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  • 「ショートムービー以降」のインターネット(後編)|天野彬

    2023-05-30 07:00  
    550pt

    本日のメルマガは、マーケターの天野彬さんと宇野常寛との対談をお届けします。 TikTok特有のサービスとしての特徴を分析しながら、「ショートムービー」がコンテンツ業界や言論空間にどのような影響を与えるか議論します。 前編はこちら。 (構成:徳田要太、初出:2022年5月24日(火)放送「遅いインターネット会議」)
    情報との出会い方
    宇野 「タグる」というキーワードが昔からありますが、この本でもすごく重視されていますよね。最初にこの言葉が定着したのはたぶんインスタだと思うんですが、インスタの「タグる」からTikTokの「タグる」への変化について聞いてみたいと思います。
    天野 僕が「タグる」を提唱するようになったのは2016年頃で、リサーチを通じて多くのユーザーがインスタで情報を探すようになっているとわかったんです。それがまず一つ面白いところだなと思ったんですよね。流行りのお店を探すのもGoogleで検索して探すのではなく、インスタで ハッシュタグを使って、パンケーキならパンケーキのお店を「#」を使って探していくと。ハッシュタグを使って自分で情報を手繰り寄せるように探すので、その掛け言葉として「タグる」という言葉がしっくりくると思いました。やはり今はもうGoogleで検索してもいい情報に出会えないみたいな状況がありますよね。それよりもSNSのほうがリアルで、しかも鮮度の高い情報が得られる。なのでみんな「ググる」から「タグる」になっているんだというのが、そこでの議論の要旨です。
     でもTikTokだとあんまりハッシュタグで情報を探すという感じでもなかったりするんですよね。TikTokは良くも悪くも全てが中動態的で、ほぼおすすめに頼るような状態なんです。つまり、能動的にハッシュタグを辿りはするんですが、それが完全に能動的かというとそうとは言い切れなくて、自分が見た動画や「いいね」の履歴からアルゴリズムがレコメンドする動画を受動的に受け取っているだけとも言えます。だから「タグる」というキーワードも、引き続きインスタで使われていたり、Twitterでも「#」をつけた情報が発信されたりするので、従来の形とは少し違う情報体系なのかなという気がします。
    宇野 僕はいつも「どうすれば、ほど良い偶然性を自分の生活や社会にインストールできるのか」ということを考えるんです。どうしたら自分がまだ知らないけれど興味を持っているものに出会えるんだろうと。そこで比較的僕がうまく使えば面白くなるかもしれないと思うのが、恐ろしいことに「アルゴリズム」なんです。もちろんAmazonのレコメンドはダメなんですが、メルカリやヤフオクなどの表示には意外と刺さるものがあって。僕はフィギュアオタクで「仮面ライダー」とか特撮系のものを集めているんですが、時々「このアイテム今まで意識してなかったけれど、意外といいじゃん」みたいなことに気づかされるの。つまり、ああいった中古市場の商品は、ユーザーが自分で写真撮って出品しますよね。だから宣材写真ではないんです。そうすると意外な魅力が伝えられて「あれ、意外とこのシリーズありじゃん。買って集めてみようかな」とか思ったりするんです。だから実は、二次創作とまではいかないけどユーザーが自分なりの視点で撮影したものやアップロードした情報が、アルゴリズムで示されるということが、今のところ僕は有効な気がしてるんです。人間とはまったく違う思考回路で、「人間だったら絶対にこれとこれ共通しないじゃん」というようなものが出てくるのが大事だと思っていて。いかに人の目や意識を排したシステムを組み込んでいくのかということが大事なのかなと思っていいます。
     なんでこんな話をしたかというと、けっきょくこのショートムービーもコミュニケーションの一つのベースになってきているというのは間違いないと思うからです。インスタがスマートフォンで撮影した写真を人間のコミュニケーションのかなりの部分を占める基礎単位にしたのと同じくらいのことは起こるでしょう。その世界の中で、いかにいま僕が言ったように、人間を創造的にする偶然性を、この状況を逆手に取って社会にインストールしていくのか、天野さんはどう思っているのかと聞きたいんですよ。
