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記事 6件
  • 「平和マーケティング」と21世紀の戦争をめぐる諸問題|藤井宏一郎(後編)

    2022-12-13 07:00  
    550pt

    本日のメルマガは、パブリックアフェアーズジャパン代表・藤井宏一郎さんの特別インタビューをお届けします。企業や個人が市場での活動を通じて平和を目指す「平和マーケティング」。企業が平和マーケティングをおこなうための動機の作り方、テロの時代以降の平和の形とは何か、じっくりと議論しました。(初出:『PLANETS vol.10』「[インタビュー] 藤井宏一郎 企業はマーケティングを通じて世界平和に貢献できるか」(PLANETS、2018))前編はこちら!
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    「平和マーケティング」と21世紀の戦争をめぐる諸問題|藤井宏一郎(後編)
    平和マーケティングが機能する局面を考える
    ――「積極的平和論」の観点に立つと、とりあえず「SDGsをがんばりましょう」的なところに落ち着くのは仕方ないと思うわけです。それはまったくバカにした話ではなくて、政治よりも経済、国家よりも市場にパワーバランスが「相対的に」傾きつつある今、政治的ではなく経済的なアプローチで戦争を誘発する構造的な問題に何ができるか、という問いへのアクチュアルな回答なので。ただ、ここではもう少し別のボールを投げる可能性を考えてみたい。平和マーケティングというある種のユニークな発想を使って具体的に何ができるのか。  例えば、Google やFacebook が広報以上の動機で動くとは到底思えませんが、それでも「今変な法律を作られたら困る」とか「ここで武力衝突が起こると大きな損失が出る」とか「新しい市場があるのに進出できない」といった動機があれば、何らかの戦力になるかもしれないということですね。  そういった理由で彼らが国家に牽制球を投げるシナリオはあり得るのかは、考えてみてもいいはずです。平和マーケティングはこうしたマクロなパワーバランスを前提にしたとき、初めて機能するように思うんですね。
    藤井 今でもそういった動きはあると思います。例えばTPPは経団連も強く推していましたが、あれには広い集団安全保障的なインプリケーションというか、地政学的な配慮があったことは明らかです。軍産複合体が政治を誘導して戦争を起こすという意見もあるけれど、平和なほうが儲かる企業が圧倒的に多いんですよね。全体的な株価の指数は戦争リスクが上がる度に下がっていくから、戦争で得する企業というのはほとんどない。  その延長でいうと、戦争の前触れはやはり保護主義で、自由貿易がうまくいっているときに戦争が起きることはあまりない。保護主義に対して政治的に抵抗する経済団体はいっぱいあります。確かに、トランプに言われてトヨタが工場をメキシコからアメリカ国内に戻すような政府に対する脆弱性はありますが、アメリカの企業だって保護主義でやられたら困るほうが相対的には多いはずです。そのことが、政治的な抑止力として働くとは思います。  具体的な動きでいえば、現在のNGOには3種類あるんですが、企業もそれらの役割を引き受けることができると考えています。第一に、現地支援型のマイクロファイナンスや保健衛生。これは企業でもできるわけで、BOPビジネス、フェアトレード、インフラファイナンスといった、いわゆるSDGs活動がそれに該当します。第二に、政策提言型NGOがあって、武器禁止条約を成立させようとしたり反核運動をしたりしているNGOがあります。その経済版がいわゆる経済団体が行う政策提言活動で、経済団体が政府に対して力を増せばここは当然強くなっていく。第三に、見過ごされがちだけど大きいのは、国際親善型のNGOで、人々の相互理解を深めたり2ヶ国間交流を広めようとしている団体。これもコンテンツ産業、メディア産業、観光産業、教育産業などが肩代わりできる。この領域で企業に何ができるかはもっとハイライトされていいと思うんですよね。特にメディアが平和に対して持つ力はすごく大きいと思います。  この中では政策提言型が、これからさらに大きくなると思うんですが、しかし程度問題だという気はしていて、次のフェーズに変わるところまで行けるのかは、ちょっと見えないですね。
    国内経済の安定化が「新しい戦争」を未然に防ぐ
    ――少し視点を変えると、国家間の領土問題で衝突するとか、政情不安定な地域が内戦になるとか、こうした旧世紀的な「戦争」と、今の西ヨーロッパで起こっているイスラム原理主義勢力のテロのようなものの連鎖では、また対応が違うと思うんですよ。
    藤井 それは、イスラム原理主義の根底にあるのは経済の不安定化よりも、もうちょっと宗教的、文化的なコンフリクトのほうが大きいんじゃないかという、そういう議論ですか?
     
