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  • Vol.348 結城浩/メモの管理/じっくり勉強/C言語の本/立体図形の把握/《自分の理解に関心を持つ》/

    2018-11-27 07:00  
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    Vol.348 結城浩/メモの管理/じっくり勉強/C言語の本/立体図形の把握/《自分の理解に関心を持つ》/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年11月27日 Vol.348
    はじめに
    結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
    Web連載「数学ガールの秘密ノート」に新キャラ「ノナちゃん」が登場したというお話を先週の「結城メルマガ」に書きました。先週の金曜日にはノナちゃんの登場第2話目が公開されました。今回も読者さんに楽しんでいただけているようです。感謝です。
    ◆第242回「数学ガールの秘密ノート」無限のキャンバス(後編)https://bit.ly/girlnote242
    第241回と第242回を読んでくださった読者さんが、数学苦手な新キャラ「ノナちゃん」にエールを送るブログ記事を書いてくださいました。感激です!
    ◆「数学ガールの秘密ノート」最新話241-242回が禁断のヤバみーー数学という権威、暴力、あるいはノナちゃんは銀色サヴァンなのかhttp://modernclothes24music.hatenablog.com/entry/2018/11/23/104450
    最近の結城は、Web連載でも「結城メルマガ」でも《自分の理解に関心を持つ》ことに関心があります。先月配信のVol.344でも《自分の理解に関心を持つ》ということについて書きました。
    ◆Vol.344「本当にいい勉強法を知りたい」(note)https://mm.hyuki.net/n/na2e5c2dc0cf8
    ◆Vol.344「本当にいい勉強法を知りたい」(ブロマガ)http://ch.nicovideo.jp/hyuki/blomaga/ar1690642
    今回の「結城メルマガ」でも、もう少し別の角度から《自分の理解に関心を持つ》について書きました。ぜひお読みください。

    * * *

    ShowyEdgeの話。
    ShowyEdgeというのは日本語入力モードのときに画面の一部に「色つきの太線」を表示するMacのツールです。
    ◆ShowyEdgehttps://pqrs.org/osx/ShowyEdge/
    ShowyEdgeはKarabinar-Elementsの作者 @tekezo 氏によるソフトです。現在日本語入力モードかどうかを画面に「カラーバー」を表示して教えてくれるもの。自分の意識では英単語やプログラムやコマンドを入力しようとしてたのに、キーを打ったら日本語が出てがっくりというのを防げます。
    逆に、日本語入力をしようと思ったけど日本語入力モードになっていなくて「日本」と入力しようとして「nihon」と入力しかけてバックスペースを連打するということも防げます。
    ShowyEdgeはそういう状況を軽減するためにあるツールです。画面の一部に「カラーバー」が表示されることで、それを目の端でとらえることで「あ、いまは日本語入力モードじゃないな」ということがわかるという仕組みです。
    そのはずなんですが……どうもうまくいきません。目の端でとらえるのが苦手なのか、夢中で入力しているときにはそんな意識にならないのか。
    そこで先日からShowyEdgeの設定を「画面全体」にしてみました。画面の一部じゃなくて、画面全体に色を着けちゃおう!というのです。
    画面全体に色を着けて文章が見えなくなってはまずいので、色を半透明にしています。最初は違和感があったのですが、慣れてみると意外にいい感じです。日本語入力モードのときは画面全体がほんの少しシアン系の色になるようにしています。
    ShowEdgeを「画面全体」にしたときの様子をスクリーンショットとってみました。日本語入力のときは全体が薄い青になっているのがわかるでしょうか。ターミナルだけではなく任意のアプリ上で動きます。
    ◆日本語入力オフ(スクリーンショット)
    ◆日本語入力オン(スクリーンショット)
    ◆ShowyEdgeの設定の様子
    一日文章を書いている身としては、ちょっとした改善でも重要なのです。

