと思ったこと。
    本を書くときに「ネタ元」というものがある(場合がある)。 たとえば結城は数学者ではないので、 自分が本の中に書く数学的内容というのは、 どこかの本を見て学んだ内容であることがほとんどだ。
    結城が書く本の末尾には参考文献や読書案内が書かれていて、 参考にした本が列挙されていることが多い。 あえていうならば、それらの本が「ネタ元」といえる。
    数学的内容を学びたいならば、 それらの参考文献を読めばだいたい書いてある。 少なくとも情報としては書かれていることが多い。
    だとしたら、 わざわざ結城が新しい本を出す意味はどこにあるのか。
    結城の本を読むよりも、 参考文献に書かれている本を並べて読む方がいいというのなら、 そうすることは可能だ。 もし読者がそうしないとすれば、 読者は結城の本に何らかの価値を見出しているからであろう。
    オリジナリティというのは、 その価値の一部をなすものではないか、 と思っている。
    料理のメタファは有効だ。 食材という素材があって、料理法があって、 具体的に提供される料理がある。 料理に対して、 「素材が同じなら、お腹の中に入ってしまえば、栄養的には一緒」 なんて言う人はいない。素材をどう料理して、 美味しく楽しく食べてもらうか。そこにオリジナリティがある。
    料理の価値は食べる人が決める。
    本の価値は読む人が決める。
     * * *
    フォロワーさんの数の話。
    結城はTwitterが大好きで、毎日たくさんツイートしています。
    先日、結城をフォローしてくださる「フォロワーさん」の人数が、 なんと3万1000人になっていました。たくさんの人がフォローしてくださるのは、 うれしいことです。結城のことをごひいきにしてくださっているということですから。
    といっても大事なのはその人数ではなく、 ひとりひとりの方だと思っています。 そのつもりで、毎日のツイートをしていきたいな (まじめなものも、気楽なものも)。 メッセージはいつも《あなた》に向けて送られるのですから。
    とはいうものの、 人数をまったく意識しないわけではありません。
    あ、それで思い出しました。
    先日、ある方から、 「自分がTwitterでツイートするとよくもめごとになってしまう。 それからフォロワーさんが増えない。どうしたらいいだろう」 というご相談を受けたことがあります(オフラインで)。
    結城はもちろん「正解」はもっていませんが、 その方の話をもっと具体的にお聞きし、 思うところをその方にお話ししました。
    そこでのポイントは二点。
    一つ目は「相手を論破しようとしない」ということ。 論破しようとか、相手の考えを正そうとか、 自分の力で相手を変えようと思わないこと。 論破されて行動を変える人は少ないものです。
    二つ目は「自分と相手の二人だけのやりとりのように見えても、 とても多くの人がそのやりとりを見ている」ということ。 Twitterではつい、 一対一で話しているような錯覚を起こしてしまいがち。 目の前の相手に集中して話すのはいいが、 意識のどこかでは必ず「他の人から見られている」ことを忘れないのは大事。
    僭越ながら、そんなことをお話ししました。 何かの役に立てばいいのですけれど。
     * * *
    では、今週の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    悩みつつ『数学ガール6』を書いている - 本を書く心がけ
    結論は特にないけれど、の話
    専門家について
    おわりに
     
  • Vol.212 結城浩/学びについて/魅力的な話ほど注意が必要/《あの人》に伝えるために/

    2016-04-19 07:00  
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    Vol.212 結城浩/学びについて/魅力的な話ほど注意が必要/《あの人》に伝えるために/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年4月19日 Vol.212
    はじめに
    おはようございます。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
    熊本地震で被災なさっている方に、心よりお見舞い申し上げます。
    被災していない地域でも、 ほとんどの方が被災している方のことを思い、 何かできることはないかという気持ちになっているでしょう。
    被災していない地域から、 何か被災地のためになることをしたいなら、 公的機関を使ってお金を送ることが、 最も効果的ではないかと思っています。
    たとえば、日本赤十字社では「平成28年熊本地震災害義援金」 を受け付けています。
