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記事 13件
  • 糸子のために――『カーネーション』宇野常寛コレクション vol.2 【毎週月曜配信】

    2019-12-09 07:00  

    今朝のメルマガは『宇野常寛コレクション』をお届けします。今回取り上げるのは、2011年に放送されたNHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』です。主人公・糸子は、父との闘争や想い人との離別を乗り越え、いかに自己実現を成し遂げたのか。名作『おしん』と対比しながら、旧来の「母」でも「家長」でもない、新しい時代の母性像について考えます。 ※本記事は「原子爆弾とジョーカーなき世界」(メディアファクトリー)に収録された内容の再録です。
     ここ一カ月、生活が不規則になってめっきり朝に起きられなくなった。今日も明け方に、事務所のソファで仮眠を取っていたら気がつくと出勤してきたスタッフに起こされていた。時計の針は午前11時を指している。勤め人たちがランチに出ると混んでしまうので、急いで寝ぐせ頭を適当に直し近所のパン屋に出かける。イートインで朝食のような、昼食のような気持ちでサンドウィッチを胃に流し込む。この気だるさは、悪くはない。しかしどうにもしっくり来ない。最近、ずっとこの調子だ。全身に力が、どこかで入りきっていない。この状態は何だろう、と僕は考える。事務所に戻って仕事をしていると午後の12時45分、僕は不意に気づく。本来あるべきものがそこにはないことに。そうか、毎朝観ていたあの番組が終わってしまったからだ、とやっと合点がいく。毎朝会っていた「彼女」にもう会えなくなってしまったからだ、と改めて気づくのだ。そう、あれから一カ月、僕は糸子のことばかり考え続けている。小原糸子─NHKの朝の連続テレビ小説『カーネーション』のヒロインだ。  小原糸子は大正2年(1913年)大阪・岸和田の呉服店の長女として生まれた。物語は少女時代の彼女が、岸和田のだんじり祭りに胸を躍らせる朝からはじまる。しかし、糸子は大好きなだんじりを引くことはできないのだとその父・善作に諭される。理由はひとつ、それは糸子が「女」だからだ。そう、この物語は家父長制的な男性性との闘争の物語として幕を開ける。  糸子は成長する中で洋服に出会う。洋服は糸子に装うことの快楽を自由に謳歌することの素晴らしさを体現する存在だ。そして洋装店を開くという夢を抱き始めた糸子は、情熱の限りをぶつけて盲目的に突き進む。そしてそんな糸子の前には常に父・善作が立ちはだかる。善作は家父長制的な男性性の象徴として、糸子の自己実現の最大の障害として描かれる。  この物語の前半における男性性とは、善作が象徴する抑圧的な家父長制のことと言い換えてもいいだろう。そのため善作以外の登場人物の男性はすべて─幼馴染も、憧れの近所のお兄ちゃんも、そして夫となる人物でさえも─おそらくは意図的にその存在感を抑えられている。物語の焦点はあくまで糸子の「女だてらの」自己実現を、彼女がいかにしてその実力をもってして善作に認めさせるかという「戦い」に絞られているからだ。  そして、物語は戦争終結と同時にこれらの男がすべて退場(死亡)することでターニング・ポイントを迎える。もちろん、この退場劇の中で重要なのは父・善作の死だ。商売人として男性顔負けの実績を築いた糸子を善作はついに認め(屈服し)店を彼女に譲る。そしてふたりの長い「戦い」は終わりを告げ、娘と父が和解を果たしたその直後に善作は客死する。そんな善作の死に付随するように、戦地に招集されていた糸子の周囲の男たち(夫や幼友達)がことごとく戦死していく。しかし彼らの死は父の死の衝撃に揺さぶられる糸子にとっては、付随物でしかない。そして「男たち」を皆殺しにして、戦争は終わる。
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  • ファンタジーの作動する場所――『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る』宇野常寛コレクション vol.1 【毎週月曜配信】

    2019-12-02 07:00  

    今朝のメルマガは『宇野常寛コレクション』をお届けします。vol.1で取り上げるのは、AKB48の活動を追った2012年のドキュメント映画『DOCU MENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る』です。東日本大震災の爪痕の残る被災地で、自衛隊に見守られながら、ヒット曲を熱唱する少女たち――。震災とアイドルという2つの巨大なシステムが、虚構を介在せずに共存する光景から、2010年代の想像力のあり方を思考します。 ※本記事は「原子爆弾とジョーカーなき世界」(メディアファクトリー)に収録された内容の再録です。
     あの日からもう、一年が経った。2011年3月11日午後14時46分、後に東日本大震災と呼ばれる地震が列島を襲ったそのとき、僕はある仕事のために『大声ダイヤモンド』について考えていた。少女(アイドル)たちが、「僕」という(ファンたちの)一人称を用いて少年の片思いを歌う。主客の消滅した視点から、気になる娘がいるという気持ちそれ自体を、過剰なくらいにめいいっぱい肯定する。「好きって言葉は最高さ」と最後には三回繰り返す。この奇妙なねじれと、気持ちよさ(圧倒的な肯定性)についてぼんやりと考えていたとき、世界が揺れた。  あれから一年、僕が考えていることは大きく分けてふたつある。それはあの日に日本を襲った巨大な力が露呈させたもののことと、あのとき偶然考えていた世界を肯定する力、のことだ。一見、このふたつはまったく関係がない。しかし僕の中ではこのふたつは強く結びついている。いや、結びつけようとしている。僕はいつもつながらないはずのふたつ以上の対象をつなげて考えることで、まったく新しい別の考えが生まれてくる可能性に賭けている。それが「批評家的な」想像力の使い方だと僕は思う。  だから、今回取り上げるのは、この本来つながらないはずのふたつのものを強引に接続してしまった映画にしようと思う。『DOCU MENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る』──この春に公開された、AKB48の活動を追ったドキュメント映画だ。
     はっきり言ってしまえば、この映画はそれほどよくできたドキュメント映画とは言えない。構成は乱暴で、映像については凝った演出や表現はほとんどない。たとえば前半に挿入される横山由依の談話には何の必然性もなく、構成のバランスを欠く原因になっている(彼女が「2推し」の僕はとても嬉しかったが)。終盤は明らかに駆け足で、レコード大賞から紅白の流れは完全に描写不足であり、申し訳程度に尺を割くならいっそのこと割愛してしまったほうが良かったかもしれない。メンバー唯一の被災者である研究生・岩田華怜のモノローグはやや演出過剰で興ざめに感じる観客も多かったはずだ。しかし、そんなことはもはや何の問題にもならない。なぜならば、この映画が結果的に映している「現実」それ自体が、あまりにも強い力を放っているからだ。  そう、この映画は間違いなく震災後に僕が接した表現でもっとも衝撃的なもののひとつだった。少なくとも、もっとも考えさせられたものではある。「Show must go on」という副題が添えられたこの映画のコンセプトは、単純かつ明快だ。それは震災(及びそれに伴って発生した原子力発電所事故)をAKB48それ自体と重ね合わせること、だ。共にもはや人間の手には制御できないもの、もはやコントロール不可能な圧倒的かつ自律的な存在として両者を重ね合わせること、それだけだ。考えようによっては、それはとんでもなく不謹慎なことなのかもしれない。しかし、この映画は躊躇いなくそれをやってのける。それも、極めて単純な手法で。この映画では冒頭から終幕に至るまで、ただひたすらAKB48のメンバーが被災地を慰問する場面と、(規模的、システム的に)もはや運営側の制御が行き届かなくなった結果次々と公演上でのトラブルやメンバーのスキャンダルが発生していく場面とが交互に映し出される。(そしてその間にメンバーの短いインタビューが挿入される。)たったそれだけで、観客は震災とAKB48という、本来は結びつきようのないふたつの存在を強引に、イメージのレベルで重ね合わせてしまう。もはや誰も制御できない圧倒的な運動、暴走するエネルギー、として。
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  • 紙飛行機を、明後日の方向へ飛ばせ――AKB48 10周年に寄せて(竹中優介×宇野常寛)【月刊カルチャー時評 毎月第4水曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.503 ☆

    2016-01-27 07:00  
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    紙飛行機を、明後日の方向へ飛ばせ――AKB48 10周年に寄せて(竹中優介×宇野常寛)【月刊カルチャー時評 毎月第4水曜配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.1.27 vol.503
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    ▲唇にBe My Baby Type D 初回限定盤

