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なぜ佐賀はロマサガとコラボするのか?――佐賀県知事・古川康が描く地方自治体の未来像 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.069 ☆
2014-05-13 07:00220pt
なぜ佐賀はロマサガとコラボするのか?佐賀県知事・古川康が描く地方自治体の未来像
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2014.5.13 vol.69
http://wakusei2nd.com
今朝の「ほぼ惑」には、佐賀県知事・古川康氏が登場。近年話題を呼んでいる「ロマンシング佐賀」などの独自の広報戦略が一体どういう意図から生まれているのか、宇野が知事と話し合った。
多くの地方自治体が、広報戦略・町おこし施策としてゆるキャラやB級グルメの成功事例に後追いする中、独自路線で存在感を示しているのが佐賀県だ。
スクウェア・エニックス社「サガ」シリーズとのコラボレーション企画「ロマンシング佐賀」をはじめ、宝島社との共同事業「かわいいものラボ」、代々木上原のグラノーラ専門店との商品開発など、さまざまな企業やブランドとコラボすることで、佐賀県の名とその地産名産をPRしている。さらに、今年2月末から3月にかけて猪子寿之氏率いる「チームラボ」の国内初の大規模展覧会を、佐賀県内4つの美術館・博物館で開催し、成功を収めた。
停滞・萎縮する東京のカルチャーシーンへ、カウンターのように……というほどの力みもなく、それでいて大きなインパクトを与える佐賀県の取り組みは、宇野にとっては「驚き」でもあり、そして、「希望」にも映る。なぜ、佐賀県がこうした異色のプロジェクトを次々と打ち出せるのか? その意図は? プロジェクトを牽引する古川康・佐賀県知事に話を聞くべく、宇野は東京・南青山にある佐賀県のプロデュース・オフィス「FACTORY SAGA(ファクトリー サガ)」を訪ねた。
▼プロフィール 古川 康〈ふるかわ・やすし〉
1958年佐賀県生まれ。1982年自治省入省。同省初の沖縄県庁派遣や、長野県庁の仲間と書いた「現代信州の基礎知識Hamidas」がベストセラーになるなど、どこにいても「地域とともに」行動。「誰にも負けない佐賀県好き」が高じ、2003年佐賀県知事に就任。現在3期目。2013年9月には全国の自治体に先駆けて「恋チュン佐賀県庁Ver./AKB[公式]」を発表。2014年2月には県内4か所を巡るチームラボのデジタルアート展を開催。
◎構成:鈴木靖子
■“検索される”ということ
宇野 東京の文化空間というのは、震災以降、すっかり「これをしたい!」「こんなものを作りたい!」という気持ちを失ってしまっていると思うんです。少ないパイを奪い合うために、他人にダメ出しばっかりしている。正直、かなり空気が悪い。一方、最近の佐賀県の文化施策、広報戦略は、どう見てもかっ飛ばしている(笑)。人によっては、かっ飛ばしすぎと見るかもしれません。
でも、地方自治体が、文化空間にプレイヤーとして勢いよく乗り出してきてくれたというのは、僕にとっては久々にワクワクする出来事でした。
古川 佐賀県として、売って行きたいモノやコトはもちろんあります。そうしたときに、最近の自治体が代表的にやっていることはアンテナショップとゆるキャラで、ご多分にもれず、我々もやってみようかと検討を始めたんです。しかし、中間報告で、「アンテナショップは果たして、面白いんだろうか?」という意見が出たんです。固定的な場所に店を構え、お客さんを待つのではなく、むしろ、知ってほしいモノを知ってほしいヒトに向かって、飛び出して行くほうがいいのではないか、と。
そこで出てきたのが、自分たちが気になる媒体、気になるショップ、気になるヒトと一緒にやっていこうというアイデアで。それが、「サガシリーズ×佐賀」「宝島社×佐賀」「チームラボ×佐賀」となったわけです。
自分たちのモノを売っていくのに、自分たちの力だけではなくて、世の中に存在する何かと一緒にやっていく、こちらから飛び出して行くという手法・戦略は、他の自治体がやろうとしていることとは少し違うかもしれませんね。
宇野 佐賀県の広報戦略を見たとき、まず、思ったのが「これは検索されるな」ということなんですよね。実際、「ロマンシングサガ」をキーワードに検索すると、「ロマンシング佐賀」が上位に出てきますし、「チームラボ 展覧会」でも同様です。佐賀県がアンテナショップをオープンさせたり、ゆるキャラを作ったりしても、その情報にたどりつく人は、もともと、なんらかの形で佐賀県に関心のある人じゃないですか。
でも、インターネットにより情報へのたどりつき方は大きく変わっていて、一方的に「自分たちはいいモノを持っています」ということをアピールするより、何か別のものと関わっていくことのほうが、圧倒的に多くの人々の心に刺さっていく。
古川 「待つ」のではなく、「出ていく」ことで、佐賀県のことを探していない人の目にも届く、気になる存在になるということを目指していましたので、宇野さんにそう言っていただけるとうれしいです。我々がやろうとしていたことが、いい形で表現できているのかなと自信にもなります。
宇野 僕は親が転勤族だったので、青森で生まれ、長崎、千葉、北海道に暮らし、大学時代は京都で過ごしました。こうした背景もあって地方には非常に関心があるんですが、地方自治体の町おこしの話になると、どこか胡散臭さを感じるというか、うんざりした気持ちにさせられてしまうんです。
