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記事 21件
  • FPSが先導するグローバル・ゲームの転回〜『Halo』『ハーフライフ2』〜(中川大地の現代ゲーム全史) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.333 ☆

    2015-05-29 07:00  
    220pt
    【お知らせ】落合陽一さんの月イチ連載『魔法の世紀』ですが、次回は来月(6月)初旬に配信予定となります。楽しみにしていただいている読者の皆様には大変申し訳ございません。今しばらく、お待ちいただければ幸いです。

    FPSが先導するグローバル・ゲームの転回〜『Halo』『ハーフライフ2』〜(中川大地の現代ゲーム全史)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.5.29 vol.333
    http://wakusei2nd.com


    本日は、隔週連載となった『中川大地の現代ゲーム全史』最新回をお届けします。
    今回のテーマは、今や世界のゲーム市場のスタンダードとなった「FPS」。なぜ日本ゲームは覇権を失ったのか? 日本ゲーム市場の特殊性と、FPSというジャンルが成長し得た要因について振り返ります。
     
    「中川大地の現代ゲーム全史」
    第9章 和ゲー成長期の終わり/二極化してゆくゲーム産業
    2000年代前半:〈仮想現実の時代〉終期(6)
     
    前回までの連載はこちらのリンクから。
     
     
    ■ ゲームエンジンのオープン化が駆動したFPSの隆盛
     
     日本のゲームが、3DCGの時代に入っても2D時代からのゲームデザインを踏襲しつつ、ストーリーやキャラクター表現などの細部を拡充・複雑化させていく大作シリーズか、ワンオフ的な職人芸やゲームデザイン上のアイディアの新奇性で勝負する佳作に二極化して進化の袋小路に突入していく一方、アメリカを中心とした海外ではテクノロジーの進歩を直接的に投入するかたちでの右肩上がりの成長がリニアに継続していた。とりわけ『DOOM』や『Quake』で確立したFPSというゲームデザインは、本質的な骨格はタイトルによってほとんど変わることがなくとも、パソコン自体の急激なスペックアップに合わせたグラフィックや処理性能の向上を、身体的に実感できるベンチマークのような花形ジャンルとしてスタンダード化してゆく。
     メルクマールとしては、閉鎖空間内での撃ち合いだった『Quake』に対して広大なフィールドを舞台にした『Unreal』(エピックゲームズ 1998年)や、単なる撃ち合いではなく一人称視点でできる高度なストーリー表現を追求した『ハーフライフ』(バルブソフトウェア 1999年)が登場し、やがてこのジャンルの3大シリーズと称されるようになるタイトルが、1990年代後半には出揃っている。いずれも始祖の『DOOM』がそうだったのと同様、3Dでの空間描画や物理演算など、ゲームの基幹部分を構成するプログラムエンジンがオープン化され、多くの個人や他社にもライセンス供与されて利用された。単体タイトルに投じられた開発成果がそれだけに留まらず、汎用フォーマットとして共有されて裾野を広げるモーメントを持っていたことが、このジャンルの強みと言えるだろう。これらのゲームエンジンを基盤に、ユーザーが自主制作したMODの集積が製品化されるケースも登場し、例えば『ハーフライフ』のエンジンを流用しながらオンライン対戦に特化した『Counter-Strike』(バルブソフトウェア 1999年)がジャンル史的なインパクトを残している。
     
     FPSがこうしたスケールメリットを獲得した背景には、日本とは異なりパソコンゲーム市場全体が健在であったことや、ハッカーコミュニティの裾野の広さなどが、直接的な要因として挙げられる。ただし、より根底的な条件を問うなら、ゲームの〈仮想現実〉世界の構築において、実写的・自然主義的なリアリズムを志向する西洋近代型の遠近法的な空間認識が、われわれ日本人が想像する以上に強固な規範として根を下ろしている比較文明論的な前提を無視することはできないだろう。つまり、ゲームを進歩させる方向性として、「人間が知覚する現実そのものと見分けのつかない〝見たまま〟の体験に可能なかぎり漸近すべきである」というシンプルな理念が作り手と受け手の双方で自明に血肉化されているために、多くのティベロッパーが同一の方向を競って追求することについて、彼らには一切の迷いがない。
     翻って、日本国内のうるさ型のゲームマニアやエッジの立ったクリエイターたちは、宮本茂や飯野賢治などに典型的なように、えてして「美麗な3DCGの進歩は、ゲームそのものの面白さの本質とは関係ない。むしろ2Dドット絵時代のようなローテクな創意工夫の積み重ねによって、誰も見たことのないシステムや視聴覚様式を発明し、多様な遊びの体験を発明し続けることこそが望ましい」といった美学を抱きがちだ。こうした意欲が、1990年代の国産ゲームソフトのカンブリア爆発を促してきたのはこれまでの章で見てきた通りであるが、言うなれば常に個々の作り手たちが、一シリーズごとにリスクを背負って唯一無二の破壊的イノベーションを起こし続けねばらないという強迫観念に等しい。実際的にはそれは、2000年代前半には『ガンパレ』や『塊魂』などを最後に息切れを起こしたという結果からみれば、長くは持続しえない夢想に他ならないものだった。
     FPSを中心とする00年代の洋ゲーでは、そうした袋小路に陥ることなく、現実の物理法則という普遍的なレファレンスに準じたゲームエンジンによって、基本的な体験生成のシステムを規格化。その上で、バックストーリーの題材やビジュアルの質感、ゲームとしてのルール設計やレベルデザインの違いといった面での個性化と漸進的イノベーションの余地を残し、個々のタイトルがしのぎを削る競争環境が整う。こうした効率的な水平分業がなされたことで、和ゲー市場の停滞とは対照的な、持続的成長の礎が築かれたのである。
     
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  • 3.11が発見した新しい消費者像――コンビニエンスストアの商品戦略と展開から(坂口孝則) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.332 ☆

    2015-05-28 07:00  
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    3.11が発見した新しい消費者像――コンビニエンスストアの商品戦略と展開から(坂口孝則)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.5.28 vol.332
    http://wakusei2nd.com

     

    本日のメルマガは、調達・購買コンサルタントの坂口孝則さんによる論考です。テーマは「コンビニの文化地図」。すっかり私たちの生活に浸透し、プライベートブランド商品の開発や地域インフラ化などでも注目されるコンビニ業界。消費者ターゲティングのトレンド、商品開発、そして各社ごとの今後の取り組みまで、「文化としてのコンビニ」について考えます。
     
    ▼執筆者プロフィール
    坂口孝則(さかぐち・たかのり)
    調達・購買コンサルタント/未来調達研究所株式会社取締役/講演家。2001年、大阪大学経済学部卒業。電機メーカー、自動車メーカーに勤務。原価企画、調達・購買、資材部門に従業。2012年、未来調達研究所株式会社取締役就任。製造業を中心としたコンサルティングを行う。著書に『製造業の現場バイヤーが教える調達力・購買力の基礎を身につける本』(日刊工業新聞社)、『モチベーションで仕事はできない』(ベスト新書)、『仕事の速い人は150字で資料を作り3分でプレゼンする。「計って」「数えて」「記録する」業務分析術』(幻冬舎)など。
     
     
    ■ 社会のインフラとなったコンビニ
     
    ビジネスパーソンがスーツ姿でスーパーに行くのは躊躇しても、コンビニエンスストアならば行ける。パジャマ姿の女性がスーパーに行くのは逡巡するものの、コンビニエンスストアになら行ける。ちょっとした買い物から、日用品まで、私たちの生活はコンビニエンスストアと切り離せない。
     
    コンビニは現在1年間で約25,000人ものひとたちがストーカー被害、DV、不審者などから逃げ込むインフラとしての役割もある。さまざまな意味で私たちに身近なコンビニでは、どのような取り組みが行われ、コンビニはどこに向かおうとしているのか。
     
    そこで本稿では、まずはコンビニ各社が行う消費者ターゲティングの現在を分析した上で、各社の今後をめぐる展開の、その背後に見える大きなトレンドを探していく。
    高齢化と少子化、世帯の共働き化によって、消費者は近くの店舗で、仕事帰りに手間のいらない多様な食品を買い求める。コンビニは「冷蔵庫のアウトソーシングから」「キッチンのアウトソーシング」までを請け負うために、各社は日本最高の物流システムと、POSデータ等による商品企画を進めてきた。
    セブン-イレブンやローソンの戦略を見るのは、日本流通先端の状況を見ることでもある。
     
     
    ■ コンビニを取り巻く状況
     
    個別の戦略を見る前に、まずはコンビニ業界を取り巻く状況を確認したい。
     
    昨年末(2014年12月末)のコンビニ店舗数を見てみよう。日本全体に5万5139店ものコンビニエンスストアがある。業界1位はセブン-イレブンの1万7206店。そこからだいぶ差があり、2位はローソンの1万2119店、3位はファミリーマートの1万1170店だ。その後、サークルK、サンクス……と続く。ただし、それ以下は桁数も異なるため、コンビニ3強と称される場合が多い。
    コンビニは現在、市場規模約10兆円だ。これから、スーパーとの競争激化のすえ、スーパー(GMS含む)の市場規模20兆円弱の1割をさらに奪えば、まだ2兆円ほどの成長余地が残されている。消費税増税後は伸びが鈍化しているとはいえ、コンビニ3強の鼻息は荒い。
     
    コンビニの発祥については、大阪マミーとする説(昭和44年)、ココストアとする説(昭和46年)、セブンイレブンとする説(昭和49年)がある。
    マミーはスーパーマーケットとする向きもあるため、有力なのはココストアとする説だ。当時、スーパーマーケットの台頭で酒屋がどこも経営的な不調に呻吟していた。ココストアはいわば、彼らの救済を目的として組織され、酒屋の活性化を志向した。そして日本におけるコンビニエンスストアは他の小売フォーマットを凌駕して成長してきた。
     
    しかし、コンビニは、もちろん安穏とした状況にはない。
    これまで勝利してきたスーパーマーケットからの攻勢もある。とくにイオン「まいばすけっと」はコンビニエンスストアなみの敷地面積で、プライベートブランド「トップバリュ」を武器に低価格帯で闘いを挑んでいる。「まいばすけっと」を含む戦略的小型店事業の経営状況は良く、イオン本体との圧倒的なボリュームで、低価格・低コストを実現させてきた。イトーヨーカドーもこの小規模、低価格帯で進出を加速している。
     
    その中で、コンビニ業界各社が近年重視しているターゲティング戦略から、話を始めたい。それは、3.11をキッカケにしたものだった。
     
     
    ■ 3.11が引き寄せた新しい消費者――1.「女性」
     
    2011年の大震災時、これまでコンビニと縁遠かった層が来店し、それがリピートにつながった。同時にコンビニ各社も女性やシニアに焦点をあわせて集客戦略を練ってきた。全国の約5000万世帯のうち、共働き世帯が1000万世帯に至り、構成員が減少するなか、時短かつ少量をもとめる消費者にコンビニが照準を合わすのは当然だった。
     
    大手各社とも、戦略に違いはあるものの、前述の理由から、ターゲット消費者として大きく「女性」「シニア」を外すチェーンは見当たらない。そしてそのターゲティングゆえ、商品トレンドとしては、必然的に「健康」志向となっている。また、その「健康」志向の徹底ぶりとしては、ローソンが先行し、セブン-イレブン、そしてファミリーマート、他チェーン店とつづく。
     