    今朝は先月12月8日に10周年を迎えたAKB48をめぐる、竹中優介さんと宇野常寛の対談をお届けします。「国民的アイドル」の座を手にした48グループが、21世紀型のコンテンツとして持続的に発展していくための条件とは? 元あん誰Pの竹中さんと、メディア論的な観点も交えつつ語り合いました。(初出:「サイゾー」2016年1月号(サイゾー))
    ▼対談者プロフィール
    竹中優介(たけなか・ゆうすけ)
    1977年生まれ。TBSテレビプロデューサー。『アッコにおまかせ!』のほか、NOTTVで放映されていたAKBの番組『AKB48のあんた、誰?』などを担当。
    ▼作品紹介
    『AKB48』
    言わずと知れた国民的アイドルグループ。2005年12月8日にグループとして初公演を行いデビュー、この12月で10周年を迎えた。現在ではSKE48、NMB48、HKT48ほか姉妹グループを含めた総称としても使われる。
    『月刊カルチャー時評』過去の配信記事一覧はこちらのリンクから。
    ■ AKB48はなぜ、ブレイク後も持続的に成長できたのか
    竹中 テレビ業界では、4~5年くらい前から「AKBも今年がピークで、もうブームは終わる」と言われ続けてきました。そう言われながらも結果この12月で10周年を迎えたわけで、それはやっぱりすごかったね、という見方が今は主流になっている感じがあります。
    宇野 もちろん一時期のような右肩上がりの空気があるとはお世辞にも言えないし、かつてのように社会にインパクトを与えることも少なくなっていると思うけど、これは停滞であると同時に、逆に安定しているともいえると思う。「来年一気に凋落する」なんて、誰ももう思ってないでしょう。
    竹中 AKBが生み出した「アイドル」というものの新しい生き方のシステム自体が発明で、そこでつかんだ地盤がしっかりあるから、メディア露出の量が多少増減しても、そう簡単にブレない力を持った。それが10年間で培ったアイドルビジネスモデルの強さですよね。
    宇野 それによって、いろんなものが変わりましたよね。まず、ライブアイドルという文化を完全に定着させたこと。それからいわゆるAKB商法以降、映像や音声というコンテンツ自体にはお金がついてこなくて、究極的にはコミュニケーションにしかお金はつかないというのがはっきりしたこと。アイドルでいえば握手会がそうだし、フェスなんかもそう。情報社会下のエンターテインメントはコミュニケーション消費以外にないんだということを、AKBが最も大きく可視化させて、そして最も大規模に展開していることは間違いない。いまだに映像や音声にお金払っている人もどんどん「この人の人生を応援したいから買おう」という意識になってきている。
    竹中 「参加型」という点ですよね。昔はアイドル=メディアを通して見る遠い世界の芸能人だったのに、AKB以降、今宇野さんが言ったように「その人の人生を応援する」、つまりサポーターとして、人の人生に自分も参加しているという気持ちにさせるものになった。
    宇野 昔でいうと「タニマチ」という存在があって、地位も名誉もお金も得て満たされた人間が最後にハマるエンターテインメントって、赤の他人の人生を無責任に応援することだったわけじゃないですか。アイドルも、そういうある種の人間の本質に根差したモデルだけど、AKBほどそれをシステム化したものはほかにない。「アイドル」という他人の人生をエンターテインメント化するものに対して参加できてしまう、つまり他人の人生を左右できるシステムを、ゲームの中に組み込んでしまった。それは決定的なことだったと思う。
     AKBの存在のあり方というのは、今のライブアイドルブームの中心に10年間いるという以上の意味をおそらく持っていて、エンターテインメントや文化に関して日本人が持っていた前提のようなものをガラッと覆してしまったと思うんですよ。実際に僕がAKBについて語り始めた頃は「総選挙というのはこういうシステムで」とか「AKBとおニャン子クラブはどう違うのか」とか説明することから始める必要があった。でも今ではほとんどそういうこともなくなっていて、当たり前のことになっていった。それくらいこの10年間、特に後半の5年間で、AKBがエンタメの世界やカルチャーの世界を変えてしまった部分がある。
     ただその一方で僕が危惧しているのは、2011〜12年頃はAKB現象について語ることがものすごく需要があったのが、今はそうではなくなってきていることなんですよね。当時のAKB現象はいろんなものを象徴していて、それを語ることによって世の中で起こっているいろんなことを説明できた。例えば、インターネットが普及すると逆にライブや“現場”が大事になってくるというのはその後あらゆるジャンルで起こってくることで、AKBは先駆けだった。
     あるいは、ネットができると人々は自分が直接参加できるものじゃないと面白いと思わなくなってくるということや、作家が作り込んだ虚構よりも、実際に起こっている面白いことを検索するほうが早いというのもそう。今でこそそうした考え方は常識になっているけれど、日本においてはAKBがどんどん可視化させていったものであることは間違いない。今までの10年間は、AKBというものが成立しているだけで世の中にインパクトがあった。
    竹中 でも今やそういうことをやってきたAKBがスタンダードだと認識されてしまっているから、同じことをAKBがやっていても、攻めの姿勢があるようには見えなくなってしまっている。
    宇野 それは“勝った”がゆえの悩みなんですよね。いろんな障害をはねのけて彼女たちは勝った。それゆえに今批判力を失っている。でも僕は、自分で言っておいて変な話だけど、この10年はそれでよかった気もするんですよ。ただこの10年は勢いに任せて領土を拡大し続けてきたわけで、その後占領した場所の運営の仕方なんて考えてこなかった。それをサステナブルな仕組みに変えていくことが、次の10年では必要になってくる。
     僕はそこで一番大事なのは、優れたOGを安定して出していくことだと思う。AKBはよく宝塚と比較されるけど、宝塚のブランドイメージを強化しているのは天海祐希や黒木瞳とか、古くは八千草薫のような卒業生の存在でしょう。

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  • 【緊急対談】「松井玲奈とSKE48の8年間」吉田尚記・宇野常寛が語る松井玲奈の卒業 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.398 ☆

    2015-08-28 07:00  
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    【緊急対談】「松井玲奈とSKE48の8年間」吉田尚記・宇野常寛が語る松井玲奈の卒業
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.8.28 vol.398
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    (画像)松井玲奈さんが表紙を務めた『PLANETS vol.7』(2010年発売)より 

    今日は、SKE48を卒業する松井玲奈さんをテーマに、アナウンサーの吉田尚記さんと宇野常寛の対談をお届けします。ラジオ番組「ミューコミ+プラス」の舞台裏で見せた松井玲奈の知られざる素顔。また、SKE48での8年間の活動の中で彼女が果たした役割と卒業後の可能性について論じました。
    ▼対談者プロフィール
    吉田尚記(よしだ・ひさのり)
    1975年12月12日東京・銀座生まれ。ニッポン放送アナウンサー。2012年、『ミュ〜コミ+プラス』のパーソナリティとして、第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞受賞。「マンガ大賞」発起人。株式会社トーンコネクトの代表取締役CMO。おそらく史上初の生放送アニメ『みならいディーバ』製作総指揮。2冊目の著書『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)が発売3ヶ月で累計12万部(電子書籍を含む)を越えるベストセラーに。マンガ、アニメ、アイドル、落語など多彩なジャンルに精通しており、年間数十本のアニメイベントの司会を担当中。ラジオ、イベントを通して、年間数百人の声優・アニメクリエイターにインタビューしたり、アニメソングのDJイベントを自ら企画・主催したりしている、世界で一番幸せなアニメファン。
    アマゾン著書ページ http://www.amazon.co.jp/-/e/B0041LAHFW
    Twitterアカウント @yoshidahisanori
     
