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月曜ナビゲーター・宇野常寛 J-WAVE「THE HANGOUT」11月23日放送書き起こし! ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.461 ☆
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月曜ナビゲーター・宇野常寛J-WAVE「THE HANGOUT」11月23日放送書き起こし!
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.11.30 vol.461
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大好評放送中! 宇野常寛がナビゲーターをつとめるJ-WAVE「THE HANGOUT」月曜日。前週分のラジオ書き起こしダイジェストをお届けします!
▲先週の放送は、こちらからお聴きいただけます!
■オープニングトーク
宇野 時刻は午後11時30分を回りました。みなさんこんばんは、宇野常寛です。今日は最初に、この1ヶ月僕が考え続けていることについてみなさんに聞いて欲しいと思います。それは、半オタ業界人としての生き様についてです。
半オタ業界人ってみなさんご存じですか? 半分オタクの業界人のことを指す言葉ですね。なんでユーキャンはこれを流行語大賞にノミネートしなかったのかが本当に疑問なくらい、現代のカルチャーというものを表している言葉だと思うんですけれどね(笑)。要するに、出版社とかテレビ局とかレコード会社とか、メディア関係の仕事をしていて、仕事にかこつけて好きなアイドルに鼻の下をのばしている人々のことですね。具体的には光文社の青木さんとか、TBSの竹中さんとか、エピックレコードジャパンの田口さんとかが有名だったりするんですけれども、僕も世間では半オタ業界人のひとりというふうに目されているわけですよ。実際に、自分の雑誌の表紙に松井玲奈さんとか横山由依さんとか秋元真夏さんとかを抜擢して、さんざんデレデレしてきた過去があります。
ただ、最近その半オタ業界人としての自分の生き様に疑問をもってきたんですよ。というか、僕はちょっと半オタ業界人としてヌルすぎなんじゃないかなということを思ってきたんですよね。なんでそんなことを思ったかというと、最近、宇野事務所の若者たちのあいだで、『ガラスの仮面』というマンガがブームなんですよ。もともと僕が好きで、事務所に置いていたんですよね。それをみんなで読み始めて、事務所の若者たちの間で「ガラかめ」ブームが起こったんですよ。僕もその流れで読み返してみたんですけれども、いろいろ考えさせられましたね。そもそも「ガラかめ」のことを知っていますか? スタジオのみんなは知らないみたいですね。70年代にはじまった、まだ完結していない大長編少女マンガなんですよ。で、いっけん平凡な女子中学生のヒロイン・北島マヤちゃんがいて、彼女が昭和の大女優にその才能を見出されて演劇界のスターになっていくという物語なんですよね。
そこに、速水真澄さんという登場人物がでてくるんですよ。で、真澄って名前を聞くと、美少女っぽいじゃないですか。でもこの人、男なんです。大手芸能プロダクションの2代目の若社長です。超絶イケメンで、めちゃくちゃ仕事ができるという、完璧超人みたいな男ですよね。この人は、表向きはヒロインの劇団を潰そうとする悪役なんですよ。でも実は陰で、ヒロインの北島マヤにガチ恋なんです。だから、表向きは嫌がらせとかをしているんだけど、陰では手をかすという役どころなんですよ。
もうね、この速水真澄の生き様について、僕はマンガを読み返したことによって数年ぶりに考えたんですよね。彼は本当に半オタ業界人の鏡だなと思いますね。まず、スケールがでかいんですよ。最初は北島マヤの出番が終わるたびに、紫のバラの花束を送って「いつもあなたをみています。あなたのファンより」という手紙を添えるくらいだったんですよ。でも、途中からもう限度がなくなってくるんですよね。たとえば、北島マヤが演技の練習に集中できないとかで困ったとなると、速攻で別荘をかりるんですよ。そして、紫のバラを添えて「あなたのために別荘を用意しました。ここで演技の練習をしてください」と言っていきなり旅券と一緒に届けたりするんですよね。
あとは高校に入れたりもしていますね。マヤに学費がないことを知ったら即、「いつもあなたをみています。あなたのファンより」とか手紙を添えて、高校に入学させているんですよ。これやばいっすよね。僕の周囲の半オタ業界人もたいがいだけど、さすがに高校にいれたりはしていないですからね。最終的には劇場を建て替えたりしているんですよ。北島マヤが出演する劇場が超ボロいと知った瞬間に、工事の人がすぐにやってきくるんです。そして「いつもあなたをみています。あなたのファンより」という手紙とともに、「あなたのために劇場を建て替えます」とかってなるんですよ。これね、行き着くところまでいった気がするんですよね。
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【本日発売!】『魔法の世紀』まえがき【全文無料公開】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.460 ☆
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【本日発売!】『魔法の世紀』まえがき / 全文無料公開
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.11.27 vol.460
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本メルマガで配信されていた落合陽一さんの連載に、大幅な加筆と編集を加えた単行本『魔法の世紀』が、本日11/27に発売されます。画面によって人々が繋がる「映像の世 -
「面白い」を科学の眼でとらえるには(石川善樹『〈思想〉としての予防医学』第6回) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.459 ☆
2015-11-26 07:00220pt
今朝のメルマガは予防医学研究者・石川善樹さんの連載『〈思想〉としての予防医学』の第6回をお届けします。20世紀から進行してきた長寿化のなかでいま問われているのは〈人間観〉のアップデート。今回は、そのために必要となる「遊び」や「面白い」という感覚について考察します。
▼執筆者プロフィール
石川善樹(いしかわ・よしき)
(株)Campus for H共同創業者。広島県生まれ。医学博士。東京大学医学部卒業後、ハーバード大学公衆衛生大学院修了。「人がより良く生きるとは何か」をテーマとして研究し、常に「最新」かつ「最善」の健康情報を提供している。専門分野は、行動科学、ヘルスコミュニケーション、統計解析等。ビジネスパーソン対象の講演や、雑誌、テレビへの出演も多数。NHK「NEWS WEB」第3期ネットナビゲーター。
著書に『最後のダイエット』、『友だちの数で寿命はきまる』(マガジンハウス)など。
本メルマガで連載中の『〈思想〉としての予防医学』これまでの記事一覧はこちらのリンクから。
1.「驚き」を定量化したアルゴリズム?
前回の最後に、私は「未来の人間を考えるためには、“遊ぶ”ということを本気で考える必要がある」という話をしました。
しかし、「遊び」や「面白い」などの領域はまだ科学のメスが十分に入ってる段階にはありません。ただ、これは予防医学のような分野では現実に重要な問題となり始めています。
例えば、不健康な人に運動を奨めるとして、ただ「運動をしろ」と伝えるだけでは、なかなか実行に移してもらえません。私たち予防医学者は、そこで「うわあ! それっていいですね!」となるような「面白い」提案をしなければいけないのです。これは、なかなかにクリエイティブな思考を必要とします。
この「面白い」という問題については、一般的な形式化はまだ出来ていません。それがこれまでも不可能だったのだから、今後も不可能だと思う人もいそうです。でも、そういう話をするのならば、医学だって少し前までは、人間には理解できない「魔術」の領域にあったのです。この問題も、いずれは自然科学の手法で解かれていくはずだと私は考えています。
ちなみに、科学の世界における「面白さ」のベースになる要素については、かなり見当がついています。
それは、「驚き」と「納得」です。
例えば、赤ちゃんは「いないいないばあ」が大好きです。あの遊びには、手で顔を隠すことで、赤ちゃんが顔が消えたと思って「驚き」、手が開くと顔がまた出てきたことに安堵して「納得」する、という非常にプリミティブな面白さの構造が隠されています。これが大人に向けた面白さとなると、お笑い芸人の方々がよく使うように、いきなり驚かせるのではなくて、前段階で興味を引くための「ツカミ」を入れたりするわけです。しかし、彼らの面白さの基本構造が「驚き」と「納得」――すなわち、「ボケ」と「ツッコミ」にあることは変わりありません。
面白いことに近年、「驚き」についてはベイジアン・サプライズという手法で定量化が行われています。これはベイジアン確率の事前分布と事後分布を利用した、とてもシンプルな数理モデルです。簡単に言ってしまうと、事前に考えた「予想」の分布に対して、事後に起こった現象の分布があって、それを積分して面積を求めると、驚きの指標となる数字が出るというものです。
この数理モデルは学術研究においては、人間の視覚における「注意」を研究する際などに使われてきました。しかし、より広く人間の「驚き」にまつわる分析で利用できる数理モデルなのではないかと期待されています。
特に近年、このベイジアン・サプライズの利用例として面白かったのが、料理レシピの開発です。IBMの開発した人工知能ワトソンにレシピを計算させて、トップシェフに調理してもらったところ、イベントでそれを食べたユーザーから高い評価を受けたというニュースが昨年、話題になりました。これをベイジアン・サプライズの数理モデルを使って行ったのがバーシュニーという若き研究者で、現在の私の共同研究のパートナーです。
▲ワトソンはレシピ以外にも、クイズやチェスなどの分野で人間を超える活躍を示してきた。
IBM Watson (ワトソン) - Japan(出典)
これはまさに前回お話ししたコンピューテーショナルクリエイティビティの、近年の目覚ましい事例の一つとも言えます。こんなふうに、人間の創造性がある程度解明されていくと、徐々に「面白い」の領域が科学的に捉えられてくるのではないでしょうか。
2.自然科学の手法と人文科学の手法
ここで大事になるのは、自然科学とはどんな手法の学問なのかということです。自然科学の領域とされてこなかった分野に踏み入るからこそ、その基本を押さえることが大事です。
わたしたち研究者は、まず問いを立てることから始めます。