    * * *

    十面ダイスの話。
    私たちがふだん使っているダイス、つまりサイコロは六面あります。ある方から「十面ダイス」という言葉を聞きました。十面ダイスということは十面あるサイコロですね。
    ちょっと待って。十面あるサイコロ?
    ダイスが六面なのは立方体すなわち正六面体だからですよね。各面が正方形になっていて対称性が高くてどの面も均等に上に来ることが期待できる。だからサイコロは六面。六面ダイス。
    十面ダイスって可能なんでしょうか。
    正多面体は五種類しかありません。正四面体、正六面体(立方体)、正八面体、正十二面体、正二十面体。うん、正二十面体を利用すれば実質的に十面を持つダイスは作れますね。同じ数字を二回だぶらせて書けばいいのです。でも、立体としてちょうど十面だけ持つサイコロなんて作れるのかな。
    しばらく考えても「十面ダイス」が想像できなかったので、Wikipediaを調べてみました。「ねじれ双角錐」という形状を使うみたいです。言葉で説明すると、正五角錐を二つ用意して底面を貼り合わせ、さらにぎゅーっとした立体です(図を見てください)。正多面体ではありませんが、確かに対称性はありそうですが、フェアになるかどうかは私にはわかりません。十面ダイスは、TRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)などでランダムな要素が必要になるときに使うそうです。
    ◆ねじれ双角錐
    ところで図形と言えば数学。数学を学ぶときに、図形が得意な生徒と不得意な生徒がいます。平面図形は得意だけど、立体つまり空間図形が不得意な生徒もいます。結城は図形はそれほど得意ではありませんでした(いまでも同じですが)。
    そのことを実感したのは今年の春に刊行した『数学ガール/ポアンカレ予想』を執筆しているときです。どういう図版を作ろうか考えたり、実際に図版を作ったりするとき、とっても時間が掛かるからです。
    ◆『数学ガール/ポアンカレ予想』http://www.hyuki.com/girl/poincare.html
    不得意ではあるのですが、文中に登場する語り部の「僕」のように、四次元の立体について想像を巡らせるのは小さい頃から好きでしたね。トポロジーの本も何冊か買って読んでいました。小学生のころで、教えてくれる人も誰もいなかったので数学はさっぱりわかりませんでしたが、不思議な図形をながめているのは楽しい経験でした。そういう謎な読書を放置してくれた親には感謝ですね。
    ユニークな本を紹介します。『トポロジーの絵本』は、ぐにゃぐにゃした不思議な立体がたくさん出てくる数学書です。どうして絵本かというと、立体をどのように描くかを解説している本だからです。
    ◆ G.K.フランシス『トポロジーの絵本』より(p.5)
    ◆G.K.フランシス『トポロジーの絵本』https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4621062182/hyuki-22/

    * * *

    空間把握のゲーム「.projekt」の話。
    空間図形の話が出たので、パズルゲームを一つ紹介します。「.projekt」という名前で、投影されたシルエットからサイコロの積み重ねを推測するというミニマルで素敵な知的ゲームですね。
    ◆.projekthttp://stampedegames.net
    ◆.projektの紹介動画(YouTube)https://youtu.be/JoIbcR5959c
    図形感覚というよりも論理感覚が試されるのかもしれません。難しそうですが、何回かやっていると正面図と側面図の両方を眺めながらサイコロ積んでいくのが楽しくなります。
    初めのステージでは単に積み重ねをするだけですが、後の方になると同じシルエットで「最大何個詰めるか」や「最小何個まで減らせるか」という挑戦がやってきます。これが楽しい。三次元空間で、どのサイコロがどのサイコロの影になっているかを考えることになるのです。
    ◆最小11個、最大17個置けるというシルエット
    ◆最大目指して現在12個積んだ状態