    ■ 突出したラジオパーソナリティの能力
    宇野:今日はよろしくお願いします。玲奈ちゃんのことを話すなら、相手はよっぴー以外にいないだろうということで。
    吉田:でも、松井玲奈歴で言うと、宇野さんの方が長いですよね。
    宇野:僕は最初に好きになったアイドルがAKBで、『マジすか学園』でいっぺんにハマったんです。『マジすか学園』ってストーリー的には完全にヤンキー漫画のパロディで、今にして思うと、当時のAKBの比喩になっているような、気の利いたあてがきをしていたんだけど、そういうことは素人はわからないんですよ。ただ、演技は素人の女の子たちがものすごくマジでやってるのは伝わる。しょうもないドラマだけど、それを信じられなくらいみんな本気でやっていて、ドラマというよりはむしろドキュメント的な魅力に掴まれてしまった。ああ、アイドルってこれが魅力なんだなってはじめて気づいた感じで。
    その中で一番いいと思ったのが、松井玲奈のゲキカラの回だったんですね。あんな化学反応が起きるとは誰も予測してなかった。アイドルってああいう奇跡が起きるんだってことに僕は衝撃を受けた。あれに僕は一発でやられて、当時編集していたPLANETSっていう雑誌の7号の表紙をお願いしたんです。撮影は恵比寿のマジックルームっていう、今はなくなっちゃったんですが、若いアーティストたちが、色んなドローイングをしているアートスペースで、特に二次元のキャラクターをモチーフにした作品が多かった。彼女はアニメが好きだから、二次元のキャラクターたちと三次元の松井玲奈っていう対比で撮ってもらって。だから、僕のアイドル入門は松井玲奈だったんだよね。
    吉田:僕はアイドル自体はもう20年追っかけてるんですけど、AKBを見たのは、2005年の始まった直後にライブで番組を告知をするって話があって、そのときに秋葉原のドンキホーテで観たのが最初なんですが、ほとんど印象に残ってないんですよね。
    それから5年くらい経った2010年に、渋谷公会堂で「アイドルユニットサマーフェスティバル2010」というイベントの司会の仕事があって、bump.y、スマイレージ、SKE48、ももいろクローバーが出演したんですよね。ちなみに、当時のももクロは、「スマイレージだー!」ってはしゃいで写真撮って喜んでるような状態でしたね。たった5年でこんなにも変わるもんなんだなって、色んなことを考えさせられますが。
    そのイベントでは、出演4グループのパフォーマンス的にはももクロとスマイレージの一騎打ちに近い状態でした。その時点でも松井珠理奈と松井玲奈って子がいるんだ、くらいの認識でしかなかった。
    で、次はもう「ミューコミ+プラス」の月曜のアシスタントで来るって話になってて、その時は『マジすか学園』も何も、ほぼ見てないという状態。「まあ、普通に受け止めてみようか」っていうところがファーストコンタクトですよ。で、そこからはもうひたすら「すげぇなぁ」のオンパレードっていう。
    今までラジオパーソナリティとして、色んな人と一緒に仕事をしてきたけど、その中でも1位2位クラスの実力がある。ラジオパーソナリティで重要なポイントは2つあって、1つはものを良く知っていること。これはダントツに重要。もう1つが、これはエモーショナルな部分ですが、イージーに泣かない。これが長く活躍する人が備えている条件なんですよ。そういう意味で言うと、20代でこの両方を満たしている人って、男女共にほとんどいない。30代40代でも少ないくらいで、彼女がまだ24歳ってことを考えると、驚きのスペックですよ。
    宇野:単に上手いんじゃないんですよね。なんだろうね。ラジオならではの距離感をつかんでる感じ。AKBのオールナイトニッポンって裏番組が強いせいで、担当ディレクターからよく意見を求められるんですよね。以前僕が提案したのは、パーソナリティを一人にして、そこにゲストが来る方式にしないと駄目だと。そして、今のメンバーでそれに耐えうるのは指原と松井玲奈しかいない。つまり、「指原莉乃のオールナイトニッポン」もしくは「松井玲奈のオールナイトニッポン」以外ありえないって言ったんですよね。だから卒業発表の時のオールナイトで、玲奈さんの一人語りだけで2時間が実現したときは複雑な心境だった。やっとこれが聴けた、と思ったら卒業(笑)。もちろん、松井玲奈とラジオの関係は続くわけだけど……。
    吉田:これはラジオの不思議なところなんですが、覚悟が決まっている人じゃないと聞いてて面白くないんですよ。ラジオに出ること自体は覚悟がいることでもなんでもないんですけど、その人が最終的に追い詰められたとき、こうやって生きていくと決めてます、みたいな感じが出ているか、そういう腹のくくり方が見えてしまうんですね。
    ■「ドルオタなアイドル」の第一世代として
    宇野:実は僕がアイドルのファンになりたての頃に、なんとかしてアイドルを語るロジックを自分の中に構築しようと思って、現代的なアイドルに必要な三要素みたいな感じで三角形を書いていたことがあるんですよね。
    ひとつは、自分はこういうキャラクターだ、と自分から演じる女優的な能力で、もうひとつが逆に自分では自覚していないキャラを発見されて、それを打ち返していく能力。これがアイドル的な能力の核だと思う。そして三つ目がファンとの接触の能力、要するに握手会やSNSを通じて関係性を構築する能力ですね。松井玲奈はこの三要素をすべてを兼ね備えてる、ゆえに神である。みたいなロジックを考えていて。だから「松井玲奈こそ完璧なアイドルである」みたいな論陣を強く主張していた記憶がありますね。
    吉田:彼女について、「孤高」とも言われてるじゃないですか。人見知りで、他のメンバーとも積極的にコミュニケーションしないと。でも、うちの番組に来ると延々しゃべって帰るので、そういう姿を見たことがないんですよね。だから、SKEのドキュメンタリーを見た時にビックリしたんですよ。あまりにイメージと違って。世間のSKEファンが見ているのはこっちの姿なのかと。乃木坂やSKEを観に行くと、全然違うなと思いますもん。うちの番組では笑ってるイメージしかない。多分すごく珍しいんでしょうね。
    宇野:僕も何回か個別握手会に行ったことがあるんですけど、あれはかなり無理をして、自分の能力をフル活用しながら神対応やってるんじゃないかって思ったことが何度かあった。SKEって握手会はくらいついていくものって文化があると思うんですけど、松井玲奈は頭をフル回転させて話題を補うタイプの握手なんですよね。1枚10秒のサッと流れるような握手に、なんとか話題が途切れないように自分から言葉を足していく。こんなことやっててどこかで擦り切れないのかなって思っていたら、本当につまづくことなく昇りつめて行った。だからこういうこというのもなんだけど、松井玲奈って、僕が推し始めた頃よりもすごく成長してる。
    吉田:自身がアイドルオタクで、デビュー前から自分は芸能界に入るものだと思っていたっていう話をよくしますよね。だから、自分がやってることに対してビックリしてないんですよね。アイドルとはこういうものであり、こういう風になるためにはこうっていうルートを辿るってことが、なんとなくわかってる。
    宇野:松井玲奈って、オーディション受ける前からAKBが好きで入ってきた最初の世代で、その中で最初にトップクラスの超選抜に入った。ユーザー側から出てきたアイドルなんですよね。僕らオタクの分身としてのアイドルっていうのは、今やアイドルのキャラとしては鉄板になってるけど、それを最も大きい舞台で、しかもかなり早い時期に実践した先駆者だと思うんですよね。
    吉田:この間、中川翔子さんがゲストに来てたんだけど、玲奈ちゃんがえらい緊張してテンションあがってたんですよね。「中川さんを見て芸能界に入ろうと思った」って話を本人にしてたんですが、彼女はこういう話を絶対に安売りしない。本当に中川翔子にあこがれて芸能界入りして、その事実を具体的に説明できる。そういうところに誤魔化しがないというか、アイドルが全方位から検証される存在であることが身に染みてわかってるんですね。やっぱり覚悟のあるアイドルなんだと思いますよ。
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  • 【特別対談】高橋栄樹×宇野常寛 『DOCUMENTARY of AKB48 The time has come 少女たちは、今、その背中に何を想う?』を語り尽くす ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.126 ☆

    2014-08-01 07:00  

    【特別対談】
    高橋栄樹×宇野常寛
    『DOCUMENTARY of AKB48 The time has come 
    少女たちは、今、その背中に何を想う?』
    を語り尽くす
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2014.8.1 1vol.126
    http://wakusei2nd.com

    AKB48ほか数々のミュージック・ビデオを手がける高橋栄樹監督の最新作にして、監督としては3本目のAKBドキュメンタリー映画『DOCUMENTARY of AKB48 The time has come 少女たちは、今、その背中に何を想う?』が7月4日に全国公開されました。
    今朝のほぼ惑では、前2作とはまったく違うつくりとなった今作を観た宇野常寛が、高橋監督にその真意を聞きます。

    ▼プロフィール高橋栄樹(たかはし・えいき)
    ミュージック・ビデオ監督、映画監督。凸版印刷(株)映像企画部所属。AKB48の楽曲では「軽蔑していた愛情」「桜の花びらたち2008」「大声ダイヤモンド」「10年桜」「涙サプライズ!」「言い訳Maybe」「ポニーテールとシュシュ」「上からマリコ」「ギンガムチェック 高橋栄樹監督ver.」「永遠プレッシャー」などを演出。AKBドキュメンタリー映画の2本目と3本目、『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る』と『DOCUMENTARY of AKB48 No flower without rain 少女たちは涙の後に何を見る?』も監督した。他にMVを手がけたアーティストはTHE YELLOW MONKEY、ゆず、Mr.Children、明和電機など。
     
    ◎構成:稲田豊史
     
    ▼『DOCUMENTARY of AKB48 The time has come 少女たちは、今、その背中に何を想う?』は全国劇場にて公開中!
     