しかし、その問いを立てる前に不思議に思うこと――「ワンダー」の瞬間が必要です。一体、どんな仕組みでこうなっているんだろう? という素朴な疑問を抱いて、興味をもつことが大事です。すると、その驚きが、やがて「問い」になるのです。
ちなみに、ここで大事なのは性急に調べないことです。ワンダーの段階で、答えを求めて調べてしまうと、自分なりの独自の問いを育てていくことがなかなかできなくなります。それに、そうなると悪い意味で問題解決型の発想になっていくように思います。
例えば、ユーチューバーの人などは、ユーザーの離脱率のデータを元にして「面白い」動画を制作しようとしていますが、そういう性急な調査が必ずしも「面白い」に繋がるのかは難しいと思います。人間の「want」に対応したコンテンツを作るのには向いている可能性はありますが、本当に面白い文化が生まれてくるかは疑問であるように思います。
あくまでもじっくりと自分の興味を育てていくのが、まさに面白い研究には大事です。そうしてあるとき問いが立てられれば、あとは帰納法か演繹法で、仮説を検証していくだけです。
では、そこで自然科学者は、問いをどう答えへと導いていくのか。
端的に言えば、自然科学とは仮説でしかない「問い」という一種の“暴論”をきちんと理論立てる術です。特に重要なのは「方程式」の存在です。
例えば、何かについて調べてパターンを見つけて、それをデータにして活かしていく。すると、データの中にそのパターンに当てはまらないものが見つかってくるので、さらに一般的なパターンにしていく。これだけであれば、人文科学でもやっていることです。でも、自然科学はそこからさらに方程式の探求に向かいます。
例えば、惑星の動きを見て、ヨハネス・ケプラーは「楕円軌道の法則」というパターンを見つけました。それに対して、「万有引力の法則」という方程式で説明をつけたのがニュートンです。そこに、さらに新しい実験で見つかったデータを元にアインシュタインが「一般相対性理論」の方程式を作りました。この一般相対性理論は時間と空間と重力についての方程式で、まだ発見されていない様々な現象について予言を行うものでした。たとえば、一般相対性理論を解いていくと、それまで想像もしていなかった「ブラックホール」があるらしいと予測することができました。
これが、方程式の威力です。パターンがさらに新しいパターンの存在を予測するということが可能になるのです。ですから、ベイジアン・サプライズのようなモデルの先に「面白さ」の方程式が発見されれば、「面白さ」の予測が可能になるはずなのです。
ちなみに以前、この話をアナウンサーの吉田尚記さんにしたところ、彼から落語の「死神」のオチを分析してみてはどうか、という提案を受けました。
「死神」という落語は、死神と契約を交わした男が、人間の寿命を表現したローソクのある部屋に連れて行かれて、お前のローソクはいま燃え尽きかけている、と告げられるという物語です。吉田さんが言うには、この物語は落語の世界における古典であるにもかかわらず、いまだ誰もが納得の行く「サゲ」、つまり話のオチのつけ方を見つけた人がいないそうです。
これなどは、典型的なコンピューテーショナル・クリエイティビティの効力が発揮できる分野であるように思います。落語というのは、「緊張と緩和」のような言葉で面白さがある程度は言語化されていて、しかもサゲの種類の分類も出来ています。IBMのワトソンが新しい味覚を発見したような、コーディネートによる問題解決がかなり効きそうな分野だと思います。
もちろん、この「サゲ」の面白さを「緊張と緩和」のような言語に頼らずに、上手く定式化できるかが鍵になるとは思いますが、まさにこういう発想で僕たちは「面白さ」の問題に踏み込んでいけるように思います。
それにしても、こういう問題について考えていくと、人間の問題についてこれまで自然科学はあまり扱ってこなかったという事実を改めて考え込みます。
やはり人文の方が一歩先んじた認識を持っているな、と感じる場面が多いのも事実です。以前に僕が大好きな小説家はヘルマン・ヘッセだと書きましたが、彼のようなハッとするような発想を与えてくれる小説や漫画作品が、自然科学の外側にはいくつもあるように思います。
近年、個人的に最も瞠目したのは『ジョジョの奇妙な冒険』の漫画家・荒木飛呂彦先生が自らの創作手法を明かした『荒木飛呂彦の漫画術』でした。ここでは詳述しませんが、あの本には我々、自然科学の人間が取らないような発想が数多く書かれていて、大変に刺激を受けました。特にあの本に掲載されていたキャラクターが行動する際の「動機」をリストアップした表には、打ち震えるほどの驚きを覚えました。荒木さんがあそこでリスト化した動機には、まだ充分にわれわれ研究者が重要性を認識して、研究を進められていないものがいくつも含まれていました。
いずれこの連載でも一度、この本はしっかりと読んで分析する回を設けてみたいと思います。
▲荒木飛呂彦『荒木飛呂彦の漫画術』集英社新書、2015年
3.プロゲーマーの「遊び」への洞察
そういう意味で、自分の研究分野の外側にいる人と会って、思考に刺激を受けて「驚き」を自分の中に生み育てていくのが、とても大事なことだと僕は思っています。
最近で面白かったのは、プロゲーマーの梅原大吾さんとの対談です。彼からは、この「遊び」や「面白い」について、とても大きなヒントになる言葉をもらいました。
▲梅原大吾さんの対戦動画
▲梅原大吾『勝ち続ける意志力』小学館新書、2012年
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近代都市・東京を再現する拡張型都市開発フィギュア「ジオクレイパー」とは? 製作者・内山田昇平インタビュー ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.458 ☆
2015-11-25 07:00220pt【お詫び】本日配信の記事「近代都市・東京を再現する拡張型都市開発フィギュア「ジオクレイパ―」とは? 製作者・内山田昇平インタビュー」において、編集部のミスで一部画像が抜けておりましたので、完全版を再配信いたします。 ご購読いただいている読者の皆さまには、大変申し訳ございませんでした。スタッフ一同、再発防止に努めてまいります。今後ともPLANETSのメルマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」を楽しみにしていただけますと幸いです。
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近代都市・東京を再現する拡張型都市開発フィギュア「ジオクレイパー」とは?
製作者・内山田昇平インタビュー
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.11.25 vol.458
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今朝のメルマガは「ジオクレイパー」の製作者・内山田昇平さんへのインタビューです。「都市開発トレーディングフィギュア」というユニークな発想の原点や、都市を8つのパーツに抽象化する中で見えてきたもの、そして「食玩ブーム」を基点とする日本ホビー文化の過去と現在について、宇野常寛がお話を伺ってきました。
▼プロフィール
内山田昇平(うちやまだ・しょうへい)
株式会社カフェレオ、株式会社アルジャーノンプロダクト、日本卓上開発の代表取締役。ジオクレイパーのためにつくった日本卓上開発にて、拡張型都市開発トレーディングフィギュア「ジオクレイパー」を企画。2014年9月22日に第一弾である「東京シーナリー」を発売し、2015年10月にコンビナートをはじめとした拡張ユニットを発売している。
▲「ジオクレイパー」プロモーション動画
https://www.youtube.com/watch?v=4Un0rQkw88k
ジオクレイパーHP
https://geocraper.localinfo.jp/
Facebook
https://www.facebook.com/geocraper/
◎聞き手:宇野常寛
◎構成:中野慧/構成協力:真辺昂
■ Instagramの「#建物萌え」的な感覚から生まれた「ジオクレイパー」
宇野 もともと僕はフィギュア全般が好きで、特に仮面ライダー関連の製品をよく集めているんです。メディコム・トイの「東映レトロソフビコレクション」や、竹谷隆之さんのS.I.Cシリーズにもハマっていて、このメルマガでメディコム・トイの赤司竜彦さんや竹谷さんにもインタビューしたりしています(笑)。
(関連記事)
日本の町工場から鮮やかに蘇る東映怪人たち――「メディコム・トイ」代表・赤司竜彦インタビュー
"もし現実にいたら"を具現化する力――造形師・竹谷隆之に聞く三次元の〈美学〉と可能性
内山田 なるほど、僕もその感覚はよくわかります(笑)。「東映レトロソフビ」は赤司さんの製品化のセンスがまたとてもいいですよね。
宇野 僕は特撮フィギュアに限らず模型も含めたホビー全体が好きなのですが、秋葉原のホビー系の店を散策していたときに、たまたま店内に展示されていた「ジオクレイパー」を見て大変な衝撃を受けたんです。まず立体フィギュアとしての完成度がとても高いですし、6cm角でデザインされた建物のパターンを自由に組み合わせて遊べる「建築トレーディングフィギュア」というコンセプトも斬新ですよね。まずはこの発想の原点についてお伺いしたいのですが、内山田さんご自身はもともと建築がお好きだったんですか?
内山田 うーん、「この建築家の作品が好き」という感覚は実はないですね。僕はキャラクター商品などの玩具・フィギュア業界でずっと仕事をしてきたんですが、もともと「建物萌え」というか、現代のビル群や高速道路のような東京の都市景観がすごく好きなんです。たとえば出張で大阪から新幹線で帰ってくると、新橋や品川あたりから急に建物がわあーっと立ち上がってきて、「あ、東京に帰ってきたな」と感じたりしますよね。高度成長以降に作られていったそういう「モダン」というか、近代都市としての東京の魅力を形にしたいという思いがありました。
宇野 「ジオクレイパー」はどういうお客さんを想定して製作を始められたんでしょうか?
内山田 当初想定していたのはInstagramを使っているような若い層ですね。僕はInstagramを初期の2010年頃からやっていたんですが、ビルの写真ばかり撮ってアップしたりしていました。「#高速道路」「#鉄塔」とか、あとは「#工場」というハッシュタグもあったりして、そういった様子を見ていて「建物のファンってたくさんいるんだ」ということに気付いて、その感覚を立体にしたら面白がってもらえるんじゃないかと思っていましたね。
宇野 「ジオクレイパー」はうちの事務所にも置いているんですが、別に建築が好きというわけではないスタッフも「おしゃれでいいですね!」と言ってくれたりして、インテリアとしても優れた製品ですよね。
内山田 やっぱりホテルとかに置いて、海外のお客様にお土産としてアピールしていきたいということは思っています。「都市」ってキャラクターフィギュアと違って文脈の理解がいらないですし、非常にわかりやすいコンセプトだとは思うので。
宇野 これまで販売してきて、反響はいかがでしたか?
