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世界的なプロダクトを生み出す日本の美的感覚:その15(2,099字)
2016-04-19 06:00110ptここで、マンガの歴史――特にその進化の方向性についてひもといてみたい。なぜなら、それは日本の美的感覚に基づいており、同時にそれを育むことにもつながっているからだ。端的にいって、マンガは「日本の美的感覚」の象徴ともいえるのである。
では、マンガはどのように進化してきたのか?
それは、時代が進むに連れて、その表現がどんどんリッチになっていった――ということができる。描き込みが増えていった。最初は簡素な表現だったのが、やがて複雑で手の込んだ絵になっていった。
それは、最初期のマンガはあまりにも制作時間が足りなかったため、簡素な絵しか描けなかったからだ。あるいは、技法も発達していなかったので、それ以外描けないということもあった。
そして、多くのマンガ家はそれを不満に思っていた。彼らはいつでも、「もっとリッチな絵を描きたい」「もっと描き込みをしたい」という欲求に駆られていた。
それは、絵描きとしての -
若い女の子は社会からバカでいるよう洗脳されているのか?(2,217字)
2016-04-18 06:00110ptAKB48グループの一つであるHKT48の『アインシュタインよりディアナ・アグロン』という歌が炎上している。なぜかというと、その歌詞が差別的だととらえられているからだ。
どう差別的か、説明するのは難しいが、あえて試みてみる。
この歌の中で、語り部である若い女性が「女の子は可愛くなきゃね」「学生時代はおバカででいい」という価値観を披露している。また、それをタイトルにもある「アインシュタイン」と「ディアナ・アグロン」にたとえている。「アインシュタイン」は、頭がいいことの象徴、一方「ディアナ・アグロン」は、バカだけれども可愛いことの象徴として。
ここに、いくつかの批判ポイントがある。大きくいうと3つだ。
1つは、この歌が「女の子は可愛く、バカでいい」という価値観を世に広める強い効果があるということ。それは単純に間違いだし、それによって多くの人が苦しむ――という考え方がある。
2つは、その価値観が -
台獣物語(たいじゅうものがたり)04(2,471字)
2016-04-16 06:00110pt4
女性は、前に見たときと同じ、般若のような表情で、男装したエミ子を苦々しく見下ろしていた。
それでエミ子は目を見開き、慌てて逃げようとした。しかし、女性に肩を捕まれていたため、身動きできなかった。
女性は、その掴んでいた手に一層の力を込めると、低い声音で言った。
「ようやく捕まえた」
「……え?」
「今日という今日は、許さないわよ。あなた、何度言えば分かるの。この公園で歌っちゃいけないって!」
「……え? い、いえ、違います!」
と、エミ子は慌ててかぶりを振った。どうやら、あのコーラスの男の子たちと間違えられているらしい。
「わ、わたし……じゃなくて――おれ、歌ってなんかいません!」
「嘘おっしゃい! たった今、そこで歌っていたじゃない!」
「え? いえ、あれは歌じゃないんです!」
「歌じゃなければ、なんだっていうの?」
「え? そ、それは……」
「とにかくいらっしゃい。あなた、 -
台獣物語(たいじゅうものがたり)03(2,523字)
2016-04-15 06:003
それで、エミ子は驚きのあまりその場で腰を抜かしてしまった。すると、女性はそんなエミ子につかつかと歩み寄ってきた。
そのため、身の危険を感じたエミ子は、慌てて逃げようとした。
――が、間に合わなかった。尻餅をついていて、すぐには起き上がれなかったのだ。
それで、恐怖に目をつむった瞬間、女性はエミ子の傍らを通り過ぎると、男の子たちの方に歩み寄っていった。
目を開けたエミ子が再び振り向くと、男の子たちもそれを予期していたのか、すでに逃げの体勢を整えていた。
それを見て、女性はこう叫んだ。
「ここをどこだと思っているの! いつも歌うなと言ってるでしょうが!」
すると、驚いたことに一番大人しそうな青い髪の少年が、いきなりこう言い返した。
「うるせえクソババア! 公園はみんなのものだろうが! おまえに指図される覚えはねえ!」
すると女性も、それに逆上したのか「何を!」と叫ぶと、今度 -
教養論その33「素直になるということ」(1,490字)
2016-04-14 06:00110ptぼくは、あるときから「もう一人の自分」を持てるようになった。
そうなったのは高校生のときである。きっかけは、恋をしたことだった。
恋をしたとき、こう思った。
「自分は、相手からどう思われているのだろう?」
ぼくは、好きになった相手が自分のことをどう思っているか、気になった。なぜなら、相手もぼくのことを好きでいてくれれば、つき合いたいと思ったからだ。しかし、好きでなければ告白はしたくなかった。告白して振られるのが怖かったからだ。
それで、何日か思い悩んでいたのだが、結論は出なかった。相手がぼくのことをどう思っているのか、分からずじまいだった。
というのも、ぼくはそれまで「自分が他者からどう思われているか」ということをほとんど気にしたことがなかった。だから、「他者の気持ち」というのがよく分からなかったのだ。
それで、最終的には告白して、相手の気持ちを確かめてみた。しかし、そこで見事に振られてし -
[Q&A]体罰についてどう思うか?(1,079字)
2016-04-13 06:00110pt[質問]
他人の赤ん坊~大体小学生の低学年の子供をみると可愛くてこちらからコミュニケーションをとりたくなります。この一時期が体感したくて子供を欲しい人、作る人も多いのではないでしょうか? しかし、それ以降自我が強くなってわがままを言い始めて言うことをなかなか聞いてくれなくなるとコミュニケーションを積極的にとらなくなっていく気がします。例えば、犬や猫外人にも当てはまりますが変に意志疎通がお互いにできると思い込むよりも何かしら分かりあえないハードルのようなものがあったほうが、コミュニケーションは円滑になるのか? 人はやはり言うことを聞いてくれる素直な人が好きなんですかね?
