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記事 4件
  • Vol.309 結城浩/Gmailを活用するオンラインレビュー/「見切る」ことの大切さ/変化が激しい分野ですぐに古くなる知識をどう学ぶか/

    2018-02-27 07:00  
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    Vol.309 結城浩/Gmailを活用するオンラインレビュー/「見切る」ことの大切さ/変化が激しい分野ですぐに古くなる知識をどう学ぶか/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年2月27日 Vol.309
    はじめに
    結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
     * * *
    『数学ガール/ポアンカレ予想』の話。
    2018年4月に刊行予定の『数学ガール/ポアンカレ予想』は、 現在のところ初校ゲラを読み返している段階です。 出版社から書籍と同じように組版された紙の束が送られてきているので、 そこに赤ペンで修正を書き込んでいます。
    結城の手元にはLaTeXで書かれた書籍の元ファイルがあるので、 それでチェックしても同じこと……のように思えるのですが、 紙に印刷されたものを読み返すのは大事なプロセスなのです。
    読者さんが最終的に読むのは結城の手元にあるファイルではなく、 印刷された紙なので、 読者の環境に近い状況で読むのがよいからです。
    そして実際、初校ゲラを読み返すと、 これまでに見つからなかった種類のミスが見つかります。 同じページに余分な繰り返し表現があったり、 不自然な文末を見つけたりします。 読む環境を変えるというのは、 文章を校正する上で大事なのだと実感しますね。 きっと読む環境を変えることで、
    「いつもの自分とは異なる目」
    を手に入れるからなのでしょう。
    自分は一人しかいませんが、 異なる目を手に入れれば複数人でチェックしているのと同じ。 読む環境を変えるのはそんな効果があるのです。
    来週(もう三月ですね!)には初校ゲラの読み合わせがあり、 しばらくすれば再校ゲラがやってきます。 再校ゲラの読み合わせが済めば、 著者である私の手からほぼ原稿は離れることになります。
    そして四月に入っていよいよ刊行です。 六年ぶりの「数学ガール」シリーズ本編の書き下ろし新作。 どうぞ応援してください!
     ◆『数学ガール/ポアンカレ予想』  http://www.hyuki.com/girl/poincare.html
     * * *
    物理学の問題。
    神奈川立公立高校の入試問題が話題になっていました。 簡略化して書くと以下のような問題です。
     ----
    問題
    水平な地面に対して同じ高さから、 ある物体を真上(A)、水平(B)、真下(C)の三つの向きで、 同じ速さで投げ出します。
    A,B,Cそれぞれの向きに投げ出した物体が、 地面にぶつかる直前の速さの大小関係を調べてください。 空気抵抗は考えません。
     ----
    つまり、投げる速さは同じだけど、 投げる向きが違うとしたら、地面に到着したときの速さはどうなる? という問題ですね。
    正解は少し後に書きますので、 考えてみてください。
     * * *
    卒論発表の話。
    質問
    結城先生こんにちは。
    先日、卒業論文の発表が終わりました。
    しかし、準備に多くの時間をかけたにもかかわらず、 発表が上手くいきませんでした。
    こういうとき、 どんなふうに気持ちの整理をつけたらいいのでしょうか。
    回答
    卒業論文の発表、お疲れさまでした。
    卒論は、あなたにとって「初めての大仕事」 といえるのではないでしょうか。 もちろん卒論発表もそうです。
    初めての大仕事なんですから、 思ったようにうまくいかなくても不思議ではありません。
    大事な発表の準備に多くの時間をかけたのに、 うまくいかなかった。 それは悔しかったり、残念だったり、 いろんな思いが交錯する経験だと思います。 つい他の人と比べたりしてしまうかもしれません。
    がんばったからこそ、悩む。 時間をかけたからこそ、悔やむ。 それはあなたが真面目に取り組んだ証拠でもあります。
    しっかり振り返り、 悪かったところは真摯に反省しましょう。 でも、必要以上に悩まないように。
    一つの方法は、 あなたがいま感じている気持ちを、 「箇条書きにして書いてみる」ことです。 人に見せなくてもいいです。 とにかく心に浮かんでくる反省や悩みや悔やみを、 すべて箇条書きにして書き上げてみるのです。 ありったけ、ぜんぶ吐き出します。
    自分の心の中だけであれこれ考えると、 同じことを何度も思い返すので、 実際に気にしている内容が数倍にも感じられるものです。 まずは、自分の気持ちを箇条書きにして、 対象化してしまいましょう!
