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粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』最終回「なぜ人はライフスタイルを発信するのか」【毎月第3火曜配信】☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.646 ☆
2016-07-19 07:00チャンネル会員の皆様へお知らせ
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粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』最終回「なぜ人はライフスタイルを発信するのか」【毎月第3火曜配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.7.19 vol.646
http://wakusei2nd.com
本日は、アイランド株式会社代表の粟飯原理咲さんによる連載『ライフスタイルメディアのつくりかた』の最終回をお届けします。なぜ人間はライフスタイルを発信して、またライフスタイルメディアを求めるのか。連載の内容の総まとめとも言える回となります。
▼プロフィール
粟飯原理咲(あいはら・りさ)
アイランド株式会社代表取締役。国立筑波大学卒業後、NTTコミュニケーションズ株式会社先端ビジネス開発センタ勤務、株式会社リクルート次世代事業開発室・事業統括マネジメント室勤務、総合情報サイト「All About」マーケティングプランナー職を経て、2003年7月より現職。同社にて「おとりよせネット」「レシピブログ」「朝時間.jp」などの人気サイトや、キッチン付きイベントスペース「外苑前アイランドスタジオ」などを運営する。美味しいものに目がない食いしん坊&行くとついつい長居してしまう本屋好き。
◎構成:稲葉ほたて
本メルマガで連載中の『ライフスタイルメディアのつくりかた』配信記事一覧はこちらのリンクから。
前回:「特別編:成長期のプロデューサーの「7割主義」仕事術――レシピブログプロデューサー・久永千恵インタビュー」(粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』第7回)
昨年より7回にわたって続けてきたこの連載ですが、今回で最終回となります。これまでご覧いただいてきたみなさま、本当にありがとうございます。
さて、これまで「ライフスタイルメディアのつくりかた」というタイトルで主にウェブ関連の話をしてきましたが、いくつかのライフスタイルメディアをつくってきた中で、うまくいったことからも、うまくいかなったことからも、学んだことがひとつあります。
それは、はじめに「こんな風にしたい!」と夢見て描く「世界観の大切さ」です。
たとえば、ウェブサービスの世界でよく推奨される「リーン・スタートアップ」。リーン・スタートアップというのは、ざっくり言うと、とりあえず完成度が低くても最少単位でサービスを出してしまって、その後に軌道修正をしていく開発手法のことです。日本では伊藤穰一さんの紹介がついた同名の本で話題になったので、ご存じの方も多いかと思います。
このリーン・スタートアップの手法でライフスタイルメディアを作ろうとしたときに、機能としての最少単位だけを考えてしまうと、世界観を表現する部分をうっかり削りすぎてしまう危険性があります。
▲エリック・リース『リーン・スタートアップ』(日経BP、2012年)
■機能のリーンだけでなく、世界観のリーンを同時に考える。
例えば、この連載でも以前お話した、レシピブログの後にリリースした「子育てスタイル」というサービスのケース。
このサービスを立ち上げる時、ひとまずレシピブログとほぼ同じ機能を子育て版にアレンジしたものを、ママっぽいデザインにすることで横展開を図ろうとしました。こういう手法は、ウェブでの通常のサービス展開の仕方としてはよくあるものだと思います。
ところが、それはなかなか上手くいきませんでした。その原因を後で振り返って出てきたのが、「世界観のつくりこみ」の甘さです。「子育てスタイル」は、「お母さんが本当に求める世界観はなんなの?」とか「自分たちが提案したい世界観はなんなの?」というところが、完全にはつくりきれていませんでした。機能として必要なページだけを揃えてスタートしていたのです。結果、サービスのブレイクにはつながりませんでした。
それに対して、先行して成功していた「おとりよせネット」は逆でした。
オープンしたての頃は、お取り寄せ品などのデータベースはすごく貧弱だったのですが、なぜか「お取り寄せでホームパーティーをしよう!」みたいなページに、スタッフがものすごい熱意で写真を撮り下ろしていたのです。
普通にウェブサービス運営の効率を考えたら、「お取り寄せって素敵」みたいなページなんかに力を入れるのは間違っています。別段そのページを何度も見に来る人なんていないし、リピートにつながるかもわからない。費用対効果は一見して、決して良くないように思えます。
ところが、そこには明らかに私たちが「素敵だ」と考えるような、ひとつの世界観がつくられていたのです。お取り寄せのある生活とは、こんなに豊かで幸せなものなのだ――という、そんな“半歩先の憧れ”に溢れたメッセージがそこにはあったのです。
そして、私たちはそれがあったからこそ、「お取り寄せって素敵なのかも」とか「お取り寄せしてみたい」みたいな憧れを持ってもらえたのではないか、と考えました。
その後、レシピブログでは世界観をより一層意識して工夫していくようになりました。その成果は、確かに出てきたように思います。そして、これは今もなお弊社アイランドの重要な考え方になっています。
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粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』第7回「特別編:成長期のプロデューサーの「7割主義」仕事術――レシピブログプロデューサー・久永千恵インタビュー」【毎月第3火曜配信】☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.622 ☆
2016-06-21 07:00チャンネル会員の皆様へお知らせ
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粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』第7回「特別編:成長期のプロデューサーの「7割主義」仕事術――レシピブログプロデューサー・久永千恵インタビュー」【毎月第3火曜配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.6.21 vol.622
http://wakusei2nd.com
本日は、アイランド株式会社代表の粟飯原理咲さんによる連載『ライフスタイルメディアのつくりかた』の第7回をお届けします。今回はレシピブログ三代目編集長の久永千恵さんに登場していただき、黎明期のプロデューサーとはまた違う「成長期のプロデューサー」の役割とは何かを話していただきました。
▼プロフィール
粟飯原理咲(あいはら・りさ)
アイランド株式会社代表取締役。国立筑波大学卒業後、NTTコミュニケーションズ株式会社先端ビジネス開発センタ勤務、株式会社リクルート次世代事業開発室・事業統括マネジメント室勤務、総合情報サイト「All About」マーケティングプランナー職を経て、2003年7月より現職。同社にて「おとりよせネット」「レシピブログ」「朝時間.jp」などの人気サイトや、キッチン付きイベントスペース「外苑前アイランドスタジオ」などを運営する。美味しいものに目がない食いしん坊&行くとついつい長居してしまう本屋好き。
◎構成:稲葉ほたて
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前回:「場所への共感は時間を超えるーー「黎明期」以降のメディア運営」(粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』第6回)
アイランド代表の粟飯原理咲です。今回は、再びインタビューの形式で送り届けてみたいと思います。
今回お呼びしたのは、レシピブログの現プロデューサー・久永千恵さん。前回、この連載でインタビューした川杉弘恵さんが黎明期のプロデューサーなら、彼女はこの連載で前回書いた「黎明期以降」のサービス運営で大きな役割を果たした「成長期のプロデューサー」です。
彼女のプロデューサー就任後、レシピブログのPV数は7倍に。このサービスの成長は、まさに久永千恵さんの仕事スタイルが大きかったように思います。今回はアイランドで「7割主義」なんて呼ばれることもある彼女の仕事のスタイルを聞くことで、成長期のプロデューサーの役割について考えてみたいと思います。
粟飯原理咲(以下、粟飯原) 以前も、「7割主義」という形で、カフェグローブさんで千恵ちゃんのインタビューを掲載いただいたことがありましたね。
(参考)仕事の完成度を上げるのは「7割主義」/レシピブログプロデューサー久永千恵さん
久永千恵(以下、久永) そうでしたね(笑)。
粟飯原 「7割主義」というのは、とにかく7割の力でどんどん多くの仕事を進めていくスタイルなんです。前回のインタビューでご紹介した、川杉ちゃんの言わば「12割主義」と、どちらとも本当にすごいことだなと思っています。「12割主義」も、「7割主義」も多くの人にはなかなか出来ないことなんです。
個人的には、サイトが大きくなるにつれ、「7割主義」が威力を発してくるなあと。
私なんかは、やはり“創業者”タイプというか、つい何かを決めるときに「この機能は残した方が……」なんて思ってしまいがちだし、基本的には何でもかんでもやりたくなってしまう(笑)。でも、千恵ちゃんは「やらない」という選択をするのが本当に上手なんだよね。そして、ものすごいスピードで、まさに「7割」の力で大量のトライアンドエラーを回していく。
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粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』第6回「場所への共感は時間を超えるーー「黎明期」以降のメディア運営」【毎月第3火曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.593 ☆
2016-05-17 07:00※本記事は編集部の不手際により、昨日(2016年5月16日)にも配信が行われました。関係者の皆様には謹んでお詫び申し上げますとともに、編集部一同、今後の再発防止に努めてまいります。
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粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』第6回「場所への共感は時間を超えるーー「黎明期」以降のメディア運営」【毎月第3火曜配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.5.17 vol.593