  • 「平和マーケティング」と21世紀の戦争をめぐる諸問題|藤井宏一郎(前編)

    2022-12-06 07:00  
    550pt

    本日のメルマガは、パブリックアフェアーズジャパン代表・藤井宏一郎さんの特別インタビューをお届けします。企業や個人など、国家ではない主体が市場での活動を通じて平和創出にコミットしうる「平和マーケティング」。私たちの「戦争」に対する距離感が急激に変化した2022年のいま、改めてその意義を振り返ります。(初出:『PLANETS vol.10』「[インタビュー] 藤井宏一郎 企業はマーケティングを通じて世界平和に貢献できるか」(PLANETS、2018))
    「平和マーケティング」と21世紀の戦争をめぐる諸問題|藤井宏一郎(前編)
    「平和マーケティング」とは何か
    ――今回は、2016年に広島で行われた「国際平和のための世界経済人会議」で藤井さんが紹介した「平和マーケティング」についてお話を伺いたいと思います。これは企業活動や市場原理を活かすことで、現代において、いかに非国家的な主体が平和の創出にコミットできるのかについての問題提起ですね。民間の市場のプレイヤーが「戦争」という国家のアイデンティティに関わるような領域にどう踏み込みうるかという意味で、ものすごく興味深い思想的な実験だと思いました。
    藤井 最初に経緯を説明すると、「国際平和のための世界経済人会議」というのは、広島県が提唱している「広島平和拠点構想」の一環で、広島を世界的な平和の拠点のひとつにすることを目指して、毎年行われている会議です。広島市が被爆の実相を伝えることを中心に核兵器廃絶への取組を進める一方、県としては核兵器廃絶を含むより広い平和の観点から、国際政治や外交の専門家だけでなく、社会の様々なプレイヤーを巻き込んだ新しい平和の運動を主導していきたいという思いがあったわけです。  もちろん、従来のような反核・反戦運動も重要ですが、今(2018年当時)起きている戦争は冷戦時代のように、いつなんどき核戦争が起きるかという状況ではなく、非国家的な主体を含んだ小規模紛争が地域を不安定化させていることが、現実的なリスクだったりするわけです。そういうことも射程に入れながら新しい平和像を考え、なおかつ民間企業や社会起業家、あるいはNPO市民セクターといった、いわゆる外交の専門家や国際NGO以外のアクターやビジネスセクターを参加させることにもこだわっていた。  その第1回目の会議で、テーマを何にしようかと考えたときに、近代マーケティングの父と言われるフィリップ・コトラーが掲げた「平和のためのマーケティング」という言葉があった。マーケティングとは、単に物やサービスを売り込むだけではなく、非営利的で目に見えない抽象的な価値やそれに伴う行動変容を顧客に浸透させることまでを含む、というのが彼のマーケティング論の革命のひとつだったわけです。例えば、節電運動や禁煙運動のような公益的な価値もマーケティングの対象になる、と。  その中で最も解決すべき問題が、戦争をなくして世界平和を作ることだとすれば、平和だってマーケティングできるのではないか?  しかし、その段階では萌芽的な発想に過ぎず、きちんとした理論のフレームワークがあったわけではなかった。ただ、「平和のためのマーケティング」という発想は興味を引くし、企業も参加しやすいだろうからぜひやってみようという話になって、そこだけが決まったんですよね。しかし、決まったはいいが、「そもそも平和のためのマーケティングって何なんだろう?」という問題に突き当たり、2日間のプログラムでいろんな関係者がこのテーマについて話すにあたって、フレームワークがまったくなく、言葉だけが踊っていたんですね。  そこで、私がコトラー先生の孫弟子に当たる縁もあって、普段から公共政策的なキャンペーンをプランニングしたりコンサルティングしたりしている我々マカイラとして企画運営をお手伝いすることになり、平和のためのマーケティングとは何かを概念的に整理するフレームワークを作ってセッションを設計し、それに沿った人たちを呼んできた、というのが経緯です。
    平和マーケティングが直面する困難
    ――最初の会議からの2年間で、平和マーケティングに関する論理方面と実践方面の双方のアップデートは、藤井さんの中でどんなふうに進んでいったんでしょうか?