    箇条書きにしたあとは、 同じ項目を一つにまとめたり、 並べ替えて、同種類の項目をグルーピングしたり、 整理します。そうすると、 自分が何を考えているのか、 どんなところに悩んでいるのかが、 しだいに明確になるはずです。
    以下も合わせてごらんください。
     ◆ロビンソン式悩み解決法  http://www.hyuki.com/kokoro/#robinson
     * * *
    数学科教員に望むことの話。
    質問
    私は数学科教員です。
    結城さんが数学科教員に望むことはあるでしょうか。
    あるならば、それはなんでしょうか。
    回答
    ご質問ありがとうございます。
    これはたいへん興味深い問いです。
    まず最初に、私は「教育現場の先生」に対して、 大きなエールを送りたいです。
    日々リアルな生徒に向き合って、 そこで生じるあらゆる問題に現実的な解決策を見つけ出さねばならない、 そんな先生方に対して私は深く敬意を抱く者です。
    その上であえて望むこととしては、
     数学を、生徒の「嫌いな科目」にさせないでほしい
    ということです。 もちろん、数学を生徒の「好きな科目」にしていただけるなら、 それに越したことはありません。 でも、せめて、嫌いにさせないでほしいと願います。
    いきなり後ろ向きな願いに聞こえるかもしれないですが、 私は大事なことだと思います。
    先生が、その生徒に対して数学を教える期間は短いものです。 長くて数年ですよね。先生のところから巣立っていった後、 生徒の生活を想像してみます。 もし、数学を嫌いになっていなければ、 どこかで数学を好きになるチャンスがあるかもしれません。
    でも、いったん嫌いになってしまったら、 数学に触れる機会すら少なくなるのではないでしょうか。 それは、とても悲しいことです。 なので、数学の先生には 「生徒を数学嫌いにさせないでほしい」と思うのです。 とても難しいことはわかりますけれど。
    といっても、数学で面倒な計算をさせるなとか、 数学のテストをするなとか、 そういう無茶なことを言いたいわけではありません。
    そうではなくて、たとえば、 以下のようなことは「やめてほしい」という意味です。
     ・「罰」のような形で数学の問題を解かせる  ・正当な疑問を抱いた生徒に理不尽な押し付けをする  ・数学的に正しい答えをしたにも関わらずバツを付ける  ・素朴な疑問に対して、馬鹿にしたような評価をする
    そういう教え方はしないでほしいということです。
    数学は、 教師が生徒に「圧」をかけやすい科目じゃないかと感じます。 教師は答えを持っていますし、正しいかそうじゃないかは明確です。 ですから、生徒のまちがいがときに愚かしく見え、 必要以上に糾弾する危険性があるのです。
    「しないでほしいこと」だけでは何ですから、 「してほしいこと」も書いておきます。
    難しい計算や概念が出てきたときには、 苦労だけではなく面白さが見いだせる工夫をしていただきたいし、 小さなことに対しても達成感が味わえ、 もっと学びたいという気持ちを起こさせるようにしてほしいです。
    そして、強く願うことは、
     ・単元や分野を越える数学の面白さをぜひ伝えてほしい
    ということです。ある問題を解くときに、 「この方法でなくてはダメ、これ以外はバツ!」 という決めつけではなく、別の方法でもかまわない。 数学的に正しければいいのだと積極的に教えて欲しいです。
    もちろん、 ある技法を学ぶためにそれを練習することはあるでしょうけれど、 それにとどまらないでほしいのです。
    この問題のパターンなら、この解答だけが正解。 このパターンなら、この解答だけが正解。 というのでは数学のおもしろみをかき消してしまうと思います。
    数学的に正しければ、 驚くべき発想から生まれる解法でもかまわない。 そもそも問題を解くだけが数学ではない。 そういう点を積極的に教えて欲しいです。
    繰り返しになりますが、最後にもう一度書きます。 私はいつも現場の先生に対し、強い尊敬の念を抱いています。 さまざまな限界や制約の中で、生徒のことを思い、 現実的に解決策を見出していこうとしている先生方に。
    子供たちを、どうぞよろしくお願いいたします。
     * * *
    物理学の問題の続き。
    問題
    水平な地面に対して同じ高さから、 ある物体を真上(A)、水平(B)、真下(C)の三つの向きで、 同じ速さで投げ出します。
    A,B,Cそれぞれの向きに投げ出した物体が、 地面にぶつかる直前の速さの大小関係を調べてください。 空気抵抗は考えません。
    解答
    A = B = C になります。
    すなわち、投げるときの速さが等しいなら、 向きに関わらず、地面にぶつかる直前の速さはみな等しいのです。
    結城がこの問題を知ったとき、A = C はすぐにわかりました。 でも B がどうなるかはよくわかりませんでした。