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本日は、アイランド株式会社代表の粟飯原理咲さんによる連載『ライフスタイルメディアのつくりかた』の第6回をお届けします。今回はメディア運営の黎明期の後にやってくる成長期に求められるものは何か。一対一で書き手と向き合う編集者の役割を、イベントやメディアの仕組みの中に、どのように組み込んでいったのかについて語っていただきました。
▼プロフィール
粟飯原理咲(あいはら・りさ)
アイランド株式会社代表取締役。国立筑波大学卒業後、NTTコミュニケーションズ株式会社先端ビジネス開発センタ勤務、株式会社リクルート次世代事業開発室・事業統括マネジメント室勤務、総合情報サイト「All About」マーケティングプランナー職を経て、2003年7月より現職。同社にて「おとりよせネット」「レシピブログ」「朝時間.jp」などの人気サイトや、キッチン付きイベントスペース「外苑前アイランドスタジオ」などを運営する。美味しいものに目がない食いしん坊&行くとついつい長居してしまう本屋好き。◎構成:稲葉ほたて
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前回:特別編:夢見るプロデューサーの熱狂ーーレシピブログ初代編集長・川杉弘恵インタビュー(粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』第5回)
■ 成長期に求められる“場の成長と個人の成長”が共鳴するフィールド
前回まではメディアの立ち上げについて話してきましたが、今回はそんな「黎明期」の次のステージ、メディア運営について話してみたいと思います。
「レシピブログ」が成長しはじめたときに、私たちが大事にしたのが「場の成長と個人の成長が共鳴するフィールドを、書き手のためにつくっていく」ということでした。というのも、初期の頃は編集部と書き手である料理ブロガーさんが一対一の関係で熱くメールを交わすことで、メディアの想いを共有していたのですが、成長期に入りユーザー数も増えてくると、なかなかそういう関係を結ぶのは現実的に難しくなってきたからです。
そこで私たちが、編集者による一対一のフィードバックやコミュニケーションの代わりに導入したのが、「ステージ制」と「イベント」でした。
そのときに考えたのは、書き手同士で互いのセンスや視点などに刺激を受け、活動を励みにしあう仲間を作ってもらおうということです。何かを続けるとき、人間には仲間が必要です。直接コミュニケーションが密に発生しなくても、「私と同じフィールドであの人が頑張っているから、私も頑張ろう」と思える研鑽の仲間がいるだけで、その後の持続性は大きく変わってきます。いかに書き手の方々にそういう関係を作っていただくかは、編集部が常に工夫をこらしている部分で、これは当時も今も変わりません。
レシピブログ内にステージ制を設けて、長く活躍を続けた方には「シルバーブロガー」、さらに続けると「ゴールドブロガー」「プラチナブロガー」とランクアップしていく仕組みを作ったのも、“一定の書き手が集まるフィールド”を設計することで、そういうモチベーションの1つになってくれればと考えたからです。ステージが上がることにサイト上でも発表を行い、多くの書き手の方々の励みになることを意識しました。
ただし、こうして書き手同士を繋いでいくときも、私たちは「コンテンツを介して人と人が繋がる」ことだけは大事にしていました。ステージ制はあくまでブログでの発信に対する評価ですし、リアルでのイベント開催でもその点は変わりません。
成長期に入って以降、レシピブログでは「料理写真を上手に撮る教室」や「レシピの書き方講座」などの、コンテンツの質を高めるためのノウハウを共有する講座をリアルで開くようにしました。私たちが作りたかった、互いに料理写真を共有して「いいね」を言い合えるような場所をより広げていくために、プロの講師の方を呼んでノウハウを提供していったのです。そういう場では、特定のテーマに興味を持って集まったユーザーさん同士で、繋がり合ってもらうようにしました。すると、「あのイベントで知り合った●●さんがどんどん写真が上手になっているから、私も頑張ろう」というふうに、書き手同士が互いをブラッシュアップする仲間になります。イベントでは、そういった書き手の間の関係づくり、コミュニティとしても個人としても成長感がある場づくりを主眼にして設計を行っていました。
▲これまでに開催されてきたイベントの様子
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粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』第5回「特別編:夢見るプロデューサーの熱狂ーーレシピブログ初代編集長・川杉弘恵インタビュー」【毎月第3火曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.568 ☆
2016-04-19 07:00チャンネル会員の皆様へお知らせ
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粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』第5回「特別編:夢見るプロデューサーの熱狂ーーレシピブログ初代編集長・川杉弘恵インタビュー」【毎月第3火曜配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.4.19 vol.568
http://wakusei2nd.com
本日は、アイランド株式会社代表の粟飯原理咲さんによる連載『ライフスタイルメディアのつくりかた』の第5回をお届けします。今回は特別編として、粟飯原さんが連載の中で何度も名前を挙げてきたレシピブログ初代編集長の川杉弘恵さんを呼んで、「新しいメディアを創ることができる人には、どんな素質があるのか」をテーマに、いつもの視点とは別の角度から、当時のことを聞いていきます。
▼プロフィール
粟飯原理咲(あいはら・りさ)
アイランド株式会社代表取締役。国立筑波大学卒業後、NTTコミュニケーションズ株式会社先端ビジネス開発センタ勤務、株式会社リクルート次世代事業開発室・事業統括マネジメント室勤務、総合情報サイト「All About」マーケティングプランナー職を経て、2003年7月より現職。同社にて「おとりよせネット」「レシピブログ」「朝時間.jp」などの人気サイトや、キッチン付きイベントスペース「外苑前アイランドスタジオ」などを運営する。美味しいものに目がない食いしん坊&行くとついつい長居してしまう本屋好き。◎構成:稲葉ほたて
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前回:書評サイトのジャンルに「レモン水」?ーーなぜ編集部の”意思”を込めたUI/UXが必要なのか(粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』第4回)
アイランド代表の粟飯原理咲です。今回は、少しいつもと体裁を変えて、インタビューの形式で送り届けてみたいと思います。
今回お呼びしたのは、ウェブプロデューサーの川杉弘恵さん。この連載でも何度か登場してきた、レシピブログの構想に真っ先に共感してくれて、一緒にレシピブログを作り上げて、初代の編集長になっていただいた女性です(アイランドの、アルバイトからの第一号社員でもあります)。彼女のおかげでレシピブログは大きく羽ばたきました。現在の彼女は、フリーランスとして色々なサービスに関わっていて、現在もアイランドのサービスのお手伝いをお願いしています。
さて、ここまでの連載では、主にライフスタイルメディアの立ち上げ期に焦点を当てて、そこで必要になる考え方を書いてきました。今回はその一つの区切りとして、彼女の視点からレシピブログの立ち上げ期の話や、そこで抱いていた思いを聞いてみたいと思います。
■ 立ち上げ期のプロデューサーの資質
粟飯原理咲(以下、粟飯原) 今回は、立ち上げ期のプロデューサーに必要なことを聞いてみたいということで、川杉ちゃんに来てもらいました。
サービスを作っていると思うのですが、立ち上げ期と育てる時期のプロデューサーでは、必要になる能力が違ってくるんですね。
たとえば、今の「レシピブログ」のプロデューサーは、もうすごい安定感で、サービスをしっかりと育ててくれる人なんです。サービスに対して適切な距離感があって、まさに「冷静と情熱のあいだ」でサービスを回していくことができる。コンテンツの一つ一つへの力の入れ方も――「7割主義」と呼んでいるのですが――適度にしっかりと抑えながら、でもどんどん前に進めていく。
でも、立ち上げ期の人はちょっと違うんです。
なんというか「偏執狂的」というか……(笑)。川杉ちゃんのように、自分の全人格を注いで、そのサービスを自分の作品だと思う、アーティスト気質の人なんじゃないかな、と。連載でも書いたけど、ユーザーさんにメールを一本書くのに、どんな日本語を使うべきなのかをずっと悩めるような強烈なこだわりがどうしても必要なんです。川杉ちゃんは、本当にその能力がすごい。
川杉弘恵(以下、川杉) それで呼ばれたと(笑)。
粟飯原 川杉ちゃんの熱狂のあり方というのは、「いかに人と絡むか」にあると思うの。だって、ユーザーさんとのメールの一通一通に、もうテニスの試合で最後のショットを決めるときぐらいの迫力で、一通入魂で書いていたでしょ。
川杉 「あなたのブログを登録してください! レシピブログというサービスに! まだオープンしてないけど!」っていう内容のお願いメールとかですよね(笑)。
でもまず、紙媒体の編集さんでも、書き手をスカウトするときには「あなたの何を私が良いと思っているか」は伝えますよね? 「ぜひ来てほしい。あなたの書いたものは読んだし、そのニュアンスまで味わいました」と。
しかも、こういうサービスの最初の人たちとは、人間関係みたいに始まる必要があると思っていました。だって、こっちが有名なら向こうから来てくれますけど(笑)、私たちはどこの馬の骨とも知れない人たちで、とても警戒されているんですよ。そのなかで「新しい場所を一緒に作りましょう」という関係を作っていかなきゃいけないわけですから。
がさつに一斉配信でメッセージしても、「別に私がいる意味は無いよね」と思われてしまうので、常に私たちの気持ちを言葉に落としていく必要性は考えていました。
……という状況だったので、必要ならメール一本に3時間くらいかけたことがあるのは否定しません(笑)。
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書評サイトのジャンルに「レモン水」?――なぜ編集部の“意思”を込めたUI/UXは必要なのか(粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』第4回)【毎月第3火曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.541 ☆
2016-03-15 07:00チャンネル会員の皆様へお知らせ