     
    ■正史を捨て、青春映画にしたかった
     
    宇野 『DOCUMENTARY of AKB48 The time has come 少女たちは、今、その背中に何を想う?』を観させていただきました。高橋監督が撮られるAKBのドキュメンタリー映画としては3本目になるわけですが、観客の誰もがまず感じるのは、ほぼ2014年に入ってからの内容だけでまとめてあることだと思います。
    高橋 映画として正式にゴーが出たのが2013年の10月くらいでした。もちろんそれ以前からカメラは回っていましたが、構成していくときに、自然に今年の出来事の比重が多くなっていったきらいはあります。製作委員会の話し会いでも、昨年末から今年にかけての大島優子の出来事を中心に作っていこうという結論に至りました。
    宇野 いつぐらいの段階でそういう方針になったんですか。
    高橋 国立競技場2日目の3月30日、大島優子の卒業セレモニーが荒天で中止になったあたりです。もともとは2013年と2014年の2回の選抜総選挙を映画の頭と終わりで挟む構成も考えていたんですが。
    宇野 結果、本編で選抜総選挙は伏流になりました。こんなに選挙の存在感がなかったドキュメンタリーは初めてです。
    高橋 総選挙の扱いって難しいんですよ。僕が撮った1本目、2011年の『〜Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る』(以下、2作目)のときは、総選挙のバックヤードには、ほとんどテレビ局クルーがいませんでした。だけどその後、年を追うごとにテレビ中継される場所も機会も増えていった。だから僕らが映画として公開するとき、総選挙の映像素材は、テレビで出尽くしちゃっているんです。つまり「観たことないもの」を映画に出そうとすると、まったく違うものを入れるしかない。
    宇野 その結果、ひとつの軸が大島優子の卒業、もうひとつの軸が岩手の握手会事件からのチームA公演、という流れになったわけですね。
    高橋 やっぱり国立競技場2日目のインパクトは大きかったですよ。誰も見たことがない顛末でした。あれを描こうとすれば、必然的に軸は大島になります。膨大な尽力と予算のかかっているイベントが目の前で中止になっていく過程を目撃した、見届けてしまった衝撃ですよね。メンバーの誰も、まさか中止するとは思っていませんでしたからね。それを大島優子という一人の目線から切り取ることができました。
    宇野 僕は、国立競技場にあれほど尺を割いていたのが意外でした。監督のプライベートな視線がかなり生きている気がします。
    高橋 今回、はじめて自分でカメラを回したんですよ。結果、完全に自分の視点で撮れました。観客ひとりひとりが、メンバーの隣にいるような臨場感を味わってほしかったんです。今まではどうしても全体を撮りたいがために引きの画が多かったけど、円陣にしたって、メンバーとメンバーの間から撮ったほうが、みんなと一緒に円陣を組んでいる気になるじゃないですか。そういうふうに彼女たちと一緒にいる感覚が、プライベートな視線ってことなのかもしれません。
    宇野 高橋監督が『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』(TBSラジオ)に出演されたときには、2作目が戦争映画、3作目(『NO FLOWER WITHOUT RAIN 少女たちは涙の後に何を見る?』2013年公開)が宗教裁判、と評されていましたが、今回は?
    高橋 青春映画にしたかったんです。今までMVのドラマシーンで作り上げてきたような、女子高内の人間的な支えあいみたいなもの。女子高にカメラが入った感じですね。
    宇野 たしかに、高橋監督がいつも撮っているPVの印象に近かったです。『ギンガムチェック』の長いバージョンというか。結果的にAKBを背負わされてしまった優子にエールを送りながら、不吉な予感を織り込まざるをえないという感じですね。
    高橋 今、ご指摘を受けるまではぜんぜんそう思っていなかったけど、言われてみれば『ギンガムチェック』ですね。
    宇野 しかし、今回は総選挙のエピソードが後退していることからも明らかなように、AKBの歴史を描くことを、ほぼ完璧に捨てましたよね。
     
  • 【完全版】高橋栄樹×宇野常寛 大林宣彦「So long ! The Movie」を語り尽くす ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 号外 ☆

    2014-06-01 07:00  

    【完全版】高橋栄樹×宇野常寛大林宣彦「So long ! The Movie」を語り尽くす 
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2014.6.1 号外
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    AKBファンのみならず映画好きの間でも物議をかもした、大林宣彦監督の問題作「So long!」。今朝はAKB48のドキュメンタリー映画やMVを多数手がけてきた高橋栄樹監督を迎えて宇野常寛とその魅力を熱く語り合います。3月に配信した内容に、内容を追加して【完全版】としてお届けします。
    AKB48ほか数々のミュージック・ビデオをはじめ、2本のAKBドキュメンタリーのメガホンを取った高橋栄樹監督が昨年10月、こんなツイートをして話題になった。“僕が思うAKB48最高のMVは、大林宣彦監督の「So long !」(全長版)”――。「So long !」は2013年2月20日に発売されたAKB48のシングルだが、大林宣彦が監督したMVの全長版は、AKBファンだけでなく、映画ファンや大林ファンの間でも物議を醸した超のつく問題作である。この「So long !」問題をぜひ語りたいと、高橋監督に熱いラブコールを送り続けたのが評論家の宇野常寛。そして、ついに対談が実現した。
     

    ▼プロフィール 高橋栄樹(たかはし・えいき)
    ミュージック・ビデオ監督、映画監督。凸版印刷映像企画部所属。AKB48の楽曲では「軽蔑していた愛情」「桜の花びらたち2008」「大声ダイヤモンド」「10年桜」「涙サプライズ!」「言い訳Maybe」「ポニーテールとシュシュ」「上からマリコ」「ギンガムチェック 高橋栄樹監督ver.」「永遠プレッシャー」などを演出。AKBドキュメンタリー映画の2本目と3本目、『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る』と『DOCUMENTARY of AKB48 No flower without rain 少女たちは涙の後に何を見る?』も監督した。他にMVを手がけたアーティストはTHE YELLOW MONKEY、ゆず、Mr.Children、明和電機など。
     
    ◎構成:稲田豊史
     

    ※こちらはショートバージョンとなります。64分の全長版は、シングルCDかMV集をお求めください。
     
     
    ■50ページの台本を3日で撮影した「So long !」
     
    宇野 高橋監督とはほんとうにお会いしたかったんです。「大声ダイヤモンド」も「10年桜」も「上からマリコ」も「ギンガムチェック 高橋栄樹監督Ver.」も大好きで……でも、今回こうして取材をお願いしたのにはきっかけがあるんです。それが先日、高橋さんがTwitterに書かれていた“僕が思うAKB48最高のMVは、大林宣彦監督の「So long !」(全長版)”という発言ですね。あれを見た瞬間に、もうこれは1度この「So long !」問題についてじっくり語り合う以外にないんじゃないかと思って、勇気を出してお願いしてみました。
    高橋 あれは、あのときわりと思いつきで書いただけなので、あんな反響があると思ってなかったです(笑)。
    宇野 「So long !」ってなんというか、ほんとうにヤバい映像だと思うんですよ。そもそも尺が64分もあるし(笑)、ほとんどのAKB48ファンは気づいていないと思いますけれど、その時点での大林監督の最新作の映画『この空の花 長岡花火物語』(12)の続編になっている。何の説明もなく、単館公開の超カルトムービーの続編が、何十万という単位でバラ撒かれている。この時点でとんでもないことになっている。そして、映像を見るとさらに凄まじいことになっているという……。
    高橋 僕はどうしても「So long !」を客観的に観られないところがあって……。ひとつには、僕はあの現場に参加していたからです。と、いうのは、ちょうどあのときAKB48のドキュメンタリー映画の3作目『DOCUMENTARY of AKB48 No flower without rain 少女たちは涙の後に何を見る?』を撮っておりまして。その撮影の途中で、今度のシングルは大林監督がミュージック・ビデオを撮るらしいというお話が聞こえてきたんです。それでこれは是非、現場を見学させて頂きたい! みたくなってしまって、ドキュメンタリーにかこつけて馳せ参じるしかないだろう、と(笑)。
     ただ、いくらこちらの思いが強くても、そうそう気軽に現場にはお邪魔出来ないだろうと思っていたところ、幸いにも大林映画のデジタル化という波に乗る事が出来まして(笑)。大林監督はご存知のとおり、『この空の花』から完全にデジタル撮影に切り替えられて、撮り方がフィルム時代からすごく変わったんです。全部で7台くらいのビデオカメラで芝居を同時に撮るという方法になっていたと思います。だからあのとき大林監督からは、機材はなんでもいいから、とにかくたくさんのカメラを揃えて、徹底的に撮って欲しいという指示を頂きました。しかも芝居を撮るだけではなくて、スタッフの映り込むメイキング的な場面も撮って欲しい、と。これだったら僕らドキュメンタリー班もお役に立てることはあるのかな、と思っていたら、撮影直前になってAKB48の映像プロデューサーである北川謙二さんから、「人手が足りないので、セカンド・ユニット的なかたちでカメラを回して欲しい」とご連絡頂いたんです。という事情で、MVをあまり客観的には観られないのが正直なところです。
    宇野 具体的にはどのシーンを撮影されたんですか?
    高橋 冒頭の雨が降っている田んぼで、珠理奈とまゆゆが会話しているところが一番多いと思います。大林組の名キャメラマンである三本木久城さんと、セカンドの僕と、ドキュメンタリーのステディカムの、ほぼ3台で撮っています。あと、ぱるるが出てくる、鯉の養殖の……
    宇野 鯉屋の娘なのに、名前があゆ(笑)。
    高橋 はい、そこです。
    宇野 しかしお話を伺うと、なんというか、なし崩し的にすさまじい現場に参加することになったんですね……。
    高橋 しかも、いつまでたっても台本が来ない。撮影の3日前になって、オールスタッフという全体の会議が催され、そこで初めて台本を頂きました。そのとき初めて、原稿用紙に書かれた台本が50ページ以上もあるのが分かったんですよ(笑)。通常、1枚1分という計算なので、50何ページだとすると……。
    宇野 恐ろしい。想像しただけで脂汗が出てくる。
    高橋 そうしたら大林監督が、「これを1週間で撮るのなら50ページはよくある話だけど、3日で撮るというのは、どういうことだと思いますか、みなさん?」と。当然、誰も答えられない。すると監督が「これはね、傑作ができるんです」とおっしゃった(笑)。端的に「すげえな」って思いました。すでに大林マジックが発動している。
    宇野 伝説だ……。
    高橋 まさにレジェンドです。それで、その50何ページかの台本を、ひとつずつ説明していかれるんですよ。「シーン○○。夢、私服。未来、私服。撮影場所、山古志。途中のここからグリーンバックで夢、制服に変わり、未来も制服に変わります」みたいな。“夢”“未来”が役名であることも、その場で初めて説明されました。まあ、ワンシーンの中にロケとグリーンバックが混在しているのもすごいんですけど、役名、衣装、ロケ場所、これが延々50ページにわたって説明されると、それだけで長岡(新潟のロケ場所)の夢と未来と、現実と幻想みたいな不思議な説話を聞かされているような、独特な催眠効果がありました。
    宇野 (笑)。仕上がった作品を観て、どう思われました?
    高橋 やはり圧倒的な映像のマジックを感じましたね。現場はある意味、複数のカメラが闇雲に芝居を撮影している節もなかったわけではありませんが、それが編集によってここまで構築されるのかと。合成ショットにしても、桜の布みたいなものを被って皆でわーっとみんなで走るところなんて、僕らが観客としてスクリーンで観てきたいわゆる大林調な画面なわけですけど、それがどのように作られるのかも間近で知ることが出来たし。貴重な体験でした。MV作品としては相当、変わっているとは思います(笑)。変わってはいるけど、ここまでやるともはや感動するしかないという圧倒のされ方。素直に感動しました。
     