    藤井 最終的には平和をどう定義するかというところに関わってくるのですが、平和には二つの考え方があって、単に戦争がない状態を平和と捉える「消極的平和」に対して、「平和学の父」と言われるヨハン・ガルトゥング博士が提唱した「積極的平和」という概念があります。これは戦闘の有無が問題ではなく、人間が人間として尊厳のある安全な環境が保障されていることが重要であるという、人間の安全保障論にもつながる考え方です。  しかし、平和マーケティングにビジネスセクターを巻き込もうとしたときに陥りやすい問題が、ここにあります。彼らと話をしていると、どうしても積極的平和論のほうにばかり話が流れていくんですね。なぜかというと消極的平和論、つまり端的に戦争をなくすための反戦運動・平和運動に企業が参加するのは、さまざまな理由でものすごく難しい。  まず第一に、平和運動は本業のビジネスに貢献しにくい。企業の社会活動について、株主は通常、ブランディングなどで本業につながることを求めますが、戦争と平和の問題はほとんどの企業にとって本業から遠すぎる。第二に、政治的リスクを伴う。多くの国で、平和運動=反体制運動とみなされます。第三に、既存のビジネスに抵触する可能性がある。製造業であれ金融業であれ、サプライチェーンや事業展開のどこかで軍需産業に接点を持ってしまっている企業は多いです。  だから「戦争と平和」の問題を正面から取り上げるのはやりにくいけど、「貧困をなくそう」とか「地球環境を救おう」みたいな話ならば、普通のCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)をめぐる議論の延長でできてしまうんです。だからそちらに流れやすい。特に、2017年の第2回では、「SDGs(Sastinable Development Goals:持続可能な開発目標)」をテーマにしたのですが、私はこの方向性に少し躊躇がありました。SDGsにフォーカスしすぎると、貧困や教育、福祉や地球環境の話が中心になって、肝心の平和についての議論が置いてけぼりになる危険性を感じたのです。実際、昨年の会議はSDGsやCSRのような企業にとって理解しやすいテーマが増えましたが、一番難しい、消極的平和をどう実現していくのか、その議論をいかに置き去りにしないかという部分については、語りつくせなかった印象があります。私としては、もうちょっと平和の部分を話したかったのですが、そこのバランスが難しいのです。  今年、2018年は「2030年の世界からのバックキャスト」がテーマになると聞いています。2030年の地球で起こりうる地域の不安定化や紛争、さまざまな国家や人間に関する安全保障やそのリスクへの対策などを議論していくのですが、やはりその距離感が難しい。「いかに戦争をなくすか?」という部分には、どこかで真正面から取り組まなくてはならないし、この会議の仕掛け人である広島県の湯崎英彦知事も、個々のテーマがいかに平和実現につながるか、ということは常にご関心が高いです。
    ――どうしても議論がCSRの延長線上の企業ブランディングのほうに流れてしまうということですね。では、この流れに違和感を覚える藤井さんが、平和マーケティングによる消極的平和論に焦点を当てたとき、どのような発展の可能性があると考えていますか?
    藤井 企業がSDGsで「貧困がなくなりました」というのは素晴らしいことなんですが、その先にどういうルートを経て平和が実現するのかという部分が描ききれていない。そこをきちんと描き切らなくちゃいけないというのが僕の考えなんですね。紛争のリスクがあって、そのリスクに対する解決がある。その解決をみんなに促すために、マーケティングがあるはずなんです。そもそもマーケティングとは、「特定の行動」を特定のターゲットグループに促す手法なんですね。この「特定の行動」こそが解決手段です。でも、その「特定の行動」が何なのかがわからないと、マーケティングはできない。解決のための手段を探すことについては、マーケティングは解を持たないんですよ。それを考えるのは平和学であってマーケティングの役割ではない。そこを一足飛びにやろうとしてもうまくいかないんです。  