    現在、女性客を増やすために講じられている施策は、「主菜」「スープ」「スイーツ」のいった三本柱が多い。
     
    まずは、「主菜」である。
     
    コンビニエンスストアの商品ラインアップとして少量かつ主菜の商品が目立ってきた。この変化こそ、コンビニ各社が女性向けを意識している特徴だ。というのも男性の消費者と違って、女性は複数食品を食卓に並べたいニーズが高い。具体的には、男性は一品でもじゅうぶんとするひとがいるいっぽうで、女性は三品以上を並べたいと志向する。おかずではなく、食卓の主役としての三品が求められる。
    セブン-イレブンは煮物の魚だけではなく、焼き魚も用意しだしているし、冷凍中華だけではなく麻婆豆腐のような商品に力を入れている。さらに、タンシチュー、牛肉煮などもある。面白いのは、食卓の主役になるものの、かといって、まな板が汚れるほど本格的調理は不要な点だ。焼き魚は皿に乗せて温めればいいし、麻婆豆腐もボウルに入れればいい(そして温めるだけでは再現できないもの。たとえばトンカツなどは商品化されていない)。
    また、ローソンも店内調理商品を意識的に拡大しており、惣菜にくわえ、レジ横で調理する揚げ物等の販売が伸びている。これも女性たちの調理代替需要を狙う。
     
    また、サークルKサンクスでは女性客のニーズをつかむために、「ごちそうデリカ」を拡充している。これは季節ごとの食材を使った惣菜で、店舗にあるフライヤーを使ってカウンター前で販売する。家庭の食卓にそのまま並ぶ食材を目指し、スーパーからの需要を取り込む。これは小口需要も同時に狙っていて、1パック100~200円ていどで、重量は約100gとしている。これからも同社は、女性を中心とした客層拡大を目論む。
     
     
    次に、「スープ」である。
    また、このところ、とくに冬場においてコンビニ各社は、コーヒーとスープで女性客を惹きつけようとしている。当初はコンビニ各社とも試験的に導入したスープだったものの、ローソンの「海老のビスク」「北海道コーンのポタージュ」、サークルKサンクスの「三元豚の豚汁」「10品目のミネストローネスープ」「あさりと野菜のクラムチャウダー」などが、いずれも好調だった。スープ市場が好調な理由は、女性の昼食が変化していることにある。お弁当や定食屋でのランチから、具材を工夫しスープを昼食として消費されるケースが多くなった。
     
    そして、最後は「スイーツ」だ。
    おなじく、これまで男性客比率が大半だったチェーンは、スイーツを活用し女性客を獲得しようとする。この傾向は、ほぼすべてのチェーン店で見受けられる。
    たとえばミニストップはポップなロゴマークのいっぽうで、ほとんどの来客(約7割)は男性となっていた。そこで女性客の取り組みが急務だったため、スイーツに注目した。同社は2012年からアイスクリームを見直し、ソフトクリームの材料を改善したり、夕張メロンソフトを発表したり、プリンパフェなどを発売した。実際に女性客からの評判が上々だったため、これからも高付加価値型スイーツを志向していくだろう。
    また、セブン-イレブンは人気アイスクリームチェーンのコールド・ストーンとアイスクリームを共同開発し限定発売した。同社はコールド・ストーンとの連携でこれまでも商品を発売してきた。これはとくに10代~20代の若年女性層をねらったものだった。
     
     
    ■ 3.11が引き寄せた新しい消費者――2.「シニア」
     
    くわえて各社が力を入れるのは、シニアマーケットだ。おなじく各社の施策のうち代表的なものを抜粋してみよう。
     
    セブン-イレブンはネオ「御用聞き」サービスを開始した。これは買い物弱者ともいわれる高齢者層にたいして食事などの宅配を行うものだ。セブンミールから注文すれば近隣店舗が届けてくれる。セブン-イレブンでは、リアル店舗とネットなどをシームレスにつなぐ「オムニチャネル」化を進めている。ネットで注文したものをリアル店舗で受け取ったり、リアル店舗に欠品していた商品もその場で注文し自宅で受け取ったりできる仕組みを作っている。米ウォルマートが先行するオムニチャネルだが、今後、セブン-イレブンも同種の施策を進めていくだろう。
    また、ローソンは有料老人ホームに併設した店舗で高齢者向けサービスを開始した。佐賀市にあるローソンミズ木原店では、調剤薬局を抱え、商品ラインナップとしては介護関連商品や杖(!)、そしてカツラ(!!)までを揃える。
    ファミリーマートも高齢者向け宅配事業で先行するシニアライフクリエイトを買収し、ファミリーマートの弁当などをあわせて届ける仕組みを構築している。ローソンも佐川急便とタッグを組み、買い物弱者対策を進めている。
    その他の動きとして、サークルKサンクスは、女性とシニア(とくに高級志向をもつシニア層)向けに弁当販売を拡大するために、2013年よりデパ地下の惣菜売り場を手本とした施策を展開している。文字通り、手に取った瞬間にデパ地下のような高級感を醸成する目的で、デパ地下に強い業者とも連携した。
    またシニア層をターゲットにしたコンビニ各社は、おせち料理も変容させている。コンビニ各社は年末に「お一人さま用おせち」を発売して話題になった。セブン-イレブンがはじめた当コンセプト商品は、ファミリーマートとサークルKサンクスにもひろがった。これは単身者需要だけではなく、シニア層をターゲットにしたものだった。セブン-イレブンは、セブンミールなどを通じて高齢者からの注文を集め、またサークルKサンクスは「華GOZEN」という1980円の低価格おせちで訴求した。
     
     
    ■ 明確化した商品トレンド「健康志向」
     
    チェーン店を限定しないプライベートブランド商品でこのところ顕著なのが、パッケージに特徴を大きく表示方法だ。
    とくに女性層は食品にたいして比較優位性を求めるといわれるため、同層にアピールできるように「生きて腸まで届く乳酸菌入り」といったようにフォントを大きく表示する。これもおなじく健康志向の消費者にたいして、その健康メリットを強調するための工夫だ。
    実は、これまで述べたとおり、コンビニ各社が女性とシニアをターゲットに据えたとき、商品全体の健康志向トレンドが必然となったのである。各社とも、カロリーオフ商品、有機栽培、オーガニック、といったキーワードを全面に出すようになった。
     
    そのなかでも、この動きを意識的に加速しているのはローソンだ。「マチのほっとステーション」から「マチの健康ステーション」へと、ローソンはセルフメディケーションを事業の柱に打ち出した。医薬品の販売を開始する店舗を増やしたり、テレビ電話による健康相談も行ったりしている。さらには一部自治体と提携し、健康診断の受付窓口も担っている。ローソンは、事業そのものを健康主体に切り替えるという、きわめて成熟社会的企業と評することができる。
     
    その特徴は商品にも表出している。ローソンは2014年末に特定保健食品の許可を受けたパンやざるそばを発売した。糖質を抑えたパンや、血糖値を抑えるそばで、それら「ブランシリーズ」は同社のヒット商品となっている。これらは調理方法の工夫にくわえて、製粉会社と組んだ材料開発のたまものでもある。糖質制限の必要な消費者からの人気は高く、圧倒的なリピート率を誇る(公正に付け加えれば、これはローソンだけではなく、たとえば人気の商品として、糖質を抑えたファミリーマートの「国産小麦のブランロール」などがある)。
     
    これからも健康志向商品はたえまなく開発されていくだろうし、ファミリーマートが薬局とコンビニを併設するように、業態や店舗設計としても健康をキーワードとしたものが増加していく。
     
     
    ■ トレンドメーカーとしての覇者セブン-イレブン
     
    上の分析を見ても分かるように、既にコンビニ業界は独自の商品開発をはじめている。その先頭を一見して常に切っているように見えるのが、セブンイレブンだ。
     
    実際、コンビニエンスストア業界ではセブン-イレブンが先行した商品を、他社が後追いする傾向が続いてきた。たとえば、サラダをカップ状にしたのも、赤飯をおにぎりにしたのも、ツナマヨネーズを売りだしたのも、セブン-イレブンだった。これは本社の企画力としてセブン-イレブンが優位性を誇っていることを示す。
     
    ただし、生鮮食品を取り扱ったのは、ローソンが先行したし、惣菜もファミリーマートやローソンが先立った。その意味ではセブン-イレブンの優位性とは、先行していても後追いであっても、商品の改善力で圧倒的な品質の商品を具現化するところにある。むしろ我々はセブン-イレブンの改善力の高さにこそ注目したい。
     
    まず、セブン-イレブンの商品開発は同社主導でおこなわれる。
    たとえばセブン-イレブンではセブンカフェで100円コーヒーを販売しており、これがそれまでコーヒーチェーンに向かっていた需要を取り込みはじめた。この圧倒的な成功は、本社主導によって、複数メーカーを共同開発させたことにあった。カフェの豆は味の素ゼネラルフーヅが担当しており、コーヒー機は富士電機が担当していた。ほんらいは別々で開発が進むところを、本社主導で富士電機とともに味の素ゼネラルフーヅが最高の味が実現できるように徹底的に作りなおされた。さらに本社は富士電機にたいして2万台のコーヒー機をまとめ交渉し、導入コストを最適化したうえで全国のセブン-イレブンに納入した。
     
    このようにセブン-イレブンの手法は、まず商品コンセプトを提示し、手をあげたメーカー各社を競合させる仕組みだ。セブン-イレブンはメーカーの技術力をリサーチのうえで最大限の提案を引き出す。また、厳しい目標コストを提示する。高いレベルの商品仕様が決定しており、競争も激しいため、必然的にコストはギリギリまで抑えられる。
    コストの多寡によって売価を決定する方法を原価主義といい、逆に理想売価からコストを逆算する方法を非原価主義と呼ぶ。つまり「コストがいくらかかるか」を考えるのではなく「コストをいくらに抑えねばならない」と考える方法だ。
    セブン-イレブンは非原価主義によって、取引メーカーから最大限の強みを引き出しているといえるし、その徹底した状況からセブンプレミアムなどの高価値商品が生まれているともいえる。
     
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  • 脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第9回「男と酒」 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.331 ☆

    2015-05-27 07:00  
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    脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』 第9回「男と酒」
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.5.27 vol.331
    http://wakusei2nd.com



    本日は、平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家の井上敏樹先生のエッセイをお届けします。今回のテーマは「男と酒」。
    酒豪として知られる敏樹先生。井上家とお酒との関係、そして井上敏樹流のお酒の楽しみ方・付き合い方とは――?

    井上敏樹エッセイ連載『男と×××』これまでの連載一覧はこちらから。
     

    ▲井上敏樹先生が表紙の題字を手がけた切通理作×宇野常寛『いま昭和仮面ライダーを問い直す[Kindle版]』も好評発売中!
     