    * * *

    ではそんなところで、今回の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞごゆっくりお読みください。
    目次
    受験前、時間を掛けられなくてもじっくり勉強すべきか - 学ぶときの心がけ
    メモなどの管理はどうしていますか - 仕事の心がけ
    C言語の本を書いた理由 - 本を書く心がけ
    《自分の理解に関心を持つ》とは - 学ぶときの心がけ
    受験前、時間を掛けられなくてもじっくり勉強すべきか - 学ぶときの心がけ
    質問
    先日Twitterで、結城さんが学ぶことに関する質問に答えているのを読みました。
    ところで、時間がない状態でも、じっくり勉強をすべきでしょうか。
    たとえば「もうすぐ受験を控えているのに数学ができず焦っている。とうてい時間を掛けてなどいられない!」という状態でも、じっくりと勉強を地道に進めて行かなければならないのでしょうか。
    回答
    ご質問ありがとうございます。
    理解するまで時間を掛けて勉強しなければ理解できないし、でも時間を掛けすぎたら間に合わないし、という話ですよね。
    一般的に答えるのはなかなか難しい質問です。勉強をどのくらいじっくり進めるかというのは、どうしても程度問題になってくるからです。
    「理解しなくても解法パターンを暗記して解けるようになればいいじゃないか」という考え方はあります。実際、受験の問題でも、あまり理解せずに解法パターンでちゃちゃっと解ける問題はあるでしょう。でも、それは、他の受験生にとっても同じようにちゃちゃっと解ける問題とも言えるわけです。
    一般的に答えるのが難しいというのは、あなた(あなたの話ですよね?)が、どのくらい大きなチャレンジの受験をしようとしていて、現在がどういう状態で、数学以外のほかの科目はどうで、受験しようとする学校での数学の配点はどれくらいで……。「どのくらいじっくり進めるか」は、そういったことを総合的に考えて、あなたが判断することになります。
    そういう総合的判断は、あなただけに課されてるわけではありません。多くの受験生も同じように悩み、焦り「時間がない!まだこれができない!どうしよう!」と思ってるはずです。
    「解法パターンの暗記で合格できる」という人のアドバイスがあったとしても、どこまで真に受けられるかはわかりません。「暗記で乗り切った」という人自身、暗記で乗り切ったつもりでいるけれど、しっかり解法の意味について考えていた可能性も高いでしょう。また、基礎ができていてその上に解法パターンを「暗記」するのと、基礎ができていない状態で解法パターンだけを「暗記」するのとでは、「暗記」の意味はまったく違うことになります。
    学びや理解はとても個人的な話で、参考にはなりますが確実なことはいえません。「じっくり」「地道」「暗記」「時間をかける」「時間がない」という表現を精密に、しかも現在の自分に対して具体的に考えないと、一般的なアドバイスは役に立たないはずです。
    いずれにせよ、焦っても成績は上がりません。深呼吸をして、焦る心を何とか鎮め、残りの時間でやるべきことをしっかり考え、それをこなしていきましょう。他の、多くの受験生たちと同じように。
    すみませんが、受験に関して私に言えるのはそのくらいです。
    がんばってください。
     
  • Vol.347 結城浩/数学ガールに新キャラ登場/新しいことを学ぶ/どうしたら恋ができますか/再発見の発想法/

    2018-11-20 07:00  
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    Vol.347 結城浩/数学ガールに新キャラ登場/新しいことを学ぶ/どうしたら恋ができますか/再発見の発想法/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年11月20日 Vol.347
    はじめに
    結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
    先週からWeb連載「数学ガールの秘密ノート」の新シーズンが始まりました。
    今シーズンは特別です。何と七年ぶりに新しいキャラクタが登場したからです。
    数学が苦手らしい「ノナちゃん」という新キャラが、これからどのような動きを見せてくれるのか、とっても楽しみです。
    後ほど「本を書く心がけ」のコーナーでは、ネタバレなしで新キャラ登場の舞台裏のお話をしたいと思います。
    ◆Web連載「数学ガールの秘密ノート」第241回「無限のキャンバス」https://bit.ly/girlnote241

