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世界は自分の認知に過ぎない(後編)|猪子寿之
2022-03-17 07:00550pt
チームラボの代表・猪子寿之さんの連載「連続するものすべては美しい」。今回は、豊洲の「チームラボプラネッツ」の作品をめぐる対話です。植物をモチーフにした作品から、植物の特異な進化史を概観しつつ、「ボーダレス」という思想について改めて問い直します。前編はこちら。(構成:杉本健太郎)
猪子寿之 連続するものすべては美しい第7回 世界は自分の認知に過ぎない(後編)
アートを生活空間に持ち込み、分配可能なものにする
猪子 豊洲の「チームラボプラネッツ TOKYO DMM」を去年の夏に拡張したんだよ。屋外に2つの庭園を作ってね。苔庭(『呼応する小宇宙の苔庭 - 固形化された光の色, Sunrise and Sunset』)とフラワーガーデン(『Floating Flower Garden: 花と我と同根、庭と我と一体』 以降、「フラワーガーデン」)をやってみた。これも自然物を使った造形物だね。 苔庭にまだ人類が見たことがないような色の卵をたくさん置いてさ。もはや何色かわからない、何色と一言では言えないような装置ね。見たことがないような光の色を再現性がある形で作りたいと思った。複雑な色で61色で構成されてる。
▲『呼応する小宇宙の苔庭 - 固形化された光の色, Sunrise and Sunset』 https://planets.teamlab.art/tokyo/jp/ew/resonating_microcosms_mossgarden_planets/
▲『Floating Flower Garden: 花と我と同根、庭と我と一体』 https://planets.teamlab.art/tokyo/jp/ew/ffgarden_planets/
宇野 人類が見たことがないような色っていうのは、もう少しかみ砕いて言うとどういうものなの?
猪子 光が固形化されて、パキパキしたまま混ざってるようなもの。普通はグラデーションになるんだけどさ、もっと光がパキっと固形化されたまま混ざってる。
宇野 グラデーションにならないように技術を用いてるってこと?
猪子 そう。今までグラデーションで色があいまいに混ざっていくみたいなのはよくやってたんだけど、もっとパキパキのまま色が混ざってる。
宇野 ちょっと不気味だよね(笑)。通常とは違う色の見え方を表現することで、どういう感覚を引き起こしてたの?
猪子 色の概念を更新できたらいいなと思ってさ。色は無限のグラデーションなんだけど、どうしても言葉による認識が先走っちゃって限界を作っちゃう。でも本当は色って境界なく無限にあるグラデーションなんだよ。
宇野 グラデーションにならない色って、けっこう違和感を覚えるわけだよ。「境界のない世界」を擁護するというチームラボのポリシーに照らすと、その違和感によって、色は本来グラデーションであることを逆説的に思い起こさせるのかもね。
猪子 そこまで考えてなかったけど、そういうことにしようかな(笑)。
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世界は自分の認知に過ぎない(前編)|猪子寿之
2022-03-10 07:00550pt
チームラボの代表・猪子寿之さんの連載「連続するものすべては美しい」。今回は、水戸の偕楽園で開催中の展覧会「チームラボ 偕楽園 光の祭」と昨年拡張した豊洲の「チームラボプラネッツ」の2つの庭園をめぐる対話です。その土地の特性とチームラボの作品作りの関係、人間の脳の中で構成されるアート作品、「作品を見る自分」と「作品に見られる自分」の関係など、縦横無尽に語ります。(構成:杉本健太郎)
猪子寿之 連続するものすべては美しい第7回 世界は自分の認知に過ぎない(前編)
その土地の良さを活かすチームラボの「土地読み」
宇野 茨城県水戸市でやっている「チームラボ 偕楽園 光の祭 2022」を見たけど、すごくよかったね。この庭は表門が陰、裏門が陽というふたつのエリアに分かれているわけだけれど、あえて庭の裏、つまり陽の側から入るっていう構成がいい。シンプルな仕掛けだけれど、普通に表の陰のエリアから入るのとでは、まったく印象が違うと思うんだよね。
猪子 最後に梅が陽にあたるから、もう一回陽に戻って来るんだよ。