    【PLANETSチャンネル会員限定! 井上敏樹関連動画はこちらから。】
    ・関連動画(1)
    井上敏樹先生、そして超光戦士シャンゼリオン/仮面ライダー王蛇こと萩野崇さんが出演したPLANETSチャンネルのニコ生です!(2014年6月放送)
    【前編】「岸本みゆきのミルキー・ナイトクラブ vol.1」井上敏樹×萩野崇×岸本みゆき
    【後編】「岸本みゆきのミルキー・ナイトクラブ vol.1」井上敏樹×萩野崇×岸本みゆき
    ・関連動画(2)
    井上敏樹を語るニコ生も、かつて行なわれています……! 仮面ライダーカイザこと村上幸平さんも出演!(2014年2月放送)
    【前編】「愛と欲望の井上敏樹――絶対的な存在とその美学について」村上幸平×岸本みゆき×宇野常寛
    【後編】「愛と欲望の井上敏樹――絶対的な存在とその美学について」村上幸平×岸本みゆき×宇野常寛
     
     
     男 と 酒
                 井上敏樹
     
     酒が好きだ。そういう血筋である。私の父はアル中で死んだ。母もアル中だった。祖父は脱サラして焼酎の会社を興したがすぐに駄目になって現在では考えられない仕事を始めた。煙草の吸殻を拾う仕事である。吸殻をほぐして僅かな葉を集め新しい煙草を作るのである。昔はそういう仕事があったのだ。曾祖父は群馬に沢山の山を所有していたらしいが全て売り払って酒に代えた。もちろん自分で飲むためである。
     
     アル中の父は肝硬変で何度も入退院を繰り返した。それでも父は酒を飲み続けたが、追い詰められると稀れに何日か禁酒をした。禁酒をして苦しむ父を前に母は平気で酒をあおっていた。父の言葉は大抵理不尽この上なかったが、お前には思いやりがないと母を責めるその言葉は珍しく正しかった、と言える。肝硬変で父が死んだ後、書斎を整理していた私と弟は天袋に何本ものジンの空きビンを発見した。きっとひとりでこそこそと、心ゆくまで飲んでいたのだ。ジンは酒好きが最後に飲む酒である。味わって飲むものではなく、ただ酔うために作られた酒なのだ。ナイフに似ている。弟は学校の教師だが酒を飲み過ぎて声をなくした。喉頭癌になったのである。我が一族にとって酒は友であり呪いである。今のところ私は健康である。酒によって失ったものと言えば金ぐらいだ。酒で散財するのは、私に言わせれば真っ当な行為だ。酒と共に金が消えていくのは、なんだか自然な感じがする。風に花である。ちなみに金をなくすのに一番似合わないのはギャンブルである。なぜならギャンブルは金を増やそうとする行為だからだ。
     
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  • 「男と女」を描くことで〈社会〉が描ける――『問題のあるレストラン』が示した画期(成馬零一×宇野常寛) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.330 ☆

    2015-05-26 07:00  
    220pt
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    「男と女」を描くことで〈社会〉が描ける――『問題のあるレストラン』が示した画期(成馬零一×宇野常寛)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.5.26 vol.330
    http://wakusei2nd.com


    本日は、前クールで話題となったドラマ『問題のあるレストラン』をめぐる、ドラマ評論家・成馬零一さんと宇野の対談をお届けします。ドラマ界で「男と女の対立」というフレームを描く作品が重なったなか、なぜ本作は突出できたのか? 脚本家・坂元裕二の作品歴をヒントに考えていきます。

    初出:「サイゾー」2015年5月号(サイゾー)
    画像出典:問題のあるレストラン Blu-ray BOX
    ▼作品紹介
    『問題のあるレストラン』
    脚本/坂元裕二 演出/並木道子、加藤裕将 出演/真木よう子、YOU、東出昌大、松岡茉優ほか 放送/1月15日~3月19日、毎週木曜22:00~22:54(フジテレビ系)
     
    大手飲食チェーン企業に務めていた田中たま子(真木)は、同僚が受けたセクハラ事件をきっかけに会社を退職、裏原宿のビル屋上で「ビストロ フー」を開く。集まったのは、ゲイのパティシエと、対人恐怖症のシェフ、離婚したてのシングルマザーほか女性スタッフ。ビストロ フーの裏手には元勤務先が経営するレストランもあり、そこにはたま子の元恋人で同僚でもあるシェフらが在籍している。この店に戦いを挑むつもりで、彼女たちは店を軌道に乗せるべく奮闘する。脚本は、『東京ラブストーリー』、『それでも、生きてゆく』『最高の離婚』『Mother』『Woman』等々を手がけてきた坂元裕二。
     
    ▼対談者プロフィール
    成馬零一(なりま・れいいち)
    1976年生まれ。著書に、『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社)、『キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)ほか。
     
    ◎文:橋本倫史
     
    成馬 今期のドラマは豊作でしたけど、『問題のあるレストラン』は群を抜いて面白かった。脚本は坂元裕二さんで、彼がこれまで積み重ねてきた総合力で勝った、という感じがしました。セクハラや男女の働き方といった、ジェンダー問題が中心のハードなテーマなので、テーマにドラマが負けてしまうかな、と最初は思ったんです。でもフタを開けてみたら、テレビドラマとしてちゃんと面白かった。
     放映当初、ネット上では批判も結構あったんですよ。「男性の描写がキツすぎる」とか、逆にフェミニズム的な意識がある人からは「描写が甘い」というダメ出しだとか。確かに最初は、男は内面がない人のように描かれていたところがあった。だから、男が圧倒的に悪くて、セクハラ被害者やシングルマザーといった、女性差別に傷ついた人たちがチームを組んでレストランを作って戦っていく、みたいな内容になるのかと思っていたら、どんどん話が展開していく。今までのドラマだと、女性たちがレストランを作って癒されて終わり、という話になっていたと思うんです。でもそうはならなくて、前半で受けた批判を、後半にいくにつれてドラマが打ち返して盛り上げていった。
    宇野 僕も最初は「カリカチュアライズしすぎじゃないか」と思ったけれど、まったくの杞憂だったね。最初はわかりやすい極端な例を出して視聴者を引き込むんだけど、そのわかりやすさにあぐらをかいて安直な描写に走るのではなく、そこから細かい人物描写や背景をフォローしていく構図になっていて、実によく考えられていた。だから、このドラマに対してジェンダー的な観点から批判しているのは、ちゃんと観ていない人が多かったんじゃないかというのが単純な感想です。
     坂元裕二という作家は基本的に、耳目を集める現代的な社会問題を扱って、それによって発生するユニークな状況や奇妙な人間関係を使って芝居のニュアンスや人間関係の面白さを見せていくのだけど、今回の『問題のあるレストラン』ではそういう社会的なテーマを、作者にとって面白い状況設定を生むための道具に使っているのではなくて、最初から最後までメッセージ性で強烈に貫くということを本気でやっていた。だから結果的に、裁判をやって相手のレストランを潰すという、ある種のちょっとした後味の悪さにまでつながる結末になっていたと思う。
    成馬 第6話が転換点でしたね。YOU演じる烏森さん【1】が実は弁護士だと告げ、セクハラを受けてライクダイニングサービス【2】を辞めた五月(菊池亜希子)の裁判を始める。セクハラ事件の話は第1話以降姿を消していて、そのまま終わるのかとも思っていたので、この問題を最後までやるんだというのは驚きでした。
     
    【1】烏森さん
    YOUが演じた「ビストロ フー」のソムリエール。たま子とは前職の仕出し会社で同僚だった。
    【2】ライクダイニングサービス
    物語当初、たま子が勤めていた大手飲食チェーン企業。ビストロ フーの裏手に位置し、門司らが勤務する「シンフォニック表参道」を経営している。
     
    宇野 『問題のあるレストラン』を全話観ると、結局坂元裕二が何を信じているのかが透けて見えて、それがよりこの作品を面白くしていたと思う。つまり、最終回でたま子(真木よう子)が、理想のレストランを夢見るシーンがあるじゃない? 理解ある社長のもとに男女が和気あいあいと働くレストランを夢想するんだけど、現実には女だけの「ビストロ フー」を再興させることを選ぶし、男たちは男たちで別のレストランで働いていて、どうやらまた闘う関係になりそうだ、と。つまり、本当にすべての問題が解決することよりも、男と女がそれぞれのレストランをつくって、一種スポーツのように競い合って潰し合う空間のほうが魅力的だと、実は坂元裕二は思っているんだと思う。『問題のあるレストラン』の魅力って、現実をよりわかりやすくデフォルメしたハードな状況があって、やるかやられるかのシビアなところで男女が闘っているからこそ、その中で発生するホモソーシャルな気持ち良さにあるんだと思う。結局、「ビストロ フー」で仕事が終わった後にみんなでだらだらアイスクリームを食べているシーンや、スタッフ間の隠語を冗談みたいに言いながら楽しく働いているシーンが、いちばん生き生きと描写されていたしね。
    成馬 坂元ドラマの最終回は、基本的に“断絶”で終わります。絶対に相容れないもの同士がぶつかり合う瞬間──『それでも、生きてゆく』【3】の殺人犯との対話もそうだし、今回のたま子と雨木社長(杉本哲太)【4】もそうで、その瞬間に生まれる何かにドラマ性を託している。ただ、そこから先はわからない。もしかしたら人と人が理解し合うということを信じていないのかもしれない。たま子にとっての理想は男と女が一緒に働ける社会だけど、結果的に出来上がったのは男を排除したレストランだった。だから、明るい終わり方だけど、たま子にとっては挫折の話なんですよね。
     
    【3】『それでも、生きてゆく』
    放映/フジテレビ(11年)
    瑛太に満島ひかり、柄本明、安藤サクラ、大竹しのぶらが出演し、少年による幼女殺人事件の加害者家族と被害者家族を描いた話題作。
    【4】雨木社長(杉本哲太)
    ライクダイニングサービスのトップ。飲食に対して愛はなく、家庭も顧みない金儲け至上主義の前時代的な男性経営者として描かれる。
     
    宇野 あと、坂元裕二は今回、意図的にマンガ的な描写を入れていたと思う。例えば、松岡茉優演じる雨木千佳【5】が天才シェフになれた理由が、ひきこもりのお母さんのために幼い頃から毎日料理を作っていたから、という設定なんてかなり少年マンガ的でしょう。烏森さんが実は弁護士だったというのもそう。今までの坂元裕二のリアリズムにはなかった、超展開といってもいいような描写が相当入っている。そういうある種のご都合主義的な、もしかしたら自分の世界観を壊してしまうかもしれないような冒険をやっていたのは間違いない。敵側の、男社会レストランとの対決も、どこかゲーム的というかスポーツ的だしね。
     根底にあるジェンダー後進国・日本への怒りは本物だと思うけれど、そこから出発してたどり着いたホモソーシャル・ユートピアはどこかマンガ的で、そこが物語の中で「救い」として機能していた。
     
    【5】雨木千佳
    ビストロ フーの天才シェフで、ライクダイニングサービス雨木社長の実娘。
     

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  • 月曜ナビゲーター・宇野常寛 J-WAVE「THE HANGOUT」5月18日放送書き起こし! ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.329 ☆

    2015-05-25 07:00  
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    月曜ナビゲーター・宇野常寛J-WAVE「THE HANGOUT」5月18日放送書き起こし!
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.5.25 vol.329
    http://wakusei2nd.com<>


    大好評放送中! 宇野常寛がナビゲーターをつとめるJ-WAVE「THE HANGOUT」月曜日。ほぼ惑月曜日は、前週分のラジオ書き起こしダイジェストをお届けします!
     

    ▲先週の放送は、こちらからお聴きいただけます!
     
