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記事 98件
  • Vol.322 結城浩/「ひとりSlack」を活用しよう/文章力/想像力を膨らませる/頭が良い人に嫉妬/企画書をまとめる/

    2018-05-29 07:00  
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    Vol.322 結城浩/「ひとりSlack」を活用しよう/文章力/想像力を膨らませる/頭が良い人に嫉妬/企画書をまとめる/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年5月29日 Vol.322
    はじめに
    結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
    関東ではあちこちで紫陽花(あじさい)の花を見かけるようになりました。
    「あ、こんなところに紫陽花が咲いてる」
    道を歩いていてそんなことに気がつきます。
    私はそれと同時に「桜」のことを思い出しました。
    一年間、気に留めていないけれど、春になると「桜」のことを思う。
    一年間、気に留めていないけれど、梅雨が近づくと「紫陽花」のことを思う。
    最近、あなたが思っていることは何ですか。
    それでは、今回の結城メルマガを始めましょう。
    目次
    はじめに
    目次
    どうしたら文章力がつくのか - 本を書く心がけ
    サービスを作るときに想像力を膨らませるコツ - 仕事の心がけ
    頭が良い人にすぐ嫉妬してしまう - Q&A
    「ひとりSlack」で知的生活のパワーアップ - 仕事の心がけ
    企画書をまとめながら考えていたこと - 仕事の心がけ
    おわりに
    どうしたら文章力がつくのか - 本を書く心がけ
    質問
    『数学ガール』とても楽しませて貰っております。
    ところで、数学の内容はともかく私が気になるのは先生の文章力です。
    理系の私は文章力が皆無なのですが、実は本を書いてみたいな〜なんて思うこともあります。
    どうしたら文章力がつくのでしょうか。
    ちなみに、読書についてはかなりの量をこなしてきました。
    回答
    ご質問ありがとうございます。
    文章力をつけるというのは大きな話ですから、簡単にお答えしますね。
    (1)文章をコンスタントに書きましょう。
    (2)そして、書いたものを誰かに読んでもらいましょう。
    この二点です。
    素朴な方法として、決まった分量でまとまった文章を定期的に書き、自分で何度も読み返す。つまり(1)だけでも悪い方法ではありません。誰かに読んでもらわなくても書く練習にはなります。でも、「これでいいや」という思い込みが強い場合、自力で文章を改善することは難しくなります。ですから、忌憚ない意見を言ってくれる人に文章を読んでもらうという(2)も合わせることをお勧めします。
    ブログなどで不特定多数の人に読んでもらうことも悪くありませんけれど、文章力をつけたいなら、書きっぱなしにしない方がいいですね。一つ一つの文章をしっかり読み返し、少しでも良くしたいと考える気持ちを持った方がいいです。ただし、それを厳しくしすぎると継続できませんから、自分で調整することも必要になります。結城が好きな方法は、書いたらまずWebで公開しちゃう!……そして公開したものを何度も読み返して、少しずつ直していく。これだと継続できますし、何度も読み返すことにもなります。
    ところであなたは「他人に読んでもらう文章」を書いた経験はありますか。もしも他人に読んでもらった経験が少ないとすると、最初のうちはかなり理想と現実の差に苦しむかもしれません。率直にいうならば「適切な言葉が出てこない!」や「言いたいことがぜんぜん表せない!」に苦しむかもしれないということです。でもそれは誰しも通るところなので、がんばって乗り切ってください。そのためにも誰かに読んでもらうことが有効です。
    美味しいフランス料理を味わえることと、美味しいフランス料理を作れることとは別の技能ですから、たくさんの読書をしたからといって文章がすぐにうまく書けるとは限りません。しかしながら、文章の良し悪しを判断できる力を持っているのであれば、それを自分の文章に適用することで文章力を向上させることができるかもしれません。
    質問文で「理系の私は」という箇所が少し気になりました。「理系である」ことは「文章力がない」ことの免罪符にはなりません。むしろ現代社会では、いわゆる理系の人こそ、正確で読みやすい文章を書く力が求められているのではないでしょうか。想定した読者に対して、複雑で誤解されがちな事柄を解きほぐし、正確で読みやすい文章によって伝える力は社会にとって重要といえるでしょう。
    なお、私の『数学文章作法』では説明文を書くときの基本的なことが載っていますので、ご参考に。以下のサイトには、目次から第一章の終わりまで全文読める《試し読みPDF》が無料でダウンロードできるページへのリンクがあります。
    ◆ 『数学文章作法』http://www.hyuki.com/mw/
    合わせて、こちらのページからたどれる「文章を書く心がけ」もお読みください。
    ◆結城浩の心がけhttp://www.hyuki.com/writing/
    これまでの「結城メルマガ」で配信したもののうち「文章を書く心がけ」に関わる記事はこちらにピックアップしてあります。
    ◆「文章を書く心がけ」マガジンhttps://mm.hyuki.net/m/m427a78a1adf7
    こちらには「本を書く心がけ」があります。
    ◆「本を書く心がけ」マガジンhttps://mm.hyuki.net/m/m715a102cda18
    あなたが「本を書きたい」という気持ちを持つことは本当に素晴らしいことです。良い本はいつの時代にも求められており、真に価値のある仕事の一つです。それは未来を作る仕事の一つともいえます。
    がんばってください。応援しています!
    サービスを作るときに想像力を膨らませるコツ - 仕事の心がけ
    質問
    僕は将来、自分でなにかサービスを作って生きていきたいと考えています。
    いまよりもずっと無知だったころは「こんな壮大なものを作りたい!天才の僕ならできるやろ!!」と考えていたこともありました。
    しかし、プログラミングを勉強し、強い人を目の当たりにすると「こんな壮大なものを思いついたけど、あの天下のGoogleさんでも実現できていないなら僕には無理だ」と思うようになり、しまいには、壮大なものを思いつく「想像力」自体がなくなってきました。
    「誰もやったことのないことをしてみたい気持ち」なら今でもあります。でも、サービスを作るに当たって「想像力」がないのはとても問題だと思っています。
    想像力を膨らますコツはあるのでしょうか。
    回答
    ご質問ありがとうございます。
    想像力を膨らませるには、意識して「制約を取り払う」ことが必要です。制約というのは「○○でなければならない」という縛りのことです。
    想像力が膨らまない原因の一つは「既存の技術でできることから発想をスタートさせてしまう」ことにあります。既存の技術でできることから始めると、なかなか話は広がりません。広がったとしても誰でも思いつきそうなことや、どこかで見たようなものばかりが出てきがちです。
    想像力を膨らませるためには「既存の技術で実現できなくてはならない」というところ、つまり制約をいったんストップさせる必要があります。
    あなたの質問の中でも「自分が壮大なサービスを作る」というところに制約がほの見えます。つまり、「自分が作らなくてはならない」「壮大でなくてはならない」「サービスでなくてはならない」「作らなくてはならない」という制約のことです。「○○でなければならない」が見え隠れしますね。想像力を膨らませるときには、そういうものをいったん全部とっぱらって考えた方がいいのではないでしょうか。
    さて。
    そのように言っておいて変な話ですが、制約をとっぱらって考えるだけでも困ります。想像力を膨らませるだけでは、何も始まりません。想像力をできるだけ膨らませた。どんなことができたらいいかという話をできるだけ広げた。その上で「さて」と真顔に戻って、いま考えてきたことの中で本質的にすごいところは何だろうかと振り返るのです。いま考えてきたことを、既存(+α)の技術で実現できる範囲はどの程度だろうか。そのように見極める力が大事になります。
    制約を取り払って想像力を膨らませ、真顔に戻って実現方法を考えましょう。
    あなたの活動が世界を豊かな喜びで満たすことを期待しています。がんばってくださいね!
     