そこで語られる物語というは、地域に根ざした伝統文化があって、数は少ないけれど意識の高い若者が懸命にコミットしてきて、地元のおじいちゃんやおばあちゃんとの間に心の交流が生まれて……といった「いい話」ばかり。こうした「いい話」は大事にしなくてはいけないとは思いますが、100回やったうちのひとつの成功例をドヤ顔で紹介しているだけのような気がしてならないんです。行政システムの無力さを個人の努力で頑張りましょうという、撤退戦にも見えてしまう。
■「コンパクトは力」
古川 チームラボの「チームラボと佐賀 巡る!巡り巡って巡る展」は、そんな大々的な宣伝はしなかったのですが、自然と人が来ていましたね。意外にもチームラボの大規模展覧会は国内初ということで、猪子さんはじめ、チームラボに関心がある人が集まってくれたのだと思います。
宇野 あの展覧会は東京の美術シーンに対しても影響を与えたはずですし、また、既存の王道アートの文脈には属さないけれど存在感を示している人たちには勇気を与えたと思います。理解ある自治体にコミットするという方法や可能性を示したわけですから。同時に、自治体で同じような文化振興策に携わっている人は、激しく嫉妬したでしょうね。
▲「チームラボと佐賀 巡る!巡り巡って巡る展」内部の様子。
古川 地方自治体の美術館は地元出身者の画家の作品を所蔵し、泰西名画的なものを何枚か並べておけば、その目的と役割は果たしているといった時代がありました。その後、自治体も予算もなくなり、それすらも期待されなくなって、自治体の文化関係者というのは正直、冬の時代が続いていましたからね。
でも、これまでの流れとはまるで関係ないところで、「これ、いいよね!」というものを提案し、それが形になるというのは、とても、自由なんですよね。
宇野 自由ですし、佐賀県という自治体がある種の審美基準を示したことでもある気がします。地方で30代の存命の作家の特集を、あれだけの大規模で行うというのは通常、考えられない。ある意味、異常なことだと思う。しかし、異常なことであるがゆえに、佐賀県はこういったものを面白いと思っています!という審美基準を示すことになった。これは大きなインパクトですよ。
僕たちは、どうしても東京でしか文化がやれないと思っているところがあります。代理店やテレビのキー局、出版社も9割が東京にあり、地元アイドルだって、結局、目指すゴールは東京のテレビへの出演です。中央のメディア業界、中央のカタカナ業界で存在感を示さなければ大きな文化活動はできないという諦めムードが前提としてあるなかで、中央とは違う価値基準を地方から示すこともできるということを証明したわけですから。
古川 「ユニバース」ではなく、「マルチバース」とでも言いましょうか、唯一の価値基準があるわけではないよというのをひとつ、我々は示し得ることができたんでしょうね。
宇野 こういう言い方をすると失礼かもしれませんが、マーケットとは距離を置く自治体だからこそできたとも思いますし、佐賀県くらいの規模だからできた、とも言える。東京や大阪では、組織が大きすぎて逆にできない。大きすぎても小さすぎても難しい。
古川 誰かが提案し、「では、やってみようか」という判断を下し、実行するまでの距離感、現場の考えと決定する人の距離は非常に短いというのは、強みだと思います。あと2人くらい余分な管理職が間に入っていたら、難しかったかもしれません。「チームラボ? そんなの聞いたことねえよ」とか「デジタルって、コピーじゃねえか?」とか、言いだす人がいたかもしれません(笑)。
宇野 言いそうですね(笑)。
古川 中間に介在する人がいないくらいの組織だったからできた。コンパクトは力なんですよ。
宇野 「コンパクトは力」っていいですね。話がちょっと大きくなりますが、ルネッサンス期の頃の芸術家って、都市のその土地を実効支配するお金持ちが彼らを守り育てていたわけですよね。僕が自治体の文化施策に期待するのはそのイメージなんです。佐賀県のような動きが広がり、東京のカルチャーシーンの一極支配に対して、何か、オルタナティブな、別の新たな選択肢が生まれていくと、僕みたいな仕事をする人間にとっては非常に心強い。
古川 そう言っていただけると、僕みたいな仕事をしている人間は非常に心強い(笑)。何か決まった価値基準の中に序列が生まれるのではなく、序列では評価し得ない部分もちゃんと「こっちもいいよね!」と声を出していく。それは、東京を頂点とする価値基準からすると、「地方でもできる」となりますが、そこから外れたところでやると、「地方だからできる」になる。
宇野 その「地方だから」になっているところが素晴らしいと思うんです。東京とは違うロジックで、佐賀県“だから”という部分で動いていて、だからこそ、「佐賀県で文化をやる」ということの意味が出てくる。さらに言うなら、伝統文化の保存に留まらず、リアルタイムのカルチャーに対し介入の意思があるということを自治体が示すということは、将来、文化をやろうと思っている若者の希望になりますから。
古川 実際、やっている側からしても、まさに新しいいろいろなものが誕生している現場に立ち会っている感じがしています。
宇野 どうやって地方を盛り上げていくのかを皆、一生懸命考えているんですが、文化の役割というものを過小評価している気がします。今あるリソースをどう活かすかということばかりを考えていて、新しく何を作るのか?に思いがいかない。
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