-
Vol.209 結城浩/停滞したプロジェクトを再開する三つの指針/英語と国語/Python写経/
2016-03-29 07:00220ptVol.209 結城浩/停滞したプロジェクトを再開する三つの指針/英語と国語/Python写経/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年3月29日 Vol.209
はじめに
おはようございます。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
驚くべきことに、もうすぐ4月ですね。 今年の四分の一が終わろうとしているなんてびっくりです。
結城はまだ日付をタイプしようとして、 うっかり2016じゃなくて2015と打ってしまうというのに。
先日なんか、手がずれていて3026と打ってしまいました。 いきなり未来へタイムトリップですよ。
* * *
新刊の話。
『数学ガールの秘密ノート/場合の数』の再校読み合わせは、 先週末に無事終了しました。 いくつか宿題(印刷所に戻す前に解決すべき問題)が残りましたが、 それも土曜日に解決。
サイン本の予定を確認し、一部の書店さんで書籍に封入してくれる メッセージカードの予定すりあわせも済みました。
いつも結城個人が企画している《サイン本無料プレゼント》も始まっています。 まだご応募していなければ、いますぐどうぞ。
◆『数学ガールの秘密ノート/場合の数』《サイン本無料プレゼント》 https://bit.ly/combi2016
書影が届いたので、ランディングページも作りました。
◆『数学ガールの秘密ノート/場合の数』 http://note7.hyuki.net/
いよいよ来月の刊行に向けて秒読み段階です。 ぜひ応援してください!
『数学ガールの秘密ノート/場合の数』が一段落して、 次のプロジェクトをそろそろ始動……これについては、 後ほどお話しします。
* * *
プレゼントの話。
プレゼントといえば、 『三省堂国語辞典』編集委員をなさっている飯間浩明さんが、 「国語辞典をプレゼントされたらどう感じますか」 というアンケートを実施していました。
https://twitter.com/iima_hiroaki/status/708912674315247616
飯間さんも後のツイートで「やや誘導的な質問」と書いていたとおり、 「好きな相手」から「わりとセンスのいい」「最新版」 の国語辞典をプレゼントされたら……という質問は誘導的ですね。 だって「好きな相手」から「センスのいい」ものをプレゼントされたら、 たいていはうれしいですよ!
でも、そこを突っ込みたいわけではありません。 そういう条件があったとしても、 国語辞典がプレゼントになるというのは、 何だかいいことのように感じますね。
先日、結城の『数学ガールの秘密ノート/式とグラフ』が、 アマゾンで「数学の人気ギフトランキング」で第1位になっていました。 春の新学期・新入学シーズンに向けての贈り物かもしれませんね。 「贈り物としての数学」って、何だか素敵です。
* * *
カフェの話。
先日、カフェで隣に座った高校生が、 参考書とノートを広げてから勉強に向かわずに、 時間の大半をiPhoneのLINEアプリで過ごしていました。 それが、すごく気になります。
せっかく勉強道具持ってカフェに来てるんだから、 集中して勉強しようよ。 LINEも悪くはないけど、 あなたそればっかりやってるじゃないですか。
そんなふうにお説教したくなります (もちろんしませんよ)。
でも冷静に考えてみると、集中してないのは私だ(!)
せっかく仕事道具持ってカフェに来てるんだから、 集中して仕事しようよ!
はい、すんません……後ほど「仕事の心がけ」のコーナーで、 「停滞したプロジェクトを再開する三つの指針」 というお話をしますね。カフェも出てきます。
* * *
では、今週の結城メルマガを始めましょう。
どうぞ、ごゆっくりお読みください!
目次
はじめに
停滞したプロジェクトを再開する三つの指針 - 仕事の心がけ
英語と国語
Pythonを写経するお話 - 仕事の心がけ
おわりに
-
Vol.208 結城浩/フロー・ライティング - 孤独の中で書く/言った!言わない/文章を書くと言うこと/
2016-03-22 07:00220ptVol.208 結城浩/フロー・ライティング - 孤独の中で書く/言った!言わない/文章を書くと言うこと/
結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年3月22日 Vol.208
はじめに
おはようございます。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
天気の変化が激しいですが、 少しずつ春が近づいている感じがしますね。 あたたかくなっていくというのは気持ちがいいものです。
* * *
新刊の話。
『数学ガールの秘密ノート/場合の数』は四月刊行。 先週末に再校ゲラが届いたのでせっせと読んでいます。 現在は一回通し読みが終わり、二回目に入るところ。 今週末に再校読み合わせがあり、 その時点で、原稿に関しては結城の手をほぼ離れます。
毎回思うのですが、初校のときにあった文章のざらざらは、 再校のときにはもうだいぶ取れています。 楽しみながら読み、ときたま出てくる小さなミスに対処する感じですね。 大事なキーワードが二行に渡らないようにする細かい修正も行います。
書影が編集部から届いたら、 サイン本無料プレゼント企画を行い、 書店さん向けのメッセージカードやサイン本作りを行い、 ランディングページを整える予定です。 来月の出版に向けてがんばりますよ!
