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【対談】泉幸典×三宅陽一郎 いつか僕らはロボットと服について語り合うだろう (PLANETSアーカイブス)
2018-05-14 07:00
今朝のPLANETSアーカイブスは、人工知能開発者の三宅陽一郎さんと泉幸典さんの対談です。ロボットユニフォームブランド「ROBO-UNI(ロボユニ)」の開発をする泉幸典さんは、ロボットに服を着せるという行為がロボットと人間の関係をより良い形に変えると考えています。ロボユニの開発秘話から、ユニフォームの果たすシンボル的な役割や内包する文化、ロボットが作る未来のカウンターカルチャーの可能性まで、縦横無尽に語り合いました。(構成:高橋ミレイ)※この記事は2017年04月25日に配信した記事の再配信です。
原点となったシリコンバレーでの挫折
――まずロボユニがどういうものかということと、なぜその事業を始めようと思ったのかという背景から、お願いします。
泉 ロボユニは、コミュニケーションロボットに特化した専用のアパレルブランドです。もともと私たちはホテルやレストランの接客スタッフが着用するユニフォームを作っているメーカーなんです。人のユニフォームを何十年も作ってきましたが、日本の少子高齢化が進み、特に接客業に関しては若い子たちがどんどん減ってきています。そうなるとユニフォームの需要も少なくなるので、人のユニフォームを作り続けたとしても、市場自体が縮小してしまいます。新しいアパレルのジャンルを自分たちで作っていかないと、五年後十年後、三十年後の事業が続かないと思ったのがロボットのユニフォームを作ろうと思った最初のきっかけです。
レストランやホテルの仕事は、昔はすべて人がしていましたが、今はビジネスホテルのチェックインがタブレットでできるようになるなど、機械に置き換わりつつあります。Pepperのようなロボットたちがガイドをしてくれるようにもなりました。そうなると、仕事の正確さだけで見れば、人間のアルバイトの子たちよりもロボットの方が上回るという現象が起きてくると思います。「人間の方がロボットよりも仕事できないね」と言われるような時代が来た時に、「さぁ、人間はどうしていくんだろう?」と思ったんです。そんな時代が来た時に人間が持つ、「人を喜ばせたい、良いサービスをしたい」という意志をテクノロジーの力で促進してあげられないかって思っていたんですね。
当初は、既存のユニフォームの中にデバイスを搭載させて、ゲストが近くにいることを振動によって知らせたり、お客様の不満を音声認識で拾って、本格的にお怒りになる前にバックヤードから責任者が出てきてお客様のクレームを最小限に抑えることを考えていました。提携先として、そのような技術を持つ会社を探すためにシリコンバレーに行ったところ、現地では技術はあっても前例がまったくないことが分かりました。僕はそれを聞いて、「あ、これいけるな」と思ったんですけれど、こうとも言われたんですね。「実現可能な技術があるのに商品やサービスが世の中にないということは、新規性があるからではなく、誰もそれを必要としていないからじゃないの?」と。その方は、「そんなものに金をかけるくらいなら、時間をかけてでも人材育成に力を入れていくべきだ」とおっしゃっていました。ラグジュアリーホテルに来るゲストは、なぜ高いお金を払うかと言えば、人と人とのコミュニケーションによる質の高いサービスによる感動を得たいからです。しかし、そこをテクノロジーに頼ってしまうと、人間の本質的な喜びとは違う方向に行ってしまうとも指摘されました。もう何もかもが「その通りだな」と思いましたね。
サンフランシスコから日本へ戻る飛行機の中で、行きの便では絶対いけると思っていたのに出た結論は真逆だったことに落ち込みながら、「そもそもなぜ僕は、あのような商品を考案したのだろう?」と考えました。すると実は僕自身が、既存のテクノロジーに人間が色んなものを付け加えた結果、やっぱり人間の方が素晴らしいという結論に至りたかったからだと気がついたんです。言い換えればテクノロジーを僕が敵だと思っていたからなんですね。それに思い至ったところで、「本来ならばテクノロジーは敵ではなく、人間の役に立つために作られているはずだ」という考えに立ち返ったんです。
そのような問いを立てた時、引き合いに出すのに分かりやすいテクノロジーがロボットでした。調べれば調べるほど、ロボットや人工知能の研究開発に携わっている方たちが、人間のことを深く研究して、日常的な動作など僕たちが当たり前にしている行動がいかに複雑な仕組みによって成り立っているのかを理解していることがわかりました。しかし多くの人たちは、ロボットたちが何をできるかさえ知りません。もっとそれを簡単に理解する方法があれば、人間はロボットとの付き合い方が分かるし、ロボットもさらに人の役に立つことができると思いました。それを伝える記号として、ユニフォームが大きな役割を持つと思ったんです。