     ◆「平成28年熊本地震災害義援金」の受け付けを開始します(日本赤十字社)  http://www.jrc.or.jp/press/160415_004210.html
    現在も非常に多数の方が避難所で生活なさり、 また場所によっては孤立状態になっている方々もいらっしゃいます。 本当に大変な状況の中でご苦労なさっている方々の、 身体と心の安全を祈っております。
     * * *
    新刊の話。
    先日の土曜日から、 結城の新刊『数学ガールの秘密ノート/場合の数』の先行販売として、 サイン本が一部の書店さんに並び始めました。 数に限りがありますので、土日で完売になった書店さんもあるようです。
     4月16日(土)以降、一部の書店さんでサイン本先行販売  4月19日(火)以降、全国の書店さんで販売
    また、サイン本以外の通常本でも、一部のチェーン店さんでは、 結城が書いた《メッセージカード》が同梱されて販売されます。 こちらはサイン本よりもずっと数が多くなりますので、 ぜひチェックしてみてください。
     ◆『数学ガールの秘密ノート/場合の数』メッセージカード取扱店情報  https://note.mu/hyuki/n/n5f9733f8cefc
    サイン本情報、メッセージカード情報については、 以下のページからもリンクされています。
     ◆『数学ガールの秘密ノート/場合の数』  http://note7.hyuki.net
    ようやく販売までたどりつきました。 「数学ガールの秘密ノート」シリーズは、 今回の「場合の数」で7冊目となりました。 これからもがんばって執筆を続けていきますので、 引き続き応援をよろしくお願いいたします。

    もちろん、「秘密ノート」シリーズだけではなく、 『数学ガール6』の方も、がんばって書いていきますよ!
     * * *
    本を買う話。
    結城は ask.fm というインタビューサイトで質問に答えています。 以下は、そこに出てきた質問への回答に加筆したものです。
    質問
    結城さんは、買う本を選ぶときに規準にしていることはありますか。
    回答
    「誰が書いた本であるか」は、 購入するときに参考にしている大事な情報の一つです。 自分が過去に読んだことがあり「この著者はいい本を書く」 と認識している著者の本は積極的に買っていますね。 ここでいう「いい本」は、 「書かれていることに、ある程度の信頼がおける本」 という意味合いです。 買った本を読んでいて「これは信頼できない本だな」 と感じたときは、そこで読むのをやめます。
    それから、本を買うときには「値段」 をあまり気にしないようにしています。 時間を買うことがお金のよい使い方であり、 本を買うことは、時間を買うことにつながる場合が多いからです。
    アマゾンのマーケットプレイスなどで中古書を買うこともあります。 しかし、中古で買うのは絶版の場合がほとんどで、 値段が安いから中古で買う、という選択はあまり行いません。
    結城の仕事は本を書くことであり、 自分が読む本というのはいわば商売道具。 必要な本は高くても買います。不要な本は安くても買いません。 これはいわば「心意気」の問題だと思っています。
    調べ物で図書館はよく使います。 そこで見つけたよい本を改めて買うこともよくあります。 結城は本にぐちゃぐちゃと書き込みをして読むので、 買うことは無駄になりません。 図書館の本に書き込みはできませんからね。
    本を買うときには以上のようなことを考えています。
     * * *
    エラーの話。
    先日、Wiredの翻訳記事を読みました。
     ◆ギークママ、月へ行く   「アポロ計画」を支えた女性プログラマーの肖像   Her Code Got Humans on the Moon  http://wired.jp/special/2016/margaret-hamilton
    人類を月に送った「アポロ計画」の背後で活躍した、 マーガレット・ハミルトンの記事です。 にこにこしている眼鏡の女の子の写真にひかれて読み始めたのですが、 とても興味深い内容でした。
    特になるほどと思ったのは、エラー処理のくだり。 ハミルトンが、あるエラーチェックのコードを追加しようとしたら、 「宇宙飛行士はそんなミスをしないよ」と上層部に却下されてしまう。 ところがアポロ8号の宇宙飛行士が、 まさに「そんなミス」をしてしまうというエピソードです。
    いつの時代でも、 エラーは起こるべくして起きるのだなと感じました。
     * * *
    送信取り消しの話。
    エラーといえば、 「まちがった相手にメールを送信してしまった」 という経験は誰しもあると思います。
    結城は使ったことがありませんが、 Gmailでは「送信の取り消し」を設定できるそうです。 「送信取り消し」を有効にしておくと、 指定した秒数だけ、送信を保留にしてくれるようですね。