内山田 やっぱり好き嫌いではなく、「理解してもらえるかもらえないか」ではっきりと分かれる、という感じですかね(笑)。
宇野 単におもちゃ売り場で箱の中に1ピース置いてあるだけだと理解されにくいかもしれないですね。僕が秋葉原で見たときは実際に都市の景観としてディスプレイされていて、その問答無用の説得力にやられてしまったんです。
内山田 僕も本当にそうだと思います(笑)。今年のワンダーフェスティバルでは3600個の巨大ジオラマを展示したんですが、そしたらやっぱり大反響でしたね。
▲ワンフェスでの展示写真
宇野 具体的に、ユーザーはこの「ジオクレイパー」をどんなふうに楽しんでいるのでしょうか?
内山田 モデラーの方が水没ジオラマを作ってくれてTwitterでバズったりしていましたね。あとは他のフィギュアと組み合わせて写真を撮っていらっしゃる方が多いです。特撮オタクの方など、比較的濃い人たちが買ってくれている印象ですね。
▲ジオクレイパーの水没ジオラマ(出典)
(出典)
宇野 実は僕も秋葉原で見かけたときにすぐに箱買いして、うちの事務所にあったウルトラマンとベムラーと組み合わせて写真を撮ったんです。それがこれなんですけど……。
▲ジオクレイパーと合わせたウルトラマンとベムラー(宇野撮影)
内山田 おお、かなりよく撮れていますね! こんなふうに別のフィギュアと組み合わせて写真を撮ってアップしてくれている人が多いんですよ。楽しんでもらえて嬉しいです。
■「モダン」の結晶である東京のビル群・高速道路を再現したい
宇野 「ジオクレイパー」の第1弾「東京シーナリー」は8つのパーツに限定して出されていましたよね。その「8つのパーツに限定する、それだけで街ができる」という発想もひとつのブレイクスルーだと思うんですが、なぜこういう形態で販売しようと考えたんでしょうか?
▲ジオクレイパー 東京シーナリー Vol.1 BOX
内山田 発想の大元は食玩やトレーディングフィギュアですね。昔からトレーディングフィギュアって8個ぐらいの商品の定番セットでだいたい5000円〜6000円ぐらいの感覚なのですが、ジオクレイパーの第1弾として出した「東京シーナリー」もそのイメージで8つのパーツにしています。
そもそも僕は今の会社を30歳で立ち上げて15年やってきたんですが、最初は『ファイナルファンタジー』のアクセサリーの販売代行からスタートしたんですね。そうこうしているうちに2000年代初めに「食玩ブーム」というものが起こって、ライト層を取り込むことにも成功してすごく盛り上がったんです。
宇野 なるほど。実は食玩ブーム当時、僕は大学生だったのですが、「チョコエッグ」(海洋堂)の動物フィギュア、「名鑑シリーズ」(バンダイ)のウルトラマンや仮面ライダーのフィギュア、他にも「王立科学博物館」(タカラ)の宇宙ものとか、「タイムスリップグリコ」(海洋堂+グリコ)のレトロフィギュアを集めたりしていました(笑)。「ジオクレイパー」にはその食玩ブームの遺伝子が宿っているわけですね。
内山田 ええ、「都市をフィギュアにしよう」という発想も食玩やトレーディングフィギュアから来ています。食玩のミニチュアには色んなものがあったわけですが、建物をモチーフにしたものもありました。そういった建物が並んだ「都市」の景観をフィギュアにしたいなあ、ということは昔からぼんやりと考えていたんですね。
あとは、2009年にオリンピック誘致を目的に森ビルさんが作った1000分の1スケールの東京のジオラマをテレビで見たことも大きかったですね。「すごい」と思うと同時に「このジオラマ、欲しい」と思ってしまったんです(笑)。
▲森ビルが作った東京のジオラマ
https://www.youtube.com/watch?v=4iGNTegpLZI
宇野 その気持ち、ものすごくよくわかります(笑)。
内山田 ただ、森ビルさんが作ったこのジオラマって5億円以上かかっているらしいんです。予算的に自分たちでは作ることはできないから、さすがに無理だよなぁとそのときは思っていました。でもテレビで都市の空撮の映像とかを見かけるたびに、「あの風景をジオラマにしたいなぁ……」という気持ちが蘇ってきて、その感情が抑えられなくなって、採算度外視でこの「ジオクレイパー」の開発を決意してしまいました。
宇野 素晴らしいですね(笑)。他にも何かヒントになったものはあるんでしょうか?
内山田 当然ながら『シムシティ』(注1)も発想の原点にありましたね。
宇野 なるほど。『シムシティ』はゲーム内で建物や公共交通機関を作って自分の街を大きくしていくわけですが、「ジオクレイパー」は実際に立体のフィギュアで街を拡張できますからね。
(注1)シムシティ:米マクシス社が販売するゲームソフト。交通と公共施設を作って街の発展を目指す。1989年に米国で発売され、その後日本でも初期PCゲームの定番ソフトとなり、その後はコンシューマー機でも展開されて都市経営シミュレーションゲームの雛形となった。
▲シムシティのプレイ画面(出典)
内山田 ただ、モノづくりできる仲間にこの構想を話しても、最初は誰も理解してくれなかったんですよ(笑)。そもそも僕らは1/144の戦闘機のフィギュアを作ったり、もともと「シンメトリーな商品を作る」ということをやっていたんです。
宇野 いまお話を伺っていて思ったんですが、昔700円くらいで売っていたブルーインパルス(航空自衛隊の戦闘機)ってもしかして……。
内山田 あ、それはウチで出したやつですね。「J-wing」という雑誌とコラボさせてもらって出した商品なんですけど。
宇野 やっぱり! 僕、これ買っています。そんなにミリタリー系に詳しいわけではないんですが、僕みたいなライトな模型ファンにとって、半彩色で接着剤無しで組み立てられるのってすごくちょうどよかったんです。
▲「Jウイング監修 MillitaryAircraftSeries vol.5 -航空自衛隊の戦闘機-」この号にブルーインパルスが付属していた
内山田 本当ですか! 嬉しいですね。この「ブルーインパルス」を作ったときに経験したことなんですが、戦闘機模型のユーザーって本当に目が肥えているんですよ。1/144スケールって当時としては先駆的なサイズだったんですけど、このスケールになってくるとリアル感がすごく問われてしまいます。当時うちの技術力はまだそこに追いついていなくて、ユーザーさんからは厳しい評価をいただいてしまいましたね。日本の濃いユーザーさんに満足してもらうためには本当にモールドの数ミリが生命線で、ちょっと太いだけでもうダメなんです。
宇野 なるほど。普段から技MIX(注2)を愛好しているようなガチ勢のお客さんからしたらそうかもしれないですが、でも僕ぐらいのライトファンからしたらとても良い製品に思えたんですけどね。
(注2)技MIX(ギミックス):トミーテックが販売する彩色済み戦闘機プラモデルのシリーズ。
内山田 もちろん、そう言ってくださる方もたくさんいて、それは嬉しかったですよ。一方で、厳しいユーザーさんのリクエストに必死に応えていく過程で僕らの技術力が鍛えられたという部分もあったんです。そうして技術力が向上した結果として、「ジオクレイパー」の構想がだんだん具体化できるようになっていきました。仲間のCGデザイナーの人にラフを出してもらったらドンズバなものが上がってきたりとかですね。それで2012年ぐらいに仮試作を作り始めて、2014年の9月にようやく発売することができました。
宇野 食玩のフォーマットでガチ勢と戦ってきた結果、技術が鍛えられていったんですね。
内山田 「ジオクレイパー」の製作過程でも、東京タワーの方とライセンスの関係でお話しをしたときに「ここまで作りこまなくてもいいんじゃないですか?」って言われたんです(笑)。もちろん担当の方も大変理解のある方で、「ホビーメーカーさんってここまで作り込みますよね」という前提で冗談を言ってくれたんですけど、やっぱり「ここまでやる」のが日本のホビー文化なんです。タワーの中を通るエレベーターの支柱とか、省略してもいいんじゃないかという箇所はいくつかあったんですが、「そこで妥協したら文化じゃない」という思いでやりきってしまいましたね(笑)。
■ 「東京中の建物をサンプリングする」という発想
宇野 「ジオクレイパー」は6cm角というこのサイズ感も絶妙だと思うんです。どういった経緯でこのサイズに決めていったんでしょうか?
