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記事 26件
  • ピクサーの限界(後編)(1,975字)

    2016-09-19 06:00  
    110pt
    注:ここではタイトルを「『ピクサー』の限界」としていますが、正確にはピクサーのジョン・ラセターが生み出した合議制によるアニメ制作のことを指した内容となっているので、『アナと雪の女王』以降のディズニー映画も含みます。
    前編はこちら。
    ピクサーの限界(前編)(2,019字)
    続きです。
    ピクサーの最新作は、『ファインディング・ドリー』だった。
    面白いことに、これはディズニーの最新作である『ズートピア』と共通のテーマを持っている。
    それは「多様性の肯定」だ。あるいは「ポリティカル・コレクトネス(以下PC)」である。もっと直裁にいうと、「差別反対」である。
    『ファインディング・ドリー』では、さまざまな障害を持った動物が現れる。主人公のドリーはすぐ忘れるというハンディキャップがあるし、友人のニモもヒレが小さい。あるいは、水族館の生き物たちもそれぞれさまざまな不都合を抱えている。
    『ズートピア』では、

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  • 台獣物語34(1,913字)

    2016-09-17 06:00  
    110pt
    34
     その日の放課後、ぼくはエミ子にこんな提案を持ちかけた。
    「今度さ、文化祭があるだろ?」
    「うん」
    「それでさ、二人で催し物をやってみないか?」
    「え? 何を?」
    「うん。二人で、『劇』をやらないかと思ったんだ」
    「ええっ!」
     と、エミ子は驚いた顔でぼくを見た。まさか、ぼくの口から劇などという言葉が出てくるとは想像もしていなかったのだろう。
     そこでぼくは、慌ててこうつけ足した。
    「ああ。といっても、ぼくが劇に出るわけではない」
    「え?」
    「ぼくは作、演出に回るから、きみが一人舞台をしてみないか――という提案なんだ」
    「ああ!」とエミ子は、ようやく得心がいったような顔をした。それから、一転興味深そうな顔になると、ぼくに顔を近づけてこう言った。
    「なにそれ、面白い! 詳しく聞かせて」
    「うん……実は、『手紙劇』というのを考えていたんだ」
    「手紙劇?」
    「そう。手紙劇というのは、読んで

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  • ピクサーの限界(前編)(2,019字)

    2016-09-16 06:00  
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    ピクサーには限界を感じる。
    今日はそのことについて書いてみたい。
    ピクサーやディズニーのアニメは、非常に独特な作り方をしている。それは合議制で決めるということだ。日本のように監督が部屋にこもって絵コンテを描くのとは違う。多いときには30人くらいが一つの部屋に集まって、プレビズという試作品を見ながらあれこれ議論を戦わすのである。
    その過程で、必然的に角という角は取られてしまう。結果、非常に丸い映画が作られる。どこから見てもツッコミどころのない映画だが、しかし逆にいえば、ツッコミどころのないところが一つのツッコミどころとなるのだ。
    最近のピクサー及びディズニーの映画には、そういう限界が見えてきた。つまり、合議制で作ることに、一つの限界があるのだ。
    ところで、議論の前提として、そもそもピクサーのような合議制がなぜ成り立っているかということについて見ていきたい。
    その理由は、大きく三つある。
    一つ

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  • あしたの編集者:その13「この世の本質はなぜ隠されているか?」(1,902字)

    2016-09-15 06:00  
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    この世の本質は隠されている。
    例えば、「仲が悪くなる」というのが親子関係の本質であるが、なぜか人間は「親とは仲が良いものだ」あるいは「仲良くするべきだ」という誤った固定観念に縛られている。
    なぜか?
    それは、まさにその「親とは仲が悪くなるものだ」という本質を隠すためである。それを分からせないためだ。
    実は、それが分かってしまうと、一つの問題がある。それは、生きることのモチベーションが失われることだ。生きる「力」が減退してしまうのである。
    ここに、いつも親と仲違いして悩んでいる人がいたとする。彼(彼女)は、もし親と仲が悪いというのが本質だと知らないままだったら、ずっとそのことに悩み続ける。
    そして悩んでいる間は、退屈しないで済むのである。親との関係をなんとか改善しようと、前向きに生きられる。
    「分からない」というのは、生きる力の原動力なのだ。その逆に、いろんなことが分かれば分かるほど、生きる

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  • [Q&A]いい編集に出会うにはどうすればいいか?(2,317字)

    2016-09-14 06:00  
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    [質問]
    レイプの事件が話題にありましたが、そういう話になると、四の五の言わずに男性側が悪いと言う話になります。しかし、真実はその場の人間。当事者しか知らない。もしかしたらその場は同意していたのにもしくは、しっかり交際していて自然な流れだったのに後々女性側が話を盛るケースもあるんじゃないか?と。電車のチカンの冤罪。「美人局」の類いみたいな。僕は、ひねくれていますし彼女いたことないんでエラソーなこと言えないで
    すが、あまり、女性側には悪いですが、今まで生きてきて女性の嫌な裏の面も垣間見てきて「本当。糞だな!クズだな!」って内心思ったこともあります。「美人局」みたいなのに引っ掛からない。信用できる人を見極める心眼をどう養えばいいですか?
    [回答]
    いつもいっていますが、「彼女をほしがらないこと」です。
    [質問]
    少し前からUX(ユーザーエクスペリエンス)デザイナーという職種をよく聞くようになり