  • Vol.314 結城浩/成績が悪い他人を見下してしまう/マンガのキャラクターのセリフが説教くさい/謝ったら死ぬ病/「いい本」とは/

    2018-04-03 07:00  
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    Vol.314 結城浩/成績が悪い他人を見下してしまう/マンガのキャラクターのセリフが説教くさい/謝ったら死ぬ病/「いい本」とは/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年4月3日 Vol.314
    はじめに
    結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
    関東は桜が満開を過ぎ、あちこちで花吹雪が見られます。
    新学期ですね!
    春になると新しいことを始めたくなります。
    あなたは、この春、何か新しく始めることはありますか?
     * * *
    サイン本無料プレゼントの話。
    先日、編集部での作業が終わり、 いよいよ、
     『数学ガール/ポアンカレ予想』
    の刊行が近づいてきました。 刊行に先立って、結城は個人的に、
     《サイン本無料プレゼント》
    という企画を行っています。〆切は2018年4月3日(火)。 つまり、この結城メルマガが送られている今日が〆切です。 ぜひ、ご応募お願いいたします。
     ◆『数学ガール/ポアンカレ予想』《サイン本無料プレゼント》  https://snap.textfile.org/20180314090041/
     * * *
    自分の力で理解度をアップさせる話。
    質問
    何かを「理解したい」と思ったとします。 誰かに教えてもらうのと同じくらいの理解度に、 自分の力だけでたどりつくには、 いったいどうすればいいでしょうか。
    何をどう意識すれば、 そのようなことができますか。
    回答
    すばらしい質問です。 原則は簡単。ひとことで言えます。それは、
    「自分自身の教師になれ」
    ということです。 誰かに教えてもらうのと同じくらいの理解度に、 自分の力だけでたどりつくにはどうするか。 それは、他ならぬ自分が、 自分自身の教師になることです。 しかも、いい教師に。
    そのためには、学びのときに、 自分自身としっかり対話することが必要です。 次のように自分に問いかけるのです。
     「ねえ、何がわからない?」  「どこまでわかった?」  「じゃあ、例は作れる? 作ってみようよ」  「それは適切な例になっている?」  「もっと一般化できないだろうか?」  「絶対まちがいないといえる?」
    そのように自分に対して「いい教師」として問いかけ、 その問いかけに対して「いい生徒」 として答えるよう努力するのです。
    これでわかることは、 「結城メルマガ」でしばしば書かれる「教えるときの心がけ」 のコーナーは「学ぶときの心がけ」にも通じるということ。
     ◆教えるときの心がけ(結城浩のWebページ)  https://www.hyuki.com/writing/teach.html
     ◆教えるときの心がけ(マガジン)  https://mm.hyuki.net/m/md7abcdf8eaf5
    自分自身の教師になれ。
    しかも、いい教師になれ。
    これは理解度を上げるためにとても大切なことです。
    自分が自分のいい教師になるためには、 信頼関係が必要になりますね。自分自身との信頼関係です。 自分の強さも、弱さも、しっかり認める。 その上で、自分自身をはげましたり、叱ったり、応援したり。 そのような態度はすべて、 あなたが望む道へ通じているはずです。
    がんばりましょう。
     * * *
    SEOの話。
    SEOというのはSearch Engine Optimizationの略で、 検索エンジンでWebサイトが上位に現れるようにする技術全般のことです。
    『数学ガール/ポアンカレ予想』の手が離れて気持ちに余裕ができたためか、 最近結城はnote(ノート)の「古今和歌集を読む」 というコーナーをよく更新します。
     ◆古今和歌集を読む  https://mm.hyuki.net/m/mfa4fe40c022b
    最近は季節に合わせて桜の歌を解説しています。 解説と言っても現代語訳を付けて、 簡単な文法の解説をしているだけですけれど。
    たとえば、紀貫之のこんな歌。
     ◆今年より春しりそむる桜花ちるといふことは習はざらなん  https://mm.hyuki.net/n/nf4857a0ae99f
     春を知り始めたかのように  今年から花を咲かせ始めた桜の花よ。  どうか散るということは習わないでください。
    すてきじゃないですか。
    ところで、ふとGoogleで「古今和歌集」を検索したとき、 結城が管理しているこのページが二位になっていることを発見しました (一位はWikipedia)。 専門家でも何でもない私のページが二位という高順位になってていいのか? といささか焦っています。
     ◆Googleで「古今和歌集」を検索(スクリーンショット)
    結城のページはnote(ノート)でホスティングしていますので、 note(ノート)のSEOが優れているということなのかもしれませんね。
    興味があったので今度は「結城浩」で検索してみました。 その結果は添付画像のようになりました。
     ◆Googleで「結城浩」を検索(スクリーンショット)
     1. 公式ホームページ  2. Twitter  3. Wikipedia  4〜6.Amazon  7.note(ノート)
    ということで、確かにnote(ノート)が上位に来ていますね。
    mm.hyuki.net は結城が管理している独自ドメインですが、 note(ノート)が提供している独自ドメイン機能を使ってホスティングしています。 ドメインは私のものですが、 サーバ管理はnote(ノート)が行っています。
    いまさらながら、 SEOに優れたプラットホームとして、 note(ノート)はなかなかいいのかもしれません。
     ◆久方のひかりのどけき春の日にしづ心なく花のちるらむ(紀友則)  https://mm.hyuki.net/n/ncbf8ac1a72c3
     * * *
    それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    成績が悪い他人を見下してしまう自分が嫌い - 学ぶときの心がけ
    いい本が持つ共通項は何か - Q&A
    謝ったら死ぬ病の話
    マンガのキャラクターのセリフが説教くさくなってしまう - Q&A
    おわりに
     
  • Vol.312 結城浩/再発見の発想法/学び四態/勉強が得意な生徒と苦手な生徒の違い/勉強を実行に移せない/

    2018-03-20 07:00  
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    Vol.312 結城浩/再発見の発想法/学び四態/勉強が得意な生徒と苦手な生徒の違い/勉強を実行に移せない/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年3月20日 Vol.312
    はじめに
    結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
     * * *
    《サイン本無料プレゼント》の話。
    『数学ガール/ポアンカレ予想』が2018年4月に刊行予定です。
    刊行を記念し、みなさんの応援に感謝をこめて 《サイン本無料プレゼント》を企画しました。
    ぜひ、以下のリンクをお読みの上、ご応募ください!
     ◆『数学ガール/ポアンカレ予想』《サイン本無料プレゼント》  https://snap.textfile.org/20180314090041/
    刊行開始よりも前に抽選を行いますので、 すでに書店さんへご予約なさった方もご応募してくださいね。
    ちなみに、いつものパターンですと、 当選確率は数パーセントくらいです。
     * * *
    『数学ガール/ポアンカレ予想』の話。
    「結城メルマガ」執筆中に書影が届きました! 今回の表紙も素敵です!
     ◆『数学ガール/ポアンカレ予想』書影
    表紙・イラスト:たなか鮎子さん/ 装丁・デザイン:米谷テツヤさん
    実際の刊行準備はどうなっているかといいますと、 現在は結城の手元に再校ゲラが届いている状態。 予定通りなら、今週末に再校読み合わせがあります。 そこまでいったら、 原稿に関しては結城の手をほぼ離れることになります。
    ほんとうのラストスパートになります。 ぜひ、応援してくださいね。
     ◆『数学ガール/ポアンカレ予想』  http://www.hyuki.com/girl/poincare.html
     * * *
    志望校へ行けなかった話。
    質問
    大学受験に失敗しました。 正確にいうと、高校三年生の夏前に体調を崩して二〜三ヶ月、 家か病院にこもる生活を余儀なくされ、 秋から復学したのですが、 それでも受験勉強はしばらく体調的にできず、 しかたなく受験校を地元の国立大学に下げました。
    高校一年二年ではたくさん勉強し、 青春=勉強になっていたのですが結局志望校には行けず、 自分が積み上げた努力がすべて崩れたようでつらいですし、 友達のかつて僕の志望校だった大学の合格を聞くたびに、 友を妬むという醜い自分もいて自分が嫌です。
    過去の挫折を断ち切り心機一転、 新しく勉強に取り組むにはどうすればいいでしょうか。
    アドバイスお願いします。
    回答
    体調を崩して志望校に行けなかったとのこと、 それは、本当に本当につらいことだと思います。 お察しいたします。
    そんな中で心機一転、 新たな気持ちで勉学に向かおうとする態度は、 この上なく立派なことだと心から思います。
    残念ながら、つらい気持ちをガラリと変える魔法はありません。 しかし、あなたの強い味方として「時間」がいます。
    いまのあなたは、つらい気持ちと、 がんばろうという気持ちを持っています。 その両方の気持ちが長い時間を掛けて 「あなた」という一つの人格の中で熟成されていくなら、 それを通して、
     現在のつらさを通らなければ、  決して手に入らなかった「あなた」
    を手に入れることができるのです。
    挫折を断ち切って進もうとするのも大事です。 しかし、あなたが「いま」をしっかり受け止め、 その上で進むなら、 現在のあなたには挫折にしか見えないことが、 未来のあなたには違う意味を持ってくるかもしれません。
    受験ではありませんでしたが、 私自身も挫折したことがあります。 何十年も前の話です。 その頃を現在から振り返ると、
     あの経験がなかったら、  現在の私もなかった。
    と思います。
    もちろん、その当時はそんなふうには絶対に思えなかった。 達観することはできなかった。できるわけがありません。 つらい状況を通過している真っ最中には無理です。
    しかし、 挫折でこの上なくつらい気持ちを通過した後、 その挫折の意味を変えてくれるのが「時間」です。
    つらさも、くやしさも、ねたみも、 自負も、希望も、ありとあらゆるものを抱え、 熟成させて、じっくりと足を踏みしめて進んでいきましょう。
    つらい中にあっても、 心機一転がんばりたいと考える「あなた」には、 それができます。
    「時間」を味方につけて、大きく成長してください。 大変だと思いますが、応援しています。
     * * *
    それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    再発見の発想法 - プレースホルダ
    学び四態 - 学ぶときの心がけ
    勉強が得意な生徒と苦手な生徒の違い - 教えるときの心がけ
    「こうすればいい」とわかっているのに実行に移せない - Q&A
    おわりに
     