     
    ■「So long !」はアニメである
     
    宇野 ところで高橋監督が「So long !」を“AKB48最高のMV”と評価する理由ってなんなんでしょう?
    高橋 震災と原発について、アイドルを通じてここまで言及した作品って他にないと思うんですよ。インディーズ映画ならまだしも、超メジャーのグループでここまでやる先進性に驚きました。僕もAKBドキュメンタリーの2作目、『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る』(12)のときに震災と被災地支援をテーマとしたのですが、原発の問題まではまだ未知の部分が多かったです。
    宇野 『傷つきながら、夢を見る』ではAKB48というグループを震災と原発と重ね合わせていましたね。どちらも、人間が自分の手で産み出したものでありながら、もう誰にも止められないものになっているということをAKB48の被災地慰問のシーンと、内部トラブルのシーンを交互に配置するだけで成し遂げてしまった。カメラに「映ってしまった」ものの力を編集で最大限に引き出した傑作だと思います。
    高橋 ありがとうございます。
    宇野 対照的に、大林監督は『この空の花』で、「戦争」と「震災・原発」を統合しようとしていましたけど、それって無理なんですよ。震災があると日本がバラバラになってしまう、瓦礫もみんな受け入れたがらないし、西日本の人は原発のことを忘れたくて仕方がない。東北の中でさえも、たぶん分裂がある。そうした状況下でもう1度、人々の心をひとつにしなければならない。そのために戦争の記憶を召喚しよう。それが『この空の花』ですよね。
    高橋 宇野さんは以前、「ダ・ヴィンチ」にも書かれていましたよね。「戦争」と「震災・原発」は違うと。
    宇野 戦後と現代とでは、そもそも名前も知らない人間同士が同じ社会を形成する「つながり」のしくみみたいなものが根本的に違うと思うんです。だから昔のように、大きな傷跡の物語をみんなで共有して心をひとつにしよう、という考えにはどうしても無理が生じてしまう。震災後の「絆」という言葉の空回りが象徴的ですけれど、今の世の中で大きな傷を共有しようとすると、むしろひとつの大きな物語に乗っかれない人々がたくさん出て来て、どんどん社会はバラバラになってしまう。大林監督はそれが分かっているので、なんとか物語の力で無理矢理にでもばらばらなものをひとつにつなごうとしていく。
     そして監督のこうした意図は物語面以上に、形式面や技術面に表れていると思うんです。この映画はなぜか『この空の花』の続編でもあり、長岡の観光ビデオでもあり、そして当然AKB48のMVでもある。つまりまったく異質な性格を持ついくつかの映像が無理矢理ひとつに統合されている。しかも技術的にも3台カメラ体制で撮ったバラバラの素材を、まるでアニメのようにつなぎ合わせて、無理矢理ひとつにまとめているわけですからね。
    高橋 しかもご自分でナレーションまでされている。
    宇野 『ふたり』(91)で、なぜかエンディングテーマを久石譲とふたりで歌っている、あれを思い出しましたよね。あのときも愕然としましたが(笑)。演出的にもかなり序盤からメタフィクションの要素が強い。冒頭からまゆゆがナレーションを読む姿が挿入されているし、画面上でもずっと生者と死者の世界が混在している。あのミッキー・カーチスの演じるおじいさんはどう考えても幽霊でしょう? ただ、監督がこうしたアクロバティックな手法を駆使すればするほど、むしろもう物語の力ではばらばらのものはひとつにまとまらないな、と逆に思ってしまって……。
    高橋 意図的に混乱や破綻を招いているとしか思えないですね。現場もそうでしたから。秋元康さんも、わりと意図的にお祭りのような混乱状況を設定して、その中でモチベーションや精度を高める手法を取ってらっしゃいますけど、大林監督の場合、もうちょっと監督自身の狂気に近いものを感じます。50ページを3日で撮る進行は、明らかに混乱が起こるわけで、大林監督はその混乱を楽しんでいるというよりは、混乱の渦中に自らも飛び込んで行かれているように思えました。
    宇野 映画というものは統合的なメディアだと思うのですが、この映画という枠組みの中であえて解離的なアプローチをすることで表現できるリアリティがあるというのが大林監督の決定的な演出哲学だと思うんですけど、AKB48というシステムもまた極めて解離的ですよね。簡単に言えば、単に自分の推しメンにしか興味ないやつがいっぱいいるし、推しメンや推しグループごとに見え方がまったく違う。そして、中心点があるようで、実はなく、たくさんのコミュニティや文脈が並行的に存在している。
    高橋 AKBの持っている、果てしなく中心がなくて、いろんなものが乱立していることと、「So long !」で登場人物が次々と紹介されていく映画の構造って、震災や原発の状況と近いですね。
    宇野 かつてのテレビのように中心から周辺に中央から「みんなひとつになろうよ」と物語を発信しても、むしろつながりを破綻させてしまうのが今という時代だと思うんです。そうではなくて、ばらばらのものを数珠つなぎのようにばらばらのまま、中心を持たない状態でつないでいくやり方じゃないと、大きな流れにはなっていかない。AKB48も少なくともある時期まではそうやって大きくなっていったわけですからね。
     
