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教養論その29「教養に必要な怒り」(1,760字)
2016-03-17 06:00110pt教養を正しく育むためには、教養の負の側面に目を向ける必要がある。ものごとを嫌いになったり、憎んだりする必要がある。
なぜなら、この世には嫌いになるべきもの、憎むべきものというのが存在するからだ。それらをちゃんと嫌いになったり憎んだりしないと、ものごとを正しく評価できなくなる。ものごとを正しく評価できなければ、すなわち教養がないということになってしまうのだ。
そこで今回は、ものごとを正しく嫌ったり憎んだりする力をいかにして養うか――ということを考える。そこでポイントとなるのは「怒り」である。怒りこそ、ものごとを正しく嫌ったり憎んだりするときに欠かせない感情だ。怒りがないと、毛嫌いや食わず嫌い、逆恨みといった、間違った嫌い方、憎み方をしてしまう。
手塚治虫の『火の鳥 鳳凰編』で、印象的なシーンがある。それは、主人公の一人である我王が、創作活動に目覚める場面だ。
物語中、我王は道で死んだ農民と出 -
[Q&A]努力ができない理由は何ですか?(1,794字)
2016-03-16 06:00110pt[質問]
どの業界の成功者も成功するには「努力」「我慢」ありきの「苦労」の結果であると言います。私自信も「才能」や「センス」より比重は大きいと思います。「努力」は「結果」ありき、無意味になるだけになる「苦労損」「努力損」の可能性も秘めています。「努力の仕方」「努力の向けかた」「努力できない人には何が足りないのか」「努力できる人には何が備わっているのか」教えてください。
[回答]
おそらく「損」を考えるからではないでしょうか。「損」を引き受けられる度量の広さがなければ努力はできません。努力できない人は心の狭い人ですね。
[質問]
以前に、意識高い系の話をされた時に「唯一ストレートなものが受け入れられているのは、情報化社会の最先端である「IT」においてくらいである。」とおっしゃっていました。ITでストレートなものが受け入れられているというのが、よく理解できませんでした? その背景や具体例があれ -
世界的なプロダクトを生み出す日本の美的感覚:その10(2,173字)
2016-03-15 06:00110pt第二次大戦が終わったとき、日本は貧困のどん底に喘いでいた。しかし、そこからたった二〇年ほどで、驚くほどの復興を遂げる。
その背景には何があったのか?
それを、日本の輸出産業の変遷から繙いてみたい。
戦争直後、日本の輸出産業では玩具が大きく伸張した。
その理由としては、当時日本の労働力が安かったことと、もう一つは日本の高い技術力が欧米のメーカーを凌駕していたことが挙げられる。
なぜ日本の技術力が高かったかといえば、この頃の玩具製造はまだ手工業が主だったので、それに携わる職人の質と量で欧米を大きく上回っていたからだ。日本人には手先の器用な人間が多かったのである。
これもやはり、日本独特の美的感覚によるものだ。日本は、美的感覚の優れた人間が多いため、手先の器用な人間を安価で多数確保しやすい。
このおもちゃ産業を筆頭に、日本はさまざまな分野において手先の器用さ――つまり「技術」においてその存在感を -
混沌とした時代の「幕の内弁当作戦」について(2,072字)
2016-03-14 06:00110pt世の中が混沌とし、なかなか先が読めない。今の市場でさえ、なかなか理解、分析しにくい。
そういう時代に必要なのは、「幕の内弁当」ではないだろうか。とにかく美味しいものを「全部乗せ」する――そういうプロダクト、あるいはサービスが今、求められているのではないだろうか。
これは、ターゲッティングやコンセプトが不明瞭になり、いわゆる「二兎を追う者は一兎をも得ず」で失敗しやすい――と、マーケティングの世界では長らく間違いだとされてきた。
ただ、それは市場がある程度読める時代の話ではないだろうか。時代がある程度読め、マーケティングが機能する時代ならそういうやり方の方がいいのだろうが、市場が全く読めない今は、そういう方法はほとんど成り立たなくなった。そうして、従来は邪道とされてきた「幕の内弁当」の方が、むしろ安全性や確実性が高まっているのだ。
そこで今回は、「幕の内弁当」的なプロダクト、あるいはサービスを -
「ダンジョン飯」について(2.638字)
2016-03-11 06:00110pt「ダンジョン飯」というマンガを1巻だけ読んだ。
この本は今、ヒットしている。その理由を分析してみたのだが、そこで分かったのは、作品に描かれた世界そのものが、現代の若者の心象風景を表したものになっている、ということだ。キャラクターも、若者心理を対弁するものとなっている。
今日はそのことについて書いてみたい。
まず内容を簡単に説明すると、舞台は異世界に現れたダンジョンである。このダンジョンにはモンスターが巣食っている。
主人公の青年と彼が率いる部隊(パーティー)は、このダンジョンをどんどんと潜っていく。そこで、モンスターを討伐するのが目的だ。
これは、現代の若者の心象風景をそのまま表していると思った。
現代の若者は、現状に概ね満足している。だから、なかなか外の世界に魅力を見出せない。今の場所から抜け出す必然性を感じないからだ。
しかし、不安もある。それは、このまま今の場所にとどまっていてもジリ -