◆『数学ガールの秘密ノート/場合の数』(結城浩) http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4797387114/hyam-22/
* * *
Web連載の話。
結城は毎週金曜日、cakesで「数学ガールの秘密ノート」 というやさしい数学物語を書いています。 ふだんは、金曜日の朝7:00から24時間、最新号が無料で読めます。
でも、いまは端境期。先日でちょうど150回を迎え、 現在はお休み中。再開するのは4月8日になります。
毎週、数学トークを書き続けるのは楽しい活動なのですが、 なかなか大変な部分もあります。 なので、10週ごとにお休みをいただいているのです。
Web連載は、10回分で一冊の本になるようにスケジュールを組んでいます。 先日終了した第141回〜第150回は「波の広がり」というシーズンでした。 物理的な波の定義から始まり、三角関数の和積公式や、「うなり」を体感したり、 フーリエ係数を計算したり、楽しいシーズンでした。 期間中に実施されたセンター試験でも、たまたま波の問題が出ましたね。
第150回を迎えたので、ストックされた題材は15冊分あります。 そのうち実際に書籍になったのは来月で7冊目。 つまり、まだ8冊分のストックが残っていることになります。 Web連載の方がずっと早いペースで進んでいるので、 さてさてどうしましょうかね。
結城はここ十年近く、数学ガールに出てくるキャラクタの、 楽しい数学トークに耳をすます生活を続けています。 とても豊かで幸せな人生だと感じます。数学は楽しいです。 自分のペースで学び、考える。読んで考え、書いて考える。 もしかしたら、人生最大の楽しみかもしれません。
幸いにして、とても多くの方が、数学ガールを応援してくださっています。 感謝です。結城はその期待に応えるべく、 自分なりにがんばって(でもがんばりすぎないように)いきたいと思います。 あなたの応援が支えです。
現在はWeb連載の新シーズンをどんなテーマにしようか検討中。 どうぞご期待くださいね!
◆Web連載「数学ガールの秘密ノート」 https://bit.ly/girlnote
* * *
NHKの連ドラ「あさが来た」の話。
毎朝「あさが来た」をとても楽しみにしています。 ぜんぜん奇をてらうことがない王道のストーリーで、 たっぷり楽しめて満足できる好例だと思います。 この物語に「悪人」はほとんど出てこない。 みんな「まっとうなこと」を言う。 でも、なぜか目が離せない。楽しめる。 これは、恐らく脚本家の腕ですね。
物語の王道を進みつつも、シリアスあり、コミカルあり、 驚くほどのサスペンスもありと、毎朝15分と思えない充実ぶりである。 家内は「まるで毎日大河ドラマを見ているような」と評していた。
物語の絡みもうまい。 年配の女性の切ない恋物語である「うめさん」の話から、 一つの手鞠がころころ転がって、若者の初恋に繋がっていく。 物語に出てくるエピソードが有機的に絡んでいるのがすごい。
脇役の出し方もうまい。 キャラクタ一人一人がそれぞれ生き生きしていて、 しかもそれぞれにスポットライトが当たる場面がある。 ちゃんとキャラクタがそれぞれの人生を送っている、 生身の人間のように見える。 ご都合主義で動かされている感じがまったくない。
もうすぐ終わりになるけれど、 物語の作り方を学べるようなそんな連ドラですね。
* * *
ほめる・けなすの話。
一般論ですが、何かを「ほめる」とき、 別の何かを「けなす」人がときどきいます。
「Aはいいよね! それに比べてBときたら…」
みたいに。本人はBをけなす意図はなくて、 単に言い方のクセなのかもしれませんが、 そういう発言ばかりだと、印象はあまり良くないと思います。
恐いのは、 言っている本人にその自覚がないということ。 人から言われると不愉快だけれど、 自分が人に不愉快な思いをさせていることに気付かない、 という状況はよくありそうです。
そしてもう一つ恐いのは、大人になると、 こういう発言に忠告してくれる人がいなくなるということ。 ということはフィードバックが掛からない。
結城はふだんネットでよく発言しているから、 フィードバックが掛からないのはとても恐い。 何か忠告してくれる人はほんとうに助かる。
* * *
文章指導の話。
ときどき、新入社員への課題として結城の『数学文章作法』 を読ませているという話を聞きます。 基本的で大事なポイントが押さえられている文庫本なので、 課題として読ませるのにとてもよいとのことです。 ご利用ありがとうございます。
会社であれ学校であれ、 「正確で読みやすい説明文」を書く機会は多いものです。 でも、指導者には「書く内容」のほうを踏み込んで教えていただきたい。 基本中の基本である「読者のことを考える」や「接続詞に注意しよう」 というところから始めるのでは、指導者の時間がちょっともったいないですね。 なので、結城の『数学文章作法』をそういうところで活用していただくのは、 たいへんうれしいことです。