    * * *

    「やってみせる」話。
    こんな研究が紹介されていました(動画付き)。
    ◆UCバークレー、動画内のアクロバットな動きから、その動きをキャラクタが習得するdeep learningを用いた手法を発表 https://twitter.com/shiropen2/status/1049796411749875712
    人間がアクロバットの動きをすると、それを習得してキャラクタが動くらしいです。たいへんおもしろいですねえ。この程度なら「人間の動きを見て学習する」ことが、コンピュータにもできるという話になりますよね。
    コンピュータはプログラムしたことしかできないのですが、プログラマが明示的に動作をプログラミングしなくても「こんなふうに動いてね」と例を見せることで学習できるといえます。
    つまり、コンピュータに対して人間が「やってみせる」という話です。
    3Dモデルの各部位を直接制御して思い通りのポーズを取らせようとしたことのある人は「明示的に伝える」ことの恐ろしいまでの困難さを理解できると思います。ポーズを取らせるだけではなく、動かすならなおさらです。そこには職人芸のような技術が必要でした。それが「やってみせる」ことでコンピュータが認識できるなら、ものすごい可能性を感じますね。
    同じ方が紹介している別の研究でこういうものもありました(動画付き)。
    ◆動画の他言語への吹替をした場合に、その吹替言語に合わせた口の動きも同時に合成する機械学習を用いた技術「ENACT」登場 https://twitter.com/shiropen2/status/1063424579123572736
    音声の吹き替え(アテレコ)をしたときの「口の動き」をその言語に合わせるというものらしいですね。これもまた「明示的に伝える」のではなく「やってみせる」話といえます。
    制約や限界はあるにせよ、「明示的に伝える」のではなく「やってみせる」ことでコンピュータがそれを真似できる時代なのですね。

    * * *

    「年齢 mod 20」の話。
    私たちは年齢を、成熟の度合い、経験の多寡、元気や勢いの程度の指標として考えることがよくあります。
    でも、年齢は増える一方ですから状況によっては誤った指標になりがちです。その結果「この年齢なのにこの振る舞いはおかしい」と考えたり「こんな年齢なんだからこれは無理」と思ってしまうこともあります。
    しかしながら、現代は多様な活動が求められる時代です。もう少し別の指標があってもいいんじゃないでしょうか。ということで考えたのは、
     年齢を20で割った余り
    という指標です。数学やコンピュータに詳しい人なら「年齢 mod 20」といえばわかるでしょう。 0歳から19歳までは普通の年齢と同じで0,1,2,と増えていく。でも20歳になったら0に戻る。20で割った余りですからそうなりますね。21歳は1で、22歳は2、とまた増えていきます。39歳は19で、40歳になったらまた0に戻ります。
    要するに、20年ごとに0クリアされてしまう指標といえます。
    20年も経てば活動する環境は変わりますし、本人の能力も大きく変化します。ですから20年ごとに新たな気持ちになる。20年ごとに謙虚な気持ちになる。必要があれば新たなチャレンジもする。でもずっと0ではなくて、1,2,3,…,19と成長していく。そんなイメージです。
    年齢を20で割った余りを考えると、25歳の人は5で、38歳の人は18になります。70歳の人は10です。
    ちなみに私は今年15です。あなたはいくつ?