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書評サイトのジャンルに「レモン水」?――なぜ編集部の“意思”を込めたUI/UXは必要なのか(粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』第4回)【毎月第3火曜配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.3.15 vol.541
http://wakusei2nd.com
本日は、アイランド株式会社代表の粟飯原理咲さんによる連載『ライフスタイルメディアのつくりかた』の第4回をお届けします。今回は粟飯原さんが自身のライフスタイルメディアのキーワードとして挙げている「共感型メディア」について。問題解決型のメディアよりも、そういうメディアの方が小さなベンチャー企業に向いていると語る粟飯原さんが、長年のサービス運営で見つけてきた知見を解き明かしています。
▼プロフィール
粟飯原理咲(あいはら・りさ)
アイランド株式会社代表取締役。国立筑波大学卒業後、NTTコミュニケーションズ株式会社先端ビジネス開発センタ勤務、株式会社リクルート次世代事業開発室・事業統括マネジメント室勤務、総合情報サイト「All About」マーケティングプランナー職を経て、2003年7月より現職。同社にて「おとりよせネット」「レシピブログ」「朝時間.jp」などの人気サイトや、キッチン付きイベントスペース「外苑前アイランドスタジオ」などを運営する。美味しいものに目がない食いしん坊&行くとついつい長居してしまう本屋好き。
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前回:オリジナリティは「テーマ×仕組み×書き手」がコツ――企画コンセプトに「エッジ」を立てる(粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』第3回)
■ 共感型メディアとはなにか
第一回の終わりに、レシピブログでは「いいね!」ボタンに当たるものとして、「美味しい」ではなくて「美味しそう」のボタンをつけたという話をしたと思います。
そこでも書いたように、「美味しい」は事実の判断ですが、「美味しそう」はあくまでもユーザーの感情です。ここでボタンを設置した際に、「美味しそう」を選択したことは、私たちのメディアが感情でユーザーがエモーショナルにつながりあう場所を目指してきたことを象徴しているように思います。
私は、例えばカカクコムさんやYahoo!のように、ユーザーが抱えている問題点を解決してくれるメディアを「問題解決型メディア」と呼ぶならば、こういうユーザーがエモーショナルにつながりあう場を提供するメディアを「共感型メディア」と呼んでいます。
私たちがアイランドで運営してきたのは、レシピブログや朝時間.jpのような、まさにこの「共感型メディア」たちでした。こういうメディアを好んで運営しているのは、私自身が普段の生活の中でも、なにかを論理的に問題解決していくようなことに時間を割くより、好きな本を読んで過ごす時間などを好んでいるのもあるかもしれません。
ただ、もう少し経営者的なところからの理由もあります。
以前にも書いたように、私は新卒でNTTコミュニケーションに勤めていました。そのときに、「よせがきコム」というサービスを思いついたことがあります。このサービスは、寄せ書きがネット上で出来るというサービスで、当時は類似サービスが世の中にまだなかったので、私はそのサービスにとてもワクワクしていました。実際、最終的には18万人もの会員に使われるようになり、数年後に楽天に売却することになっています。
このサービスは、実は社内ではプレゼンしたものの通りませんでした。当時の私は、それでもこのサービスを表に出したくて、最終的には仲間と一緒に別の会社をつくって、副業として立ち上げるほどの意気込みで臨んだものでした。ところが、そうして迎えたリリース日、私はリリースした瞬間にふと「あ!」と気が付いたことがあったのです。
――もしYahoo!やソフトバンクが、同じ機能を明日にでも公開したら、私のサービスはすぐに使ってもらえなくなってしまうかも……。
結局、その不安は的中することはありませんでしたが、そのときに私は「小さなベンチャー企業が、機能オンリーで勝負を仕掛けてはいけない」と強く肝に銘じました。機能のような「問題解決」を大事にしたメディアやサービスは、ヤフーやドコモのような大手が本気で勝負を仕掛けたときに、いとも簡単に使われなくなってしまう。それは自分が大きな企業に社員として勤めていただけに、とてもよくわかりました。
その後、私は自分で起業したときに、積極的にメディアの中にエモーショナルな要素を入れるように心がけました。レシピブログは、そういう中で見つけた解答の一つであると言えるかもしれません。
料理の世界で面白いのは、栗原はるみさんの作る肉じゃがと、ケンタロウさんの作る肉じゃがでは、たとえレシピが同じであったとしても、ユーザーにとっては違う肉じゃがになってしまうことです。問題解決のメディアの発想では、なぜこんなことが起きるのかはわかりません。
その一方で論理的に問題を解決していく類の機能は、すでに先発で大きなプラットフォームになっていたクックパッドさんにお任せすればいい、と割り切ることにしました。私たちは、その中にいるユーザーがゆるやかに繋がり合ってファンになっていただき、彼らと強いエンゲージメントを築いていけばいいと思いました。
やがて時が経ち、そうしてユーザーさんたちと向き合って開発を続けていくうちに、アイランドのサービスはリアルにも飛び出して行きました。なぜかウェブの会社なのに、ユーザーさん向けのスタイリングや写真の教室を行うようになり、イベントスペースも自社に作りました。今では、年間1千人を越える方々が、私たちのスペースに足を運んでくださっています。
こんなふうに、なにがなんだかわからないけど盛り上がっている――という状態は、小さなベンチャー企業にとって、大手企業に対しての強みではないかと思います。こういう状態を作り出せるのも、「共感型メディア」の良いところだと私は思っています
今回は、この「共感型メディア」の視点から見たサービス設計、特にUI/UX設計の手法について、私たちが自社メディア運営の経験から見つけてきたことをお伝えしたいと思います。
■ フォーマットが動き方を変えていく
まずは、UI/UXの考え方について、簡単に話していきたいと思います。
まず、UIはユーザーインターフェース、UXはユーザーエクスペリエンスの略語です。前者はユーザーがデバイスを扱うときの操作、後者はユーザーがサイトを使うときの体験に関わっています。両者に共通するのは、サービス事業者の側でユーザーがサイトを使うときの行動を導き、快適な使い心地にしていくという考え方があることです。
具体的にイメージするために、例として、おとりよせネットの口コミ投稿のプロセスを見てみましょう。
▲「おとりよせネット」の記事下のUI
まず、記事の下の方に「おいしかった」というボタンが置かれています。これは先ほどの「いいね!」ボタンの機能を果たす「おいしそう」ボタンに似ているUIですが、実は口コミの感想を投稿するためのボタンです。
ここで「レビューを投稿する」のような言い方をしていないのは、まさにおとりよせネットが「共感型メディア」であるからです。というのも、私たちが投稿して欲しいのは、単純な商品への批評ではないからです。私たちが、このサービスで提供したいUXとは、「お取り寄せ品を体験して“美味しかった”と感じた気持ちを互いにみんなで共有してもらうこと」にあるのです。そこは、例えばカカクコムさんのような、家電製品などの機能への率直なクチコミレビューが並ぶことに価値をもたせたサービスとの違いだと思います。
ですから、このボタンを押す時点で、「おいしかった」と思う人であってほしいし、その先に「よかったら、その“美味しかった”という感想を書いてくださいね」となるのです。このように、フォーマットそのものでサイトの目的を自然に提示するのは、UI/UXのとても大事な手法です。
▲「おいしかった」ボタンを押すと上のように表示される。
ちなみに、「おとりよせネット」の方では、さらに「モニター審査」という独自の制度で、公式に選ばれた審査員ユーザーの方々に、お取り寄せ品を自宅で実食していただくという形式での口コミ評点があり、味やパッケージ、コスパなどの点で率直な評価を書いてもらっています。しかし、この場合でも私たちは入力のフォーマットを工夫しています。
上のように、まず最初のテキスト入力欄に「おすすめ」の要素を先に書いてもらいます。その上で、下のテキスト入力欄に「気になる点」の要素を書いてもらうのです。あくまでも、ネガティブな要素を知りたければ、先にポジティブな要素を見てからにしてほしい。これは私たちの意思表示ですが、レビューを読む側のユーザーにとっても、やはりまず欲しいのはその商品の良いところなのではないかと思いますし、慣れてしまうとこの形式はむしろ読みやすいものだとも感じています。
こうした編集部側の主張を入れていく工夫は、もちろんすべてのサイトにおける正解ではありませんが、とても我々のサイトらしいと思いますし、一定の成果を上げていると思っています。
■ なぜ遊び心を大事にするのか
さて、こんなふうに編集部の意思をメディアのUI/UXの部分にまで込めていくのは、ライフスタイルメディアの運営にとって、とても重要なことでもあります。
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オリジナリティは「テーマ×仕組み×書き手」がコツ――企画コンセプトに「エッジ」を立てる(粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』第3回)【毎月第3火曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.520 ☆
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本日は、アイランド株式会社代表の粟飯原理咲さんによる連載『ライフスタイルメディアのつくりかた』の第3回をお届けします。
前回までが粟飯原さんの経験にもとづくライフスタイルメディア立ち上げの心構えなら、今回はもっと構造的に、立ち上げ時の企画や戦略について語られた回となります。いま話題のウェブメディアの運営論を、すでに10年以上も前に先取りして実践し続けてきた粟飯原さんに、そのエッセンスを書いていただきました。
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前回:始まりは一人の熱狂から――メディア運営の逆境に強いのはマーケット志向よりも「自分志向」(粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』第2回)
前回までは、私のレシピブログでの経験を語ることで、ライフスタイルメディアとは何か、そしてその立ち上げに必要なものは何か、について考えてきました。今回は、そうした立ち上げの中で私が自分なりに見つけてきた企画の作り方について話してみたいと思います。
皆さんも会社で企画などの立ち上げに関わることがあるのではないでしょうか?
