-
トヨタ生産方式について考える:その27(1,853字)
2022-07-15 06:00110pt2現代に生きる我々にとって「服」はあまりにも安価であり、おかげでほとんど「使い捨て」るような存在となっている。そのため、ありがたみはきわめて薄く、その本質的な価値をほとんど感じられない。
しかしほんの150年前まで、それは宝物のような存在だった。必需品でありながら供給が全然足りていないため、きわめてありがたかった。
なぜ供給が足りないかといえば、製造がきわめて困難だったからだ。そのため、とても高価だった。服一着には、今の軽自動車くらいの価値があった。だから、生涯に所有できる服はせいぜい10着といったところだったろう。
これを、現代人にも分かりやすいものでたとえるとどうなるか?
例えば、日本人にとって「水」はとても安価だが、しかし砂漠の民にとってそれはきわめて高価なものだ。あるいは、地球上ならどこでも空気はただで手に入るが、宇宙へ行くとそれは極めて貴重になる。
そんなふうに、150年前までの服 -
マンガの80年代から90年代までを概観する:その60(1,649字)
2022-07-14 06:00110pt1979年から1981年というのは、ちょっと特殊な時代だった。この頃、エレクトロニクス技術が急発達し、さまざまな「未来的商品」が出始めていた。また、それに伴ってコンテンツ業界も少しずつ様変わりをし始めていた。
中でもYMOの登場はその象徴的なものだろう。音楽の世界にコンピューターが登場し、それが音楽界そのものをも少なからず変えるということが現象として起こったのだ。そのため、多くのアンテナの高い尖った若者がYMOに飛びつき、新しいコンテンツの楽しみ方のスタイルを構築していった。
マンガ界にもこの動きは飛び火した。その先陣を切ったのは江口寿史だ。彼は当時、週刊少年ジャンプに『すすめ!!パイレーツ』を掲載していた。ぼくは、このマンガを読む中で初めてYMOの存在を知った。江口寿史がYMOの大ファンで、彼らをマンガの中に登場させていたのだ。
そういうふうにマンガ家が自分の作品内で自分や自分の近況を報 -
[Q&A]小説を書く時は、何を意識しているのか?(1,999字)
2022-07-13 06:00110pt[質問]
小説を書く時は、何を意識しているのでしょうか。書き方について教えて下さい。
日常生活において、考え方、思考を持つことで、もっと人生が有意義になるかと思ったからです。
[回答]
小説を書く上で大切なのは、「まだ言葉にならない、でも確かにそこにある、もやもやした感情」を自分がとらまえることです。つかむことです。
ぼくの場合は、高校生のときに帰り道に夕やけを見たとき、抱いた言葉にならない感情が、今もまだ胸の奥にわだかまっています。だから、それが絶えず小説の源泉になっています。
あるいは、そういうものの中ですでに発見され、多くの人の共感を得ているものもたくさんあります。例えば入道雲とか、放課後の学校の「エモさ」とか、ですね。
そういうエモさで、まだ概念化されていないものを、日常生活において見つけること。あるいはストックしておくこと。それが、小説を書くために日常を営む上ではだいじかと思いま -
令和日本経済の行方:その4(2,025字)
2022-07-12 06:00110pt2最近、「経験と知識の積み上げ」による参入障壁の高さということに、凄まじい威力を感じている。
例えば、一見「経験と知識」とは全く関係ないように思えるが、ボクシングの井上尚弥チャンピオンの強さというのも、これがもたらしたものといえる。ボクシングに限らずなんでもそうだが、競争の参加者において必ず同じ条件となるのは「時間」である。ボクシングの場合は「練習時間」だ。
そのため、そこでは必然的に「時間の使い方」が勝負の分かれ目となる。ボクシングの場合だったら、限られた時間の中でどれだけ有意義なトレーニングができたかが、勝敗における大きな鍵となる。
そして、おそらく井上尚弥チャンピオンは、この時間の使い方が相当上手いのだ。それこそ、対戦相手を圧倒しているのだろう。それがそのまま、圧倒的な試合結果となって現れている。
そして、どれだけ質の高い時間の使い方ができるかは、たとえ体力勝負・技術勝負のボクシングで -
知らないと損をする世界の裏ルール:その23「民主主義を守る必要はない」(1,408字)
2022-07-11 06:00110pt先日、安倍元首相が狙撃殺害されるという事件が起こった。この凶行を、多くの人が「民主主義への攻撃」と受け取り、「民主主義を守ろう」との声を上げている。
しかしながら、この声はあまりにも空虚だ。なぜなら、そもそも民主主義ははじめから奪われていないからだ。いにしえより現代に至るまで、人類が民主主義的でなかったことはない。だから、それを奪われると心配することは、全く意味がないのだ。
ところで、そもそも民主主義とは何か?