    * * *

    ではそんなところで、今回の結城メルマガを始めましょう。
    どうぞごゆっくりお読みください。
    目次
    新しいことを学ぶときに意識すること - 学ぶときの心がけ
    どうしたら恋ができますか
    モデルとビュー - 再発見の発想法
    数学ガールに新キャラ登場 - 本を書く心がけ
    新しいことを学ぶときに意識すること - 学ぶときの心がけ
    質問
    自分にとって新しい領域に足を踏み入れるとき、(数学では特に)知らない記号が突然出てきて焦ってしまうことがあります。
    結城先生は新しいことを学ぼうとするときにどんなことを意識されてますか。
    回答
    ご質問ありがとうございます。
    自分にとって新しい領域に足を踏み入れるのは勇気が必要ですし、ちょっとこわいものですよね。
    結城は、新しいことを学ぼうとするときに「信頼できる複数の情報源を確保する」ことを意識しています。自分にとって新しいことを学ぶというのは、自分はほぼ確実に間違うということを意味します。自分がまちがったときに、それを確かめたり正したりする基準を確保するのは大事でしょう。
    結城は、いま少しずつ圏論を学ぼうとしています。たぶん、しょっちゅう間違うでしょう。自分で勝手に考えてはまちがうので、確かめるための手段が必要です。なので、正しいことが書かれていると思われる本を選んで読んでいます(最近さぼっていますが、まあそれは別の話)。それからわからないことがあったら、詳しい人に直接質問したり、詳しい人がたくさんいる場に問いかけたりします。
    新しいことを学ぶとき「これが正しいな」と思ったら、「なぜかというと」を繰り返して自問します。数学の場合、その自問の繰り返しは、最後には「なぜなら、この言葉の定義がそうだから」に至るはずです。
    新しいことを学ぶときに大事なことを列挙すると次のようになります。
    自分は必ず間違うはずと思い続けることが大事
    自分でわかったふりをしないことが大事
    確かめるための信頼できる情報源を複数確保することが大事
    逆に、学ぶときにやってはいけないことを列挙すると次のようになります。
    自分は絶対間違いないと根拠なく思ってはいけない
    わかったふりをしてはいけない
    信頼できる情報源を無視したり、信頼できない情報源をあてにしてはいけない
    もちろんこれらは「基本的にはそうしたい」ということであって、いつもいつもできるわけではありませんが。
    ですから、誰かに誤り(あるいは怪しい点)を指摘されることは大歓迎です。さまざまな理由により対処がしにくいことがあるかもしれないけれど、自分の考えが正しいかどうか、怪しいところがあるかどうかを把握していることは大事だからです。なので指摘する人には深く感謝しています。
    あなたのご質問の中で「知らない記号が突然出てきて焦る」という話がありました。確かに焦りますし、そういうことはままあります。数学の記号や表記法は、しばしば本質的で重要な部分だったりするから特にそうですね。
    でも学ぶ上で「知らない記号が出てくること」自体は別に問題ではありません。学ぶ上で問題なのは「知らない記号が出てきたときにそれを解決する方法がないこと」です。要するに、わからないことがあったときに質問する人がいないということですから。
    個別の「知らない記号」や「自分がその記号を知らないこと」を問題にするのではなく「知らない記号を解決する自分以外の手段を持たないこと」の方が問題といえます。参考書、教科書、教師、同僚、コミュニティ。何でもいいのですが、問題点を投げることができる場所がなければ、学びを継続していくのは難しいでしょう。
    以上で、お答えになっているでしょうか。ご質問ありがとうございました。
     
  • Vol.346 結城浩/初心者の気持ちを忘れてしまう/基礎を積み上げるのが苦手/人のいうことを素直に聞けない

    2018-11-13 07:00  
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    Vol.346 結城浩/初心者の気持ちを忘れてしまう/基礎を積み上げるのが苦手/人のいうことを素直に聞けない結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年11月13日 Vol.346
    はじめに
    結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
    早いもので11月ももう中旬ですね。
    先日、たいへん気持ちのいい天気の日がありました。ほんの少し肌寒いんだけど、寒さよりは爽やかさが先に立ち、空を見上げれば雲一つ無い。道を歩いていると公園では小さな子供達が楽しそうに遊んでいる。
    「とても気持ちがいい」と思っていると「この気持ちの良さはどんなふうに表現したらぴったり来るだろうか」という疑問が心に浮かびました。気持ちの良さを表現するのはなかなか難しいものですが、そのときにはパッと答えが浮かびました。こんな表現です。
     「一年間同じ天気にするならどんな天気がいいか」  と聞かれたときに、  「たとえば今日のような天気」  と答えたくなるほど気持ちのいい天気。
    なるほど。いささか天邪鬼な答えではありますけれど、まさにそういう気持ちの良さでした。
    これから次第に寒い季節に向かいますね。どうぞお風邪など召しませぬように。

    * * *

    数学のココがわからないという話。
    いま「数学のココがわからない」というアンケート企画を行っています。「数学ガール」や「数学ガールの秘密ノート」の執筆で参考にするため、あなたが感じている「数学のココがわからない」という情報をお寄せください。「分数の割り算」のように算数の話題でも構いません。
    以下のフォームからお送りください。名前などを書く必要はないし、文章じゃなくて単語だけでもいいのでお気軽にどうぞ。
    ◆数学のココがわからないhttps://bit.ly/hyuki-mathqq

    * * *

    書店の話。
    『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』が先月出版されました。
    ところでたまたま先日、新宿紀伊國屋書店に行き、数学書のところをぶらぶらしていたら、私の目の前にいた人が『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』を手に取ったではないですか!
    テンションMAX!
    はやる心を抑えつつ、少し離れた本棚の影に忍者のように身を潜めて(比喩)その人の様子を観察していました。その読者さんはぱらぱらと中身を見た後、本の後ろの値段を一瞬確認して、そのままレジに向かいました。うれしい!
    目の前で自分の本が購入されるのを見るというのは大変めずらしい経験です。たぶん今回が人生で三回目か四回目。
    幸せな気持ちで書店を後にしました。