    A = C がどうしてすぐにわかったかというと、 真上(A)に投げた物体が、投げた高さまで戻ってきたときには、 真下(C)の向きで同じ速さになるからです。
    B がどうしてわからなかったかというと、 「地面についたときは斜めになっているから……あれ?」 と余計なことを考えてしまったからです。
    ちゃんと考えるとしたら、次のようになります。
    投げた瞬間の物体が持つエネルギーは、 位置エネルギーと運動エネルギーの和です。 物体の質量が一定なら、 位置エネルギーは高さで決まりますし、 運動エネルギーは速さで決まりますから、 A,B,Cのエネルギーはいずれも等しくなります。
    エネルギー保存則より、 投げた瞬間と地面にあたる瞬間のエネルギーは等しくなります。
    地面にあたる瞬間、 A,B,Cの位置エネルギーは高さが同じなので、 いずれも等しくなります。 そのため、運動エネルギーも等しくなります。
    A,B,Cの運動エネルギーが等しいということから、 A,B,Cの速さは等しいといえます。
    この問題は、 以下のことを知っていれば解けます。
     ・この場合のエネルギーは、運動エネルギーと位置エネルギーの和  ・運動エネルギーは速さで決まる  ・位置エネルギーは高さで決まる  ・エネルギー保存則
    具体的な数式をまったく知らなくても、 問題が解けるというのが楽しいですね。
    なお、エネルギー保存則は中学校で学ぶ内容で、 高校入試では頻出らしいです。
    「エネルギーは保存量である」 ということを理解しているかどうか。 経路を問わず、投げる瞬間のエネルギーと、 地面にあたる瞬間のエネルギーという二点を考えるだけですむ。 そこがとても楽しいです。 保存量に注目すべき理由がよくわかります。
    数学ガールのミルカさんが言う、 《不変なものには名前をつける価値がある》 にあたりますね。物理ならば、 《保存する量には名前をつける価値がある》 になるでしょうか。 この問題では「エネルギー」という保存量に注目です。
    以下は余談。 もともとの入試では、 大小関係の選択肢が与えられており、 その中から選ぶ出題形式になっていました。
    この問題に具体的な速さが書いてないことに注目すると、 速さが非常に0に近くても成り立たなければならないと考え、 物理的な理屈がわからないとしても、 A = B = C に賭けるのがいいかもしれませんね!
     * * *
    それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    Gmailを活用する書籍のオンラインレビュー - 本を書く心がけ
    「見切る」ことは大切だが難しい - 本を書く心がけ
    変化が激しい分野ですぐに古くなる知識をどう学ぶか - 仕事の心がけ
    おわりに
     
  • Vol.308 結城浩/やりたいことを見つける/問題解決と他者との関わり - 仕事の心がけ/いまの自分にしか書けない文章/

    2018-02-20 07:00  
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    Vol.308 結城浩/やりたいことを見つける/問題解決と他者との関わり - 仕事の心がけ/いまの自分にしか書けない文章/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年2月20日 Vol.308
    はじめに
    結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
     * * *
    『数学ガール/ポアンカレ予想』の話。
    『数学ガール/ポアンカレ予想』がアマゾンで予約開始になりました!
    ありがたいことにアナウンスして一日後、 数学一般書籍でランキング第1位となりました。 みなさんの応援に感謝です!
    書籍全体では、 最大瞬間風速で第181位まで上がっていたようです。
    またTwitterなどでもたくさんの方が言及してくださり、 結城のアナウンスツイートは、 あっというまにたくさんRTしていただきました。 感謝です!
     ◆『数学ガール/ポアンカレ予想』(アマゾン)  https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4797384786/hyuki-22/
    先週はイラストとカバーの打ち合わせがありました。 「数学ガール」と「数学ガールの秘密ノート」シリーズを、 ずっといっしょに手がけてきたチームで、 久しぶりの本編新刊を喜びました。 何しろ6年振りですからね……
    今週末には初校ゲラ(書籍と同じように版組をした紙) がどさっと届く予定。 来月の初めには初校読み合わせになります。
    気になっていた大きめの修正は、 先週ほとんど片付いたので、 ここからは細かい部分に注目していきます。
    応援よろしくお願いいたします!