民主主義は、しばしば「独裁制」の対義語のように扱われる。独裁者に支配されているのが、「非民主的」だと。
しかしながら、それは端的に言って誤りだ。「民主主義」は、実際は「専政」の対義語だ。特定の誰かからの力によって人々の自由が阻害され、行動や言動、思想信条が著しく制限される状態を指す。その意味で、独裁も専制の一つではあるが、必ずしも独裁だけが専制の形ではない。それ以外の専制も、民主主 -
トヨタ生産方式について考える:その26(1,830字)
2022-07-08 06:00110pt子供の頃に、歴史で確か「工場の進化」の授業をしていた気がした。しかし、そこでは「家内制手工業」や「工場制手工業」「工場制機械工業」などの用語を教えるくらいで、その本質的な意味合いや、社会との関係性は一切語られなかった。
しかし、今思うとそもそもは歴史的に重要だから、そのことを教えていたわけだ。学校の授業では、その重要性が一切伝わってこなかった。工場の進化と、上で述べた工場の進化の中の「工場制機械工業」の出現が、いかに重要な社会変革をもたらしたかというのは、学校ではちっとも教えてくれなかったのである。
しかし、歴史を知ればするほど、人類はこの工場制機械工業の出現で、その生態を大きく変化させたということが分かる。工場制機械工業こそ、今のところ、人類史における最も大きなインパクトを持った発明ということができるだろう。インターネットのインパクトも大きいが、今のところ、工場制機械工業はそれをはるかに -
マンガの80年代から90年代までを概観する:その59(1,612字)
2022-07-07 06:00110ptぼくは、1979年の12月から1981年の12月まで、丸2年タイのバンコクに暮らしていた。1979年12月(小5の冬休み)までは東京都日野市の程久保小学校に通い、1980年1月から1981年3月までの15ヶ月間、インターナショナルスクール・オブ・バンコク(ISB)に通った。
その後、1981年4月の中1になるタイミングでバンコク日本人学校に転校した。さらに、1982年の1月から(中1の3学期から)、つくば市にあった私立茗渓学園中学に編入した。
そんなふうに、この時期だけで4回学校を変わっている。ぼくとしては、思春期の変化とも相まって激動の時期だった。
そして、この時期はマンガにとってはもちろん、世相そのものが激動していた。しかし、そんなことは同時代を生き、まだ思春期の入口にいたぼくには知りようもなかった。
今となっては不思議なことだが、当時のぼくは、社会というものを何も知らないで暮らしてい -
[Q&A]「長所を伸ばす」という考えについてどう思うか?(2,919字)
2022-07-06 06:00110pt[質問]
よく「自分の苦手な部分は捨てて、得意なところで勝負する」と言います。なんだか分かったような分からないような言葉です。岩崎さんは、この言葉の意味をどのようにお考えですか?
[回答]
やはりほとんどの人が、生きる上で「社会」というものと向き合い、その中で自分のポジションを構築していかなければならない――という課題に直面していると思います。
そして、ポジションを構築するには「バリュー」を高めるということに尽きるのですが、その際、「長所を伸ばすか、短所を克服するか」という二者の選択に突き当たるわけです。
そこで、ほとんどの人が「短所を克服する」という道を選択します。理由は割と単純で、多くの人が自分の長所を知らず、従ってそれは「ない」ものと認識しているからです。そう思っている以上、それを伸ばすという選択はしようがありません。
その逆に、ほとんどの人が自分の短所を自覚しています。ですから、「 -
令和日本経済の行方:その3(1,692字)
2022-07-05 06:00110pt希少価値が高く、参入障壁が高いチャネルとは何か?
それは、ありきたりな答えだが「積み上げ」である。積み上がっていくものは、参入障壁が高い。
価値には、積み上がっていくものと、上下するものがある。それは、野球のホームランと打率のようなものだ。ホームランは、積み上がっていく。しかし、打率は上下する。
だから、若い頃に打率が良かったといっても、高齢になってその価値は評価されない。打率で重要なのは、あくまでも「今」なのである。だから、今の打率が低ければ、それは価値がないということなのだ。従って積み上がらずに、希少価値もなく、参入障壁も低くなる。
その逆に、ホームランは減らない。生涯放ったホームラン数は、打率が落ちてきても減ることはないし、もっというと引退後も消えない勲章になる。
だから、それは参入障壁が高く、希少価値も高めに設定しやすい。そのために、我々は何か、積み上がっていくものを持つ必要がある -
知らないと損をする世界の裏ルール:その22「全てはチャラになる」(1,628字)
2022-07-04 06:00110pt「チャラになる」という言葉がある。「プラスマイナスゼロ」という意味だが、なかなかに奥深い。
この世界には、何か「バランス」を司る大きな力があって、その影響によって、生じた変化は必ず収束していくのだ。必ず均衡状態に戻っていく。プラスマイナスゼロに限りなく近づく。全てはチャラになるのだ。
このことは、おそらくぼくが言うまでもなく、多くの人が実感しているのではないだろうか。どれだけ大きな変化が起こっても、時の流れと共に、なんとなくあるべき場所に収束していく。それこそ津波が起こっても、やがてエネルギーは拡散していき、波はまたもとの穏やかな状態に戻る。全てはチャラになっていくのである。
面白いことに人間は、この「全てはチャラになる」という法則を知ってはいるのだが、しかしなぜか忘れる。普通に生活しているときは、むしろなぜか「チャラにはならない」と思っている。均衡は失われ、全ては取り返しがつかないと思い
2 / 3