よく平和学は医学に例えられますが、健康になるためには、毎日柔軟体操をやったりバナナを食べたりといった健康法がある。その手段が決まった上で、厚生労働省や文部科学省はラジオ体操や食生活の改善など、人々の行動の変化を促すキャンペーンを行います。このフレームワークで考えると、解決手段の検討をすっ飛ばして平和を叫ぶのは、健康になる方法を考えないまま、ただ「健康になろう」とキャンペーンを始めるのと一緒なんですね。手段を無視したマーケティングにはおよそほとんど意味はなくて、これはいわゆる情緒的な平和運動。「平和!」と叫べば平和が来るという情熱論と同じです。  本当にやるべきことは、今の世界にどういったリスクがあり、どの地域で紛争が起きたり不安定化するのかをリストアップすること。そしてその原因が何なのか、民族間紛争か、資源争奪戦か、環境破壊による移民の流入か、と全部洗い出す。その上で、政府ができることと民間企業が貢献できることを見極め、後者に民間企業を当てはめていく。本当はこれをロジカルにやるべきだったんです。しかし、その議論がビジネスセクターに共有されないまま、うわべだけSDGsやCSRが流行ってしまった感じはある。今年の会議では、そのバランスがうまく取れるといいなと思います。  とはいえ、「平和のためのマーケティング」と呼ぶかはともかく、平和論とサステナビリティ論のブリッジングをきちんとビジネス文脈で考えている人がいないわけではない。例えば、「気候変動と脆弱性」という議論がありますが、これはすごくちゃんとやられていると思います。「脆弱性」というのは安全保障上のリスクも含めた各種リスクですが、気候変動によって戦争が起きる可能性の議論を、外務省がG7の枠組みの中で取り組んでいて、外務省の気候変動課がものすごく頑張っている。外交官やシンクタンクだけでなく、実際にソリューションを持ちうる企業を巻き込みながらワークショップを展開したりしています。  ほかにも、あまり日本では流行らないんですが、難民問題がどうやって戦争につながりうるかも極めて重要な問題で、こういった議論は最近進んできていますね。サステナビリティと安全保障の研究をしているAdelphi というドイツのシンクタンクが気候変動による戦争リスクについて「A New Climatefor Peace」という報告書を出していて、ローカルリソースコンペティション、つまり地域資源の争奪戦によって移民が出ると警告しています。例えば大洋州の島が台風の頻発によって、水資源が潮に浸かって飲み水がなくなったり食べ物が不足したりしたとき、貧しい島からどんどん人が移住してくる。すると元の住民と新しく入ってきた人たちの間で紛争が起きる。特に水資源のマネジメントは紛争につながりやすくて、川の上流側が水を堰き止めて自分たちだけで使い下流側と戦争になるというのは、人類史上で何度も起きていることで、気候変動が具体的に戦争につながるというわかりやすい例です。  これは冷戦下の米ソの構造とは全然違う状況ですよね。現代の紛争がどうして起きているのか、きちんと考えなくてはいけない。ジョン・レノンではダメなんです。もちろんジョン・レノンも重要だけど、どういうときに平和が訪れるのかを実証的に検証していくことが重要だと思います。
    ――たとえば少し前までは、戦後西ヨーロッパ的な「金持ち喧嘩せず」の状態が拡大するという考え方がそれなりに支持されていたと思うんですね。つまり、マクドナルドがある国同士は、絶対に戦争しないといったような考え方です。
    藤井 民主的平和論みたいなものですね。
    ――ところがそれが近年のウクライナなどの情勢悪化で崩れるわけです。現代においてはさすがに、戦後西ヨーロッパ的な経済の安定と民主政治と集団的安全保障の3点セットがあればとりあえず大丈夫ではないか、という議論にはもうならないと思うんですね。ならないことはわかっているのだけど、やはり戦後の国際社会の延長線上でやっていくしかないんだ、戦後西ヨーロッパ的な世界を少しでも拡大していくしかないんだ、という人たちもいれば、そもそもこういう発想自体がテロリズムの連鎖の遠因となる戦後先進国たちの驕りだと批判する人たちもいる。平和学はこうした現状に対して平和を再定義するには至っていないと思うし、そもそもそういう性質のものでもないと思うんですよね。
     