    * * *

    バックアップの話。
    先日、妻が使っているMacのディスク容量が不足するという状況になりました。原因は写真がいっぱいになっていたからです。さて対策をどうしましょうと考えていたらmacOSがまだEl Capitanという古いままになっていたのが気になりました。
    そこで、妻のmacOSをMojaveにする簡単なお仕事開始。ところがディスク容量が不足し過ぎていて、Mojaveをダウンロードできない! そこでディスク容量を空けるところから作業を始めることになりました。
    といってもTime Machineでバックアップをとっているので難しいことは何もありません。大きなファイルをざくざくと消し、あふれている写真をiCloudに逃がすような設定をし、Mojaveにアップグレードしてからさっきざくざく消したファイルをバックアップから戻せば作業完了。
    バックアップがしてあると、何かあったらいつでも元に戻せるという安心感が生まれるのでいいですね。特に「たぶんうまくいくんだけど、もしかしたら想定外のトラブルが生まれるかもしれない」という設定を試すときに重要。安全策だけをとっていたら何も試せなくなってしまうので。
    大量の写真をiCloudに逃がしたので、作業前の残り容量が9GBだったのが300GBまで増加しました。たいへん気持ちがよろしい。
    ちなみにこういう作業をするときには「ひとりSlack」が非常に役立ちます。Slackというツールで自分がやったことを時系列で書き込んでおきます。バックアップ作業やバージョンアップ作業では、待ち時間が大量に発生するので、作業記録が大事なのですね。
    あなたは、自分のマシンをバックアップしていますか。

    * * *

    今回の結城メルマガも、どうぞごゆっくりお読みください。
    目次
    理解してしまうと、初心者の気持ちを忘れてしまう - 教えるときの心がけ
    自分と他人とを比較する意味
    基礎を積み上げるのが苦手 - 学ぶときの心がけ
    人のいうことを素直に聞けない
    理解してしまうと、初心者の気持ちを忘れてしまう - 教えるときの心がけ
    質問
    ある事項に詳しくなると、初心者でその事項が理解できなかったころの気持ちを忘れてしまいます。どこで詰まりやすいか、何がわかりにくいのかを忘れてしまうように思います。
    結城さんは、理解したあとでもわかりやすく説明できるようですが、それはどうしてでしょうか。
    回答
    ご質問ありがとうございます。たいへん興味深い話題ですね。
    自分のことなのでなかなか難しいですが、たぶん「理解したあとも、理解できていなかったときのことを覚えている」という単純な話ではないかと思います。理解はゼロ・イチではなく、グラデーションなので、さまざまな段階での理解のスナップショットを持っているのかもしれません。
    何かを理解したときに「なぜ自分は理解できなかったのか」「何をきっかけに理解したのか」「自分の理解のどこにズレがあったのか」を考える性格ともいえます。理解した内容だけではなく、理解のトリガーと理解の差分を蓄える性格なのでしょう。季節の変わり目にリスがくるみを集めたがるように。
    単純な例を出すと、数学の極限で lim f(x) = 0と書くところを lim f(x) → 0 と書いてしまうというのは典型的なミスです。結城も高校時代にそういうミスをしたことがあります。そのミスは、lim f(x) という表記が何を表しているかを理解していなかったことから起きました。テトラちゃんも同じ誤解をしてたみたいですね。
    理解したときに周辺に散らばるクルミを集める性格は、数学以外にも当てはまるようです。打ち合わせでも雑談でもいいのですが、誰かとおしゃべりしていて、その意図がわからないとき、発言の理由を何年にもわたって考えることがあります。あの発言はどういう意図から出たのだろうと考えるともなく考えている。そういう探索タスクが複数本走っていて、それらが絡んで、人の気持ちの理解が深まるときもあります。数年後に「こういう意味だったのか」と気付くことも。
    ああ、それから「概要はパッと理解するけど、ちゃんと理解するまでに時間が掛かる」という私の性格も関係しているかもしれません。説明文を読んでとりあえずのことを理解するのは早いんですが、本当のところまで理解するのは遅いんです。だから、自分の文章を何度も読み返して、書き直すことになる。その結果、わかりやすくなる。そういう側面もありそうです。
    そんなところですかねえ。
    自分と他人とを比較する意味
    質問
    自分と他人とを比較することに意味はあるでしょうか。
    回答
    ご質問ありがとうございます。
    自分と他人とを比較することに意味はあるかどうか。それは、自分と他人の「何を、どのように比較するか」によりますね。
    まったく共通点がない二つのものを比較することはできません。「比較」には何らかの共通点(共通項)が必要で、その上で違いを調べることになります。比較の目的は、比較することで自分の立ち位置を知ったり、自分の行動を変えたりするところにあるでしょう。そこまでしっかり考えた上で比較するなら「意味がある比較」は多いと思います。
    傑出した他人と自分を比較して「自分はダメだ!」と落ち込んでばかりいるなら、比較する意味はありません。逆に「自分はスゲー!」と確認するためだけに比較するのもどうかと思います。どちらも、得られる情報が少なすぎるからです。何のために、自分と誰とを、どんな点において比較するのか。それをよく考えないと比較の意味はありません。
    「自分と他人とを比較する」というときにありがちなのは、たまたま目の前にいた人の、たまたま目に付いた特徴と、自分のそれとをざっくりと比較することです。そして、その比較をもとにして落ち込んだり喜んだりする。それは、いわば行き当たりばったりの比較ですね。行き当たりばったりの比較をあえてしているという自覚がなければ、そのような比較は無意味でしょう。
    本気で比較するなら、科学者の目になって真剣に考えて比較するのがいいですね。相手の詳細まで研究し、自分をしっかり調べ、冷静に比較する。ちょうどオリンピック選手がライバルの研究をするように。
    意味のある比較もあるし、無意味な比較もある。それがあなたの質問への答えになります。
    蛇足:質問への答えは以上なのですが、少し視点を変えると話も変わってきます。それは「自分と他人を比較したくなる度合い」はときに「自分の健康のバロメータ」になるという話です。何かに夢中に取り組んでいるとき、喜びに満たされているとき、自分と他人とを比較する気持ちにはなりません。必要以上に他人が気になるとき、意味があるかどうかとは別に他人と自分と比較してしまうとき、「自分の健康」について思いを馳せるのはいいことかもしれませんね。
     