     
    ■オープニングトーク
     
    宇野 時刻は午後11時30分を回りました。みなさんこんばんは、評論家の宇野常寛です。恐ろしいことになっていますね。アンチ橋下(徹)クラスタの脳内では、どうやら僕は、もし大阪都が生まれていたら橋下利権にあずかることができたってことになっているらしいです。けっこうびっくりしています。
     
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  • 「ゲーム」からみた「伊藤計劃以後」〜コンピュータゲームのあゆみはフィクションの想像力をいかに変えたか〜(中川大地) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.328 ☆

    2015-05-22 07:00  
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    「ゲーム」からみた「伊藤計劃以後」〜コンピュータゲームのあゆみはフィクションの想像力をいかに変えたか〜(中川大地)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.5.22 vol.328
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    『虐殺器官』『ハーモニー』『屍者の帝国』のアニメ映画化/連続公開が今秋に迫り、没後6年にして再び注目を集めつつある伊藤計劃。その伊藤計劃の作品の現代性とは何だったのか――『ゲーム史』連載中の中川大地が、「純文学」「SF」「ゲーム」の3つのジャンルをキーワードに考察した論考を配信します。

    画像出典:Project Itoh 公式サイト スクリーンショット
    初出:S-Fマガジン 2011年 07月号(早川書房)※一部改稿
     
     
    ■ フィクション表現の変化の震源だった「ゲーム」
     
     周知のように、1974年生まれの伊藤計劃は、幼少期にファミコンブームによるコンピュータゲーム産業の立ち上がりを経験し、その発展を血肉化してきた世代の精神性を最も濃密に体現する作家の一人である。デビュー作『虐殺器官』が、小島秀夫監督の『ポリスノーツ』や《メタルギア》シリーズから決定的な影響を受けているように、その想像力は日本ゲームの進化とともに歩んできたものと言える。
     したがって「伊藤計劃以後」を展望するための補助線として、本稿ではゲームの発展史がフィクション表現の想像力に与えてきた影響を改めて把捉し直しておきたい。
     
     伊藤個人の作家性に限らず、ゲームというカルチャージャンルの勃興と定着は、ここ20年あまりの日本の社会文化全般にとって、きわめて本質的かつ甚大な影響をもたらした変化の震源地であった。なぜならそれは、高度経済成長を終えて「実用」の領域では劇的な進歩が望めなくなった1970年代後半以降の日本にあって、唯一日進月歩の技術進歩を実感させてくれるコンピュータなる道具が不要不急の「遊び」の多様化を通じて人々の生活の中に入りこんでくるという、かつてない生活体験の変容そのものだったからである。
     言い換えればコンピュータゲームは、人々が初めて接した最も純粋なかたちの消費社会の体現物であり、インターネット普及以前にあっては最も実感的に情報化社会なるものの手触りを味わえるマスプロダクトに他ならなかった。
     
     かくして、高度成長期的な進歩への「夢」の名残を背負いながら、まずは「玩具」とカテゴライズされる生活の異物として登場したゲームは、1980年代のファミコンブーム期に《ドラクエ》シリーズのヒットなどストーリイ表現を伴うゲームが一般化したことを機に、しだいに独自のコンテンツ価値を持つ「作品」としての性格を認知されてゆく。特に1990年代以降、隣接するオタク系カルチャーのメディアミックス展開や、プレイステーションの成功によって音楽CDと同じ光学メディアによるパッケージソフト流通の方式が定着すると、この傾向はさらに顕著になものとなる。
     こうした著作物性の前面化と、ポリゴン表現によるグラフィックスの3D化によって、この時代の大作ゲームは、急速に先行する総合視聴覚表現である映画を強く意識したものとなっていった。例えば伊藤計劃が最終作のノベライズを手がけた《メタルギア・ソリッド》も、こうした潮流の中で登場してきた「映画的」ゲームの最も代表的なシリーズである。
     
     そしてゲームが産業資本によるメディア・テクノロジーのイノベーションの勢いのままに既存コンテンツジャンルの表現を旺盛に取り込んでいった動きの反作用として、逆にゲーム独自の体験性が旧メディアに輸出されていった例も枚挙に暇がない。
     最も素朴な意味ではRPGによる「剣と魔法のファンタジー」の意匠やキャラクターメイキングの作法がライトノベルの成立を促したことや、「努力・友情・勝利」の精神論的なドラマツルギーが制していた少年マンガにおけるカードゲーム的な戦術性の導入、AVGなどにおける繰り返しプレイの経験を劇化した「ループもの」や善悪の規範ではなく等価なプレイヤー同士が不条理なルール設定の中で戦い合う「バトルロワイヤルもの」の流行など、形式・内容の両面でゲームの前提なしには成立しえない表現が1990〜2000年代のフィクションの潮流を牽引した。
     つまり批評家の東浩紀が『AIR』や『ひぐらしのなく頃に』など美少女ゲームの影響圏に限定した作品から論じた「ゲーム的リアリズム」や、宇野常寛が諸ジャンルのコンテンツについて社会反映論として展開した「ゼロ年代の想像力」は、より直接的にはまさにコンピュータゲームを通じて形成されていった広範な文化再編の一部として捉え直すことができるのである。
     
     
    ■「文学」から「ゲーム」への移行が意味するもの
     
     以上見たようなジャンルの再編をともなうゲーム発のフィクション変動の意義を、より本質論的な観点から位置づけるなら、それは近代という文明パラダイムの中でリアリズムを基軸とする指導理念の下に諸文化の中核として編成されてきた「文学」という装置の機能と地位が、事実上は「ゲーム」によって置き換えられつつあることを示している。
     どういうことか。そもそもリアリズムに基づく純文学とは、先近代の神話や戯作のように単純・荒唐無稽で恣意的・予定調和的に見える幼稚な物語を批判し、現実の複雑さを科学を範とする理性的省察によって描出しようとする精神性から生み出されたものであった。
     だが、近代社会が成熟していく過程で国民国家とセットになった理性的自我という観念の虚構性が明らかになるにつれ、しだいに文学は前衛としての役割を失っていく。現実の複雑性を描出しようとする物語批判の動機は、むしろ分裂症的な主体や言語的表層の難解な文体操作によって純文学を延命させようとする修正主義としてのポストモダニズムなどに転化していくが、正味の社会的なインパクトは喪失の一途にあったという他はない。
     
     そうした中で、コンピュータゲームの登場によって20世紀の終わりから人類史上空前の規模でゲームなるものが普及し、フィクションの世界と結合したことは、文学の存立基盤にとっても巨大な意味を持っていたと言える。なぜなら、ゲームと物語は、ともに人間が外界の情報から材を得て虚構的な領域を形成するという現実加工の営みである点は共通していながら、その構成法がまったく異なるものだからである。
     物語とは、基本的に人間が知覚経験を通じて得た情報ストックの中から個々人の主観的な認知バイアスによって取捨選択や圧縮を施し、事物の因果を暫定的に関係づけていく解釈作用によってシリアルに形成される、認知コストの低減のための記号化過程である。
     対してゲームの場合は、ケイティ・サレンとエリック・ジマーマンによる最近のゲーム研究の標準書『ルールズ・オブ・プレイ』での概念整理に従うなら、窮極的には数学的に表現可能な「ルール」に基づくシステムを要件として備え、現実の時間と空間の中から「魔法円(マジックサークル)」などと称される「遊び」の領域を異化し、ルールの策定者にとっても予測不可能な経験を創発していく「可能性の空間」を生成する営みである。
     
     つまり、ゲームは本質的に非物語的な現実経験の産生エンジンとしてあり、従来の物語では描かれえなかった現実性が自ずと備わりやすい性格を有している。
     例えばアクションやシューティングにおいて、制作者の想定外のプレイングがゲームの醍醐味を引き出してきた例は数限りなくあるし、RPGなら通常の英雄物語では描かれないようなザコ敵とのランダム遭遇を避けられなかったり、物語の筋立てとはまったく無関係なパラメータ的事情や選択ミスによって死に至るような理不尽もままある。
     そうした物語的な収まりの良さを逸脱する体験性を様々なレベルで有するゆえにこそ、ゲームの伸長は純文学が志向する「物語の中での物語批判」というミッションを別のかたちで置き換え、各フィクションジャンルの想像力にインパクトをもたらす中心源たりえたのではないだろうか。
     
     
    ■「日常化されたSF」としてのゲームと伊藤計劃の作家性
     
     もうひとつ、純文学の中心性と並んで、ゲームによって成立基盤に侵食を受けてきたジャンルが存在する。同時代の支配的な先端技術が開きうる可能性を外挿し、それをフィクション上の世界律として組み直して作劇に活用する文芸手法、すなわちSFである。
     
     すでに述べたように、人々にコンピュータ技術がなしうる「夢」を可能性の段階から体感させる装置であったゲーム機の歴史にあっては、何か大きな技術的イノベーションがあるたびに「まるでSFのようだ」という感慨が決まり文句のように寄せられるというプロセスが繰り返されてきた。これは裏を返せば、SFが純然たるアイディアの力によってセンスオブワンダーを与えることの敷居がきわめて高くなったことを意味する。
     実際、80年代に発展して情報技術と身体の関係性の考察を押し進めたという点でコンピュータゲームとは双子のような関係にあるサイバーパンクを最後に、本質的なパラダイムの次元ではジャンルSFは同等以上の潮流を起こせていない。
     

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  • テレビドラマ定点観測室 2015 Spring〜『問題のあるレストラン』『デート』『ゴーストライター』から『心がポキっとね』『医師たちの恋愛事情』まで〜/岡室美奈子×古崎康成×成馬零一×宇野常寛 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.327 ☆

    2015-05-21 07:00  
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    テレビドラマ定点観測室 2015 Spring〜『問題のあるレストラン』『デート』『ゴーストライター』から『心がポキっとね』『医師たちの恋愛事情』まで〜岡室美奈子×古崎康成×成馬零一×宇野常寛
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.5.20 vol.327
    http://wakusei2nd.com


    テレビドラマファンの皆様、お待たせいたしました――。1クールに一度、ドラマシーンを振り返る好評連載「テレビドラマ定点観測室」。前クールの話題作『問題のあるレストラン』や『デート』『ゴーストライター』『山田孝之の東京都北区赤羽』の総括から、今クールの注目作『心がポキっとね』『医師たちの恋愛事情』への期待、そして『まれ』『花燃ゆ』の展望まで、3万字の大ボリュームでお届けします!
    これまでの「テレビドラマ定点観測室」記事はこちらのリンクから。
     
    ▼座談会出席者プロフィール
    岡室美奈子(おかむろ・みなこ)
    早稲田大学演劇博物館館長、早稲田大学文学学術院教授。芸術学博士。専門は、テレビドラマ論、現代演劇論、サミュエル・ベケット論。共著書に『ドラマと方言の新しい関係――「カーネーション」から「八重の桜」、そして「あまちゃん」へ』(2014年)、『サミュエル・ベケット!――これからの批評』(2012年)、『六〇年代演劇再考』(2012年)など。
     
    古崎康成(ふるさき・やすなり)
    テレビドラマ研究家。1997年からWEB上でサイト「テレビドラマデータベース」(http://www.tvdrama-db.com)を主宰。編著に『テレビドラマ原作事典』(日外アソシエーツ)など。「月刊ドラマ」「週刊ザテレビジョン」「週刊TVガイド」などに寄稿多数。2011年~13年度文化庁芸術祭テレビドラマ部門審査委員。
     
    成馬零一(なりま・れいいち)
    ライター・ドラマ評論家。主な著作は『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)。週刊朝日、サイゾーウーマンでドラマ評を連載。
     