私も、プロデューサーとしてサービスを立ち上げるときにとどまらず、キャンペーン企画やブログの書籍化などの様々な場面で企画を立てることが必要になります。
このとき、私がとても大事にしていること――それはコンセプトに「エッジを立てる」ということです。
コンセプトにエッジを立てることによって、その企画にはオリジナリティが生まれて、多くの人を惹きつけるものになります。例えば、単純に日本酒のキャンペーンや、チョコレートのキャンペーンをやっても、同じようなキャンペーンが多ければさほど目立つことはありません。しかし、少しエッジを立てて「日本酒を使ったチョコレート」のキャンペーンであれば、どうでしょうか。意外な取り合わせに、急に興味が湧いてくるのではないでしょうか。
▲アイランドスタジオで、募集後すぐに満席になった"日本酒×チーズのマリアージュ"イベント
とはいえ、このコンセプトに「エッジを立てる」というのは、なかなか難しいものです。
意外な取り合わせでエッジを立てるにしても、あまりに奇をてらっても層は狭まってしまいますし、逆に当たり前すぎても目立つことはなくなります。どこにちょうど良いバランスがあるかを見きわめるのは、とても難しいところがあるのです。
この辺は、まさに「企画」における永遠のテーマと言えるかもしれません。
ただ、この「企画」を考える際にとても大事なことが一つあります。
それは、「個性」を一つだけにする必要はないということです。どんどん二つ、三つと掛けあわせていくことで、エッジが立つことがあるのです。
もちろん、それはサービスを考える企画の際にも同じことがいえます。今回は、ライフスタイルメディアに限らず、新しいメディアを立ち上げる際にとても重要になってくる三つのエッジのかけ方をお話しします。
私たちのような小さな会社が新しいサービスをつくるときには「オリジナリティ」が求められます。後追いの企画で成功するのは、すでに多くのユーザーを抱える大手のサイトでなければ、なかなか難しいのです。これは私が自分でサービスを作る中で見つけた、オリジナリティを高めるための一種の「方程式」ですが、自分でメディアを作りたいと考えている読者の方に、なにかしらお役に立つのではないかと思います。
■ オリジナリティは「テーマ×仕組み×書き手」で生まれる
オリジナリティを高めるための方程式の一つ目は「テーマ」です。
たとえば、私が手掛けた企画の一つに、「朝時間.jp」というサービスがあり、2006年からウェブサイトを運営しています。
これは一日のはじまりである「朝の時間」を楽しく過ごすアイデアを提案するサービスで、まだ「朝活」という言葉が生まれる前に始まったものです。
このサービスは、リリースを発表しただけでメディアが取り上げてくださいました。初期のユーザーさんも、コンセプトの面白さに惹かれて、サイトが正式にオープンする前のプレオープンサイトの時点から、サイトを覗いてくれていました。私としても、当初からこのテーマにワクワクしていたのを覚えています。しかも発表前に調べた時点で、女性向けのメディアとして「ファッション」や「料理」を扱うものはあれど、「時間」を切り口にしたものは一つもないとわかっていたので、テーマそのものに強いオリジナリティを感じていました。
でも、このようにテーマ一本だけで、引きがあるようなものはなかなかありません。それは探すのも難しく、また前回までに書いたような「自分が本心から情熱を傾けられるもの」であるとも限りません。
ですから、多くの場合には、さらにオリジナリティを掛けあわせていく必要が出てくるのです。
そんなとき、メディアサービスにおいて二つ目のエッジの掛けどころとなるのが「仕組み」です。
レシピブログの場合には「レシピ」をまずテーマに定めましたが、やはりこれ自体は決してオリジナリティがあるものではなかったです。その時点ですでにクックパッドなどの先行サービスが存在していて、また各ブログに「料理」のカテゴリーが存在していたからです。
しかし、私たちはそこに、さらに当時はまだ最新の技術だったRSSフィードを用いて、「プラットフォーム横断でブログ記事を集約したポータルサイト」というシステム上の特徴を付け加えました。このとき、レシピブログには明らかに「これは今までにない“仕組み”の料理サービスだ!」というオリジナリティのエッジが立ったように思います。
そして、それは当時の私たちの強い「想い」をあらわした仕組みでもありました。
各々のサービスで活躍しているブログユーザーの皆さんを、自分たちの中に囲い込むのではなくて、彼女たちがそのままで繋がり合える方法を提供したかったのでした。料理ブログのファンとして、個性的で素敵なライフスタイルを送るユーザーさんたちが、そのままに多様な個性を発揮して活躍し続けてもらいたいという思いがあったからです。
そういう想いから生まれたレシピブログは、やがて様々なブログのハブとなって機能していきました。現在では例えば、クリスマスをテーマにした記事のキャンペーンを行うと、それに呼応した16000個の様々なサービスのブログからどんどん口コミで情報が伝わっていき、そのテーマに共感したブロガーの方たちが素敵な記事を書いてくださるようになっています。
それは、まさに「ハブ」となることを大事にしたレシピブログだからこそ可能な、料理ブロガーさんとの関わり方なのだと思っています。
ちなみに、こういう仕組みでの工夫の仕方は、「おとりよせネット」でも機能しています。おとりよせネットでは、当時では珍しかった「おとりよせ」のテーマに加えて、一般ユーザーがモニター審査員として実際に試食をする「審査員制度」というものを設けたのでした。今では、全国に約4万名ものモニター審査員の方々にサービスを登録していただいています。
テーマを思いついたときに、どういう仕組みでオリジナリティを出すかというのは、サービスを考える際の一つ重要なポイントなのです。実際、「Retty」と「食べログ」の違いなどは、やはり大きくはシステムの部分にあると思います。
次に、三つ目のエッジである「書き手」について続いてお話します。
■ “書き手”選びでメディアの個性が決まる
さて、この二つ目の「仕組み」に加えて、メディアにはさらに三つ目のエッジの掛けどころがあります。それが、「書き手」の選定です。まったく同じテーマ、まったく同じ仕組みであっても、極論「書き手」が違えばメディアの個性も違ってくるのが、企画者としては面白いところです。
ウェブサービスの運営として見ると、この「書き手」の部分はとても泥くさいものです。前回も書いたように、私たちはレシピブログを始めるときに、ひとり一人の書き手の方に“ラブレター”のメールを送りました。一つのメールを書くために何時間もの時間を掛けて、一緒に立ち上げた川杉と文章を互いに確認しては表現一つ一つを丁寧に話し合って、著者の方にご連絡したのです。
この作業はとても大事なものです。
というのも、テーマやシステムだけでそのサービスの「色」や「質」が自動的に決まることはないからです。むしろそういう部分は、「最初にどんな人がやってきたか」が強く影響を与えるのです。
広告やなんらかの報酬などでユーザーを集めることは可能ですが、そのときのコミュニティは、そういうものに惹かれて集まったユーザーを見て、自分も登録してみようと思うような人たちの集まりになってしまいます。レシピブログの場合は、何よりもまず私たちの考える「素敵な料理ブログ」がたくさん集まってくる場所にしたかったので、まずは私たちが「素敵!」と思えるブログに声をかけていきました。その際、「料理写真がビジュアル的に素敵であること」のような要素を、確かにメディアとして意識していたりもしたのですが、やはり何よりもまず私たちの「素敵!」という感覚を大事にしました。
このように懸賞や広告を用いずに、自分たちが理想であると考える著者を一本釣りすることから始めたのは、レシピブログの成功のとても大きな要因だったと、振り返って考えています。
ちなみに、この書き手集めの際に、一つ考えどころになるのが「多様性のバランスをどこまで取るか」だと思います。
レシピブログの場合には、変に「高級路線で行こう」などの尖らせ方は考えずに、あくまでも、広く料理ブログを眺めてきた自分たちの視点で、素敵なブログを集めたことが最初から広くバランスを取ることに繋がりました。そのことは、編集部の側で「こういう料理ブログが良いものだ」という価値判断をしないという方針とも相まって、とてもよく機能したように思います。
ただし、最初のユーザーを徹底的に絞り込むことでエッジを立てて、かえって上手くいく事例もあるはずです。そこはケースバイケースで、一概に言えることではありません。
例えば、「おとりよせネット」のときには、最初のユーザーとして著名人の方を強くフィーチャーさせていただきました。数々のテレビ番組に出演している、「おいしゅうございます!」のセリフで有名な食生活ジャーナリスト岸朝子さんや、料理研究家の飛田和緒さんに「おとりよせ」を取材したコーナーは、当時の大人気コンテンツでした。まだ「おとりよせ」が広まっておらず、多くの人が足踏みしていたその時代には、何よりもまず「おとりよせ」のある「ワンランク上の生活」への憧れを抱いてもらい、そのロールモデルを見せることが必要だったのでした。
一方で、「朝時間.jp」の立ち上げ期には、当時「朝活」(この言葉はまだありませんでしたが)をしていた、三つの層のメインユーザーをバランスよく獲得することをとても大事にしていました。
この三つのユーザー層というのは、一つは「ロハス系」のユーザーの方々です。朝早く起きて湘南でサーフィンをしてから出社したり、寝起きにメディテーションをするような人たちです。もうひとつは、「バリキャリ系」で、朝早くランニングをしたあとに丸の内に出社していくようなOLの人たちです。そして、最後は子供や夫のために朝早く起きる必要のある「ママの朝時間系」でした。
正直なところ、この三つのどれかにフォーカスしたほうが伸びが早かった可能性もあるとは思います。ただ、バランスをしっかりと最初から取ったことのメリットはあると思います。というのも、女性の場合はライフステージによって、生活の仕方がガラリと変わるのです。バリキャリをしていた人が、あるとき旦那さんを見つけて家庭に入り、ママになるのは珍しいことではありません。でも、そういう場合でも、「ママの朝時間」についてのコンテンツを用意しておくことで、彼女たちがサイトを卒業せずに残ってくださるのでは、と考えています。