  • Vol.345 結城浩/行き詰まったときの進捗の測り方/ブログの使い分け/的外れなレビュー/[世界を変えた書物]展/

    2018-11-06 07:00  
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    Vol.345 結城浩/行き詰まったときの進捗の測り方/ブログの使い分け/的外れなレビュー/[世界を変えた書物]展/結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年11月6日 Vol.345
    はじめに
    結城浩です。
    いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
    最近は『数学文章作法 執筆編』の作業を進めています。予定では今年中には脱稿したいのですが、なかなか問題山積みなので、さてどうなりますでしょうか。
    ありがたいことにこの10月と11月ではたくさんの本が重版(増刷)になりました。
    『第3版 暗号技術入門 秘密の国のアリス』(第8刷)
    『数学ガール』(第30刷)
    『増補改訂版Java言語で学ぶデザインパターン入門』(第28刷)
    『数学文章作法 推敲編』(第4刷)
    執筆した本が版を重ねるというのはたいへんうれしいものですね。読者さんの応援に感謝します。

    * * *

    結城浩ニュースレターの話。
    「結城浩ニュースレター」を発行してから三年以上が過ぎました。
    「結城浩ニュースレター」というのは、この「結城メルマガ」とは別のもので、結城の活動を月一回くらいのメールでお知らせするという無料企画です。
    初回の送信は2015年8月22日で、送信数は62通でした。
    先日送信したのは2018年10月28日で、送信数は1018通でした。
    三年間で62通→1018通に増えたことになり、継続してきてよかったなあと思います。
    ◆結城浩ニュースレターhttp://www.hyuki.com/newsletter/
    「継続は力なり」ということをいつも感じるのですが、それと同時に「継続して応援してくださる読者さん」への感謝も強く感じます。いつもありがとうございます。