     ◆メール送信の取り消し  https://support.google.com/mail/answer/1284885
    まちがった相手にメールを送るとき、 特に問題になるのは添付ファイルです。 重要な情報をわざわざzipでまとめ、 それをまちがった相手に送信したら大変なことになります。
    結城は、編集部に原稿ファイルを送るときにはDropboxを使います。 zipファイルをDropboxに保存しておき、 そのzipファイルへの共有リンクを編集部にメールするのです。 共有リンクを受け取った編集部は、 Dropboxからダウンロードすることになりますが、 その場合、Dropboxのアカウントを編集部が持っている必要はありません。
     ◆他の人とファイルまたはフォルダを共有するには?  https://www.dropbox.com/ja/help/274
    Dropboxのようなクラウドストレージ経由でファイルを渡せば、 万一メールの送付先をまちがえたとしても安心です。 相手がファイルをダウンロードする前に共有を切ってしまえば安全だからです。 メールにファイルを添付していたら、もう取り戻せませんが、 共有リンクを使えば、 相手がダウンロードするまでの間に時間の余裕があるのです。
     * * *
    ムックの話。
    結城のコラム記事(2頁分)が掲載されているムックが刊行されましたので、 ご紹介いたします。
     ◆『仕事ですぐ役立つ Vim&Emacsエキスパート活用術』  http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4774180076/hyam-22/
     * * *
    リボ払いの話。
    先日、こんな記事を見かけました(注意:2012年の記事です)。
     ◆リボ払いを計算した   とんでもなく損をしていた事がわかった話  http://camatome.com/2012/07/ribobarai-keisan-son.php
    クレジットカードで支払い方法の選択肢の一つに「リボ払い」があります。 「いくら使っても、支払いは毎月一定額にできる」という方法です。 でもよく計算してみると、 毎月5000円定額のリボ払いで、20万円の買い物をすると、 合計で25万円の支払いになることもあるとのこと。
    そもそもリボ払いでは、年利(実質手数料)が非常に高く、 毎月の支払いを抑えるために借入期間が長くなります。 つまり「高金利で長期」という借金をしている状態ですね。 上の記事は2012年のものですが、現在でもたとえばJCBは15%です。 この低金利時代に「年利15%」の借金というのはそれだけでも恐い話。
    お金に関わるリテラシーというのは大切なことですね。
     * * *
    「写経」の話。
    先日 @tatesuke さんという方が、 『数学文章作法 基礎編』を全文「写経完了」したというツイートをなさっていました。
     ----------  数学文章作法基礎編、写経完了。いやーやはりいい本だった。  書き写してて惚れ惚れした。  「読者のことを考える」こと。確かに伝わりましたよ結城さん!  https://twitter.com/tatesuke/status/717941984879517696  ----------
    つまり、この方は結城の本を一冊まるごとタイプし直したのです(!)。 二月の半ばから四月のはじめまで(途中数週間休みつつ)掛けたとのこと。 びっくりですね。 結城は、この方の経験が必ず文章作成に大きく役立つはずだと思います。
    あなたは、他の人の文章をタイプしてみたことはありますか。 結城は、文章の練習として、 短編小説を何回か「写経」したことがあります。 時間が掛かって非常にたいへんですが、 多くを学べるのは確かですよ。
     * * *
    解説文の話。
    ある出版社さんからメールが来ました。 書籍を復刊したいが、その本の巻末に結城の解説文を付けたいという依頼です。 あまりこういうお仕事はしていないのですが、 書籍のチョイスが絶妙だったのでお引き受けすることにしました。 どんな書籍かは、お仕事がもっと進んでから公開します。
    解説文を書く仕事を引き受けた……とはいうものの、 それほど簡単な仕事ではありません。 結城にとって、いつもと違う頭の使い方をすることになるからです。
    まず、解説文を書くもとの書籍がありますから、 そこから話を逸脱するわけにはいきません。 これは当然ですね。 いつもならば自分の好きな話題を好きなように書けばいいのですが、 解説文を書くときにはそうは行きません。
    だからといって、もとの書籍の要約文が求められているわけでもありません。 少なくとも、今回依頼された書籍に関しては違います。