内山田 もともと「単にビルだけを作っても売れないだろうな」ということは思っていて、東京のランドマークといえば東京タワーなのでこれは絶対に入れようと決めていました。東京タワーの高さ333mを手頃なサイズにしようとすると高さ13cmがちょうどいい。そのまま縮尺していくとだいたい平面が6cm角に収まるんですが、そのスケールがちょうど2500分の1だった。「ジオクレイパー」が2500分の1サイズなのは東京タワーが基準になっているからなんです。
宇野 なるほど。「ジオクレイパー」は東京タワー以外にも色々なビルをモデルに、ある種の類型化・抽象化を行ったキットになっていますが、その「パターン化」という視点が面白いですよね。この発想がどのようにして生まれたのかが気になっていたんです。
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いま再編されつつある「フィクションと人間の関係」とは?――成馬零一、宇野常寛の語る『ど根性ガエル』 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.457 ☆
2015-11-24 07:00220ptチャンネル会員の皆様へお知らせ
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いま再編されつつある「フィクションと人間の関係」とは?――成馬零一、宇野常寛の語る『ど根性ガエル』
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2015.11.24 vol.457
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▲ど根性ガエル DVD-BOXより
今朝のメルマガはドラマ『ど根性ガエル』をめぐる成馬零一さんと宇野常寛の対談をお届けします。現代におけるファンタジーの機能・役割とは? 過去作『銭ゲバ』『最後から二番目の恋』『泣くな、はらちゃん』を経て、脚本の岡田惠和がこの『ど根性ガエル』の劇中で出した「結論」について語りました。
初出:『サイゾー』2015年11月号
▼作品紹介
『ど根性ガエル』
脚本/岡田惠和 演出/河野英裕 出演/松山ケンイチ、満島ひかり(声)、新井浩文、前田敦子ほか 放映/7月11日~9月19日毎週土曜21:00~(日テレ)
原作マンガから16年後の世界を舞台に、ニートになって無為な日々を送るひろしといまだ張り付いているピョン吉、バツイチ出戻りの京子、パン屋の若社長になったゴリライモなど周囲の人々の生活を描く。しかしぴょん吉も平面ガエルとなって16年、その身に異変が起き始め、それが彼らにも影響を及ぼしていく。
▼対談者プロフィール
成馬零一 (なりま・れいいち)
1976年生まれ。ドラマ評論家。著書に、『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社)、『キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)ほか。
(関連記事)【対談】河野英裕×岡田惠和「テレビドラマ『ど根性ガエル』をめぐって:ピョン吉という想像力を取り戻すために――「共感できない」テレビドラマの可能性」(2015-10-13 配信)
成馬 まずは何をおいても、脚本・岡田惠和【1】×河野英裕【2】プロデューサー(日本テレビ)というコンビについて語らないわけにはいかないですよね。この2人は2009年に『銭ゲバ』【3】を、13年に『泣くな、はらちゃん』【4】を作っている。そして、最新作がこの『ど根性ガエル』です。
技術的な評価から触れると、なんといってもピョン吉の描写が秀逸でした。VFXによる合成でアニメの動きを再現していたのはもちろんですが、実際に役者が現場で演技をしているときはピョン吉は存在しないわけで、そんな中で、さもいるかのように皆が信じないと成立しないわけです。役者が作り上げた“ピョン吉のいる日常”をどう映像に落とし込むのか、その手腕に感心しました。同時に、葛飾区の実在の風景の取り入れ方も面白かった。例えばピョン吉が干してある屋上からは、背景にスカイツリーやタワーマンションが見える。それが寂れつつある下町の風景と対比されていて、これから日本がどこに向かっていくんだろうか、という不穏さを醸し出していた。そういう風景の使い方はすごく見事だったと思います。こういった描写のひとつひとつは『Q10』【5】や『妖怪人間ベム』【6】の頃から河野プロデューサーを中心とするドラマスタッフが積み上げてきたひとつの成果だと思います。
【1】 岡田惠和:1959年生まれ。脚本家。90年代前半から活躍し、『イグアナの娘』、『ビーチボーイズ』、『彼女たちの時代』ほか代表作多数。
【2】 河野英裕:1968年生まれ。日本テレビプロデューサー。『すいか』『野ブタ。をプロデュース』『マイ☆ボスマイ☆ヒーロー』『妖怪人間ベム』『Q10』など。
【3】『銭ゲバ』放映/日テレ(09年1~3月):河野P×岡田惠和タッグの1作目。ジョージ秋山のマンガ『銭ゲバ』を現代に舞台を移してドラマ化。
【4】『泣くな、はらちゃん』放映/日テレ(13年1~3月):三崎のかまぼこ工場で働く地味で薄幸な女性・越前さんが、心の叫びを自作のマンガに描きつける生活と、そのマンガの中で生きるキャラクターたちの動きが同時に進行し、やがてその2つの世界が交わるようになったことから始まる現実と虚構の狭間を描く。
【5】『Q10』放映/日テレ(10年10~12月):『野ブタ。』等でコンビを組んだ河野P+木皿泉脚本作品。佐藤健演じる男子高校生とロボットQ10(前田敦子)と周囲の人々の物語。
【6】『妖怪人間ベム』放映/日テレ(11年10~12月):河野プロデューサー×脚本・西田征史で、往年のアニメを実写ドラマ化。『ど根性ガエル』同様当初は危ぶまれたが、結果として主演の亀梨和也の評価も高めた。
宇野 脚本の岡田惠和さんはここ数年、テレビドラマの中で横綱相撲とでもいうべき仕事をしてきた人だよね。テレビ自体が斜陽であることは間違いないけど、実はここ数年はドラマファン的には素晴らしい作品が目白押しだった。それを代表するプレイヤーが岡田さんで、この時期の代表作が『最後から二番目の恋』【7】と『はらちゃん』の2つだといっていいと思う。
岡田さんは一度、09年の『銭ゲバ』で“壊れて”いる。それまでの代表作だった『ちゅらさん』【8】のような、戦後的な日常性をユートピアとして描くために、それを掘り下げてその成立条件を問うということを彼はずっとやってきた。それを『銭ゲバ』では自分でぶち壊してしまった。松山ケンイチ演じる、孤独で共同体を持たない主人公が、そういうものをお金の力で壊していって、最後は自殺する。あるいは、その後に書いた『小公女セイラ』【9】はその裏面というべき作品で、そういうヌルい共同体を必要としない高貴な少女がいかに生きるか、を描いていた。この2つは岡田さんにとって自己否定だったと言っていいはずで、だからそこからしばらくは代表作といわれるものが生まれなかった。それが『最後から二番目の恋』で、華麗に復活を遂げるわけです。
あの作品は、登場人物のほとんどが中年以上でそれも難病だったり引きこもりだったり、半分死んでいるような人ばかりが出てくる。主人公と相手役のどちらも50代で、子どもを作るどころかセックスもしない中距離の関係を保っている。かつての岡田作品のようなユートピアを描いているんだけど、死の匂いが色濃く漂っている奇妙さがあった。終わりが見えているのに気持ちのいいユートピア像というものを、鎌倉を舞台に再獲得していく。そこからは快進撃が続いて、次にドラマファンをうならせたのが『泣くな、はらちゃん』だった。
『はらちゃん』は、岡田惠和が描いてきたユートピア論をフィクション論に置き換えることで、また世界が拡大していったんだと思うんですよ。ヒロインの越前さん(麻生久美子)は、友達もいなくて寂しく暮らす工場勤務の女性で、自分でノートに描いていたマンガのキャラクターと交流を持って生きていくようになる。つまり『銭ゲバ』の風太郎や『小公女』のセイラのようには激しく生きられない人のために物語がどうしても必要なんだという、自己言及的というかメタフィクショナルな展開になっていた。ユートピアものを得意としていた岡田惠和が、『最後から二番目の恋』を経由することで人間と物語の関係を描くというところに変わっていった時期があって、その中で傑作が生み出されていた。
そして今回の『ど根性ガエル』は、そのストレートな続編になっている。平面ガエルがいる世界で人々は暮らしていて、でもピョン吉は消えかかっている=その物語が成立しなくなりつつある。フィクションというものが世界から消滅しかかっている状態を描いているのが本作だった。まず最初に思ったのは、舞台になっている立石が、どう見てもゆっくり終わっていく世界なんだよね。この先、この世界がすごく発展したり、いきいきとした活力を取り戻すことは絶対なくて、むしろ不吉な予感すら漂っている。だけどそこには非常に温かい共同体がある。『最後から二番目の恋』の鎌倉のアップデート版というか、アレンジバージョンだと思うんだけど、その世界にまずはアテられた。そして主要キャラクターは、ひろし(松山ケンイチ)はニート、京子ちゃん(前田敦子)はバツイチ、ゴリライモ(新井浩文)は社会的には成功しているけどコミュニティの中心に入っていけなくてコンプレックスを抱えて鬱屈している。あの微妙さみたいなものがすごく魅力的で、「これはとんでもないものが始まったな」と思わされた。
【7】『最後から二番目の恋』放映/フジテレビ(12年1~3月):古都・鎌倉の街を舞台にした、アラフィフ男女の恋愛劇。小泉今日子と中井貴一のダブル主演。
【8】『ちゅらさん』放映/NHK(01年4~9月):NHK連続テレビ小説枠。沖縄と東京の2つの土地を舞台に、国仲涼子演じるヒロインの成長を描く。
【9】『小公女セイラ』放映/TBS(09年10~12月):フランシス・バーネットの『小公女』を原作に、全寮制女子高校での生活を描く。主演は志田未来。
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月曜ナビゲーター・宇野常寛 J-WAVE「THE HANGOUT」11月16日放送書き起こし! ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.456 ☆
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月曜ナビゲーター・宇野常寛J-WAVE「THE HANGOUT」11月16日放送書き起こし!
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2015.11.23 vol.456
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大好評放送中! 宇野常寛がナビゲーターをつとめるJ-WAVE「THE HANGOUT」月曜日。前週分のラジオ書き起こしダイジェストをお届けします!
▲先週の放送は、こちらからお聴きいただけます!