    天野 メルカリはたまに僕も使うんですけど、ひとつのフォーマットのようなものがある気がしていて。古着はよくチェックするんですが、やはり撮り方や商品の紹介の仕方には型があると思います。型があるということが、多くの人の発信や創造性を引きだしている面はあると思っていて、そういう意味ではショートムービーでは動画を作りやすいという利点があります。発信のハードルを下げて、そこにズレを内包させてどんどんコンテンツを生成させることで、偶然性を招きやすくしているわけですね。セレンディピティが訪れるかどうかは試行回数と密接に関係しているので。
     情報の発信のしやすさが、確率的に良いものを生み出させるうえですごく大事で、TikTokだと音楽を乗せて簡単に誰もが動画を作れるとか、ミームと呼ばれるフォーマットがあったりします。模倣の連鎖によってカルチャーが根付いていったり、みんなの発信の中からわずかな差分で新しいものが出来てきたり、そういうことに繋がっていくのかなという気がしています。もちろんその型の先に守・破・離があることは大事なんですが。
    TikTokと言論活動との相性
    宇野 なるほど。少し視点を変えると、冒頭で「言論活動とショートムービーとの相性をどう思うか」と質問していただきましたが、僕はここに関してかなり危機感を覚えています。今の文字ベースのTwitter言論は明らかに正しく機能していないですよね。だからそこに当然未来はないと思うんですが、じゃあTikTokなりのショートムービーが主体になったときに、僕が思ったことが一つあります。山本太郎と宮台真司が戦ったときに、宮台真司に勝ち目はあるんだろうかと。山本太郎に絶対勝てない気がするんですね。つまり語り口だけが意味がある世界がそこに爆誕した結果、エビデンスや論理性とかいったものがほぼ完全に度外視される世界が到来してしまうんだと思うんですよ。
    天野 そうですね。今の例えがちょっと絶妙すぎて、確かにそうだなと思ってしまいました。あとはいわゆるひろゆきさん旋風もその視点から分析できますね。彼自身が「切り抜き動画の原液」になったことで、ショートムービーの素材になったのが知名度獲得に寄与した。ひろゆきさん特有の話法も効果的だったわけで。やはり短い時間である分、議論の詳細な内容よりはインパクトのあるワードとかパフォーマンスに視聴者がどういう印象を持つのかが重視されますよね。
     あとはTikTokってコメント欄でみんながどう思っているのかがけっこう可視化されるんです。40代か50代くらいの意見がYahoo!ニュースのコメントに象徴されているとすると、10代後半から大学生の子にとってはTikTokがその場になってるんですよね。ニュースのちょっとした映像に対してみんながコメントで何を言っているかによって自分の考え方にある種のバイアスがかかるというか、「みんながこのニュースについてすごい叩いているから、やっぱりこれダメなんだな」というふうに思うようなところがあります。だからそういう意味では話し手のパフォーマンスの印象によって言論の質がかなり影響されやすいと思います。字幕をどう入れるかとか、音楽とか、盛り上がりを映像的にどう表現するかとか、そういう勝負になってしまうんだろうなとは思います。
     TikTok上でいわゆる言論活動をしている人はまだあまりいないですけれど、わりと知識啓蒙系のような人はまぁまぁ出てきていて。多くの人が関心ある、それこそダイエットの話題から、人間関係を良くする心理学とか、そういう知識紹介系の人はいるんですが、やはり専門家からするとエビデンスが怪しいと突っ込まれるクリエーターとかも少なくありません。そういう人たちが耳障りの良いキーワードをでかい級数で字幕に出したりして、ちょっと効果音とかを付けるとどうしても「そうかも。」なんて思ってしまうようなマジックがあったりして。しかもTikTokでは画面占有がそれだけなので没入してしまう。
    宇野 どうしたらいいんですか? 僕らのようなオールドタイプは。ファンネルとか飛ばせないタイプは。
    天野 (笑)。でもTikTokをやりつつも、TikTokだけで完結する人は実はあんまりいなくて。リンクからYouTubeに飛ばす人もいれば、人によってさまざまですが、TikTokはそういうショートムービーの話法は話法としてあるとして、何かそこだけでというよりは、何か別の場に移してコミュニケーションしたり啓蒙したりするケースが多いです。Twitterも同じで、結局140字で語れることには限界がありますが、そこからnoteに誘導するなりすれば伝わる人には伝わるわけですよね。ショートムービーはいろいろなものの入り口ではあるんですけど、そこが本体かどうかはまた違う話で、でも入り口としては有用だということですかね。TikTokだけに全てを背負わせてしまうのも酷かなという気もするので、そういう組み合わせが大事だとは思います。
     