ちなみに、「朝時間.jp」はその後も、「朝活」が話題になるにつれて、どんどんコーナーが増えて、コンセプトも変わり続けています。最初は「一人で過ごす」朝時間だったのが、徐々に早朝ヨガのスタジオが登場したり、朝から勉強会が開かれたりというように、「みんなで過ごす」朝時間に変化し始めています。当初の書き手から時間が経つにつれて方針をどう変化させていくのかというのも、今後この連載で扱ってみたいテーマです。また、オープン当時こそ「朝」という時間軸をテーマにしただけで目新しかったものの、「朝活」が普及してきた今後は、テーマの目新しさだけではなくて、さらにエッジが立つ「仕組み」の導入も必要になってくるとも感じています。
■ 優れたアイディアの種は「地に足の着いたミーハー」から生まれる
さて、こんなふうに企画の「エッジの立て方」を考えてきましたが、そもそもこういう企画はどんなふうにして見つければいいのでしょうか。最後に、そのことを考えてみたいと思います。
私はよく、優れたアイディアの種は「地に足の着いたミーハー」から生まれる、という言い方をします。まずはミーハーに自分の生活の中で起きていることを体験して、「こんなのが欲しい!」と思う。それが最初の視点としても、そしてすべてを動かす「熱狂」の始まりとしても大事です。
レシピブログについて言えば、まずは私が料理ブログの読者であったことは書きましたが、ひとりのインターネット好きとして、その頃に話題になっていた「Web2.0」の考え方にワクワクしていたのも大きいと思います。当時は、双方向性の高いサービスや、ブログのパーマリンクのように記事単位でコンテンツが流通していく仕組みが次々に現れて、それらが「Web2.0」と総称されていたのです。
このWeb2.0の考え方は、私自身の嗜好性にも合っていました。一人ひとりが個性的なサイト同士がリンクで繋がり合って、それが普通のポータルのように一つの色に染められず多様なままにありながら、でも一つの切り取り方が提示できる――そういう発想が私はとても好きでしたし、システムでエッジを立てるときにRSSでハブポータルを作ろうと思えたのも、そういう部分での興味があったのだと思います。
また、自分でミーハーに新しい場所に飛び込んでいると、自分以外のユーザーたちの姿が見えてきます。すると、あるときに最初はポツポツと「点」で存在していた人々が、その熱意のままに繋がり合いだして「面」としてコミュニティを作り出す瞬間が訪れることがあるのです。
サービスを始めるビジネス・チャンスは、まさにこの「点」が「面」になっていきそうなタイミング、いわば流行の半歩先を行くようなあたりにあります。特に、私たちのように大手企業のような経営体力のない小さな会社では、このくらいの「時代の流れ」「時代の空気」というタイミングをしっかりと逃さずに始めるのが大事になります。
こういうことは自分自身が好奇心を持って接していなければ、なかなかわからないのではないかと思います。
ちなみに、私は自分で少しでも興味を持った事柄は、まずはドメインを取得する習慣がありました。これは現在のように会社を経営する前からやっていたことで、古くからのネットユーザーには多い習慣だと思います。昔は、なぜか阪神ファンでもないのに「tigarsfan.jp」みたいなドメインを取得していたりして、結果的に「これは伸びそう」というものを予測する訓練ができていたのかもしれません。
自分の周囲を見ても、企画が得意な“ミーハーな”人は普段から自分以外のユーザーの動きも観察していて、流行について予測するような習慣がある人が多いように思います。
一方で、こういう色々なことに興味を持つ「ミーハーさ」だけでは、長く続くサービスを作るのは難しいと思います。
そういう「自分志向型」の視点だけでなく、より客観的にその現象を見た「マーケット志向型」という「地に足の着いた」視点も必要になるのです。客観的に市場規模を見積もったり、その行動がどの程度続く類のものなのか、などをしっかりと見抜く視点も同時に持つ必要があるのです。
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始まりは一人の熱狂から――メディア運営の逆境に強いのはマーケット志向よりも「自分志向」(粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』第2回)【毎月第3火曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.497 ☆
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始まりは一人の熱狂から――メディア運営の逆境に強いのはマーケット志向よりも「自分志向」(粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』第2回)【毎月第3火曜配信】
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2016.1.19 vol.497
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本日は、アイランド株式会社代表の粟飯原理咲さんによる連載『ライフスタイルメディアのつくりかた』の第2回をお届けします。
ネットの主婦層の熱烈な支持を集め、大きな成功を収めた「レシピブログ」。そのルーツには、粟飯原さんがOL時代に運営していた大人気メルマガがありました。いくつもの媒体を立ち上げた経験を元に、粟飯原流のメディア運営の秘訣について語ります。
▼プロフィール
粟飯原理咲(あいはら・りさ)
アイランド株式会社代表取締役。国立筑波大学卒業後、NTTコミュニケーションズ株式会社先端ビジネス開発センタ勤務、株式会社リクルート次世代事業開発室・事業統括マネジメント室勤務、総合情報サイト「All About」マーケティングプランナー職を経て、2003年7月より現職。同社にて「おとりよせネット」「レシピブログ」「朝時間.jp」などの人気サイトや、キッチン付きイベントスペース「外苑前アイランドスタジオ」などを運営する。美味しいものに目がない食いしん坊&行くとついつい長居してしまう本屋好き。
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前回:【新連載】粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』第1回「ライフスタイルがコンテンツになる」
この連載のタイトルは、「ライフスタイルメディアのつくりかた」というものですが、そこには私なりの想いがあります。メディアプロデューサーとして、前回お話ししたようなライフスタイルコンテンツを扱うメディアを運営する上で、失敗も多く繰り返したなかで、なんとか見つけてきたいろいろな知識や経験を伝えたいというものです。
なぜなら、いまの時代、誰もが「メディアプロデューサー」になる可能性があるからです。「レシピブログ」や「朝時間.jp」などのポータルサイトを手掛けるのもメディアの運営ですが、個人でブログやインスタグラムなどで伝えたい想いをもって情報を発信することだって、やはりメディアの運営だと思います。そして、ライフスタイルという領域では、この後者のメディアは、誰もがいつでも、自分の暮らしぶりを発信することによって始められるものです。
今回は、そんなライフスタイルメディアの「はじめかた」をお話ししてみたいと思います。その第一歩は、やはり、「メディアのテーマ・領域」をどう設定していくかにかかっているといえるでしょう。
ここからの話はポータルサイトのプロデューサー視点での事例になりますが、そこで必要になるものは個人メディアでも変わりません。というのも、一番最初に必要になるのは、ただ「熱量」にあると思うからです。
たとえ企業が運営するプラットフォーム型のメディアであっても、やはり「始まりはたった一人の熱狂から」――そう私は信じています。もちろん、それだけではビジネスとして成立しない部分もあるのですが、まずはそこから全てが始まる、と。
■ 自分のなかの「熱量」が、テーマの発見になる
ここからは前回に引き続き、レシピブログの事例から話してみたいと思います。今回の場合、その最初に熱狂した一人は、実はこの文章を書いている「私」でした。
――遡ること12年前の2004年、インターネットはブログ元年と呼ばれていました。
欧米で盛り上がっていたブログが日本に入ってきたのは、それより少し前のこと。すでにアルファブロガーと呼ばれていた初期の有名ブロガーの方々が、精力的にネット上でITの話題や政治、事件について自分の意見を発信していました。
私のほうはといえば当時、「おとりよせネット」というウェブサービスで起業した翌年という時期。まずは自分でも事業を行うサイトプロデューサーの視点で、その新しい動きにワクワクしていました。
ところが、FC2やエキサイト、あるいは前年に開始したばかりのAmebaのブログをよくよく読んでみると、少々事情が違うのです。当時話題になっていたアルファブロガーのような、ITビジネス系や論壇系とは少し違う人々が、自分たちの情報を発信しはじめていたのです。
特に印象的だったのは、女性ブロガーの人たちが、自分たちの目線から情報発信を始めていたことでした。たとえば、まだ慶応大学の学生だった頃の“はあちゅう”さんのブログは、始まってすぐに楽しみに読むようになりました。彼女のブログは当時から話題を呼んでいましたが、当時の彼女の意見やライフスタイルが学生らしい言葉でつづられていて、それがとても新鮮だったのです。
当時はどんどんいろんなジャンルのブログが生まれていて、それを私は「なんて面白いんだろう!」とミーハーに読んでいたのですが、とりわけ楽しみに読むようになったのが「料理ブログ」でした。
知らない誰かが家でどんな料理と暮らしをしているのかなんて、普通はなかなか知ることができない。ところが、それをたくさんの女性たちがこぞってブログに書き始めている。その事実に、当時はまずワクワクしました。もともと、家に何百冊もレシピ本があるくらいに料理本が好きだったこともあり、一読者としてとりこになってしまったのです。