■オープニングトーク
宇野 時刻は午後11時30分を回りました。みなさんこんばんは、宇野常寛です。今夜は久しぶりに若者の性の乱れについてお話したいと思います。先日、僕は初めて乃木坂46の握手会に行ってきました。僕の中で、ここ半年くらい乃木坂46が盛り上がっていたんですよね。佐々木琴子さんと、北野日奈子さんと、齋藤飛鳥さんの3人とそれぞれ楽しく握手してきたんですけれど、最後の最後で、ちょっとした事件が発生したんですよ。
握手が終わった後に、グッズを買って帰ろうと思って、物販コーナーに行ったんですよね。そしたら、ポスターとかキーホルダーとかの欲しいものがものすごくたくさんあったんです。握手会が楽しかったせいで、僕テンションが高かったんだと思うんですよ。そのせいで、自分でもびっくりするくらいにやたらとグッズを買い込んじゃったんですよ。大きいポスター1枚と、クリアファイルとキーホルダーをそれぞれ2種類ずつ買いました。この日に握手券がとれなかった、秋元真夏さんと深川麻衣さんのグッズをしこたま買い込んだんですよ。いわゆる大人買いってやつですよね。気がついたら5000円以上買ってしまって、両手に持ちきれないくらいになっていたんです。でね、けっこう選ぶのにも時間がかかっちゃったせいで、同行人を、入口の方で待たせてしまうかたちになってしまったんですよね。
その日、僕は事務所のアルバイトをしている学生2人と一緒に来ていたんです。そのうちのひとりが、物販コーナーから僕が戻ってくるのを会場の入口で待っていました。彼の名前を仮にAくんとしましょう。あくまで仮名ですよ。そのAくんのところに、グッズを買い終わった僕が駆け寄ったら、彼がおしゃれな感じのカップルと立ち話をしているんですよね。その日の握手会の会場になっていたパシフィコ横浜では、乃木坂の握手会のエリアの隣で、アカペラのアーティストを主体とした音楽イベントのようなものがあったらしいんです。Aくんは、そこに来ていたカップルとばったり出くわしたらしいんですよ。
でね、そんなわけでAくんとおしゃれカップルが談笑しているところに、「たくさん買い込んじゃって遅くなっちゃった……」と言いながら僕が戻っていったら、そのおしゃれカップルは、両手に乃木坂46のグッズを抱えた僕を目にして、2人揃って仲良く失笑しているんですよ。もう、超ドン引きって感じで。僕が「Aくんの友達なんですか?」って聞いたら「ええ、まあ……」みたいな感じで、露骨に「こいつとは関わりたくない」オーラを全開で出しながら、言葉を濁してそそくさとその場から立ち去っていったんですよね。「これ以上このアイドルおたくどもと関わっていたら自分たちのおしゃれな休日が台無しになっちゃうわ」と言わんばかりの行動ですよね。いや、端的に初対面の人間に失礼だなと思うじゃないですか。そんなわけで、まあ世界にとっては極めてどうでもいい連中だと思うんですが、僕はこれから正義の鉄槌を下そうと思っているんですよ。今から。
その日起こったのは、わずか数十秒くらいのやりとりでした。ですが、その間に僕はひとつ重大なことに気がついたんですよ。僕が乃木坂グッズを持って話しかける直前、Aくんとそのカップルは談笑していた……と、先ほどは言いましたよね。その時のとあるふたりの態度が、ちょっと不自然だったんですよ。まずうちの事務所のアルバイトのAくん。彼は明らかに会話を早く打ち切ろうと内心焦っている様子でした。そしてカップルの女子。彼女の方は、なにか不自然な感じで上半身がそわそわしていて、口元が微妙な引きつり方をしていたんですよね。その瞬間に僕は確信しましたね。
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インターネットは考えるエーテルである(落合陽一『魔法使いの研究室』vol.4「メディア」) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.455 ☆
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インターネットは考えるエーテルである落合陽一『魔法使いの研究室』vol.4「メディア」
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.11.20 vol.455
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今朝のメルマガは、メディアアーティスト・落合陽一さんの連載「魔法使いの研究室」の第4回をお届けします。今回のテーマは「メディア」です。
人類は他人にものを伝えるために、壁画・甲骨文字・ロゼッタ・ストーン・土偶……様々なメディア装置を用いてきました。そんなメディア装置の歴史を振り返りつつ、インターネット時代の「メディア」の未来像を、幻の物質「エーテル」のイメージをヒントに語ります。
落合陽一『魔法使いの研究室』これまでの連載はこちらのリンクから。
※この連載は、PLANETSチャンネルでのニコ生講義シリーズ「魔法使いの研究室」(第4回放送日:2015年9月17日)の内容を再構成したものです。
◎構成:真辺昂
【11/27(金)発売!】
落合陽一『魔法の世紀』(PLANETS)
▼内容紹介(Amazonより)
〈映像の世紀〉から〈魔法の世紀〉へ――。第二次世界大戦が促したコンピュータの発明から70年あまり。人々が画面の中の現実を共有することで繋がる「映像の世紀」は終わりを告げ、環境に溶け込んだメディアが偏在する「魔法の世紀」が訪れる。
若干28才にして国際的な注目を集める研究者でありメディアアーティストでもある落合陽一が、今現在、この世界で起こりつつある決定的な変化の本質を、テクノロジーとアートの両面から浮かび上がらせる。画面の外側の事物に干渉をはじめたコンピュータがもたらす「来るべき未来」の姿とは……?
第1章 魔法をひもとくコンピュータヒストリー
第2章 心を動かす計算機
第3章 イシュードリブンの時代
第4章 新しい表層/深層
第5章 コンピューテショナル・フィールド
第6章 デジタルネイチャー
(Amazonでのご購入はこちらから!)【開催迫る!】学園祭イベント情報
明治大学の生田キャンパスで開催される「生明祭」で、落合陽一と宇野常寛が対談&公開収録!
日時:11月22日(日)13:00〜(12:30開場)
場所:明治大学生田キャンパス(中央校舎3階0311教室)
観覧無料・先着150名
生明祭公式Webサイト
落合 こんにちは、落合陽一です。魔法使いの研究室の第4回を始めていきたいと思います。今回のテーマは「メディア」です。
さて、いきなりですが、今回の講義にあたって僕は現代におけるメディアの本質について考えて、ひとつの結論を得ました。それは――「メディアは考えるエーテルである」というものです。
落合 いきなりこんなことを言われて戸惑ったかもしれません。みなさんは、エーテルってご存知ですか? エーテルというのは、19世紀ごろまで物理学において存在が信じられていた幻の物質です。その昔、物理学者はエーテルという物質が、空間のいたるところに充満しており、そのエーテルの上を光が伝わっていると考えていたんですね。
今となっては、物質を媒介しなくても光は伝わるということがわかったので、エーテルの存在は否定されています。
今日の講義では、そんなエーテルが現代におけるメディアのイメージに極めて近いということを語ってみたいと思います。そのために、いったん大昔に戻って、これまで人類が使ってきたさまざまなメディア装置を見ていこうと思います。われわれ人類は、他人に何かを伝えようと思ったとき、一体どんなメディア装置を用いてきたのでしょうか?
落合 これは以前の講義でも扱った、今から1万2千年前に描かれたラスコーの壁画です。壁画というメディアって、1万2千年前の絵をこうして残せているくらいに保存能力が高いんです。洞窟や古墳やピラミッドなど、蓋を閉じれば数千年レベルで保存できる。
そして単に保存能力が高いだけでなく、壁画はルネサンス期にも積極的に描かれていて、現代でもグラフィティアーティストがたくさんいることからもわかるように、メディア装置としてはまだまだ現役です。
でも、壁画って冷静に考えてみるとけっこう面白くて、持ち運びができない分、視点を変えたり体の動作を考えたりする必要があったり、画材も自由だし環境自体に描くことができる。プロジェクションマッピングも、ある種の壁画だと思います。だからこそ数あるメディアの中でも、壁画文化は根強く残っているわけです。
落合 どんどん次に行きましょう。これは、今から約3600年前に中国で使われていた「甲骨文字」というもので、亀の甲羅に文字が掘られています。さきほどの壁画と違って、持ち運べるというのが革命的に良い点ですが、彫るのにかなりの労力がかかりそうですよね。それにかさばる。
落合 甲骨文字の後にでてきた文字に、金文というものもあります。画像は金文を青銅器の表面に掘ったものです。青銅器もまた持ち運びができるけれど、刻印するのが大変です。あと、保存能力が比較的高いのも特徴ですね。
落合 さらに保存能力が高くて普遍性を獲得しているものでいうと、石があります。画像は紀元前196年に書かれたとされるロゼッタ・ストーンですが、現在でもお墓は石で作られていたりと、メディアとしてさまざまな用途に使われています。
ここでメディアとメディア表現の特徴について捉えてほしいのですが、普通に考えて青銅器や石に対して複雑な絵を描こうとは思わないですよね。実際に、甲骨文字も金文も単純で見るからに掘りやすそうな形をしています。しかし、例えば壁画にだったら精細な絵が描けるわけです。そんなふうに、石から出てくる表現と壁画から出てくる表現を比べると、明らかに異なる性質があることがわかります。つまり、メディアが表現を規定しているんです。
落合 ここで言う「メディア表現」というものは、別に文字や絵に限ったものではありません。これは世界最古の彫刻です。今から3万6千年前くらいに生き物の牙を彫ったものだとされています。これまで2次元の表現をみてきましたが、3次元の表現である彫刻もまた古来から存在しているメディアのひとつとして見逃せません。
落合 同じ3次元のメディアで、土偶というのもありました。これは紀元前1万3千年くらいから存在したとされていて、世界各地から出土しています。土偶は一度焼き固めてあるので固くて軽いという特徴があります。
それに加えて、土偶のいいところは表現が多様だというところです。土をこねるだけなので、牙を削って作るよりも、はるかに楽にモノがつくれる。これはすごく重要なことです。つまり、そのメディアにおける表現のしやすさは、表現の多様性をダイレクトに左右します。そういう意味で、僕は土偶は一番最初のCGM(※1)だと言えるんじゃないかと思うんですよ。
(※1)CGM:Consumer Generated Mediaの略。消費者が内容を生成していくメディアのこと。