  • Vol.310 結城浩/数学力を向上させる復習法/前提や推論をねじ曲げる人/高校数学でつまずく単元/

    2018-03-06 07:00  
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    Vol.310 結城浩/数学力を向上させる復習法/前提や推論をねじ曲げる人/高校数学でつまずく単元/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年3月6日 Vol.310
    はじめに
    結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
     * * *
    ポイント還元セールの話。
    2018年3月8日(木)まで、 SBクリエイティブがキャンペーンを行っています。 アマゾンのKindle本が「50%ポイント還元」とのこと。
     ◆【50%ポイント還元】SBクリエイティブキャンペーン  http://amzn.to/2oHMCns
    結城の本の大半はSBクリエイティブから刊行されており、 今回のキャンペーン対象に入っています。
    「数学ガール」と「数学ガールの秘密ノート」シリーズすべて、 『暗号技術入門第3版』、『プログラマの数学第2版』、 『Java言語で学ぶデザインパターン入門』などのKindle本が、 すべて50%ポイント還元になっています。
    電子書籍でのご購入を予定している方は、 ぜひこの機会をご利用ください。
    『数学文章作法』は筑摩書房からの刊行ですので、 キャンペーン対象ではありません。
    対象書籍一覧へのリンクを、 以下のページにまとめてありますのでご利用ください。
     ◆【50%ポイント還元】『数学ガール』『プログラマの数学第2版』など《結城浩のKindle本》多数  https://bit.ly/2H03Pzh
     * * *
    『数学ガール/ポアンカレ予想』の話。
    6年ぶりの「数学ガール」シリーズ新作。
    ちょうど今日、初校読み合わせがあります。 ここまでで大きな修正はほぼ終わり、 再校に向けてはやや細かい微調整が多くなります。
    次第にゲラが滑らかになり、 読み返すのも楽しくなってくる時期ですね。
    刊行は2018年4月!
     ◆『数学ガール/ポアンカレ予想』  http://www.hyuki.com/girl/poincare.html
     * * *
    幾何に取り組む話。
    質問
    現在中学生で、来年から高校生になります。
    代数よりの問題(確率や一次関数のグラフなど) では数を操作しているようで楽しく、 解きやすいと感じます。
    でも幾何よりの問題(平面図形や空間図形など) ではとたんに解けなくなります。
    幾何の分野では、 「ひらめき」や「感覚」が必要とされている気がして、 どうしても自信が持てません。
    考え方や問題への取り組み方のコツはあるでしょうか。
    回答
    ご質問ありがとうございます。
    確かに幾何の問題は、 平面図形にしろ空間図形にしろ、 苦手と感じる人は多いかもしれません。
    「ひらめき」や「感覚」あるいは「センス」が必要…… と言いたくなりますが、そこには注意が必要です。 というのは「ひらめき」や「感覚」や「センス」 という言い方をしたとたん、 「生まれ持ったものであり、自分にはどうしようもない」 と勘違いしそうになるからです。
    そこから一歩進むと、 言い訳と思考停止につながります。 それは危険な道だと思います。 中学生・高校生の段階では、特にそうです。 「ひらめき」や「感覚」や「センス」 の存在を否定するわけではありませんが……
    そのように考えるのではなく、 幾何に関しては、
     ・多種多様な図形をリアルに体験すること  ・多種多様な図形を見ずに想像すること
    の二つを心がけるというのをお勧めします。
    たとえば、三角形の図を描くときでも、 一つだけ描くのではなく、できるだけたくさん描いてみる。 しかも同じような三角形ではなく、 できるだけ形の違う三角形を描いてみる。 そしてじっと時間を掛けて眺める。
    例として三角形を挙げましたが、 これはもちろん一例に過ぎません。 数学図鑑などでいろんな図形をピックアップして、 しかも複数並べてみたり、接する様子を描いてみたり、 重ねてみたり……たっぷり平面図形を体験するのです。
    コンパスや定規を使って描くのもいいですが、 フリーハンドで描くのも非常にいいことです。 これはまさに「体験」になりますね。
    立体図形も同様です。 描かれた図形や透視図を見るだけではなく、 実際に粘土や紙工作で作ってみましょう。 作るだけではなく、作った後もじっくり眺めましょう。
    数学の勉強だけでなく、 毎日の生活の中で見る形にも注意を向けます。 テレビを見たら縦と横の長さの比を想像したり調べたり。 対角線の長さを当ててみたり。 私たちの周りは形で満ちていますので、 試してみることは無数にありますね。
    以上のように、 図形や立体をリアルにたっぷり体験するのです。 図形を100個描いたらテストの点数が10点上がる…… なんていう約束はできませんし、 リアルな体験がどんな効果を上げるかはわかりません。
    でも、あなたが「数を操作しているようで楽しい」 といったのと同じ感覚を、 図形や立体に感じる一歩になるかもしれませんよ。
    そして、もう一つ。
    リアルに体験するだけではなく、 何も見ないで頭の中だけで図形や立体を想像し、 操作する練習もぜひやってみてください。
    具体的に列挙したらきりがありませんが…… たとえば、正三角形を想像するのはできますよね。 正方形も簡単に想像できるでしょう。
    では、正六角形は? 正六角形のカードを二つ折りする様子は想像できますか。
    正方形の折り紙を想像し、 そこから鶴を折る様子を頭の中だけで想像できますか。
    立体も同様です。有名な問題ですが、 立方体を平面で切断する様子を想像したとき、 断面にはどんな形があらわれるでしょうか。 何通り想像することができますか。
    小さな立方体27個を1個ずつ積み上げて、 3×3×3の大きな立方体を作る様子を、 コマ送りで想像できますか。
    鉄棒で自分が大車輪をやったと仮定して、 周りの景色はどんなふうに見えるでしょう。
    以上のように、 図形と立体にまつわるリアルな体験と想像を意識して行ってみましょう。 それはなかなかいいと思います。
    あなたが代数的な操作が好きなのは、 これまでたくさんやってきて慣れているからかもしれませんよ。 幾何でも、そのような体験をたくさんやってみてください。
    Enjoy!
     * * *
    理屈で考えすぎてしまう話。
    質問
    いわゆる「理系的」な思考をしているせいか、 絵を描いたり、文章を書いたりするときに、 「理屈で考えすぎている」 とよく言われます。
    確かに考えすぎて筆が進まないときもあります。
    理屈に惑わされないようにするには、 どうしたらいいでしょうか。
    回答
    ご質問の内容は、よくあることです。
    理屈で考えた作品は、 つじつまは確かに合っているけれど、 魅力を感じなかったり、 心を揺さぶられる部分や印象に残る部分が少なかったりします。
    難しいですよね。
    この対策には、有名な言い回しがあります。 それは、
     「説明するな、描写せよ」
    というものです。
    「説明」というのは理屈で考えて、 つじつまを合わせたり、矛盾をなくしたり、 起きていることに必ず理由を付けたりすることです。
    それに対して「描写」というのは、 目で見たものや、耳で聞いたもの、 感じたことをそのまま受け手に伝えようとすることです。
    これはこうなってますよと説明するのではなく、 受け手に直接感覚を届けるために描写するのですね。
    説明はものごとを対象化してしまいますから、 受け手は安全圏にいて対象を受け取る形になります。 それに対して描写は違います。 適切に描写するならば受け手の中で感覚が直接再現されますので、 その空間に入り込み、 深い体験をしてもらうことが可能になります。
    もちろん、それを実際に行うのは技術を必要とする話です。 しかし、 「説明」をなくして「描写」に徹底することを意識するのは、 悪くない取り組みだと思います。
    描写に徹底する方法の一つとしては、 自分自身がまずその世界に飛び込むことが挙げられるでしょう。
    自分が世界の外にいて、あれはあれだ、これはこれだ、 とやっていると、どうしても説明になってしまいます。 自分が世界の中に飛び込んで、
     いま何が聞こえる? 何が見える? 何を感じる?
    と問うのです。
    そしてそのためには、 実はリアルなこの世界にいるときも同じように、
     いま何が聞こえる? 何が見える? 何を感じる?
    と問うことが大切ではないでしょうか。
     「説明するな、描写せよ」
    というのは、言い換えると、
     「対象化するな、体験せよ」
    ということなのですね。
    ぜひ、試してみてください。
     * * *
    それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。
    今回は受験シーズンから新学期直前のためか、 数学を学ぶことに関するQ&Aが多くなりました。
    でも実は「数学」に特化した話ではないかも……と思っています。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    数学の問題をまちがったとき、どう復習すれば数学力を向上できますか - Q&A
    前提や推論をねじ曲げたがる人について
    高校数学で多くの人がつまずく単元は何ですか - Q&A
    おわりに
     