また、前回にも書いたように当時から料理ブログは、レシピと一緒に暮らしが綴られたライフスタイル発信型のものでした。それもまた料理本をエッセイ集のように日々読んでいた私にとっては、最初からしっくりとくるものでした。
そうして当時、夜な夜なパソコンに向かって、新しい料理ブログを見つけては「わー、このブログ、素敵!」などと興奮しながら、自分のパソコンのブックマークに次々に登録していく日々を送っていたのです。そして、それぞれのブログのコメント欄を見ては、自分と同じ立場の読者であろう人々が、同じ熱量を持って、お料理ブログのファンになっていることを実感していました。
■ ひとりひとり、共感する仲間を増やす
ところが、どんどんブックマークを登録するにつれて、どうにも不便だなと感じることが増えていきました。好きなブログが更新されているかは、実際にURLに飛んでいって確かめるしかない。これは結構不便です。また、いろんなブログポータルを私は巡回していましたが、いちいち新しい料理ブログを新着から探す作業も、やはり一定以上の数が増えてしまうと、なかなか大変です。
「もし更新された料理ブログだけが簡単にチェックできるようになれば、きっと楽になるんじゃないか」
「各ブログポータルのブログが一箇所にまとまっていれば、そっちのほうがきっと便利なんじゃないか」
「いや、それってブログのRSS機能を使えば実装できるんじゃないか……」
そんなことを考えているうちに、私の中でむくむくと料理ブログが集まるサイトを作れないか――というアイデアが形を取り始めたのでした。
そこで、さっそく私は社内で、その「料理ブログが集まってくるRSSポータルサイト」の構想を語ってみることにしました。ところが……社内の声は「ぜんぜんピンと来ない」というものでした。
「クックパッドのようなレシピサイトがあるのになぜ?」
「ブログそのものが伸びるかわからない」
「料理ブログなのにライフスタイル?」
「はじめたばかりのおとりよせネットに集中したほうが良いのでは」
そんな反応で、なかなか熱は伝わりません。いまとなっては遠い出来事ですが、当時の認識はそんな感じでした。しかし、めげませんでした。その後も半年くらい、ことあるごとに「こんな素敵な料理ブログがあって……」と興味なさげなメンバーに、しつこくプチプレゼンを繰り返して、とにかく自分の熱意をぶつけることだけは続けていました。
すると、その中に一人、私の考えるコンセプトに共感してくれるメンバーが出てきたのです。
彼女は、アルバイトからの第一号社員になった女性でした。元々、雑誌が大好きで学生時代には編集プロダクションでアルバイトもしていたという彼女は、「レシピサイトをやりたいんじゃなくて、料理を核にした生活のメディアをやりたい!」という私の訴えに、すぐにピンときたようでした。
この彼女こそが、初代レシピブログの編集長にして、その後のサービスの拡大で大きな役割を果たしてくれた川杉弘恵さんです。
そして、ついに創業時からのアドバイザーで現副社長・長谷川も、「そんなにいいと思うなら、やってみればいいんじゃない」と言いはじめたのです。長谷川は始めはいつも冷静ですが、いざ納得すればとても頼りになる人間です。そんな二人に背中を押されて、とても心強く思いました。
新しいメディアを創るとしばしば体験することですが、熱狂するテーマを自分のなかに見つけたとしても、それが目新しいほど周囲の理解はすぐに得られないものです。
でも、それは客観的に見れば、当たり前のことだと思います。そんなとき、メディアプロデューサーとして大事なのは、「全員を一度に説得しようと思わない」ことです。それよりも、「すぐに理解を得られないテーマのほうが伸びしろがある」くらいに思って、ひとり一人口説いて共感する仲間を増やしていくのです。そうすると、あるとき、離ればなれの“点”だったメンバーの気持ちが、まとまりあって“面”になって「そうだね、やってみようか」となるものです。しかも、駄目だしをされて試行錯誤していくなかで、企画そのものが熱や厚みを帯びていくこともしばしばで、振り返ればそれがメディアの精度を増していたとも思います。
ちなみに、メディアそのものの発展も、これに似たところがあります。ひとり一人地道に読者を獲得していくと、あるとき急に「コミュニティ」として繋がりをもって伸びていくステップが訪れることがしばしばあるのです。
■ なぜレシピブログのロゴは暖色ではないのか
とにもかくにも、社内で仲間を得ることができ、さっそく共感してくれた社員第一号の彼女とブレストを始めると、素敵なライフスタイルのお料理ブロガーさんを集める方法について、いろいろなアイディアが飛び出してきました。
「料理ブログはレシピのブログではなくて、あくまでもライフスタイルのメディアなのだ」という意識は、この時点で二人の間にハッキリとあるものでした。彼女とのブレストの中から生まれた、「暮らしの中にレシピがある レシピの中に暮らしがある」というサイトのグランドコピーは、それを象徴するものです。
そして同時に、私たちはほとんど迷わずに、サイトのメインカテゴリを「中華」や「じゃがいも」などのジャンルや素材で切り分けずに、「海外在住」や「子育て」「ひとり暮らし」などのライフスタイル軸で分類することに決めました。これは料理サイトという観点から見ればわかりづらいカテゴリ分けだと思いますが、ニッチになったとしてもユニークなサービスを創りたい、便利さではなく「共感」を軸にサービスを創りたいという当時の意思を込めたものです。
また、ロゴの選定にも私たちの意識は大きく現れました。レシピブログのロゴは、オープン当初は黒、その後は紫や青など、料理を扱うサービスとしては“おきて破り”とも言える「寒色系」の色を用いたものにしています。でも、かなり強い意志を持って、このロゴを「暖色系」にしたくないと考えていました。このサイトは、料理のサイトではなくて、暮らしを発信するサイトです。だから、より雰囲気が出る、落ちついたトーンの色使いを意識したほうがいいのです。
また、最初こそ黒の一色でしたが、オープン後には一文字一文字で色を変えるように変更もしました。料理ブロガーさんの多様なライフスタイルを応援していくサイトなんだ、というメッセージを打ち出したかったからです。
▲「レシピブログ」現在のロゴデザイン
そうしてサイトをリリースするにあたって、自分たちが読んできた料理ブログから素敵だと思う大好きなブロガーさんたち一人ひとりに、手作業でラブレターのようなメールを送ることにしました。決して一斉送信などはせず、ブログの感想を一つ一つ添えて、もしよければサイトに登録してくれないかと一通一通、心をこめて送りました。すると、サイト公開までに200人ほどのブロガーさんが手を挙げてくださったのです。
こんなふうにカテゴリ分けにしても、ロゴにしても、普通の料理サイトではやらないような設計をしたのは、やはり中心にいた人たちがメディアとして目指したい軸をはっきりと決めていたからだと思います。ここで私たちが考えた工夫については、次回にもう一度、メディアプラットフォームのオリジナリティの作り方における「メディアのオリジナリティ掛け合わせ方」の問題として、考えていきたいと思います。
■ ユーザーからの好反応と、料理業界との壁
サービスがオープンすると、すぐに「自分もこんなサイトを待っていた」「こんなサービスに参加できることが嬉しい」と、書き手の料理ブロガーの方からも読者の方からも、驚くほど大きな手ごたえの反響が返ってきました。自分たちがユーザーとして「熱狂」していたことが、サイトの利用者であるユーザーさんたちにも伝わっていたのです。
ただ、ちょっと意外なこともありました。たとえば、当初の私の目論見では、ライフスタイルのカテゴリごとに、「子育て」をしているお母さん同士、「学生」の女の子同士などが、互いにマッチングしあって交流する予定だったのです。
ところが、実際にはそんなふうに同じ属性のユーザー同士だけが固まっていくことはありませんでした。むしろ海外に住んでいない人が、海外に住んでいる人のライフスタイルに憧れを抱いたり、お弁当を彼女のためにつくる男の子に、主婦の人たちが「素敵!」となったり……というように違う軸の人たちも互いに刺激しあうようになったのでした。
もちろん、そうやって互いに違う立場の人が交流しあう方が熱量は上がっていくので、これは嬉しい誤算だったといえます。
また、ユーザーさんのモチベーションを高めるためにランキングを導入したのですが、これも上手く機能してくれて、カリスマ的なブロガーさんたちが登場してくるようになりました。それは私たちにとって、大きな転機でした。
当時すでに他ジャンルのブログでは、ぽつぽつとサービスのランキング上位にいるような人気ブロガーさんたちが本を出版する流れが始まっていました。しかし、そういう流れは料理ブログにも多少はきていたものの、まだまだでした。
そこで私たちは出版社を回って、まずは料理雑誌で特集をしていただけないかなど、お料理ブロガーさんたちの営業をしていくことに決めました。
しかし、最初の頃は本当に大変でした。「けんもほろろ」ということも決して少なくありません。有名なお料理雑誌の編集部に営業に行ったときに、「素人さんの料理は安心して誌面に載せられない」と言われたこともありました。
それでも、私たちは諦めずに、何度も何度も出版社に通いつめました。そして自分たちのサイトに登録してくれたブロガーさんたちの紹介をして、取り上げてくれないかとお願いを続けたのです。
そんな壁を突き崩すきっかけになったのは、だんだんと、編集者の方々自身が、お料理ブログを読んでみることで「面白いかも」「お料理も斬新でヒントがある」と、その価値に気付いてくださったことでした。これも熱量の伝染だったのでしょうか。そうして、ついにレシピブログ監修の書籍第一弾を2007年にアスキーから出版できることになったのでした。
■ ルーツは、大人気メルマガを運営したOL時代
当時は、料理ブログの知名度や地位の低さに対して、私たち編集部がしっかりと売り込みをかけなければいけないと、単なるサービスの営業を超えた強い使命感を覚えていたと思います。