     ◆『数学ガール/ポアンカレ予想』  http://www.hyuki.com/girl/poincare.html
     * * *
    本で学んだことをブログに書くときの注意点の話。
    質問
    本から学んだことをブログで発信したいと思っています。
    でも著作権のことがよくわかりません。
    どのようなことに気を付ければいいでしょうか。
    回答
    すべてをここに書くことはできないので、 基本的なことだけ書きます。
    著作権は「アイディア」ではなく「表現」を守るものです。
    著作権は「アイディア」を守るものではないので、 本に書かれている「アイディア」を理解し、 自分の言葉でブログに書き表すのは問題ありません。 ただし、あたりまえですが、 他人のアイディアを自分のものにするわけにはいきません。
    著作権は「表現」を守るものですから、 本に書かれた文章をそのままブログに書くことは、 著作権の侵害になります。 ですから、あなたがブログに書くときには、 自分の言葉、自分の表現で書く必要があります。
    本の内容をまるまる一冊要約し、 本を読まなくてもすむような記事を書くのは、 翻案と見なされる場合があります。 これは著作権侵害となります。 詳しくは文化庁の以下のページをごらんください。
     ◆最新のベストセラー小説のあらすじを書いて、ホームページに掲載することは、著作権者に断りなく行えますか。  http://www.bunka.go.jp/chosakuken/naruhodo/answer.asp?Q_ID=0000338
    本で学んだことをブログに書く場合、 本に書かれた文章そのものを書きたくなる場合があるでしょう。 その場合には適切な形で「引用」する必要があります。 引用する場合、 今度は勝手に自分の言葉にしてはいけません。
    引用の際には、 以下の注意が必要になります(これだけではありません)。
     ・引用元を明確にする。   (書籍名や著者名など、どこから引用したのかわかるように)  ・引用範囲を明確にする。   (カギカッコや引用のマークアップで、どこが引用部分かわかるように)  ・引用したものが主従関係の「従」になるようにする。   (文章の大半が引用で、最後に一言感想というのはだめ)
    こうすれば大丈夫という保証はできませんが、 以上の点は最低限でも理解しておかなければなりません。
     ◆文化庁「著作権なるほど質問箱」  http://www.bunka.go.jp/chosakuken/naruhodo/index.asp
     * * *
    人生における選択の話。
    質問
    私は目標があり、そこに向かおうと、 険しいとわかっている道を一年前に選択しました。
    しかし、一年が過ぎると「苦しいことばかりで逃げたい」 と思うことが多くなってしまいました。
    ただの努力不足かもしれませんが、 この状況をどのように乗り越えればいいのでしょうか。
    アドバイスがあれば教えてください。
    回答
    あなたは険しい道とわかってながら、 一年前に大事な選択をしました。
    そして一年が過ぎ、 その選択を見直そうとしています。
    どちらもすごいことです。 なかなかできることではありません。 私は、えらいと思います。
    もちろん私は内容を知りませんので、 「がんばろう」とも、 「逃げた方がいい」ともいえません。 それはあなたが再び選択するしかありません。
    考えよう。悩もう。 続けるもよし。 思い切って道を変えるのもよし。 どちらであっても、あなたの貴重な選択です。
    選択の結果、 より大変な状況になるかもしれないし、 思いがけず新たな道が見つかるかもしれません。 未来を見通せない人間の身には、 何が起こるかはわかりません。
    考えよう。悩もう。 ときには知り合いに相談しよう。 ときには一人でじっくり考えよう。
    人生に失敗はありません。無駄もありません。
    あなたの選択は、 まちがいなくあなたの人生を切り拓いていくことになるでしょう。
    応援しています。
     * * *
    悩んだときには視点を変えるという話。
    私たちはいろんなことに悩みます。 同じことをずっと悩み、考えます。 それでも糸口が見つからないこともよくありますね。
    同じことを同じ視点から見ていると、 同じ思考をたどって同じ結論に達するものです。 ですから「視点を変える」のが重要になります。
    たとえば、 何かを作成することで悩んだとしましょう。 文章でも、絵でも、あるいはプログラムでもいいです。
    典型的な「視点を変える」方法は、 たとえば次のようなことです。
     作成の過程(プロセス)で悩んでいるならば、  作成した物(プロダクト)に注目する。