  • withコロナ、政権交代、アメリカ大統領選挙…激動の2020年をまるごと振り返るオンラインイベント開催のお知らせ

    2020-11-21 12:00  
    こんにちは。PLANETS編集部です。
    来る12月20日(日)、毎年恒例の年忘れトークセッションをオンラインで開催します。
    2020年は、新型コロナウイルスに対する世界的な闘いが始まり、私たちの生活が大きく変わった年でした。今回は、社会起業家や政治家などのゲストを迎えて、この激動の一年について振り返るとともに、来年の展望を考えます。
    たくさんの方にご視聴いただけると嬉しいです。よろしくお願いします!
    お申し込みはこちらから。
    Hikarie +PLANETS 渋谷セカンドステージSPECIAL
    PLANETS大忘年会2020
    ▼スケジュール
    2020年12月20日(日)15:00開演 / 18:00終演(予定)
    第1部 15:00〜16:00 with / afterコロナ時代をどう生きるか
    「新しい生活様式」が徐々に浸透する現代において、私たちの暮らし方、働き方や、社会のあり方はどう変化
  • ロビイストは日本的政治風土を変えうるか? マカイラ株式会社代表・藤井宏一郎が語る「パブリック・アフェアーズ」(PLANETSアーカイブス)

    2019-07-05 07:00  
    550pt


    今朝のPLANETSアーカイブスは、元Googleで現在はマカイラ株式会社の代表を務める藤井宏一郎さんのインタビューです。日本では数少ない、政治と企業とをつなぐ「ロビイング」を仕事としている藤井さんは、旧来的な中間団体や談合がはびこる日本の政治風土に、どのような新風を吹き込もうとしているのか。藤井さんが考えるロビイストの役割と理想について、宇野常寛がお話を伺いました。(聞き手:宇野常寛、構成:稲葉ほたて) ※本記事は2016年4月22日に配信した記事の再配信です

