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偽物の個人時代:その15(1,948字)
2023-11-02 06:00110ptぼくはここ数年、YouTubeで「婚活チャンネル」を見るのが習慣になっている。婚活アドバイザーが出てきて、婚活に関するさまざまなアドバイスを提供するチャンネルだ。
なぜこれを見ているのか、最初は分からなかった。ただ興味があったから見ていたのだが、最近になって「時代の変化を確かめているのだろうな」と思うようになった。
ぼくは、婚活に「今の時代」というものが端的に表れていると考えている。もっというと、「今の時代の『変化』」が端的に表れている。
その「変化」がどのようなものかというと、「価値観の変化」だ。つまり、「結婚する時代」から「結婚しない時代」への変化である。婚活者というのは、その変化の矛盾に引き裂かれている。
つまり、意識の上では結婚したいが、無意識では結婚したくない。あるいは、本音は結婚したくないが、建前として結婚したい。そういう矛盾を抱えている。
ところで、結婚というのは、今は「ステ -
偽物の個人時代:その14(1,702字)
2023-10-26 06:00110ptこれからの10年で、「偽物の個人社会」は暴走する。いや、その暴走はすでに始まっているといっていい。
では、「暴走」とは具体的にどのような事象を指すのか?
ぼくは、それが端的にあらわれているものに「婚活」があると考えている。また、その先の「家」さらに「子育て」が暴走している。つまり、夫婦や家族を巡る状況が、混沌とし、混乱をきたしているのだ。
おそらく、偽物の個人時代において、あるいは本物の個人時代においても、最大の懸案となるのは「家族」だろう。家族の扱いをどうするのか――というのが問われざるをえないのだ。
そして、偽物の個人時代と本物の個人時代の違いは、「偽物」の方が古い家族観を引きずっているのに対し、「本物」の方は新しい家族観を構築しているということである。その意味で、新しい家族観の構築こそが、本物の個人社会の到来に欠かせない要件ということになるだろう。
ただ、いずれにしろそれはまだ先の話 -
偽物の個人時代:その13(1,683字)
2023-10-19 06:00110pt団塊ジュニアは今、急速に自信を失い始めている。きっかけは「子供たち」だ。自分たちの子供世代であるα世代を見て、長年保持してきた強固な自信が揺らぎかけているのだ。
しかしながら、それはまだ表面化していない。つまり、意識できていない。彼らはまだ、意識の上では自信がある。しかし、深層の無意識のところで、自信が微妙に揺らぎ始めているのだ。
なぜかというと、Z世代が社会に出て、α世代が成長するに連れ、言いようのない不安を覚え始めたからである。その不安とは、「自分たちの教育が間違っていたのではないか」という疑念だ。特に、「子供を支持し、応援する」という教育方針に、拭いがたい疑義が生じ始めている。
最近、ネットはもちろんリアルでも、ホワイト化社会に対するバックラッシュが起きている。つまり、ホワイト社会、リベラル社会を否定する、昔ながらの考えを持つ人が増えてきた。特に子供に対して、「もっと厳しく躾けるべき -
偽物の個人時代:その12(1,769字)
2023-10-12 06:00110pt2020年代は偽物の個人時代が花盛りだ。その中心はいうまでもなく「団塊ジュニア」である。特にネットに跋扈して日がな何かを燃やし続けている団塊ジュニアたちだ。
今、ジャニーズ事務所が大炎上しているが、その火つけ役の中心にいるのが団塊ジュニアである。性加害被害者の中心的なメンバーが団塊ジュニアだし、ジャニーズ事務所を非難する人々も団塊ジュニアだ。あるいは、ジャニーズを擁護するオタクたちでさえ、団塊ジュニアが中心である。この炎上騒ぎは、敵も味方も彼らの世代を中心に回っている。
そんなふうに団塊ジュニアは今、社会の中心にいる。ちょうど40代である彼らは、まだまだ体力があるし、気力も漲っている。だから、さまざまな社会や組織で、中心的な立場にいる。そうして、知らず知らずのうちに文化や価値の方向性を決定づけているのだ。
そうして、今のこの「偽物の個人時代」の主役も、また彼らということになる。団塊ジュニア -
偽物の個人時代:その11(1,793字)
2023-10-05 06:00110pt団塊ジュニアの親である団塊世代は、バブル崩壊で大きく挫折した経験を持ち、また「子育ても上手くいかなかった」という感慨を持っているので、自信を失っている。だから、就職や結婚をしない団塊ジュニアには強く出られないケースが多かった。
また、団塊ジュニアはその逆に、最近まで自信を持っている人が多かった。それは、子供時代はまだ自信のあった親に厳しく育てられたからだ。そこでさんざん抑圧され、「自由になりたい」と思いながら育った。
ところが、思春期になってバブルが弾けると、親が自信を失ったため、いきなり解放され、自由になった。そして、それに強い快感を覚えた。
これが、子供のときから自由だったら、状況は大きく違っていただろう。彼らは、思春期になって初めて自由を勝ち得た。だから、必要以上に自由を尊ぶようになったのだ。
また、彼らはそれを「自分で獲得した」と錯覚した。本当はバブル崩壊の副産物に過ぎないのだが、 -