宇野 陽から入って陰に行き、もう一回陽に行くんだね。僕はこれまでもたくさんチームラボの地方展示を見てきたけど、その土地というか、会場を活かすためにどういう作品をどこに配置したらいいかを、すごく考えてるよね。毎年佐賀の御船山でやっている展示(「チームラボ かみさまがすまう森」)はもう鉄板だけど、庭園を夜歩くって普通はありえないことなんだよ(笑)。ただ、夜にこういったデジタルアートのインスタレーションっていうのを挟むことによって昼間は、つまり普段は僕たちが気づかないその土地の側面を引き出しているいい展示だと思うんだよね。今回の偕楽園もそのための「土地読み」に成功していることがすごく大きい。昼には見えないものをデジタルアートの力で引き出す夜の展示だからこそ、先に裏から陽を見せて、陰につながっていき、また陽に戻る。
猪子 ベースがいい造りになってるから、構成もそれに合わせてけっこう凝ったよ。たぶん陰ってさ、太郎杉とかわかりやすいけど、お庭ができるずっと前から存在する。お庭と歴史感が全然違うんだよね。時間がめちゃくちゃ長い。お庭の背景にあった森の部分を通って、またお庭に戻るっていう構成。だから、最後は梅林なの。
宇野 偕楽園っていう後から造られた場所の中に入っていくと、太郎杉と次郎杉という庭のできる遥か以前というか、その土地の深層が露出した歴史以前の存在に出会って、そしてもう一回人間の歴史の世界に戻ってくるっていう構成だよね。要するに人間の歴史の世界と、人間外の歴史以前の世界との境界を構成的に無くしているんだよね。
猪子 お庭が元々そういう造りだから、それを活かしたっていう。できるだけ長い時間に接続できたらいいなと思って。で、太郎杉や次郎杉が一番時間を感じさせるモノだったから、そこには絶対アクセスさせて戻ってくる構成にしたかったのね。
宇野 チームラボ的土地読みの何がいいってさ、複数の時間の流れをデジタルアートの介入で可視化させているところなんだよね。人間の歴史と土地の歴史って、同じ場所に流れていて、重なっているけどちょっと違うじゃない。人間の時間と木の時間と岩の時間って、実は全部流れ方が違う。人間にとっては膨大な時間でも、木にとっては一瞬で、岩にとってはもっと短い時間かもしれないこの違いって、昼間に普通に庭を歩いて見ているときはなかなか意識できない。しかし夜の庭がデジタルアートの介入で照らされると、それがはっきりと浮かび上がって可視化される。ああやって木々が暗闇の中に浮かび上がってさ、その中を歩いていると、複数の時間が同じフィールドに並べられて同時に流れているのが感じられる。つまり、土地の記憶の重層性を直接的に感じることができた。チームラボの土地読みを生かした展示のスキルがすごく成熟していると思ったね。
猪子 夜がいいのはさ、いらない情報を消せることなんだよね。あの梅林も昼だと周りの建物が見えちゃうんだ。だから明るいうちは方位がわかっちゃうんだけど、夜なら建物が消えるから、まるで無限回廊にいるかのような気分になるの。たぶんひとりで行ったら、大人でも半泣きになるくらい怖いよ。
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生命と宇宙を貫く法則を体感させたい|猪子寿之
2021-11-24 07:00550pt
チームラボの代表・猪子寿之さんの連載「連続するものすべては美しい」。今回は、岡山の福岡醤油ギャラリーで開催中の展覧会「Teamlab: Tea Time in the Soy Sauce Storehouse」をめぐる対話です。「自分自身でありながら、世界の一部にもなれる」感覚を味わえる作品、近くと遠くで見え方が変わる新しい色。不思議な感覚の先に現れる、自分と世界の「ととのう」が重なり合う体験について語り合います。(構成:小池真幸)※「連続するものすべては美しい」の第1回~第5回はPLANETSのWebマガジン「遅いインターネット」にて公開されています。今回からメールマガジンでの先行配信がスタートしました。
猪子寿之 連続するものすべては美しい第6回 生命と宇宙を貫く法則を体感させたい
「個vs全体」──近代人がとらわれていた二項対立を解体する