     作成した物(プロダクト)で悩んでいるならば、  作成の過程(プロセス)に注目する。
    噛み砕いていうならば、 次のようになるでしょう。
     「どう作ればいいのかなあ」と思うなら、  「そもそも何が完成すればいいのか/よかったのか」を考える。
     「完成したものの出来が良くない」と思うなら、  「どんなふうに作るか/作ってきたか」を考える。
    「視点を変える」というのはいわば比喩ですが、 おもしろいもので、 その比喩と同じように行動するとうまくいくことがあります。 どういうことかというと、
     ・いつも考えている部屋や場所を変える  ・家の中にいたら家の外に出る  ・机の前に置いてある本やものを入れ換えてみる
    こんなふうに、自分が「リアルな目で見ているもの」 を実際に変えてしまうのです。そうすると、 悩みごとについての視点も変わってくることが多いです。
    ぜひ、お試し下さい。
     * * *
    難しい文章を読む話。
    質問
    難しい文章や長い文章を読んでいると、 頭がパンクするような気持ちになり、 どうしても途中で挫折してしまいます。
    自分の能力で理解できないような難しい文章や、 長い文章に挑むにはどうしたらいいのでしょうか。
    回答
    その文章をどうしても読まなければならないなら、 「分割統治」するしかありません。
    長い文章を短く区切ります。 自分が理解できるほど小さな部分に分け、 少しずつ攻略していくことになります。
    もしも、小さな部分に分けても攻略できないなら、 大きな全体を攻略するのは無理ですから。
    小さな部分に分けても攻略できないなら、 もっと小さな部分に分けます。 もしかしたら、 最後は「単語一つ」になってしまうかもしれませんが、 とにかく小さな部分に分けることを意識します。
    各部分の攻略ができたなら、 今度はその理解を組み上げていきます。 各部分の理解を組み上げていき、全体を理解していきます。
    そのような読書と理解のプロセスは、 当然ながら一筋縄ではいかないでしょうし、 時間が掛かるはずです。 すらすら読めないような難しくて長い文章に挑戦しているのですから、 あたりまえのことですね。
    分割統治をうまく進めるためには「読む」だけではなく、 「書く」ことも必要になるでしょう。 目の前の文字をじっと見つめるだけではなく、 自分の理解を書き留めたり、図にして考えたりするということです。
    理解していない状態で書くわけですから、 最初から完成品を書こうと思わない方がいいです。 完成品を書こうとすると書く手が止まりがちですから。
    そうではなく、 自分の理解を補助するために書くことを意識しましょう。 「こういうことかな? あ、違うな」 という繰り返しを恐れないということです。
    難しくて長い文章を読んで理解するというのは、 森を通ったり、迷路を抜けたりするようなものです。 自分がたどった道を記録しておき、 まちがった方向にいったら後戻りするのは当然です。
    がんばってください!
     * * *
    それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    やりたいことのある人がうらやましい - Q&A
    問題解決と他者との関わり - 仕事の心がけ
    いまの自分にしか書けない文章を、書こう! - 文章を書く心がけ
    おわりに
     
  • Vol.307 結城浩/再発見の発想法 - ロールオーバー/人を惹きつける文章を書く/効果的な勉強法/

    2018-02-13 07:00  
    220pt
    Vol.307 結城浩/再発見の発想法 - ロールオーバー/人を惹きつける文章を書く/効果的な勉強法/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年2月13日 Vol.307
    はじめに
    結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
     * * *
    『数学ガール/ポアンカレ予想』の話。
    先日『数学ガール/ポアンカレ予想』の本文のみ脱稿していましたが、 先週になって残っていた原稿(エピローグ、 参考文献と読書案内、あとがき)を脱稿しました。 これでようやく一段落です。
    といっても気を緩めるわけにはいかなくて、 2018年春の刊行を目指して時間との闘いになります。 今週はイラストとカバーの打ち合わせがあり、 来週には初校が到着。 来月上旬には初校の読み合わせと作業が盛りだくさん。
    大きめの修正はとにかく今月中に片づけなくては。
    6年振りの「数学ガール」新作、 応援よろしくお願いいたします!
