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マンガの80年代から90年代までを概観する:その46(1,964字)
2022-03-17 06:00110pt1赤塚不二夫のマンガの最も重要なモチーフは「父」である。特に「父の失権」だ。権力を失った父の、その落ちぶれた様を笑う――というのが、赤塚マンガの基本構造である。その根底には、強烈な父親差別(かつ愛憎)がある。
「笑い」というのは、このように差別構造の上にしか基本的に成立しない。しかしながら、弱者を差別するのは一方で、人間の持つ倫理に反する部分もあり、素直に笑えないところがある。
その矛盾を解決するために、いつしか人は「権力者を差別する」という笑いの構造を生み出した。現代日本でも、例えば「首相はどれだけ差別してもいい」ということになっている。安倍元首相などは、日本で一番差別された人間といっていいだろう。校長先生や会社社長を差別するのも、これと一緒の構造である。
ただし、こういう構造は昔からあり、すでに技法として定着してしまっている。そのために、刺激や面白みが少ない。安倍元首相を差別する人は多い -
[Q&A]ウクライナが即時無条件降伏したらどうなっていたか?(1,180字)
2022-03-16 06:00110pt[質問]
戦争とはザックリ言えば攻める側守る側が武力的に戦うことです。ロシアがウクライナを攻撃した時に、初めからウクライナが全面的に降伏していたら、両者多くの人が亡くならずに済んだと思われますか?
その場合ウクライナは国家や領土はとられますが、世界中から非難されてスイフトなどでロシアを経済制裁して地味に国家破綻を狙うこともできたのでしょうか。
[回答]
それはないですね。イジメもそうですが、そもそも降伏してしまうと、そこで戦争が起きていることすら、周囲からは気づかれません。そのため、支配はさらに過激化するんです。世の中には、武力に頼らず人を支配する(あるいは殺す)方法もたくさんあります。実際、過去の歴史では降伏したがために、かえって不幸が拡大した事例の方が多いくらいです。
これは歴史を学ぶと分かるのですが、日本が降伏に好印象を抱いているのは、明確に第二次大戦の敗戦の影響でしょう。しかしなが -
生きるとは何か?:その25(1,554字)
2022-03-15 06:00110pt野蛮人として生きるにはどうすればいいか?
若い頃、野蛮人としての生き方を完全に見失っていたぼくは、どうやってそれを取り戻したのか?
離婚をした頃――20代後半のぼくは、心がボロボロだった。しかし、それ以前に生き方が全くなっていなかった。そのことに、当時はなかなか気づけなかった。それで、ずるずると坂を転げるように落ちぶれていった。最終的に2度自殺未遂をし、そこでようやく転落が終わった。
そこから人生が上向き始めたのだが、さすがに2度も自殺未遂をすると、間違っているのは必ずしも世の中ばかりではなく、自分の方にも責任があるのではないかと思うようになっていた。
その頃ぼくは、麻雀に熱中していた。というより、中毒だった。
なぜかというと、麻雀をしている間だけ、この世の憂さを忘れることができたからだ。孤独を癒すことができた。ぼくは、友だちがいなくても孤独と思ったことはないが、妻と子供がいない状態は、こ -
知らないと損をする世界の裏ルール:その10「上手く話すと伝わらない」(1,699字)
2022-03-14 06:00110ptこれも実に多くの人が勘違いしていることだが、「話」というのは上手く話すと伝わらない。逆に、下手に話すと伝わる。
これは、アメリカ建国時に政治家として活躍し、同時に雷が電気であることを証明した科学者でもあるフランクリンが発見したことである。彼はその著書『フランクリン自伝』の中で、若いときは上手く話せないことがコンプレックスだった――と述べている。今でいうなら「コミュ障」だった。
だから、一生懸命「話し方のテクニック」を学んだ。つっかえずに話そうとしたり、要点をまとめようとしたりした。
ところが、そうした努力をすればするほど、かえって話が伝わらなくなった。最終的には、誰からもまともに話しを聞いてもらえなくなったという。
そこで、仕方なく開き直り、つっかえても良いからと自分の話し方で話すようになった。話題も変にまとめず話すようにした。
そうしたところ、驚いたことにほとんどの人がちゃんと聞いてくれ -
トヨタ生産方式について考える:その12(2,425字)
2022-03-11 06:00110pt先週、ネットを見ていたら「ファインマンテクニック」という勉強法が話題になっていた。
本当に理解できる勉強法「ファインマンテクニック」が効果的。やっぱり丸暗記は無意味だった
この「ファインマン」とは、ぼくの好きな「ファインマンさん」のことである。
ご冗談でしょう,ファインマンさん 上
勉強法の概要はというと、「勉強するときには、人に教えながらすると効果的だ」というものだ。上記の記事には、具体的なステップも記されている。それは以下の4つである。
1.白紙を用意して、知識を深めたいテーマを書く
2.テーマについて知っていることを、人に説明するつもりで書く
3.うまく説明できなかった部分を、調べて書き足す
4.できあがった説明文を読み、さらに簡単な言葉に書き直す
この勉強法は、トヨタ生産方式における「平準化」そのものだ。
平準化は、まず作業長が、作業表(平準化された作業工程の表)を若い工員のため -
マンガの80年代から90年代までを概観する:その45(2,119字)
2022-03-10 06:00110pt1945年に戦争が終わってから後、1946年から1950年までの5年の間、日本はきわめて混迷した状況の中に置かれていた。特に経済が混迷し、貧乏が全国を覆い尽くしていた。
また、1950年頃になると日本全国で労働争議が頻発するようになり、世の中が騒然とし始めた。このままでは貧しさに耐えかねて共産主義国になってしまうのではないか――という危機感さえ、多くの人が抱いていた。
ところが、1950年に朝鮮戦争が起こり、その特需によって高度経済成長が始まった。また、1951年にはサンフランシスコ講和条約が調印、翌1952年に発効され、日本はようやく占領から解放された。
この1951年には、講和に先立ってマッカーサーが帰国している。これは朝鮮戦争における作戦失敗の責任をとってのことだったが、多くの日本人は、この頃までにマッカーサーを深く愛するようになっていた。
なぜかといえば、日本はいまだに貧乏だけれど -
[Q&A]芸能界の闇について(2,721字)
2022-03-09 06:00110pt2[質問]
ハックルさんは、文章を書く上で数学で習う「方程式・命題・集合」などを意識または用いて、文書を書くことはありますか?