猪子 今日、宇野さんに体験してもらった企画展は、2021年4月15日から2022年3月31日まで岡山の福岡醤油ギャラリーでやっている「Teamlab: Tea Time in the Soy Sauce Storehouse」。ここはもともと、醤油製造に使われていた古い建物だったんだけど、実業家で、現代アートのコレクターでもある石川康晴さんが理事長を務めている公益財団法人石川文化振興財団が、その建物の耐震構造などを補強してギャラリーにリノベーションしたんだ。その地下の、当時、醤油蔵だった場所を作品空間にした。かつて醤油が貯蔵されていたことにちなんで、四方から黒い液体で包まれているような空間を作りたいなと思って、出入り口をトンネルにして、360度全方位が水に囲まれている場所にしたんだ。 福岡醤油ギャラリーは、芸術や地域文化の発信を行うための場所としてオープンした文化施設。石川文化振興財団は岡山市や岡山県と一緒に、岡山城・後楽園周辺ゾーンで開催される国際現代美術展「岡山芸術交流」を3年に1回開催している。そんななかで、この施設の地下ギャラリースペースで展示する最初のアーティストとしてチームラボに声をかけてもらって、とても光栄なことだと思っているよ。
▲福岡醤油ギャラリー(Photo:S.U.P.C uchida shinichiro)
▲福岡醤油ギャラリーおよび展覧会の様子(撮影:宇野常寛)
福岡醤油ギャラリーは、明治に建てられた主屋と昭和初期に建てられた離れからなる建物「旧福岡醤油建物」を改修してつくられた文化施設。展覧会の開催や一部施設の貸出とともに、瀬戸内の食文化を堪能できるスペースを運営予定。人々が集い、新たな交流が生まれる場を提供することを目指す。運営元は、公益財団法人石川文化振興財団。理事長の石川康晴さんは、ファッションブランド「earth music&ecology」などを手がけるアパレル企業・ストライプインターナショナルを創業した実業家だ。
この福岡醤油ギャラリーの源流は、2010年代の前半までさかのぼる。石川さんは2014年、「街が美術館となり、散歩がアートとの出会いになる。」をコンセプトに、「Imagineering OKAYAMA ART PROJECT」を開催した。工事現場の壁、県立美術館の壁、廃校の学校の中、街中の自然……既存の素晴らしいものと現代アートを融合させるアートイベントとして展開。世界各国から収集した現代アートの「石川コレクション」が、国内初公開の作品も含めて市内の至る場所に出現した。
「Imagineering OKAYAMA ART PROJECT」は、短期間で延べ11万人を超えるほどの来場客を集めたことを評価され、国際現代美術展「岡山芸術交流」へつながっていく。「既存のものを活かす」という中心的なコンセプトを引き継ぎながら、世界各地から多様なアーティストたちが参加。ニューヨーク在住の著名アーティストであるリアム・ギリックがアーティスティックディレクターを務めた第1回(2016年)には延べ 234,000人、フランスを代表するアーティストであるピエール・ユイグがアーティスティックディレクターを務めた第2回(2019年)には延べ312,000人が来場した。2022年秋には第3回の開催が決まっており、アーティスティックディレクターには、アルゼンチン生まれのアーティスト、リクリット・ティラヴァーニャを選任。
ただ、街中を会場とするがゆえに、会期終了後はすべて展示を撤去してしまうという。そこで、アート作品を展示する拠点を持とうと設立されたのが、この福岡醤油ギャラリーなのだ。
もともと醤油蔵だった建物を再利用することは、「潰れかけた場所に『生命(いのち)』を宿らせる」ことでもある──その考えにも照らし合わせ、こけら落としとなる展覧会の担い手に、石川さんはチームラボを選んだ。「チームラボがこんなに狭いスペースで展示を行うのは初めてではないか。それにもかかわらず、醤油蔵の文脈と生命という概念、さらにはお茶というコンセプトともつながっていく、期待以上のものをつくってくれた」と石川さん。
福岡醤油ギャラリーでは、欧米だけでなく、日本も含めたアジアのアーティストの展覧会を開催していく構想だ。「生きているアーティストの次のステップを応援するパトロンとなりたい」と石川さんは意気込みを語った。そうしてギャラリーを充実させていった先に、「既存の観光コンテンツと私たちの文化芸術のアプローチをミックスした魅力的な都市をつくりたい」とも展望している。
猪子 展示しているのは『旧醤油蔵の共鳴する浮遊ランプ』という作品で、一帯に水を張ってランプを浮かべている。
その水面と同じレベルにお客さん用のテーブルがあって、そこでEN TEAの茶が飲める。こっちはコップに入れたお茶が光をたたえてその色が変化していく『共鳴する茶 - 動的平衡色』という作品になっているというわけ。
▲Teamlab: Tea Time in the Soy Sauce Storehouseでの『旧醤油蔵の共鳴する浮遊ランプ』と『共鳴する茶』。
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