  • Vol.308 結城浩/やりたいことを見つける/問題解決と他者との関わり - 仕事の心がけ/いまの自分にしか書けない文章/

    2018-02-20 07:00  
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    Vol.308 結城浩/やりたいことを見つける/問題解決と他者との関わり - 仕事の心がけ/いまの自分にしか書けない文章/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年2月20日 Vol.308
    はじめに
    結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
     * * *
    『数学ガール/ポアンカレ予想』の話。
    『数学ガール/ポアンカレ予想』がアマゾンで予約開始になりました!
    ありがたいことにアナウンスして一日後、 数学一般書籍でランキング第1位となりました。 みなさんの応援に感謝です!
    書籍全体では、 最大瞬間風速で第181位まで上がっていたようです。
    またTwitterなどでもたくさんの方が言及してくださり、 結城のアナウンスツイートは、 あっというまにたくさんRTしていただきました。 感謝です!
     ◆『数学ガール/ポアンカレ予想』(アマゾン)  https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4797384786/hyuki-22/
    先週はイラストとカバーの打ち合わせがありました。 「数学ガール」と「数学ガールの秘密ノート」シリーズを、 ずっといっしょに手がけてきたチームで、 久しぶりの本編新刊を喜びました。 何しろ6年振りですからね……
    今週末には初校ゲラ(書籍と同じように版組をした紙) がどさっと届く予定。 来月の初めには初校読み合わせになります。
    気になっていた大きめの修正は、 先週ほとんど片付いたので、 ここからは細かい部分に注目していきます。
    応援よろしくお願いいたします!
     ◆『数学ガール/ポアンカレ予想』  http://www.hyuki.com/girl/poincare.html
     * * *
    本で学んだことをブログに書くときの注意点の話。
    質問
    本から学んだことをブログで発信したいと思っています。
    でも著作権のことがよくわかりません。
    どのようなことに気を付ければいいでしょうか。
    回答
    すべてをここに書くことはできないので、 基本的なことだけ書きます。
    著作権は「アイディア」ではなく「表現」を守るものです。
    著作権は「アイディア」を守るものではないので、 本に書かれている「アイディア」を理解し、 自分の言葉でブログに書き表すのは問題ありません。 ただし、あたりまえですが、 他人のアイディアを自分のものにするわけにはいきません。
    著作権は「表現」を守るものですから、 本に書かれた文章をそのままブログに書くことは、 著作権の侵害になります。 ですから、あなたがブログに書くときには、 自分の言葉、自分の表現で書く必要があります。
    本の内容をまるまる一冊要約し、 本を読まなくてもすむような記事を書くのは、 翻案と見なされる場合があります。 これは著作権侵害となります。 詳しくは文化庁の以下のページをごらんください。
     ◆最新のベストセラー小説のあらすじを書いて、ホームページに掲載することは、著作権者に断りなく行えますか。  http://www.bunka.go.jp/chosakuken/naruhodo/answer.asp?Q_ID=0000338
    本で学んだことをブログに書く場合、 本に書かれた文章そのものを書きたくなる場合があるでしょう。 その場合には適切な形で「引用」する必要があります。 引用する場合、 今度は勝手に自分の言葉にしてはいけません。
    引用の際には、 以下の注意が必要になります(これだけではありません)。
     ・引用元を明確にする。   (書籍名や著者名など、どこから引用したのかわかるように)  ・引用範囲を明確にする。   (カギカッコや引用のマークアップで、どこが引用部分かわかるように)  ・引用したものが主従関係の「従」になるようにする。   (文章の大半が引用で、最後に一言感想というのはだめ)
    こうすれば大丈夫という保証はできませんが、 以上の点は最低限でも理解しておかなければなりません。
     ◆文化庁「著作権なるほど質問箱」  http://www.bunka.go.jp/chosakuken/naruhodo/index.asp
     * * *
    人生における選択の話。
    質問
    私は目標があり、そこに向かおうと、 険しいとわかっている道を一年前に選択しました。
    しかし、一年が過ぎると「苦しいことばかりで逃げたい」 と思うことが多くなってしまいました。
    ただの努力不足かもしれませんが、 この状況をどのように乗り越えればいいのでしょうか。
    アドバイスがあれば教えてください。
    回答
    あなたは険しい道とわかってながら、 一年前に大事な選択をしました。
    そして一年が過ぎ、 その選択を見直そうとしています。
    どちらもすごいことです。 なかなかできることではありません。 私は、えらいと思います。
    もちろん私は内容を知りませんので、 「がんばろう」とも、 「逃げた方がいい」ともいえません。 それはあなたが再び選択するしかありません。
    考えよう。悩もう。 続けるもよし。 思い切って道を変えるのもよし。 どちらであっても、あなたの貴重な選択です。
    選択の結果、 より大変な状況になるかもしれないし、 思いがけず新たな道が見つかるかもしれません。 未来を見通せない人間の身には、 何が起こるかはわかりません。
    考えよう。悩もう。 ときには知り合いに相談しよう。 ときには一人でじっくり考えよう。
    人生に失敗はありません。無駄もありません。
    あなたの選択は、 まちがいなくあなたの人生を切り拓いていくことになるでしょう。
    応援しています。
     * * *
    悩んだときには視点を変えるという話。
    私たちはいろんなことに悩みます。 同じことをずっと悩み、考えます。 それでも糸口が見つからないこともよくありますね。
    同じことを同じ視点から見ていると、 同じ思考をたどって同じ結論に達するものです。 ですから「視点を変える」のが重要になります。
    たとえば、 何かを作成することで悩んだとしましょう。 文章でも、絵でも、あるいはプログラムでもいいです。
    典型的な「視点を変える」方法は、 たとえば次のようなことです。
     作成の過程(プロセス)で悩んでいるならば、  作成した物(プロダクト)に注目する。
     作成した物(プロダクト)で悩んでいるならば、  作成の過程(プロセス)に注目する。
    噛み砕いていうならば、 次のようになるでしょう。
     「どう作ればいいのかなあ」と思うなら、  「そもそも何が完成すればいいのか/よかったのか」を考える。
     「完成したものの出来が良くない」と思うなら、  「どんなふうに作るか/作ってきたか」を考える。
    「視点を変える」というのはいわば比喩ですが、 おもしろいもので、 その比喩と同じように行動するとうまくいくことがあります。 どういうことかというと、
     ・いつも考えている部屋や場所を変える  ・家の中にいたら家の外に出る  ・机の前に置いてある本やものを入れ換えてみる
    こんなふうに、自分が「リアルな目で見ているもの」 を実際に変えてしまうのです。そうすると、 悩みごとについての視点も変わってくることが多いです。
    ぜひ、お試し下さい。
     * * *
    難しい文章を読む話。
    質問
    難しい文章や長い文章を読んでいると、 頭がパンクするような気持ちになり、 どうしても途中で挫折してしまいます。
    自分の能力で理解できないような難しい文章や、 長い文章に挑むにはどうしたらいいのでしょうか。
    回答
    その文章をどうしても読まなければならないなら、 「分割統治」するしかありません。
    長い文章を短く区切ります。 自分が理解できるほど小さな部分に分け、 少しずつ攻略していくことになります。
    もしも、小さな部分に分けても攻略できないなら、 大きな全体を攻略するのは無理ですから。
    小さな部分に分けても攻略できないなら、 もっと小さな部分に分けます。 もしかしたら、 最後は「単語一つ」になってしまうかもしれませんが、 とにかく小さな部分に分けることを意識します。
    各部分の攻略ができたなら、 今度はその理解を組み上げていきます。 各部分の理解を組み上げていき、全体を理解していきます。
    そのような読書と理解のプロセスは、 当然ながら一筋縄ではいかないでしょうし、 時間が掛かるはずです。 すらすら読めないような難しくて長い文章に挑戦しているのですから、 あたりまえのことですね。
    分割統治をうまく進めるためには「読む」だけではなく、 「書く」ことも必要になるでしょう。 目の前の文字をじっと見つめるだけではなく、 自分の理解を書き留めたり、図にして考えたりするということです。
    理解していない状態で書くわけですから、 最初から完成品を書こうと思わない方がいいです。 完成品を書こうとすると書く手が止まりがちですから。
    そうではなく、 自分の理解を補助するために書くことを意識しましょう。 「こういうことかな? あ、違うな」 という繰り返しを恐れないということです。
    難しくて長い文章を読んで理解するというのは、 森を通ったり、迷路を抜けたりするようなものです。 自分がたどった道を記録しておき、 まちがった方向にいったら後戻りするのは当然です。
    がんばってください!
     * * *
    それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    やりたいことのある人がうらやましい - Q&A
    問題解決と他者との関わり - 仕事の心がけ
    いまの自分にしか書けない文章を、書こう! - 文章を書く心がけ
    おわりに
     