同じ3次元ということでいえば、3Dプリンターはまだ敷居が高くて、ぜんぜん遊べないですよね。あれって現在の技術だと、出力するのにすごく時間がかかんですよ。ちょっとしたものを作るのに4時間とか。つくるのに時間がかかるものに落書きとかって絶対にしないですよね(笑)。だから、3Dプリンターがわれわれの日常に落ちてくるまでは、まだ時間がかかると思います。
その点粘土を固めて焼き上げる土器と言うものは、焼き上げに時間がかかったものの、制作段階では自由に形を作ることができた。我々の創造性にとってメディアの表現自由度は極めて重要なファクターです。
落合 さて、このあたりから一気にメディアっぽい話になっていきますよ。これはパピルスという、植物でできた紙のようなものです。カヤツリグサ科の植物の地下茎を水の中に入れた後、ローラーの間に挟み込んで圧縮して作ります。
パピルスは石系のメディアと比べると大きなメリットがあって、とにかく軽いし絵も描くことができるんですね。まあ、破れやすいという欠点はありますが。
なにより、これに「知」を蓄積することができるのが大きな利点でした。例えばエジプトの旧アレクサンドリアの図書館には、巻物状になったパピルスがたくさん刺さっていました。メディアと「知の蓄積」というものは不可分で、ものごとをたくさん記録することが可能になったことで、人間の知性が爆発していったわけです。
ちなみにパピルスくらいのメディアになると、例えば「最近の若者は働かなくてけしからん」みたいなことが、端っこに書いてあるらしいです。それくらい、自由な表現ができるようになってきます。さすがに石に対して「最近の若者は働かなくて……」とか、面倒くさくて書きませんよね(笑)。
落合 さて次です。かなり紙に近づいてきましたが、これは生き物の皮をなめして作る「羊皮紙」というものです。これを見て、みなさんはおそらく海賊が使う宝の地図を思い浮かべたと思いますが、その発想はあながち間違っていません。羊皮紙というのは持ち運べるし両面筆記が可能で、インクの乾きが遅いのでミスってもすぐ拭けば消すことができます。しかも紙より丈夫なんです。だから「重要だけれど持ち運びたい」という情報を記すにはもってこいで、海賊の地図はまさにそれに該当しますね。
ただ、羊皮紙ってかなり高価なものなんです。大量生産はできないですし、庶民が日常的に使えるものではありませんでした。
落合 そして次に登場するのがわれわれの大好きな「紙」です。一応断っておくと、紙って実はけっこう昔の紀元前150年くらいからあったんですが、ヨーロッパに伝わるのが遅かったんですよね。ヨーロッパ人はない知恵を絞りながら地下茎を接着して「破けるなあ……」とか言いながらパピルスを作ったりとか、必死こいて石に文字を掘ったり、羊の皮を引っ張りだしたりしていたんです。大変そうですよね(笑)。
紙はそれらに比べると持ち運びできるし、両面に書けるし、保存も良好というかなり最高なメディアなんです。
落合 あと紙に近いメディア装置としては、「キャンバス」が強いですね。キャンバスは布を張って絵を描くものですが、製法的にもかなり楽だし、大量生産ができて非常にリーズナブルです。15世紀ぐらいから使われ始めているんですが、これはかなり革新的なことでした。
というのも、それまで壁に絵を描いたりすると下地である岩の材質感が出てしまったりしたんですが、キャンバスはいちど表面塗りをすればほぼ平らな紙と同じになります。ほぼ平らということは、超繊細な表現をしても大丈夫なんですね。だから例えば写実画なんかはキャンバスじゃないと描くことができません。あと、壁画と違って持ち運びができるから、「絵を売る」ということも可能になりました。
これって、音楽がコンサートホールの中だけのものだった頃から、レコードを売るようになったのと同じような変化ですよね。それまで「場」のメディアだったものが、持ち運びできて売れるようになった。つまり「モノ」のメディアになったんです。
落合 さて、だんだん現代へと近づいてきましたので、いったん整理したいと思います。ここまで紹介してきたメディアを振り返ると、おおまかに言うと「手の技としてのメディア」と捉えることができると思います。人間の「手」を使って壁に絵を描いたり、石に文字を掘ったりしたわけですね。
それに対してこれから紹介するものは、「工学としてのメディア」ということができます。人間の手から離れて、メディアが機械に代替されていくのです。そこで何が大きく変わったか。キーワードは「複製」です。
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日本の大学ランキングはなぜ上がらないか? ――第2部 オクスフォード編スタート(橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第13回) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.454 ☆
2015-11-19 07:00220ptチャンネル会員の皆様へお知らせ
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日本の大学ランキングはなぜ上がらないか?
――第2部 オクスフォード編スタート
(橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第13回)
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.11.19 vol.454
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今朝のメルマガはイギリス留学中の橘宏樹さんによる『現役官僚の滞英日記 』最新回です。
渡英2年目となるこの秋、橘さんはロンドンからオクスフォードへとその居を移しました。今回より「オクスフォード編」ということで、この世界一有名な大学街からのレポートをお届けしていきます。
橘宏樹『現役官僚の滞英日記』前回までの連載はこちらのリンクから。
▼プロフィール
橘宏樹(たちばな・ひろき)
官庁勤務。2014年夏より2年間、政府派遣により英国留学中。官庁勤務のかたわら、NPO法人ZESDA(http://zesda.jp/)等の活動にも参加。趣味はアニメ鑑賞、ピアノ、サッカー等。
こんにちは。橘です。みなさまいかがお過ごしでしょうか。日本は陽もだいぶ短くなって、秋めいて来たと聞いております。こちらは日光が当たっている場所だけは多少暖かいものの、朝夕の冷え込みは段々と厳しくなってきまして、夜中に自転車を漕ぐ時はちょっと手袋が欲しくなってきました。
さて、僕の方は、この9月にロンドンからオクスフォードに引っ越してきました。というのも、2年目はオクスフォード大学に通うからです。ロンドンでは学んでいた大学名を伏せながらもお伝えできることがたくさんあったのですが、オクスフォードは大変個性的な大学街ですから、ここが何処かを隠しながら何かをお伝えするのはさすがに苦しいものがあり、また、世界に冠たるオクスフォードでの教育、教授陣や学生、街や人々の様子はどのようなものか、ロンドンや日本の大学とも比較しつつ僕なりの視点から体験談をご報告することには意味がありそうとも考えました。
というわけで、第1部ロンドン編は前号で閉じ、今号より第2部オクスフォード編の開幕ということで引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
また、今後は、本稿の内容(過去記事も含む)に関して、皆様からのご質問や、今後取材して欲しいことを受け付けたいと思います。こちらのフォームまたはTwitter(@ZESDA_NPO)にお寄せいただければ、できるかぎりお応えしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
■ オクスフォードの街の様子
オクスフォードはとてもコンパクトで静かな街です。まず、緑が非常に豊かです。大学所有の庭園では手入れの行き届いた植え込みに多種多様の花々が咲き、リスが走り回っています。象牙色とも蜂蜜色とも呼べる分厚い石造りの壁面のところどころを蔦の蔓がびっしりと覆い、古めかしさを際立たせています。秋が深まるに連れて端から赤く染まっていく蔦の葉は大変美しいです。学内の庭園やラグビーのグラウンドでは植え込みのブラックベリーやリンゴ、栗の実が成り、木々の間をリスや飼い猫達が走り回っています。また、テムズ川の上流域でもあるので、街の裏手を小川が流れておりパンティング(ボート遊び)が楽しめます。
パンティングというと、華麗な建物群を岸辺に眺めることができてイケメン学生バイトが船頭しながらガイドもしてくれるケンブリッジのものが有名だと思いますが、オクスフォードの方は、オフィーリアでも流れてきそうなほど静まりかえる林の中を客が自分で漕ぐ形式です。
岸辺のベンチでは老学者が本を読み、多くの水鳥が人を怖がらず泳ぎまわっています。木立の向こうには牧場の牛も見えます。
オクスフォードの街中は、土日になれば往来する人々は少し多くはなるものの、ロンドンに比すれば圧倒的に少なく、歩くスピードもそんなに早くありません。そして多人種がひしめきあうロンドンに比べると、白人が多い印象です。学生はもちろんですが、お年寄りも多いです。ほんの300メートル程度の歩行者天国の目抜き通り周辺が、いわゆる銀座というか、「シティセンター」と呼ばれる中心となっています。最も伝統あるカレッジ群や図書館や博物館、役所などもこの辺りに集中しています。歴史上の著名人らが集ったと言い伝えられる古いレストランやカフェも、おそらく往時と変わらない佇まいで散在しています。
中心部から北に進むと、道沿いに、赤や茶色の煉瓦造の洋館群が並びます。色調や建築様式に統一感を感じさせつつも、一軒一軒が豪華で個性的なデザインです。大半が学部やカレッジの所有物であり、数人の学生がシェアして住んでいたり、教職員が家族と住んでいたり、学内のクラブや組合が活動拠点として活用していたりしています。
▲オクスフォード大学の建物は「象牙色系」と「赤煉瓦系」の2つものに大きく分かれます。こちらは象牙色系。左は大学の最も象徴的な建物、「ラドクリフ・カメラ」。
▲赤煉瓦系。オクスフォード大学所有の建物のひとつ。このような建物群から街と大学が構成されています。
また、オクスフォード駅の東と西では、大きく雰囲気が異なります。オクスフォード大学の建物群が立ち並び住民や観光客が往来する上述の地域は全て東側です。対して西側は、まっすぐに伸びる車幅の広い道路の両脇に、比較的新しい一戸建てや農園、巨大な駐車場を備えたホームセンターが立ち並んでいます。何となく、日本の地方の国道沿いの風景を思い起こさせます。
オクスフォードには地下鉄や路面電車などはありません。バスが便利ですが、ロンドンに比べると多少割高です。学生の大半は自転車を使っており、そこら中に駐輪されています。ロンドンからのアクセスは当日券だと電車で片道約1時間・往復約25ポンド(約5000円)、バスでは片道100分で約20ポンド(約4000円)です。回数券を買えばさらに安く済みます。ロンドンからの終電は0時半頃、最終バスは深夜2時発のものまであり、両方とも車内で無料wifiが使えるのが便利です。ロンドン〜オクスフォード間の距離は約60マイル(95km)で東京駅から静岡県の熱海駅までとほぼ同じですが、体感距離はもう少し近いと言ってよいでしょう。