    パブリック・アフェアーズとは何か
    宇野 藤井さんとはじめてお会いしたのは、数年前ですね。当時はGoogleにいらっしゃって、この前のお正月に久しぶりにお会いしたときに、藤井さんのご活動についてお伺いしたのですが、とても面白いと思いました。ただ、同時に説明が非常に難しいなとも思ったんです。けれど藤井さんのようなプレイヤーがいることとその活動を、このメルマガの読者に伝えることはとても価値があることだと思ったので、取材をお願いした次第です。
    藤井 そうですね(笑)。でも、ひとまず説明してみましょう。
    私は現在、マカイラ株式会社というコンサルティングファームをやっているんです。これが何の会社かというと、「イノベーション・アドボカシー」をやる会社になります。「アドボカシー」というのは広く「政策などの提唱活動」という意味の英語ですが、その意味するところは提言するだけに留まりません。PR活動、イベント開催、ロビー活動……まで広くその政策過程に入り込んで支援していく業務なんですね。
    たとえばあくまでも例ですが、今話題になっているシェアリングエコノミーだったら、そのための新たな規制について、新規産業側の視点に立って積極的に提言していくことになります。規制についてであれば、民泊と旅館業法の問題や、ライドシェアだったら道路運送法の問題がある。そういうことに関して、法律事務所さんなどの手を借りたりしながら、「日本の規制はこういうふうになっていて、こういう問題がある」ということを分析するわけです。すると「法律や政策をこういうふうに変えれば、このビジネスは実現できるんじゃないか」ということが提案できるんですね。
    で、その上で規制当局――つまり霞ヶ関で実際に法律を所管している役所のお役人の方々にお会いして、「こういうビジネスを日本でやりたいのだが、こういう問題があって、諸外国ではこういう形で法律が改正されてうまくいっている。日本でもなんとかならないか」と話すわけです。もちろん、その一方で永田町にいる先生方にもお会いして、同じようなご説明を差し上げます。
    さらに経済団体や産業団体も関わってくるので、そういう方々にもお会いして、味方になってくれそうな人たちに「ぜひ一緒にやりましょう」と言って、巻き込んでいきます。同様の問題で困っているベンチャー企業などにも当たって、「この運動を一緒に巻き起こしましょう」と話します。
    宇野 基本的にはロビイング活動の啓蒙とサポートをしているわけですね。
    藤井 もちろんそれだけではなくて、ときにはイベントなどを開いて、ユーザーの組織化も積極的に行います。あるいは、経済分析をやるようなコンサルティング会社さんと組んで、具体的な経済効果を算出したりもしますしね。
    宇野 政治過程の一連のプロセスに総合的に関わっていく仕事がパブリック・アフェアーズだということですね。
    藤井 そうです。
    今、我々はテクノロジーのものすごく面白い転換期にいるんですよ。情報通信革命という言葉はこの20年くらい使われ続けていますが、間違いなくこれは新たな産業革命でしょう。ここまで劇的に世の中が変わるのは本当に何百年に一度、下手をすれば千年に一度です。それこそ活版印刷の発明と同じくらいの節目に、我々は立っているわけですよね。
    そのときにテクノロジーと世の中の間に立って、政策や社会システムを作り上げる仕事の一端を担えることは、とても幸せで特別なことだと思いますね。
    しかも、ここに来てテクノロジーが“ウェブブラウザから飛び出した”わけですよ。単にブラウザの中で完結するSNSなどのサービスと違って、IoTやロボティクス、ドローンやシェアリングエコノミーのような、物理的に機械と機械を繋いで、画面の外で起きる出来事を扱うサービスが盛り上がり始めているんです。
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  • 【特別再配信】ロビイストは日本的政治風土を変えうるか? マカイラ株式会社代表・藤井宏一郎が語る「パブリック・アフェアーズ」

    2017-08-15 07:00  
    550pt


    お盆休みの特別再配信第2弾は、元Googleで現在はマカイラ株式会社の代表を務める藤井宏一郎さんのインタビューです。日本では数少ない、政治と企業とをつなぐ「ロビイング」を仕事としている藤井さんは、旧来的な中間団体や談合がはびこる日本の政治風土に、どのような新風を吹き込もうとしているのか。藤井さんが考えるロビイストの役割と理想について、宇野常寛がお話を伺いました。(聞き手:宇野常寛、構成:稲葉ほたて/本記事は2016年4月22日に配信した記事の再配信です)