     
    ■完全に演技を捨てている? 大林作品
     
    宇野 「So long !」を観て改めて考えたのですが、大林監督が70年代からやってきたことって実は映画というものの行き先を考える上で、ものすごく大きいことではないかと改めて思ったんです。僕はいま映画って世界的に「アニメと特撮」になってきていると僕は思うんです。
    高橋 アニメと特撮?
    宇野 映画は今、カメラが撮ってしまったリアルなものを取り込むものではなく、演出家の意図したものだけが存在できる世界を表現するためのものになりつつあるということです。たとえば、岩井俊二からJ・J・エイブラムスまで用いている、意図的に「手ぶれカメラ」の映像を用いてライブ感を獲得した手法はもう、かつてのような威力をは持っていないと思うんです。なぜならば、僕たちはいま、YouTubeやUstreamで実際に「手ぶれ」しているリアルな映像を見ているからですね。偶然カメラが撮ってしまったものを活かす力は、インターネット上の映像の方が圧倒的に強い。その結果、映画にできることは作家の、演出家の意図したものだけが存在出来る純度100%の虚構を提供することだけになってきている。言い換えるなら、“動いているもの”を見せる表現だった映画は“止まっているもの”をつなぎ合わせてつくる表現に変化しつつあるということです。それがたとえば『アバター』や『ゼロ・グラビティ』であり、この10年興行収入の上位を占め続けているアメコミ・ヒーロー映画群である、と。これらの作品では演出家の配置したいものしか存在しない、完全にコントロールされた映像だからこそ表現できるものを追求しているわけですが、要するにこれはアニメ的、特撮的な表現の追求です。そして、大林監督は70年代からずっとそれをやってきた。今回の「So long !」もそう。グリーンバックの前に立って台詞を読んでいるメンバーと長岡の背景を合成してテロップを入れる、なんてほぼ美少女ゲームの画面設計ですよね(笑)。しかし、これが世界的にいま映画という表現が傾いている方向でもある。日本だと、中島哲也監督の『告白』(10)はそうですね。
    高橋 ええ、よくわかります。
    宇野 『告白』は完全に「止まっているもの」の編集でつくられた映画ですよね。カット割りは完全にMVで、音でしかつながっていない。カメラが偶然映してしまったものへの賭けとか、現場の「空気」が帯びる聖性とかを、監督がまったく信じていない。仮にそんなものがあったとしても、徹底して編集素材として監督の意図の元に再配置している。中島監督はもともとCMディレクターで、同じくCMをやっていた大林監督と経歴が似ていなくもない。僕は大林宣彦から中島哲也への流れを考えると、映画の本質がだんだんアニメに近づいていく歴史を国内映画の変遷から読み取れると思います。
     アニメ的なものが、日本に限らず、今の映像界でものすごい力を持っているし、クリティカルで大きな潮流になっていることを、「So long !」を観て思い出しました。いま映画的なものが置かれている位置がもっとも表れている映像が「So long !」なんじゃないかという気もします。
     別の言い方をすると、手ぶれカメラなのか、徹底的に編集してつくるかは、演技できない人をどう撮るのかというアプローチの違いでもあるじゃないですか。前者は、動いている対象をドキュメント的な手法で見せていく。後者は、演技できない身体を“止まっているもの”として扱い、編集でつなぐことで作品にしていく。
    高橋 「So long !」も、AKBメンバーを“止まっているもの”として捉え、あえて素材として再編集したものと言えますよね。
    宇野 別撮りした背景にグリーンバックで立っているメンバーがいる、なんてのは、まさにアニメや美少女ゲームを彷彿とさせる撮り方なんだけど、それを作者自身がナレーションで語ることによって強引につなげるという恐ろしいことをやっている。
     まゆゆは棒読みだし、メンバーも皆、渡されたものを読んでいるというのがバレバレで、そこにはナチュラルな演技なんて皆無です。役者に役柄を解釈させるとか、台本と役者の間にあるものをカメラが捉えるとか、そういったことをすべて捨てているんですよね。でも、それでも成り立っている。というか、むしろそうじゃないと成り立たない作品になっている。
    高橋 尋常じゃない感じもしますけど、それでもやりきっている。何か強引な説得力みたいなものが生じていて、それが侮れない。
    宇野 今回の「So long !」って、もちろんスケジュールとか外部要因もありますけど、演技で見せる作り方を捨てているじゃないですか。
    高橋 メンバーの芝居に関しては、そう思います。
    宇野 演技を捨ててほぼ編集で作品を成立させていた。「So long !」では、AKBという素材と、3日の撮影期間という環境的な制約のせいで、演技よりも編集で撮るという大林宣彦の本質みたいなものが、結果的に一番出てしまっているという気がするんです。
     
  • 誰が指原莉乃を倒すのか?――AKB48選抜総選挙上位80人を宇野常寛が徹底予想 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.071 ☆

    2014-05-15 07:00  

    誰が指原莉乃を倒すのか? ――AKB48選抜総選挙上位80人を 宇野常寛が徹底予想
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2014.5.14 vol.71
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    今朝の「ほぼ惑」では、いよいよ5月20日に投票期間に入る、AKB48選抜総選挙の順位を、宇野常寛が徹底予想します!さらに、イベントの見どころなどを語る総評も掲載しています。
    ■【総評】
     
    Q
    ズバリ、指原莉乃さんは史上初の連覇を達成するんでしょうか?
     
    A
     単純に順位予測をするのならさっしーの圧勝で終わるでしょう。それくらい今のさっしーは強い。もう、指原莉乃とそれ以外、と言えるくらいの状態にあると思う。単純に考えて、もはやさっしーは48Gの一番人気メンバーというレベルを超えていて、20歳前後の日本の芸能人の中でトップレベルの能力を持っている。「いいとも」から「指原の乱」までこなせる人間が、彼女以外に思いつかないじゃない?
     それに加えて、彼女はテレビタレントとしての側面を捨てたとしても、たぶん48G最強レベルの能力がある。HKTの今の独自路線の成功の立役者として、つまりプロデューサーとしての成果も大きく上げているし、Twitterの使い方ひとつとっても優秀。つまり現場+ネットの今時のライブアイドルとしてもものすごく成果を上げているということなんですよね。
     もう、AKB48の代表曲は「ヘビロテ」じゃなくて「恋チュン」で、代表はあっちゃんでも優子でもたかみなでもなく、さっしーなんだよ。これはもう動かせない事実。だから分析だけすればさっしーの連覇は確実。
     
    Q
    予想では指原さんを3位と予想して、SKE48の松井珠理奈さんを1位にしています。
     
    A
     それじゃあんまりにも面白くないからね(笑)。
     前回の組閣のテーマが「中央と地方」だったことからも明らかなように、いまのAKB48は4グループがしのぎを削る戦国時代なんだよ。世代交代がまだ終わらなくて4以外失速気味の本店、そして第一章をクリアしたものの主力メンバーが大量離脱して満身創痍になってしまい、なかなか第二章が見えてこない栄、山本個人のカリスマ性に頼りすぎてるせいか、なかなか現場のアツさが全国に拡散しない難波、そして独自路線で突っ走って好評だけどまだまだファンコミュニティが育っていない博多、それぞれのグループの力は今、かなり拮抗していると思うんだよね、結果的に。
     だから僕は、さっしー、さや姉、じゅりな、まゆゆの4つどもえでセンターを争うというシナリオが一番面白いと思う。
     そしてセンターだけじゃなくて、「グループで何人ランクインしたか」を競うゲームとしても今年の選挙は面白いと思う。本店が単純に所属メンバーが多くて有利で、博多が少なくて不利なので、本店は40人、栄と難波は15人、博多は10人をクリア目標にするといいと思う。逆にこれ以下だと「負け」だね。
     
    Q
    今回は、乃木坂46とAKB48とを兼任している生駒里奈さんが総選挙に出馬を表明していて、その動向に注目が集まっています。
     
    A
     どうやら乃木坂ファンたちは「生駒ちゃんに恥をかかせるな」というモードで選抜入りを視野に入れているらしい。これは乃木坂ファン全体がのっかってくる可能性が高いから、ほんとうに選抜入りしてもおかしくないし、そうなったら面白いよね。そして実際に乃木坂ファンが生駒ちゃんを選抜に送り込むと、世間の乃木坂を見る目は一変すると思う。これはすごく意味のある戦いだよ。
     
    Q
    AKB48のシングル選抜メンバーは16位までですが、注目しているメンバーを教えてください。
     
    A
     ずばり松村香織。僕は選抜に入ると予想しているけれど、当落線上のメンバーなのは間違いない。彼女はいわば栄の指原で、そして指原ほど器用じゃない。でも、そこが熱心なファンを惹き付けている。だーすーとかおたんが選抜に入ると、栄第二章のカラーは決まるし、グループ全体のカラーもかなり変わると思う。これはこれでAKB48Gらしくていいんじゃないか。
     あとはみいちゃんの選抜復帰と、ゆりあ、さくらたん、かおたん辺りの椅子取りゲームが見所でしょうね。
     
    Q
    アンダーガールズ(17位〜)以下ではどういった動きに注目していますか?
     
    A
     ベタだけど白間美瑠がどのあたりに入るかは見所でしょう。あの娘はここ1、2年でぐっと可愛くなったと思う。あとは古畑奈和が伸びるはずなので、どこまでいくかは気になる。あとはなんといっても博多の独自路線が選挙にどれくらい影響するかがポイントかなあ。かおたんが博多のコンサートに衝撃を受けていたけれど、HKTの今の路線が選挙人気に、それも今年の総選挙でいきなり影響するようだとグループの勢力図は大きく変わると思う。博多が10人超えるかどうか、見物ですね。
     
     
    【怒涛のAKB総選挙関連ニコ生ラッシュ!】AKB48総選挙に向けて、PLANETSは本気(マジ)です。(※PLANETSチャンネル入会で、ご覧いただけます)
     
    ・5/20 宇野常寛、AKB48選抜総選挙投票を完全ニコ生中継!「世界の真実の実現のために2014」
    http://live.nicovideo.jp/watch/lv177674924
     
    ・5/23 「元あん誰P・竹中優介氏と語るAKB総選挙2014──選抜と非選抜のあいだ」竹中優介×宇野常寛
    http://live.nicovideo.jp/watch/lv179252804
     
    ・5/26 「週刊 宇野常寛のラジオ惑星開発委員会 ゲスト:青木宏行さん」青木宏行×宇野常寛
    http://live.nicovideo.jp/watch/lv177919961
     
    ・5/30 「朝までオタ討論!──去年よりも、僕は本気になる総選挙2014」ヲタ有志×宇野常寛
    http://live.nicovideo.jp/watch/lv177858330
     