住まいに関しては、僕はカレッジの寮に入りました。ロンドンで住んでいた寮より少し安い家賃で、広さは2倍くらいあります。街の中心部から自転車で15分くらいの場所にあって、一際静かです。窓の外は植え込みに囲まれていて、蜘蛛が毎朝新しい巣をつくっています。多少陰気臭いかも知れませんが、非常に気に入っています。
というのも、この1年間は、大学の授業や課題がかなり盛り沢山だった上、オクスフォードの受験準備もあり、さらにロンドンにいるうちに得られるものを得なければという急いた気持ちから様々な課外活動に取り組んでいましたから、正直言って、疲弊しました。前頭葉がいつも微熱を帯びているような感覚がいつも拭い切れませんでした。ノイローゼというほどではありませんが、街の喧騒に苛立ちながら過ごしていましたから、今ここにきて、本当に癒されています。とはいえ、今週からこちらでもまた厳しい学業の日々が始まるわけなのですが。
▲学生のほとんどは街の足に自転車を使っています。
▲セント・マリー教会の展望台からの眺望。高い建物はほとんどありません。
▲中庭のリス
■ カレッジは「村」そのもの
オクスフォード大学のカレッジ制度については、第2回でも少し触れましたが、すべての学生は学部やコースと同時に、38個ある「カレッジ」(または6つのキリスト教系の「ホール」)という組織のどれかに所属します。これは二重に学校に所属するイメージで、コースの指導教官とカレッジの指導教官から、それぞれ指導を受けることになります。
オクスフォードとケンブリッジの、特に学部生の教育においてはこのカレッジが中心的な役割を果たしていて、全寮制の下で全人格的な教育が行われます。
ちなみに、ケンブリッジ大学では、カレッジ間の経済力や施設の善し悪しなどに格差が激しいと聞いていますが、オクスフォード大学は多少差はあるようですがそれほどではないように聞いています。とはいえ、なんとなくですが、過去数百年に首相を何人も輩出したような最も伝統ある類のカレッジはイギリス人でエリート高校を出ていないと入れなさそうですし、一方、設立年も新しく、建物もコンクリートで、少し郊外に立地するカレッジは、多国籍文化でオープンな雰囲気がある、といったカラーの違いはかなりあるように思います。
・橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第2回 : 君臨するか、受け止めるか、教え方のスタイル ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.195 ☆
僕もカレッジはどういうものか、一応事前にある程度聞いていて想像もしていましたが、実際、カレッジの寮に入って約1ヶ月が過ぎた今、あらためて体感しているのは、ここだけでひとつの「村」だと感じられることです。生活とコミュニティがこのカレッジの建物のなかだけほとんど完結してしまえるのです。全体で何人が住んでいるのかまだよくわかりませんが、数百人の老若男女が生活していると思います。学生のみならず、大学の教職員や様々な持ち場で働く大学の従業員が家族と一緒に暮らしています。
カレッジには多種多様な施設が揃っています。誰もがくつろげるコモンルームやランドリー、自販機などはロンドンの寮にもありましたが、こちらは教育機関ですから、講演などが行われる大ホールのほか大小のゼミ室があり、カレッジの幹部の教授らのオフィスも並んでいます。
コモンルームでは無料でコーヒーが飲めますし、置いてあるテレビはスカイTVに加入しているので欧州サッカーを見ることができます。ピアノが置いてある音楽室、大小さまざまな工具が備え付けられた工作室、非常に整備されたサッカーグラウンドやテニスコートのほかBBQ場、さらには春夏は非常に美しかろう花園があります。多目的室ではヨガの講習があったり、色々な宗教の儀式が行われています。かなり大きな図書室もあって事実上24時間勉強に使えるのがとても便利です。書架のラインナップは専門書というより伝記や歴史、アート、文学小説など人文学系が大半です。
大きな食堂は値段は高くも安くもないですが、毎日朝・昼・晩と食事ができますし、バーも併設されていて毎晩賑わっています。さらには全員が徒歩5分内の病院と歯医者に登録して医療サービスも受けることができます。特に保育園まであることには少し驚きました。
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アメリカ西海岸より愛をこめて──自動車改造文化の金字塔「バハバグ」(根津孝太『カーデザインの20世紀』第4回) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.453 ☆
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アメリカ西海岸より愛をこめて──自動車改造文化の金字塔「バハバグ」 (根津孝太『カーデザインの20世紀』第4回)
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.11.18 vol.453
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今朝のメルマガはデザイナー・根津孝太さんによる連載『カーデザインの20世紀』第4回をお届けします。前回はおおらかで夢見がちなアメ車文化の象徴としてバットモービルを取り上げましたが、今回はアメリカ西海岸のカウンターカルチャーを源流とする自動車改造文化「バハバグ」に焦点を当てます。ユーザーたちのDIYスピリットの結晶であるこの「バハバグ」をテーマに、車というものに宿るプリミティブな魅力を考えます。
根津孝太『カーデザインの20世紀』これまでの連載はこちらのリンクから。
▼プロフィール
根津孝太(ねづ・こうた)
1969年東京生まれ。千葉大学工学部工業意匠学科卒業。トヨタ自動車入社、愛・地球博 『i-unit』コンセプト開発リーダーなどを務める。2005年(有)znug design設立、多く の工業製品のコンセプト企画とデザインを手がけ、企業創造活動の活性化にも貢献。賛同 した仲間とともに「町工場から世界へ」を掲げ、電動バイク『zecOO (ゼクウ)』の開発 に取組む一方、トヨタ自動車とコンセプトカー『Camatte (カマッテ)』などの共同開発 も行う。2014年度よりグッドデザイン賞審査委員。
◎構成:池田明季哉
ひょっとしたら、今回取り上げるバハバグという車は、ご存知ない方も多いかもしれません。これは連載の第2回にも登場した「フォルクスワーゲン・タイプ1」を不整地走行用に改造して作られたバギーカーの総称で、普通に市販されている車ではありません。その個性的な可愛らしくも力強いデザインに宿った、今失われつつある車の別の可能性について語ってみたいと思います。
(出典)
(出典)
■ 荒地を1600km疾走するマシン
バハバグは「バハ1000(baja1000)」というレースに出場する「バギー(buggy)」と、フォルクスワーゲン・タイプ1の愛称である「ビートル=虫=バグ(bug)」をかけて「バハバグ(baja bug)」という名前になったと言われています。バハ1000はアメリカのカリフォルニアの南、メキシコのバハ・カリフォルニア半島を縦断するレースで、その名の通りコースはおよそ1000マイル(約1600km)。コースと言っても舗装など一切されていない、砂漠に近い荒野です。不眠不休でこのコースを走り、走行時間は20時間以上、完走率はなんと半分程度と、世界で最も過酷なレースと呼ばれています。バハ1000は改造元の車種などによっていくつものカテゴリーに分かれているのですが、このタイプ1を改造したバハバグはそれだけでひとつのクラスになっているほどの人気ぶりです。
▲コースを走るバハバグ。過酷な環境であることがよくわかる。(出典)
もともとバハ1000は、北米大陸で行われていた草レースがその発祥と言われています。20万人を動員する大規模なレースになった今でも、個人がたくさん参加しています。車のレースはどうしてもお金がかかるので、みなさんが普段目にするF1やWRCのような大きなレースは、基本的にスポンサーが入って大きく資本を投入しているものばかりです。バハにももちろんスポンサーは入っていいるのですが、他のレースに比べればその商業化の度合いは低いと言えるでしょう。参加者もエンジニア兼ドライバーとして参加する人が多く、基本的には自分の車を改造し出場して楽しむ稀有なイベントなのです。
■ 機能の追求が可愛い見た目を生んだ
バハ1000を攻略するために生まれたバハバグは、非常に個性的なデザインになっています。もちろん個人の改造車なのでいろいろな仕様があってそれぞれの魅力があるのですが、「これぞバハバグ!」という代表的な仕様はなんとなく決まっています。
まず、一番目につくのはその巨大なタイヤでしょう。でこぼこの荒地を走るので、車高を上げて車体が地面にぶつからないようにしなければいけません。つまり、悪路の走破性を高めるための改造なんです。外見からすぐにはわかりませんが、道のでこぼこに合わせてサスペンションも大きく上下に動くようになっています。
タイヤのサイズを上げてサスペンションのストロークを取ると、タイヤがフェンダー(タイヤを囲うように取り付けられた泥よけ)にぶつかってしまいます。そこでフェンダーを切ってしまうわけですが、本来そこについているライトをどこかに移動させなくてはなりません。そこで多くのバハバグでは、ボディ前面にふたつのライトを並べています。この寄り目のデザインがとても可愛いですよね。
▲特徴的な寄り目が愛らしい。(出典)
また、後部のエンジンはだいたい剥き出しになっています。思い切ったデザインですが理由は明確で、空冷エンジンなのでカバーで覆っていると冷えないのですね。暑いバハ・カリフォルニアを不休で走り続ける過酷なレースに合わせた改造です。また、故障したときにすぐに修理しやすいという整備性の問題もあるでしょう。
▲完全に露出しているエンジン。写真のように、一応パイプで保護しているものも多い。(出典)
こうして出来上がったバハバグのデザインは、タイヤとエンジンと人という、車のプリミティブな要素を剥き出しにしたものになっています。鳥山明さんの漫画に出てくるメカや、チョロQのようなディフォルメ感も感じられるのではないでしょうか。過酷なレースに適応するためであれば「いかつい」デザインになっていきそうなものですが、逆により可愛くなってしまっている。こんなユニークなデザインはなかなか他にありません。
■ なぜバハバグは「バグ」なのか
バハバグがこうしたデザインになっていったのは、フォルクスワーゲン・タイプ1という車の素性も関係しています。そもそもカリフォルニア半島でスタートしたこのレース、なぜ外国車であるドイツ車が改造されるようになったのでしょう。当時の王道アメリカ車であるフォードやGMがベースになっても良さそうなものです。