    * * *

    今回の結城メルマガも、どうぞごゆっくりお読みください。
    目次
    鬱っぽくなってしまった
    授業がまったくわからないし、勉強の方法もわからない
    ブログの使い分け - 文章を書く心がけ
    数学の解説を読んだだけで理解できるか - 学ぶときの心がけ
    自作への的外れなカスタマーレビューがあったらどう思うか - 本を書く心がけ
    進捗を何で測るか - 本を書く心がけ
    [世界を変えた書物]展で思ったこと - 本を書く心がけ
    鬱っぽくなってしまった
    質問
    鬱のようなものになってしまいました。
    今まで楽しかったことをやっていてもなぜかすぐ飽きてしまったり楽しくなかったりします。また、夜は「いつか死んでしまうこと」について勝手に考えてしまい怖くなってしまいます。
    結城先生は、こういった状態になったことはありますか。
    回答
    ご質問ありがとうございます。
    私は専門家ではないので、あくまで自分の経験した範囲でしかわかりません。また以下に書くことは素人の意見ですので、その点ご了承ください。
    鬱っぽくなってしまったこと、もちろん私も経験あります。若いときに比較的大きな仕事をまかされたときや、プロジェクトがうまく回らなくなったときや、どうしたらいいかわからない問題にぶつかったときなど、自分のメンタルがかなり危ない状況は何度も経験しました。何も楽しくない、何のために生きているかわからない、会社に行けない、そもそも起きたくない……
    不調な状態が長く続くと、自分自身の判断があやしくなってきます。根拠なしの「自分はこうした方がいい」という判断が心に生まれてくることもあります。心が健康なときなら、もっと広い範囲で考えられるのに、ほんのわずかな選択肢しか考えられなくなるのです。まわりが見えなくなってしまうと、自分一人ではどうしようもないです。
    私が後日思ったことは「一人にならないのは大事」ということでした。症状が軽いうちなら「誰かと話す」だけで違います。人と話せるうちに、信頼できる人に相談する。できればリアルに信頼できる人がいいです。仲がよければ親に打ち明けるのもいいです。解決が得られなくても「自分がいま不調である」ことを伝えておくのは大事です。そういう相手がいないなら、早いうちに医者に相談する方がいいと思いました。自分が動けるうちに。
    私が振り返って思うことは「心が不調なときに、一人で自分のことを深く考えてはあやうい」ということでした。意識して美味しいものを食べたり、意識して睡眠を多く取ったり、意識しておだやかな環境に身を置くように心がける。でもそういうことができるのは症状が軽いうちです。
    つらかった時期を思い出していえるのは「人生は長い」ということです。いくらでも挽回は効くので、壊れないうちに休むのがいい。人を頼ることは大事です。弱音を吐くことも大事です。
    あなたの心の健康が守られますように。
    授業がまったくわからないし、勉強の方法もわからない
    質問
    中学三年生です。
    よく「何で勉強できないの?何で真面目に授業受けれないの?」と、友達&親に言われます。
    僕は小学校二年生のときにある授業で、つまずいて、そこから授業がわからなくなり中学三年生にまでなってしまいました。
    そのせいで成績オール1という結果を取ってしまいました。
    やばい!しっかり授業受けて勉強しなきゃ!っていう感情?はあるのですが、やはり授業がわからなく、授業で寝てしまいます。
    家でも、勉強しようとしますが、今まで勉強なんてしたことがないので結局どうすればいいのかわからずやめてしまいます。
    よく、自分にあった勉強法をすればいいと言われますが、よくわかりません。
    今のままじゃ高校に行けないのはわかっているのですが、どうしても行きたいのです。
    どうしたら授業を理解でき、高校に行けるくらいの頭がつき、勉強もできるようになりますか?
    変な文章を長々と失礼しました。
    回答
    これは、すぐに、近くにいる信頼できる人に助けを求めるべき案件です。
    親か、先生か、学校にいるかもしれないカウンセラーか、とにかく、あなたの現状を真剣に聞いてくれる人を何とか見つけてください。
    一人で抱え込まないで、あきらめないで、とにかく誰かを巻き込んで「勉強したいんだけど、やり方がわからない」と言い続けてください。