教養論その28「教養の矛盾」(1,631字)
2016-03-10 06:00110pt教養というのは、一般的にはものごとを肯定的にとらえる力だと思われている。ものごとの正の側面をとらえ、それを伸ばしていける力のことだと。
例えば、教師でいったら生徒の良いところを見つけ、それを伸ばしていけるのが「教養ある人物」というふうにとらえられる。
しかし、それは教養の片面に過ぎない。教養には、もう一つ重要な側面がある。
それは、ものごとを否定的にとらえる力だ。ものごとの負の側面をとらえ、それを解消していったり、場合によっては放置して、そのまま死滅するのを待ったりする力だ。諦めたりする力である。
近年、「嫌われる勇気」という本がベストセラーとなっているが、この「嫌われる」というあり方は、まさに教養のもう一つの側面といえよう。教養ある人間というのは、単に人から好かれるだけではなく、ちゃんと嫌われることができる。教師でいったら、生徒の悪い面をとらえ、これを否定したり、解消させたり、場合によっ -
[Q&A]Amazonのお坊さん便についてどう思いますか?(1,842字)
2016-03-09 06:00110pt[質問]
以前ハックルさんは、「何かを成すぐらいになるには、およそ20年ぐらいかかる」とおっしゃっていました。私自身、どう生きていけば分からず、もがいている最中ではありますが、10年では余程の天才とかじゃないと厳しいだろうなという印象です。しかしもしイノ、のようにイノベーションで案外簡単に物事は変わると勇気と行動を起こせばですが、「ハックルさんは地道に苦しんで20年以上なのかイノベーションを起こして短い歳月で何かしら良い方向に持っていくのか」どちらが正しいのか考え方的にはという疑問が湧いたのでお願いします。
[回答]
イノベーションというのは起こしたら終わり、という短期のものではありません。起こし「続ける」ことがだいじで、だいたい20年起こし続けられれば大きな仕事ができるというわけです。石の上にも三年、継続は力なり、千里の道も一歩からで、まずは着実に確実に前に進む方法を模索してみてはいかが -
世界的なプロダクトを生み出す日本の美的感覚:その9(1,786字)
2016-03-08 06:00110pt江戸末期に鎖国を解いて以降、日本は西洋文化を急速に取り入れていった。
その結果、日本の美術工芸品は最初期こそ鎖国をしていたことによる独自性や、それが西洋文化と融合したことによる革新性を持っていたが、やがてそれらは陳腐化していき、次第に魅力を失っていった。一九一〇年代には、日本の美術工芸品はすっかり西洋化してしまい、それまでのオリジナリティ溢れた美的感覚というものを失っていた。
ちょうどその頃、第一次世界大戦が勃発する。これは世界の様相を大きく変化させ、時代は近代から現代へと移行していった。
その中で、世界の美術界はアール・ヌーヴォーからアール・デコへと移り変わっていく。それは、アール・ヌーヴォーが近代的なブルジョワジー向けの美術であったのに対し、アール・デコは科学技術の発展を背景にした中産階級向けの美術であったため、第一次大戦後の中産階級の勃興と拡大に伴い、アール・ヌーヴォーは廃れ、アール -
なぜクラウドワークスは搾取の温床になるのか?(2,014字)
2016-03-07 06:00こういう記事があった。
クラウドソーシングの向かう未来は?クラウドワークス騒動まとめと考察
クラウドワークスというのはインターネットを使った求人だ。これこれこういう仕事があるからやりませんかという依頼をクライアントが出し、それを見た人が応募してお金をもらうというシステム(インターネットサービス)だ。
このシステムで労働搾取が起きやすいのである。理由はいろいろあるが、けっきょく供給が需要を上回っているのである。求められる仕事に対して働きたい人の数が多い。だから価格が破壊され、非常に安い値段で働くことになる。
ではなぜ供給が需要を上回るかといえば、それはそういう働き方をしたい人が多いからだ。ノマド的に働きたい人が多いのである。「自分の好きな時間に好きなだけ働く」というスタイルが好まれている。これがある意味お金にも勝る。だから低い報酬でも働いてしまうのだ。
ではなぜ多くの人が「自分の好きな時間に -
鈴木敏文さんが提唱する「仮説」と「物語」(2,248字)
2016-03-04 06:00110pt最近、読む読む本がすっかりイノベーション中心になっている。それは、単にぼくが『もしイノ』を書いたからというだけではなく、人気や話題の本を読むと、自然とそうなるのだ。その意味で、今はイノベーションが間違いなく流行なのだろう。
以前、『ぼくらの仮説が世界をつくる』や『戦略がすべて』というイノベーションについての本を紹介したが、今回は、セブンイレブン社長の鈴木敏文さんが書いた『働く力を君に』を紹介したい。
働く力を君に
鈴木さんも、この本でイノベーションを述べている。そこで言っているのは、これは偶然というよりは必然だと思うのだが、佐渡島さん同様「仮説」がだいじということだ。
仮説というのは、「今、世の中ではこういうことが起きているのではないか」という予測である。その予測のもとに商品を作る。そうしないと、コモディティ化は避けられず、競争に負けてしまう。
現代の恐ろしいところは、「現場にはもうすで
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