偽物の個人時代:その10(1,763字)
2023-09-28 06:00110pt今の時代の流行哲学は、「人生を楽しく、賢く生きる」というものだ。そして、それを第一に実践しているのが今の若者である。今の20代だ。Z世代からα世代にかけてである。
そして、そんな若者を指示・肯定・絶賛している大人たちがいる。それは、今や大人の中の最大ボリュームともいえる「団塊ジュニア」だ。
団塊ジュニアの親である「団塊の世代」は、今や平均寿命にさしかかってかなり減ったため、発言権も自ずから小さくなった。おかげで、次のボリュームゾーンである団塊ジュニアが、今や最大勢力の時代となった。
そんな団塊ジュニアが、Z世代やα世代の生き方を肯定している。Z世代やα世代は、団塊ジュニアから見れば自分たちの子供世代に当たるが、だから応援しているというわけではない。歴史的には、親と子の世代は反発することが少なくない。団塊ジュニアとZ世代、α世代が異例なのだ。
ではなぜ団塊ジュニアが自分たちの子供世代を肯定す -
偽物の個人時代:その9(1,721字)
2023-09-21 06:00110pt団塊ジュニアの多くは、「自分は特別な存在」と思って育った。親からそう教えられたからだ。それで、その考えを補強してくれる『世界に一つだけの花』が好きになった。そういう人が多かったから、この歌は大ヒットした。
しかし、この歌の末路が今、どういうふうになっているかは誰もが知るところであろう。作詞・作曲の槇原敬之氏は麻薬中毒から抜け出せず、二度目の逮捕をされるに至った。歌ったSMAPは日本国中を巻き込んだ解散騒動の末、今またジャニーズ事務所そのものが崩壊の危機に瀕している。
槇原敬之氏もSMAPも、そしてファンたちも、団塊ジュニアだった。そのため、彼らのマインド(哲学)は一種の宗教的結束を生み出し、この歌の大ヒットへとつながった。
しかしそれは、2020年に轟音を立てて砕け散った。それは、花がしおれるようなひっそりとした死ではなく、ダイナマイトが爆破したような、あまりにもド派手な死だった。それもま -
偽物の個人時代:その8(1,779字)
2023-09-14 06:00110pt今の時代の「新しい哲学」を考えてみたい。
新しい哲学のベースとなる、新しく進行している「社会の価値観」は、「メリトクラシー」と、それと合わせ鏡の「教育限界説」だ。今、能力主義社会は加速する一方だし、平行して「教育が機能しない」という考えも徐々に広まりつつある。
これの面白いのは、ほとんどの人が意識していないところだ。メリトクラシーは空気のように当たり前のこととなっていて、誰も進行していることに気づかない。一方「教育限界説」は多くの人にとって受け入れにくいことなので、無意識のうちに無視されている。
しかし現実は、両者の進行が著しい。特にアメリカの先端企業では、メリトクラシーはもちろん、教育限界説も常識になりつつある。アメリカの先端企業を代表する人物のひとり、ピーター・ティールは、学生に奨学金を出す条件の1つに「大学を辞めること」を挙げている。大学に行くと、時間とチャンスを無駄にしてしまうから -
偽物の個人時代:その7(1,795字)
2023-09-07 06:00110pt「哲学」というのは、学問ではあるが、歴史の中で「発展」するというよりは「変化」するものだ。文学にも近いが、必ずしも新しければ素晴らしいというわけではない。
普通、学問というと化学や物理、あるいは数学などのように、昔に比べ今の方が各段の進歩をしたものと思いがちだ。しかしこと哲学に限ると、この公式は全く当てはまらない。むしろ、廃れたかに見えた古いものが、鮮やかに復活することもある。
いずれにしろ、哲学は時代の流れの中で流行り廃りがある。かつては流行っていたものの今は廃れてしまった哲学の1つに、パスカルの「人間は考える葦である」というものがある。
これは、今は知らないが、ぼくが子供だったときは当たり前のように学校で習った。そうして、子供たちの評判も上々だった。これを述べたパスカルは17世紀人なので、少なくとも300年間、人々をインスパイアしてきた。
ところが、そこから40年が経過した現代において -
偽物の個人時代:その6(1,482字)
2023-08-31 06:00110ptこれから世の中は、どんどん個人主義になっていく。個人でいることをだいじにする人が増えてくる。
そのとき、一番大きく変わるのは「住環境」だ。家族で住む、あるいはカップル(夫婦)で住むという形態が廃れ、一人暮らしが増えてくる。1人の自由な暮らし(生き方)を選択する人が増えてくる。
その際、多くの人が住む場所として選ぶのは「ワンルームマンション」だろう。アパートの場合もあるだろうが、マンションの方が他の部屋との隔絶度が高いため、より一人暮らしを満喫することができる。
そうなると、ワンルームマンションの需要はどんどん増えてくる。もちろん、ひとりで一戸建てに暮らしてもいいのだが、これはしてみると分かるが、なかなかに不便なものだ。広すぎで隅々まで目が行き届かなくなる。特に掃除が行き届かなくなる。
家は広すぎてもまた不便なのである。そのため、一人暮らしをするとき、一戸建てをチョイスする人はそうそう現れな
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