『数学文章作法 推敲編』の第1章は、 DRMなしのPDFで全文読めるようになっています。 登録不要で、もちろん無料です。 こちらからPDFをダウンロードできますので、ぜひご覧ください。
◆『数学文章作法 推敲編』第1章(PDF) http://www.chikumashobo.co.jp/special/yukihiroshi/data/read.pdf
なお、結城の『数学文章作法 推敲編』 Kindle版は、3月末までセールになっています。
◆『数学文章作法 推敲編』 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00UWBR406/hyuki-22/
* * *
では、そんなところで、今週の結城メルマガを始めましょう。
今回は「フロー・ライティング」のコーナーで、
「孤独の中で書く」
という、いつもとちょっと雰囲気の違う文章をお送りします。
どうぞ、ごゆっくりお読みくださいね。
目次
はじめに
フロー・ライティング - 孤独の中で書く
文章を書くということ - 文章を書く心がけ
「言った!言ってない!」が出るのは失敗プロジェクト - 仕事の心がけ
現状に不満を抱いているあなたへ
夜中にふと目が覚めるときがある
おわりに
-
Vol.207 結城浩/再発見の発想法 - DSL/作りながら考える「小さなWebサイト群」/知的納得を求める気持ち/
2016-03-15 07:00220ptVol.207 結城浩/再発見の発想法 - DSL/作りながら考える「小さなWebサイト群」/知的納得を求める気持ち/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年3月15日 Vol.207
はじめに
おはようございます。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
* * *
新刊の話。
『数学ガールの秘密ノート/場合の数』 の初校読み合わせは無事に済みました。 今週末に再校がやってくるまでの間は、 『数学ガール6』の方をできるだけ進める予定です。
◆『数学ガールの秘密ノート/場合の数』(結城浩) http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4797387114/hyam-22/
まだ公開はできませんが、 『数学ガールの秘密ノート/場合の数』の すてきなカバーイラストもできあがってきました。
どうぞお楽しみに!
* * *
学校生活と幸福について。
Twitterでときどき、 「数学的には正しいのに、テストでバツをつけられた」 という話題を見かける。掛け算の順序などの話。
結城は学校生活で、 「テストの答案が正しいのにバツつけられた」 という経験はあまり記憶にない。 もしかしたら、とても幸運だったのかもしれない。
逆の経験がある。 小学一年で「正しい気温の測り方」のテストがあった。 クラス全員が、温度計を直射日光に当てる方を選んだけれど、 私だけが「日陰にする」という正しい方を選んだ。 たぶん、何かの科学雑誌で読んだ知識があったのだと思う。 先生はわざわざ私をほめてくれた。 あれから四十数年過ぎた。 その誇らしい気持ちと「ちゃんとした知識は大事」という記憶、 それから「先生から正当に扱われた」という体験は忘れていない。
いろいろ思い出してきたぞ。 講談社ブルーバックスや、科学雑誌で仕入れた知識を授業でひけらかしても、 教師から怒られた記憶が一回もないな。 中学校で先生に苦笑されたことはあったけど。 私の先生は、いつも私の勝手な言動をうまく扱ってくれたんだなあ。 ときには授業やりにくいこともあっただろうに。改めて感謝である。
小学校や中学校のとき、 授業で先生がしてくれる話は、ファンタジーの世界のように楽しかった。 授業の時間は、先生の話から自分で自由に想像の翼を広げる時間だった。 小学校では五年生が、中学校では二年生が一番楽しかった。 数学と理科が好きだったっけ。
私が描く「数学ガール」の世界は、 私が体験した学校生活を蒸留して描いているのかもしれないなあ。 理想の学び舎として。理想の知的対話として。
小学校のときの先生が言ってたことを思い出す。 正確な言葉は覚えてないけど、 「君(結城)が何を言おうとしているか、 ときどき難しくてわからないけれど、なかなかいいよ!」 ってほめてくれた。 せせこましい世界に押し込めずに、 結城のことを適当に(適切に)放置してくださったんだな、と思う。 私はきっと、とても幸運な学校生活を送ったのだね。