でも、なぜそんなふうに肩に力を入れて、頑張っていたのでしょうか。それはきっと私自身のインターネットとの関わりと、大きく関係していたように思います。
私が新卒で入社したのは、NTTコミュニケーションズというインターネットを扱う企業です。
そこで私が最初に配属されたのは、消費者向けのオンラインECサービス設計を行う部署でした。ところが、当時のサービス開発というのは、かなり技術オリエンテッドな部分があり、なかなかUIが使いづらいことが多かったのです。とはいえ、たかだか新卒のOLが上司にそれを言うのはなかなか勇気が要るものです。そもそも、当時の私はそれ以前に、技術的にはまったく会社で役立つことができていなかったのです。私は悶々としながら、どうしたらいいものかと考えて毎日を過ごしていました。
そんなある日、とある研究会で出会った方から、「ネット上に“消費者の口コミのコミュニティ”を作って、その声を拾い上げる形で意見を伝えてみてはどうか」とアドバイスされる機会がありました。
会社の支援もあり、さっそく私は非営利で「LIFE」という消費者のメーリングリストを立ち上げました。始めてみると、実にいろいろな意見が聞こえてきます。生活者の視点から、これからのECサイトやネットビジネスのあり方を考える議論も活発に行われました。当時言われていた「女性はネットショッピングなんてしない」という意見への反論もあれば、「ショップオーナーはどういうメールを書けばよいか」のような実用的な話まで、実にいろんな情報が飛び交うのです。その意見を会社に伝えると、自分が意見をただ表明するだけでは聞いてくれなかったであろう人たちも、確かに「なるほど」と納得するのです。
しかも、このLIFEはどんどんメンバー数が増えていき、議論もどんどん活発になっていきました。それはまるで日本のECビジネス黎明期に、業界が生まれていく流れの一端を担っているような、不思議な体験でした。ECサイトで靴を売るときに「片方の靴だけしか表示しないのはよくない」という、いまとなっては当たり前に行われている話が出てきたり、そういう様々な議論に対して楽天の三木谷浩史さんが「LIFEは参考になる」と発言してくださったりして、ついには新卒1年目の終わりに東洋経済新報社から『成功するオンラインショップ―女性ネットワーカー1300人が本音で提言』なる本を出版するという、畏れ多いほどの経験まですることになりました。
▲『成功するオンラインショップ―女性ネットワーカー1300人が本音で提言』
それは同時に、私がいかに生活者のクチコミが強い力を持つのかを実感した瞬間でもありました。
さらに、そんなふうにOL生活を送っていた4年目、私は今度は当時の同僚たちと一緒に、「OL美食特捜隊」というメールマガジンを始めました。
これは5人の同僚と代わりばんこに毎週美味しいお店をレポートするというメルマガです。いわば今度は、自分たちが普通のOLとして、クチコミ情報を世の中に届けるものだった……と言えるかもしれませんが、実際にはそんなに大上段に構えたものではなくて、ほんの好奇心から始めたくらいのものでした。
ところが、当時はメルマガブームの最盛期、メールマガジンというメディアそのものに注目が集まり、ビジネスのコツや英会話を解説した人気のメルマガがどんどん書籍化されていく時代でした。そんな中で、私たちのメルマガは英語学習やビジネス系などの実用的な話題があるわけでもなく、ただただ普通のOLが普通に食事レポートをするというだけだったことが、逆に話題になってしまったのです。
会員はみるみる増えていき、最盛期にはついには3万人を突破。雑誌の取材、書籍化、さらにはテレビ番組のような話までどんどん入ってくるようになったのです。
▲メールマガジンで配信され大好評を博した「OL美食特捜隊」
▲「OL美食特捜隊」当時のサイトの様子
■ ”発信すればするほど豊かになる”という実体験
このメルマガはその後、9年という長い期間にわたって続くことになりました。
そこから私たちはとても大きなものを得ました。もちろん、普通のOLが芸能人のようにテレビ番組に出られたりするミーハーな“役得”もあったのですが、得たものはそれだけではありません。
その一つが、メルマガ読者の人たちとの、現在まで続く深い交流です。
当時、メルマガを毎週発信しているというと、「モチベーションは続きますか」「ネタ切れになりませんか」と聞かれることがありましたが、実はちっともそんなことはありませんでした。なぜならメルマガで情報を発信すればするほど、読者の人がどんどん感想をくれたり、「きっとあなたはこういうお店が好きだと思う」などと美味しいお店の情報を送ってくれたりしたからです。読者の人に励ましてもらえるだけでなく、なぜかネタの提供までしていただけるというのは不思議ですが、インターネットにはそういう面があるのです。
さらには会社でも、普段は話せる機会さえないような年長の人が席にやってきて、急におすすめのレストランを教えてくれることも起き始めました。情報を発信すれば発信するほど、日々の生活は豊かになっていく――私はそのことに気づきました。
そして、ついにこのメルマガは私の仕事における大きな転機になりました。
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2015.12.15 vol.472
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今月よりPLANETSメルマガでは、アイランド株式会社代表の粟飯原理咲さんによる連載『ライフスタイルメディアのつくりかた』をお届けしていきます!
インターネット登場後、料理ブログを始めとするライフスタイルメディアは、なぜ「新たな流行の発信地」になっていったのか? これまでのような「問題解決型」ではなく、日々の生活を豊かにする「共感型」メディアとしてのインターネットの可能性に迫ります。
▼プロフィール
粟飯原理咲(あいはら・りさ)
アイランド株式会社代表取締役。国立筑波大学卒業後、NTTコミュニケーションズ株式会社先端ビジネス開発センタ勤務、株式会社リクルート次世代事業開発室・事業統括マネジメント室勤務、総合情報サイト「All About」マーケティングプランナー職を経て、2003年7月より現職。同社にて「おとりよせネット」「レシピブログ」「朝時間.jp」などの人気サイトや、キッチン付きイベントスペース「外苑前アイランドスタジオ」などを運営する。美味しいものに目がない食いしん坊&行くとついつい長居してしまう本屋好き。
ジャーサラダ――という言葉を耳にしたことのある読者の方はいるでしょうか。
密閉されたビンの中に野菜を層状に入れて作り置きできるというサラダレシピで、今年2015年の春夏に女性たちのあいだで大流行しました。雑誌やテレビ番組でも多数取り上げられたので、男性読者の方も知っている人は多いかもしれません。
▲ジャーサラダ
勇気凛りんオフィシャルブログ「勇気凛りん料理とお菓子 rinrepi☆」Powered by Ameba
このレシピ、元々はニューヨークでベジタリアンを中心に人気を集めていたそうですが、それを日本で火につけたのが、ジャーサラダ流行の立役者として有名な“勇気凛りん”さんという女性ブロガーの方でした。そう、このレシピはインターネット発で日本に輸入された流行だったのです。
ところで、この“勇気凛りん”さんという名前も、耳に覚えのある人がいるかもしれません。
彼女は、大人気の料理ブログ「rinrepi 勇気凛りん料理とお菓子」の中の人であり、「大葉にんにく醤油」などのアイディア調味料の発案者。そして現在では、発売5ヶ月で売上100万個に達したという新感覚アイス「サクレ・デ・スイーツ」や「ハチミツみそ」などのレシピを企業と開発する、人気の料理家として活躍されている女性です。
新しいトレンドの創出者としても注目されていて、2015年には、前述の「ジャーサラダ」を掲げたサラダレシピの本や、秋に流行ったオーブンレシピの本「シカゴ発絶品こんがりレシピ」(イカロス出版)を出版。そして次には、後述するレシピブログの2015年料理ワード大賞でも“新ワード”として挙がっている「スキレット」レシピの本も出版予定と、彼女が提案するお料理は常に注目の的です。
▲シカゴ発絶品こんがりレシピ (ーグラタン・キャセロール・スキレット・オーブン料理 本当はおいしいアメリカ料理ー)
ところが、この“勇気凛りん”さんにとって、インターネットのレシピ投稿サイトと出会うまでは、料理はただの趣味でしかなかったそうです。
料理はずっと大好きでしたが、家族に披露したり、自宅で開いていたビーズ教室でお菓子を配ったりという程度。それがあるとき、周囲の奨めでインターネットでレシピを発表しはじめると、彼女の創意工夫にあふれた素敵なレシピは、すぐに女性たちのあいだで話題になっていきました。
そして、彼女にとって大きな転機になったのが、2008年に前記の料理ブログ「rinrepi 勇気凛りん料理とお菓子」をはじめたときのことです。面白いことに、このブログの内容は料理のことだけを書いたものではありませんでした。そこにはレシピだけでなく、彼女が当時家族と暮らしていたアメリカでの日々の何気ない生活や食事情が記された文章が並んでいました。
このブログはすぐに大人気になりました。彼女の描くアメリカ・シカゴでの生活に多くの人が憧れて、コメント欄はまるでチャットのように盛り上がることもしばしばでした。そして、このブログのコメント欄で連絡を取ってきた出版社の編集者との出会いから、彼女は一気にサクセス・ストーリーを駆け上がっていくことになったのでした。
こうしたネット発の“カリスマ女性ブロガー”は、今や決して彼女だけではありません。勇気凛りんさんは最も人気のある料理ブロガーの一人だと思いますが、他にも多くのファンを抱える方はたくさんいます。料理ブログのジャンルではベストセラーブロガーが多く輩出され、なかにはご自身の書籍がシリーズ350万部を超えている方も登場していますが、もちろん料理以外のジャンルも同じ現象が起きています。お片付けなどの家事が上手であると女性たちのあいだで話題になり、本を出版するような人もいらっしゃいます。