ユニフォームがロボットと社会をつなぐ
泉 たとえばユニクロの黒のシャツを1枚買ったとします。それを家で着ていると単なる黒のシャツですが、同じ物を10枚買って皆が着てスターバックスで働くと、それはスターバックスのユニフォームになります。物は一緒なのにシチュエーションや組織といった環境を変えてしまうと、それは制服になるんです。明治時代、洋装が普及し始めた時に、日本で初めて近代ユニフォームを導入した組織が鉄道と警察と病院でした。世の中が混乱している中で窃盗が起こったり、病気になった場合、十分に教育を受けていない人たちも多くいるなかで、それは非常に役に立ちました。白衣を着ている人を見たら、「あの人が私たちの命を助けてくれる人だ」、あるいは泥棒に遭った時に警察官の服を着ている人がいたら、「あの人に言えばいい」と判断できる視覚的な認識記号になったのです。対象が何者かであるかを示す記号であることがユニフォームの根幹にあります。
パーソナルロボットは、各企業や各家庭の要望に応じた異なる使命を持っており、それぞれの分野に特化した膨大な知識が入っています。でもロボットたちは量産されたもので外見も均一なため、人間以上に個々のパーソナリティがありません。ですから大抵の人は、「こんにちは」とか「今何時?」くらいのレベルのことしかロボットに聞かないのです。しかしユニフォームがあれば、彼らがどう役に立つのかが子ども達やお年寄り、外国の人たちにも一目で分かるはずです。このような考えから着地した製品がロボットユニフォームです。
三宅 人工知能は環境を理解したり何かを推論したり、なるべく人間に近づける形で発展してきましたが、このようにロボットにユニフォームを着せるという視点は、我々人工知能開発者にとっては盲点でした。大抵の人工知能は特化型人工知能と言って、株式の予測やレコメンドシステム、あるいはお料理ロボットといった、特定の問題を解くための人工知能として開発されます。さらにそれらの人工知能が体を持つことで、バーチャルな空間から現実世界に進出しようとしているのが今の大きな流れです。
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【対談】泉幸典×三宅陽一郎 いつか僕らはロボットと服について語り合うだろう
2017-04-25 07:00
ロボットユニフォームブランド「ROBO-UNI(ロボユニ)」の開発をする泉幸典さんは、ロボットに服を着せるという行為がロボットと人間の関係をより良い形に変えると考えています。今回、人工知能開発者の三宅陽一郎さんと泉 幸典さんの対談が実現しました。ロボユニの開発秘話から、ユニフォームの果たすシンボル的な役割や内包する文化、ロボットが作る未来のカウンターカルチャーの可能性まで、縦横無尽に語り合いました。(構成:高橋ミレイ)
原点となったシリコンバレーでの挫折
――まずロボユニがどういうものかということと、なぜその事業を始めようと思ったのかという背景から、お願いします。
泉 ロボユニは、コミュニケーションロボットに特化した専用のアパレルブランドです。もともと私たちはホテルやレストランの接客スタッフが着用するユニフォームを作っているメーカーなんです。人のユニフォームを何十年も作ってきましたが、日本の少子高齢化が進み、特に接客業に関しては若い子たちがどんどん減ってきています。そうなるとユニフォームの需要も少なくなるので、人のユニフォームを作り続けたとしても、市場自体が縮小してしまいます。新しいアパレルのジャンルを自分たちで作っていかないと、五年後十年後、三十年後の事業が続かないと思ったのがロボットのユニフォームを作ろうと思った最初のきっかけです。
レストランやホテルの仕事は、昔はすべて人がしていましたが、今はビジネスホテルのチェックインがタブレットでできるようになるなど、機械に置き換わりつつあります。Pepperのようなロボットたちがガイドをしてくれるようにもなりました。そうなると、仕事の正確さだけで見れば、人間のアルバイトの子たちよりもロボットの方が上回るという現象が起きてくると思います。「人間の方がロボットよりも仕事できないね」と言われるような時代が来た時に、「さぁ、人間はどうしていくんだろう?」と思ったんです。そんな時代が来た時に人間が持つ、「人を喜ばせたい、良いサービスをしたい」という意志をテクノロジーの力で促進してあげられないかって思っていたんですね。