そういえば、 NHKの連ドラ「あさが来た」では女子の高等教育の話題が出てきている。 いい教育はきっと未来を作り、しっかりした国を作る。 いい国を作る、なんて書くと政治的にどうこうと思う人がいるかもしれないけど、 いい国を作りたいと思うのは大事だと思う。 国という枠が大きすぎるなら自分の周りだけでもいいけれど。 自分の周りを住みよくしたい。 みんなで、それぞれの力を合わせて住みよい社会を作りたいというのは、 大事な気持ちだ。
そういう幸福な社会を作っていく上で、教育はとても重要である。 極端なことを言うと、文章を読めず、論理的に考えることができず、 自分の健康に良い食事を選べないとしたら、 個人として幸福に生きることは難しい。 そして幸福に生きることがむずかしい個人が集まっても、 幸福な社会にはならないだろう。 身の回りの説明文を読んで意味を理解する力は、 幸福に生きるために大切な力だ。
教育は、幸福な社会に欠かせない基礎の一つなのである。
* * *
指示に従わない人の話。
一般論である。
世の中には「命じられたことはやらない」という人がいる。
「こうしてください」という指示を口頭であれ文書であれ受け取ると、 そうしたくなくなるという人がいる。
命じられたことだけをあえてやらなかったり、 言われた方法とは違うやり方をしようとしたり、 このくらいでと指示された量をわざと変える人がいる。
相手に対する意地悪な気持ちや、 悪意を持ってそのような行動を取る人もいるが、 特に悪意がないのに何となくそうする人がいる。
特にそういう人を批判しているわけではないし、 そもそも特定の誰かを思い浮かべているわけでもない。 天邪鬼だと揶揄したいわけでもない。 ただ、そのような人が存在することは確かだ。
指示に従わない理由が何なのかは知らない。もしかしたら、 指示によって自分が「支配される」ことが嫌なのかもしれない。 つまり、あえて指示に逆らうことによって支配から逃れようとする試み。 指示に逆らうことができると確かめて、 自分の自由を確認したいのかもしれない。
結城はどちらかといえば、 言われたことをその通りするタイプなので、 本当のところはよくわかっていないのだけれど。
* * *
子供との数学の話。
日曜日の午後、家でごろごろしていたら、 高校生の子供が数学の問題を持ってきました。 問題を見ると、きっと解けるはずの問題。 そこで、子供に言いました。
問題文を読んでください。 グラフをちゃんと描いてください。 グラフはコチャコチャと小さく描くのではなく、 大きくしっかりと描きましょう。 あとは、よく考えてください。
しばらくしたら、彼はちゃんと問題を解いたようです。 よかったよかった。
それからまたしばらくして、 子供が今度は数学の質問を持ってきました。 極限のようです。二人でいっしょに勉強することにしました。 いっしょに声を出して教科書を読み上げ、 私が何点か行間を補足して説明をしました。 適切な例を挙げようと思って、教科書の次のページを見たら、 まさにその適切な例が書かれていました。 数学の教科書ってすばらしいですね。
* * *
そんなところで、今週の結城メルマガを始めましょう。
今週は「再発見の発想法」のコーナーでPDFをお送りします。 また、まだよくまとまっていないのですが、 結城が作る「小さなWebサイト群」の話。 そして「知的納得を求める気持ち」に応える、 教えるときの心がけ。
そんな読み物をお届けします。
どうぞ、ごゆっくりお読みくださいね。
目次
はじめに
再発見の発想法 - DSL
作りながら考える「小さなWebサイト群」 - 仕事の心がけ
知的納得を求める気持ち - 教えるときの心がけ
おわりに
-
Vol.206 結城浩/Standlandで自分を再発見/初校で何をどう直しているか/
2016-03-08 07:00220ptVol.206 結城浩/Standlandで自分を再発見/初校で何をどう直しているか/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年3月8日 Vol.206
はじめに
おはようございます。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
* * *
新刊の話。
『数学ガールの秘密ノート/場合の数』は四月刊行予定です。 この結城メルマガが配信される3月8日には、 初校の読み合わせのために結城は編集部に出かけます。
初校ゲラが結城のところにやってきたのは先々週でしたから、 おおよそ二週間、初校ゲラと格闘していたことになります。 いつものことですが、初校の段階ではまだまだアラが目立ちます。 読んでいてザラザラした痛みを感じます。
でも逆にいえば、大胆な変更もまだまだ可能なので、 問題を入れ換えたり、新たな問題を追加したりして、 品質向上に努めます。