でも、こんな話はインターネットがブログという形で一般の人々に普及するまで、多くの人には想像さえできなかったことだと思います。ところが、彼女たちがインターネットを手にしたとき、彼女たちの家庭での生活に光が当たりました。そして、本が出版されたときには100万部単位のベストセラーが成立するほどの規模の市場が生まれてしまったのです。
■ ライフスタイルメディアとは
私が代表を務めるアイランド株式会社という会社でも、実はこうした料理ブロガーさんのブログが集まってくる「レシピブログ」(!)という名前のサービスを運営しています。
▲レシピブログ
サービスを始めたのは2005年の8月で、ちょうど彼女たちのような料理ブロガーがブログを書き始めた頃のことでした。当時のことを思い返すと、現在とはずいぶんと状況が違っていたなと感じます。たとえば、レシピブログでは創業当時から、半ば使命感を抱きながら、素敵な料理ブログを書かれているブロガーさんを、出版社の編集部にご紹介する営業を行ってきました。
しかし、当時はなかなか理解を得られるのが難しく、ダメ元で何度も何度も足を運んだ記憶があります。後に料理ブロガーの特集を組んでいただいた編集部からでさえも、「素人さんはちょっと……」と断られてしまったことさえありました。
その後、料理ブロガーさんの書かれたレシピ本からヒット作が生まれたり、レシピブログを取材した新書が登場するなどして、少しずつ状況は変わっていきました。また、その過程でレシピブログのランキングが本の帯に「レシピブログで1位!」などと書かれるようになり、私たちのサービスの認知度も上がっていきました。 これまで、レシピブログにご登録いただいている料理ブロガーさんが出版された書籍は400冊を超えていて、前述の350万部を超えた事例などに驚く人も多いのではないでしょうか。
▲レシピブログの人気料理ブロガーが多数登場する「レシピブログmagazine」
この「レシピブログ」というサービスを、私たちはこの連載のタイトルにある「ライフスタイルメディア」であると考えています。
ライフスタイルメディアというのは、生活にかかわる、まさにライフスタイルの情報を発信するメディアのことを指す言葉です。アイランドでは、この「レシピブログ」の他にも“全国のお取り寄せ品”が集まる「おとりよせネット」や、“朝活”という言葉に代表される朝型生活を提案するサイト「朝時間.jp」(※)などのサービスを行っており、主要事業をこのライフスタイルメディアの運営と位置づけています。(※朝時間.jpは、2014年に株式会社VOYAGE GROUPと弊社との合弁で新運営会社「株式会社メルメディア」を設立)。
しかし、このライフスタイルメディアは、なかなかまだ理解されていない部分があるように思います。
たとえば、そこで発信しているブロガーは、どんな人たちなのでしょうか。
昔から料理家や家事アドバイザーのような職業はありました。たとえば、私も大好きな料理家・栗原はるみさんや飛田和緒さんは、とても素敵なレシピを発信されてきた、まさにこうした人々の先駆けのような方です。
しかし、やはり彼女たちと現在の料理ブロガーのような人たちには、違うところもあるように思うのです。
■ 料理ブロガーは「ライフスタイル」の発信者
まず、かつてのそうした職業は偶然にマスメディアの誰かに見つけられて、初めて仕事として成立するものだったように思います。
料理家さんにしても、やはり旦那さんがマスコミ業界で働いていたり、編集部に偶然知り合いがいたり、というのが世に出る主なキッカケであったと聞きます。少なくとも、料理家というのは簡単に目指そうと考えられるような身近な仕事ではなかったのではないでしょうか。
でも、勇気凛りんさんなどの人気料理ブロガーはそうではありません。日々、夫や子供のためにレシピを考えたり、家事にいそしんでいる女性たちの一人ひとりが、そのブログのファンになることで生まれてきた、まさにネット発の「カリスマ」なのです。
もう一つ大きな違いがあります。
それは、彼女たちが発信しているのが必ずしも美味しいレシピや日々の家事のコツ“だけ”ではない、ということです。
実は彼女たちのブログを読んでみるとわかりますが、料理の話題は最後の方にちょこんと付けられているだけで、記事のほとんどは日々の生活で感じていることなどについて報告されたものだったりします。知らない人は「えっ」と驚くかもしれないですが、先の勇気凛りんさんのブログも含めて、多くの料理ブログで書かれているのは、実は彼女たちの生活そのもの――まさに「ライフスタイル」の発信なのです。
その姿は、ファッション業界における「読者モデル」に似ているかもしれません。
“読モ”が最新のファッションの着こなしを教えるカリスマであるだけでなく、女性たちのライフスタイルの発信者であるように、彼女たちもまた家事のカリスマであると同時に、やはりライフスタイルの発信者なのです。これは私たちがレシピブログを「ライフスタイルメディア」と位置づけている理由でもあります。
ちなみに、私はこうした人たちの発信する情報を「ライフスタイルコンテンツ」と呼んでいます。これはインターネットをキッカケに登場した、新しい形のコンテンツなのではないか――そんな気がするのです。
と言っても、彼女たちが発信しているのは、料理のレシピであったり、上手な家事の済ませ方だったり、あるいは日々の生活に小さな彩りを与える工夫であったり……というもので、ミュージシャンの奏でる音楽や作家の生み出す小説のようなものとはイメージが違います。確かにカリスマではありますが、共感が大事になっている、とても身近な“隣りにいるカリスマ”のような人々です。女性誌などのマスメディアで語られるライフスタイルが、いわば読モの方などが演じるキラキラした“バーチャル”の世界として発信されるのに対して、彼女たちは生身の人間として、私たちにとって“リアル”な等身大のライフスタイルを発信しています。
しかし、彼女たちにもまた、そのライフスタイルに憧れ、その発信する情報を心待ちにしているファンがいます。そして、彼女たち自身もそういうお客さんの目を意識しながら、日々の情報を丁寧に発信しています。
実際、人気のあるブロガーさんは、情報の発信の仕方もとても上手です。レシピブログではランキング常連になった人気ブログを「殿堂入り」に認定しているのですが、その一つである「かな姐さん」という方のブログは、まさにファンの人の目線をしっかりと意識したものです。彼女の場合は、自分の子育ての日々をブログに記しているのですが、古くからいる常連の人にも初めての読者にも読みやすい文章を心がけていて、編集者のようなセンスさえ感じるほどです。
■ 「自己表現」としての料理
それにしても、この料理や家事の達人になっている女性たちというのは、いったいどこから現れたのでしょうか。
もちろん、ここに来て突然に現れたわけではありません。彼女たちの多くは素晴らしい家事の技能を持っていながら、それを夫や周囲の近い人々にしか披露してこなかっただけなのです。特に初期のブロガーの人たちとなると、よもや自分が有名になりうるという考えさえなく、ただ自分の好きなことを発信していただけでした。
また、女性たちの間でカリスマ的な料理ブロガーが生まれるようになったのも、急にレシピや家事への意識が高まったからではありません。女性たちのあいだではずっと家事や料理が上手な女性は尊敬を集めていました。家庭の中で素敵な生活をしている人たちはこれまでにもたくさんいて、それに憧れている人もたくさんいたのです。
ただ、そこにある日インターネットの光が当たったとき、彼女たちは自ら発信するようになり、たくさんのファンが生まれて、新しい文化が生まれたのです。時には勇気凛りんさんのように本が出版されて企業と仕事をする料理家になり、自己実現へと繋げていく人も現れました。
そうして現在、ついにソーシャルメディアの登場を経て、彼女たちが発信する料理のレシピは、まるでファッションや音楽のように「流行」が巻き起こるようになりはじめています。
▲「かな姐さん」こと、井上かなえさんが出版した「てんきち母ちゃんの 朝10分、あるものだけで ほめられ弁当」(文藝春秋刊)より。写真:志水隆(文藝春秋)井上かなえオフィシャルブログ 母ちゃんちの晩御飯とどたばた日記
たとえば、今年流行した「おにぎらず」はその一つです。これは、ご飯を握らずにそのまま海苔で包むというレシピですが、その背景にはインスタグラムやFacebookなどの画像投稿機能が広まったことがあります。「おにぎらず」の流行で重要だったのは、通常のおにぎりと違って、自分がどんな具をつかっているのかが見えたことです。「私は、こんな具で握ったんだよ!」というのを、周囲の人々に写真とともに伝えることが出来るのです。
ソーシャルメディアの登場で、まるでファッションのように他人に見せるための、「自己表現の記号」としての料理が現れはじめているのです。
しかも面白いのは、こんなふうにライフスタイルコンテンツを家庭の外に向けて発信していると、それを発信する人たちがまずます自分の家を綺麗に、素敵なものにしていこうとする相乗効果が生まれてくることです。
実際、レシピブログでユーザーアンケートを取ってみると、ブログで発信するようになって旦那や子供から「変わったね」と言われるようになった、という意見がしばしば届きます。自分が頑張ってつくったレシピや部屋の内装の成果が、家庭の「外」にある世界へとつながっていると実感できると、かえって家庭の「内」のことを頑張ろうというモチベーションが湧いてくるのです。そうして家族もますます素敵な家に住むことができるというわけです。
また、こういう話は日本の女性たちに限った話ではないのかもしれません。
たとえば、昨年話題になった『ハウスワイフ2.0』という本では、自分の意志で専業主婦になることを決めた米国の高学歴の女性たちが、ブログやソーシャルメディアを通じて自分の日々の生活を発信することで、外の世界と交流を保ちながら心豊かに生活しているという話が書かれていました。こうしたライフスタイルは私たちがソーシャルメディアとパートナーシップを結んだときに、登場してくるような文化なのかもしれません。
■ 日々の生活を豊かにするメディア
そろそろライフスタイルメディアに話を戻します。
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