  • Vol.300 結城浩/朝の時間は勉強と執筆のどちらに使うべきか/「やりたいこと」を見つける/充実した人生/

    2017-12-26 07:00  
    220pt
    Vol.300 結城浩/朝の時間は勉強と執筆のどちらに使うべきか/「やりたいこと」を見つける/充実した人生/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年12月26日 Vol.300
    はじめに
    おはようございます。結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
    今回は2017年最後の配信になりますが、 ちょうどVol.300になりました! 継続的な応援をありがとうございます!
     * * *
    数学ガール6の話。
    今年の重要プロジェクトの一つは『数学ガール6』の刊行でした。 残念ながら年内刊行は間に合いませんでしたね。 それどころか年内脱稿も無理でした。
    しかし、何とか第8章まではレビューアさんに送付できるほどになり、 現在も第9章を誠意執筆中。 がんばって今年中には第9章までたどり着きたいです。
    そして、来年こそ『数学ガール6』刊行!といきたいものです。
    ちょっと振り返ってみます。
    「数学ガール」シリーズは現在5巻まで刊行されています。 『数学ガール5』にあたる『数学ガール/ガロア理論』は2012年刊行。 そこから「数学ガールの秘密ノート」シリーズの刊行にシフトし、 『秘密ノート1』から『秘密ノート9』までがすでに刊行されています。
    要するに『数学ガール5と6』のあいだに、 「数学ガールの秘密ノート」シリーズは9冊出たことになるのですね。 かんたんな図で表すと、こんな感じです。
     ◆シリーズ各巻の出版順序図解
    いまさらですが、そんなにたくさん 「数学ガールの秘密ノート」シリーズを書いたのか……と、 謎の感慨にふけってしまいました。 読者さんの応援にひたすら感謝です。
    それはさておき、 がんばって『数学ガール6』を進めましょう!
    第9章を、何とか今年中に(切実)!
     * * *
    数学書の話。
    数学書にはしばしば「明らか」や「自明」という表現が出てきます。 説明の途中で「ここから明らかにナニナニが成り立つ」や、 「ナニナニが成り立つのは自明」のように使われます。
    数学書で、そこまで読んできた内容を本当に理解していれば、 「明らか」や「自明」と書いてあったときに、 確かにそうだなと共感できるかもしれません。
    でも「どうしてこれが明らかなんだろう?」や、 「私には自明とはとうてい思えない」 というときもよくあります。
    「明らか」や「自明」という表現は、 数学書の「あるある」な話題として、 軽口やネタになることもよくありますね。
    「明らか」や「自明」に関して、 ネットでいろんな方の意見を読んでいるうちに、 結城はこれをキャッチフレーズにまとめたくなりました。
    数学書で「明らか」が出てきたら、こう考えましょう。
     あなたは《これ》を、基本的だと感じ、  楽々答えられますか。確認しましょうね!
    「明らか」という表現が出てきたら、 読者は自分の理解度をちゃんと確認しましょう。 そういう意味のキャッチフレーズです。 キャッチフレーズにしては長ったらしいですが、 実はこれ「明らか」という言葉が折り込まれているのです!
     ・「あ」なたはこれを、  ・「き」ほんてきだとかんじ、  ・「ら」くらくこたえられますか。  ・「か」くにんしましょうね。
    同じように「自明」もキャッチフレーズにしてみました。
     自分でちゃんと確かめよう。  面倒がらず。嫌がらず。
    これも「自明」という言葉を折り込みました。
     ・「じ」ぶんでちゃんとたしかめよう。  ・「め」んどうがらず。  ・「い」やがらず。
    こういう言葉あそび、楽しいと思いませんか。
     * * *
    パズルゲームの話。
    結城はパズルゲームが大好きです。 執筆の合間で気分転換したいときに、 パズルゲームを一面だけチャレンジします。 執筆とは別の頭を使うため、たいへんいいのです。
    文章を書いた後にパズルゲームを行うと、 自分の頭に残っている情報が一掃されるので、 校正するのに好都合です。 自分の頭に残っている情報を頼りにせず、 文章として書き表された情報を読もうとするからです。
    いわば、結城にとってのパズルゲームは、 頭を「リセット」するためのツールなのですね。
    さて、最近のお気に入りを三つ紹介します。 いずれも難易度がほどほどで楽しいパズルゲームです。
    一つ目は「Gorogoa」です。
    美しい絵の中に入り込んでいくようなパズルゲームで、 しかも絵と絵の境界、過去と未来の境界を越えていくもの。 二次元なのに四次元のような空間移動をするパズルです。
    ゲームという形でないと味わえないファンタジーともいえます。 有名なMonument Valleyというゲームが好きな人は気に入るはず。
    結城は最後までコンプリートしました。
     ◆Gorogoa  http://gorogoa.com
    二つ目は「Hexa Turn」です。
    六角形のボード上で、基地を攻撃してくる敵を防御するというもの。 攻撃や防御といってもターン制なので、じっくり考えることができます。 地味なのですが、かなりおもしろいゲームです。
    結城は三場面だけ残してコンプリート。
     ◆Hexa Turn  http://apple.co/2Bztj3S
    三つ目は「Campfire Cooking」です。
    キャンプファイアでマシュマロを焼いたり、煮物をしたりするゲーム。 一つの串に二つも三つもマシュマロが刺さっていて、 同じ面を二回以上焼いてはいけないという制約の中、 全面をおいしく焼こう!という楽しいゲーム。
    シーンが進むごとに難易度が少しずつ上がっていきますし、 しかも毎回、発想の転換を要求されますので、 なかなか楽しめます。
     ◆Campfire Cooking  http://www.laytonhawkes.com/campfire-cooking
    ところで、 パズルゲームにチャレンジしていて、 非常によく起きる現象がふたつあります。
    一つ目は、
     どうしても解けない面があって、  何度続けてもダメなのに、  少し時間おいて試すとさらっと解ける
    という現象です。本当によくあります。 できないからといって、 何度も続けてチャレンジするのは得策じゃないということです。 いったん時間をおいてから試すのがいいみたいですね。
    自分の中には「この方法しかない」という思い込みがあり、 続けてチャレンジしてもその思い込みを振り払えません。 その結果、同じルートをたどって失敗する。 でも、時間をおくことでその思い込みを忘れ、 新たな気持ちで取り組むので正解にたどり着けるのでしょう。
    パズルゲームでよく起きる現象の二つ目は、
     少しずつ答えに近づくのではなく、  突破口を見つけたとたんすべてが解ける
    という現象です。
    パズルゲームの各面には「これがわかれば解けるけれど、 わからなければ解けない」というカギがあるのです。 ですから、カギをつかむ(突破口を見つける) ことがすべてを決めるということ。
    パズルゲームには、発見の困難と、発見の歓喜があるのです。
     * * *
    ネットプリントの話。
    「ネットプリント」ってご存じですか。
     ◆ネットプリント  https://www.printing.ne.jp
    ネットプリントというのは、富士ゼロックスが運営しているサービスです。 文書や画像を登録しておき、 それをセブンイレブンのコピー機で印刷できるというもの。
    たとえばイラストを描いている人(絵師さん)が、 自分の描いたイラストを印刷して誰かに渡したいとしましょう。 そのときに「ネットプリント」というサービスを使うと、 郵送料を掛けずに印刷物を送ることができます。
    ネットプリントの流れはこうです。 送信者(絵師さん)は、ネットプリントに画像ファイルを登録し、 番号を受け取ります。送信者は受信者にその番号を伝えます。 受信者はコンビニのコピー機でその番号を入力し、 印刷代(数十円)を払って印刷物を受け取ります。
    結城はこの仕組みで何かおもしろいことできないかな、 とよく思います。 物理的なものを低コストでたくさんの人に渡せるというのは、 可能性を感じます。
    受信者が払うお金はいわば印刷代なので、 送信者に料金として支払われるわけではありません。 でもnote(ノート)で番号を販売すれば、 有料の配布物も実現できそうです (各種規約を確かめてはいないので、実現できるかどうかは不明)。
    たとえば「結城浩ミニ文庫」として販売しているような文章を、 ネットプリント用に再編集して販売することができそう。 ネットでダウンロードしてプリントアウトするのと、 直接紙で入手するのとではちょっと違うように思うのです。
     ◆結城浩ミニ文庫  http://www.hyuki.com/mini/
     * * *
    それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    朝の時間は勉強と執筆のどちらに使うべきか - Q&A
    「やりたいこと」はどうしたら見つかるか - Q&A
    充実した人生とは何でしょうか - Q&A
    おわりに
    よいお年を!
     