ゲラを読んでいて毎回思うのは、 「本を書くのはとても地味で泥臭い作業である」ということ。 他の書き手はどう感じているか知りませんが、 ゲラ読みに、派手な要素はまったくありません。 華麗な校正などというものはありません。 文章を直していくというのは、基本的に「ちまちま」した話なのです。
でも非常に興味深いのは、 その「ちまちま」して泥臭い地味な作業が積み重なると、 大きな品質向上に繋がるのです。 結城は、
「なぜか理由はわからないけれど、読みやすい」 「どうしてそうなるかは表現できないけれど、読んでいて楽しい」
という文章を書くのが好きです。
文章が読みやすい理由がどうであるか、 というのはあくまで書き手の都合であり、 読者に向けて振りかざすことではありません。 文章は、読者さんが楽しく読み進めることができ、 理解が深まることが主目的ですからね。
そしてそのためには地味で泥臭くて「ちまちま」した作業が、 なぜかどこかに必ず必要なんですよね。不思議なことに。
◆『数学ガールの秘密ノート/場合の数』(結城浩) http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4797387114/hyam-22/
後ほど、 どれだけ「ちまちま」した修正をやっているかというお話をしますね。
* * *
チューリング賞の話。
チューリング賞というのはコンピュータサイエンスの分野最高峰の賞です。 先日、そのチューリング賞をディフィー・ヘルマン鍵交換で有名な ディフィーとヘルマンが受賞しました。 ディフィー(Whitfield Diffie)とヘルマン(Martin Hellman)は、 暗号やセキュリティに関わる人で名前を知らない人はいません。 ディフィーとヘルマンがこれまで受賞していなかったことが驚きです。
◆チューリング賞公式ページ http://amturing.acm.org
私たちがインターネットで買い物をするときには、 クレジットカード番号などを暗号通信によってショップに送ります。 暗号通信のためには「鍵」が必要で、安全な通信のためには、 その「鍵」をどうやって相手に配送するかが問題になります。 そもそも鍵が安全に配送できるなら、それで通信すればいい。 安全に配送できないから困っているわけですよね。 公開鍵暗号はその「鍵配送」の問題を解決する画期的な方法です。
ディフィーとヘルマンが書いた1976年の論文は、 公開鍵暗号を使って安全な通信を行えることを最初に公にしたもの。 論文はもちろん英語ですが、Fig.1(通常の暗号通信)と Fig.2(公開鍵暗号を使った通信)を眺めるだけでも歴史に触れることができます。
◆New Directions in Cryptography https://www-ee.stanford.edu/~hellman/publications/24.pdf
結城が昨年刊行した『暗号技術入門』は、 鍵配送問題や公開鍵暗号など現代の暗号技術をやさしく理解するのにおすすめ。 もちろんディフィー・ヘルマン鍵交換も出てきます。
◆『暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス』 http://cr.textfile.org
* * *
角川インターネット講座の話。
先日、セールでおすすめされたときに、 『角川インターネット講座』をKindle版で買いました。 買ったときには2,700円でしたが、 先ほど見たら21,600円に戻っていましたね……
◆【全15巻合本版】角川インターネット講座 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B017X0RFG6/hyam-22/
村井純、まつもとゆきひろなどの15人の著者の文章を集めた形になっています。 内容はそれほど難しいものではなく、 また自分も知っていることが多く含まれているようです。 でも、読んでみると「自分の中でこまごま抜け落ちている知識」 が補足されるような感覚があります。
たぶん、ここに書かれている情報はネットで検索すれば、 それなりに見つかるはずです。この本よりも新しい情報もたくさん見つかるでしょう。 でも、検索で見つかるのはあくまで断片的なものになり、 全体を俯瞰することは難しいでしょう。 また、ネットで見つかるものは玉石混淆ですから、 ある一定の品質を担保しつつ読むことは難しいものです。
その意味ではこの本のような内容は、 確かに「本」というまとまりで読むのによいのだな、 と感じます。
ちょっと惜しいのはこの本が縦書きであること。 横文字も数字も多いので、 横書きの本として読みたかったなと思いました。
* * *
『数学文章作法 推敲編』セールの話。
そういえば、『数学文章作法 推敲編』のKindle版が現在セール中で551円です!