[回答]
人間は、もちろん言うことを聞いてくれる素直な人が好きなので、成長して聞き分けがなくなってくると、自然と子供のことを嫌いになります。すると、親は子離れできるし、子も親離れできて、晴れて別々の人生を歩めるようになるので -
世界的なプロダクトを生み出す日本の美的感覚:その14(1,882字)
2016-04-12 06:00110pt戦後の社会は、いくつかの意味で特殊な状況だった。
世の中のほとんどの人が貧しい、娯楽に乏しい、人口における子供の比率が高い。
そうした中で、手塚治虫による『新宝島』という革新的なマンガが生まれた。この『新宝島』が多くの子供たちの心をとらえたために、マンガの需要は飛躍的に増大した。
ところが、その需要に対し、供給は全く追いつくことができなかった。
なにしろ、『新宝島』が生まれたときは、手塚治虫ただ一人しか、いわゆる「動く絵(手塚治虫的なマンガ)」を描くことができなかったからだ。
それゆえ、マンガという表現形態は、圧倒的供給不足の中で発展していくこととなる。
その中で必然的に求められたのは、マンガの量産化である。一人の作家が膨大な量のマンガを描く――ということだ。それでも供給は追いつかなかったので、量産化にはしばらく歯止めがかからなかった。
この状況に拍車をかけたのは、「マンガ」という新しい表 -
これからの教育ビジネスについて考えた(1,761字)
2016-04-11 06:00110ptぼくが最近興味を抱いているのが教育である。特に、ハーバード大学などアメリカの有名大学の教育に興味がある。なぜかといえば、アメリカの有名大学はどこも学費が上がっているからだ。それこそハーバードなどでは、卒業するまで3000万円くらいかかるらしい。年間の授業料が800万くらいだ。
それほどの高額であるにもかかわらず、入学希望者はどんどん増えている。逆にいえば、どんどん入学希望者が増えているから授業料が高騰しているのだ。
では、そこでどんな教育が行われているのか?
なぜそういう大学は授業料が高いのか?
答えを探そうとして、こんな記事に辿り着いた。
ほぼ日刊イトイ新聞 - 石井裕先生の研究室。
この記事では、糸井重里さんがマサチューセッツ工科大学(MIT)を訪れ、そこの教授である石井裕さんと話をしている。石井さんは日本人でありながらMITの教授をしている。そして、その会話がなかなか刺激的なのである -
台獣物語(たいじゅうものがたり)02(2,440字)
2016-04-09 06:00110pt2
西中へと続くなだらかな上り坂を、エミ子は息を喘がせながら懸命に駆け上がっていた。そのとき、後ろからオートモービルの駆動音が聞こえてきた。そこでエミ子は、スピードを少し緩めると、道の端に避けオートモービルを先に行かせようとした。
このとき、エミ子は俯きながら走っていたので(ただしパンはくわえたままだった)、オートモービルの車内までは見なかった。見ていたら、その後部座席にぼく――榊圭輔が乗っていて、それとはなしにエミ子を見ていたことに気づいたかもしれない。
結局、エミ子はぎりぎりで学校に間に合った。始業のチャイムが鳴ると同時に、後ろのドアを音を立てて開くと、よたよたとした足取りで教室の中にまろび込んだ。そこから、なおもよろけた足取りで窓際の一番後ろにある自分の席に辿り着くと、ドカッと派手な音を立てて着席した。
このとき、もう食パンはくわえていなかった。ただ、口はモグモグとさせていた -
台獣物語(たいじゅうものがたり)01(1,637字)
2016-04-08 06:00
第一章『見つめていたい』
1
その日の朝、エミ子のベッドの目覚ましシステムは、都合三度起動した。その度にエミ子は、無意識のうちに布団から手を出し、枕元のスヌーズボタンを押していた。
しかし、その三度目のシステムが起動したとき、布団から出たエミ子の手を、むんずと掴む別の手があった。
それで、エミ子はハッと気づいて布団から顔を出した。すると、祖母の智代がいつの間にか部屋にいて、こちらを覗き込んでいた。
智代は、やさしい笑顔でこう言った。
「エミちゃん、もう起きないと遅れるで」
それで、エミ子はガバと跳ね起きた。智代の笑顔は、全然当てにならない。というより、笑顔のときこそピンチのことが多い。
その通り、時計の針はすでに八時一〇分を指していた。
「やばい……」
慌てて制服に袖を通すと、長い渡り廊下を大急ぎで駆け抜け、突き当たりの食堂へと飛び込んだ。
エミ子の家は、昔ながらの和洋折
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