[回答]
少し質問の意味が分かりにくかったのですが、純粋に数学的な意味での方程式・命題・集合を意識して文章を書いたことは、これまで一度もないですね。それとも比喩的意味でしょうか? それだったらあると思います。例えば、ぼくは「主語をしっかり書く」というのを、自分が文章を書く上での一種の「方程式」としています。
ただ、次の「命題」と「集合」は、比喩的表現が思いつかないので、やっぱり純粋に数学的な意味でのことでしょう。証明文を意識する……という意味ですかね? それでしたら、やっぱり意識したことはありません。
というのも、ぼくは証明のように、真偽がはっきりしていることを議論するのは好きではないからです。それよりも、曖昧なものの方にこそ興味があります。ですので、逆に命題・集合 -
生きるとは何か?:その24(1,717字)
2022-03-08 06:00110pt「野蛮人として生きる」ということの価値は、多くの人が理解できると思う。しかしながら、「情報時代の野蛮人として生きる」ということの価値は、なかなか理解しづらい。まずその意味が、よく分からない。だから、実行するのは至難の業だ。
そんな難しいことをぼくに具体的に教えてくれたのは、やはり桜井章一さんだ。離婚して心に計り知れないダメージを被っていたとき、桜井さんの著作に触れて、目を見開かされた。自分がそれまでいかに間違っていたか――を思い知らせてくれたからだ。
当時、ぼくが死にそうになっていたのは、ぼくが間違っていたからだ。どう間違っていたかというと、情報時代の野蛮人であることを忘れ、非野蛮人として生きようとしていた。そのことによって、自分で自分を殺していたのだ。
ぼくは、大学卒業後に秋元康さんのところで放送作家をしていた。今思うと、初めからぼくには合わない職業だなとは思っていたが、それは多分にぼく -
知らないと損をする世界の裏ルール:その9「教育は必要ない」(2,229字)
2022-03-07 06:00110pt2これはいまだにほとんどの人が知らないのだが、人はほぼ、才能だけで生きている。
だから、教育がエフェクトすることはほとんどない。例外的に教育がエフェクトするのは、
「ロボット人間を生み出すとき」だけである。つまり、産業革命以降、「機械の僕となる人間」が大量に必要とされる社会が一時生まれたのだが、そこにおいては教育が大いにエフェクトした。
しかし、その効果も20世紀後半になるとどんどん薄れていき、21世紀に入る頃にはほとんど機能しなくなった。ところが、そこでの成功体験が強烈だったため、人々はいまだにその幻影を追いかけているのである。
ぼくは、自分の子供が2018年に生まれたということもあるが、それ以前から児童書の編集者をしていた関係で、ここ10年教育に関する本を手当たり次第読んできた。そこで得た結論としては、「どの本も同じことを言っている」というものだ。
何を言っているかというと、「大人はなる -
トヨタ生産方式について考える:その11(1,772字)
2022-03-04 06:00110ptトヨタ生産方式の定義を一言で説明するのは難しい。なぜなら、重要なポイントがいくつかあるからだ。そのうちの一つが「平準化」である。平準化とは、「作業の流れを作る」という意味だ。作業の基本を策定し、それに則って作れば誰でもできるような方式に落とし込むことである。
「作業の流れを作る」というのは、作業の構造を徹底的に読み解いた上で、それを誰でも行えるように再構成しなければならない。その再構成する際に、工夫を凝らし、可能な限りムダムラムリを排除していく。それでも、排除しきれないムダムラムリは残るから、この改善に終わりはない。
この平準化こそ、トヨタ生産方式の肝といえるかもしれない。トヨタでは、これを工場の作業責任者が行う。ベテランの職工がまず、工程表を作るのだ。
そこで重要なのは、作業を徹底的に噛み砕き、新人でも無理なくできる工程に落とし込むことである。これを果たすには、工程表を作る人間が作業を十
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