  • Vol.299 結城浩/学び方の上手い人、下手な人/怒りについて/

    2017-12-19 07:00  
    220pt
    Vol.299 結城浩/学び方の上手い人、下手な人/怒りについて/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年12月19日 Vol.299
    はじめに
    おはようございます。結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
     * * *
    ABC予想の話。
    つい先日のこと(2017年12月16日)、 朝日新聞にABC予想に関する記事が掲載されました。 望月新一教授が「ABC予想(ABC Conjecture)」 を証明した論文が査読付き専門誌に載るという内容です。
     ◆数学の超難問・ABC予想を「証明」 望月京大教授  http://www.asahi.com/articles/ASKDD5Q6MKDDPLBJ007.html
    ABC予想は、数学のいわゆる「未解決問題」です。 数学の「未解決問題」の多くは、 そもそも問題自体の主張を理解するために専門知識を必要としますが、 ABC予想はフェルマーの最終定理に似て、 問題自体の主張を理解するのは難しくありません。
    以下では、鯵坂もっちょさんが、 たいへんていねいにABC予想の主張を解説しています。
     ◆"独創的すぎる証明"「ABC予想」をその主張だけでも理解する  http://www.ajimatics.com/entry/2017/12/16/175035
    望月新一教授は、 宇宙際タイヒミュラー(IUT)理論という新しい理論を作りました。 以下では、加藤文元教授がその理論について解説しています (「数学の祭典 MathPower2017」のイベント生放送)。
     ◆話題の「ABC予想」に関する番組を公開  http://blog.nicovideo.jp/niconews/55890.html
    難解な証明の場合、 証明がほんとうに証明になっているのか、 それを判断するのは専門家でも難しいものです。 今回の望月教授の証明も査読に5年掛かっています。
    今回の証明が正しいかどうかは、 もちろん私にはわかりません。 また、査読誌に載った証明に、 後から誤りが見つかった例も存在すると聞きますので、 まだどきどきは続くのでしょう。
    しかしながら、 大きな未解決問題に対して証明がなされ、 それが査読誌に載るというのはやはり興奮するできごとですね。
     * * *
    定理発見の話。
    こんな質問をいただきました。
     結城さんはいままで、  「新しい定理を発見した」という経験はありますか。  そんなときどうしましたか。  自分もそのような定理を見つけたので参考にしたいです。
    結城の回答は、こうです。
     自分で定理を発見したり、  非自明なことを世界で初めて私が証明したり、  という経験は私にはありません。
     もしもあなたが、  そのような発見や証明をしたのであれば、  数学の先生に相談してみることをお勧めします。
    回答は以上なのですが、 以下、補足的なお話を書きます。
    世の中には有名な「不可能問題」があります。 いわゆる「角の三等分問題」などです。 数学的に不可能なことが証明されているので不可能なのですが、 「がんばったらできるのでは」と勘違いする人がいるので、 その点は注意が必要になりますね。
    定理を発見した!というときに、 数学の先生に相談するのをお勧めするのは、 そういう理由からです。
    「角の三等分問題」に関しては『数学ガール/ガロア理論』 にやや詳しく書きました。 そこでは「五次方程式に解の公式が存在しない」 こととの類似性と合わせて解説しています。
     ◆『数学ガール/ガロア理論』  http://www.hyuki.com/girl/galois.html
    「不可能問題」の別の例として「立方体の倍積問題」があります。 「与えられた立方体の二倍の体積を持つ立方体を作ることは不可能である」 という問題です。この問題のポイントは、 定規とコンパスしか使ってはいけないという条件がある点。 この条件がなければ、もちろん可能になります。
    「不可能問題」はしばしば誤解されます。 問題の前提条件や数学における証明の意味をよく理解していないと、 「自分は解いた!証明した!」と勘違いしてしまうからです。
    一般論として、数学の非専門家が新たな発見をすることは珍しいです。 有名な問題である場合は特にそうです。 ただし、既存の有名な問題に別の証明を与えたり、 条件をやや変化させることで新しい定理を作ったりすることは、 非専門家でもできますね。
    新しい証明を見つけることや、少し変形させた定理を作ることは、 数学の活動として楽しく、また素晴らしいことです。 しかし、それが学問としての数学上、 どのくらい意味を持つかは、専門家でないと判断は難しくなります。
    天才が本当に新しい理論を作ったようなケースでは、 専門家でも判断が難しくなります。 新しい理論の場合には、表現する言葉自体が荒削りだったりするので、 「まったく意味をなさない!」 と誤解されてしまうことがあるからです。
    専門家でなければ新しい定理を探すのが無意味だ、 といってるわけではありません。 また、未解決問題の証明に徒手空拳で取り組むことは無意味だ、 というのでもありません。 過去、幾多の数学ガールや数学ボーイが、 フェルマーの最終定理に徒手空拳で挑んだことでしょうか。 実際にフェルマーの最終定理を証明したワイルズも、 少年時代にそのような一人だったのです。
    「小さなことでいいから新しい発見をして数学を楽しみたい!」 という方へのおすすめは、
     「フィボナッチ数列」  「パスカルの三角形」
    です。フィボナッチ数列の各項のあいだに面白い関係はないか。 パスカルの三角形の中に見える図形と数とに面白い関係はないか。 探してみるのはとても楽しいですよ!
     ◆『数学ガール/フェルマーの最終定理』  http://www.hyuki.com/girl/fermat.html
     * * *
    共通テストの話。
    2017年11月13日〜24日の期間、全国の約1900校で「大学入学共通テスト」 の試行調査(プレテスト)が行われました。 ここで出題された問題がそのまま使われるわけではありませんが、 分析のための検討材料となるようです。
    2017年12月4日に結果速報が大学入試センターによって公開されました。
     ◆試行調査(平成29年11月実施分)の結果速報等について  http://www.dnc.ac.jp/news/20171204-01.html
    試行調査で出題された数学の問題のあちこちに 「会話文」が登場していました。 数学的な命題が与えられ、それを探求していく過程の会話文を読み、 条件を変えて話を発展させるというスタイルになっています。
     ◆数学I・数学A(必答問題 第1問[2])より
     ◆数学I・数学A(必答問題 第1問[2])より
    数学ガールでは「数学トーク」と称して、 数学的な対話で理解を深めていく場面がよく登場します。 会話が有効に使われるなら、 思考や論理の流れを追う問題として面白い出題ができると思っています。
     ◆平成29年度試行調査(趣旨、試験問題など)  http://www.dnc.ac.jp/corporation/daigakunyugakukibousyagakuryokuhyoka_test/pre-test_h29.html
     * * *
    信頼の話。
    止まっている時計は一日に二回、正しい時刻を示す。 だからといって時計の役には立たない。 「正しい時刻をいつ示しているか」 までは教えてくれないからだ。
    正しい時刻からちょうど一時間遅れている時計は、 決して正しい時刻を示すことはない。 しかし、一時間遅れていることがわかっているなら、 正確な時計として使うことは可能だ。
    信頼には、 予測可能性が関わっていることがわかる。
     * * *
    文章作成の力の話。
    質問
    結城先生は、どうやって文章作成の力を身につけましたか。
    回答
    「雑誌や本の原稿を書くことで身につけました」 というのが短い答えとなります。 つまり、見よう見まねで文章を学びました。
    でも、小さいころからたくさんの本を読んできた経験が、 見よう見まねで文章を学ぶことを支えていると思います。 文章をたくさん読まなければ文章は書けません。 本をたくさん読まなければ本は書けません。
     読まなければ書けない
    というのが重要であると思います。
    「読まなければ書けない」という表現には二つの意味があります。
    一つは、前もってたくさん読んで、 自分の中に単語や文章表現のストックがなければ、 文章を書き始められないという意味。
    もう一つは、自分が書いた文章を自分で読み、 良し悪しを判断できなければ書き終えられないという意味。
    文章を書くプロセスの中には、 文章を作り出す段階と、それを練る段階があります。 そのどちらにおいても「読む」ということが重要になるのですね。
    実は『文章読本』や『小説の書き方』 の類いの本もたくさん読みました。 それらの本は害にはなりませんでしたが、 直接的に役に立ったかどうかはよくわかりません。 結局は、
     とにかく文章を書いてひとさまに読んでもらう
    という経験が一番役に立っているように思います。
    ああ、それからもう一つ。 結城は、
     自分の文章を繰り返し読む
    のが大好きなんです。 それは文章を書く力をつけるのに役立っていますね。 特に、
     自分の文章を時間をおいて読み返す
    のが役に立ちます。なぜかというと、 書いた文章を読み返したとき、 意味がわからなくて驚く経験をするからです。
    読者は、文章からのみ情報を得ます。 そのような読者の立場に立つのに、 自分の文章を時間をおいて読み返すのは有効じゃないかと思います。
     * * *
    それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。
    今回は「Q&A」特集のような内容になりました。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    ささいなことが気になる/学び方の上手い人、下手な人 - Q&A
    怒りについて/生きることを学ぶ旅 - Q&A
    どうしたらプログラミングが楽しくなりますか - Q&A
    おわりに
     