    そのように考えていくと「この本の解説文を書く仕事には、 いったいどんな意味があるんだろうか」という方向に意識が向かいます。 「すでに書籍としてまとまったものがここにある。 それに対して何らかの文章を付け加えるというのは、 どういうことだろう」と考えたくなりますよね。
    そして、そう考え始めると「解説文を書く」という仕事が、 急激に魅力的に見えてきます。なぜなら、 ここには「解かれるべき謎」が隠されているからです。 蛇足にならないような解説文とは何か、 そのような謎を解かなくてはいけません。
    ここで、文章を書くときの原則を思い出します。 すなわち《読者のことを考える》です。 この本を読者が手に取り、読み進めるときのようすを想像する。 そこから正しい道が見えてくるはずです。
    ヒントは、 今回解説文を書く本が「復刊される本」という点にありました。 すなわち、この本が出版されたのはずいぶん昔のことなのです。 そのような本に対して解説文を書く意味は何か。
    結城は、今回の仕事の意味は、
     「この本が《現代という時代》に果たす役割を読者に示す」
    ところにあると考えました。 そのまま復刊させたときに生じる誤解や誤読を防ぐための情報、 補足的な解釈、そのようなものが求められているのだ、 と仮説を立てました。
    編集者に確認を取って、その方向性でまちがいがないことを確かめ、 現在作業を進めているところです。
    復刊する書籍の解説文を書く、というこの仕事については、 また変化がありましたらアナウンスしたいと思います。 どうぞお楽しみに。
     * * *
    Web連載の話。
    Web連載「数学ガールの秘密ノート」の新シーズンが始まりました。 第151回〜第160回の10回は、
     「数を作ろう」
    をテーマにして彼女たちの数学トークが進みます。 毎週金曜日Cakesで更新されますので、応援してくださいね。 金曜日の7:00〜土曜日の7:00の24時間は無料で読むことができます。 また、150円で一週間、Cakesの全記事を読むことができます。
     ◆Web連載「数学ガールの秘密ノート」  https://bit.ly/girlnote
     ◆「数を作ろう」シーズンロゴ《ハートのシングルトン》
    (シングルトンというのは、 数学では「要素が1個しかない集合」のことを意味します)
    新シーズンのWeb連載も応援してくださいね。
     * * *
    では、今週の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    学びについて
    魅力的な話ほど注意が必要 - 文章を書く心がけ
    シンプルライフについての対話
    《あの人》に伝えるために - 文章を書く心がけ
    季節は初夏へ…
    おわりに
     
  • Vol.211 結城浩/再発見の発想法/「どうして?」/妬みについて/対話を通じて深い学びに至る/

    2016-04-12 07:00  
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    Vol.211 結城浩/再発見の発想法/「どうして?」/妬みについて/対話を通じて深い学びに至る/
    結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年4月12日 Vol.211
    はじめに
    おはようございます。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
     * * *
    新刊の話。
    いよいよ『数学ガールの秘密ノート/場合の数』刊行です! 現在わかっている日程は以下の通りです。
     4月15日(金)一部の書店さん向けサイン本の作成  4月16日(土)以降、一部の書店さんでサイン本先行販売  4月19日(火)以降、全国の書店さんで販売
    いつものことですが、日付はあくまで目安です。 流通の都合により、数日単位でずれることがあります。
    サイン本取り扱い書店さんについては、情報を入手でき次第、 TwitterやWebなどでアナウンスしたいと思います。
    また、サイン本とは別の話になりますが、 いくつかの書店さんでは《結城浩のメッセージカード》 が同梱された書籍も刊行されます。 メッセージカードが同梱された書籍は、 サイン本と比べて冊数も多くなりますので、 入手しやすいと思います。 メッセージカード取り扱い書店さんは、 以下に掲示してあります。
     ◆『数学ガールの秘密ノート/場合の数』メッセージカード取扱店情報  https://note.mu/hyuki/n/n5f9733f8cefc
    『数学ガールの秘密ノート/場合の数』は秘密ノートシリーズの第7作目。 どうぞ応援よろしくお願いいたします!