◆『数学文章作法 推敲編』Kindle版 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00UWBR406/hyuki-22/
* * *
情報提示方法の話。
結城はTwitterもFacebookも好きです。 電車で移動しているときなど、 ちょっとしたスキマ時間にもiPhoneでSNSをチェックしてしまいます。 そして興味深いツイートを見かけると、 そこからいろんなことを考えます。
TwitterでもFacebookでも何となくずっと読んでしまうのは、 iPhoneの画面で、
「無限に続くスクロール」
のように記事が並んでいるからかも。 変な類推ですが、流しっぱなしにしているテレビに近い感覚でしょうか。 気に入らなかったら次々にチャンネルを切り換えていくように、 スクロールを続けていくのです。
テレビのチャンネルは数に限りがありますが、 Twitterのツイートは限りなくやってくる。 しかも、Twitterで自分がフォローしているのは、 もともと自分が関心を持っているツイートをしてくれる人。 こういう状況なら確かにずっと読み続けてしまいますね。
で、ここで特にその良し悪しを言いたいわけではありません (最近この決まり文句多いな)。
結城は情報提示の方法としてこのツイートの流し方に興味があるのです。 ツイート一つ読むごとにリンクをクリック(タップ) しないといけないとしたら、ユーザは飽きてしまうでしょう。 でも「無限に続くスクロール」の形で情報提示すれば、 ユーザは長い時間そのサイトに滞在してくれる。
TwitterでもFacebookでも、それからYoutubeでも、 多くのWebサイトが、ユーザがたいしたアクションをしなくても、 次から次へとおもしろい情報を提示する形式になっています。
この「無限に続くスクロール」を、 自分が情報提示するときにも使えないだろうか、と考えます。 Webサイトの技術で、
Auto Pagination
というものがあります。これは、 ページの末尾まで行ったら、自動的にページを「継ぎ足し」して、 「無限に続くスクロール」を作り出すものです。 Auto(自動)のPagination(ページ送り)というわけですね。
たとえば、以下のサイトでは、 それを実現するためのJavaScriptが公開されています。
◆jQuery Auto Pagination http://pengkong.github.io/jquery-auto-pagination/
こちらにデモページがあるので、感覚がつかめるはず。
◆jQuery Auto Pagination (Demo) http://pengkong.github.io/jquery-auto-pagination/demo.html
このデモページでは、あたかも無限の長さのページがあるように見えますが、 実際には、nextPageというリンクを持った複数ページをつなぎ合わせているだけです。 このスクリプトを使えば、既存のサイトを大改造することなく、 Auto Paginationに変換できるというわけですね。
* * *
数学書の話。
学習院の田崎先生が、
『数学:物理を学び楽しむために』
という書籍を無料のPDFとして公開しています。
「数学ガール」を楽しんで読んでいる高校生には、 田崎先生のこのPDFにチャレンジするのをお勧めします。 ここに書かれているような数学の話は、 大学に行ってから大きく役に立つはずです。
いわば、ここにあるのは《未来の武器庫》ですね。 いますぐは活用できないかもしれないけれど、 無料PDFなのでダウンロードして目を通して損はありません。 おすすめします。
◆『数学:物理を学び楽しむために』 http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/mathbook/
* * *
高校時代の話。
ある方から「17歳のころ何していたか」と聞かれた。 高校時代は数学と英語と古文が好きだった。 最近は記憶力が落ちたけど、 あのころ覚えたことはいまでも思い出せる。 受験勉強はけっこう好きだったかもしれない。
通学途中の電車の中でクラスメートに勉強を教えることもよくあった。 残念ながら(?)それが女の子である機会はとても少なかったけれど。 知り合いに化学の「モル」を説明したのはよく覚えている。 モルってわかりにくい単位。
12個のことを1ダースと呼ぶのと同じように、 アボガドロ数個のことを1モルと呼ぶ。
と説明したのを思い出す。
高校時代に学んだことで、現在も役に立っているものは多い。 役に立っているというか、自分の大事な一角を支えているというか。 感覚的な話だけれど、十代における一年って、 その後の時代の五年や十年に相当するように思う。
* * *
解約の話。
結城は最近、 月末に「結城メルマガの解約を忘れていませんか」というツイートをしています。 こんな感じの文面です。
---- 今日は月末。 結城メルマガをお試しで購読したけどもういいや! という方は「解約」をお忘れなく! 月単位の課金なので、ご注意くださいね。
結城メルマガは毎週火曜日配信。楽しく読めて元気が出る。 そんなメールマガジンです! http://www.hyuki.com/mm/ ----
内容はここに書いたとおりです。 結城メルマガは有料で、課金は一ヶ月単位。 解約しようと思っていたのに月末に解約を忘れたら、 一ヶ月余分に課金されてしまいます。 なので、解約を予定している人は忘れないでくださいね…… という「解約のリマインド」をするメッセージです。
このような「解約のリマインド」のツイートを、 いつ最初に行ったかは覚えていませんが、 とても心臓がドキドキしたのは覚えています。
解約を一日忘れてくれれば、 その人の一ヶ月の課金は私の収入になるわけです。なのに、 わざわざ解約のリマインドをするのは愚かな行為?