     ◆『数学ガール/ポアンカレ予想』  http://www.hyuki.com/girl/poincare.html
     * * *
    『プログラマの数学 第2版』の話。
    2018年1月に刊行した『プログラマの数学 第2版』ですが、 ようやく電子書籍が出始めました! 編集部からはデータ送信は済んでいますが、 電子書籍の書店ごとに販売開始時期は異なるようです。
    以下のリンクはアマゾンへのリンクですが、 不思議なことにまだ「単行本(紙版)」と「Kindle版」 とのあいだにリンクが張られていません。 つまり、単行本のページをウオッチしていても、 Kindle版の存在がわからないことになりますね。 担当氏によりますと数日でリンクは張られるらしいですが、 ご注意ください。
     ◆『プログラマの数学 第2版』Kindle版  https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B079JLW5YN/hyuki-22/
     ◆『プログラマの数学 第2版』単行本(紙版)  https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4797395451/hyuki-22/
    楽天Koboでも配信が始まったようです。
     ◆『プログラマの数学 第2版』楽天Kobo電子書籍版  https://books.rakuten.co.jp/rk/d6ccb0078e42388984820728554ee6ef/
    また、Webですぐに読める「Web立ち読み版」も公開されています。 目次から第1章の終わりまで読めます。登録不要、もちろん無料です。
     ◆『プログラマの数学 第2版』Web立ち読み版  http://ul.sbcr.jp/MATH-yCEtr
     ◆『プログラマの数学 第2版』  http://www.hyuki.com/math/
    応援よろしくお願いいたします。
     * * *
    書店に自著が並ぶ話。
    最近、新刊の話題をよく書くためか、 「書店に自分の書いた本が並ぶというのはどんな気分ですか?」 というご質問をいただきました。
    控えめに言っても、最高にうれしいですね。
    単純な「うれしさ」とも違い、 「うれしさ」と「誇らしさ」と「気恥ずかしさ」と 「感謝」と「わずかの不安」が入り交じったような、 そんなドキドキ感があります。
    これまで結城は何十回も自著が書店に並んでくるのを見てきましたが、 毎回このドキドキを味わいます。
    もちろん、書店に並んでいる自分の本を手にとって、 ページをぱらぱらとめくることもあります。 そこに書かれている文章は校正のあいだに何度も何度も読んだものですが、 書店でぱらぱら読むとまた違う印象を受けるものです。
    そしてその感覚をしっかりとらえることは大事だと思います。 なぜなら、その書店で私の本を手に取る読者は、 まさにその場所でいま自分がやっているようにぱらぱら読むからです。
    まわりにどんな本が置かれているか、 重さはどうか。立って読むときのページのめくりやすさはどうか。 店頭で本を手にするときには、 文章を校正しているときとはまったく違う要素があることがわかります。
    これまで、 書店で自著が購入される瞬間を見たことが数回あります。 非常に重要な体験でした。その購入者は本を手に取り、 はじめの部分をじっくり読み、途中をぱらぱらと眺め、 本の最後にある値段を確認し、また途中を眺め、 そしてレジへ持っていきました。
    そのあいだ、少し離れたところで私はその様子を 不審に思われないよう注意しつつ、じっと眺めていました。
    そのとき結城が感じたのは、 読者さんはひとりひとりこんなふうにして、 結城の本を購入くださっているのだなあ、 という深い感謝の思いです。
    結城は、書店で自著が並んだ棚にいくと、 本を手に取る人の気持ちを想像し、 「どうか、この本を必要とする方に届きますように」 と祈るようにしています。
     * * *
    インタビューの話。
    以前受けたインタビューが、
     『数理的発想法』
    という書籍になりました。 結城浩を含む12人のインタビューが掲載されています。
    インタビューイー12名は以下の通りです。
     第1章 書く、描く、物語る   高野文子/藤井太洋/結城浩  第2章 技術をデザインする   江渡浩一郎/増井俊之/渡邊秀徳  第3章 本と、デジタル   高野明彦/河村奨/地藏真作  第4章 科学者たち   岡田美智男/吉村仁/本間稀樹
    ぜひお読みください!
     ◆仲俣暁生『数理的発想法 “リケイ"の仕事人12人に訊いた世界のとらえかた、かかわりかた』  https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4798154342/hyuki-22/
     * * *
    学部生にとっての研究の話。
    質問
    たとえば学部生が機械学習を学び、 それを応用しておもしろいことを考えようとしても、 たいていのことはすでに研究されています。
    ということは、 すでに研究を進めている研究者よりも「良い研究」 をするのは難しいですよね。
    トップ研究者ではない学部生にとって、 意味のある研究、意味のある応用というのは、 どういう方向にあると思いますか。
    回答
    具体的に「こういう方向」と示すことは、 私にはできません。
    あなたが考えている内容というのは、 あなたの教官に尋ね、 議論すべきことではないかと想像します。
    なぜなら、 どの方向の研究をどの程度進めるのかというのは、 学部生に対して指導すべき内容の一つだと思うからです。 分野ごとの機微はあるでしょうし、時代による違いや、 学生の能力による調整も必要なはずです。
    教官と議論しましょう。まさにそのために、 大学に学費を払っているのです。
    また、あなたの大学では 「トップ研究者ではない学部生」 も過去に研究を進め、論文を書いているはずですね。 過去の論文を探して読んでみましょう。 そうすれば、 「少なくともその時代には論文になった題材」 がわかるはずです。
    なお、Natsu(hiko) MIZUTANIさん(@natsu_water)から、 関連する文章として以下のWeb記事を教えていただきました。 とても短く、しかも図入りでわかりやすい記事ですので、 ぜひこちらもお読みください。 Matt Might教授による"The illustrated guide to a Ph.D."という文章です。
     ◆博士号を取るとはどういうことか  http://hamukazu.com/2013/11/14/illustrated-guide-to-phd/
     * * *
    「問いと答えの呼応」の話。
    Webページで、
     タイトルは「問い」の形なのに、  文中でその「答え」が書かれていない
    という記事を見かけるときがよくあります。 結城はそれがとても気になります。
    タイトルが「問い」の形で、 文中に「答え」が明示的に書かれていないと読者は混乱します。
    たとえば、次のような記事です。
     ----
     タイトル  XXXXはAだろうか?