     * * *
    視覚に障害がある人がプログラミングする話。
    以下のQiitaのページでは、 視覚に障害がある @moutend さんがプログラミングをする様子が描かれています。 あなたもぜひお読みください。
     ◆目が見えなくてもプログラミングできるよ  http://qiita.com/moutend/items/2696139d0b96805ea415
    この方は、コンピュータの音声読み上げ機能を使い、 音声を頼りにプログラムを書きます。
    以下の動画では、この方が、 「SafariでSlackの設定ページを開いてトークンを発行する」 というGUI操作を行っている様子が記録されています。
     ◆音声だけを頼りにプログラミングしてみた - YouTube  https://www.youtube.com/watch?v=sAi_Yf4GOS4
    スクリーンリーダーを利用し、 画面にあるものを音声としてコンピュータに読み上げさせ、 その情報をもとに操作を行っています。
    この動画を見ると、すごい……というか、 何というか言葉を失ってしまいます。 感動、というと安っぽい表現になってしまいますが、 やはり感動、なのでしょう。
    この記事の最後の文章を以下に引用します。
     --------  視覚障害のためにエンジニアとしての能力が  阻害されることがあってはならないと考えています。  また、視覚障害があってもコーディングしている人  という存在を当たり前のものにしたいと私は考えています。  http://qiita.com/moutend/items/2696139d0b96805ea415  --------
    うん、そうか。 ということは、感動するだけじゃなくて、 視覚障害者であっても、 プログラミングしている人がいるということを、 みんなで広く伝えるべきなのかもしれませんね。
     * * *
    批判の話。
    結城はTwitterでしょっちゅうツイートしている。 一般論として批判的な考えをツイートすることもあるが、 個人を批判することは少ないはずだ。
    結城の主張は、そのほとんどが誰か個人への批判ではない。 でも、つい「誰かを批判するわけではないが」 と注意書きをつけてしまう癖がある。
    たぶん、批判することも、 「批判しているだろう」と批判されることも嫌いなのだろう。 そのように自己分析している。
    結城が個人を批判するときには、ほとんどの場合、 ちゃんと名ざしにするか、 本人にメールやメッセージで(クローズドな方法で)伝えるように心がけている。
    「ほのめかし」で個人批判はしないようにしている。
    批判といえば、 飯間浩明さん(@IIMA_Hiroaki)がこんな話を書いていた。
     ------  前にも述べましたが、  日本語の形容詞(「〜い」)は  プラスの感情(嬉しい、楽しい)に比べて  マイナスの感情(憎い、悔しい、怖い、恥ずかしい)が格段に多い。  人はプラスよりマイナスの気分の時のほうがものを言いたがるからでしょう。  我々は放っておくと愚痴、中傷、批判ばかり口にするとも言えます。  https://twitter.com/IIMA_Hiroaki/status/687563291032330240  ------
    なるほど。気を付けたい。
     * * *
    校閲の話。
    Twitterの @mainichi_kotoba さんは、 毎日新聞・校閲グループのアカウントです。 普段から新聞の「校閲」に関係したツイートを行っています。
    先日、以下のツイートで、
     「今でもマンガは人気な娯楽のようだ」
    を、
     「今でもマンガは人気の娯楽のようだ」
    に直すという話題が出てきました。
     https://twitter.com/mainichi_kotoba/status/711757483845492736
    確かに「人気な娯楽」よりは「人気の娯楽」がしっくりきます。 でも改めて、
     「今でもマンガは人気の娯楽のようだ」
    という文を読むと、 今度は「の」が重なるのが気になります(気になりませんか?)。 結城だったら、何回か読み返して気になるようなら、
     「今でもマンガは人気の娯楽らしい」
    のように直したくなります。 こうすれば一つ「の」を減らせるからです。
    校閲の直し方と著者の直し方は観点が違う、 といえる話なのかもしれません。
     * * *
    相互再帰的なツイート二つ。
     ◆「すでに寝てる」と「さっきまで寝てた」
    楽しみのために描いたものなので、 特に深い意味はありません。 でも何だか、この二つの画像は《相互再帰的》という感じがします。
     * * *
    本を書く話。
    「本を書く話」というのは、この結城メルマガでよく書いていることです。 でも今回は結城が書く本の話ではありません。