    ・6/7 「宇野常寛、AKB48選抜総選挙直後に所感を語る(仮)」 http://live.nicovideo.jp/watch/lv178676827
     
     
    ■【順位予想】
     
    ■AKB48 37thシングル選抜メンバー
     
    1位 松井珠理奈
    最初に言っておくけれど、これは完全に願望優先の予想順位。今の栄は第一章をクリアしたものの、次の(第二章の)目的が見つからずに迷走しているように思う。その上、主力メンバーの大半が離脱し満身創痍の状態。その結果、珠理奈をセンターにするかだーすー&つーまーで笑いを取るか、くらいしかやることがなくなってしまったのが今年のリクエストアワーだろう。しかし個人的にはこのタイミングで栄が一丸となって珠理奈をセンターに押し上げるまでが第一章だと思う。本店から移籍してきた指原ではなく彼女が1位になることはこの2年余り、グループを牽引してきたのは地方姉妹グループの勢いに他ならないことを、AKB48グループの主役はAKBとは限らないことを数で証明することになる。これは先の組閣に対するファンの運営サイドに対する強いメッセージになるだろう。
    もちろん、いま栄の物語を背負っているのはむしろ玲奈なのだろうが、ここは実際にセンターを狙えそうな位置にいる珠理奈を置きたい。
     
    2位 山本彩
    圧倒的な握手人気とカリスマ性をもつ難波のクイーン。その個人単位での人気にみるきーとの間に絶対的な差があるとは思えないが、おそらく難波という箱の物語を背負っているのは間違いなくさや姉のほうで、それは票数として大きく現れるだろう。少なくとも現時点のNMB48の物語とはかつてのあっちゃんとたかみなを独りで兼ねている「重すぎるリュックサックを背負った」さや姉と彼女を支える仲間たちの物語である。僕の希望は各グループのエースが1位を争うセンター戦国時代の到来で、これも願望優先の予想順位だが、願望をさっぴいても山本は上位陣でもっとも大きく票を伸ばすメンバーだろう。それくらい、昨年一年は結果的に難波の主役が、そしてグループ全体の次の主役の一人が彼女であることがはっきりした一年だったと思う。ここ最近の、東京進出の苦戦も物語性を補強している。
    あとは谷間目的のグラビア大好き高校生的なピンチケ層が票田として機能するかどうか、だが……
     
    3位 指原莉乃
    普通に考えれば誰も彼女を止められない。純粋に予測だけすれば指原が断トツの1位だろう。しかし、それだとあまりに面白くないのでこの順位にした。
    いまのAKB48ははっきり言って「指原とそれ以外」の時代だと思う。他のメンバーが弱いのではなく、指原の戦闘力が高すぎるのだ。いまの彼女はおそらく20代前半のテレビタレントとしても日本最強クラスにいる。「いいとも」の毒にも薬にもならない安全な痛さから、「指原の乱」のギリギリ感までこなせるタレントは他にいないはずだ。そして、テレビから離れたライブアイドルとしても間違いなくグループ最強だ。ツイッターの使い方ひとつとっても、彼女の右に出る者はいない。博多の事実上のサブプロデューサーとして、独自路線を成功させた功績も大きい。いまや「会いに行けない」テレビアイドルとしても、「会いに行ける」ライブアイドルとしても指原は最強なのだ。ここまで来ると何かの間違いでフツーに可愛く見えてきてしまいそうだから怖い。いや、既に僕にはそう見えはじめている。
     
  • "天然の革命児"が指原莉乃と切りひらくテレビの未来 福田雄一インタビュー ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.053 ☆

    2014-04-16 07:00  

    "天然の革命児"が指原莉乃と切りひらくテレビの未来
    福田雄一インタビュー
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2014.4.15 vol.053
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    今朝の「ほぼ惑」に登場するのは、「勇者ヨシヒコ」シリーズ、『指原の乱』で有名な放送作家の福田雄一氏。"絶妙に失礼"な指原が可能にした『指原の乱』の面白さに始まり、現在のテレビをめぐる問題へと話は進みました。


    ▼プロフィール
    福田雄一(ふくだ・ゆういち)
    1968年生まれ。放送作家、演出家、映画監督。劇団ブラボーカンパニー座長。近年の作品は、バラエティ番組で『ピカルの定理』『いきなり黄金伝説』、DVDオリジナル作品で「THE3名様」シリーズ、テレビドラマで『33分探偵』『東京DOGS』「勇者ヨシヒコ」シリーズ、映画で『大洗にも星はふるなり』『HK/変態仮面』『俺はまだ本気出してないだけ』など。自身も出演し、演出も手がけるテレビ東京系『指原の乱』は、業界視聴率ナンバーワン番組と評判だ。5月30日には指原莉乃主演の監督作『薔薇色のブー子』が、初夏には桐谷美玲主演の監督作『女子ーズ』の劇場公開がそれぞれ控えている。
     
    ◎構成・稲垣知郎、稲田豊史
     
     
    ■福田雄一のさっしー観
     
    宇野 AKBファンには『指原の乱』(13年10月~14年3月)でおなじみの福田雄一さんですが、実は僕は福田さんがAKBに関わる以前に、インタビューさせてもらったことがあるんですよね。
    福田 あのときの宇野さんのインタビューは本当に気に入っているんです。引っ越ししたとき、妻に雑誌類を全部捨てられたんですけど、あれだけは残してもらいました(笑)。
    宇野 そう言ってもらえると嬉しいです(笑)。去年『AKBINGO!』で再会して、そしてまた『ヨシヒコ』あたりのことを聞きたいなって思っていたら『指原の乱』がもう面白くて仕方なくて……。もう福田雄一と指原莉乃のコンビもここまできたか、と。
    福田 彼女とは、『ミューズの鏡』(12年1~6月)の撮影初日に初めて会ったんです。そのときに何となくお芝居を付けてもらいながら一日一緒に過ごして、「ああ、この子で『裸足のピクニック』をやりたいって思ったんですよ。
     
    【編集部注】『裸足のピクニック』は矢口史靖監督の初監督映画作品。1993年公開。ある女子高生がどんどん不幸になっていく姿を描いたブラックコメディー。指原主演の『薔薇色のブー子』は本作の内容を彷彿とさせる。
     
    『裸足のピクニック』って、無表情で感情がよく分からない女の子がどんどん不幸に見舞われていく話じゃないですか。無表情で何考えているかわからないということは、よほど佇まいの面白さがないと、その子を中心に映画は回っていかない。で、さっしーって決して芝居が上手ではないですし、表情がうまく作れるわけでもないし、女優としてなんの取り柄もないけど、とにかく佇まいが非常に面白かったんですよ。ポッと立たせた時になんとなくほっとけない、つい見てしまう。それで『裸足のピクニック』がはまるなあと。
    宇野 当初さっしーとはどんなコミュニケーションを?
    福田 当時の僕は『勇者ヨシヒコ』で話題になったので、けっこう仕事の引き合いがある状況でした。でも指原は、僕の作品は1本も見たことないって言うし、そもそも俺のこと全然知らないって(笑)。
    宇野 さすが、さっしーですね。
    福田 でも、俺のこと知らないっていうのが逆に嬉しくなっちゃって。好きなんですって言われると背負うものがあるじゃないですか。好かれてるからがんばらなきゃとか。でも、知らないって言われるといい感じでスーって気を抜けるんですよ。これは楽しめるぞって。
    宇野 なるほど、これでいじり倒せるぞと(笑)。
    福田 あと、あいつが待ち時間にセットの隅に座って、ボーッと考えているのを見ると、いじりたくてしょうがなくなるんですよ。「そんなこと言わないでくださいよー」って困らせてやりたい。生意気なこと言うと、秋元さんもきっと同じ気持ちなんだと思います。その感じが麻薬みたいなもので、さっしーと離れられない(笑)。業界の方は、僕がずっと秋元さんにさっしーと組まされてるって思ってるかもしれないんですけど、すべてのドラマに僕のほうから呼んでいるのが紛れもない事実です。
    宇野 さっしーはもう「福田ファミリー」に入ってるんですね。ムロツヨシさんや山田孝之さんと同じで。
    福田 彼女の中ではそうなってないですけど(笑)。すごいのは、秋元さんやテレビ局や電通の方たちが集まって喋っているとき、その8割9割は指原の話なんですよ。アイツこんなこと言いやがったよ、ムカつくだろ、とか。秋元さんは「いい大人が集まって指原の話ばっかりするのムカつくから、別の話をしようぜ」って言うんだけど、必ず10分後には指原の話に戻ってて、3時間とか話してる(笑)。そんな女の子ってなかなかいないですよね。
    宇野 一昨年の8月に共著で出した『AKB48白熱論争』って、最初は総選挙の後の感想戦から始まっているので、さっしーのスキャンダルの前なんですよ。にもかかわらず、よしりんがさっしーのことを嫌いだっていうのがきっかけで、ずっとさっしーの話ばっかりしてるんですよ。その後、もう1回収録したんですけど、それまでの間に例の文春のスキャンダルがあって、また彼女の話。気がついたら俺たちはさっしーの話しかしていなかった。要するに、世界は指原さんを中心に動いてるんですよ(笑)。
     

    ▲「指原の乱」DVD-BOXは7月23日発売予定!
     