     本文  XXXXはBの場合や、Cの場合もあります。  ホニャララ大学ではXXXXがDと見なされたことがありますが、  世界的にはDとは見なされていません。  XXXXがEやFと考えられていた時代もありますが、  現在ではその可能性は否定されています。
     ----
    この記事を読んだ読者はいらいらします(ですよね?)。
    なぜならタイトルで「XXXXはAだろうか?」と問うていながら、 本文ではその問いに直接答えを与えていないからです。
    読者はこの記事を読み終えたときに、 「結局、XXXXはAなの?」 という疑問を抱いたままになるでしょう。
    あるいはまた、本文から推測して、 「XXXXはAだということなのかなあ……」 とぼんやりと考えるでしょう。
    いずれにせよ、 記事の情報伝達は失敗しています。
    Webサイトにはしばしば「よくある質問とその答え(FAQ)」 というコーナーが用意されます。 それは読者にとって非常に有効なコーナーのはずですが、 上で述べたように「問い」と「答え」が噛み合っていないことがよくあります。
    もしもあなたが自分の管理しているWebサイトを持っているなら、 ぜひ、問いと答えの呼応をチェックしてみてください。
    『数学文章作法 基礎編』第6章「問いと答え」では、 「問いと答えは呼応させること」を強調して説明しています。
     ◆『数学文章作法 基礎編』  https://mw1.hyuki.net
     * * *
    右手左手の話。
    人が文字を書いている様子を見たとき、 左手を使って書いていると、 結城は「あ、左手で書いている」と気がつきます。 そして直後に「どうしてそれにすぐ気付いたのだろう」 と自分で不思議に感じます。
    まわりの人に尋ねてみると、 「私もすぐに気付きます」という人と「あまり気付かない」 という人がだいたい半々くらい。
    文字を書いているときに限りません。 指さしたり、何かを片手で掲げたりしているときも、 「あ、左手だ」と気付きます。
    たとえば、コインを持ってるこの画像を見ると、 すぐに「左手で持ってる」と気付きます。
     ◆コインを持っている画像
    念のために書いておきますが、 もちろん左手を使っていることを批判しているわけではありません。 自分が、使用している手の左右の認知に敏感なことに興味がある、 という話です。
    右足左足の違いには気付きません。 右手左手の違いには気付きます。
    結城が右利きだから左利きに気付くというのはありそうです。 ただ、それだけではなくて「相手の姿に自分の姿を重ねる」 という癖があるのかなと想像しています。
    たとえば以下のツイートには、 数学の板書をしているサーバルちゃんのイラストがあります。
     ◆数学の板書をしているサーバルちゃん  https://twitter.com/omnisucker/status/939309838877671424
    何気なくこのイラストを見た瞬間、 私はサーバルちゃんになって板書している自分を想像する。 だから左手で書いてることに気付くのかもしれません。
    私はリコーダー吹きですが、 たまにリコーダーを吹いているイラストで右手が上になっているものがあります。 リコーダーは左手が上になるのであれ?と気付きます。 でも、自分が使わない楽器だと気づかないかもしれませんね。
    あなたは右手左手に気付く方でしょうか。
     * * *
    それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    再発見の発想法 - ロールオーバー
    人を惹きつける文章を書く - 文章を書く心がけ
    役に立つ効果的な勉強法を考える
    おわりに
     
  • Vol.306 結城浩/チャンスをつかむ心がけ/「何がうれしいのか」という問い/心を動かす文章をめぐって/

    2018-02-06 07:00  
    220pt
    Vol.306 結城浩/チャンスをつかむ心がけ/「何がうれしいのか」という問い/心を動かす文章をめぐって/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年2月6日 Vol.306
    はじめに
    結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
     * * *
    『数学ガール/ポアンカレ予想』の話!