    先日「結城さんの文章に背中を押していただき、 プログラミングの本が書けました」というメールをいただきました。 Pythonの入門書を書いたというエンジニアの鎌田正浩さんからです。 結城の文章に背中を押されたとのこと。
    鎌田さんが読んだのは、 結城が2006年に書いた以下の日記(をnote.muに再掲したもの)です。
     ◆「もっと学んでからにしよう」と思わなくて、本当によかった  https://note.mu/hyuki/n/n9c65b161bd8a
    結城が10年も前に書いた文章が他の人のはげましになるなんて (しかも書籍執筆に関わるなんて)、本当に感激です。 鎌田さんのメールは、許可を得て以下で紹介しています。 書籍執筆に関心のある方はどうぞ。
     ◆「結城さんの文章に背中を押していただき、プログラミングの本が書けました」  http://www.hyuki.com/d/201603.html#i20160322120000
     * * *
    数学ガールの読み方の話。
    結城は、多くの人から、
     「数学ガールという本を自分が読んで全部わかりますか?」
    と尋ねられます。 あの本を読んでまったくわからない人は一人もいないです。 でも、すべてをわかる人も(数学者をのぞき)一人もいないです。 一度ですべてをわかるものではありません。 『数学ガール』は、中高生から、半年くらいの間をおいて、 繰り返し読むときに真価を発揮すると思います。 そして、誰からも言われないのにそのことに気付き、 実践している読者さんがけっこうな人数いらっしゃいます。
    『数学ガール』や『数学ガールの秘密ノート』は、 参考書とは違うし、問題集とも違うし、もちろん数学書とも違います。 ときどき読んで、彼女たちと話し合って、自分の力を試すような、 数学とどれだけ「お友達」になったかを試すような本です。
    これさえ読めば入試ばっちり! というたぐいの本ではありません。 でも、これらの本を読んで「数学が好きになった!!」 という人はたくさんたくさんいます。これは本当。
    必ずしも成績が良くなるとは限らないけど、 結城の本を読んで数学が好きになった人はとてもとてもたくさんいます。 特に、頭が良くて成績もいいけど、授業ではいまいち数学を好きになれなかった人。 そんな人が結城の本を読んで、 「そうか!数学はそういうおもしろさをもっているのか!」と気付く。 「数学書って、好きに読んでいいんだね! 知らなかった!  自由に先に進んでいいんだ!うれしい!」と言いながら、 ザクザク読んでいる人もいます。素晴らしい。 感謝である。
     * * *
    教師に望むこと。
    教師が、生徒の可能性をせばめてはいけない。 教師は、生徒の力をそれぞれに見抜き、適切なガイドをしてほしい。 生徒は、教師よりもずっと未来まで生きる。 生徒に有効な「武器」を与えてほしい。
    教師は生徒に自分のすべてを伝える。 そして「私があなたに伝えられることはここまでだ。 あとはあなたが学びなさい。力一杯学びなさい」という。 「あなたは私が見られなかった世界を見るだろう。 その素晴らしさを、いつか教えてほしい」という。
    結城が教師に対して期待するのは、そのような態度だ。
    けれど、それは、ファンタジーに過ぎないのだろうか、 結城は夢を見すぎているのだろうか。どうだろう。
     * * *
    頭をぶつける話。
    ラブコメのドジっ娘は、何もないところでよくコケます。 結城は、誰もぶつけないところによく頭をぶつける。
    妻からよく言われます。 「あなたはどうしてそんなに頭をぶつけるの?」 やさしい妻は、 「賢すぎるから、すこしぶつけて調整してるの?」 とフォローしてくれますが、単なるドジっ子だと思います。
    なぜそんな話を書いているかというと、 先日、道ばたの看板に頭をしたたか打ったから。
    いたた……

     * * *
    では、今週の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    再発見の発想法 - カーソル
    「どうして?」の話
    妬みについて
    対話を通じて深い学びに至る態度
    おわりに
     
  • Vol.210 結城浩/まず、書きましょう/お金の話/愛する人と交わす最後の言葉/

    2016-04-05 07:00  
    220pt
    Vol.210 結城浩/まず、書きましょう/お金の話/愛する人と交わす最後の言葉/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年4月5日 Vol.210
    はじめに
    おはようございます。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
    四月です! 春です!