でも、これまでに何回かこのような解約のリマインドを行ってきて、 経験上わかったことがあります。 それは、解約のリマインドをしても、 解約人数は変わらないということ。 むしろ逆に解約する人が減った月もあるくらいです (正確には、解約する人数は変わらず、 新たに購読開始した人が多くなっているのですけれどね。 つまり、解約のリマインドが宣伝になっているという話)。
毎月ではありませんが、 結城はこのような「解約のリマインド」のツイートをときどき行います。 そこには大きく二つの理由があります。 一つ目は、携帯電話などの契約のときに結ばされる、 「解約を忘れることを期待したオプション契約」が結城は嫌いであること。 二つ目は、解約のリマインドをしたにも関わらず、 購読を継続してくださっているということが、 結城の大きなはげみになるからです。
まあ、このような理由は結城の勝手な考えなので、 読者さん側の直接的なメリットではないのですけれど。 書き手としての思いを少し書いてみました。
* * *
「実習中」の話。
結城は、一日の仕事を終えて帰るとき、駅から妻に電話をします。
「何か買い物はない?」
帰りにスーパーに寄って、ちょっとしたものを買って帰るのです。 甘栗やブドウやイチゴ。納豆や卵。そんなものです。 おにぎり用の海苔を買うときもありますね。
スーパーのレジにはときどき、 胸に「実習中」というプレートを付けた若い子が立っていることがあります。 確かにいささか商品扱いがぎこちない。 安売り商品についてイレギュラーなことがあると、 近くの先輩から指導されたりします。
そのような「実習中」のレジに当たったときには、 会計が済んだあとに、
「がんばってくださいね」
と一声掛けるように心がけています。そうすると、 実習中の子も、近くの先輩もうれしそうにしてくれます。
レジの操作のように、はためには簡単そうに見えることでも、 実際にそれをまちがいなく実行するのはたいへんなことですからね。
で、買い物の袋を下げて夜道を歩きながらふと考える。
私も、胸に「実習中」ってプレートつけたいな。 そうだ、
「人生実習中」
というプレートがいいかもしれない。そして、誰かから、
「がんばってくださいね」
って、声を掛けてもらいたいな。
◆スレッドお化け坊や、人生実習中
* * *
それでは、今週の結城メルマガを始めましょう。
どうぞ、ごゆっくりお読みくださいね。
目次
はじめに
Standlandで自分を再発見 - 仕事の心がけ
初校で何をどう直しているか - 本を書く心がけ
今日も一日、お元気で!