  • 「ショートムービー以降」のインターネット(前編)|天野彬

    2023-05-23 07:00  
    550pt

    本日のメルマガは、マーケターの天野彬さんと宇野常寛との対談をお届けします。 TikTokに代表される「ショートムービー」はインターネットをどう変えたのか。TikTokとそれ以前のSNSとの違いを比較しながら議論します。 (構成:徳田要太、初出:2022年5月24日(火)放送「遅いインターネット会議」)
    宇野 本日は「ショートムービー」をテーマに対談を企画しました。10代を中心に若い世代の消費行動に圧倒的な影響力を持っていると言われる、TikTokをはじめとしたショートムービーですが、僕たちの世代からすると別世界にも思えるこの新世代の利用スタイルをどう受け止めるべきなのか。近刊『新世代のビジネスはスマホのなかから生まれる』で注目の、天野彬さんと議論していこうと思います。天野さん、よろしくお願いします。
    天野 よろしくお願いします。
    宇野 早速ですが天野さんには自己紹介を兼ねて、『新世代のビジネスはスマホのなかから生まれる』の内容を簡単にご紹介いただければと思います。
    天野 はい。それでは本の内容をかいつまんでお話しさせていただいて、この後のディスカッションの材料を提供させていただこうかなと思っております。僕はこれまでソーシャルメディアに関連する調査や、それをもとにしたコンサルティングなどの仕事をずっとしてきました。2019年には『SNS変遷史』という本を出版し、そのときにもPLANETSさんのトーク番組でお話しさせていただくなどして、書籍以外での情報発信活動もいろいろとさせていただいています。
    宇野 こういう紹介をされると、本当に広告代理店の研究スタッフが突然現れたような印象を持たれるかもしれないんですが、天野さんは経歴を細かく見たらわかるように、もともと人文社会系の訓練を受けている人なんですよね。そういうバックボーンがあってマーケティングの世界に入っていったタイプの人なので、僕ともかろうじて話せるみたいな(笑)、そういう関係があるんですよ。
    天野 そうですね。学生時代はいわゆる批評系の本も好きで宇野さんのご著書も読んでおりましたし、そういう人文系のエッセンスはこの本にも現れているかもしれません。帯の推薦文を書いてくださった方にはドミニク・チェンさんや眞鍋亮平さん、徳力基彦さんなど、人文アカデミズム系からビジネス系まで、あまり同列に並ぶことがない名前が載っている、少し不思議な本なのかなと思います。
     帯の裏には「TikTok売れ」とあり、これが本書の一つのキーワードになっているんですが、要するにTikTokで取り上げられたものが売れる、ものが動くということです。コンテンツが流行ったり、商品が売れたり、そういうことがたくさん起こっていて、それがなぜなのかということを大きなトピックとして論じています。
    ​​ この本の狙いとしては、一つには「SNS社会論」として世の中の一般の方々に訴求したいという思いがあります。まだまだTikTokも新しいテクノロジーなので、功罪いろいろな議論があると思いますが、僕としてはこういうものが社会にもたらすポジティブな面をどういうふうに描けるのか、それをどういうふうに見つけるのかというところに主眼を置いています。広告というのは、商品やサービスの良さはどこにあり、それが生活者にとってどんな価値になるのか、それを見つけて最大化してコミュニケーションするのがそもそもの大きな役割ですよね。
     あとはもっと特定の領域にグッとフォーカスしたものになりますけど、第二に「SNSマーケティング」の今の潮流はどうなっているのかという、企業の方々が大変興味がある分野も論じています。これまでの著作で論じてきたことも踏まえつつ、2022年現在の見取り図を提示しています。
     そして第三に「TikTokのすごさの分析」。ショートムービーの代表的なサービスであるTikTokのすごさがどこにあるのかということを、ユーザーベネフィットや、ユーザーの楽しさや価値、マーケティングオポチュニティの点から論じました。また「ソーシャルインパクト」という言葉を使いましたが、TikTokは若い人にとってはある種のカルチャーだったり、社会的影響を与える手段として使われている部分もあります。日本だとそうでもないですが、アメリカではソーシャルアジェンダや政治的なメッセージを発する場としても使われています。
     それぞれの視点から深堀りをしていって、せっかくなので宇野さんのようにTikTokを使ったことのない人にも興味を持ってもらえるような、そんな本にしたいなというふうに思って執筆しました。
     今日はせっかくの機会なので、4つほど宇野さんにお聞きしたいことを考えてきました。一つが、「そもそもTikTokってどうですか?」と。TwitterとInsagram、Facebookあたりは使っていらっしゃるのを存じ上げていますが、あまりTikTokは使われていないような印象があります。
     二つ目は率直に、この本のご感想も聞いてみたいということ。
     三つ目が、言論活動というものと、TikTokを含めたショートムービーとの相性、あるいはそれらが影響し合う環境をどうとらえているのか。このあたりはまさに「遅いインターネット」の問題と深く関係するところかなと思っております。
     最後に、TikTokが、広く日本のカルチャー内で流行ることによって、みんながこれを見たり発信したりすることによってどのような影響があるのか、お考えを聞いてみたいです。長くなりましたが、僕からは以上です。
    TikTokの持つ「中間性」
    宇野 まず最初の質問から答えると、ほぼ触ったことがないに等しい。本当に僕の私生活にも仕事の中にも入ってこない。でも、天野さんの本を読むとどれだけ流行っているのかわかりますよね。はっきり言うと自分の老いをすごく感じさせる存在です。僕の8歳下の天野彬としては、これは自然と触れるものなのか、それとも仕事として触れるものなのか、聞いてみたい。
     