    桜の季節……なのですが、 ここ数日体調を崩して家にこもっていたので、 あまり桜を見ることができていません。
     * * *
    最新刊の話。
    『数学ガールの秘密ノート/場合の数』の準備は着々と進んでいます。 すでに結城の手から原稿は離れ、編集部の手からも離れ、 お仕事の中心は印刷所の方に移りつつあります。
    結城に残っている仕事は、 刊行と同時に書店さんに送られる本にサインをすること。 これは4月半ばになるでしょう。
    毎回毎回、本を作るたびに思うのですが、 著者の側で「さ、これで原稿はだいたいできあがったな」という状態から、 書店さんに並ぶまでのギャップはとても大きいですね。
    恐らく「原稿はだいたいできあがったな」という状態でも、 多くの読者さんが読んであまり大きな問題は起きないと思います。 話の流れが大きく変わることは少ないからです。
    でもその状態から、 編集さんやレビューアさんの指摘を受けて、 微妙な調整を何度も繰り返していく。 「てにをは」を直し、図版を作り直し、問題を入れ換える。 そうすることで、目に見えない品質向上が積み重なっていく。 ぎりぎりまで「最後の詰め」として、改善を続ける。
    (てなこと書いていたら、 編集部から最終チェック用のPDFがやってきました。 図版に一箇所ミスがあったという指摘と、 「付けよ」は「付けよう」のミスではないかという指摘。 編集部もぎりぎりまで「最後の詰め」を行っています)
    この最後の詰めがあるかないかで、 「文章を読んだ読者に、意味が伝わる」 という状態から、 「文章を読んだ読者が、言葉にできない何かを得る」 という状態に変わるのかもしれない。
    そしてまた、最後の詰めがあるかないかで、 ロングセラーとして生き残る本になるかどうかが変わる。
    そんなふうに思います。
     ◆『数学ガールの秘密ノート/場合の数』  http://note7.hyuki.net/
     * * *
    大学入試の話。
    平成28年度鹿児島大学の入試で、 結城が書いた『数学文章作法 基礎編』からの出題がありました。

    出題されたのは、一般入試(後期日程)の「小論文」(工学部)。 問1から問3までのうち、問2が結城の文章からの出題です。 結城が書いた「解説文」を踏まえて設問(1)と設問(2)に答えるように指示があります。
    設問(1)は、結城が書いた「悪い例」と「改善例」が提示され、 「上の改善例では悪い点をどのように改善しているか」 という出題。設問(2)は、 ある図形の作図手順を文章で説明せよという出題です。
    問2を抜粋したPDFを以下にリンクします。
     ◆平成28年度鹿児島大学入試問題より(問2)  http://img.textfile.org/2016-03-31_exam.pdf
     ◆『数学文章作法 基礎編』  http://mw1.textfile.org/
    結城の文章は過去にも入試などで何回か題材になっています。
    法科大学院全国統一適性試験(2011年)では、 「長文読解力を測る問題」として『暗号技術入門』からの出題がありました。
    佐賀大学医学部の入試問題(2011年)では、 『数学ガール』の第3章「ωのワルツ」からの文章が引用され、 数式の穴埋めと下線部分の数学的記述を図示せよという出題がありました。
    いずれにしましても、 私が書いた文章を《入試》という大切な場面で使っていただけるなんて、 たいへん光栄なことですね。
     * * *
    会話の話。
    最近、Amazon プライムビデオでPeeping Lifeという短いアニメ連作を見ています。 味わいを伝えるのが難しいので説明はしませんが、 日常の中の会話を微妙にねじっておかしみを産むというコメディです。
    結城が気に入ったのはリアリティについて。 普通のドラマだと、登場人物の発言がぶつかることってほとんどないですよね。 Aさんが話しているときはBさんが聞き、Bさんが話すときはAさんが聞く。 両方が同時に話すときというのは、そういう劇的な効果を狙ったときだけ。