     
    ■『指原の乱』がネタにした「電通」と「テレビ」
     
    宇野 さっしーはその後、福田さんの監督作『俺はまだ本気出してないだけ』にも出演し、そしてレギュラー番組として『指原の乱』が生まれるわけですが、あれってすごく変な番組だと思うんですよ。あの企画はどうやって始まったんですか?
    福田 僕のドラマも映画も、発想の原点は基本的にはバラエティなので、やってないとすごく不安なんですが、そのとき僕が関わっていたのが『新堂本兄弟』だけだったんです。あれはトークバラエティなのでバラエティ脳を使うってとこまで行き着いていない。それで電通さんとかに、バラエティをやらせて欲しいってことをずっと言っていたんですよ。そうしたら、テレ東の深夜2時くらいだったら全然いいですよって言われて、『水曜どうでしょう』が真っ先に浮かびまして。それで、誰とやりたいかなって考えて出てきたのが、さっしーだったんです。
    宇野 福田さんの考える『水曜どうでしょう』の魅力はなんですか?
    福田 『水曜どうでしょう』の醍醐味って、大泉洋さんのとめどない文句だと思うんです。この前、大泉さんに直接聞いたんですけど、「俺は正論を言ってるだけなんだ。ただ立場が弱いだけなんだ。俺は常に正論を言う弱者なんだ!」って(笑)。それはすごく良い言葉で、指原にも当てはまる。彼女もずっと正論を言っているんですよ。なんでこうじゃないんだ!
    って。それをあの絶妙なブサイク面で言うから、面白い。それを秋元さんに言ったら「たしかにあいつがテレビで、ちょっとそこは電通さんでなんとかなんないですかね~って言ってたら面白いよね」って言ってくれたんです。
    宇野 電通(笑)。
    福田 じゃあ指原が電通っていうワードを口にできる番組って何だろうと考えたら、やっぱりあいつの絶妙な失礼を駆使して、業界のものすごく偉い人に食い込んでいって、自分の夢を叶える内容かなと。それでタイトルは『指原の乱』が一番良いだろうなと思ったわけです。
    宇野 『指原の乱』にはビックリしましたね。構造自体は昔の80年代から90年代にかけての、テレビに勢いがあった頃の「業界の裏側見せちゃいますよ」的なものなんだけど、こういうの、今はやらなくなってるじゃないですか。「裏側見せます」って言ったって所詮はテレビ、ネットでダダ漏れしている情報にはかなわないですし。
    でも、この番組ははっきり言って心ある若者からは嫌われている「テレビ」と「電通」を、アイドルがメタ的にいじり倒すことによって、8、90年代のときには触れられなかったものに触れてしまっている。言い換えると、テレビが最後のパンツを脱いでしまっている。だから、2013年に、テレビはここまで来てしまったんだなって思いましたよ。だって、どれだけオーディションの過程を見せても、女の子の涙を見せても、楽屋ネタや内輪ネタを見せても、「電通さん何とかしてくださいよ」って言葉はさすがに出ませんから(笑)。
    福田 電通は今まで絶対、表に出てこなかったフィクサーですからね。基本的に僕と指原が喋った部分の8割はカットされているんですけど、そこには電通へのおもしろすぎるメッセージがいっぱい含まれています。ちょっと具体的には言えないんですが(笑)。
     
  • 「AKB48単独 春コン in 国立競技場」を写真で振り返るーーPLANETSの選んだ44ショット ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 号外 ☆

    2014-04-05 16:27  

    「AKB48単独 春コン in 国立競技場」
    を写真で振り返る
    ――PLANETSの選んだ44ショット
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2014.4.6 号外
    http://wakusei2nd.com


    先日写真集『NEW TEXT』を刊行したばかりの写真家・小野啓が、3月29日に開催された「AKB48単独 春コン in 国立競技場」を撮影! 大島優子卒業を記念するAKB48待望の単独ライブで、少女たちが躍動する姿を会場の空気ごと捉えました。

    ▼プロフィール
    ■小野 啓(おの・けい)
    1977年京都府出身。 2002年より日本全国の高校生のポートレートを撮り続けている。
    写真集に『青い光』。『桐島、部活やめるってよ』、『少女は卒業しない』(著者:朝井リョウ)の装丁写真を手がける。
    「小野啓写真集『NEW TEXT』作って届けるためのプロジェクト」を経て、写真集『NEW TEXT』を刊行。
     

    ▲大島優子登場!「暴れるぜええーー!!」
     

    ▲「メンバーたちが回っております!」と解説するまゆゆが興行主のようだった
     

    ▲横山チームAの華やかな一枚
     

    ▲まゆゆのステップはまるで無重力のように軽快
     

    ▲肌が白すぎて大会場でもすぐに見つけられる岩田華怜さん
     

    ▲しょっぱなから横山キャプテンもハイテンション!
     

    ▲北原里英さん抜群の安定感・安心感
     

    ▲優子さん0ズレのポジションからパシャリ!
     

    ▲豊かな表情を、ぜひ拡大して見てください
     

    ▲ちゃっかり優子さんに抱きつくひらりー(平田梨奈)
     

    ▲福岡聖菜ちゃんの独特なたたずまいに注目が高まっている
     

    ▲ずっとこの「Baby!Baby!Baby!」を見ていたかった
     

    ▲本日の主役・大島優子さん。眼力強め!
     

    ▲かと思ったら柔和な笑顔。このギャップ!
     

    ▲みるきーはこのあと髪をばっさりカット
     

    ▲光を背負うぱるる!
     

    ▲なぜだろう、川栄なのにカッコいい…!

     

    ▲これが大島優子!
     
     
  • 大島優子が高みに登るとき――女優としての自由/アイドルとしての自由 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.037 ☆

    2014-03-25 07:00  

    大島優子が高みに登るとき
    女優としての自由/アイドルとしての自由
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2014.3.25 vol.037
    http://wakusei2nd.com


    今朝のほぼ惑はお蔵出し2本立て。1本目は、昨日に引き続いてのAKBネタ。卒業を控えての3月23日の感謝祭が話題を呼んだ大島優子に対しての宇野からのエールです。
    【お蔵出し】「優子、自由になれ!」
    (初出:「FLASH」2014年3月17日発売号)

     
     大島優子の存在がはじめて気になったのはドラマ「マジすか学園」だった。四天王を従え、学園のトップに君臨する不良少女を演じる大島には圧倒的なカリスマ性があった。当時の僕はAKB48についての知識はほぼゼロに等しく、同作が当時のAKB48内におけるメンバーのプレゼンスや人間関係をネタにした二次創作的ドラマであることもよく分かっていなかった。しかし何の文脈も共有していない僕のような視聴者にも、この大島優子という存在が役柄を超えて、何かの高みに達している存在であることはすぐに分かった。僕は今でも、女優・大島のベストシーンは同作のオープニングで髪をかきあげるシーンだと確信している。配下を従えて見栄を切る大島の圧倒的なオーラに、何度見てもゾクゾクとさせられる。
     その後、映画やテレビドラマで大島優子を目にすることが多くなったが、僕がこれらの作品群における大島から「マジすか」第一作のようなインパクトを受けることはなかった。そこにいたのは何でもソツなくこなす優等生としての大島であり、圧倒的な高みに到達した人間だけが持つオーラをまとったあの優子先輩ではなかった。もちろん女優とはそういう仕事で、自分を殺してでも作品に奉仕しなければならないケースも多いだろう。その意味で大島優子が優秀な女優であることは既に証明されていたと言ってもいいのだが、それは僕の見たい大島ではなかった。
     そしてその間、僕の見たい大島は常にステージの上にいた。たとえば昨年の総選挙の日がそうだった。気がつけば僕はAKB48にどっぷり浸かり、その日にはなんとフジテレビの中継席で解説をつとめていた。僕は生放送の準備で慌ただしくしていて、開票前に行われたコンサートをじっくり見ることはできなかった。しかしそれでも、大島がひとりステージのいちばん高い場所に現れて「泣きながら微笑んで」を歌いはじめた瞬間、会場の空気が一変し人々の意識がほとんどの席からは豆粒のようにしか見えない大島の小さな身体に集中していったのが分かった。とんでもない女だな、と舌を巻きながらも僕はずっと彼女に見とれていた。ステージの上の大島は、いつだってどこだって最高の存在でい続けた。その強すぎる力が逆に心配になるくらい、彼女はいつも最高だった。
     総選挙のその日、まさかの指原莉乃の1位獲得に会場は揺れた。指原の1位が確定すると、ぞろぞろと帰り始める「アンチ」たちの姿が目立ち始めた。そのとき、大島はとっさにマイクをとって口を挟んだ。「今回の総選挙は笑える」「楽しい選挙で良かった」と。僕はこの大島の発言は、指原の1位獲得のドラマに水をさすものではないかと感じ、大島はどうしてしまったのだろう、と思ったものだった。しかし、今考えれば大島は会場の暗転する雰囲気を一気に粉砕すべく、笑いを取ろうととっさに口を挟んだのだ。20代半ばの考えることにしては、できすぎている。本当に「いい奴」で、そしてよく出来たお嬢さんだと思うが、できすぎるが故にたくさんのものを背負いすぎてしまっているようにも僕には思えた。その積載過剰な姿は、そして過剰さに耐えられてしまうすごさと危うさは、映画やドラマで真摯に「役柄に奉仕してしまう」女優としての大島の姿を僕に想起させた。