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  • 世界的なプロダクトを生み出す日本の美的感覚:その35(1,943字)

    2016-09-13 06:00  
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    『宇宙戦艦ヤマト』は、かなりユニークな形式で製作された。プロデューサー西崎義展氏の、自主制作フィルムのような形でスタートしたのだ。お金は彼が全て賄った。
    そのため、普通のアニメではできないような豪華な制作体制が整えられた。それは、スタッフの質もそうだが、量もそうだった。多くの優秀なスタッフを集め、作画枚数を増やしたのである。
    そういう豪華な作りにしながら、しかし皮肉なことに、テレビ放送では裏番組の『アルプスの少女ハイジ』が強すぎたため、視聴率が振るわなかった。それで、番組打ち切りの憂き目を見るのである。
    しかしながら、当時の数少ないファンの間には激烈な印象を残した。そのため、『宇宙戦艦ヤマト』の評判は口コミで徐々に広まっていき、また再放送を何度かくり返すことで、着実にファンを増やしてもいった。そうして、いつしか『宇宙戦艦ヤマト』はアニメファンの間では、「埋もれた名作がある」という伝説的な存

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  • 絵本の価値はいつ生まれるのか、またそれを体系的、継続的に生み出していくための方法は?(後編)(1,908字)

    2016-09-12 06:00  
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    前編からの続きです。
    絵本の価値はいつ生まれるのか、またそれを体系的、継続的に生み出していくための方法は?(前編)(1,689字)
    今回は、世の中を観察したとき、それをどう正しく分析していくか、またその分析眼はどう養えばいいのか、ということについて考えていく。
    世の中を観察するとき、まずだいじなのは「キャリブレーション」である。ものを見る「目」を正しく設定することだ。
    これは、カメラを趣味にしている方はご存じかと思うが、写真に焼き付けられた画像というのは、フィルムにせよデジタルにせよ、全て「レンズ」を通過する。レンズを通過しない写真は、この世にない。
    そのため、カメラにおいてレンズというのは、非常に大切なのである。特に、それが曇ったり、ゆがんだり、ゴミがついたりするようなことはあってはならない。だから、必ず「キャリブレーション」をして、それが正しく写るように調整するのだ。
    世の中を観察する

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  • 台獣物語33(2,304字)

    2016-09-10 06:00  
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    第九章「愛こそすべて」
    33
     二学期に入ってからしばらく経って、朽木碧の舞台の稽古が皆生駅近くで始まった。
     テレビ局のリハーサル室を使ったその稽古場に、ぼくとエミ子は学校が終わるとよく遊びに行った。それは、碧と会うことも一つの目的だったが、もう一つには、プロの舞台というものがどのように作られるのか、興味が大きかったからだ。
     ぼくらは、舞台については単に碧の友人というだけで全くの部外者だったが、碧が演出家の人に話をつけてくれたおかげで、自由に見学させてもらえるようになった。碧は、役どころもとても重要なものだったが、演出家の人にもとても気に入られているらしく、そうした話もすぐにつけてくれた。
     それで、大喜びしたのはエミ子だった。なにしろ、彼女はもともと趣味で変装してしまうくらいに芝居のファンで、だから鑑賞するのはもちろん、それが制作される舞台裏にも大きな興味があったのだ。
     そのため、

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  • 絵本の価値はいつ生まれるのか、またそれを体系的、継続的に生み出していくための方法は?(前編)(1,689字)

    2016-09-09 06:00  
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    「絵本」というものにおいて、特に紙の本においては、「情報」というものの価値は今ではほとんどなくなった。たとえそこに必要な情報が書いてあったとしても、たいていは紙の本以外(特にネットを初めとする電子機器)でもそれを手に入れることができるので、負けてしまう。では、電子機器になくて紙の本に今でもある価値は何か?それは、まずは「所有感」である。あるいは、絵本であったら電子デバイスにはない「温もり」や「手触り」も価値が高い。また、「伝統」や「教育効果」というものも、電子にはなく紙の本にはある価値だろう。そう考えると、紙の絵本のコアな価値というのは以下の四つに絞られる。「所有感」「温もり・手触り」「伝統」「教育効果」ところで、この四つを高いレベルで満たす作品というものがある。それは絵本の「ロングセラー」だ。例えば、「ぐりとぐら」「いないいないばあ」「はらぺこあおむし」といった作品である。これらは、いず

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  • あしたの編集者:その12「この世界の本質は隠されている」(1,744字)

    2016-09-08 06:00  
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    正しい生き方をしていると、この世界の本質に突き当たる。
    この世界の本質を知ると、それを活かした本作りができ、編集者として生き残ることができる。
    では、「この世界の本質」とは何か?
    ところで、ぼくがこの概念を初めて意識したのは、宮崎駿監督のドキュメンタリーを見ていたときだ。
    その中で、彼は若いアニメーターに対し、人がものを食べるときの動きを教えていた。そこで、「食いちぎった肉が揺れる動作」を描くと美味しく見えるということを説明した後、「これがこの世界の秘密の一つなんだ」ということを話していた。そしてアニメーターというのは、そういう秘密をいくつも見つけていくことが仕事なのだと。
    そこでぼくは、この世界には肉が美味しく見えるような動きがあるということ、そしてそれは普段は隠されていること、それを知ることによってアニメーターとしてのレベルが上がることなどを知った。そうして、端的に「この世界には本質が

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