    ◎構成:飯田樹
     
     
    ■ 4人全員が評価、早くも今年ベストとなるか?ーー『問題のあるレストラン』
     
    宇野 ではさっそく、前のクールの総括からはじめていきましょう。この座談会では毎回、僕を含めたこの4人が、前のクールで面白かったドラマを3つ挙げています。準備はいいですか?
    せーの、ドン!
     僕が『問題のあるレストラン』『山田孝之の東京都北区赤羽』『〇〇妻』。
     岡室さんが『問題のあるレストラン』『デート~恋とはどんなものかしら~』『怪奇恋愛作戦』。
     成馬さんが『問題のあるレストラン』『お兄ちゃん、ガチャ』『LIVE! LOVE! SING!』。
     古崎さんが『デート~恋とはどんなものかしら~』『ゴーストライター』『問題のあるレストラン』ですね。
     それでは、4人全員が挙げている『問題のあるレストラン』からいきましょう。
    古崎 第2話が終わった段階で前回の「テレビドラマ定点観測室」がありましたよね。そのときはちょっと導入部に極端なエピソードがあり、それがどう消化されていくか、まったく見えていない段階でした。したがって、その冒頭の衝撃的なエピソードを作品がどう消化してくのかを含め先を見ていかないとわからないという状況だったと記憶しています。
     その後、この冒頭の衝撃的なエピソードはしばらくまったく手つかずのままに展開していく。レストランの面々の癖のある連中が最初、バラバラに個性を主張している中でほんのわずかなことから心が接近していく。そのプロセスがいつもの坂元裕二らしい、ぎこちない展開で進んでいく。そこまで冒頭の衝撃的な話は放ったらかし状態です。
     それが中盤、そのメンバーの一人、YOUが弁護士だったことが明らかになる。すると、それまでのぎこちなかった展開が嘘のように急に話がなめらかに進んでいきました。この中盤から終盤にかけての展開は流麗そのもの。この部分の坂元裕二の筆致はかつての90年代のトレンディドラマで慣らした時分の作風の復活を感じさせたほど、するすると話が展開して一瞬、ドラマを見ているということを忘れて展開に引き寄せられてしまったほどで「これはすごいな」と思ったものでした。で、最後までそれで行くのかと思いきや、坂元裕二はそれで終わらなかった。最後には予想外の辛口の結末が用意されてまったく突き放した終わり方で締めくくった。坂元さんとしては、ひょっとすると中盤のなめらかな部分は視聴者サービスのようなもので、本当に見てほしいのは、最初と最後であり、その部分を見せるがための中盤だったのもしれませんが、私はそのなめらかな中間部の展開が、坂元裕二の健在ぶりをむしろ実感させられてしまった。いつでもこういう面白い展開はできるのだと。だけど敢えてしないのだと。私はこの真ん中の流麗な部分が好きなのだなと実感してしまった。見る側がどこに価値を置いているか、問い詰められるような気がしました。
    岡室 『Mother』『Woman』と書いてきた坂元裕二さんが、男性脚本家でありながら、正面切って働く女性が直面する問題を描いたことが、私が選んだ理由の一つです。東出昌大くんのセリフに「今は負けてる。だけど最終的に勝つのは、負けながら前に進むやつなんだ」というのがあって、「今は負けている人への応援メッセージ」という感じですごく心に響きました。
     あとはレストランの描写で、みんなでリズムを作っていく感じが身体的に表現されているところが良かったですね。3人娘の松岡茉優、二階堂ふみ、高畑充希も素晴らしかっし、東出くんも今までで一番ぐらいの演技で、周りを固める安田顕さんたちも良かった。
     坂元さんはセリフがとてもうまいですよね。初回はエキセントリックな描写でしたが、ああいう風に描かないとこのテーマができなかった気もします。
    宇野 さて、最初に成馬さんに聞かなかったのは、すでに『サイゾー』(2015年5月号)で対談しているからなんですよね。あらためて振り返ってどうですか?
    成馬 『問題のあるレストラン』放送中は、書ける媒体全部で書きましたね。正直、客観視ができないくらい面白かったです。あえて言っておくと、僕自身はもともと坂元裕二はそこまで好きな作家ではなくて、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』という本でも厳しく書いていたんですよ。でも、昨年の『モザイクジャパン』と本作でグイッときて、今は僕の中で暫定1位になりつつあるくらいです。
    宇野 僕も第1話を観たときは「極端なカリカチュアライズがプラスに出るかマイナスに出るかは微妙だな」と思っていたんですが、すごく上手に処理がされていたと思う。話の後半では、男性キャラクターも救いすぎないように救いつつ、ジェンダー後進性への怒りを最後まで持続しながら進めていくバランスも良かったです。
     この作品って、ここ数年における坂元裕二の集大成にして新境地ではないかと思うんですよ。理由は2つあって、ひとつは社会的背景の使い方が完成されていたこと。おそらく坂元裕二にとって社会問題というのは微妙な人間関係や気まずい空気を生むためのフックでしかなかったんだけど、今回初めて、作品を通して問題に怒っているのが伝わってきました。人の心を動かすために自分のメッセージを本気で発して、そこで心中しようとしている。それがビターエンドにも繋がっていくし、「人の手を殴ると自分の手も痛い」というようなことが、裁判をやったり、マスコミに情報戦を仕掛けて相手を潰そうとする展開にもよく現れている。作品をメッセージ性によって強烈に彩りながらも、それをコントロールする腕を彼は身につけたということでしょう。
     もうひとつは、坂元裕二はずっと「本来の”家族”を失ってしまった人間が心の行き場をなくして、現代社会で問題を起こしていく」という90年代の野島伸司のような世界観を反復しているところがあったんですが、今まではそれに対して答えを出せていなかった。このドラマで初めて、人間が本来持っているべき”家族”というものを失っても生きていく方法を見つけていて――それはホモソーシャル同士が戦いながら切磋琢磨してイキイキしているという方向なんですが――それまでの停滞した世界観からようやく離陸できたのではないかと思えました。
    岡室 私も坂元裕二さんの脚本は大好きなんですけど、彼がずっと描いてるのはコミニュケーションの問題だと思うんです。たとえば『それでも、生きてゆく』なら、風間くんが演じた犯人のように絶対に分かりあえない人物がいて、そういう人に対して愚直にコミュニケーションを仕掛ける瑛太のようなキャラクターがいる。そのコミュニケーションが最終的に成立していくのを描いたのが『最高の離婚』のようなドラマです。
     最近の坂元さんの作品は、困難なコミュニケーションが最終的に成立していく話が多かったんですが、今回は最後まで見ても成立したかどうかわからないけど、それでも前に進む人たちを誠実に描いているんですよね。そこにある種の集大成を見て取れる気がします。
    古崎 坂元さんは最近、人間の葛藤や激突をぐいぐい描くことが中心で、かつて90年代に『東京ラブストーリー』などのトレンディドラマで視聴者をぐいぐいひきつけていたエンターテイメント的な動かし方を忘れてしまったのかなと思っていたんですよ。しかしこの作品では、先に触れたように中盤部にその良さが導入されていた。おそらくエンターテイメント性の強い作家がこのドラマを作ろうとすると、冒頭の衝撃的な話はあったとしてもすぐに弁護士が現れて話がある程度、見る側が不満を募らせることなく、理想的に進行させていくのです。でも坂元裕二はそうはしない。『それでも生きていく』や『Woman』などで描いた人間の葛藤や激突のどうしても解決しない部分を描く補足としてこういうエンタ的手法を使いはじめたということでしょう。これまでも諸作品の持ち味の良さを融合してきているのではないかと思っています。
    成馬 『わたしたちの教科書』といういじめを題材にしたドラマがありましたよね。菅野美穂演じる主人公の名前がたま子、敵側の副校長が雨木という苗字で、『問題のあるレストラン』はその反復なんですよね。坂元さんにとって『わたしたちの教科書』は向田邦子賞をとって作家として評価された転換点にある作品です。そこで構成力で見せる手法をやった後に、それを一回捨ててコミュニケーションの微妙なニュアンスで見せていく『Mother』を作り、そして「構成で見せつつ、会話も面白い」という合わせ技でこのドラマを作った。今まで培ってきた技を全部持ち込んできたんですよ。
    宇野 会話の面白さと役者の力を引き出すためのアプローチは成功してるけど、物語的には失敗していて、部分の強さに全体が耐えきれていないというのが、僕の『Woman』の感想です。それが『問題のあるレストラン』では、力強い演出を下支えする強力な物語のフォーマットを手に入れたなと思っています。
     ひとつは、坂元さんがずっと隠れテーマにしてきたジェンダー的な問題に対しての、社会問題の真摯かつクレバーな使い方。もうひとつは、少年漫画的な手法です。たとえば、千佳ちゃんが引きこもりのお母さんのために料理を作っていたら料理の達人になっていたとか、YOUが本当は弁護士だったとかですね。今まで自分の中になかった物語の要素を入れて、それをすごく上手に料理したことによって、部分が全体に負けることがなかったのが大きいと思います。
    古崎 流麗な展開が最終回で「無名の人からのクレームで店が潰れる」というあっけない結末があって、それが導入部のエキセントリックな話と比べると恐ろしいほどリアルでしたね。ネットでは「あんなことで潰れるのか」という意見が出てたりするんですが、実際に企業をやっていると、ああいうわけの分からない批判で潰れちゃうことがあるんです。その恐ろしさが最後にさらっと描かれてたのはちょっと怖かったですね。
    成馬 あれは、たま子たちがゴシップ記事で雨木の会社を潰そうとしたこととの対比になっているんですよね。たま子たちがやっていたことも、名もないクレーマーがやっていたことも、ネットの炎上的な暴力と同じじゃないかというのを最後の最後に突きつけてくる。だから社長も「世の中にはひどい奴らがいっぱいいるだろ、お父さんの敵をとってくれよ」とか息子に言うじゃないですか。あのシーンの絶望感はすごいですよね。
    宇野 あの後の千佳ちゃんのセリフ、「私はあなたに何もしてあげられません」というのも良かったですよね。
    成馬 呪いを解いてあげる魔法になるのか、雨木社長の呪いが子供にも続いていくのかが分からないところがあのドラマの怖さで、社長も二世というところで「きっと父親になにかされてたんだろうな」というのが少しだけわかるじゃないですか。
    宇野 『問題のあるレストラン』で僕が良いと思うのは、本気で怒ってるんだけど楽しいところだと思うんですよ。
    成馬 烏森弁護士役のYOUが言っていた「お花畑と泥棒の仲の対比」ですよね。復讐だけじゃ生きられない、楽しく生きることも復讐になるという。
    宇野 坂元さんってその「お花畑」を持っていなかったと思うんですよ。たとえば『それでも、生きてゆく』で瑛太と満島ひかりが漫画喫茶で気まずいやりとりをしているシーンを、設定を知らずに切り取ったら、付き合う3歩手前のカップルがイチャついているものとして、微笑ましく見られるじゃないですか。ああいう部分がだんだん拡大されていったんだろうけど、今回は坂元さんの作品で一番お花畑の要素が肯定されてる作品ですよね。しかもそれが、本来あるべき「男女が仲良く家族的に会社をやっていく」というビジョンではなくて、同世代の女の子同士が集まってお店をやっているというホモソーシャル的な共同体にお花畑が結びついてる。それも今までの坂元さんにはなかった要素で新しいなと思っています。
    成馬 役者はみんな微妙にイメージをずらしていますよね。ツンツン怒っている役ばかりやってた真木よう子が、明るいニコニコした役をやっていたり、松岡茉優も本来なら高畑充希が演じていた藍里を、二階堂ふみが天才シェフを、高畑充希が優等生の新田さんを演じていてもおかしくない。
     あと、敵側に全員朝ドラに出演した男性俳優を置いていましたよね。みんな役者の話をする時に演技の上手い下手だけで語りがちだけれど、実は「どこに誰を置くか」という文脈や配置の面白さというのもあって、そこをこのドラマではきちんとやっていた。
    古崎 坂元さんの脚本は今まで対象に寄りすぎた描写が多くて、そのために作り手自身が作品を進める中で葛藤していたような部分があったんですけど、今回はディープに入りつつもある程度突き放した部分があって、ようやく対象との適切な距離感がつかめてきたようにも見えますね。
    宇野 3人娘の女優全員が、今までで一番良いと思います。二階堂ふみは、僕はそんなに好きな役者ではなかったんだけど、今回で好きになりました。
    岡室 『Woman』のときも良かったですよ。
    宇野 良かったけど、要求されてるものを忠実にこなしてる感じがしていて。優秀なのは分かるけど……と思っていたので。
    成馬 二階堂ふみがいつものエキセントリックな演技が封じられている中で、必死にあがいてるのが面白いんですよね。
    宇野 あと真木よう子も、これまで大きな役柄ではたま子のようなタイプを演じていなかったじゃないですか。仏頂面して「私いい女よ」って顔してる真木よう子よりも、今回のたま子のほうが良いと思った人はいっぱいいると思ういます。
    岡室 最初の方はいつもと違う感じで良かったんだけど、最後の社長に詰め寄っていくあたりではいつもの真木よう子に戻っていて、ちょっとお説教くさい感じがしたんですよね。あそこはもうちょっとたま子ちゃん風に方の力を抜いてやってほしかったです。
    成馬 そこまで温存したかったんじゃないのかなとは思いますけどね。怖い真木よう子を見せるためにたま子があった感じがします。
    古崎 以前の作品と比べると後半はドラマの予定調和に流れてしまった部分はあるかもしれないですね。
     