    パブリック・アフェアーズとは何か
    宇野 藤井さんとはじめてお会いしたのは、数年前ですね。当時はGoogleにいらっしゃって、この前のお正月に久しぶりにお会いしたときに、藤井さんのご活動についてお伺いしたのですが、とても面白いと思いました。ただ、同時に説明が非常に難しいなとも思ったんです。けれど藤井さんのようなプレイヤーがいることとその活動を、このメルマガの読者に伝えることはとても価値があることだと思ったので、取材をお願いした次第です。
    藤井 そうですね(笑)。でも、ひとまず説明してみましょう。
    私は現在、マカイラ株式会社というコンサルティングファームをやっているんです。これが何の会社かというと、「イノベーション・アドボカシー」をやる会社になります。「アドボカシー」というのは広く「政策などの提唱活動」という意味の英語ですが、その意味するところは提言するだけに留まりません。PR活動、イベント開催、ロビー活動……まで広くその政策過程に入り込んで支援していく業務なんですね。
    たとえばあくまでも例ですが、今話題になっているシェアリングエコノミーだったら、そのための新たな規制について、新規産業側の視点に立って積極的に提言していくことになります。規制についてであれば、民泊と旅館業法の問題や、ライドシェアだったら道路運送法の問題がある。そういうことに関して、法律事務所さんなどの手を借りたりしながら、「日本の規制はこういうふうになっていて、こういう問題がある」ということを分析するわけです。すると「法律や政策をこういうふうに変えれば、このビジネスは実現できるんじゃないか」ということが提案できるんですね。
    で、その上で規制当局――つまり霞ヶ関で実際に法律を所管している役所のお役人の方々にお会いして、「こういうビジネスを日本でやりたいのだが、こういう問題があって、諸外国ではこういう形で法律が改正されてうまくいっている。日本でもなんとかならないか」と話すわけです。もちろん、その一方で永田町にいる先生方にもお会いして、同じようなご説明を差し上げます。
    さらに経済団体や産業団体も関わってくるので、そういう方々にもお会いして、味方になってくれそうな人たちに「ぜひ一緒にやりましょう」と言って、巻き込んでいきます。同様の問題で困っているベンチャー企業などにも当たって、「この運動を一緒に巻き起こしましょう」と話します。
    宇野 基本的にはロビイング活動の啓蒙とサポートをしているわけですね。
    藤井 もちろんそれだけではなくて、ときにはイベントなどを開いて、ユーザーの組織化も積極的に行います。あるいは、経済分析をやるようなコンサルティング会社さんと組んで、具体的な経済効果を算出したりもしますしね。
    宇野 政治過程の一連のプロセスに総合的に関わっていく仕事がパブリック・アフェアーズだということですね。
    藤井 そうです。
    今、我々はテクノロジーのものすごく面白い転換期にいるんですよ。情報通信革命という言葉はこの20年くらい使われ続けていますが、間違いなくこれは新たな産業革命でしょう。ここまで劇的に世の中が変わるのは本当に何百年に一度、下手をすれば千年に一度です。それこそ活版印刷の発明と同じくらいの節目に、我々は立っているわけですよね。
    そのときにテクノロジーと世の中の間に立って、政策や社会システムを作り上げる仕事の一端を担えることは、とても幸せで特別なことだと思いますね。
    しかも、ここに来てテクノロジーが“ウェブブラウザから飛び出した”わけですよ。単にブラウザの中で完結するSNSなどのサービスと違って、IoTやロボティクス、ドローンやシェアリングエコノミーのような、物理的に機械と機械を繋いで、画面の外で起きる出来事を扱うサービスが盛り上がり始めているんです。

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  • 【特別インタビュー】ロビイストは日本的政治風土を変えうるか? マカイラ株式会社代表・藤井宏一郎が語る「パブリック・アフェアーズ」(毎週金曜配信「宇野常寛の対話と講義録」) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.571 ☆

    2016-04-22 07:00  
    550pt
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    【特別インタビュー】ロビイストは日本的政治風土を変えうるか? マカイラ株式会社代表・藤井宏一郎が語る「パブリック・アフェアーズ」(毎週金曜配信「宇野常寛の対話と講義録」)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.4.22 vol.571
    http://wakusei2nd.com


    今朝のメルマガは、元Googleで現在はマカイラ株式会社の代表を務める藤井宏一郎さんのインタビューです。日本では数少ない、政治と企業とをつなぐ「ロビイング」を仕事としている藤井さんは、旧来的な中間団体や談合がはびこる日本の政治風土に、どのような新風を吹き込もうとしているのか。藤井さんが考えるロビイストの役割と理想について、お話を伺いました。
    毎週金曜配信中! 「宇野常寛の対話と講義録」配信記事一覧はこちらのリンクから。
    ▼プロフィール