    天野 そこは半々かもしれないですね。流行り始めたころに一度ダウンロードはして、コンテンツはいろいろ見ていました。でもたぶん宇野さんと同じ感想というか、「これはあんまり自分に縁がないものなのかな」と思ったところはあって。ただ、ユーザーが増えていくにつれて、「職業柄これはキャッチアップせねばならん」という、もう半分は義務感があったかもしれません。
    宇野 僕が普段どういうふうにSNSを使っているかというと、一番使っているのはFacebook。これは大半が仕事の連絡用です。Twitterはほぼ告知専用で、単に「今日は○○があります」とか「何日にこんな記事が出ます」と淡々と告知しています。インスタは完全に個人的なもので、ランニング中の風景や食べたもの、おもちゃの模型ばっかりを上げていて、要するに僕の好きな世界や僕の考える美しいものだけが並んでいるんですよ。主に使っているSNSはこの3つですね。
     こういう使い方をしてると、TikTokは完全に視界の外側にあるんです。だから、誰がどういうふうにこのSNSを使って、どう伸びてるのかというところを、いま僕が言ったような文脈を加味しながら話してほしいと思っています。
    天野 そうですね。Instagramは、いままさに好きなものだけを載せているとおっしゃいましたけれど、やはりみんなが好きなものをシェアしたり、それを深掘りしたりする場所ですよね。Instagram自体も公式で「好きと欲しいを作るメディア」だという説明をしています。そういう意味では、たとえば日本人はストーリーズ更新がアクティブですし、パーソナルなコミュニケーションに使われていますよね。
     Twitterはそういうパーソナルなものというよりは、やはり世の中全体の視点が入ってくる。「いまみんなが何を話してるのか」「何が話題になっているのか」とか、話題になっているものに対してのほかのユーザーリアクションを見たり、そこに入って盛り上がるみたいな、世の中視点が強いのがTwitterの特徴だと思います。
     TikTokは、おそらくどちらかというとTwitterに近いんですよね。みんながいま何に興味があるのかという視点がある。でもやはりTwitterとは決定的に違うところがあって、たとえば多くの一般的なSNSは自分がフォローしたアカウントを見るのが一般的な仕組みですが、TikTokはそういうわけではなく、ユーザーは「おすすめ」(タブ)を見るんです。つまり「いまこれが流行ってるよ」とか「あなたはこれが好きですよね」と機械がおすすめしたものを見る割合のほうが高いという調査結果が出ているんです。それはつまり、それまでのSNSのように好きなアカウントをフォローして見るというよりは、いま流行ってるものとか、自分が好きだと機械がおすすめしてくれるものをずっと見続けることで時間が溶けてしまうという視聴体験になっているわけです。自分からコンテンツを探さなくていい、ある種の手軽さがあって、少しテレビと通じるところがありますよね。インターネットは自分の欲しいものが探せる良さがあったわけですが、この両者の中間的な部分をカバーしています。つまり自分が今まで見てきたデータに基づいて、受け身でもたくさん情報が得られる。受動態・能動態に対して、國分功一郎氏の議論を踏まえて「中動態」と表現するのが適していると思いますが、、そういう新しい情報の体験になっているところもこれまでのサービスに対して優位性を持っているところです。
     
  • 今夜20:00から生放送!天野彬×宇野常寛「いいね!でつながる社会のゆくえ」2019.10.29/PLANETS the BLUEPRINT

    2019-10-29 07:30  
    今夜20時から生放送!「PLANETS the BLUEPRINT」では、 毎回ゲストをお招きして、1つのイシューについて複合的な角度から議論し、 未来の青写真を一緒に作り上げていきます。 今回のゲストは、電通メディアイノベーションラボ主任研究員の天野彬さんです。 この10数年で、人々のつながりだけでなく、政治の在り方までも大きく変えてきたSNS。 新著『SNS変遷史』で日本のSNSをめぐる環境変化を鋭く分析した天野さんとともに、 これからの社会のゆくえについて語ります。 ▼放送日時2019年10月29日(火)20時〜☆☆放送URLはこちら☆☆https://live.nicovideo.jp/watch/lv322567816▼出演者天野彬(電通メディアイノベーションラボ 主任研究員) 宇野常寛(評論家・批評誌「PLANETS」編集長) ファシリテーター:得能絵理子(スターハウスジャパン