     
    ■ 古沢良太が描くべき「恋」とはなんだったのか? 『デート〜恋とはどんなものかしら〜』
     
    宇野 次にかぶってるのは『デート~恋とはどんなものかしら~』(以下『デート』)ですね。今度は岡室さんからいきますか。
    岡室 月9での恋愛ドラマが難しくなっている中で、「恋愛できません」という人たちの恋愛ドラマを描いたのが新鮮だったのと、古沢良太さんの脚本ということで挙げました。私、第一話ではちょっと引いたんですよ、お化粧があんまりで(笑)。でも、恋愛できない人たちがいかに恋愛をしていくかという脚本が本当にうまかったです。あと最終回にいきなり出てきた白石加代子がすごかったですね。ワンポイントで出てきて、謎の余韻を残して去っていく。天使様だったのかなんなのか分からないですけど、そういったところも含めて面白く見ました。
    古崎 冒頭に主人公が自己の生き方を漱石の「高等遊民」の生き方に擬せるセリフが出てきて、登場人物も理屈っぽい話をしていて、およそ感情が支配すべき恋愛の要素が皆無で「一体全体ここからどうやって着地させていくのか」と気になってしまいましたね。でもそれが作り手の狙いでもあったのですね。「高等遊民」というセリフ自体、本来描きたいものを隠すための装置だったのでしょうね。このドラマは、結局、そんな理屈っぽいことでカモフラージュしていますけど、中年童貞と処女が恋してしまう話なんですよね。かつて『電車男』がこういう恋愛べたな男性とそれに苦しむ女性という、恋愛難民の話を描いて共感を呼んだわけなんですけど、これまでゴールデンタイムの恋愛ドラマでは、美男美女の恋愛話が中心だったがゆえ、なかなかこういう方面を赤裸々に描くことに慎重で企画としても通りにくい部分があるのでしょう。そこで古沢さんは「高等遊民」の恋愛劇と見せておいて、実は現代で問題になっている中年童貞の人物を描き出したのではないでしょうか。
     だからといって月9の枠組みを壊すことはしていない。ちゃんと恋愛の不思議さも描かれているのですよね。これまでの古沢さんの作品を眺めていると「恋愛というのは生命を継続させるためにDNAに仕組まれただけのものに過ぎない」という、宮藤官九郎が『マンハッタン・ラブストーリー』で「恋愛なんか思い込みですよ」と言っていた部分に通じる考え方の人だと思っていたのですが、「恋愛とは非常に不思議なもので、嫌い嫌いだと思っていることが実は恋愛」というのが導きだされていて、案外、それは当たり前のことなのだけど、改めてそういう結論に届くことが新鮮でもありました。そういう部分が描かれていて、ちゃんと「月9の恋愛劇」になっていました。
     あとこれは表現技法の部分で、杏のあの独特の軽い声でキャピキャピと喋る話しぶり。最初は耳障りに思えたものがだんだんと滑稽さが漂っていく。この面白さは昔、どこかであったなと思っていたのですが、1970年代の『おくさまは18歳』というドラマで岡崎友紀さんと石立鉄男さんが丁々発止していたやり取りのテンポなのですね。古沢さんは過去のドラマや映画に詳しい人なのでこういう過去の成功例をさりげなく意識しているように思えますね。そういう忘れられた古き良き時代の良さを温故知新して恋愛劇をアップデートした作品に映りました。
    成馬 僕は第1話が一番面白かったです。恋愛よりも理屈が勝つ話を見たかったんですよ。『リーガル・ハイ』のように理屈を並べていきたいのが本音だけど、それでも『ALWAYS 三丁目の夕日』も書けてしまえる、というのが古沢さんの作家性だと思っているんです。だけど今回は「月9=恋愛ドラマ」に合わせすぎていて、屁理屈力が落ちてしまったのではないかな、と。
    岡室 「嘘を肯定していく」というところが古沢さんのドラマのエッセンスとしてありますよね。このドラマでも、全然好きではないけど、お互いの都合だけで結婚したい2人がいて、そういう中から恋愛が成り立っていくという点では、古沢さんの文法に則っている感じがしましたけどね。
    成馬 契約だけで成り立つ人間関係の美しさを描けていたら「俺はもう負けました」と言っていたと思うんですけど、結局「恋って不思議ですね」というみんなが知っている回答に合わせてしまったところが気になるんです。完成度が高くて良くできたドラマなんだけど、個人的にはピンときませんでした。
     
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  • カルチャーと「教養主義」の結びつきを考える(石岡良治の視覚文化「超」講義外伝 第4回) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.326 ☆

    2015-05-20 07:00  
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    カルチャーと「教養主義」の結びつきを考える(石岡良治の視覚文化「超」講義外伝 第4回)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.5.20 vol.326
    http://wakusei2nd.com


    本日は石岡良治さんの連続講義『視覚文化「超」講義外伝』第4回をお届けします。NHK Eテレ「哲子の部屋」(来週木曜放送)にも出演し、ますます好調の石岡さん。カルチャーを語る上では避けて通れない「教養主義」の問題を、自著『視覚文化「超」講義』をベースに解説していきます。
    今回は日本の「大正教養主義」やその源流であるドイツやイギリスの教養主義、そして日本的カルチュラル・スタディーズについて紹介します。
    【その前に…お知らせ】
    ついに石岡さんが地上波に上陸!!!
     

     
    國分功一郎さん、千葉雅也さんらが出演し話題のNHK哲学番組『哲子の部屋』に、石岡良治さんが出演します!
    放送は【5月28日(木)午後11時15分~午後11時45分 (NHK Eテレ)】
    お見逃しなく!
    http://www4.nhk.or.jp/P3233/x/2015-05-28/31/10346/
     
    「石岡良治の視覚文化「超」講義外伝 」これまでの連載はこちらのリンクから。

    ※本連載は、PLANETSチャンネルニコ生「石岡良治の『視覚文化「超」講義』刊行記念講義」(第2回放送日:2014年8月13日)の内容に加筆・修正を加えたものです。
     
     
    ■ はじめに
     
     石岡良治です。よろしくお願いします。
     『視覚文化「超」講義』刊行記念講義の2回目となります。
    この放送を視聴している皆さんは、ご覧になっていると思いますが、本書は発売以来ご好評をいただいております。おかげさまで3刷りが決定しました。
     
     日経新聞で本書の書評が載っています。この書評はウェブサイトでもご覧いただくことができます。
     英文学者の高山宏さんによる書評で絶賛されていて、著者である私としては本当に嬉しいです。私は現首都東京大学である東京都立大学を卒業しているのですが、学生時代、高山さんが英文学の先生でした。高山さんの書籍と本書とノリが一部近いと感じる人がいると思います。ただ、高山宏マニアという人はヨーロッパ文化史や澁澤龍彦の書くような幻想文学が好きな人たちが多いと思います。そういった人たちと本書では微妙にズレが生じています。私は、特定の趣味を持つことで、他の趣味を排他的な扱いに即座にすることのないように心がけています。とはいっても、DD(誰でも大好き)状態になるのは困難なので、どこかに線引きはあります。しかし、なるべくDDで頑張るというのが本書の方針でもあります。
     
     前回はあらすじ紹介をしたのですが、今回から本書の具体的な内部に切り込んでいきたいと思います。
     読んだ方、読んでいない方いると思いますが、新要素満載でお送りします。
     今日、放送のために参考書籍を多数持ってきています。これらを全て紹介していきます。というわけで、新しい文献表ができる感じになります。まさにニコ生を視聴されている方用のモノになります。
     
     それではフリップによる解説に入っていきます。
     

     
     今回は「カルチャー」を自意識問題から解き放つ、ニコ生PLANETS仕様で「自意識問題との決別」を取り上げたいと思います。本書では書き方を抑制的にしているので、なにかを批判する部分は抑えて書いています。しかし、本放送では少し「dis」の要素を入れて、エッジのある放送になるようにします。意識を持つなと言いませんが、自意識系の問題圏に関してはおいおい語っていきます。
     
     先月(2014年7月24日)、ジュンク堂池袋店にて、私と宇野常寛さんとの対談のニコ生(アーカイブ映像:【前編】 【後編】)があったのですが、会場では本書を初めて知った方がいらっしゃったので、あらすじの解説を丁寧にし、それなりに手応えのある反応を得ました。しかし、一方動画では視聴者に「解説が長い」というコメントをいただきました。
     私自身、本書を解説する機会が何度となくあります。すでにご覧になっている方も多いと思いますが、フィルムアート社の本書のページに紹介動画があり、そこには宇野常寛さん、千葉雅也さんの推薦動画もあります。バック・トゥー・ザ・フューチャーを取り上げた本書のフレームは、そちらの動画をご覧ください。
     
     本書の解説を順を追ってしていくように考えていますが、ニコ生PLANETSならではの「二周目要素」、クリアしたけれど同じセーブデータを使って最初から強くてニューゲームをプレイするような流れを入れようと思っています。また、読んでいない方にも対応するつもりです。
     
     
    ■ 教養主義に対する批判
     
     今回から取り上げるのが「Lecture.1 カルチャー/情報過多」。ここでは3つのパートを作っています。1-1が「教養文化問題」、1-2が「サブカル対ハイカルチャー問題」、1-3が「情報過多」というテーマをそれぞれ掲げています。今回は1-1と1-2を独自のミックスを施した感じで講義していきます。そのなかで本書では明言することを避けた「教養と文化を巡る問い」=教養主義を本書では批判しているのですが、実際に私自身も教養主義者ではないかという問いもなくはないと思うんです。講義という形をとるからには、教養主義の持っていた欠点が別の形で再演される問いが出てくると考えています。
     あとは伝統的な人文の「知」との関係性です。私自身はニコ厨的な側面と人文趣味的な側面の両方を持っているんですが、その両方の関係はどうなのかという問いです。実は本書全体を通して、その問いに対する答えを導こうとしています。スパッと一つの答えを出すのではなく、いろいろみて考える観察の部分が長い本になっていると思います。ただちに答えは出ないが、答えに対する方向性は提示したつもりです。
     
     教養文化についての問いが本書のテーマでもあります。はじめに序文を読んでいただければ、だいたいの構成とともに書いてあります。ラストパラグラフを読んでみますと、個々の作品評価や批評基準、これは文化・教養についてどう思うかも含めて、一刀両断する前に行うべき作業が数多く残っているのではないかと書いています。この作業を行っていくという面が本書では多々あります。
     

     
     本書の10ページにも書いたのですが、現在の価値観は作品の需要、または分析によって「可謬主義」を唱えています。「可謬主義」とは、基本的にはプラグマティズムの立場です。ちょっとずつではあるが誤りうるということです。ポイントとしては、どうせ間違えるのだから、適当でいいということはなく、できるだけ本気でこれだというものを提唱していきます。ミスをしたら改善していくというのが大事です。これは教養・文化については全般的にあてはまると考えています。
     あとは「ギアチェンジ」という話です。一人が複数のギアを持っているということが大事であると思います。
     そして「レギュレーションの関係を見ていく」ことです。
    今日は、このあたりの話を全部します。私なりの文化・教養観は今挙げた3つのものを元に考えています。これらを概して「情報過多」の時代に対応していくというテーマです。今日は「情報過多」を扱わずに、いわゆる「文化・教養問題」を主に扱おうと思っています。
     
     
    ■ 「大正教養主義」とは?
     