当初は、既存のユニフォームの中にデバイスを搭載させて、ゲストが近くにいることを振動によって知らせたり、お客様の不満を音声認識で拾って、本格的にお怒りになる前にバックヤードから責任者が出てきてお客様のクレームを最小限に抑えることを考えていました。提携先として、そのような技術を持つ会社を探すためにシリコンバレーに行ったところ、現地では技術はあっても前例がまったくないことが分かりました。僕はそれを聞いて、「あ、これいけるな」と思ったんですけれど、こうとも言われたんですね。「実現可能な技術があるのに商品やサービスが世の中にないということは、新規性があるからではなく、誰もそれを必要としていないからじゃないの?」と。その方は、「そんなものに金をかけるくらいなら、時間をかけてでも人材育成に力を入れていくべきだ」とおっしゃっていました。ラグジュアリーホテルに来るゲストは、なぜ高いお金を払うかと言えば、人と人とのコミュニケーションによる質の高いサービスによる感動を得たいからです。しかし、そこをテクノロジーに頼ってしまうと、人間の本質的な喜びとは違う方向に行ってしまうとも指摘されました。もう何もかもが「その通りだな」と思いましたね。
サンフランシスコから日本へ戻る飛行機の中で、行きの便では絶対いけると思っていたのに出た結論は真逆だったことに落ち込みながら、「そもそもなぜ僕は、あのような商品を考案したのだろう?」と考えました。すると実は僕自身が、既存のテクノロジーに人間が色んなものを付け加えた結果、やっぱり人間の方が素晴らしいという結論に至りたかったからだと気がついたんです。言い換えればテクノロジーを僕が敵だと思っていたからなんですね。それに思い至ったところで、「本来ならばテクノロジーは敵ではなく、人間の役に立つために作られているはずだ」という考えに立ち返ったんです。
そのような問いを立てた時、引き合いに出すのに分かりやすいテクノロジーがロボットでした。調べれば調べるほど、ロボットや人工知能の研究開発に携わっている方たちが、人間のことを深く研究して、日常的な動作など僕たちが当たり前にしている行動がいかに複雑な仕組みによって成り立っているのかを理解していることがわかりました。しかし多くの人たちは、ロボットたちが何をできるかさえ知りません。もっとそれを簡単に理解する方法があれば、人間はロボットとの付き合い方が分かるし、ロボットもさらに人の役に立つことができると思いました。それを伝える記号として、ユニフォームが大きな役割を持つと思ったんです。
ユニフォームがロボットと社会をつなぐ
泉 たとえばユニクロの黒のシャツを1枚買ったとします。それを家で着ていると単なる黒のシャツですが、同じ物を10枚買って皆が着てスターバックスで働くと、それはスターバックスのユニフォームになります。物は一緒なのにシチュエーションや組織といった環境を変えてしまうと、それは制服になるんです。明治時代、洋装が普及し始めた時に、日本で初めて近代ユニフォームを導入した組織が鉄道と警察と病院でした。世の中が混乱している中で窃盗が起こったり、病気になった場合、十分に教育を受けていない人たちも多くいるなかで、それは非常に役に立ちました。白衣を着ている人を見たら、「あの人が私たちの命を助けてくれる人だ」、あるいは泥棒に遭った時に警察官の服を着ている人がいたら、「あの人に言えばいい」と判断できる視覚的な認識記号になったのです。対象が何者かであるかを示す記号であることがユニフォームの根幹にあります。
パーソナルロボットは、各企業や各家庭の要望に応じた異なる使命を持っており、それぞれの分野に特化した膨大な知識が入っています。でもロボットたちは量産されたもので外見も均一なため、人間以上に個々のパーソナリティがありません。ですから大抵の人は、「こんにちは」とか「今何時?」くらいのレベルのことしかロボットに聞かないのです。しかしユニフォームがあれば、彼らがどう役に立つのかが子ども達やお年寄り、外国の人たちにも一目で分かるはずです。このような考えから着地した製品がロボットユニフォームです。
三宅 人工知能は環境を理解したり何かを推論したり、なるべく人間に近づける形で発展してきましたが、このようにロボットにユニフォームを着せるという視点は、我々人工知能開発者にとっては盲点でした。大抵の人工知能は特化型人工知能と言って、株式の予測やレコメンドシステム、あるいはお料理ロボットといった、特定の問題を解くための人工知能として開発されます。さらにそれらの人工知能が体を持つことで、バーチャルな空間から現実世界に進出しようとしているのが今の大きな流れです。
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