    先週『数学ガール6』の本文を脱稿しました(ようやく)。 そしてTwitterやWeb日記で今回のテーマをアナウンス。 今回の数学ガールは、
     『数学ガール/ポアンカレ予想』
    という本になります。
    ポアンカレ予想というのは、トポロジー(位相幾何学)の問題です。
    数学者アンリ・ポアンカレが《問いかけ》の形で論文の最後に書いた問題、 それが《ポアンカレ予想》です。 この問題が提示されたのは20世紀初めのこと。
    そこから多数の数学者が挑戦し、 なんと百年という時間が過ぎました。
    そして、21世紀の初め、 グリーシャ・ペレルマンがこの《ポアンカレ予想》 の証明を完成させたのです。
    「数学ガール」シリーズ第6弾は、 この《ポアンカレ予想》に挑戦します!
    刊行は2018年の春を予定しています。
    今回のテーマを発表してから、 とても多くの読者さんからはげましのメッセージをいただいています。
    本文は脱稿したのですが、 まだまだ校正作業は続きます。
    ぜひ、応援よろしくお願いいたします!
     ◆『数学ガール/ポアンカレ予想』  http://www.hyuki.com/girl/poincare.html
     ◆『数学ガール/ポアンカレ予想』宣伝画像
     * * *
    『プログラマの数学 第2版』の話。
    2018年1月に刊行した『プログラマの数学 第2版』は、 引き続き多くの方に読まれているようです。
    プログラマに限らず一般の方も 「クイズ仕立ての楽しい数学の本」 としてお読みになっている方もいらっしゃるみたいです。
    2018年1月28日〜2月3日の 書泉ブックタワーコンピュータ書ベストで、 『プログラマの数学 第2版』は第3位となりました。
     https://twitter.com/shosen_bt_pc/status/960004452445900801
    編集部によりますと、2018年2月上旬には 『プログラマの数学 第2版』の電子書籍も配信開始とのこと。
    こちらも引き続き応援よろしくお願いいたします!
     ◆『プログラマの数学 第2版』  http://www.hyuki.com/math/
     * * *
    批評の分析の話。
    『ライアーゲーム』で有名な漫画家の甲斐谷忍さんが、 以下のような興味深いツイートをしていました。
     ----
     「編集者に漫画を見てもらって、批評をもらったのですが、  何が問題なのかいまいちわからない」  という意見を多く聞いたので、ざっくりと表にしてみました。  ちなみに 「話」「構成」「演出」ともに10点満点です。
     https://twitter.com/mangakap/status/958553459170590720
     ----
    詳細はリンク先に画像があるので、 そちらを見ていただきたいのですが…… 要するに、編集者から批評してもらったときに、 編集者の言葉をどのように分析し、 理解するかという話題です。
    まず、甲斐谷さんは漫画に対する評価を、
     ・話  ・構成  ・演出
    の三つの軸に分解してそれぞれ10点満点とします。 座標値が0から10までを取る三次元空間の一点ともいえますね。
    甲斐谷さんは、それに続けて「編集者の批評の言葉」ごとに、 この三つの軸がそれぞれ何点であるか(バランスがどうであるか) を示しているのです。
    たとえば、
     「読みにくい。何を言いたいかよくわからなかった」
    という批評は、
     ・話が5点  ・構成が1点  ・演出が2点
    とされています。つまり、話はまあできてるけれど、 構成や演出はよくないということになります。
    あるいは、
     「まとまってはいる。小さくまとまっている。すんなり読めた」
    という批評は、
     ・話が4点  ・構成が6点  ・演出が4点
    とされています。構成はよいけれど、 話と演出は構成ほどはよくないということでしょうか。
    甲斐谷さんは上のツイートで、 8個の批評の言葉をこの方法でざっくり分析しています。
    結城はこのツイートを見たとき、 「うまい!」と思いました。
    批評の言葉というのは、感覚的であり、 何となくはわかるけれど、じゃあどうすればいいの? という疑問が出てきそうです。
    でも、このように批評の言葉を分解・分析するならば、 漫画家は自分の作品の「弱点」と「強み」が明確になるでしょう。 そうすれば、自分の作品をよりよくする手掛かりが得られます。
    この分析の内容が的確かどうかは私にはわかりませんが、 このように分析するという発想がすばらしいと思いました。 定性的な評価を定量的な評価に変えようとする試みといえます。
    さすが、大金が掛かったゲームで相手をいかに欺くかというコミック 『ライアーゲーム』の作者さんですね。頭いい……
     ◆甲斐谷忍『LIAR GAME 1』  https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B009GZIU4S/hyuki-22/
     * * *
    それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    「何がうれしいのか」という問いは何がうれしいのか - 教えるときの心がけ
    チャンスをつかむ心がけ - 仕事の心がけ
    心を動かす文章をめぐって - 文章を書く心がけ
    おわりに