     「教養主義」問題について触れたいと思っています。これはカルチャーという言葉は、近代以前はカルティベーションという、いわば頭脳などを耕すものとしての教養であった。今はカルチャーといえば、教養という意味合いはなくて、なんでもカルチャーと呼んでいます。
     
     本書では詳しくは解説していませんが、教養とはなんだったのかというのを、英語圏の議論を軸にしてカルチャーという言葉についていろいろ扱ってきました。日本型の「教養主義」については、竹内洋さんや高田里惠子さんが、その問題点について語られています。簡単に言うと「大正教養主義」です。
     

     
     要するに日本の都市化に伴い生じた「大正ロマン」「昭和モダン」というものです。マントを羽織る旧制高校に代表される、要するに本書でも取り上げている『絶望先生』『四畳半神話大系』、または京大卒の高学歴ニートであるphaさんの著書『ニートの歩き方』のようなノリです。京大の吉田寮に住みながら、バンカラであると自負する感じです。
     

    ▲さよなら絶望先生 特装版1 [DVD]
     

    ▲森見登美彦『四畳半神話大系』角川文庫(※カバーイラストを中村佑介氏が担当)
     
     この日本型の「教養主義」はもう終わったとされていますが、文芸的な場で袴などを着用すればやはりそれっぽくみえます。また、文芸少女は黒髪ロングで眼鏡であるべきとされることがありますが、このような類型は、教養主義が招いた、ある種の自意識文化としての教養性が原因です。具体的に言えば、竹久夢二さんのイラストや中村佑介さんのイラストあたりが教養主義のポップカルチャー版といっていいと思います。(ニコ生のコメント欄から)村上春樹ももはや同類といっていいでしょう。
     
     
    ■ ドイツの教養主義と、イギリスの教養主義
     
     本書で取り上げられなかったものとしてドイツ語の話があります。私自身がドイツ語に疎いので、ドイツ語圏の書籍を扱えませんでした。
     これは重要なことなのですが、本書ではカルチャーのみを扱っていますが、ビルドゥングという言い方があります。ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスター』が典型的なんですが「ビルドゥングスロマン」という言葉があります。これは日本語で「教養小説」と言います。このあたりの読みやすい本として、清水真木さんの『これが「教養」だ』という新潮新書から出ている書籍があります。清水さんは哲学研究者で明治大学の先生です。清水さんの書籍がドイツ語圏における教養主義の流れを示しています。清水さんの書籍は、例によってSNSを批判しています。哲学者で教養主義者を標榜する人は概ね現代文明について批判的です。よって私は清水さんの論調には同意できない部分も多いですが、清水さんは教養主義に無茶な点があるという重要な指摘をしています。
     
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  • インテリアデザインの現在形――〈内装〉はモノとヒトとの間をいかに設計してきたか(浅子佳英×門脇耕三×宇野常寛「これからのカッコよさの話をしよう」vol.4) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.325 ☆

    2015-05-19 07:00  
    220pt
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    インテリアデザインの現在形――〈内装〉はモノとヒトとの間をいかに設計してきたか(浅子佳英×門脇耕三×宇野常寛「これからのカッコよさの話をしよう」vol.4)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.5.19 vol.325
    http://wakusei2nd.com


    本日のメルマガは、浅子佳英さん、門脇耕三さん、宇野常寛による好評の鼎談シリーズ「これからのカッコよさの話をしよう」第4弾です。今回のテーマはインテリアデザイナー/批評家である浅子さん企画による「インテリアデザインの現在」。最新のショップデザインひしめく表参道・中目黒を巡り、リノベブーム以降のインテリアデザインを考えます。

     
    ▼これまでの記事
    (vol.1)これからの「カッコよさ」の話をしよう――ファッション、インテリア、プロダクト、そしてカルチャーの未来
    (vol.2)無印良品、ユニクロから考える「ライフデザイン・プラットフォーム」の可能性(「これからの『カッコよさ』の話をしよう」第2弾)
    (vol.3)住宅建築で巡る東京の旅――「ラビリンス」「森山邸」「調布の家」から考える(浅子佳英×門脇耕三×宇野常寛「これからのカッコよさの話をしよう」第3弾) 
     
    ▼プロフィール
    門脇耕三(かどわき・こうぞう)
    1977年生。建築学者・明治大学専任講師。専門は建築構法、建築設計、設計方法論。効率的にデザインされた近代都市と近代建築が、人口減少期を迎えて変わりゆく姿を、建築思想の領域から考察。著書に『シェアをデザインする』〔共編著〕(学芸出版社、2013年)ほか。
     
    浅子佳英(あさこ・よしひで)
    1972年生。インテリアデザイン、建築設計、ブックデザインを手がける。論文に『コムデギャルソンのインテリアデザイン』など。
     
    ◎構成:中野慧
    ◎撮影:編集部
     
     
     ある春の晴れた日の午後、浅子佳英さん、門脇耕三さん、宇野常寛の3人はデザインとインテリアのメッカ、表参道に降り立ちました。
     

    ▲表参道の交差点。収録当日は天気にも恵まれていました。
     
     浅子さんの案内のもと一行がまず向かったのは、イソップ青山店。
     

    ▲イソップ 青山店
     
     〈イソップ〉はオーガニックなスキンケア、ヘアケア、ボディケア製品を販売し世界的に人気を得ているオーストラリア・メルボルン発のブランド。この青山店は日本初のショップで、建築家・長坂常さんのデザインによるもの。元あった内装を引き剥がし、スケルトンにして空間を広く使ういわゆるリノベーションなのですが、壁や天井は塗装すらされておらず、別の場所で解体された住宅の廃材や家具を再利用しているのが特徴です。
     
     そして次に向かったのは、表参道の大通りから少し入った場所にある「イザベル・マラン東京」。
     

    ▲表参道にある「イザベル・マラン東京」
     
     〈イザベル・マラン〉は、フランスのファッションブランド。インテリアデザインはフランスの若手建築家集団CIGUË(シグー)によるもので、〈イソップ〉同様、もともとあった建物のリノベーション。ファッションブランドとしては珍しく木造の建物の2階をショップにしていて、やはり元々あった内装はすべて引き剥がし、木の軸組は全て露出しています。そこに異素材として、FRP(繊維強化プラスチック)でできた大きな照明やフィッテイングルームが挿入されています。
     
     そして次に訪れたのは、ハイブランドの旗艦店ひしめく表参道の通りに面した〈セリーヌ〉でした。
     

    ▲CELINE(セリーヌ)表参道店
     
     こちらは〈イソップ〉や〈イザベル・マラン〉とは対照的に、床面積も広く2階建てでとても豪華な作りです。〈イザベル・マラン〉と同じくフランスのファッションブランドですが、こちらはどちらかというと昔ながらのハイブランド。〈セリーヌ〉の外観・内装をひとしきり見た後、再び青山方面に向かいました。
     

    ▲途中、話題の「ブルーボトルコーヒー」(写真2F)を通り掛かりましたが人が多かったのと、「まあ、ここはええよ、、」(浅子さん)ということで華麗にスルー……。
     
     そして青山の裏通りの細い道を行くと、そこには何やら要塞のような建物が……。
     

    ▲〈トム・ブラウン〉旗艦店(南青山)
     
     この〈トム・ブラウン〉は、50〜60年代のアメリカ黄金時代やケネディ大統領のファッションにインスピレーションを受けた服を販売するニューヨーク発のブランド。浅子さんによればこの要塞のような外観は、お店の内部を「黄金時代のアメリカ」として演出するため、外界から完全に切断する役割を果たしているのだそう。
     
     表参道・青山エリアでは最後に浅子さんおすすめのブランド〈リック・オウエンス〉の店舗を見学した後、中目黒に移動し、2000年代以降流行したライフスタイルショップの代表格〈1LDK〉へ。そして浅子さんの自宅兼アトリエにて座談会を収録しました。
     

    ▲中目黒にある〈1LDK〉。
     
     
    ■ 9.11/リーマンショック以降のリノベブームと〈中目黒的なもの〉
     
    宇野 今回はインテリアデザイナーを本業とするーー最近は建築家的な仕事、あるいはプロダクトデザイン的な仕事のほうが目立って来ているような気もしますがーー浅子佳英さんプレゼンツによる「東京インテリア巡り」です。まずは企画者の浅子さんから今回の趣旨の説明をお願いします。
    浅子 今のインテリアデザインは「リノベーション」が重要なキーワードになっているのですが、まずはそこに行く前にファッションとの関係から語るのが良いと思います。
     ファッションの世界では数年前から、「ノームコア」という言葉が話題になっています。ノーマルのハードコアという意味なので、そもそも語義矛盾のような言葉なのですが、いわゆる霜降りのジーンズとか白い靴下とか「ちょっとダサい人たちが着る普通の服をオシャレに見せる」というトレンドが生まれました。言ってしまえば「一般人のコスプレ」ですね。アメリカでまず話題になり、昨年あたりから日本でも言葉自体は定着してきました。ただ、これってもともとは様々なファッションの流行が行き着いた先のちょっとスノッブで嫌らしいものなんだけど、それがコピーのコピーのコピーのようなかたちで日本に入ってきた頃には「シンプルで定番の服を着ている人がオシャレなんだ」というような、逆転したかたちで受容されてしまいました。そこで象徴的なキーワードとして「スローフード」や「中目黒」がアイコンになったというわけです。
     今日見たなかでは、最後に行った中目黒の〈1LDK〉がわかりやすい例ですね。ノンウォッシュのジーンズにコットンシャツ、スウェットパンツにNEW BALANCEだったり、黒縁眼鏡にニットキャップなど、形としては普通なんだけど、上質な素材で作られているものだったり、定番品や日常で使えるもの、日々の暮らしで使えるものが逆転して流行のアイテムになっています。いわば「暮らし」がテーマなので食器なども一緒に売っています。
     話は変わりますが、90年代後半から2000年代前半にかけて中目黒がエリアとして急に注目されたことで地価が上がり、それまであった面白い店が出て行ってしまい、ダメな店ばかりが増えて行くという現象が起こりました。
    門脇 中目黒も、それ以前の原宿や代官山と同じような運命を辿ったわけですよね。ジェントリフィケーションによって地価や家賃が上昇して、実験的なショップを構えることのリスクが相対的に高くなってしまうという。そうなると、「その街のイメージ」を安易にコピーして貼り付けたようなショップが増えていきます。
    浅子 まさにそういう話で、〈1LDK〉はそんなふうに中目黒が駄目になったあと、メインの川沿いではなく裏通りに出店し、いわば中目黒が復活するための下支えをしたような店なんですね。そういう経緯もあって、僕は〈1LDK〉自体はとても好きなんですが、最近の中目黒周辺には、そのコピーのコピーのような感じでニット帽と食器を売るライフスタイル系のお店ばかりになっています。また同じ事を繰り返している。
     