  • Vol.292 結城浩/仕事の進化と集約 - 仕事の心がけ/SNSでの「さらし」について/

    2017-10-31 07:00  
    220pt
    Vol.292 結城浩/仕事の進化と集約 - 仕事の心がけ/SNSでの「さらし」について/
    結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年10月31日 Vol.292
    はじめに
    おはようございます。結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
     * * *
    メモの話。
    何か「新しいこと」や「おもしろそうなこと」や「やるべきこと」を思いついたら、 とにかくまずメモするようにしています。
    その思いついたことにどんな価値があるかはあまり考えません。 実際に使うかどうかも考えません。 そういうのは、後でゆっくり考えればいいことです。 ちょっと時間をとってメモをすれば、忘れてしまう心配はなくなります。 メモするというのは(私にとっては)知的生活の大切な習慣になっています。
    どういうツールがいいか、どこにメモをすればいいのか、 ということを気にする人がたまにいます。 もちろんそれは大事なんですけれど、 いざメモするときにはそこで迷わないようにしたいですね。 ツールのことも、後でゆっくり考えればいいことです。 とにかく思いついた瞬間に、忘れないうちに、メモするのが大事です。
    紙に手書きでメモして写真を撮っておくこともあります。 iPhoneでSimplenoteを使ってメモすることもあります。 人に知られても困らない内容だったら、 メモをTwitterでツイートすることもよくあります。
    メモする習慣が大事なのは、思いついたことを忘れないためでもありますが、 それだけではありません。「書き留める」という行為自体が、 自分の発想をうながす効果があるのです。 メモすることで、いったん自分の心や頭から「それ」 を取り出すからでしょうね。 思いついたことを取り出し、自分の外で形にする。 知的生活では、その習慣が大切だと思います。
    ツールを気にするのもいいですが、 メモする習慣を付けるのも大事です。 メモする習慣があれば、それを改良していくことができるからです。 また「自分はどういうことをメモしたがるか」という業務分析もできます。
    つまり、実際に自分がメモを取るという行為をする前は、 自分がどういうメモを取るか、 どういうシーンでどういう種類のメモを残したいか、 わからないということ。
    ツールの準備を前もってすべて整えて、 それからメモを取り始めるのではありません。 メモを取り、その経験を元にツールを整え、 さらに整えたツールでメモを取り…… そのようなインクリメンタルなプロセスが大事。 結城はそんなふうに思っています。
    あなたは日々、メモを取っていますか。
     * * *
    夫婦と多数決の話。
    先日、こんなツイートをしました。 たった一言、五七五です。
     多数決。夫婦の間じゃ使えない。
    意思決定をするときに「多数決」はよく使われる手段です。 手を挙げるか投票するかはさておき、 全体のうち半数より多い意見の側を採用する、多数決。
    でも、夫婦は二人しかいません。 二人の意見が異なったときには「多数決」は使えません。 だって、二人しかいないのに「多数派」は存在しませんから。
    先ほどの「多数決。夫婦の間じゃ使えない。」を考えているとき、 結城の心の中にあったのは、C.S.ルイスの"Mere Christianity" という本の第6章に書かれている次の一文でした。
     They cannot decide by a majority vote,  for in a council of two there can be no majority.  (夫婦は、多数決で意思決定はできない。  二人しかいないのに「多数派」は存在しないからだ。)
    "Mere Christianity"は『キリスト教の精髄』という書名で翻訳も出ています。
     ◆『キリスト教の精髄』  https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4400520544/hyuki-22/
    夫婦で意見が分かれたときにどうするかというのは、 実は深く考える価値のある問題です。 「互いに話し合いで決める」というのは当然としても、 ここでのポイントは、夫婦に関する重大な問題で、 話し合いを続けたにも関わらず意見が分かれたときにどうするか、 というところにあります。
    どちらか片方が決め他方が譲るか、両者がばらばらになるか、 コイン投げで決めるか(乱択アルゴリズムだ!)、 そのいずれかになるでしょうか。
    わが家では、 妻ではなく結城が最終決定権を持つと決めています。 いままでその権利を明確に行使したことはありませんけれど。
    夫婦の間で多数決は使えないというのは、 「夫婦とは何だろう」という大きな問いにも繋がるテーマだと思います。
    あなたはどう思いますか。
     * * *
    名前の話。
    先日、こんな質問をいただきました。
     歴史嫌いの子供に、歴史の魅力を伝えるとしたら、  どんなことを話しますか?
    これに対して、結城はこんなふうに答えました。
     まずは「歴史嫌いの子供」という認識をやめましょう。  そしてその子供が「好きなこと」を見極めます。  そうすれば答えが見えてきます。
    質問をはぐらかしている回答のようですが、 結城はそれほど変なことは言ってないと思います。
    名前というのは不思議なものです。 「歴史嫌いの子供」と名前付けをすると、 そのような視点から子供を見てしまいがち。
    固定した視点から見ていると、 新しい発想が浮かびにくくなります。
    別の名前、別の表現で言い直してみるのは、 問題解決のためにはいいことじゃないかな、 と思うのです。
    それから、もう一つ。 「歴史嫌いの子供」というくくり方をしてしまうと、 そういう集団に対する答えを探してしまいます。 問いが一般的だと、答えも一般的にならざるを得ないからです。
    でも「歴史嫌いの子供」というくくり方をやめると、 ひとりひとりの相手を知ろう、 個人としての相手を理解しようとするでしょう。 個別的な問いを自分で立てて、 その個別的な問いに答えようとするのです。
    過度な一般化から逃れるのにも、 名前は有効かもしれないなあ……と思い、 あのような回答になったのです。
    問題解決を行うときに、 その中心にあるものをどう呼ぶか。 名前をどう付けるか。 それは大切なことなのです。
    なぜなら「名前をどう付けるか」は、 「問題をどう定義するか」に直結するからです。
     * * *
    「好きなこと」と「得意なこと」の話。
    勉強であれ趣味であれ「好きなこと」と「得意なこと」は必ずしも一致しません。
     「下手の横好き」
    という言い回しはそのことを端的に表していますね。 上手くできない(得意じゃない)としても嫌いになるとは限らなくて、 むしろ好きな場合だってあります。
    『数学ガール』の読者さんからもらう感想の中には、 「数学は得意じゃないけれど、この本を読んで好きになりました」 というものがあります。こういう感想をいただくのはうれしいですね。
    そして「好き」と「得意」というのはどういう関係があるんだろう? と考えてみました。
     「好きなこと」というのは自分との関係であり、主観的。  「得意なこと」というのは自分以外の基準が必要であり、客観的。
    ざっくりと区別するとこのようにいえるかな、と思います。 もちろん「得意」も主観的な側面はあります。 他の人はそう思わないけれど、自分では得意だと思ってる、 そんなことはよくありますから。
    とはいえ「好き」は主観的な要素が強く、 「得意」は客観的な要素が強いというのはおかしくはない区別でしょう。
    そう考えると、
     「好き」は主張しやすい。  「得意」は主張しにくい。
    という状況も理解できます。
    だって、「私は数学が好き」という主観的な気持ちは、 他から文句がつけようがないですから。 好き嫌いは内面的なものであり、 他の人が「いや、あなたは数学が嫌いだ」なんていえませんよね。 だから、安心して「私は数学が好き」といえます。
    それに比べると、「私は数学が得意」 という主張をするのはやや勇気が必要です。 だって他の人から、
     「あなたのその状態で数学が得意なんていえるの?」
    と言われちゃうかもしれないから。 いや、他の人からいわれなくても、 つい自分で、
     「自分は数学が得意なんて言えない……」
    と思いそうです。しょぼんとしてしまいますね。
    このように考えてくると、 他の人の目を気にするというのは、 ずいぶんもったいないことだという感じがします。
    結城は「数学を学びたい」という気持ちはとても大切だと思います。 「私は数学が得意じゃない、だからもっと得意になりたい」 と前向きに考えることができる人もいるでしょうけれど、 必ずしもそういう人ばかりではありません。
    だから、
     「好き」
    という気持ちを育てていくのはいいことじゃないかな、 と思います。誰からも文句は言われない。 安心して「私は数学が好き」といえる。 そこで足場を固めた上で、次の行動を選択する。
    これは数学に限った話ではありません。 身につけたい技術、手に入れたい知識、役立てたい経験。 どんなことにも当てはまりますよね。
    そして、
     「好きこそものの上手なれ」
    という言い回しを思い出します。
    「私は○○が好き」と宣言してみましょう!
     * * *
    それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    仕事の進化と集約 - 仕事の心がけ
    SNSでの「さらし」について - Q&A
    おわりに
     