おわりに
-
Vol.205 結城浩/フロー・ライティング/現代に生きるということ/
2016-03-01 07:00220ptVol.205 結城浩/フロー・ライティング/現代に生きるということ/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年3月1日 Vol.205
はじめに
おはようございます。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
ここしばらく、天気の変化が激しいようです。 寒くなったと思ったら、急に暑くなったり。 雨になったり。
そのせいか、Twitterなどを見ていても、 体調を崩している方がおおいよう。 さらにインフルエンザがやってきています。
どうぞ体調に気を付けてくださいね。
* * *
新刊の話。
四月刊行の『数学ガールの秘密ノート/場合の数』初校ゲラがやってきました。 先日脱稿した文章が大量の紙になって届きます。 いつものようにこれをじっくり読んで修正していくことになります。 まずは頭をリセットして、初校を虚心に読むことが大切。
初校ゲラがやって来るまでのあいだも、 結城はレビューアさんからの指摘を読み、 文章全体を読み返してたくさんの修正をファイルに行っていますので、 その修正を初校ゲラに反映する作業も、 もちろん必要です。
本を書くたびに、
→脱稿→初校→読み合わせ→再校→読み合わせ→
という手順を踏みます。 地道な作業ではありますけれど、 次第に品質が上がっていく文章を読むのは、 なんとも気持ちのいいものなんですよね。
ということで、初校読み合わせまで、 うまずたゆまず進みましょう。
◆『数学ガールの秘密ノート/場合の数』 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4797387114/hyam-22/
* * *
アマゾンの話。
確定申告の関係もあって、 昨年一年の「アマゾンで購入したもの一覧」を眺めていました。 もっとも多く買っているものは本なのですが、 みごとに(?)読んでいませんね。積ん読がたくさんあります。
一年前も同じようなことを考えていた記憶がありますが、 「みっちり精読する本」と「とにかくパラパラめくって終わる本」 のメリハリをつける必要があるのではないでしょうかね。 アマゾンで本の購入ボタンを押して、 読んだ気分になるのはよくないですね。
また、ネット書店で本を買うのもいいけれど、 もっとリアル書店に足を運ぶべきかもしれません。 いいふるされていることですが、 「本との出会い」は確かにリアル書店の方があるように思いますね。
この本を買いたい、この著者の本を読みたい、 のように目的が明確ならネットで本を買うのは便利です。 でも、自分で何を読みたいのかわからないとき、 何か「頭の栄養素」が足りないように感じるとき、 リアル書店は効果があるような気がします。
それはそれとして、改めて思うのですが、 最近の私は、ほんとうにアマゾンをよく利用しています。 本や文具を購入する場所、 それからアフィリエイト、KDPで本を売る場所、 最近だとアマゾンプライムビデオなどもちらちらと利用。
そんな中、アマゾンの個人情報流出に関するWeb記事を見ました。 アマゾンのカスタマーサポート経由で情報が漏れるという話題です。
◆「Amazonの個人情報や購買情報は流出している」はマジでした。 http://d.hatena.ne.jp/canadie/20160125
このブログ記事によると、以下がポイントのようです。
「配送先か住所」+「メールアドレス」+「アマゾンの登録名」
という三点を知っている人(第三者)がいたら、 その第三者はアマゾンのカスタマーサポート経由で、
「荷物の配送先と購買内容」
を知ることが可能であるとのこと。
ということで、アマゾンで使う「メールアドレス」や「アマゾンの登録名」を、 他人が推測できないものにしておくべきでしょうね。
* * *
Dropboxの話。
結城はオンラインストレージ(クラウドストレージ)として、 Dropboxを使っています。主な使用目的は、
・大容量のファイルのバックアップ場所 ・MacとiPhoneで共用するファイルの置き場所 ・編集者に大きなファイルを渡すときの場所
の三点になります。
使い始めのころは最初の二点だけが使用目的だったのですが、 最近は最後の「編集者へのファイル渡し」用に重宝しています。
小さなファイルならメールで問題ないのですが、 大きなファイルでメールはつらい。 Dropboxなら共有リンクを作って、そのURLだけをメールすればいいので楽です。 それから、リンクにパスワードと有効期限を設定しておけるのもいいですね。
万一、送信先をまちがってしまった! というときでも、あわてず共有リンクさえ切ってしまえばいいのです。 共有リンクが無関係な相手に届いても、 ファイルそのものにはアクセスできなくなるからです。 これなら、ファイル自体を添付してメールするより安全です。
現代では、オンラインストレージもいろんな種類があります。 先日「オンラインストレージを徹底比較!」という記事をFacebookで見かけたので、 何気なく読んでいました。
きれいにまとまってるなあ、と思いつつよく見ると、 この記事はDropboxの書いた記事のようです。一見公平な記事のようですが、 微妙にDropboxが優位になるように書かれている(ようにも読めます)。 他のサービス運営さんにも、同じような比較記事を書いてほしいな。
◆おすすめ 3 大オンラインストレージサービスを徹底比較! https://navi.dropbox.jp/online-storage-recommended/
* * *
それでは、今週の結城メルマガを始めましょう。
今回は久しぶりに「フロー・ライティング」のコーナーをお送りします。 先日インタビューを受けたのですが、 そこからインスパイアされた読み物です。
それから「でんでんランディングページ」のカスタマイズの話題も少し。 二年ほど前に書いた「書籍ランディングページの作り方」も再掲しました。
どうぞ、ごゆっくりお読みくださいね。
目次
はじめに
フロー・ライティング - 対話について
ほめられたときには、素直に喜ぼう
でんでんランディングページのカスタマイズ - 本を書く心がけ
現代に生きるということ
おわりに
1 / 1