    ▲〈1LDK〉の内装。シンプルでベーシックなアイテムが並んでいます。
    画像出典:http://1ldkshop.com/shop_info
     
    宇野 こんなこというとおしゃれな自意識をもった皆様方に怒られそうだけど、中目黒のああいったお店で売っているようなすごくシンプルな定番アイテムや、ライフスタイル系の食器とかって、無印良品で十分じゃない? って思ってしまうんだけど……。
    浅子 (笑)たしかにそのとおりで、ひとつひとつのアイテムを見たら普通のものばかりで、それをちょっとオシャレっぽくレイアウトしているだけに見えますよね。もちろん、それぞれの商品にもその文脈を知っている人には読み取れる違いがきちんとあるのですが、その差異は「サードウェーブ系男子」で話題になったおぐらりゅうじ氏も指摘しているように、NBの生産国の違いなど、外から見ればごく小さなものです。
     さらに重要なのは、その定番アイテムを細かく読み解いていくと、ジーンズにしてもニットキャップにしても、スニーカーにしてもすべて元々はアメリカの大量生産品だということです。なので、これらは元を辿ると、9・11やリーマン・ショックでアメリカが自信をなくしていくのと並行して進んだ現象だと思っています。つまり、未来志向でどんどん新しいものを生み出すのではなく、「古き良きアメリカを取り戻したい」という欲望の現れです。その象徴としてひとつ挙げられるのが、表参道で見た〈トム・ブラウン〉のようなブランドではないかな、と。
     

    ▲トム・ブラウン青山店の内装。50〜60年代の「古き良きアメリカ」を忠実に再現している。
    画像出典:トム ブラウン世界2店舗目の旗艦店公開 イメージはオフィス | Fashionsnap.com 
     
    宇野 なるほど! 2000年代にピクサーがCGアニメーション映画でやっていたような「古き良きアメリカ的男性性の回復」というノスタルジー消費が、ファッションやショップデザインの文脈でも起きていたというわけだよね。
    浅子 そうなんですよ! そもそも今のリノベーションブームには、シアトル発でポートランドやニューヨークにも出店して人気となった「エースホテル」が大きな役割を果たしています。それこそ、セコハンで買った大量生産品の古き良きアメリカの家具だったり、あまり作りこんでいないDIY的な内装のホテルで、すごく人気が出たんです。
     

     

    ▲アメリカ西海岸、オレゴン州はポートランドにある「エースホテル」。ちなみにポートランドは、「ブルーボトルコーヒー」を代表格とする「サードウェーブコーヒー」の発祥地でもあります。(この流れについて詳しくは佐久間裕美子さんの著書『ヒップな生活革命』(朝日出版社)をご参照ください)
    画像出典:http://www2.acehotel.com/ja/brochures/portland/
     
     僕自身は〈トム・ブラウン〉もエースホテルもとても好きなんですが、その劣化コピーの劣化コピーになってくると「古いものをそのまま使うのはいいことなんだ」というようなとてもベタな需要の仕方になってしまう。洋服で言うならノームコアのように「長く使える定番品を着ることが消費社会への抵抗なんだ」というような変な受け取られ方をしてしまう。
     でもこのままだと何も新しいものが生み出されません。この流れにどうやって対抗していくか、というのがここ5~6年のデザイン界のテーマだと僕は思っています。そのための対抗策のひとつとして「ラグジュアリーなもの」をどうやって現代的に表現していくか、というのがあるんじゃないか。ひとつは、最初に見た青山の〈イソップ〉を手掛けた長坂常さんのように、元々あった空間や物の意味を転換させるというのがありますね。
     

    ▲「イソップ 青山店」の内装
    画像出典:http://www.aesop.com/jp/article/aesop-aoyama-jp.html
     
     また、その次に見た〈イザベル・マラン〉では、古い建物をそのまま生かしつつも、FRPのようなハイテクな素材を混ぜたりして異種混合戦のような面白い空間をつくろうとしています。
     

    ▲「イザベル・マラン東京」の内装。もともとあった建物の骨組みを剥き出しにつつ、ブティック的な清潔感・高級感も同時に演出している。
    画像出典:http://www.isabelmarant.com/jp/stores/asia/japan/tokyo/1366-shibuya-ku.html
     
     さらに違う方向性だと、表参道で見た〈セリーヌ〉のように、箱自体はすごくシンプルなのに、ひとつひとつの作りが超絶豪華で見たことのない素材の使い方をするというものもあります。今の時代は、奇抜な形態のものばかりを並べるとウソっぽくなりすぎて醒めてしまう。だから大前提としてシンプルであることは引き受けつつ、そこにどういう介入や新しい提案ができるのかというのが、今の時代のインテリアデザインの課題なんじゃないかと思っています。
     

    ▲「セリーヌ表参道店」の内装。OSB(木材をチップ状にして固めた合板)などの安価な素材から大理石まで、さまざまな材料をミックスした什器が使われている。
    画像出典:https://www.celine.com/jp/celine-stores/asia-pacific/japan/tokyo/omotesando
     
     
    ■ 暫定一位としての〈セリーヌ〉
     
    宇野 今日見たいくつかのお店は、要は20世紀的なものを批評的に表現しているわけですよね。〈イザベル・マラン〉なら、20世紀半ばまでの工業社会がテーマで、そのために当時つくられたもともとの建物に機能として必要とされていた柱や配線をあえて剥き出しにすることで内装にしている。そしてもちろん、それだけだと単なる乱雑なものになってしまうから、配線をきっちりしたり新しい素材を入れ込んだり、色んな介入を行うことによってデザインとして完成している…って理解でいいですか?
    浅子 イザベル・マランというブランド自体は、工業社会が前面的なテーマになっている訳ではないと思いますが、インテリアをデザインしているシグーは自分たちで工房を持ち、本国のフランスでは手作業も行なっているので基本的にはその理解でいいと思います。
    宇野 一方で〈トム・ブラウン〉は2000年代のピクサーのように、黄金時代アメリカの「古き良き男性性」を現代的な感覚のなかで利用していくというものだろうし、〈セリーヌ〉はバブリーな贅沢さを、今の感覚で見てもダサくならないようにシンプルの中に過剰さを埋め込んでいる。今日見て回って、なんとなくこれくらいのことは想像がついたのだけど、浅子さん自身が今日見たなかで一番評価が高いのはどこなんですか?
    浅子 今のところは〈セリーヌ〉ですね。その理由は、現代的な潮流に合わせてリノベーション的な感覚を前面化するだけではなく「ラグジュアリー」について最も真剣に取組んでいるように見えるからです。
     また、〈セリーヌ〉にはもう一つ文脈があって、実は現在の〈セリーヌ〉表参道店は、これまでに改装を3回しているんですね。そもそも〈セリーヌ〉は老舗ブランドのひとつなわけですが、欧米の老舗ブランドって1990年頃から、そのままでは生き残れないからと新しいクリエイティブ・ディレクターを登用するようになりました。有名なのは〈シャネル〉のカール・ラガーフェルド、もうやめてしまいましたが、〈ルイ・ヴィトン〉のマーク・ジェイコブスなどです。
     そのような流れの中、〈セリーヌ〉も、2008年からフィービー・フィロという女性デザイナーをクリエイティブ・ディレクターに登用し、そのときにパリと東京のショップデザインも変えました。フィービー・フィロはこの時の改装も担当しているんですが、それらは、元あったインテリアをほぼそのまま残し、プラスターボード(石膏を紙で固めた下地材として使われる最も安価な材料)を仕上げとして、しかも嫌味たっぷりに裏返して使っていたのです。要はわざと工事中のような表層にしつつも、中の什器や服は今のように優雅でたっぷりと並べられていた。これってマダムが買うような高級ブランドとしてはありえないことで、もうそれだけで事件だったんですよ。
     そして昨年、2014年に今のようなシンプルでありつつラグジュアリーなお店に改装したのですが、お客さんからすると仮設のようなショップのあとにあれを見せられるわけで、驚きもより大きくなる。その2つの物語をつくったから〈セリーヌ〉は面白いと思うんですよね。
    門脇 僕も〈セリーヌ〉は素直に良いなと思いました。現代のデザインって虚構だけでは成立しないんですよね。「自分でばしっとキメながら、自分でツッコむ」というようなメタ視点がないと面白くない。〈セリーヌ〉はまさに、ラグジュアリーなものを作っておいて「全部ハリボテですよ」というネタばらしみたいなことをやっている。
     今日見たものはショップデザインで、10〜20分ぐらい居る場所だから、その中で長い時間を過ごす建築デザインの分野ではあまり参考になる感じではないんですけど、短時間しかいないとはいえ、キメキメのデザインをして「これかっこいいだろ!」っていうのは今はもう無理なんだなと改めて思いました。そこに酔いきれずに冷めた目をしているもう一人の自分を発見してしまって、居心地の悪い気分になる。
    宇野 僕が今回見たなかで一番辛いなと思ったのって〈トム・ブラウン〉なんですよね。あれぐらいテーマパークにしてしまうと、もちろん洗練されているんだけど、観光で鎌倉の大仏を見に行くような感覚でしかアクセスできない。
     その点、〈イザベル・マラン〉はシンプルライフ&スローフードの現代的な感覚に寄せるという点ではよくできていると思う。浅子さんも門脇さんも嫌いかもしれないけれど、あれって20世紀半ばまでの工業社会のイメージのパロディであると同時に、インテリアとしては最低限におさめて、つまり柱や配線自体をインテリアにするだけにとどめて、あとはただひたすら棚と台があって、そこにはどんな商品でも並べられるようにしてある。そして半分はその並べた商品のカラーで店の雰囲気が決まるわけだから、これは意外とどんなライフスタイルや文化、具体的には商品も許容できる内装だと思うんです。実際、ああいう内装のヴィレッジ・バンガードもあれば自然食の店もあるわけでしょう?
     

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    月曜ナビゲーター・宇野常寛J-WAVE「THE HANGOUT」5月11日放送書き起こし!
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    ■オープニングトーク
     
    宇野 時刻は午後11時30分を回りました。みなさんこんばんは。評論家の宇野常寛です。今日はゴールデンウィークの思い出を話したいと思います。このまえ、5月6日に、僕は生まれて初めてサッカー観戦に行ってきたんです。等々力陸上競技場で、川崎フロンターレとサンフレッチェ広島の戦いを観てきました。きっかけは、仮面ライダーです。この春に公開された映画『スーパーヒーロー大戦GP 仮面ライダー3号』に登場した、及川光博さん演じる仮面ライダー3号というキャラクターがいるんですよね。で、1ヶ月くらい前、仮面ライダー3号の握手会とその愛車トライサイクロンの実車の展示が、その等々力陸上競技場でやっていたんです。僕はそのイベントに、ライダー目当てで出かけていたんですよ。で、僕は現場に行くまでぜんぜん知らなかったんですけれども、このライダーのイベントは夕方から競技場で行われる川崎フロンターレと浦和レッズの試合の前座みたいなイベントだったんですよね。そこで、サッカーの試合というものに興味を持ったんです。
    もともと僕は学生の頃までプロ野球がけっこう好きで、スポーツ観戦自体には、わりと馴染みがある方なんです。それで、そのイベントの場の雰囲気がすごく良かったから、ちょっと興味を惹かれたんですよね。出店もたくさん出ていて、家族連れとかカップルですごく賑わっていて、僕みたいな、リア充的な趣味からどちらかと言うと遠い人間でも、クルマとかオートバイの展示があったりして楽しめるようになっていました。つまり、サッカーのゲームをひとつのクライマックスにおいた、ひとつのお祭りって感じなんですよね。それがけっこう面白いなと思ったんです。
    それで、僕よりちょっとサッカーに詳しい人をつかまえて、あらためてサッカー観戦に行ってきたんです。仮面ライダー3号と川崎フロンターレのマスコットキャラクターの「ふろん太」がコラボしている、特製のタオルを首に巻いて行きました。選手の名前はひとりもわからないんですけど、にわかフロンターレサポーターみたいなルックスでね。それで、現地でとんかつ和幸の弁当を買って、2階のゴール裏の自由席に陣取りました。晴れた休日の午後に、スタジアムのダイナミックな景観をまえに、とんかつ弁当を食べる。もう、それだけでけっこう気持ちがいいんですよね。
     
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