  • Vol.289 結城浩/再発見の発想法/信頼は何から生まれるか/レビューアの選択/

    2017-10-10 07:00  
    220pt
    Vol.289 結城浩/再発見の発想法/信頼は何から生まれるか/レビューアの選択/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年10月10日 Vol.289
    はじめに
    おはようございます。結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
     * * *
    風邪の話。
    ちょうど前回の「結城メルマガ」を書いているときのこと、 何だか急激に体調が悪くなりました。 体調が悪いとき、結城は喉が痛くなります。
    まずいまずいまずいと思っているうちに、 喉がどんどん痛くなってきました。 何とかメルマガを書き上げて、帰宅してダウン。 そのイメージ図はこちらになります。
     ◆メルマガできたけど、のどいたい。おやすみー
    結城が「自分、風邪引きかけてる?」というときには、 まず温かいものを食べたり飲んだりします。 特に生姜蜂蜜や大根蜂蜜をお湯にとかしたものが効きます。 葛根湯を飲んで、ドライヤーで喉のまわりやお腹を温めます。 お風呂に入って湯冷めしないうちにすぐ眠ります。 眠るときにマフラーやマスクもします。
    しかし、今回はそれらの対処もうまく効かず、 火曜日はまる一日寝込んでおりました。 イメージ図はこちら。
     ◆びねつ
    幸いにして、水曜日くらいから回復し、 木曜日のWeb連載執筆にはなんとか復帰することができました。
    でも、一日寝込んだだけで、 何となく一週間がふっとんだような気分になるものですね。 健康大事です。
    それはそれとして、火曜日一日眠ったのは、 私にとって大切な意味があったようです。 頭の中がいい具合にリセットされて、 新鮮な気持ちで仕事に向かうことができたような気がします。
     * * *
    専門家の話。
    ちょっとした技術的内容に関して、 専門家に打診していたことがあります。 二、三日で返事がやってきて、だいたい結城の想像通りの答えで一安心。 専門家の意見というのは本当に助かります。
    専門家の意見がありがたいのは、 「AとBのどちらがよいか」という二者択一の局面ばかりではありません。
    「AとBのどちらがよいか」以前に、
     ・AとBを候補に挙げるのは妥当なことなのか  ・いま選択しておいて取り消すことは可能か  ・この選択はのちのち重大な結果を招くか
    という情報が素人にはなかなかわかりません。 専門家から、
     厳密にいえば長期的にはまずいけど、  ここさえ押さえておけば、  後からでも直せます。
    のような意見をもらえるのはありがたいもの。 「案配」も含めて答えてくれる専門家の存在は助かります。
     * * *
    「落差攻撃」の話。
    人のコミュニケーションに関連して、 先日、こんな発見がありました。
    そのとき結城はスーパーのレジに並んでいました。 私の前には30代くらいのカップルが同じようにレジ待ちをしています。 ところが、この二人、どうも険悪な雰囲気です。
    「険悪な雰囲気」というレベルを次第に越えて、 明らかに「言い合いのケンカ」に近づきました。 方向性としては、女性が男性に不満をぶつけていて、 男性はなだめようとして失敗している状況です。
    そんな状況のそばにいたくはありませんけれど、 別のレジに並び直すわけにもいきません。
    やがて、レジの順番がケンカしている二人のところまで来ました。 すると、カップルの女性が「奇妙な行動」を始めました。 レジを打っているお兄さんに、やさしい声を掛けたのです。
    え、この女性、レジのお兄さんの知り合いなの? というくらい親切で心のこもったあいさつをしています。 「今日は気持ちのいい一日でしたね」のような言葉も出てきました。 レジのお兄さんは、やや困惑しながらも「そうですね」のような返事。 もちろん、このレジのお兄さんと女性は赤の他人です。
    やがて会計が終わり、 カップルの二人はケンカしながらレジを過ぎていきました。
    私は、
     「あの女性は、どうしてレジのお兄さんに、  飛びきりやさしい声を掛けたんだろう?」
    と考えました。そしてすぐに答えがわかりました。 あの女性は、カップルの男性に対して、
     落差攻撃
    を仕掛けたのだ、と。
    無関係な他人に「優しく振る舞う」とします。 そうするとその優しさを基準に考えるなら、 攻撃したい相手に対する振る舞いは、 「落差」を使った攻撃となるのです。
    無関係な他人にプラス100の態度(100の優しさ)で接して、 攻撃したい相手にマイナス100の態度(100の不機嫌さ)で接すれば、 その落差を使ってマイナス200の態度(200の不機嫌さ)を示せる。 そういう理屈ですね。
    相手に直接200の不機嫌さを示すことは難しい、 しかし、第三者を利用して落差攻撃をすれば、 間接的に200の不機嫌さを相手に示すことができるのです。
    落差攻撃。こわいなあ。
     * * *
    個人間の少額送金の話。
    ネットで活動している人が頭を悩ませるのは「マネタイズ」の問題です。 自分でちょっとしたコンテンツを作り、 それを販売してお金にしたいと考えたとします。 どのような形でプロモーションして売るかというのは、 自分がリーチしたい層やお金の規模によって変わるでしょう。
    たとえばnote(ノート)では、 コンテンツを手軽に「販売」することができます。 文章やイラストを用意して、それをブログ感覚でアップロードし、 途中に「ここから先は有料」というラインを置くだけ。 とても手軽に「販売」することができます。
    しかし、販売する側には手軽でも、購入する側にも手軽とは限りません。 note(ノート)で支払いをするためには、アカウントを作ったり、 アカウントを作らないまでもクレジットカード番号の入力が必要になるからです。
    そんなことを考えていて、ふと思ったことがあります。
    もしかして、 日本で一番手軽な「個人間の少額送金」とは、
     「アマゾンギフト券」を使うこと
    ではないでしょうか。
    「アマゾンギフト券」は15円以上50万円まで、 1円単位で買え、しかもメールで送れます。 ですから、信頼できる相手に少額送金するにはかなり手軽ですね。
    結城は以前、数学の同人誌を作っている人に郵送してもらい、 「アマゾンギフト券」で支払ったことがありました。 料金は1000円くらいだったと思います。
    そんな話をしていたら、 ある方から「同感です」というコメントをいただきました。 その方は、飲み会の割り勘で細かいお金が出せなかったときに、 「アマゾンギフト券」を使ってその分を支払ったとのことです。
    あるいはまた、別の方は、 「親御さんの還暦祝い」を購入する際に、 遠方に住む兄弟と共同購入するため「アマゾンギフト券」 を用いたとのこと。代表して買った人に「アマゾンギフト券」 をメールしたのでしょう。
     ◆アマゾンギフト券  https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B004N3APGO/hyuki-22/
     * * *
    DoS攻撃(?)の話。
    このあいだ見た風景です。
    駅の改札をおばあさんがSuicaで通ろうとしてエラー。 赤いランプが点いてゲートが閉まります。
    おばあさんは「あら?」と首をかしげ、 故障なのかしらと隣のゲートにタッチします。当然またエラー。 赤いランプが点いて隣のゲートも閉まります。
    おばあさんは、首をかしげながらそれを繰り返し、 あれよあれよというあいだに、 並んだゲートは軒並み通行不能になりました。
    結城はそれを見て、
     「リアルDoS攻撃だ!」
    と思いました。
    おばあさんは攻撃していたつもりはないんですけどね。
     * * *
    それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    再発見の発想法 - DoS攻撃
    信頼は何から生まれるか
    レビューアさんはどうやって選ぶ? - Q&A
    おわりに
     
  • Vol.285 結城浩/再発見の発想法/テキスト作成エコシステム/自己満足から逃れるには/

    2017-09-12 07:00  
    220pt
    Vol.285 結城浩/再発見の発想法/テキスト作成エコシステム/自己満足から逃れるには/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年9月12日 Vol.285
    はじめに
    おはようございます。結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
     * * *
    まちがっているのに正しい約分の話。
    筑波大学の三谷純先生(@jmitani)がこんなツイートをしていました。
     --------  Book of Curious and Interesting Puzzles で紹介されていた、  やりかたが間違っているけど、なぜか答えは正しい約分の例。
     https://twitter.com/jmitani/status/901083528611323909/  --------
    どういうことかというと、 たとえば「64分の16」という分数を考えます。
     16/64
    分子と分母の両方に6という数字があるので、 それを「約分」のように消してしまうのです。 すると、分子と分母から6が消えるので、
     1/4
    という形になりますね。そしてこれはたまたま、 16/64を正しく16で約分したときと同じ結果になるのです。 約分のやり方としてはまちがっていますが、 結果的には正しくなっちゃうという分数なのですね。
    おもしろいです!
    三谷先生のツイートでは、 同じ特徴を持つ3個の分数が紹介されていました。 それは、
     16/64 = 1/4  26/65 = 2/5  19/95 = 1/5
    の3個です。
    これを見たとき、
     「おもしろいけど、これで全部なんだろうか?」
    と結城は思いました。
    二桁分の二桁という分数に限るなら、 分子と分母にくる可能性があるのは10〜99ですから、 すべての組み合わせを試したとしても、大した数ではありません。
    とはいえ手でやるのはめんどうですから、 さっそく小さなプログラムを書いてすべてを探してみました。 具体的には、
     (10a+b)/(10b+c)
    という形をした分数を探すということです。
    プログラムを書き始めてすぐに「約分した結果1になる分数」 の存在に気づきます。たとえば、
     22/22
    は 1/1 になってしまいますよね。 そういうのはつまらないので除外しました。 そうすると「二桁分の二桁」で値が1になるもの以外は、 全部で4個あるようです。三谷先生が書いたものを除くと、 最後の1個は、
     49/98 = 4/8
    です。でもこれはさらに約分できてしまうので惜しいですね! 何が「惜しい」のかよくわかりませんが(苦笑)。
    ともあれ、見つかった分数は以下の4個です。
     ◆まちがった約分なのに、なぜか正しくなる分数(画像)
    Rubyで書いたプログラムは以下で公開しています。
     ◆まちがった約分なのに、なぜか正しくなる分数  https://gist.github.com/hyuki0000/a9670b7a7b42554412e0111903635fc8
    こういうプログラミングは、何かの「役に立つ」わけではありません。 でも、なぜか楽しいものです。自分が抱いた素朴な疑問である、 「これで全部なんだろうか?」 に対して答えを与えてくれるからでしょうかね。
     * * *
    フォロワー数の話。
    先日、結城をフォローしてくださる方が3万9千人を越えました。 多数のフォロワーさんに感謝です。
    ところで、高校生になる息子がこんなことを言ってきました。
     ねえ、お父さん。  お父さんをフォローしてる人って多いんだよね。  ぜんぶで 500万人 くらい?」
    息子に言いたい。
    私は、きゃりーぱみゅぱみゅさんではないのだよ……
    ※きゃりーぱみゅぱみゅさん(@pamyurin)のフォロワー数は、現在500万人強です。
     * * *
    それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞ、ごゆっくりお読みください!
    目次
    はじめに
    再発見の発想法 - Backtrack(バックトラック)
    テキスト作成エコシステム - 文章を書く心がけ
    自己満足から逃れるには - Q&A
    自由に選択できるということ
    おわりに