    藤井宏一郎(ふじい・こういちろう)
    テクノロジー産業や非営利セクターを中心とした公共戦略コミュニケーションの専門家として、地域内コミュニケーションから国際関係まで広くカバーする。科学技術庁・文化庁・文部科学省にて国際政策を中心に従事した後、PR 会社フライシュマン・ヒラード・ジャパン株式会社にて企業や非営利団体のための政策提言・広報活動を行った。その後、Google 株式会社執行役員兼公共政策部長として同社の日本国内におけるインターネットをめぐる公共政策の提言・支援活動や東日本大震災の復興支援活動などを率いた。東京大学法学部卒、ノースウェスタン大学ケロッグ経営学院卒 MBA(マーケティング及び公共非営利組織運営専攻)。PHP総研コンサルティングフェロー。情報通信政策フォーラム理事。Asia Pacific Institute for Digital Economy 理事。国際協力団体・一般社団法人ボランティアプラットフォーム顧問。日本 PR 協会認定 PR プランナー。
    ◎聞き手:宇野常寛
    ◎構成:稲葉ほたて
    ■パブリック・アフェアーズとは何か
    宇野 藤井さんとはじめてお会いしたのは、数年前ですね。当時はGoogleにいらっしゃって、この前のお正月に久しぶりにお会いしたときに、藤井さんのご活動についてお伺いしたのですが、とても面白いと思いました。ただ、同時に説明が非常に難しいなとも思ったんです。けれど藤井さんのようなプレイヤーがいることとその活動を、このメルマガの読者に伝えることはとても価値があることだと思ったので、取材をお願いした次第です。
    藤井 そうですね(笑)。でも、ひとまず説明してみましょう。
    私は現在、マカイラ株式会社というコンサルティングファームをやっているんです。これが何の会社かというと、「イノベーション・アドボカシー」をやる会社になります。「アドボカシー」というのは広く「政策などの提唱活動」という意味の英語ですが、その意味するところは提言するだけに留まりません。PR活動、イベント開催、ロビー活動……まで広くその政策過程に入り込んで支援していく業務なんですね。
    たとえばあくまでも例ですが、今話題になっているシェアリングエコノミーだったら、そのための新たな規制について、新規産業側の視点に立って積極的に提言していくことになります。規制についてであれば、民泊と旅館業法の問題や、ライドシェアだったら道路運送法の問題がある。そういうことに関して、法律事務所さんなどの手を借りたりしながら、「日本の規制はこういうふうになっていて、こういう問題がある」ということを分析するわけです。すると「法律や政策をこういうふうに変えれば、このビジネスは実現できるんじゃないか」ということが提案できるんですね。
    で、その上で規制当局――つまり霞ヶ関で実際に法律を所管している役所のお役人の方々にお会いして、「こういうビジネスを日本でやりたいのだが、こういう問題があって、諸外国ではこういう形で法律が改正されてうまくいっている。日本でもなんとかならないか」と話すわけです。もちろん、その一方で永田町にいる先生方にもお会いして、同じようなご説明を差し上げます。
    さらに経済団体や産業団体も関わってくるので、そういう方々にもお会いして、味方になってくれそうな人たちに「ぜひ一緒にやりましょう」と言って、巻き込んでいきます。同様の問題で困っているベンチャー企業などにも当たって、「この運動を一緒に巻き起こしましょう」と話します。
    宇野 基本的にはロビイング活動の啓蒙とサポートをしているわけですね。
    藤井 もちろんそれだけではなくて、ときにはイベントなどを開いて、ユーザーの組織化も積極的に行います。あるいは、経済分析をやるようなコンサルティング会社さんと組んで、具体的な経済効果を算出したりもしますしね。
    宇野 政治過程の一連のプロセスに総合的に関わっていく仕事がパブリック・アフェアーズだということですね。
    藤井 そうです。
    今、我々はテクノロジーのものすごく面白い転換期にいるんですよ。情報通信革命という言葉はこの20年くらい使われ続けていますが、間違いなくこれは新たな産業革命でしょう。ここまで劇的に世の中が変わるのは本当に何百年に一度、下手をすれば千年に一度です。それこそ活版印刷の発明と同じくらいの節目に、我々は立っているわけですよね。
    そのときにテクノロジーと世の中の間に立って、政策や社会システムを作り上げる仕事の一端を担えることは、とても幸せで特別なことだと思いますね。
    しかも、ここに来てテクノロジーが“ウェブブラウザから飛び出した”わけですよ。単にブラウザの中で完結するSNSなどのサービスと違って、IoTやロボティクス、ドローンやシェアリングエコノミーのような、物理的に機械と機械を繋いで、画面の外で起きる出来事を扱うサービスが盛り上がり始めているんです。

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