    でもこのPeeping Lifeでは、 登場人物の会話はしょっちゅうぶつかります。 ちょうど、それは私たちの日常会話と同じように。 そして、無意味のように見える「間」もあきます。 これもまた私たちの日常会話と同じ。
    Peeping Lifeのストーリー自体はたいしておもしろくはないのですが(失礼)、 この会話のぶつかりや「間」が自然で、ついつい見てしまいました。 ほんとうにリアルな他人の会話をのぞいている気持ちになるのです。 このタイトルPeeping Life(生活ののぞき見)の通りです。
    一個一個の物語は短いので、 移動のちょっとした時間にiPhoneで観ていたのですが、 Peeping Lifeを見過ぎた影響で、 電車の中の何気ない会話が全部Peeping Lifeに聞こえてしまう という不思議な気分になりました。
    特に「おもしろいですよ!」とお勧めするものではないのですが、 いちおうご紹介。
     ◆Peeping Life(シーズン1)  http://www.amazon.co.jp/gp/product/B00U20SKA0
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    サイコロの話。
    普通のサイコロは正六面体で、目は1,2,3,4,5,6です。 向かい合わせになった面の《目の和》は7になります。 ところでこのルールを満たすサイコロの作り方は、 ちょうど二種類ありうる……というのは、 頭の中で想像できますか。
    二種類あるのは想像できるし、実際に作ることもできるとして、 「三種類はありえない」ことは証明できますか。
     * * *
    校正モードの話。
    自分の原稿を校正していると、頭が「校正モード」になります。 どんな文章を読んでも、その内容よりも表現の方に意識が向かうモードですね。 頭が校正モードになっていると、Webページや小説などを読むのが苦痛になります。 内容に没入することができず、文章を修正したくなるから。
    頭が校正モードのときには、無意識的に「自分がすでに知っている知識を使わずに、 文章から得られる情報のみを使って読み進む」ことが多くなります。 つまり、自分の知識で行間を読むことなく、 虚心に文章を読むことで、文章の良くない点を見つけるわけですね。
    自分の原稿を校正するときはそれでいいのですが、 情報収集のために文章を読もうとするとたいへんです。 自分の知識を使わないために、意味がよく理解できず、 何度も読み返すはめになるからです。
    先日読んだ技術記事ではAとBという二つの異なる用語を、 一つの概念に対して割り当てていました。ひどい話です。 たとえば「Aは○○である。そこでBを△△する」 と書いてあるAとBが同じものを表してる。 これは意味を取るのが難しい。
    異なる用語を一つの概念に割り当てたり、 あるいは逆に一つの用語を異なる二つの概念に割り当てると、 意味を取りにくい文章ができあがります。 ……「そんなこと、当たり前だろう」と思いますよね。 でも、そういう文章は多いんですよ。 なぜかというと、書く人が用語の使い方を意識しないから。 もしくは、文章を読み返さないから。
    文章の一部を指さされて、 「この用語Aは、用語Bと同じ概念を表していますよ。 用語を統一した方がいいんじゃないですか」 と言われれば、多くの書き手は文章を直すでしょう。 ポイントは、誰からも指摘されなくてもその「直し」ができるか。
    言われてみれば当たり前のことでも、 言われなければなかなか気付きません。 言われなくても気付けるか。直せるか。それはとても大切で、 しかも難しい。意識的な練習が必要ですね。
     * * *
    では、今週の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    まず、書きましょう - 文章を書く心がけ
    愛する人と交わす最後の言葉
    数学の問題を出す楽しみ
    お金の話 - 仕事の心がけ
    おわりに