最も大きな理由は、タイプ1の基本設計が優れていたことです。この連載の第2回でもお話しさせていただいたように、ポルシェ博士がヒトラーの国民車構想に応える形で練り上げたタイプ1は、車としての基本性能が優れているだけでなく、シンプルで耐久性が高く、専門知識を持つメカニックでなくとも手を入れやすい構造だったのです。
タイプ1はエンジンのあるリアセクションやフロントのサスペンション、ステアリング機構などが全てユニット化されています。ユニットごとにカスタムしたりパワーアップすることが容易である、という優れた特徴を持っていたんです。それゆえ、改造を施していくときに、ひとつひとつの機能が主張する形になっていった。これが真面目な理由です。
もうひとつ、なんでも真面目な理由の裏には、真面目じゃない理由があるものです。タイプ1のような可愛いらしいものがバカでかいタイヤを履いて荒地を走るなんて、燃えると思いませんか? 「こいつ可愛いのにすごい!」という感動が、カリフォルニアの男たちにタイプ1を選ばせたのだと僕は思っています。
■ ヒッピー、シリコンバレー、そしてバハバグ
バハ1000は1967年にスタートしたレース。バハバグは70年代がその黄金時代です。70年代アメリカ西海岸でフォルクスワーゲンと言えば、ヒッピーたちがサイケデリックなペイントを施した、フォルクスワーゲン・タイプ2が有名です。デザインは全く違いますが、同じ時代と場所を背景に生まれてきたという意味では、通じるところもあるように思います。
▲サイケペイントのフォルクスワーゲン・タイプ2。ヒッピームーブメントの象徴となった。(出典)
現在、アメリカ西海岸発祥のカウンターカルチャーは世界中で大きな影響力を持っています。AppleやGoogle、最近ならFacebookもそうですが、こうした世界を変えた錚々たるIT企業の本拠地シリコンバレーは、西海岸文化を象徴する存在です。スティーブ・ジョブズが率いた創業期のAppleは、ガレージで組み上げたコンピュータを売ることで誰でもコンピュータを手にできる時代をもたらそうとしました。こうした「何でも自分でやってしまう」という西海岸のDIY精神が、今の情報産業の爆発的な発展の基礎を作り上げたことは間違いありません。現在の僕たちの生活は、こうしたカルチャーの大きな影響を受けているのです。
僕が西海岸に行ったとき、「スワップミート」と呼ばれる市場がありました。ボロボロのジャンクをみんなで持ち寄って交換するのです。そこで古いApple IIを買ったのですが、これがちゃんと動くんですね。誰が買うの? と思うようなパーツがあっても、必ず誰かが買っていくんです。非常に西海岸らしい光景だなと思いました。
▲スワップミートの様子。もちろん西海岸以外でも行われている。(出典)
僕はこうしたアメリカ西海岸のDIYカルチャーとバハバグは、同じような感覚を共有しているように思います。もちろんレースで勝つことも大事なのですが、「やっていること自体が楽しい」というのが肝なんです。だからパーツを交換し合ったり、「どんないじり方をしたの?」というお互いの交流を通じて、濃いコミュニティが出来上がっていったのだと思います。
スティーブ・ジョブズが学生時代にヒッピーカルチャーに傾倒していたことは有名ですが、バハバグ文化において外国車であるフォルクスワーゲンが改造のベースに選ばれたことも、そういったカウンターカルチャー的な意識があったからではないかと思っています。メインストリームのアメ車ではなく、あくまでアメリカではサブカルチャーであるドイツ車のフォルクスワーゲンを改造するからこそ面白いというわけですね。70年代、まだおおらかさが残るアメリカでは、方向性はいろいろあるにせよ、自由を表現することが許されていた。その自由を表現する対象のひとつとして車が選ばれていたと言えるかもしれません。
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【新連載】大見崇晴『イメージの世界へ 村上春樹と三島由紀夫』序章 世界の終わりとイメージの世界で ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.452 ☆
2015-11-17 07:00220ptチャンネル会員の皆様へお知らせ
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【新連載】大見崇晴『イメージの世界へ 村上春樹と三島由紀夫』序章 世界の終わりとイメージの世界で
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.11.17 vol.452
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今朝のメルマガでは大見崇晴さんの新連載『イメージの世界へ 村上春樹と三島由紀夫』第1回をお届けします。1970年に三島由紀夫が遺作『豊饒の海』で設定し、2012年に村上春樹が『1Q84』で克服しようとした「終わり」とは何なのか。序章では、三島の戦後の足跡を辿りながら、終生抱え続けていた虚無について論じます。
▼プロフィール
大見崇晴(おおみ・たかはる)
1978年生まれ。國學院大学文学部卒(日本文学専攻)。サラリーマンとして働くかたわら日曜ジャーナリスト/文藝評論家として活動、カルチャー総合誌「PLANETS」の創刊にも参加。戦後文学史の再検討とテレビメディアの変容を追っている。著書に『「テレビリアリティ」の時代』(大和書房、2013年)がある。
「旗は汚らしい風景をめざし、おれたちの田舎ことばが太鼓の音をかき消す。
「都市という都市で、破廉恥きわまりない売春をはびこらせてやろう。理詰めの反抗などは踏みつぶしてやろう。
「胡椒まみれで水浸しになった国々へ!――産業上の、あるいは軍事上の、極悪非道の開発に仕えるために。
「別れをいおう、ここで、いやどこででも。この熱意のために駆り出された新兵であるおれたちは、情容赦のない哲学を身につけるだろう。科学にかけては無知蒙昧、安逸にかけては放埒三昧。こんな世界など吹っ飛んじまえ。これこそ、ほんものの前進だ。前へー、進め!」
――アルチュール・ランボー「民主主義」
イリュージョニズム;錯視法 Illusionism
美術が錯視によって成立するのは、人為的なものを本物と思い込ませようとするからである。壁に掛かった風景画がまったく本物の風景となる。教会堂のドームに描かれた像が鑑賞者にとっては特別に観ることを許された天界の光景の一部となる。肖像が実際に呼吸する。あるいは、徒弟である画家が親方の作品の中に描き、親方が塗り消そうとする一匹のハエは、本物である。一房のブドウがあまりにも真に迫っているので、小鳥がついばもうとする。
――ポール・デューロ、マイケル・グリーンハルシュ『美術の辞典』
序章 世界の終わりとイメージの世界で
私には祖父が二人いた。それは比較的当然のことだった。近親婚でない限り、大抵祖父は二人いるものだ。
どちらの祖父も長生きだった。一人は父方の祖父で私が幼稚園児から小学生に上がるか否かの時期に亡くなった。もう一人は母方の祖父で、こちらはつい最近まで生きていた。若いころはフィリピンに出征して生き残った。
文壇の天皇とのちに呼ばれた作家・大岡昇平もフィリピンに派遣されていた。大岡昇平の代表作である『野火』や『俘虜記』、『レイテ戦記』といった小説は、彼自身の兵隊経験を題材とし、それを資料によって補い拡張したしたものとして知られている。おそらく母方の祖父は、大岡によって、数多くの兵士と同様に資料によって数字や文字として記録されたもの、小説の素材として処理されたのだろう。
今では戦地においても使用されないが、第二次大戦中、兵隊の脚に巻きつける包帯のようなものがあった。これは脚絆(ゲートル)と呼ばれる。足の疲労や外傷を防ぐために利用された。南方戦線(フィリピン)に出向いた兵士の脚にも脚絆は巻かれた。だが、学歴も知識も無い兵士の多くはその利用価値をよく知らなかった。脚絆の巻き方は自然と緩いものとなり、シラミや蚊を媒介にした感染症を防ぐ役割を捨て、むしろ害虫の温床ともなった。多くの兵隊がそのようにして疾病にかかり命を落とした。さる大物政治家の秘書を務めた人物から、私は第二次世界大戦の一挿話としてそのように教えられた。その人物は南方戦線の生き残りだった。戦中からエリートとして生きてきた。戦地から日本に戻ると複数の官庁から暴力団まで引く手数多だった。エリートの殆どが戦争で死んでいたからだ。だから大物政治家の秘書を勤めることになった。
母方の祖父は単なる一兵卒として日本に戻ってきた。戦地でマラリアに罹患したから、もしかしたら脚絆の役割など知らない兵士の一人だったのかもしれない。
私が祖父がマラリア持ちだと知ったのは妹が生まれる時だった。母の出産に伴って場合によっては輸血が必要になると医者から話を持ちかけられたのだが、母と同じ血液型だった祖父はマラリア持ちなので輸血が不可能だったのだ。一九八〇年代のことだった。あのころは「敗戦」がふとした瞬間に顔を覗かせることがちらほらとあった。県庁があるような街を歩けば傷痍軍人が目に入った時代だった。
二〇一四年に祖父は亡くなった。小柄ながら骨は太く、骨壷に納めるのが難しかった。幾つかの部位の骨に関しては砕いてから骨壷に納めた。亡くなる寸前まで祖父は頗る元気だった。よく肉を食べた。ステーキや焼肉、鰻のような脂が乗ったものを愛好していた。死の直前に鮭を食べたがったことに家族は驚いた。脂が乗っている魚よりも肉を食べ続けていたのに。もしかしたら歳のせいもあるんじゃないか。そんなことを話し合っているうちに間もなくして天に召されてしまった。
祖父は生涯戦争のことは一切語らなかった。戦地のことが話題になるように水を向けるととぼけたような顔をして、それから読売巨人軍のことしか口にしてくれなかった。ごく稀に戦地で世話になった人物の名前を時折思い出すように口にすることはあった。だが問い質しても具体的に何の世話になったか親族に明かすことは無かった。家族も問うてはならないと思った。
祖父の生涯を振り返ると、私は一人の人物を思い出す。三島由紀夫である。
この作家は祖父と対照的だった。祖父との共通点と言えば好んで牛肉を食べたことぐらいだ。戦地について語ることがない祖父とは反対に、死や武士道について余りにも饒舌だった。
三島は南方戦線に出兵するはずだった。三島と戦友になるはずだった兵士たちは、その殆どがフィリピンで死んだ。戦死することを覚悟しながら、三島由紀夫は出兵前に高熱を患い戦地に赴かなかった。もし三島が戦地に出征し、生き延びていれば祖父や大岡昇平といった俘虜達と肩を並べていたかもしれない。だが、三島は高熱を発症し、戦地へ赴くこともなく日本で終戦を迎えた。
三島由紀夫は死ぬこともなく、俘虜になることもなかった。
高熱が引いたあとの三島は、戦争の終わりを、この世の【終わり】を、待ち望んでいた。
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